記名 体籍)
学位の種類 学位記番号
学位授与の要件 学位論文題名 論文審査委員
板垣 匡(東京都)
獣医学博士
甲第45号
学位規則第3条第1項該当
中間宿主員における肝蛭幼虫の発育に関する研究
(主査)教授 板 垣 博
(副査)教授杉浦邦紀
教授 菅 野 康 則
論文内容の要旨
牛の肝蛭症はわが国でも最も経済的損失の大きい寄生虫病のユっであり,肝機能の低下による種々の臨床 的障害はもとより,食肉検査所で肝蛭症(肝蛭感染によると思われる胆管炎を含む)により廃棄される肝臓 の重量は1980年度には約2,500トンにも及んでいる。このようにわが国の酪農・・畜産業に多大の影響を及ぼ す肝蛭症の研究は古くから行なわれている。しかしその多く.が終宿主(牛.;緻・山羊,家兎)体内での臨床.
的あるいは病理学的な報告であり.中間宿主体内での報告は少ない。この原因のユつは中間宿主貝の飼育上 の難かしさにあると思われる。
本研究ではヒメモノアラガイを実験室内で飼育する際に最も重要である餌料についてまず検討し,ついで,
日本黒砂蛭と中間宿主貝との寄生虫宿主関係について実験を行なった。第!に肝蛭の地域側め中問宿主貝に 対する感受性を明らかにした。第2に肝蛭感染貝からのマルカリアの遊出パターン.,遊出セルカリア総数と 唇染ミラシジウム数との関係について検討するとともに,貝体内での幼虫の増殖,発育を観察し.総合的に
考察を算えた。1 中間宿主平飼国用餌料の検討
稚員に8種類の餌料(A:煮たレタス,B:人工粉末餌料, C:Standenの改良餌料, D=乳児用離乳食 1,E:同2,F:藍藻, G:硅藻, H:藍藻と泥)を与えて6カ月間飼育し,貝の生存,成長,産卵およ び稚貝の艀化を指標として餌料の良否を比較した。
その結果,貝の寿命髭成長,産卵,稚貝の艀化率はすべて餌料によって影響されることが明らかとなった。
キなわち貝の成長はH餌料を与えた貝で最も良く,B, F餌料がこれに次いだ。しかしA, C, D,, Eの餌.・、・
料では貝の成長は悪かった。H, B, FジA餌料を与えた貝では産卵が認められたが,その他の餌料では産 卵はみられなかった。また産卵数はH,B餌料で最も多かった。 H, B, F, A餌料を給与した貝が産出し た卵の艀化率はH,F,Aでは82〜92%で,ほとんど差はみられなかったが, Bでは65%と低かった。これ はB餌料を与えた貝が産出した卵の胚に奇形のものが多いことによるものと考えられた。以上のことから,
藍藻に泥を加えた餌料がヒメモノアラガイの飼育に最もすぐれていることが明らかとなった。
互 肝蛭の三差と幽間宿主の種差による肝蛭幼虫の発育の差異
好適中間宿主の異なる日本産肝蛭の2株, すなわちヒメモノアラガイを宿主とする神奈川産肝蛭どコシダ
カモノアラガイを宿主とする北海道天北産肝蛭を使って,それぞれの貝との間に交差感染を含む4通りの感
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染実験を行ない,員体内での幼虫の発育状態につい℃比較検討し,次の結果を得た。
L 天北産と神奈川産の肝蛭のヒメモノアラガイおよびコシダカモィアラガイに対すうミラシジウヂの侵 入率には差はなぐ,またスポロシストに対する貝の防御組織反応は,両型の貝とも認められなかった。
2。異常スポロシストの発生率はいずれの員においても神奈lll産肝蛭の方が天北産肝蛭よりも高かった。
これは貝体内でのスポロシストの発育場所に関係すると思われた。
3.天北産肝蛭ではコシダカモノアラガイとヒメモノアラガイとの間でレジア産生数に差はみられなかっ 丁た。しかし神奈川産肝蛭ではコシダヵモノアラガイでのμジア産生数がヒメ.モノアラガイにおけるよりもき
おめて少なかった。
4.天北産肝蛭では両種の員において,感染20日後にセルカリアの形成が認められた。一方神奈駆除肝蛭 はヒメモノアラガイでは感染25日後にセルカリアの形成が認められたものの,,コシダカモノアラガイでは感 染40日後になってもセルカリアの形成は認められなかっ九。
以上のことからヒメモノアラガイは天北産および神奈川産の肝蛭にとって、,好適な中間宿主であると考え られる。一方コシダカモノアラガイ.は天北産肝蛭にだけ好適な中間宿主であり,神奈川産肝蛭には好適では ないことが明らかとなった。不適中間宿主における発育の阻害はレジア以降の発育期においてみちれた。
一陣染ミラシジウム数のセルカリア産生に及ぼす影響
肝蛭感染貝から遊出するセルカリアの遊出パターンと遊出セルカリア総激に対する感染ミラシジウム数の 影響を明らかにするため,工,5.,ユ0匹のミラシジウムによる感染貝をつくり,個々の感染貝から遊出する セルカリア数を貝が死亡するまで毎日,ほぼ同時刻に計数した。また貝体内での幼虫の発育,増殖状態を観 察するため,感染貝を一定間隔で固定し連続切片を作製して観察した。
ユ,感染貝からセルカリアが遊出し始めるまでに要する日数は,ミラシジウム感染数の増加とともに長く なった。これはミラシジウム感染数が増車とともに母レジア数も増加し,母レジアの成熟が遅れるためと考
えられた。2.個々の感染貝から遊出するセルカリア数は,感染ミラシジウム数には関係なく,数日おきに著しい増 減が認められた。これは貝体内で成熟したセルカリア揮,何らかの遊出刺激が加わるまで貝体内に滞留し,
刺激に応じて一度に遊出するためと考えられた。
3.感染員ユ匹当たりの毎日の平均セルカリア遊出数の変動は,セルカリアの遊出開始から80日前後ま.で は感染ミラシジウム数による影響はなく一牢のパターンを示しp遊出開始後30〜40日(約5週)にピークを 示す71峰性の推移を示した。この遊出セルカリア数の増減はレジア体内でのセルカ1 潟Aの増殖と発育に1まぼ
同謁していた。ミラシジウム1匹感染貝には,この1峰性のセルカリア遊出パターンを示した後,長い期間 生存するものがみられ,この場合め遊出は遊出開始後5週の第1峰のほかに,n週,20週にさらに2つのピ
ークをもつ3峰性のパターンを示し,しかも各ピークの値は週とともに増大した。
4.同一感染群全体としてみた場合,いずれの群でも遊出開始後20〜50日,すなわち.ミラシジウム感染後 50〜80日に著しいセルカリアの遊出があることが明らかとなつ.た。これは野外で肝蛭感染を予防する場合,
この遊出ピーク時期の稲ワラ等の汚染に十分配慮する必要があることを示している・。
5.1匹の感染貝が死亡するまでに遊出する総セルカリア数は,遷出開始後約1D週までは感染ミラシジゥ
ム数による影響はあまり認あられなかった。これは感染ミラシジウム数が異なっても感染後の日数が経過す
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るとともに,せル幻リアを産生ずるレジデの数に差がなくなる結果と考えられる。しかしミラジゥム1匹感 染貝で長期間生存したものでは,総遊出セルカリア数は著しく多かった。
6.感染貝はセルカリア遊出開始から,遊出の第1のピークに達するまでに著しく成長した。
論文審査の結果の要旨
肝蛭症は広く世界に分布し,特に牛および緬羊の吸虫症として最も重要なもめのユっである。その産業に 与える被害の大き1 ウ から多くの研究が行われてきた。しかし診断,治療,疫学,病理,免疫などの終宿生を 、∵.へ
中心とずる研究が多いのに反して,・中間宿主および中間宿主体内における肝蛭の発育などの研究は少く,特 にわが国においてはほとんどみられない。
本研究は肝蛭と中間宿主貝の感受性の関係,セルカリア産生に関する生態学的問題を中心1ζとりあげ,肝 蛭症の疫学および予防に資することを目的に実験を行っている。その内容は以下のようである。
ユ.申間宿主貝輪登用餌料の検討 .
従来,中間宿主に関する精細な研究が少い理由のユつは中間宿主貝の飼育が困難なことであった。中間宿 主体内における肝蛭の発育を問題にする場合には.貝を良好な状態で飼育することが前提となる。
本実験では従来,中立宿主貝の飼育に用られてきた餌料など8種について,貝の生存率、,成長,産卵,稚 貝の艀化率などを指標として評価を行った結果,藍藻が特にすぐれ,しかも砂泥を同時に給与ずる必要があ ることが明らかとなった。
2.肝蛭の島々と中間宿主の種差による肝蛭幼虫の発育の差異 ・ 好適中間宿主を異にする日本産肝蛭2株(神奈川産と北海道天北産)と神奈川県産ヒメモノアラガイと天 担産コシダカモノアラガイを用いて4種の組合せの感染実験を行った。その結果,ミラシジウムの侵入率は いずれの場合にも差はなく.,また員の防御組織反応は認められなかった。中間宿主内の異常スポロシストの 発現率は,中間宿主貝とは関係なく肝蛭の株により異なり,神奈川株の方が天北株よりも高かった。
レジア産生率は神奈川株ではコシダカモノアラガイを宿主とした場合に著しく低かった。天北株では中間 宿主の違いによる差はみられなかった。セルカリア産生においてもレジアと同様の結果が得られた。
以上のことから,ヒメモノアラガイは神奈川株と天北株の肝蛭の好適中間宿主であるが,コシダカモノア ラガイは天北株に対してだけ好適宿主であった。非好適宿ヨ…における発育の阻害はレジア以降の発育段階で
著しかった。3. ・感染ミラシジウム数のセルカリ・ア産生に及ぼす影響