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巨大災害・巨大リスクとリスク管理

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巨大災害・巨大リスクとリスク管理

岡 﨑 康 雄 篠 目 貴 大

■アブストラクト

企業の大規模地震対策においては,目標復旧時間・レベルを指標として,

重要業務の継続に焦点を当てた事業継続計画(BCP)の取り組みが普及し てきた。

本稿では,まず,東日本大震災における被害実態と地震対策効果に関する 企業アンケート結果の分析に基づいて,事前対策の効果の度合いやその重要 度に関する事前,事後の認識の変化を示す。次に,本大地震によってリスク 管理の課題が浮き彫りとなり,さらに想定リスクが見直される中での企業の 取り組みのあるべき姿を説明する。

最後に,企業の事業継続戦略において,多額の投資を要する本質的な対策 とともに,保険,デリバティブなどのリスクファイナンス手法を組み合わせ て対応すること,BCPを企業価値向上のための経営戦略に位置づけ,経営 層の強い意志と積極的な関与によって進めることを提言する。

■キーワード

事業継続計画(BCP),大規模地震対策,サプライチェーン

*平成24年10月21日の日本保険学会大会(日本大学)報告による。

/平成25年1月16日原稿受領。

(2)

1.企業の巨大災害リスク管理の状況

⑴ 災害リスク管理の2つのアプローチ

従来の災害リスク管理は,防災に重点を置き,従業員等の生命と会社財産 の保護を目的としていた。そこでは,人命の安全確保および物的被害の軽減 のために各拠点レベルで,主に安全関連・施設部門において対策がなされて きた。これに対して,企業価値向上を最終目的とする事業継続計画(Busi-

ness Continuity Plan

,以下

BCP

という。)においては,防災の考え方 に加えて,目標復旧時間・復旧レベルを指標として,重要業務(商品・サー ビスの供給)の継続・早期復旧や代替的なサプライチェーンの確保の取り組 みに重点がおかれるようになった。

また,BCPにおいては,原因を問わず結果事象(例えば,本社ビルが使 用不要になった,工場施設周辺の物流が途絶した)を起点として発想するこ とが多い。

政府においても,内閣府をはじめとする省庁および地方自治体がこの

BCP

の普及を推進している。

⑵ 事業継続計画(BCP)

BCP

の主要な構成要素は,①ビジネスインパクト分析(重要業務の選定,

目標復旧時間の設定),②事業継続計画(人,施設,IT,原材料等のリソー スの復旧・代替)および③教育・訓練,継続的改善である。

(3)

⑶ 東日本大震災における被害実態と地震対策効果

NKSJ

リスクマネジメントでは,東日本大震災における被害実態と地震 対策効果について国内企業5,724社にアンケートを送付し,960社(製造業 585社,非製造業375社)から得た有効回答を分析した結果を2012年5月に公 表した 。本結果のポイントを以下に紹介する。

回答企業は,業種別には,卸売業(74社)を筆頭に化学(67社),機械

(60社),金属・非鉄金属(59社),金融・保険(58社)や食品工業(53社)

が多い。また,規模別には,最も多いのが従業員数300人以下(386社),次 いで301〜1000人(293社)であった。

①東日本大震災以前に実施されていた対策

東日本大震災前に実施されていた対策を見ると, 情報等のバックアップ , 初動対応の構築 や 建屋の対策(耐震) の実施率が高い。BCPについ

図1 事業継続計画の概念

(出典)内閣府資料を一部改変

1)

NKSJ

リスクマネジメント株式会社 東日本大震災における被害実態と地 震対策効果に関するアンケート調査結果 (2012年5月)

(4)

ては,製造業の25%,非製造業の32%が作成済みであったと回答した(図 2)。

なお,地震対策の 財務手当 は主に保険と内部留保であった。製造業の 40%,非製造業の29%が地震対策に保険を利用していると回答した。それに 対して,代替的なリスクファイナンス手法である異常災害デリバティブやコ ミットメントラインの確保については,それぞれ1%,3%と低い利用率に とどまっている 。

②東日本大震災以前に実施されていたサプライチェーン対策

2007年の新潟県中越沖地震では,自動車部品メーカーの被災が完成車メー カーの操業停止を引き起こし,サプライチェーンの重要性が認識された。

しかし,サプライチェーン対策は,製造業において 調達先の分散化 が 19%とある程度進展していたものの, 代替生産先の確保 や 業界内での 連携 の実施率はそれぞれ10%,7%にとどまっていた(図3)。

図2 地震対策実施率(製造業,非製造業別)

2) 前掲書,pp.9‑10。

(5)

③東日本大震災における対策の有効性

震災前に実施していた対策の中で,有効であったと考えられる対策を3つ 挙げてもらったところ, 本社に専門部署の設置 , 初動対応の構築 や

建屋の対策(耐震) , 設備の固定化 との回答が多かった(図4)。

BCP

作成については,有効であったとの回答が多い一方で,効果が期待 を下回ったとの回答も主に小規模企業の間で見られた。一概に

BCP

といっ

図3 サプライチェーン対策の実施率(製造業,非製造業別)

図4 地震対策の効果

(6)

ても,対象とする範囲や作成,訓練に費やす労力が企業によって大きく異な ることが,その一因と推測される。

④震災後に重要性の認識が高まった対策

震災後の重要性の認識が高まった対策としては, 初動対応の構築 ,

BCP

作成 や 情報などのバックアップ が多く挙げられた。

BCP

訓練 および 調達先の分散化 等のサプライチェーン対策につい ては,震災前から実施していた企業の間で特に,重要性の認識が高まってい る。これは,十分に実践に耐える水準での対策が講じられていなかった可能 性を示している。

⑤東日本大震災による被害の実態

被害の有無について聞いたところ,960社の中で,自社施設の被害は413社,

ライフライン寸断による被害は336社,サプライチェーン寸断による間接被 図5 震災前よりも重要だと感じるようになった対策

(7)

害は424社に発生していた。

自社施設に被害がないにもかかわらず,サプライチェーン寸断による間接 被害を受けた企業は西日本を含む広範な地域に169社にのぼる。業種別に見 ると, 食品工業 (70%), 輸送機器 (66%), 化学 (61%)および 小 売業 (59%)の間でサプライチェーン寸断による間接被害を受けたとの回 答が多く,反対に 木材・木製品製造 (32%)および 鉄鋼業 (23%)は 比較的少なかった 。

⑥事業中断の原因と中断期間

事業中断の影響の大きさは再開までの期間に依存する。そこで,ボトルネ ックごとの中断期間を地震対策と関連付けて分析した。

まず,ボトルネックとしては,建屋・設備の被災,ライフラインの被災や 材料・部品の不足などが挙げられた。中断期間をみると, 建屋・設備の被 災 が完全停止期間,完全復旧期間ともに最も長くなっている。ここで,地 震発生後,事業活動が全くできなかった期間を 完全停止期間 ,また,地 震発生から発生前と同水準の事業活動を回復するまでの期間を 完全復旧期 間 と定義した(図6)。

事業再開,完全復旧の最大のボトルネックである建屋・設備の被災につい て, 建屋の地震対策 および 設備の固定化 を行っていた企業とそれ以 外の企業を比較すると,完全停止期間,完全復旧期間のいずれも地震対策の 効果が確認できる(図6,津波・原発問題の影響を除く)。

3) 前掲書,pp.17‑18

(8)

⑦地震対策および

BCP

策定の効果

建屋・設備が被災した場合,これらの修復に時間がかかるため,事業中断 期間が長期化する傾向がある。建屋の地震対策と設備の固定化の両方を実施 していた場合と未実施の場合を比較すると,特に完全停止期間で大きな差が 確認できた(図7)。

また,BCP作成済みの企業を未作成の企業と比較した場合,非製造業で は完全停止期間,完全復旧期間のいずれも短くなっていることが確認された が,製造業では明白な差異が現れなかった(図8)。

図6 事業再開のボトルネック(製造業,非製造業別)

図7 建屋・設備の耐震対策による事業中断の低減効果(平均日数)

完全停止期間 完全復旧期間 61.1 79.9 30.1

57.3 建屋・設備対策実施済み

建屋・設備対策未実施

材料・部品の不足 8.3 材料・部品の不足 40.0 ライフラインの被災 10.4 ライフラインの被災 28.1 建屋・設備の被災 37.4 建屋・設備の被災 63.3 完全停止期間(平均日数) 完全復旧期間(平均日数)

(9)

2.企業の事業継続戦略

次に,各機関が実施した企業向けの調査およびリスクコンサルティング会 社としての支援事例などから,企業のリスクマネジメントについて,今後の あるべき姿を考察したい。

⑴ BCP が効果を発揮した事例

①輸送機械機器製造業A社

輸送機械機器製造業A社では,かなり以前から耐震補強を続けてきたこと が,影響の拡大防止に大いに役立っている。また,人材マップを作成し,社 内における工程,機械,インフラなど専門別人材の配置を事前に確認してお いたことで,被害状況に応じた必要な人材を1日後には派遣できたとしてい る。さらに,対策本部立上げのシミュレーション訓練を実施していたことも,

有事対応上,大きな効果があったとしている 。

②電子部品等製造業B社

電子部品製造業B社では,震度5以上でサプライチェーンの確認をするこ とにしており,取引先の理解も得られている。1次,2次まで把握できてい

4) 日本政策投資銀行 東日本大震災における企業の防災及び事業継続に関する 調査 (2011年9月)p.14

47.3 18.4

BCP未作成

58.4 20.9

BCP作成済み

製造業

52.3 25.0

BCP未作成

31.7 20.9

BCP作成済み

非製造業

完全復旧期間 完全停止期間

図8 建屋・設備の耐震対策による事業中断の低減効果(平均日数)

(10)

るが,その先までの把握には限界がある。非常時はサプライヤも制約を受け るので100%頼り切るのは危険であり,自ら在庫を持つことと代替手段を確 保することの重要性を認識し実践している 。

⑵ 事業継続戦略の多様化

震災前の

BCPは,現地復旧のみに視点が置かれていた。しかしながら,

想定外の事象に直面し,事前に定めたとおりにはならなかったとの声が多い。

そこで,複数の事業継続戦略を持つことが重要な意味を持ってくる。具体的 には代替の戦略である。震災後,企業の

BCP

の見直しの中で,自社内の他 拠点で代替が可能かどうか,そのためには事前にどんな準備をしておくのか,

真剣に検討する企業が増加している。業種によっては,異なる地域の同業他 社との協力関係を構築したり,自社と納入先で在庫を半々ずつ持つなど,複 数の戦略をとる動きが顕著になりつつある。震災後の2011年10月に発生した タイの大洪水では中断期間が長期に渡り,広い範囲に影響を及ぼしたことか ら,戦略の多様化に向けた動きが加速している。

⑶ 想定リスクの見直し

東日本大震災は,マグニチュード9と史上4番目の規模であったこと,東 日本の大半のエリアが影響を受けたこと,沿岸に巨大津波が押し寄せたこと,

原子力発電所で発生した放射能汚染,電力,物流,エネルギーなど多数のイ ンフラが影響を受けたことなど,事前の想定をはるかに上回るイベントとな った。そのため企業は,自社の事業活動に与える影響を見直すことを迫られ ている。

政府の中央防災会議では,南海トラフの巨大地震について,マグニチュー ド,震源域,津波震源,連動性などの観点で見直しが行われ,より広域に,

強度を持った結果が生じることが判明した。このような広域的な災害に対応 した

BCP

の見直しを今後進めていくべきである。

5) 前掲書,p.27

(11)

⑷ 建物・設備の耐震対策

前述のように,建物・設備の耐震対策を実施していた企業は,物的被害,

操業中断による影響が相対的に軽微であったとされている。自社施設の被害 が復旧のボトルネックにならないように,建物や設備の耐震診断を実施した うえで,事前に耐震対策を実行しておくことが必要だ。費用対効果を考慮し たうえで,人の安全に関わる施設を最優先に,事業継続上のボトルネックに なりうる施設も含めて対応しておくことが望まれる。

⑸ 従業員・家族の安否確認,帰宅困難対策

地震発生直後から

BCP

発動までの初動対応の中で,安全確保,救援活動,

二次災害防止に続いて行うのが安否確認である。

現在,安否確認の手段には,多数の選択肢がある。従業員との連絡手段は 複数用意し,従業員から企業へ報告があがるように仕組みづくりをしておき たい。また,家族の安否確認も合わせて実施することが重要である。自身と 家族の安全が確保できなければ,自社の復旧活動への参画もままならないと の声も多い。

図9 想定リスクの見直し

(出典)中央防災会議 南海トラフ巨大地震の被害想定について(第一次報告) 2012年8月29日,p.6,9

(12)

⑹ サプライチェーンの頑健化

今回の震災では,自社の被害が少なくても,上流,下流のサプライチェー ンが寸断することにより,間接的な影響が甚大となった。3.11以降,サプ ライチェーンを強化するために,以下のような取り組みが行われている。

最も重要なのは,自社のサプライヤがどこに所在しているか,工場はどこ にあるか,二次サプライヤ以降の構造はどのようになっているかを明確にす ることである。

また,下記②〜⑥の本質的対策については,財務面,事業ポートフォリオ,

プロセス面との関係が深く,事業規模や業種・業態など,自社の実情に応じ て選択している状況である。

①サプライチェーンの見える化

②調達先の分散

③生産拠点の分散

④汎用化・標準化

⑤在庫数量と方法の見直し

⑥相互支援・コミュニケーション

⑺ 教育・訓練

BCP

の実効性をあげるためには,平時の訓練が欠かせない。BCPの訓練 には,事前に課題を設定したワークショップを通じて関係者が課題解決を行 う訓練や,一定のシナリオを設定して,災害発生から

BCP

発動,BCP 行,収束までをシミュレーションするロールプレイングなど,様々な種類が ある。これら訓練の目的は,以下の点に集約される。

① 有事の役割と責任を認識させること

② 有事の手順や機材などの再確認を行うこと

BCP

が想定どおりに機能するかを検討し,必要に応じた対策を実施し,

BCP

を改善すること

(13)

実際に,訓練を繰り返し実施していたために,スムーズな復旧ができたと いう事例もある。

訓練の実施にあたっては,簡単なものから導入し,徐々に想定外のシナリ オを与えるなどして,有事の対応能力を高めておくことが必要である。

3.おわりに

日本は災害国であり,最も備えておくべきリスクは地震である。しかしな がら,グローバリゼーションが進展する中,地震やインフルエンザにとどま らず,より広範なリスクを

BCPの対象に含めることが求められるようにな

ってきた。最近,グローバル展開する企業からは, 諸外国で

BCP

を作る なら,それぞれリスクは何がよいか と聞かれることが多い。まず,BCP のアプローチを用いて,自社の主要な製品・サービスの供給についてサプラ イチェーンのどの部分が脆弱かを見極め,時間軸で影響の程度を把握し,当 該影響を生じさせるようなリスクを特定して取り組みを進めるとよい。

BCP

の取り組みによって得られる事前対策案には全社的な課題が多く,

多額の投資を要する対策はなかなか実行に移しにくい。このような事態を解 決するためには,資金を要するハード面,ソフト面の本質的な各種対策とと もに,保険,デリバティブなどのリスクファイナンス手法を組み合わせるこ とで対応すべきである。

BCP

を企業価値向上のための経営戦略の一環として位置づけ,経営層の 強い意志と積極的な関与によって進めることを提言したい。

(筆者は

NKSJ

リスクマネジメント株式会社勤務)

参照

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