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進む開発、保存の危機――明代都城遺跡、中都の現況

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Academic year: 2021

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保存への取り組みが急がれる中都城遺跡(著者撮影)

進む開発、保存の危機――明代都城遺跡、中都の現況

新宮 学

今年八月、比較都城史研究会(橋本義則代表)のメンバー四人で中国の北京、南京、鳳 陽(中都)の都城を調査した。これらの都城は、十四世紀後半から十五世紀前半にかけて 明朝により建設され、「両京一都」とも併称された。

これらの都城が建設された時代は、日本・中国・朝鮮の沿海地域で前期倭寇(わこう)

が活発化し、緊張と対立が激化していた。その後、倭寇の取り締まりを約束した室町幕府 の足利義満と第三代永楽帝との間で、

日明貿易が始まっている。

明朝の創設者洪武帝(朱元璋)が 建設した都は、南京と中都。靖難の 役で建文帝から皇位を奪った永楽帝 が建設して遷都したのが、現在の北 京である。皇帝が住む紫禁城は、現 在の故宮である。

洪武帝の生まれ故郷の安徽省鳳陽 にある中都は日本ではほとんど知ら れていない。しかし中都の建設には、

実は捕らえられた倭寇の兵士も加わ っていた。

中都は一三六九年に建設が始まり、六年後の完成を目前にしながら工事が突然中止。そ の後は南京が改めて正式な都に指定され、歴史に埋もれてしまった。

忘却された中都を現代によみがえらせたのが、北京の出版社に勤めていた故王剣英氏で ある。文革期の一九六九年から七五年まで農村部の鳳陽県に配置転換された彼が、中都城 遺跡の調査と文献研究に取り組んだ。

彼の研究により、中都の皇城(宮城)は、北京紫禁城の最も早い段階のモデルと分かっ た。確かにその規模は、南北九百六十五㍍、東西八百七十五㍍で、紫禁城の規模とほぼ一 致する。宮城内の午門や奉天殿の配置も、紫禁城と同じである。

筆者は、「第六回国際明史学術討論会」が開かれた一九九五年八月、初めて鳳陽を訪れ た。予備知識はあったが、遺跡の予想以上の残り具合に興奮した。午門や宮城壁西側部分 と濠(ごう)、西華門がよく保存され、北京の紫禁城をほうふつさせた。

十年ぶりの再訪だった今回の調査では、午門や宮城部分のほか、承天門、鐘楼、外城の 東門や北門の遺跡なども調査でき、都城空間全体のイメージがつかめた。しかし、全体的 に遺跡の破壊がかなり進行しており、午門の前では修築作業が始まっていた。

中国明史学会理事の陳懐仁氏によれば、鳳陽の地にも経済開発の波が急速に押し寄せ、

県庁の鐘楼地区への移転提案を契機に、宮城附近の地価が高騰し、宅地化が一気に進む恐 れがあるという。

実際に現地では、街の至る所でビルや道路の建設工事が始まっていた。辺ぴな片田舎に 建設されたため、かえって遺構の残り具合が良好な中都城遺跡だったが、今、重大な危機 に直面している。

中都は明朝の都としての期間が短く、明朝滅亡後は、宮殿などの地上の建築物はほとん ど残されていない。中国が国家的威信にかけて全面的な保存に取り組む可能性は少なく、

保存の動きは後手に回っている。人々の関心は遺跡保存より、経済開発に傾いている。

(2)

だが中都城遺跡は、南京城や北京城とは違い、十四世紀段階の近世都城プランの到達点 がよく示されている。また、元の大都城から明清の北京城に至る、都城プランの変遷を跡 付けできる中間点に位置する点も貴重だ。

今後さらに重要性を増す東北アジア地域の歴史的記憶を共有し、その文化遺産を後世に 残すために、われわれも中都城遺跡の学術的な調査と保存に協力すべき時期が来ている。

(山形大教授)

× ×

あらみや まなぶ 一九五五年、山形生まれ。東北大大学院博士課程単位取得退学。文学 博士。著書に「北京遷都の研究―近世中国の首都移転」(汲古書院、二○○四年)など。

初出:山形新聞 2005年11月24日

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