保険金等の支払いをめぐる再検証問題
平成19年度大会シンポジウム
質 疑 応 答
[司会・藤田]以上, 保険金等の支払いをめぐる再検証問題 について,そ れぞれ異なる立場からのご報告を頂戴した。司会者個人としての見解は各報 告と等質のものもあれば若干意見を異にするものもあるが,時間的制約を考 慮して, 報告要旨 で代替したいと思うので,早速質疑応答に入りたい。
[質問](弁護士法人中央総合法律事務所・錦野裕宗)現在においても金融庁 においては,金融サービス利用者相談室を苦情相談窓口として設け,そこに 寄せられた苦情をオフサイトモニタリング(監督),オンサイトモニタリン グ(検査)に活用してるが,仮に出口先生ご提案の苦情対応義務が法定され た場合,1件1件の苦情にどの程度まで対応が行われることになると思う か?監督部局の人員を大幅に増やす必要があるのか,それとも,自主規制法 人等にその業務を委託することになるのか?先生のイメージや諸外国の状況 をご教示いただきたい。
[出口]ドイツの保険監督庁が1994年に苦情対応事務を法制化して,その当 時から対応しているレギュレーションがある。9年前に 保険監督と苦情処 理 (文研論集125号)の中でくわしく書いたのでそちらを参照されたい。ド イツでは94年から今日まで大体年間2万件以上,おそらく3万件まではない だろう。苦情相談も含めて 貴社の契約者からこのような点について苦情が きているが,この点について文書で4週間以内に回答してほしい などとい う具合だ。その際,回答は2通書いてもらう。1通は苦情申し立て人に,も
う1通は監督庁宛である。監督庁はその回答書の中身を精査して,法令ある いは約款上問題と考えた場合,再び保険会社に対して再回答を求めるという 形でやっているようだ。
人員を増やす必要があるのかという質問があるであろうことは予測してい たが,次のような例で回答に代えたい。
前述した9年前の論文の最後に引用したが,故人である東京大学名誉教授 の竹内昭夫先生はつぎのように指摘されている。 どのような行政組織をつ くるにせよ,問題は名称ではなくて内容である。つまり人員,予算権限,そ れに職員の士気が問題である。名前は新しくても人員,予算権限が乏しい組 織をつくることは,満たされるはずのない期待を消費者に抱かせるという意 味で,消費者に対するごまかしである。社会が複雑化して新しい行政分野が 増えれば,それだけ強力な行政機構が要求されるのは当然である。チープガ バメントということは,それだけを切り離せば,望ましいことであるが,チ ープガバメントの名の下に消費者行政の充実がなされないとすれば,それは 政治の怠慢である (竹内昭夫ほか・現代の経済構造と法(1975年)167頁)
と。
厳しい指摘が,かなり前の論文だが,書かれている。消費者保護行政は今 後いろんな分野で充実が図られる必要があることは間違いない。そういう意 味では,もし人員が足りないとか予算が足りないから,約款の審査はこれま でより簡単にする,ということであればそれは言い訳でしかない。法律が絵 に描いた餅とはならないような形で,政府なり行政なりがしっかりした人員,
予算を整えて消費者行政を充実していく必要があると考えている。
[質問](元 戸大学・刀禰俊雄)14ページで 請求主義の下では不払いにつ ながる と言われたが,出口先生も述べているように,そう言い切るのは少 し無理があるのではないか?
[質問](福岡大学・佐野誠)不払い問題の一因が 請求主義 にあることを 指摘されているが,保険会社に請求勧奨することを義務づけ,それを基準と
して事務の監督を行う考え方についてどのように評価しているか?
[宮地]まず刀禰先生の質問に回答したい。契約内容を把握していないとい った消費者の認識の欠如等により,保険金請求がなされず,請求漏れにつな がっている側面もある。結局,これも 請求漏れ という名の 不払い で はないかと思う。請求主義に立つと請求漏れ問題が生じるので,消費者に対 する保険会社の対応が不親切なものになる,という話だが,私見では,消費 者サイドにも問題があるのではないかと思う。このような点にも注意を払っ ておく必要はあるだろう。
次いで佐野先生の質問に回答したい。いま述べた請求主義と関連する質問 だろうが,請求に関連する事務やシステムの整備については,各社とも最近 種々の取り組みをしている。請求漏れがなくなるよう,消費者の注意喚起の ための努力もなされている。このような努力に加えて,消費者の当事者意識 の欠如からくる問題を是正していくために,近年では,商品の標準化や簡易 化を求める意見もある。ただし,それらが最終的に本当に消費者のためにな るのかということを,今後の課題としてとらえる必要がある。
[質問](明治学院大学・松島恵)競争激化のため商品の複雑化の見直し,類 似商品の整理統合が必要であると主張されているが,それと同時に,たとえ ば, 商品企画部門, 営業部門・代理店, 保険金支払い部門など,どこ に保険金不払いの原因があるのか,その問題を生じさせないような企業の人 的内部管理・連携システムも不可欠ではないかと思う。各社はその後,具体 的にどのような対応策で対処しているのか?
[岩瀬]私は昨年9月まである損害保険会社の新商品開発部門に在籍してい た。そこでの体験例で回答したい。新商品をつくる際には,損害調査,営業,
あるいはシステムなどと連携して,社長直轄の 新商品開発委員会 という 名称の会議体を開いていた。新商品開発は機密事項である。あらかじめ全部
を社内披露してしまうと必ず外部に漏れてしまうからである。それでは新商 品の意味がない。このような例から分かるように,問題対応商品の開発ひと つをとっても,部局協働は,現実問題としてなかなか対策を講じるのは難し いと思う。
[質問](元 戸大学・刀禰俊雄)① 過度の株主重視経営が問題のひとつ など,岩瀬報告は株式会社を前提としたものだった。今回の保険金不払い問 題の端緒となったMY社をはじめ生保の大手は株式会社ではない。相互会社 についてはどのように所説を展開されるのか? ② 各社が商品にニックネ ームをつけたことが顧客の混乱を引き起こした と説明されたが,自動車で も電気製品でも商品にニックネームをつけるのはどの業界でもやっている。
何故に保険業界について,そのように主張するのか?また,そのことと保険 金不払い問題とはどういう関係があるのか?
[質問](滋賀大学・久保英也)不払いの原因にチャネルなどの市場特性,株 主重視の経済があげられているが,不払いは生保の営業職員チャネルを主と する会社で多く発生している。また生保の多くは相互会社であり,株主との 関係は少ない。さらにまた,経営者のスタンスも請求主義と顧客サービスと のかねあいを十分に考えていなかった点はあると思うが,EVAとの関係な どを意識しなかったからこういう問題が発生したという因果関係はないので はないか?
[岩瀬]相互会社の研究はしていないので回答できないが,相互会社という 名称の経営でも,株式会社と類似したような経営上の発想はあったのではな いかと思う。また,今相互会社から株式化する会社も出てくる可能性はある。
おそらく株式会社化すれば,さらに不払いが多くなるのではないかと個人的 には思っている。
[質問](元 戸大学・刀禰俊雄)出口報告は大変わかりやすい報告であった
が,例示されたケースについて意見を申し述べたい。自動車保険の例では事 故を起こしたときに保険会社に連絡するとともに,代理店に連絡すれば,洩 れなく請求するよう教えてくれるはずだ。ダイレクト保険の場合にはそうは いかないので,そのあたりがサービスの濃淡といえるのではないか?また生 命保険については,自身の加入している契約についてメモ書きにするなど,
家族によく話しておくべきだろう。そのような消費者教育を徹底することも 保険会社に求められる課題と言えないか?
[出口]大変厳しい質問だが, 自分の加入している契約についてはメモ書き にして家族によく話しておくべきだ と,さっそくメモしておきます。
もうひとつは,消費者教育を徹底することも保険会社に求められるべきか,
という非常に難しい問題である。保険会社が消費者教育等に関わる必要があ るのか,という根本的な点に関わってくる。今回の請求漏れに対応するさま ざまの改善策の中で, 契約者丸抱え というやり方が本当に適切なのかと いうことも,よく考えてみる必要がある。一方で自己責任が強調されながら,
他方で,すべてを保険会社に丸抱えさせるというような対応が果たして本来 のあるべき姿なのか?
状況によっては,契約者の責任で考えてもらわなくては改善できないだろ うというように,冷静になって考える必要のある局面が生じると思う。この 点も9年前の私の論文を参照してもらいたいが,たとえばカリフォルニア州 では,消費者教育に努力する義務は保険庁にある。保険会社が消費者教育を 行うというのは,サービスとしてやるのはいいかもしれないが,当然やるべ きものとは言えないだろうと,現時点では考えている。
ダイレクト保険の場合は,代理店のようなものは存在しないので,その意 味では,サービスの濃淡はあり得るだろう。ただ実際,代理店がどこまで真 に有益なサービスをしてくれるのかどうかはわからない。一般論としては指 摘の通りだと思う。
[質問](大阪大学・山下典孝)宮地報告の概念する消費者教育として,具体 的にどのような内容や方法を考えているのか?
[質問](神戸学院大学・岡田豊基)消費者意識の向上のための具体策があれ ば披露してほしい。
[宮地]幸いにも私個人は,社会人と学生の両方に保険教育できる立場にあ る。社会人は生活に密着しているので,保険への実感を持って勉強している と感じる。学生は自ら保険に加入する,あるいは,購入する機会がなかなか ないので実感がわかないのだろう。また,自分の問題として保険の必要性を 考える動機も働きにくい。その意味で,学生に対して消費者意識を向上させ るのは,すぐには難しいのではないか。徐々に意識の変革をしていく以外に ないだろう。
思いつく可能な方法は,たとえば,生命保険文化センターや損害保険協会 が貸与しているビデオなどにはかなり具体的な事例が紹介されている。それ らを利用するのも一考だろう。またマスコミに,金融商品に関する消費者意 識や保険教育といったテーマを取り上げてもらえるよう,学会としても働き かける必要があるのではないか。欧米でも中学生や高校生には保険教育の対 応はあまりなされてないようだ。そのような消費者意識を変えていく,ある いは向上させていくという役割を担う者としても学者や保険学会が存在する と思うので,PRしていくことが重要ではないかと思う。
[質問](損害保険ジャパン・田爪浩信)①エージェンシー・コストに対して 保険会社は対策を講じていないというご指摘について質問したい。他の業界
(たとえば自動車メーカーと販売店,家電メーカーと販売店の関係)の例を 示して参考となる例を示して欲しい。②料率秩序は崩壊しているか,具体的 な例で示して欲しい。併せて料率制度の将来像についての見解を伺いたい。
③報告された1と2の問題点は,保険金支払い漏れ問題に関係があるの?あ るとすれば具体的に示して欲しい。
[岩瀬]具体的な事例はよくわからない。たとえば欧米などではエージェン シーコストはある程度ROEに含んだ形で目標設定を下げたりしているよう だ。②と③については今週千倉書房から出版した本に書いたが,今の算定会 料率制度は再度見直す必要があるのではないかと思う。通常の財・サービス において製造原価まで公開している業界は少ないのではないかと思う。
[質問](明治大学・押尾直志)保険金等の支払いをめぐる再検証問題につい て保険事業の構造面,消費者保護の面,および監督行政面からご説明いただ いたが,いずれにも消費者が直接参画して保険政策に意見を反映させるよう な消費者主権の立場が聞かれなかった。とくに岩瀬報告では,ステークホル ダーの重要性を指摘されたが,利害の対立する株主と消費者がどう協力する のか教えていただきたい。また出口先生には,苦情対応のみでなく消費者が 直接参画する保険政策についてどう考えるか,ご意見をいただきたい。また 全員への質問だが,募集制度の不備が取り上げられなかった。この点どのよ うに考えるのか?
[出口]いま保険会社の支払い部門に関しては,金融庁としては第三者が参 画して支払い審査の公平性,透明性を高めるのが望ましいという監督指針が ある。私は逆に,これは資料の中にも記載したが,金融庁自体の組織の公平 性,透明性とが必要になってくると思う。今回の報告に関連づけて言えば,
商品審査の透明性,公平性のために,消費者なり有識者なり外部の人間が入 って,各商品について保険契約者の保護を害する恐れはないのかをしっかり 見るべきだ。行政も組織運営の透明性,公平性をいかにして図っていくかと いう点が課題で,これからの時代はそういう要求が出てくるだろう。
[岩瀬]企業の成長性,収益性,健全性について回答する。成長性だと売上 高(収入保険料)とか販売網の数,あるいは,収益性だとコンバインド・レ シオであるとか,健全性であればソルベンシーなどであった。少なくともこ ういうものが従来の保険会社の経営目標だった。ところが,自由化以降は,
いわゆるステークホルダーとしての大株主の意向を強く聞かなければいけな くなってきた。会社の経営指標がROEとか株式時価総額とか株価とか,か なり株主を意識したものになってきている。今日の発表で言いたかったのは ROE一辺倒の経営ではなく,新しい経営管理指標の導入とそれを支える料 率秩序の再構築,この二つが最低限必要ではないかということだ。株主と経 営者が協力することによって,現行の保険会社の経営管理指標を変更する必 要があるだろうと思う。
[質問](同社大学・木下孝治)不払い問題(請求もれ)の原因が商品の複雑 化にあるとみるなら,情報過多が問題となり,請求段階で適切な情報提供,
助言をなす方向に傾くのではないか。複雑な商品に真のニーズがあるか疑わ れる点には賛同するが,ニーズについては役所でなく市場が判断すべきで,
ニーズを歪めた販売を防止する方策によるべきではないのか?
[質問](滋賀大学・久保英也)保険監督者が苦情処理まで行う総合的監督を するのも確かに一方法とも考えられるが,保険商品の複雑化や会社経営の多 様化の中では,役所の機能は別にあると考えられる。方向としては市場が保 険会社や保険商品を判断しやすくするインフラを整えるほうがいいのではな いか?
[出口]保険業法で商品審査の基準として,明確に保険契約者等の保護を害 する恐れのないことがひとつの審査基準になっている。今回のケースでは,
需要があるかないかの前に,そもそもその商品の内容がわかりにくい。すで に説明したように,保険金を請求する側には,契約者とか被保険者が死亡し たケースが存外にある。相続人とか受取人といった第三者が請求しているこ とになる。そういう人はよく知らないわけである。
証券には難しい言葉が書かれていて,よくわからない。災害特約死亡と言 っても,普通の人や相続人にとっては, 何だ?この災害特約というのは?
と,いうことになる。まず,わかりやすさというのが契約者等の保護のため
には重要ではないか。監督指針が生保,損保共通の審査基準の第1番目にあ げているのは,わかりやすさである。その次に需要とか利便性といった審査 基準が出てきている。
確かに需要は市場にまかせていいだろうと思うが,全面的に市場にまかせ ていいかといえば,問題はあると思う。保険業法という法律では,商品認可 に関しては,需要であろうと利便性であろうとわかりやすさであろうと,す べて監督庁が審査して販売を認めるかどうか判断する。法律ではこういうこ とになっている以上,今の時点では,市場にまかせればいいとはなかなか言 えないのが現状だ。商品認可の廃止の議論につながるので,ここでは軽々に はいえない。
[質問](同社大学・木下孝治)宮地報告では,不払い問題の原因の一端を交 渉力格差に求められたと拝聴したが,そこに帰すことができるのは不当な不 払いの局面(紛争解決コストの問題を含む)に限られている。請求もれの原 因には,真に顧客ニーズが自覚されていないような特約の存在とか,保険会 社の内部で,商品開発のペース(請求書の様式など)に支払い部門がついて 行けなかったことなどに求めてもよいのではないか?また,いくら保険料を 支払えるか,という観点から選択するのは,果たして本末転倒なのか?
[宮地]最初の質問だが,説明が不十分であったかもしれない。消費者と保 険会社間の交渉力格差の存在が,不払い問題の要因の一端になるということ ではなく,不払いなどの事後対処の際に問題が生じるということだ。交渉力 格差の是正は必要であるが,その役割を担うのは監督官庁や保険業界という よりも,保険研究者やマスコミ等の第三者が適しているのではと思う。
保険料をいくら払えるかを考えてから商品を選択することが,本末転倒に はあたらないとする考え方もあることはわかる。確かに商品選択において,
いくら払えるかは重要なポイントではある。だが,それを保険契約の最初の 前提とするのはおかしい。まずニーズは何なのか,いくら必要になってくる
のか,といった視点から保険会社が販売したり,消費者が選択するという姿 勢の方が望ましいのではないか。
[質問](あいおい損保・鎌田浩)保険会社にとっての 乗合代理店 の意義 について質問したい。① あくまで顧客の有利性を優先させ,積極的な販売 を行う傾向がある という,この指摘は具体的なデータに裏付けられたもの なのか? ② 保険会社にとって(中略)支払い機会が多い商品であるから である という説明だが,損害率は分母に収入保険料,分子に支払い保険金 の算式で決まるものであり,必ずしも,指摘のように 保険金の支払い機会 が多い商品 とは言えないと思う。この点どう考えるか?
[岩瀬]この部分の発言は,予定損害率を大幅に上回るようないわゆる採算 性の合わない商品を考えた場合,ということである。損害保険会社にとって 売り止めにしたいような損害率が非常に高騰している商品を指して言ったこ とである。逆に言うと,損害保険会社が損をするような商品は,消費者にと っては,相対的により多くの保険金がもらえることになる。そういう商品を,
乗合代理店では保険会社の採算性よりも消費者の利益を優先して販売する,
という可能性の話である。
[質問](松原脩二)①現状の商品の複雑化を招いた原因をどう考えるか?
②商品の簡略化により消費者ニーズにこたえられるのか? ③保険会社と少 額短期保険会社の存在をどのように理解しているのか?
[出口]私は専門ではないのでこの質問はよくわからないが,規制緩和によ って競争が促進された中で算定会の料率が自由化され,新しい商品が続々と 出てきた。一般的には規制緩和という政策的な背景が複雑化をもたらした要 因ではないかと言われている。多分そうしたことがひとつの大きな要因では ないかと思う。今の消費者ニーズは何かというと,商品の簡略化以外にはな
いのではないかと思う。換言するなら,最大のニーズは,請求漏れが起きな いような商品をつくってくれ,ということ以外にない。そういう意味で保険 のニーズは,まさに簡略化,わかりやすさではないかと思う。
[質問](小池)岩瀬報告について質問したい。生損保業界人員の減少要因に ついては疑問がある。①生保は経営破綻による減少で,商品説明要員の減少 ではないのでは? ②損保は代理店数は減少しているが,代理店従業者は増 加しているが…。
宮地報告への質問。昨年中央大学を会場とした医療保険論議をふまえ,健 保自己負担5割以上私的領域の拡大に伴う商品変化をどう見直し,予測され ているか?
[岩瀬]①については確かにそうとも言える。そのことを現実の問題として 捉えなおすと,生損保とも過去10年間で23%ぐらいの総合職を減員している。
その結果,実体的な商品説明の総合職,商品開発や営業,損害調査とかいっ た社員の数が減っていることもかなり影響している。損保が代理店数は減ら しているが,代理店従業者は増加しているのではないか,という指摘だが,
これは人の数字だけではない。REO一辺倒だと人件費とか物件費といった ものを減らす必要がある。そうすると総合職を減らしてアルバイトとか派遣 社員とかにする。人員の数ではある程度合わせられるが,総合職によるきめ 細かいサービスはなかなかできないのではないかと思う。
[宮地]私的保障は拡大して公的保障は縮小していく,という流れそのもの は,不可逆ではないかと思う。ただ官民役割分担のあり方や,小さな政府と 大きな政府のどちらを選ぶかという問題は民意を問う必要が出てくるのでは ないかと考える。
[質問](あいおい損保・鎌田浩)商品サイクルについて質問したい。ご説明 の際,大手生保は③成熟期,外資,中小生保は②成長期とお聞きしたが,商
品のライフサイクルは消費者の購買(ニーズ等)によって決まるものではな いか?
[宮地]報告がわかりにくかったかもしれないが,大手生保の方が成長期,
外資,中小の方が成熟期ではないかということである。たとえば,外資は医 療保険などの市場において先行者としての有利性を持っている。消費者の選 好もまだまだ強いものがある。したがって,大手生保よりも外資,中小生保 の方が商品ライフサイクル上,一歩進んでいるのではないかと思う。これは 私論であるので,また後ほどご教示いただけたらありがたい。
[質問](一橋大学・米山高生)岩瀬報告では,保険金等の支払い漏れは,保 険事業の自由化に内在する問題から生じたもの,ということだが,そうする と,①自由化以前にはなかったものと考えていいのか? ②損保に関する説 明が多かったが,生保にも一般的にあてはまるものなか?損保において不払 いが多く生じた商品が,算定会料率商品であったことから,料率カルテルの 復活を提案されているが,この辺のロジックをもう少し説明してほしい。
[岩瀬]自由化以前にもあったと思うが,今回のように生損保合わせて約 1,400億円ぐらいの支払い漏れが発生しているのは異常である。②について は,その資料を持参しているので,後ほどお渡ししたいと思う。
[質問](神戸学院大学・岡田豊基)保険金の支払いについて,いわゆる請求 主義をとられているが, ご用聞き のように定期的に保険金支払い事由の 有無につき確認することはできないのか?
[岩瀬]よくわからないが,ホームページなどを見てみると,定期的にモニ タリングするような行政指導がされているようだ。
[質問](元郵政省簡易保険局・大森義夫)保険会社の内部監査はどのように,
たとえば保険金の支払い内容について契約内容から支払い内容まで行われて いるのか?または単なる用紙のチェックのみなのかなど,その検査内容につ いて知りたい。
[岩瀬]保険会社によって違うだろうが,通常監査部とかコンプライアンス 本部とかで行なっていると思う。おそらく用紙のチェックのみが多いのでは ないかと思う。
[質問](福岡大学・佐野誠)商品の複雑化が不払い問題を引き起こすとのご 指摘には全面的に賛成である。ただ,当局における商品認可手続きの中で,
商品の複雑性を理由として不認可とすることができるのだろうか?また,そ のような方法が適当だろうか?
[出口]金融庁にも保険会社にも勤めたことがないのでわからない。審査の プロセスは商品審査基準,保険業法の基準に照らして, これは保険でカバ ーするのにふさわしくないのでは? とか, こんな特約の必要があるの か? とか, 見舞金とか通院の200円,300円のバス代を保険でカバーする のはいかがなものか? とか,普通の人の感覚でものを見る,そういう対応 をしてくれないと,一体なんのための認可なのかということになる。 そこ はある程度シンプルでわかりやすいものにしないと,これは認められないだ ろう というような対応は当然あっておかしくない。提出された商品が複雑 だから,もう少しわかりやすいシンプルなものにせよ,というのはあり得て いい。実務をよく知らないのでその程度しか提案できない。
[質問](青山学院大学・本間昭光)保険料の取り過ぎ,保険金の不払いが膨 大に広がっていることはリスクの評価すらできていないことであり,保険事 業の根本が崩れてしまっているということだろう。各報告は問題を,それを
引き起こした金融・保険改革と経営政策から切り離して論じているようにみ うけられた。改革の過程でのバブル経済と逆ザヤ,保険経営破綻,そこから の回避策が今日の問題につながっていることを,歴史的,構造的にとらえる 視点が求められているのではないだろうか?逆ザヤと経営危機に対して死差 益と費差益を拡大して利差損を埋める方策がとられた。死差損を拡大するた めに保険料の取り過ぎ,保険金不払いが起こり,費差益を拡大するために数 値管理による成果評価がもたらされ,これも不払いなどにつながったという ことではないだろうか?問題が歴史的,構造的にとらえられないと,くりか えし発生するおそれがあると思われるが,いかがだろうか?
[出口]お説の通りだと思う。ただ現在進行形の事態ですので,これを歴史 的,構造的にとらえるにはもう少し推移を見た上で,じっくりやるテーマで はないかと思う。今の時点ではまだ時間的に難しいかもしれない。
[質問](早稲田大学・大谷孝一)今回マスコミ等で取り上げられた件につい ては, 保険金の請求洩れ よりも 保険金の不払い といった,どちらか と言えば,その行為の責任的主体(原因)を保険会社側に負わせる論調が圧 倒的に多いと思う。全体的に見れば,そういった事実が大きな割合を占めて いることは確かにあるとしても,その点が殊更にマスコミによって増幅され ている面もあると思う。例えば医師の下手な手書きによる診断書の読み間違 い(例えば数字の1,7,9など)による入院日数の計算違い等もかなりあ ったと聞いているが,保険会社側に責任を負わせるのは酷と思われるこれら の点についてはほとんど報道されていない。電子診断書等の方策を医師側に うながすことも公平の点から必要ではないか。
[宮地]その通りだと思う。消費者にも問題があるとするマスコミの報道は,
あまり見たことがない。保険会社が悪いというのは書きやすい,言いやすい ということもあるかと思う。保険会社側に問題はいっぱいあるのでやはり報
道すべきものは報道すべきだとは思うが,消費者側の自己責任や努力といっ た側面も,もう少し公平感を持って報道してもらいたい。そのような報道を してもらうためにも,学会で働きかけをしていく必要があるのではと思う。
[司会・藤田]一旦マイクをフロアの方へ回したい。報告者からの回答があ ったが,自分の質問趣旨と違う回答ではないかと思われる場合,あるいは,
意見を述べたいと言う希望があれば挙手で合図してほしい。その際に名前と 所属を明示すること。質疑未了の場合は,残余質問について,大会報告の論 文掲載時に回答することでこれに代えたいので,あらかじめお断りしておく。
[質問](明治学院大学・松島恵)保険金不払いの数があれだけあるというこ とが一番の問題だと思う。他社との競争の中で複雑化した商品が自由化とと もに出てきた。そうすると複雑化したものを会社の中で販売する人,営業部,
あるいは代理店や支社の人も十分理解しなければならない。そういう第一線 にある人がまったく間違わないということであれば,不払いとかいうことに はならないと思うが,どこかで間違いがあるから問題が起こるのだ。間違い をチェックするための企業内部の人的の連携であるとか管理部門を,もう一 度見直す必要がある。実は特約があって,その特約の内容が間違ってはない か,そういうことができるだけ早い段階で矯正できるのではないか?
会社内部で一体どういうところに今回の不払いの原因があるのか,そこに は商品の複雑化ということもあろうが,会社内部のシステムにも問題にあり はしないか,その点について今回の問題が起きた後,会社側は具体的にどの ような対応策を考えて,どのように対処しているのか,というのが私の最前 の質問の趣旨である。
[司会・藤田]このシンポジウム開催にあたって,保険業界からの報告者を 探した。保険金の未払い問題については,保険業界の実務家がいないとこの テーマでのシンポジウム発話は困難である。しかし当然予想されたように,
業界からは 報告者の席に座るのは勘弁してほしい という回答が返ってき た。したがって,保険業の内部システムについて明示的に回答できる報告者 はここに存在しない。
ちなみに,某社に報告者の選任を依頼した際に,報告者の選任の代わりと して内部資料をいただいた。これによると,疾病・入院保険金の不払いの場 合,原因の第1位はモラルリスクへの対応の結果ということだったようだ。
告知義務の問題を保険会社のどこで誰がどのように扱うかというシステム的 な意思決定に問題があったのかもしれない。
明日の共通論題では,契約者の告知義務の問題をどう扱うべきか,あるい は如何にして技術的に解決しなければいけないかという議論が本格的になさ れると思う。保険業界からの報告者がいないという制約の中で,一応表向き のシンポジウムの公式見解としては,保険業は告知義務について顧客に正し く理解させる努力が必要,というまったく当たり前の提案しかできない。
[出口]各保険会社のホームページでは,当社は今こういうことで対応して いるということが事細かに書いてある。 ここまでやってくれるのか,これ なら請求漏れはなくなるだろうな と思うぐらい,生損保ともホームページ に詳細に報告している。各社の広報誌にも現在の改善努力の説明が掲載され ている。参考になると思う。
[質問](慶応大学・堀田一吉)今回の一連の問題を通じて改めて感じるのは,
保険という商品の特性だ。すなわち保険というのはパーフェクトを提供する という原点が重要であるということだ。売れて終わりというのではなくて,
そこからがサービスのスタートであるわけだ。
その意識がいたるところで欠如していたと思う。たとえば契約第一主義だ。
営業職員や代理店に対する報酬は入り口のところを中心に払われる。最後の サービスのところまで十分に目が届いていなかったというようなことが,大 きな形で表に出てきているような気がする。報告者への質問だが,今販売チ
ャネルが多様化している。たとえば銀行でも全面的に保険が売ることができ る。しかし,果たしてサービスの終了のところまで気を配った多様化がなさ れているのだろうか?販売チャネルだけを多様化するのではなくて,販売チ ャネルと商品を1対1に結びつけるような,つまりチャネルに対応するよう な商品開発でなければ,今後も不払い問題はいろんな形で起きてくるだろう。
永久になくならない問題ではないのか?
[司会・藤田]難しいご質問で,あたかも謝罪会見のように報告者はうつむ いているが,誤解を与えることを恐れずにご意見を述べてくだされば幸甚で ある。報告者でどなたかお答えをしてほしい。
[宮地]販売チャネルに対応した商品開発という意識は重要だと思う。銀行 の窓口販売が全面解禁になるし,郵政民営化もあり,販売チャネルの多様化 は避けられない。また,その後のサービスはどうなのかというと,ここにも まだまだ改善すべきことがある。チャネルごとに向き不向きの商品もあるだ ろう。たとえば営業職員がフェイス・トゥー・フェイスで話すのが望ましい 商品もあれば,通信販売でも大丈夫な商品もあると思う。回答不能な実務的 問題もあるが,チャネルごとに商品開発をしていくという考えは重要になっ てくると思う。
[岩瀬]損保の場合は,旅行社で旅行傷害保険を売ったり,不動産会社で賃 貸向けの火災保険を売ったりしている。つまり,損保は割合これまでも販売 チャネルに対応した,ある程度必然性のある商品を売っていた。だから,販 売チャネルの多様化をあらためて意識する緊急の必要はないかもしれない。
[司会・藤田]大学とか保険会社は利用者に先に代金を払ってもらって,あ とから代金に見合ったものを生産し提供しなければならない。ご質問のよう に 売れて終わり というものではない。だから品質保障しなければいけな いという論理が成立する。大学の授業と言う商品自体は,授業を聞いたら品 質がわかるところがあるから,その評価がかなりうるさく言われるようにな っている。その評価が教員には苦痛になるところもないわけではない。保険
会社もそれぞれの会社で一種の評価を顧客から受ける工夫が,単なるアンケ ート以上の工夫が必要な時代もくるかもしれない。前受け金を受け取ること で成立する産業では,問題が発生する以前に利用者から評価を受けると言う ことは大切だろう。もっとも,そうした評価システムが過度に過ぎると,企 業の中での締め付けとか管理主義で息苦しい組織になるから,その微妙な調 整が課題だろう。
[出口]最前,自信を持って 請求漏れの原因は複雑性にある と言ったが,
この討議に加わっているうちに,その自信がなくなった。本当に複雑性にあ るのかどうか,請求漏れの原因は何なのか,もう少し分析が必要かもしれな い。保険商品の複雑性というのはたいていの人が指摘する。確かに一般的に はそうかもしれない。だが,請求漏れというものは,本間先生の指摘ではな いが,保険商品に内在する構造的な問題として多かれ少なかれ避けられない かもしれない。いくら保険会社が丸抱えであっても請求してこなければ,ど うしようもないわけだ。どういう請求漏れが問題なのかということも含めて 今後,業界内で,請求漏れの本当の原因は何なのかというもっと素朴なとこ ろで,保険商品や保険会社の構造的な問題も含めて分析する必要がある。
[堀田]要するに保険というのは売ってから,サービスを開始するというと ころまでが肝心であるという意識が欠落していたことが本質的にあるのでは ないか。もともと複雑な商品であるということは誰もがわかっている。ちゃ んとサービスまで完結できるのであれば,複雑だっていいわけだ。そこまで 及びもしないで,たとえば料率が下がってくる,それを補うために特約でも って補塡というか水準を維持するような戦略をとる。営業本位の会社経営が 進められて契約者がないがしろになってきた。保険とは何かという本質をな いがしろにした,あるいは,軽く見てきた。ここが,不払い問題で最も反省 すべき点ではないかと考えている。
[司会・藤田]ついでに紹介しておくと,明治大学に笠原長寿(元日本保険 学会理事長)という学者がいらした。その当時70年代でもやはりこの問題が起 きた。その時笠原先生が主張されたのは 特約が多過ぎる。保険はもっとシ
ンプルでもいいのではないか ということであった。松島先生などもそのあ たりの笠原先生のご報告や議論をご記憶があるのではないだろうか。過去に も,同じような問題が起きて同じような議論をしていたことを紹介しておく。
[質問](青山学院大学・本間昭光)今の議論の中でなるほどと思ったのだが,
何故複雑になってしまったのか,それから株主の利益だけではない視点も必 要だということも報告の中でされていた。株主視点からは人件費や物件費を 減らすということしか出てこない。それでは消費者の方へ目が向かないんじ ゃないかということだ。
それから算定会制度の再考が必要じゃないかという意見も出た。まったく 同感だ。今現在起こっている,そして問いかけている課題を歴史的,構造的 に見る,見ようとする努力が必要だ。今出たものをつなぎ合わせるだけでも,
いろんなものが見えてくると思う。質問の中でも同じことを書いたが,金融 保険改革,それに対応した経営政策を切り離して今の保険料取り過ぎ,保険 金不払い問題を考えることができるのかどうか。先ほど出された報告者から のいくつかの意見と,これは密接につながっているということだろうと思う。
保険料の取り過ぎと保険金の不払いというのは保険事業の根本の問題だ。保 険事業の根本ができないということはリスクの評価すらできないということ だから,保険制度そのものが崩れかかっている。大変恐いことだ。我々の研 究そのものが危なくなってきているかもしれないという危機感を持つ。バブ ル経済があって逆ザヤが生み出される。そして保険経営の破綻が次々に起こ ってくる。それを回避するために採られたのが自社損をどうやって埋めるの か,逆ザヤをどうやって埋めるのかということであった。埋め方は二つあっ た。ひとつは費差益,危険差益で埋める。もうひとつは人件費,物件費を抑 える。先ほどの報告者の指摘通りだ。それで埋め合わせるという経営政策が 採られ,行政もそれを後押ししたと思う。それでどうなったかと言うと,利 差損を埋めるための費差益,それを拡大するための保険料の取り過ぎと保険 金不払い問題,これが構造的に起こったということではないだろうか?
それからもうひとつ。費差益を拡大して穴埋めをする。そのために数値管 理を徹底した。これも先ほどの報告の中にあったように算定会の料率ですら,
ほとんど自由化されてしまった。そうすると費差益を拡大するための数値目 標管理,そして個人別,代理店別,営業所別の管理評価が給料やボーナスに 反映されるという体制が採られた。その中で不払いなどの要因が拡大した。
実際,記載無効による不払いなどが業界からも指摘されている。そのような 現在進行形の問題を今の時点ではなくて行政,経営政策,それらの歴史的,
構造的に理解する必要があり,かなりの程度理解できると思う。報告者が報 告されたことをつなぎ合わせたら,ずいぶんそのことが浮かび上がってきた ように思う。その点についてぜひお教えを受けたいと思う。
算定会料率についてはどうなのか?私自身は,算定会料率を廃止するとい う時に,これは日本の国民と社会の共有財産を失うものであるという評文を 書いた。その時はあまり注目されなかったが,今の問題を見ていると,やは り損保にしても生保にとっても一番自分達が死守しなければならないとろを,
もしかしたら空け渡してしまったのかもしれない。それを回復する必要があ るのではないか,という気がする。
[司会・藤田]今のご質問はいろいろな問題提起を含んでいるかと思うが,
先ほど同じようなご質問があり,そこで答えした通りである。また,大会報 告論文の方でも論述することになるので,そこでの回答でお許しいただきた いと思う。
[質問](札幌学院大学・早川淑人)保険というのは目に見えない商品だが,
電化製品にしろ他の商品は何か不具合があった場合,もしくはわからない点 があった場合,購入したお店,もしくは購入したスタッフに聞くと思う。と ころが保険の場合は,代理店とか営業職員を中心に販売されていて,大体1 年ぐらいたつとかなりの人がやめていなくなってしまう。保険を購入した時 に説明を受けていたとしても, あれっ,これ何だったっけ? とわからな
くなってしまう。電話をかけて聞こうにも売った人はもういない。 まあい いや,そのうちに聞こう と思っているうちに忘れて,それが請求漏れのひ とつの要因になっているのではないかと思う。
5,6年ぐらい前までだと,たくさんのものを売った代理店にはたくさん の代理店手数料が出されていたと思う。ところが最近はコスト削減のために 代理店や外務員に対する手数料が減ってきている。募集品質であるとかコン プライアンスとか,いろんな引っかかり方式で問題があれば,どんどん減算 していく。そういうことで生活が維持できないとやめていく人が増える,そ れもひとつの原因だろうと思う。
三つ目としては特に損保に多いと思うが,A,B,Cという三つの代理店 を合併させてDという代理店を新しくつくった。この場合,合併した代理店 の社員の仲がうまくいかないことが多いようだ。それで1人,2人と抜けて いった時に残った人は自分の持っている契約が精いっぱいで,辞めた社員の 契約まで手が回らない。そういうことでお客さんとのつながりが希薄になっ てくる。先ほど岩瀬先生が代理店のコストが高コストというお話をされたと 思うが,確かに日本の場合,代理店や外務員さんに対する手数料が他の国に 比べてかなり高いように思う。だが,逆に考えた場合,優良契約の販売者が ずっといた場合,いいお客さんもずっと残ってくれる可能性もある。そのこ とによって保険会社の安定性も考えられるのではないか。そういう意味で販 売者である代理店や外務員さんの厚遇策を打ち出すのも,不払いに対する1 つの方法ではないかと思う。
[岩瀬]その通りだと思う。一番初めに言ったように生損保ともに完全な自 由化はしていないと思う。アメリカではブローカーが実際に保険を売ってい る市場を回るようなイメージがある。日本では算定会制度が廃止されたにも かかわらず,他社が作った商品をすぐに模倣したりするような現実がある。
この状況を制度的になんらかの形でもう一度見直す必要があるだろう。自由 化すればなんでもいいというものではなく,保険の自由化を再度見直すいい
機会かもしれないと思っている。
[質問]岩瀬報告に質問。レジメの5ページに各社それぞれニックネームを つけたことが顧客の混乱を引き起こしているとあるが,これが理解できない。
確かに損保の商品には,かつては,あまりニックネームがあったとは聞いて いない。最近は自動車保険でもいろいろなニックネームをつけている。生命 保険の場合は明治以来養老保険で70年間経過したが,私は昭和30年にたまた まその商品の開発に関わっていた。日本生命が ニッセイ暮らしの保険 と 銘打って定期付き養老を出し,それが爆発的に売れて戦後の生命保険商品を 大きくチェンジした。その中で終身保険など,たとえば三井生命の 大樹 のように,第一生命も住友生命もみなそれぞれニックネームをつけるように なった。製造業では,自動車にニックネームをつけている。家電製品にもつ けている。あらゆる商品がニックネームをつけて売っていると思うが,保険 商品に限ってニックネームをつけることが消費者の混乱をもたらしたと言え るのか,理解に苦しむ。そのことと保険金不払い問題という今日のテーマと がどうつながるのか?
[岩瀬]たとえば10社の保険会社が乗り合っている代理店があったとする。
従前の算定会料率であれば10社とも同じ値段の同じ内容の商品である。それ ぞれが違うニックネームをつけたとしても,売る側の代理店にすると,同じ 値段の同じ内容の商品を売っているわけだ。しかし料率がバラけると,料率 がちょっとずつ違うことになるし,内容もちょっとずつ違う。保険会社は敢 えてどちらが高いか安いかわからないようにしているので,代理店は10社の 商品をすべて理解しなければならない。さらに,10社がそれぞれ異なるニッ クネームを付けることによりさらなる混乱が生じる。その結果,どうしても 消費者に対して商品説明不足になるということだ。
[質問](あいおい損保・鎌田浩)請求漏れの原因ということで出口先生から
説明があったが,業界の一員として本当に申し訳ないと思う。ただし,商品 の複雑化が保険金の不払いを招いたとはいえ,買い手である消費者がまだ保 険金について,商品について熟知していない未熟さも問題のひとつだろう。
保険会社の側も売り手の論理だけではなくて,顧客の論理も知らなければい けないと思う。今回のテーマが10年後には商品の多様化ということで議論さ れるよう期待したい。
[司会・藤田]このご質問への回答に当たる内容は,すでに,宮地報告で示さ れている。こうしたシンポジウムでは,突然いろいろな難しい質問をいただ くので,傾向と対策をまったく怠った学生が予想もしていない試験問題を出 題されたような感がある。報告者の頭のなかは真っ白になっているかもしれ ないので,問題提起や質問を再吟味して,もっと整理された形態で後日に回答 させていただくことにしよう。本来ならばこの段階で司会者は全体をまとめ る報告をしなくてはならないが,予定時間を既に大幅に超えてしまっている。
司会者自身も3名の報告者とは異なる見解を持ってはいるがこの場では割 愛したい。ただし,ひとつだけ指摘しておかねばならないことがあると思う。
マスコミはやりすぎだ,とか,現実はその風評とは違うという意見や,ある いは,保険会社には保険会社の言い分もあるだろう。しかし,前受け金を取 って成り立つと言う意味で,保険業も大学も不祥事を疑われるだけで弱い立 場に立つことになる。保険業や大学の教員は状況によっては抗弁をしても通 用しないというリスクを負う立場に身を置いていることを自覚し慎重に行動 しなくてはいけないだろう。このことを司会者からの提言としてこの場を締 めくくりたい。どうもありがとうございました。
[その他の質問]
◇大東 化大学・山本裕子(質問相手・出口または宮地)保険商品のわか りやすさ,契約者への情報提供に関連して。募集図画の内容が景表法の 不当表示にあたるとして排除命令を受ける事例が散見される。公正取引
委員会が保険会社に対して適切なチェック機能を果たすことができるか,
業界側では公正競争規約の活用の可能性について,先生方のお考えを教 示してほしい。
◇アフラック・芦原一郎(出口) 勧奨もれ については商品性の問題だ けではなく,運用の問題もあると思う。がん保険から始まったアフラッ クでは,医師から病名を告げられていない家族からの請求という,限ら れた機会にできるだけ請求してもらう必要があったため,請求可能なも のについて,勧奨することが当然必須の手続きとして組み込まれている。
名寄せも同様である。それでも請求もれは生じていたが,複雑な商品で あっても名寄せや勧奨を行うような運用によって,懸念されている請求 もれを減らせると思われるが,どうだろうか?