言語療法学科における情報処理教育についての考察−第2報−
竹林 美佳1 ,笠井新一郎2 ,稲田 勤3
, ,
要 旨
近年,専門化・分化が進んできた教育・研究の各分野では 国際化 情報化 とともに, 総合化 が重要 視され始めている.情報処理教育現場では,的確な授業方法を模索するために,総合的な教育方法が様々な工 夫のもとで実施され始めている.このような状況の中で,今後,より一層効果的で達成感のある授業内容を組 み立てることを目的として,言語療法学科1年生対象の「情報工学」の授業目標・方法論について考察した.
本年度の「情報工学」の授業目標は以下のとおりである.
①パソコンの基礎的な操作技術に最も重要であると考えるキーボードタイピング技術の習得を奨励する
②他の専門授業と連携をとることで、総合的な情報処理能力を育成する
授業内における学生への学習動機づけが重要であることは明白である.とりわけ言語療法学科サイドで行うパ ソコンの積極的な奨励は,学生にとって大きな外発的動機づけとなる.また,学生本来の知的好奇心に関係す る内発的動機づけも重要であると考え,授業内でタイピング訓練など,さまざまな工夫を行った.さらに,情 報処理技術を他の授業課題に積極的にフィードバックできるような授業間の連動性をもたせたために,より総 合的な情報教育が可能となった.そして,このような動機づけの工夫と総合的な情報教育が,学生の学習過程 においてより効果的であるのではないかと考え,受講学生にアンケート調査を試みた.
集計結果より,総合的な情報教育内容や授業間の連動性は,学生の学習過程で大きな動機づけとなり,学生 の主体性を伸ばし,情報活用能力の養成に有効に働くことが明らかになった.
1)高知リハビリテーション学院非常勤講師
2)高知リハビリテーション学院言語療法学科
1.はじめに
近年,専門化・分化が進んできた教育・研究の各 分野では 国際化 情報化 とともに,取り扱う内 容や研究の方法・表現などの 総合化 が重要視さ れている. 高度情報社会に積極的に対応できる人 材を育成する ことを大きな目標に掲げる情報処理 教育現場においても,的確な授業方法を模索するた めに総合的な教育方法が様々な工夫のもとで実施さ れ始めている.
本学院言語療法学科では,学科創設時から新入生 を対象とした「情報工学」を開講して研究活動に必 要な情報活用能力の総合的な育成を積極的に図って きた.昨年度には授業期間が半期から通年に変更さ れたこともあり,情報教育における様々な試みが実 施可能となった.昨年度の授業を通して明らかに なったことは以下の2点である.①明確な授業目標 や時代に即した内容は学生の積極的な学習の動機づ けになる.②情報処理技術を他の授業課題にフィー ドバックできるような授業間の連動性をもたせるこ とが重要なポイントである.
本稿では,今年度の言語療法学科の新入生を対象 とした総合的な情報教育の教育方法を紹介し,その 方法論と教育効果について考察する.
2.「情報工学」の授業方法論 1)授業形態と授業環境
「情報工学」は言語療法学科1年生を対象とした 通年必修科目であり,授業形態はパソコンを使用す
る一斉授業である.授業環境は教師用パソコンが2 台,学生用パソコンが 台設置され,オペレーティ ングシステムは を使用している.イ ンターネット環境は 接続( )であり,
プロキシサーバソフト を利用して常時 6〜8台がインターネットに接続可能である.
2)授業目標
言語療法学科では,学習および研究活動を行うた めに必要な基礎力の養成を新入生から積極的に行っ ている.基礎力には情報収集力・調査検証・発表表 現などの能力が考えられるが,当初からこのような 能力の養成にパソコンが有効に働くことに着目して きた.
前期はパソコンに慣れ親しみ,基礎的な操作技術 を的確に習得することが授業目標であるが,本年度 はその習得のために最も重要であると考える キー ボードタイピング の習熟に着目した.また後期は,
前期に学習したパソコンの基礎的な知識や技術を実 際に応用・工夫することで,情報処理の総合的なセ ンスを育成することを目標とした.
言語療法学科で考える 研究生活におけるパソコ ンの位置づけ と 将来の専門職におけるパソコン の位置づけ を表1,表2にそれぞれ示す.
3.「情報工学」の授業方法論 1)動機づけの工夫
授業内において学生が積極的に学習する場合の動
:
機づけには, 授業内容が就職・進学・資格取得に役 立つ という外発的動機づけと, 授業内容が学生本 来の知的好奇心を湧き上がらせる という内発的動 機づけが考えられる.外発的動機づけが学生の学習 過程で頻繁に見受けられる場合には,教師側で特に いろいろな強制をしなくても学生が将来の自分の利 益を見据えながら授業に積極的になるため,教師側 にとっても授業運営が非常にやりやすくなるという メリットがある.言語療法学科サイドから パソコ ンの操作技術は研究生活に必要である , パソコン の利用技術は将来の言語聴覚士に必要である など の具体的な理由をあげて積極的なパソコン使用の奨 励を行うことは,学生にとって学習の大きな外発的 動機づけになると予想される.
しかし,高等教育機関の重要な使命の1つは学生 が本来持っているはずの知的好奇心を多いに触発す ることである.そしてこのような知的好奇心には内 発的動機づけが有効に働いていると考える.内発的 動機づけとは,何の報酬も見返りもなくても学生自 身の積極的な学習の動機づけが自然に成り立つこと である.「情報工学」では,上記のような外発的動機 づけとともに内発的動機づけにも注目して,パソコ ン(コンピュータ)本来の楽しさ,便利さも併せて 学習できるように,タイピングや教材,総合的な教
育方法などに工夫を試みた.
2)キーボードタイピングの工夫
パソコンの初心者がキーボードタイピングの正し いやり方をマスターする事はとても重要なことであ る.しかし,どの高等教育機関でも単純なタイピン グ練習に費やす時間を余りとらないのが現状であ る.従って,学生のほとんどは自分のキーボードタ イピング能力を客観視する機会はないと予想され る.
本年度の「情報工学」では,全員が漢字混じりの 文章が入力可能となった時期から, 分間のタイ ピング を授業始めに課した.具体的な内容は以下 のとおりである.①タイピング教材は正式なワープ ロ検定用のものを使用する.② 分間の文章入力 後,自分で文字カウントをとり,毎回個人用記録用 紙に記入する.③ 分間 文字入力を目標とする.
3)教材の工夫
毎回,授業始めにその日の授業課題に基づくテー マやパソコンの操作技術をわかりやすく明記したプ リントを教科書とは別に配布した.授業外の復習時 に独習できるような内容を心掛けた.
表1 研究活動とパソコン
パソコンの活用方法 教育効果・学習成果 思考の文章化・モデル化 論理的思考力の養成
文章の編集・保存・印刷 パソコンの電子文房具化
ホームページの利用 情報検索能力・情報収集能力の養成 電子メール 双方向性コミュニケーション体験 プレゼンテーションへの応用 発表表現能力の支援
アプリケーションソフトの理解 具体的なものづくりの実践 情報科学の理解 情報処理センスの向上
表2 言語聴覚士とパソコン パソコンの活用方法 支 援 内 容
言語聴覚士の仕事支援 カルテ作成・報告書作成・論文作成・データ処理 障害者の支援 コミュニケーション障害者にとって有能な支援装置
4)総合的な情報教育
言語療法学科では,入学時からパソコン技術を積 極的に取り入れた総合的情報教育を実施している.
表1で示すように, パソコンを利用した論理的思 考力の養成 や パソコンの電子文房具化 が可能 であると考えるからである.また,情報処理技術を 言語療法学科の他の授業課題にフィードバックでき るような授業間の連動性が重要であると考え,実行 している.「情報工学」の情報教育過程に連動した 言語療法学科の授業構造を図1に,また,学科サイ ドが積極的に取り入れているパソコンを利用した作 文課題について表3に示す.
4.アンケート調査
言語療法学科の学科方針より「情報工学」の授業目 標は明確である.従って,「情報工学」に対する学習 動機づけは学生間に強く存在すると考えるが,今年 度の学生の状況・反応を把握することを目的として アンケート調査を行った.また,環境の相違による 学生意識を比較するために,高知学園短期大学食物 栄養科1年生を対象として同内容のアンケート調査 を同時期に行った.なお,食物栄養科における授業 内容は言語療法学科とほぼ同じである.
図1 情報教育過程および授業構造
表3 言語療法学科で実施するパソコンを利用した作文課題 対象 パソコンでの作成課題 作成課題の目的 備 考
1年生 作文課題 文章の作法の養成 5月初旬に個人用パソコン 購入奨励
2年生 小論文課題 論理的な文章作成の養成
情報工学内容 授業目標 グループ研究日程(1・2年生) 研究での1年生使用状況
【4月下旬】
4月 Window98基本操作 ●テーマ発表 Word
タイピング 【作文】
前
5月 Word基本操作 期
6月 Excel基本操作 【6月下旬】
●中間発表 Excel
7月 【簡単な統計処理】
9月 【9月下旬】
●最終発表 Excel応用 10月 Word・Excelの復習 【10月下旬】 PowerPoint
PowerPoint基本操作 ●テーマ発表
11月 Word応用(画像処理)
後 Excel応用(グラフ)
【12月下旬】
期 12月 Word・Excel応用 ●中間発表 Excel応用(統計処理)
【1月下旬】
1月 具体的な作品づくり ●最終発表 各ソフト間の連携操作が可能 パソコンそのも
のへの親和性
パソコンの基本 操作の習得
ブラインドタッ チタイピング
複数のソフトの 連携した応用技 術の養成
パソコンを使用 した問題解決能 力の養成
情報科学の本質 的なことの学習
1)調査対象
「情報工学」を受講している高知リハビリテーショ ン学院言語療法学科1年生.
「情報科学Ⅰ」「情報科学Ⅱ」を受講している高知学 園短期大学食物栄養科1年生.
2)調査期間・方法
言語療法学科… 年 月 日の授業内で実施.
食物栄養科…… 年 月 日の授業内で実施.
3)調査内容
アンケート調査内容は付表1のとおりで,概要は 以下のとおりである.
①パソコンの経験・所有状況
②授業内容の位置づけ
③パソコン使用の応用・奨励状況
④キーボードタイピングについて
4)回収率
言 語 療 法 学 科 名.(当 日 受 講 者 全 員 回 収 率
%)
食物栄養科 名 (当日受講者 名中,前・後期筆 者が担当した学生 回収率 %)
5.結果
1)パソコンの経験・所有状況
表4より,パソコン経験には余り差は見られない が,パソコン所有状況に大きな差が見られる.特に 食物栄養科の学生の個人パソコン所有率が %に対 して,言語療法学科は全員が自分用のパソコンを所 有していることが目立つ.
2)授業内容に対する考え方
授業内で学習していることは主に情報処理技術の 習得である.このような技術が現在・及び将来にど のように役立つと思うかという質問をした.言語療 法学科は全員が 学内の研究活動 をあげている.
図3 授業内容が役立つこと
(言語療法学科) =
図4 授業内容が役立つこと
(食物栄養科) =
63%
58%
29%
4%
0% 20% 40% 60% 80% 100%
その他 就職活動 情報化社会の常識 将来の仕事
学内の研究活動 100%
5%
55%
59%
68%
0% 20% 40% 60% 80% 100%
その他 就職活動 情報化社会の常識 将来の仕事
学内の研究活動 23%
表4 パソコンの経験と所有状況
対象学科・人数 パソコン経験 パソコン所有
言語療法学科 名 ある 名( %) 個人所有している 名( %)
男4名・女 名 ない 6名( %)
食物栄養科 名 ある 名( %) 個人所有している 3名( %
(女 名) ない 8名( %) 自宅に所有している 7名( %)
所有していない 名( %)
表5 パソコンの応用と使用の奨励
対象学科・人数 他の授業・課題達成 への応用
所属科によるパソコン 使用の奨励
言語療法学科 名 ある 名( %) ある 名( %)
男4名・女 名) ない 1名(4%) ない 0名(0%)
食物栄養科 名 ある 4名( %) ある 8名( %)
女 名) ない 名( %) ない 名( %)
0 2 4 6 8 10 12
501以上 401〜500 301〜400 201〜300 101〜200 100以下 文字数
人 数
初回 現在
図5 タイピングの文字カウント数の変化(言語療法学科)
14 12 10 8 6 4 2 0
501以上 401〜500 301〜400 201〜300 101〜200 100以下 文字数
人 数
初回 現在
図6 タイピングの文字カウント数の変化(食物栄養科)
表6 タイピングの評価(言語療法学科)
評価 タイピング の技術
授業始めの 実施 とても重要 ( %) ( %)
少し重要 4( %) 5( %)
どちらでもない 0 1(4%)
余り重要でない 0 0
全く重要でない 0 0
表7 タイピングの評価(食物栄養科)
評価 タイピング の技術
授業始めの 実施 とても重要 ( %) ( %)
少し重要 8( %) 6( %)
どちらでもない 1(5%) 1(5%)
余り重要でない 0 0
全く重要でない 0 0
また将来の職業は 言語聴覚士 と決まっている ため,就職活動をあげた学生は %と少ない.
一方,食物栄養科の学生は 将来の仕事 情報化 社会の常識 就職活動 の3項目がほぼ同じくらい の割合となっている. 学内の研究活動 は %と 少ない.
3)パソコン技術の応用・パソコン使用の奨励状況 言語療法学科は,ほぼ全員がパソコンを他の授業 や課題達成に応用し,学科サイドからのパソコン使 用奨励も受けている.一方食物栄養科では,ほとん どの学生が習得した情報処理技術を他へ応用するこ とはなく,また食物栄養科の先生からパソコン使用 を奨励されてはいない.
4)キーボードタイピングについて
図5・図6は半年間のタイピング文字数の変化を あらわしたグラフである. 初回 は5月初旬であ り, 現在 は 月中旬である.
初回と現在の文字数のグラフ比較より,言語療法 学科の学生の際立った成長がわかる.また,言語療 法学科の学生はタイピングに関しても食物栄養科の 学生より評価が高い.
6.考察
1)動機づけの効果
表4・5,図4〜6より,言語療法学科と食物栄 養科の学生の間には様々な点で大きな相違があるこ とが明らかである.大きな理由としては,就学年数 が4年間と2年間研究環境が大幅に異なること,卒 論の有無などがあげられるであろう.しかし,最も 大きな理由は学科サイドの強力な奨励活動の有無に つきると思われる.個人用パソコンの所有やゼミな どにおけるパソコンの積極的な使用は,何よりも学 生にとって大きな学習動機づけとなっているのは明 らかである.
また,今回指導者側で着目したキーボードタイピ ングの練習に関しては,言語療法学科の学生の多く がとても重要なことであると認識している.大半の 学生は学科から課せられる作文課題やゼミの課題を 実際にこなしながらタイピング技術を伸ばしていっ たと予想されるが,毎回の授業始めに 分間のタイ ピングテストを行い,自己のタイピング技術を客観 的にながめるという行為は,ある意味で大きな学習 の動機づけになっていたと思われる.
2)総合的教育内容の効果
図1で明らかなように,言語療法学科ではゼミや グループ研究が情報教育と効率よく連動していると 思われる.総合化には,取り扱う内容の総合化や研 究の方法・表現などの総合化が考えられる.「情報 工学」で学習する情報処理技術は学生に様々な研究 方法や表現方法を提供するであろうと予想される.
そして,他の授業や課題の達成時に起きた情報処理 技術の疑問などを「情報工学」にフィードバックす ることで,情報処理技術はより確実なものになり,
結果的には情報処理技術を駆使した能動的で自主的 な学習が可能になると考える.
引用文献
1)竹林美佳,笠井新一郎,山田弘幸,石川裕治,
長島比奈美,稲田 勤:言語療法学科における 情報処理教育についての一考察.高知リハビリ テーション学院紀要 1 ( ) 2)吉村 庸,竹林美佳,濱田美晴,森原誠二:高
知学園短期大学における情報処理基礎教育 ― 現状分析と将来展望―.高知学園短期大学紀要
( )
3)竹林美佳,吉村 庸:情報処理教育における学 生への動機づけの工夫.高知学園短期大学紀要
9 ( )