細則様式第1-2号
学位請求論文の内容の要旨
領 域 健康支援科学 分 野 老年保健学
氏 名 宮城島 一史
(論文題目)
腰椎手術後の治療効果に影響する因子の検討
主 査 吉田 英樹
副 査 中村 敏也
副 査 尾田 敦
副 査 對馬 栄輝
腰椎変性疾患は,高齢社会の到来とともに増加している.腰椎手術は下肢痛や歩行障 害などを劇的に改善させ得る治療法である.しかし,術後症例の
3割が満足していない との報告がある
(Thomas E,
2011).腰椎手術後の理学療法に関する研究報告は少ない ことから,運動療法や物理療法などにより疼痛,柔軟性,筋力,
QOL(quality of life)などがどう改善するのか,理学療法効果に影響する因子の検討を行うことが必要にな る.本研究の目的は,腰椎手術後の治療効果に影響する因子を検討することである.
① 腰椎固定術後
1年の健康関連
QOLに影響する術前の因子
近年では治療効果判定に健康関連
QOL(health-related quality of life;
HRQOL)評価 である
SF-36が世界で広く用いられている.本邦の腰椎固定術後においても
SF-36が向 上するとの報告が散見され,
HRQOLの向上が重要な治療目標の一つとなっている.し かし,腰椎固定術後の
SF-36は本邦の国民標準値に達していないとの報告がある.ゆえ に,腰椎固定術後の
HRQOLを向上させるためには,腰椎固定術後の
HRQOLに影響す る因子を詳細に分析する必要がある.本研究の目的は,腰椎固定術後
1年時の
HRQOLに影響する因子を明らかにすることである.
対象は,腰椎固定術を実施して術後
1年が経過した
94例とした.調査時期は術前・術 後
1年とし,各時期で
SF-36を評価した.その他の検討項目は,術前の因子として性別,
年齢,
BMI(body mass index),職業,同居家族,喫煙,他部位の整形外科疾患の既往,
合併症,腰椎手術の既往,膀胱機能,下肢筋力とした.
(注)論文題目が外国語の場合は,和訳を付すこと.
【細則様式第1-2号続き】
統計解析は,術後
1年時の
SF-36の
8下位尺度を従属変数,その他の検討項目を独立 変数とした正準相関分析を用いた.第
1正準変量
(正準相関係数
0.62)は,術後
1年時の
P F(0.83),
RP(0.60),
RE(0.51)の順に年齢
(0.62),下肢筋力
(0.48)へ高く影響していた.
第
2正準変量
(0.55)は,術後
1年時の
GH(0.46)に職業の有無
(0.78),性別
(0.51),他部位 の整形外科疾患の有無
(0.42)へ高く影響していた.本研究の結果より,術後
1年時の
H RQOLには術前因子が大きく影響することを確認できた.
② 腰部疾患手術後の遺残下肢症状に対する電気療法継続による効果
腰椎疾患手術後において術前症状は大幅に改善するが,下肢の疼痛やしびれなどの 遺残症状を呈する患者は少なくない.遺残下肢症状は術後愁訴・不満の一つであり,
遺残率は
26~
66% (西村ら,
2005)で,患者満足度に影響するとも報告されている.遺 残下肢症状を認めた症例では入院期間が長期化するとの報告
(西村ら,
2005)もあり,
クリニカルパスに沿った自宅退院を達成させるためには,遺残下肢症状に対するアプ ローチを後療法で最優先すべきである.この症状に対して宮城島ら
(2014)は,
10分間 の電気療法にて
66%に即時効果を認めている.しかし,電気療法継続による効果があ るかは不明である.本研究の目的は,腰部疾患手術後の遺残下肢症状に対する入院中 の電気療法の継続効果を検討することである.
対象は,腰椎手術を実施し,殿部から末梢に症状が遺残した
50例とした.電気療法 はスーパーテクトロン
HX606(テクノリンク社製
)を用い,
10分間実施した.入院中に
1日
1回電気療法を継続した例
(電気継続群
),数回の電気療法により効果が認められずに 中止した例
(電気中止群
)の
2群に分類し,術前,初回電気療法前
(術後
5~
7日目
),退院 時
(術後
2~
3週
)の下肢症状の程度の評価である
VAS(visual analogue scale)を調査し た.その他の検討項目は,性別,年齢,
BMI,術式,腰椎手術の既往,罹病期間,投 薬,下肢筋力,
VAS,足部の症状とした.
電気継続群は
39例,電気中止群は
11例であり,拒否,症状悪化例は存在しなかった.
電気継続群の
VAS(中央値;
mm)は術前
70→初回電気療法前
40→退院時
14であり,各 時期で有意差を認めた
(r=
0.66~
0.86).電気中止群の
VASは術前
63→初回電気療法前
45→退院時
41であり,初回電気療法前から退院時では有意差を認めなかった
(r=0.03). 多重ロジスティック回帰分析の結果,退院時の
VAS(オッズ比:
1.04,
95%信頼区間:
1.02
~
1.07)が選択された.
【細則様式第1-2号続き】
電気継続群では
VASの改善度が大きく,手術による自然回復,薬物・運動療法の効 果に加え,電気療法の継続効果が影響したと推察できる.
2群間において他の因子より も退院時の
VASの影響度が強く,交絡因子を除いて結果を解釈できた.
以上より,腰部疾患手術後の遺残下肢症状に対する入院中の継続的な電気療法によ り,退院時の症状を軽減できると考えた.
③ 腰椎椎間板ヘルニア摘出術後
3ヶ月の腰椎伸展可動性に影響する因子
我々は,術後早期からの積極的な理学療法として,腰椎伸展可動性改善を重視した 腰椎伸展運動療法や生理的前弯位保持の座位指導を行い,腰仙椎アライメント,痛み の改善に有効とした
(石田,
2014).腰椎椎間板ヘルニア
(lumbar disc herniation;
LD H)術後の理学療法において腰椎伸展可動性改善が特に重要との報告
(Mannion,
2005)から,
LDH術後の症状改善,再発予防の観点から腰椎伸展可動性が重要である可能性 が考えられる.本研究の目的は,
LDH術後
3ヶ月の腰椎伸展可動性に影響する因子を 検討することである.
対象は,
LDH摘出術を実施し,術後
3ヶ月まで経過観察を行った
53例とした.検討 項目は,年齢,性別,
BMI,罹病期間,仕事
(デスクワーク・重労働・その他
),喫煙の 基礎情報と,術後
3ヶ月の
VAS(腰痛・下肢痛・しびれ
),股関節柔軟性
(SLR角,
Thom as test,
Ely test,股内外旋
ROM),腰椎屈曲・伸展可動性,
BS-POP(心理・社会的評 価
),
ODI(疾患特異的
QOL評価
),職場復帰の有無とした.
重回帰分析の結果,
SLR角
(標準偏回帰係数
0.36),
ODI「座ること」
(0.31)が選択さ
れた
(p<
0.05,
R2=0.21).
SLR陽性例は存在しなかった. 術後
3ヶ月の腰椎伸展可動
性が良好な例は,
SLR角および
ODI「座ること」が良好であった.
SLR testは全例陰
性であり,ハムストリングスの柔軟性と捉えることができる.一般的にハムストリン
グスの柔軟性低下により骨盤後傾・腰椎後弯位となることから,腰椎伸展可動性に影
響を与えていた可能性が考えられる.また,
LDH術後は腰椎伸展制限に伴い腰椎前弯
が減少するとの報告
(Maninion,
2005)から,腰椎伸展可動性と姿勢が影響し合うと考
えられ,腰椎後弯位の不良座位姿勢により長時間の座位保持が困難となっていたこと
が推測される.以上より,
LDH術後の腰椎伸展可動性にはハムストリングスの柔軟性
と座位の困難感が影響することを考慮し,ハムストリングスに対するストレッチや生
理的前弯位での座位保持指導を検討すべきであると考える.
【細則様式第1-2号続き】
学位論文のもととなる研究成果としての筆頭著者原著
論 文 題 目
Factors affecting health-related quality of life one year after lumbar spinal fusion
(腰椎固定術後1