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『人文コミュニケーション学科論集』22, pp. 67-82. © 2017茨城大学人文学部(人文学部紀要)

-臨床心理学と法学による協働的視点から-

  野口 康彦 高橋 大輔

<要旨>

 夫婦にとって、離婚は破綻した結婚生活の解消の手段である。だが、単独親権制度が採用 されているわが国では、家族形態や生活環境の変化に伴い、親の離婚を経験した子どもには、

別れた側の親との交流や経済的困難、新たな環境への適応が問題となる場合が多い。 

 本稿では、離婚後の子どもの生活環境をめぐる現状を整理し、親の離婚を経験した子ども の心理発達について理解を深めつつ、基礎自治体による離婚後の子どもの養育支援の実際に ついて概観する。そして、家族法的側面から見た養育費と面会交流について、現状の制度か ら生じうる問題について言及し、養育費と面会交流の法制度の実情について検討を加えた。

以上の点を踏まえながら、離婚後の子どもの貧困防止のための養育支援のあり方について検 討し、このテーマにおける臨床心理学と法学による協働的な視点の重要性について考察を 行った。

はじめに

 

2015

(平成

27

年の離婚件数は

22

6215

組であり、同年の婚姻件数は

63

5156

組で あった1。離婚件数と婚姻件数を単純に比較すると、約

3

1

となり、この数字を根拠として、

夫婦の

3

組に

1

組が離婚すると言われることもある。長期的な視点からみれば離婚件数は増 加しているが、離婚件数の年次推移をみると、

2002

(平成

14

)年の

28

9836

組をピーク に減少傾向が続いている。

 夫婦にとって、離婚は破綻した結婚生活の解消の手段である。だが、単独親権制度が採用 されているわが国では、家族形態や生活環境の変化に伴い、親の離婚を経験した子どもには、

別れた側の親との交流や経済的困難など、新たな環境への適応が問題となる場合が多い。

 

2011

(平成

23

)年に民法第

766

条が改正され、父母が協議離婚時に際して定める「子の監 護について必要な事項」の具体として、養育費と面会交流の分担が明示されるとともに、子 の監護について必要な事項を定めるにあたっては、「子の利益を最も優先して考慮しなけれ ばならない」という一文が明記された。また、上記の改正を受けて、離婚届出書における養

(2)

育費及び面会交流の合意の有無のチェック欄の新設がされた。日本の民法では未成年の養育 義務についての規定がなく、離婚手続きにおいて養育費や面会交流の取り決めがなくても離 婚が認められてきた。

 日本において約

9

割を占める協議離婚2では、養育費と面会交流の取り決めに関する法的 義務は課せられない。だが、離婚後に母子家庭となった生活環境では、司法の関与しない離 婚手続きの弊害が子どもの経済的貧困や養育問題として顕現する。その一方で、多くの場合、

別居親あるいは非監護親となる父親の養育責任は放置されたままとなり、子どもの精神的・

身体的な発達にかかわる重要な要素としての養育費の支払いや面会交流のあり方に関する制 度的施策の具体的な進展は見られない。

 協議離婚の場合、日本では役所に離婚届を提出するだけで離婚が成立するが、諸外国、例 えばアメリカ、イギリス、ドイツの協議離婚の場合は、裁判所に届け出ることになっている。

これらの国では子どもの監護、面会交流、養育費の取り決めについて、双方の親が子どもの 養育責任を果たせるよう、裁判所などにおいて合意内容が点検され離婚が承認されるところ に日本との違いが見受けられる3。このように、司法や行政が必ずしも介入しないわが国の 離婚制度の現状では、上述したような養育費や面会交流をめぐるトラブルや問題など、子ど もの発達に及ぼす影響が多大となっており、離婚後の子どもの養育環境が整備されることは 緊急の課題である。

 本稿では、子どもの貧困防止に着目しながら、養育費や面会交流など、離婚後の子どもの 養育支援の適切なあり方について考察を行いたい。最初に、母子世帯と子どもの貧困問題を 中心とし、離婚後の子どもの生活環境をめぐる現状について概説した。次に、親の離婚を経 験した子どもの心理発達に関する理解を深め、そして、基礎自治体による離婚後の子どもの 養育支援の実際について、明石市の取組みを概観した。さらに、家族法的側面から見た養育 費と面会交流に関して、現状の制度から生じうる問題を中心に言及した。以上の点を踏まえ ながら、離婚後の子どもの貧困防止のための養育支援のあり方について検討し、このテーマ における臨床心理学と法学による協働的な視点の重要性について考察を行った。

 日本では単独親権制度が採用されており、離婚後の子の福祉をいかなる方法で保障してい くのが望ましいかという課題に目を向ける必要がある。離婚をめぐっては、子どもの貧困化 のみならず、子どもの親権をめぐる争いや面会交流の取り決め、養育費の未払いの問題など、

子どもの発達や親子関係に配慮が必要であり、このような意味では、現行法の適用のみを判 断の基準とした対応が困難となっている。二宮ら(

2014

)は法学と臨床心理学の協働によ る現代の家族紛争の解決の有用性を説いている4が、やはり、離婚後の子どもの養育支援に おいては、法制度の整備による環境面の充実を図るとともに、当事者の心理発達や柔軟な回 復を促進させる視点からの支援も重要である。臨床心理学の領域による知見や実践の経験の 援用ともに、当事者の視点による司法手続の役割、制度設計の見直しが必要とされている。

このような意味では、臨床心理学と法学による協働的な視点による問題解決のための研究は

(3)

重要となるであろう。

1

.離婚後の子どもの生活環境をめぐる現状

 近年、我が国では子どもの貧困が社会問題化している。

2013

(平成

25

)年には、「子ども の貧困対策の推進に関する法律」が公布され、親の経済状況にかかわりなく、すべての子ど もが将来を切り開いていける社会を実現するための国と地方公共団体の責務が明示された。

 子どもの貧困が注目されている背景には、日本における子どもの貧困率が

2012

(平成

24

) 年に過去最悪の

16.3

%を示したという状況がある。標準的な所得水準に満たない世帯で暮ら す子どもの割合は、ほぼ

6

人に

1

人にあたり、先進国の中では高い位置である。子どもの貧 困は、修学上の問題など、将来にわたって不利益な環境に陥る要因となり、この負の蓄積は 次世代への貧困の世代間連鎖を生じさせる大きな要因ともなり得る。親の経済状況や生活環 境にかかわらず、すべての子どもが安心と希望を持って暮らしていける社会を構築する必要 がある。そのためには、子どものより良い発達と生活環境を保障されることが望まれる。専 門領域を超えた協働的な視点による調査や研究がされていくことも重要であろう。

 厚生労働省の『ひとり親世帯の現状』(平成

27

4

月)によれば、

1988

(昭和

63

)年から

2012

(平成

24

年の

25

年間で母子世帯は

84.9

万世帯から

123.8

万世帯(

1.5

倍)、父子世帯

17.3

万世帯から

22.3

万世帯(

1.3

倍)に増加した。また、母子世帯の

80.6

%が就業してい るが、そのうち

47.4

%はパート、アルバイト等の不安定な就労形態にあり、母子世帯の平均 年間就労収入(母自身の就労収入)は

181

万円、平均年間収入(母自身の収入)は

223

万円 と低い水準にある。ひとり親世帯の貧困率は

54.6

%となっており、その大半は母子世帯となっ ている。ちなみに、父子世帯の平均年間就労収入は

360

万円であり、母子世帯の倍程度であ る。また、母子世帯の母親の

8

割は就労しているが、子育てと仕事を両立させようとすると、

時間的な制限などから、パートやアルバイトを選ばざるを得ない。単独親権制度が採用され ている日本では、離婚後の親権の

8

割を母親がとっており、すなわち、子どもにとって親の 離婚は自分自身の貧困問題に直結しやすい状況となっている。

 母子世帯を含めたひとり親家庭の経済的な支援として、児童扶養手当の支給があげられる。

児童

1

人の場合、全部支給は

42,330

円、一部支給は

9,990

円から

42,320

円までとなっており、

児童の数に応じて加算される。

2015

(平成

27

)年

3

月末現在の受給者数は、

1,058,231

人(母:

989,534

人、父:

63,678

人、養育者:

5,019

人)にのぼる(厚生労働省)。また、それ以外の 社会的な支援では、子どもの修学や母親の就職支度資金など、全

12

種類の母子父子寡婦福 祉資金貸付金制度が設けられている。

 その一方で、離婚後の別居親からの養育費の授受はどうであろうか。

2011

(平成

23

)年 度の「全国母子世帯等調査結果報告」によると、養育費を受けたことがない世帯が全体の

6

(4)

割を占めており、養育費を受けている(

20.6

%)、あるいは受けたことがある(

15.6

%)母 子世帯の養育費は子ども

1

人あたり

43,483

円であった。養育費等の強制執行については

2004

(平成

16

)年の民事執行法改正にもかかわらず、子どもの養育費を払い続けている親は

2

割 程であるという現実は変わらない。養育費や面会交流の取り決めがなくても離婚が認められ るという、現行の離婚手続きの仕組みが、離婚後の母子家庭への経済的な問題として出現し ている。紙

1

枚で離婚できる現状の制度は、子どもにとって不利益な状況を生じさせやすい。

親の離婚時において、子どもの人権はいっそう尊重されなければならない。親の都合ではな く、「子どもの権利」が守られる養育の仕組みと法律が必要である。離婚紛争では、親は自 分のことで精いっぱいになってしまう可能性もあり、行政や司法が効率的に子どもに目配り をする状況が生じているのではないだろうか。

2

.親の離婚を経験した子どもの心の発達

 親の側である夫や妻にとって、離婚は破綻した結婚が解消されるともに、場合によっては 新たなパートナーとの出会いのチャンスにもなり得る。また、夫婦の不和や家庭内暴力、あ るいは虐待などが伴う事案では、不幸な家庭生活を耐えることが子どもの発達にとって好ま しくないのは言うまでもない。親同士の諍いから解放され、適切な生活環境が与えられれば、

子どもの精神的な発達の力は回復し、新しい環境にも比較的スムーズに適応できるようにな るだろう。

 ただ、その一方で、子どもにしてみると、親の離婚によってもたらされた環境の変化は、

自己の価値を問い直すような重大な出来事になる可能性を有する。果たして、親の離婚は子 どもの心の発達にどのような影響を及ぼすのだろうか。また、適切な面会交流の方法や養育 費の授受のあり方など、離婚後の望ましい親子関係とはどのようなものであろうか。

 離婚後の親子関係あるいは面会交流が子どもの適応に及ぼす影響について、アメリカでは 多くの調査研究がされてきた。例えば、

Amato

1994

5は、離婚家庭のひとり親と一緒に暮 らす子どもと非離婚家庭の子どもの適応に関する比較研究を行い、親の離婚を経験した子ど もは、親が離婚していない子どもに比べて幸福感が低い傾向にあり、学業成績不振、非行、

心理的適応の困難、否定的な自己概念、社会性の諸問題、父母両者との関係困難といった結 果を示している。また、親の離婚を経験した子どもたちを

25

年以上にわたって追跡した縦 断的な調査を行った

Wallerstein

ら(

2000

6は、離婚後の生活によく適応し、心理状態が最も 良好であったのは、別居親(非監護親)と定期的に面会交流を持ち続けた子どもたちであっ たと指摘している。

Baker

2007

)は、面会交流を実施しなかつた場合、子どもは「自己肯定 感の低下」「基本的信頼感の低下(対人関係の問題)」「社会的不適応」「抑うつ」等で苦しむ と報告している。ただし、その一方で、

Bauserman

2002

7が「共同監護権の支持者の意見は、

(5)

たいてい、子どもが双方の親との関係を維持できるという有利な点を強調している。これに 対し、反対論者は共同監護権が子どもの生活において必要な安定性を崩壊し、現在進行する 親同士の争いに子どもをさらす事により害を与える可能性があると唱える」とも述べている。

このように、離婚後の親子関係や面会交流と子どもの適応に関する意見は一致しているとは 言い難い。

 わが国における離婚家庭あるいは離婚後の子どもの発達を対象とした研究には、小田切

2004

8が行った離婚家庭の家族に対する調査や青木(

2011

9による大学生を対象とした自 己肯定感に関する質問紙による調査など、当事者に対する量的あるいは質的な調査・研究 がみられるようになった。

1

年間で親の離婚を経験した未成年の子どもが

20

万人を超える 現状10

20

年以上にわたって続いている日本の現状を鑑みると、特に子どもと別居親との親 子関係や面会交流のあり方に関する調査が蓄積されていくことが求められている(野口ら,

2016

11

 先述した先行研究を参考にしながら、親の離婚を経験した子どもの心の発達について、今 一度検討を行いたい。子どもの視点から「親の離婚」について考えると、親の体験と子ども の体験は大きく異なっている。将来を予測しながら現実的な行動を選択する大人とは違い、

子どもは今日の生活が明日も続くと思って生きている。そのため、大人が子どもの心理発達 段階を念頭において考えることは、離婚後の子どもの喪失体験を理解するうえでも重要とな る。例えば、就学時期前後の子どもにおいて見られるという、両親の不仲を自責的に体験す る「和合ファンタジー」(白倉,

2003

12といったような、子どもの発達に伴う心理的な影響 にも配慮する必要があるだろう。さらに、中学校に入学するなどの思春期において、親が離 婚をしたという事実は、クラスメートや友人に話しづらく、恥ずかしい体験となる場合もあ る。 

 子どもにとって親の離婚そのものがネガティブな影響を及ぼすのではなく、子どもの前で 言い争いを続ける、お互いの悪口を陰で言い合うなどといった、離婚に至るまでの夫婦の葛 藤が問題となるのは言うまでもない。親との死別の場合、残された親と子は「悲哀の仕事」

(小此木,

1979

13を共有し、肉親の死に対する悲嘆や不安などの心の苦しみを一緒に支えあ うことができる。しかし、生き別れとなる離別の際には、親同士の感情がアンビバレントな ことが多く、別れた側の親子で、もう一方の親への思いや喪失感などを支えあうことは困難 でる。このような意味でも、離婚後における同居親、さらには別居親との情緒的な交流の持 ち方は大切であろう。また、親の離婚に伴い、子どもは母親とともに転居せざるを得ない状 況におかれると、住み慣れた生活環境の変化や転校による友人との別れなどの生活環境の変 化が生じる。子どもにとって、親が離婚しても、安定した生活環境が担保されるとともに、

子どもの成長に必要な体験の保証がされるという意味でも、養育費も含めた経済的な保障も 重要である。

(6)

3

.離婚後の子どもの養育支援における明石市の取り組み

 基礎自治体における離婚後の子どもの養育支援に関する取組について、明石市における「子 ども支援ネットワーク」の施策の概要について述べてみたい。

 明石市では、離婚や別居に伴う養育費や面会交流などの「こどもの養育支援」について、

2014

(平成

26

)年

4

月から「明石市こども養育支援ネットワーク」の運用を開始した。「離婚 後の子どもの養育支援」に関する、わが国でも先駆的な取り組みである。主な事業について 表

1

に示したが、その概要について明石市のホームページ14を参照しながら以下に簡潔に記 した。

 「相談体制の充実化」では、兵庫県弁護士会から派遣された弁護士に加え、弁護士資格を 持つ市職員が市民センターで相談を担当している。さらに、社会福祉士や臨床心理士といっ た資格を持つ市職員による総合相談を受け付けている。そして、公益社団法人家庭問題情報 センター(FPIC)大阪ファミリー相談室の相談員による「こども養育専門相談」を毎月

1

回、市役所本庁舎で実施している。

 「参考書式の配布:養育合意書・養育プラン・作成の手引きの配布」とは、夫婦間の話し 合いにおける参考資料としてもらうため、養育費や面会交流などについて記載された「こど もの養育に関する合意書」、「こども養育プラン」及び「合意書・養育プラン作成の手引き」

を離婚届の配布時や相談時に配布している。

 「関係機関との連携:連絡会議の開催」では、離婚や別居に伴う養育支援のあり方などに 関する関係機関との意見交換及び情報共有を行うため、定期的に「明石市こども養育支援ネッ トワーク連絡会議」を開催している。そして、離婚や別居後におけるこどもの情報を父母間 で共有し、こどもの養育に役立てるため、こどもの日常生活や面会交流の内容について記録 するための冊子「こどもと親の交流ノート(養育手帳)」を希望者に配布している。

 また、「親子交流サポート事業」とは、離婚や別居後に離れて暮らす親子間の交流を深め るための場所として、市立天文科学館を無料で提供している。対象者は市内に居住する中学 生以下の子どもであり、利用の制限は設けられていない。

 「離婚前講座(離婚後の子育てとこどもの気持ち)」とは、離婚や別居の際におけるこども の心理を専門的な立場から親に伝えるためのグループワーク(FAITプログラム)を実施 した。また、親の離婚や別居を経験したこどもを対象に、同じ経験を持つ者と交流する場 を提供し、家庭・家族の悩みを軽減・緩和する目的として「こどもふれあいキャンプ」が

2015

(平成

27

)年

8

月に

2

3

日で行われた。「面会交流のサポート」とは、

2016

(平成

28

9

月から翌年の

3

月までの期間において、市内在住の子どもが中学

3

年生までの親子の面会 交流のサポートを無料で実施する計画である。

 日本では、協議離婚制度を大幅に改革することは当面は困難であると思われる。司法主導

(7)

ではなく、明石市のような身近な基礎自治体がコーディネートする緩やかな(強制力を伴わ ない)地域行政支援ネットワークが好ましいと言える15。離婚後の子育て養育支援に司法が 直接的に関与することは現実的に考えられにくく、また、利便性を念頭においても、行政が 窓口になった方が地域住民にとっては相談しやすいと言えるだろう。

4

.家族法的側面から見た養育費と面会交流

1

)養育費について

 そもそも、我が国の民法16は、子どもの養育費を負担する親の義務を特別に規定していな い。そのため、子どもから自分の親に養育費を請求する場合には、直系血族間の扶養義務

(民法

877

1

項)によることになる。このとき民法

877

1

項は、直系血族および兄弟姉妹は、

互いに扶養する義務があるという規定である。なお、「直系血族」とは、「血統が直列的につ ながっている関係であり、父母・祖父母・曽祖父母など自分より前の世代で自分と直列的に つながっている直系尊属、子・孫・ひ孫など自分より後の世代で自分と直列的につながって いる直系卑属のこと17」である。ただし、直系血族や兄弟姉妹の関係にある人々全てが同じ 程度に扶養しなければならないわけではなく、また扶養されなければならないわけではない。

現在の学説や裁判例においては、法律上明確な根拠が存在するわけではないけれども、扶養 義務

2

類型論が採用されている。すなわち、扶養義務は、①生活保持義務と②生活扶助義務 に分けて考えられている。①生活保持義務とは、扶養義務者が自己と同一水準の生活を扶養 権利者に保障すべき義務であり、夫婦間の扶養義務や親が未成年の子どもを扶養する義務に おいて当てはまる。これに対して、②生活扶助義務とは、自己と生活保持義務関係にある配 偶者や幼い子が、社会的身分に相応の生活をした上で、なお経済的に余力がある場合には、

生活に困窮する扶養権利者の最低限度の生活を維持するために必要な費用を負担しなければ ならないという義務である。例えば、老親扶養や兄弟姉妹の扶養などは生活扶助義務の関係 にある。

1 明石市における離婚後の子ども養育支援

事業内容

①相談体制の充実化: こども養育専門相談の実施

②参考書式の配布: 養育合意書・養育プラン・作成の手引きの配布

③関係機関との連携: 連絡会議の開催

④「こどもと親の交流ノート(養育手帳)」の配布

⑤「親の離婚とこどもの気持ち」の配布

⑥親子交流サポート事業の開始

⑦離婚前講座(離婚後の子育てとこどもの気持ち)※終了しました

⑧こどもふれあいキャンプの実施 ※終了しました

⑨面会交流のサポート

*明石市HP(2016104日更新)をもとに筆者が作成

(8)

 ところで、この民法

877

1

項に基づく子どもから親への扶養請求は、親が離婚した場合 や親権を失っている場合においても可能である。まず、離婚した場合であるが、法律上離婚 とは、婚姻関係を解消するものであり、親子関係を解消するものではない。そのため、離婚 しても親子関係は維持されるのであり、別居していても扶養請求や面会交流の請求は可能で あるし、相続権などもなお残っている。確かに離婚した場合には、子どもの親権は単独親権 となり、父母のどちらかが親権者となる(民法

819

1

項、

2

項)。しかし、親子間の権利義 務は、親権に限定されるわけではなく、扶養の権利義務は親権とは別個独立して存在するも のである。そのため、親権の有無に拘わらず、扶養の権利義務は存在する。

 このように、親子間には民法

877

1

項より扶養の権利義務が発生するけれども、現実に 未成年者が別居している親に対して扶養を請求するのはその能力や知識の面からも難しい。

そのため、多くの場合には同居している親から別居している親に対して扶養を請求すること になる。しかし、民法

877

1

項の対象は、直系血族間および兄弟姉妹間であるため、子ど もと同居している親(「配偶者」や「元配偶者」)が民法

877

1

項を根拠に直接扶養を請求 することはできない。このとき、同居している親が別居している親に対して養育費を請求す る場合の根拠条文は、親が離婚しているのか、別居しているのかによって変わってくる。な お、現実社会においては、「別居」は婚姻と離婚の中間のような位置づけであるけれども、

法律上においては基本的に婚姻関係である。

 まず、父母が別居している場合についてである。上述のように、別居中もなお婚姻関係に あるため、原則として別居中の夫婦は婚姻による権利を有し、義務を負っている。婚姻の権 利義務の中には、婚姻から生じる費用を分担する義務である「婚姻費用分担義務」がある(民 法

760

条)。このとき、婚姻費用とは、夫婦および未成熟子を含む婚姻共同生活を営む上で 必要な一切の費用のことを指し、具体的には、衣食住の費用、医療費、教養・娯楽費、未成 熟子の養育費や教育費、交際費などの日常生活費が含まれ、さらに出産費用や進学・入学費 用、将来に備えるための生命保険や学資保険の費用なども含まれるとされている18。このた め、別居中に一方の親から他方の親へ養育費を請求する場合には、婚姻費用の分担として請 求することになる。

 これに対して、父母が離婚している場合には婚姻関係は解消されており、婚姻の権利義務 も基本的に存在しない。代わって、離婚後の監護に関する必要な事項として扱われることに なる。すなわち、父母が協議離婚するときに、養育費について父母が話し合って決めること になっており、この話し合いの際に、最も優先して考えなければならないのは、「子の利益」

であるとされる(民法

766

1

項)。ところで、

2011

(平成

23

)年の民法改正の際に、「子の 監護に要する費用の分担」という文言が明記されるに至り、離婚届にも養育費の分担につい て取り決めをしているか確認する欄が新たに設けられた。しかし、養育費を取り決めること は、協議離婚の要件とはされていないため、養育費の取り決めがされていなくとも離婚は可 能である。もし、養育費に関する父母の話し合いで折り合いがつかなかった場合には、家庭

(9)

裁判所がこれを定めることになる(民法

766

2

項)。

 具体的な養育費の金額の算定については、東京と大阪の裁判官の共同研究の結果、作成さ れた「養育費・婚姻費用算定表」19が広く活用されている。ただし、この算定表は目安であっ て、機械的に用いて最終的な金額を算定するわけではない。この算定表の意義として、簡単 に金額が分かることや、金額に幅をもたせて提示されるため当事者の状況によって柔軟な対 応ができることが挙げられる。

2

)面会交流について

 離婚や別居によって、多くの子どもは両親のどちらかと同居し、どちらかと別居すること になるため、日常的には会うことができない親がでてきてしまう。しかし、子どもには、定 期的に親と人的な関係および直接の接触を維持する権利が人権として認められている(児童 の権利条約

9

3

項)。このような子どもの人権を守るために、中心的な役割を果たすのが面 会交流である。

 面会交流の具体的な内容としては、直接親子で会ったり、普段一緒に生活していない親の 家に宿泊したり、夏休みなどに旅行に行ったりすることなどが挙げられる。また、手紙やメー ルでの文書のやり取り、電話やテレビ電話などのように直接会わずに会話することなども面 会交流に含まれる。

 面会交流について明確に定めた規定が従来存在しなかったために、誰の権利であり、誰の 義務なのか、または、そもそも権利や義務なのかと言う「法的性質」の問題について、激し く議論され、現在もなお通説は確立されていない。このため、

2011

(平成

23

)年の民法改 正においても、誰の権利であり、誰の義務であるのかについて規定されなかった。その結果、

父母が協議離婚をする場合に、子どもの監護に必要な事項の

1

つとして、「面会及びその他の 交流」について話し合いで決めるものとされた(民法

766

1

項)。もし、話し合いで決着が つかない場合やそもそも話し合いができないような場合には、家庭裁判所が面会交流につい て定めるものとされた(同条

2

項)。

 面会交流を認めるかどうかについて、判例の傾向として、「可能な限り子が生来の親の双 方と交流することが子の人格形成および精神的発達に資するという考えから、近年は特に面 会交流を原則として認めようとするものが多い20」と言われている。例えば、大阪高等裁判 所平成

21

1

16

日決定家庭裁判月報

61

11

70

頁は、面会交流の制限は、面会交流が子ど もの福祉を害すると認められるような例外的な場合に限られるとしている。面会交流が子ど もの福祉に反する具体的な場合としては、子どもを連れ去るおそれや、子どもを虐待するお それ、面会交流を求めてきた親からもう一方の親への暴力などが挙げられている21。また、

子どもの面会交流に対する拒絶なども考慮されるけれども、子どもの表面的な言動にとらわ れることなく、慎重に判断する必要があるとされる22。このような「子どもの福祉に反する ような特段の事情がない場合には面会交流を実施する」という「原則的実施」の考え方につ

(10)

いては、否定的な意見も主張されている23

 ところで、養育費と面会交流は、法律上は別個独立の関係にある。すなわち、面会交流の 対価や料金として養育費が存在するわけではない。そのため、養育費の不払いが、当然に面 会交流を否定できるわけではない。

3

)法制度から生じ得る問題および親子断絶防止法案について

 以上のような検討を通じて、以下では法制度上子どもに貧困をもたらしかねない問題点を 指摘しておきたい。①日本の法制度においても、養育費を請求する道、面会交流を実現する 道も一応整備されている。しかし、これらは「裁判所」を通して「個人」が養育費を確保す る方法である。このような司法依存型の制度について、特に養育費に関する視点から、司法 制度とは別に、行政による養育費確保制度の導入の検討が必要である旨指摘されている24

②①と関連するけれども、子どもからの養育費の請求が可能であっても、現実には多くの場 合親が請求することになる。そのため、親が養育費を得ようとしないとき、子どもは養育費 を得ることができないことになる。確かに、

DV

の問題などが存在すれば、被害を受けた親 が

DV

を行った親へ接触すること自体、場合によっては命の危険がある。しかし、養育費を 請求する親に危険がないにも拘らず、「面倒くさい」などといった理由により養育費を請求 しない場合も当然予想できる。このため、親の意思に養育費の請求を委ねる現行制度は、子 どもの生活状況を親に依存させる度合いをますます強めてしまうことになる。③養育費や面 会交流について、当事者同士の合意や裁判所の判断によって定まったとしても、実現され得 るかは別の問題である。特に、養育費や面会交流は通常「継続的に」行われることが予定さ れている。最初のうちは養育費が支払われたり、面会交流が行われたりしても、それが途切 れてしまうこともあり得る。このため、養育費や面会交流を最終的には強制的に実現するこ とになるけれども、費用や手間ひまの問題など問題も少なくない25。特に養育費については、

強制執行の労を惜しんで行わないと子どもの貧困を招く危険が存在する。

 ところで、超党派の国会議員でつくる親子断絶防止議員連盟によって、「離婚後等におけ る未成年の子と父母との継続的な関係の維持等の促進に関する法律案(仮称)」、いわゆる「親 子断絶防止法案」の提出が目指されているという報道があり、懸念も表明されている26。本 法案は離婚後等においても親子が継続的に関係を維持することを目的としている。具体的に は、①離婚時における面会交流と養育費の書面による取決めの親の努力義務、②面会交流の 定期的な実施の努力義務、③子どもの連れ去り防止の啓発などを盛り込んでいる。ただし、

④児童虐待や

DV

などがある場合には、特別の配慮がなされなければならないとしている。

しかし、④のような児童虐待や

DV

に対する特別の配慮が規定されているけれども、実際の 裁判においてどの程度まで、そしてどのように配慮されるのか不分明であるため、児童虐待 や

DV

の被害者の安全を十分に確保できるのか疑問も出され、懸念が表明されているのであ る。

(11)

 親子断絶防止法案は、「法案」であり、法律として制定されるまでにさらに改変が加えら れる可能性もあり、そもそも成立しない可能性もある。そのため、以下の筆者(髙橋)の私 見は、現段階(

2016

10

23

日段階)におけるものであることをお断りしておく。私見と して、そもそも養育費も面会交流も子どもの人権であり、これらは原則として保障されなけ ればならないと考えるけれども、本法案については不要であると考えている。なぜならば、

書面によって面会交流や養育費を取決める親の義務は努力義務に留まり、離婚届の提出を妨 げることまでは予定されていないと思われる。しかし、子どもの貧困を防ぐためにも養育費 などの取決めがなされていない場合には原則として離婚を認めるべきではない。このとき、

DV

などについてはより制度を充実させるとともに、例外として取決めがなくとも離婚を認 めるべきである。もし、将来的には離婚の自由を制約することまで考えられているのであれ ば、離婚を規定している民法をまずは改正すべきである。また、面会交流の原則的実施の義 務については同様に努力義務に止まるけれども、原則的実施である以上、その適否を考えな くてはならない。上述のように面会交流の原則的実施には疑問が出されているのであり、慎 重な議論が必要である。また、面会交流を原則的に実施する以上、その前提として「面会交 流は原則として子どもの福祉に合致する」という理解があるものと思われる。しかし、この ような面会交流の原則は、法律によって未だ規定されていない。面会交流を実際に行う際に も、争いが生じたときに裁判所が判断する際にも、大きな指針となるものであり、何らかの 形で明文化されるべきである。私見としては、このような原則は親子関係の根幹を定める民 法において規定されるべきである。このように、本法案で規定されていることは、努力義務 ということで軽く見られる可能性はあるものの、離婚や面会交流の原則に関わる重要な部分 であり、離婚や親子の根幹について規定する民法をまずは改正すべきである。いたずらに法 律を分けることは、法学上も、さらには実社会にも混乱をもたらすおそれがある。

5

.考察

1

)離婚後の子どもの貧困防止のための養育支援の必要性

 わが国における離婚と子どもの環境をめぐる現況について、その概要を振り返りながら、

離婚後の子どもの養育支援の必要性について、養育費など経済的な問題をめぐって検討を行 いたい。

 日本では単独親権制度が採用されており、親権の

8

割近くを母親がとることから、生活 環境の変化とともに、子どもの貧困率が高くなるのは、既に述べてきた通りである。離婚の

9

割を占める協議離婚では、養育費の取り決めは離婚の要件とされていない。また、父母 間での話し合いがつかず、家庭裁判所が介入を行って強制執行制度の適用になったとしても、

経済的な事情により当事者が払えない事情が生じた場合には、自ずと未払いとなり、罰則規

(12)

定にも問われない。また、子どもの権利であるはずの養育費の請求であるが、子どもが請求 するのではなく、実際には親が請求するのであり、離婚後の親同士の葛藤が高かったりする 場合は、取り引きの材料に使われたりするなど、親の側の事情や意思に左右されやすい。ま た、上述したように、養育費の未払いや不払いに罰則規定がないと、別居親あるいは非監護 親の(多くの場合は父親)の養育責任は放置されたままとなる。このように、子どもの貧困 化とも関連の深い、養育費の未払いあるいは不払いの現状には、司法や行政の介入しない離 婚制度の歪みがあるのではないだろうか。

 協議離婚の場合、日本では市役所に届け出るだけで良いが、先述したように、アメリカ、

イギリス、ドイツの協議離婚の場合は、裁判所に届け出ることになっている。これらの国で は子どもの福祉について考慮され、有子夫婦の離婚自体の制限や養育費負担に関する規定を 置くなど、離婚に対して厳しい制約を課しており、日本のように養育費を取り決めることな く、当事者の協議によって簡単に離婚が許される制度は異例とされている27

 しかし、現段階において日本で協議離婚まで裁判所を通すようにするのは現実的ではない ように思われる。一般感情として、裁判所はやはり敷居が高いであろうし、単純な利便性の 問題からしても行政窓口の方のアクセスが基本的には容易である。また、家族法の改正によ り、近い将来において日本が共同親権制度を採用することは考えられにくい。このような状 況においては、明石市における離婚後の子ども養育支援のように、離婚時における文書の手 続きだけにととまらず、基礎自治体の取り組みによって、離婚後の子育て支援のネットワー ク化、さらには子どもの権利が保障されるような支援もなされるのではないか。言い換える ならば、離婚後の母子家庭の施策は、生活支援や就労・自立支援が中心であり、離婚後の子 どもの貧困防止のための養育支援サービスの視点は欠如しているのである。

 離婚時において、日本では夫婦の紛争解決が優先されるあまり、子どもの生活環境に関す る視点が置き去りになっている現状がこの要因の背景にある。協議離婚が全体の

9

割を占め る現況では、養育者以外の大人によって、当事者である子どもの利益や権利(養育費など)

が守られているのか確認することができない現実も存在する。

 紙

1

枚で離婚できる現在の制度は、当事者であるはずの子どもにとって不利益な状況を生 じさせやすい。親の離婚時において、子どもの人権はいっそう尊重されなければならない。

親の都合ではなく、「子どもの権利」が守られる養育の仕組みと法律が必要である。人間の ライフサイクルにおいて、子ども時代の生活環境は、対人関係のあり方や自己価値など、自 立した個として成長していくうえで非常に重要である。すべての子どもが夢と希望をもって 成長していける社会を実現するためには教育の機会を均等に提供するだけでは不十分であり、

教育を受ける前提として安定した生活環境が求められる。親の離婚の影響による貧困は、子 どもにとって権利の侵害といっても過言ではない。離婚に伴う貧困を防ぎ、子どもが安心し て学び成長できる環境の整備が求められる。

(13)

2

)臨床心理学と法学による協働的視点の重要性

 夫婦間の高葛藤を伴う離婚においては、親権あるいは養育権、そして慰謝料といった民事 的な紛争が生じるが、その介入には、離婚が子どもの発達に与える影響や離婚の原因となっ た夫婦間の不和の心理過程に関する理解も大切である。つまり、夫や妻、そして子どもとい う個別的な立場と夫婦関係や親子関係といったように、「人」や「人間関係」が重要な要素 として存在し、「離婚」をめぐっては人間の心と行動に関する心理学的な研究が期待される。

臨床心理学(心理学)と法学による協働的視点の重要性には、どのような議論がされてきた のだろうか。

 廣井(

2011

28は、法的アプローチの効用としては、法に基づけば誰もが同じ原則を共有 できるという問題解決についての公正性、信頼性が担保されることをあげながら、法に伴う 強制力は、家事事件などでは、履行確保のために事案に応じて間接、直接強制を可能にする としている。だが、強制という作用は、臨床的アプローチには基本的には存在せず、法によ る合理的判断がいかに正義にかなう正論だとしても、それが実体的な解決に結びつくとは限 らないと述べている。そして、法が示す規範や強制力に対する反作用として、人は意地にな り頑なな態度をとることがあるのだという。さらに、法と臨床の価値が生起させるには、方 法論の違いを前提としながら、現代社会が直面する問題や紛争の解決のために、互いの異な る枠組みをダイナミックにぶつけ合って展開させると述べている。わが国においても、子ど もの親権や面会交流をめぐる夫婦間の紛争が増加している現状では、廣井が指摘しているよ うに、家族の争いに恨みや怒りという感情表出がつきまとう。そうした、根深い感情が離婚 後の子どもの養育をめぐる問題の解決を阻害することもあるので、当事者をめぐる心理的な 理解と支援は重要となるであろう。

 ただし、その一方で、伊東(

2010

29が指摘しているような、心理と法とのギャップにも 留意する必要があるだろう。伊東は、心理学の主要な方法論が平均値による議論(そこから 導かれる一般的傾向)であるのに対して、法学の方では、それだけで「法的」結論ないし解 決とすることはできないとし、法実務、特に裁判の場において、人間の一般的傾向について の平均値的な実証データを適切に生かすことが重要であることを法律関係者、特に裁判官に 理解してもらうことの必要性を説いている。この伊東の指摘を受けて例示をしたい。面会交 流の有無による心理的健康を測定する目的で、青木(

2011

30は関東圏の国立大学および私 立大学の学生

510

名(離婚群は

50

名)を対象とした質問紙調査を行った。その結果、別居親 と面会交流をしていない子どもは、「自己肯定感」が低くなり、「親和不全」が高くなること が明らかになった。一方、たとえ親の離婚を経験した子どもであっても、別居親と面会交 流を続けている場合、両親の揃っている家族の子どもと比較して「自己肯定感」および「親 和不全」の得点に差が出ないと述べている。この結果は、離婚後ないし別居中の子育てにお ける親子の交流の重要性を示している。このような調査は、面会交流が子どもの人権として 法的に位置づけされていることを実証するデータであると言えるが、心理学の研究者が説得

(14)

性と妥当性を以って法の実務家に伝えることができるのかということも、臨床心理学(心理 学)と法学との協働における課題となろう。

 心理学、特に臨床心理学は、個人あるいは家族や集団が抱えている心理社会的な問題につ いて、当事者の内的世界に関心を寄せつつ、何らかの心理的なアプローチの手法を用いて支 援を行うものである。人間のパーソナリティを測定する質問紙法や心理尺度、さらには虐待 やDVにおける心理アセスメントツールの開発を行うこともあり、このような計量的な心理 学的研究が法学における法実務の機能において、経験的なデータを提供できる可能性もある だろう。法は言葉としてのきまりだけで運用されるのではなく、法が機能するための制度が 人間によって生み出される必要がある。臨床心理学によって蓄積された人間を理解するため の量的及び質的なデータが、法学への有用な提案として機能することが期待されるであろう。

臨床心理学と法学との協働については、今後とも試行的な議論が継続すると思われる。離婚 後の子どもの貧困防止のための養育支援における両者の協働的視点の意義は、法学が社会の 基盤となり、現実を生きる人間の心理が流動的であるがゆえに存在するからであろう。臨床 心理学と法学による協働的視点の構築のためには、両分野における研究者及び実務家による 研究と実践活動、そして対話が重要であると考える。

むすびにかえて

 離婚後の子どもの貧困防止のための養育支援というテーマについて、今後は離婚後の子ど もの貧困化のプロセスについても、量的及び質的な調査を実施し、実証的な視点からの提言 が求められるであろう。また、臨床心理学と法学による協働的視点の重要性に関しては、互 いの十分な討議ができなかった点もあり、今後も両分野における相互的な研究の蓄積がされ ていく必要があるだろう。

付記

 本稿は臨床心理学と法学を専門とする

2

名の研究者による共著である。引用文献の明示に ついては、脚注を用いることで共通化したが、表記の詳細については、各自の判断によって いる。

(15)

<注>

1 平成27年人口動態統計表.厚生労働省.www.mhlw.go.jp20161022日最終閲覧.

2 平成21年度「離婚に関する統計」の概況人口動態統計特殊報告,厚生労働省. www.mhlw.go.jp 20161022日最終閲覧

3 河嶋静代(2010)子どもの権利と共同親権・共同監護-非監護親の養育責任とひとり親家庭の福 祉施策をめぐって-.北九州市立大学文学部紀要,171-25

4 二宮周平他(2014)変貌する家事紛争に対応した解決モデルの構築.科学研究費助成事業・研究 成果報告書.1-5.

5 Amato, PR.: Life-Span Adjustment of Children to Their Parentsʼ Divorce. The Future of Children, 143-164. 1994.

6 Wallerstein, J.S.: The unexpected legacy of divorce. Carol Mann Literary Agency, New York. 早 野 依子(訳)(2001)それでも僕らは生きていく-離婚・親の愛を失った25年間の軌跡-.PHP.

2000.

7 Bauserman, R.: Child Adjustment in Joint-Custody Versus Sole-Custody Arrangement: A Meta- Analytic Review, Journal of Family Psychology, 16(1), 91-102.2002.

8 小田切紀子:離婚を乗り越える-離婚家庭への支援をめざして-.ブレーン出版.2004

9 青木聡:面会交流の有無と自己肯定感/親和不全の関連について.大正大学カウンセリング研究 所紀要,345-172011

10 『平成26年 わが国の人口動態統計-平成24年までの動向』.厚生労働省大臣官房情報部.2015.

11 野口康彦・青木聡・小田切紀子(2016)離婚後の親子関係及び面会交流が子どもの適応に及ぼす 影響.家族療法研究,333),(掲載予定).

12 白倉賢二(2003)離婚問題と親子関係.月報司法書士,(373),2-7 13 小此木啓吾(1979):対象喪失.中公新書.

14 明石市ホームページwww.city.akashi.lg.jp/seisaku/.../youikushien.html20161015日最終閲覧)

15 棚村政行(2015)協議離婚における合意形成の支援と明石市の取組み.平成26年度養育費の確保 に関する制度問題研究会報告.養育費相談支援センター.

16 民法には、家族に関する条文だけではなく、債権(「債券」ではない)や物権(「物件」ではない)

などの財産に関する基本的なことを定めた条文も存在する。また、研究者の立場によるであろう けれども、基本的に「家族法」といった場合には、単に民法上の条文だけではなく、より広く家 族に関する法律(例えば、戸籍法など)も含まれる。

17 本澤巳代子・大杉麻美・髙橋大輔・付月『よくわかる家族法』(ミネルヴァ書房、2014年)20頁〔本 澤巳代子〕。

18 本澤巳代子・大杉麻美・髙橋大輔・付月『よくわかる家族法』(ミネルヴァ書房、2014年)22頁〔本 澤巳代子〕。

19 http://www.courts.go.jp/tokyo-f/vcms_lf/santeihyo.pdfにて閲覧可能である。20161021日最終 閲覧。

20 栗林佳代「子のための面会交流」生野正剛ほか編『変貌する家族と現代家族法-有地亨先生追悼 論文集-』(法律文化社、2009年)121頁。

21 細矢郁・進藤千絵・野田裕子・宮崎裕子「面会交流が争点となる調停事件の実情及び審理の在り 方-民法766条の改正を踏まえて-」家庭裁判月報647号(2012年)76-80頁。

22 細矢郁・進藤千絵・野田裕子・宮崎裕子「面会交流が争点となる調停事件の実情及び審理の在り 方-民法766条の改正を踏まえて-」家庭裁判月報647号(2012年)80-81頁。

23 梶村太市「親子の面会交流原則的実施論の課題と展望」判例時報2177号(2013年)3-12頁、渡辺 義弘「面会交流至上主義への懸念-福岡家裁平成26124日審判の意味するもの-」戸籍時報

(16)

724号(2015年)13-16頁など。

24 下夷美幸「離婚母子家庭と養育費-家族福祉の現代的課題-」社会福祉研究120号(2014年)150頁。

25 本澤巳代子・大杉麻美・髙橋大輔・付月『よくわかる家族法』(ミネルヴァ書房、20014年)102-

103108-109頁〔髙橋大輔〕を参照いただきたい。

26 赤石千衣子「「親子断絶」防ぐ法案に懸念」朝日新聞2016929日朝刊17頁、毎日新聞201610 1日朝刊(http://mainichi.jp/articles/20161001/ddm/013/100/011000c20161021日最終閲覧)

など。

27 河嶋静代(2010)子どもの権利と共同親権・共同監護-非監護親の養育責任とひとり親家庭の福 祉施策をめぐって-.北九州市立大学文学部紀要,171-25

28 廣井亮一(2011)「司法臨床」の概念:わが国の家庭裁判所を踏まえて.法と心理,1111-6 29 伊東裕司(2010)心理学者からのコメント(法と心理学のまなざしとその再検討-協働を求めて).

2010 91),61-62

30 青木聡(2011)面会交流の有無と自己肯定感/親和不全の関連について.大正大学カウンセリン グ研究所紀要,345-17

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