問題と目的
現代社会は先行きが見通せない極めて不確定な状況 にある。この社会を生き抜くために必要な資質・能 力・態度の育成が高等教育において重要な課題となっ ている(安永,2018)。一方,高等教育で学ぶ現代の 学生は,葛藤を適切に処理できず身体化や行動化を生 じやすい傾向にあり,主体性が育ちにくく,修学・進 路の課題を抱えやすいことが指摘されている(川上,
2013)。このような状況において,平上・大城・鈴木・
鬼頭(2017)は,看護学生においても,学生生活への 適応を促す初年次教育が重要であることを指摘してい る。彼女らは,看護教育において初年次教育の役割も 期待されている看護基礎教育科目の実践を通して,医 療現場に対応できる看護能力だけでなく,さまざまな 人と連携・協力して人生を健康に豊かに生きてゆける
新設看護専門学校における学びの場づくりを意図した初年次教育
− LTD授業モデルによる集中講義の効果 −
平 上 久美子1)・ 安 永 悟2)
力の基盤づくりが入学直後から必要であることを指摘 している。
この基盤づくりを行うために,協同学習に基づく初 年次教育の実践が,看護基礎教育においても始まって いる(緒方,2013;武政・野田・吉田・方波見・志 村,2016;會田・野田・吉田・方波見・志村,2017;
鮫島,2018)。これまでの実践研究により,協同学習 に基づく初年次教育の成果として,協同の認識が改善 し,ディスカッション = スキルや思考動機が改善し,
コミュニケーション不安が低下することが知られてい る。つまり,協同学習の導入により,これからの医療 現場で求められる資質・能力・態度の基盤づくりに相 応しい学びの場づくりが期待できる。
本研究では,新設の看護専門学校(以下,A校と略 す)の第一期生を対象に,開学1ヶ月半後に二日間の 集中講義として実施したLTD授業モデル(安永,
要 約
本研究では,開学1ヶ月半後の新設看護学校で実施したLTD授業モデルに依拠した二日間の集中講義の 効果を検討する。本授業は初年次教育科目であり,高等教育機関に相応しい学びの場づくりと,学びに対 する姿勢および学び方について指導することが目的であった。対象者は新設校第一期生42名であった。授 業効果は,授業の事前,事後,および遅延(2.5ヶ月後)の3時点で測定した協同認識尺度・ディスカッ ション = スキル尺度・思考動機尺度・コミュニケーション不安尺度の変化を分析し,授業日ごとに記入を 求めた授業記録紙の自由記述を手がかりに考察した。分析の結果,全ての尺度において,授業の事前から 事後にかけて改善が認められ,新設「看護学科」であっても,集中講義による協同学習の導入が初年次の 学びの場づくりに有効であることが明らかになった。また,効果的な授業の実践においては協同学習を活 用できる教員の指導力の必要性が示唆された。
キーワード:協同学習,LTD授業モデル,集中講義,新設看護専門学校,初年次教育
1) 姫路獨協大学看護学部看護学科 2) 久留米大学文学部心理学科
2019)に沿った初年次教育の効果を検討する。本研究 の特記すべき点は、新設の看護学校第一期生を対象と し、開校直後に二日間の集中講義の形式で実施した点 である。A校は新設であったため,受け継ぐべき学校 文化もなく,第一期生である学生たちにはモデルとな る先輩もおらず,新設校における学習習慣の形成や学 びの場づくりが困難な状況であった。また,専任教員 のほとんどが新人教員であり,担当科目の教授法のみ ならず,学生指導にも苦悩する状況にあった。このよ うな状況において,集中講義の形式で協同学習を導入 して,その有効性を検討した研究報告は,これまでに 見当たらない。また,新設の看護師養成機関への協同 学習の導入,それも開設直後における導入が,個々の 学生や学生集団に及ぼす影響について検討した研究は ない。
授業の概要
検討対象とした集中講義の科目名は「LTD学習法」
であった。本科目の主な目的は,学生一人ひとりが協 調性のある主体的で能動的な学習者となり,クラス全 体を共に学べる場にすることで,専門学校における人 間関係を改善し,新しい学習環境への適応を促すこと であった。
集中講義二日間の授業内容を表1に示す。この授業 内容はLTD授業モデル(安永,2019)の基礎段階に そって構成した。また,具体的な授業展開は安永・須 藤(2014)に紹介されている対話中心型授業を基本と した。
本授業は5月第二週の週末の二日間,土曜日と日曜 日に実施した。4月の開学から,学生たちは学校生活 に慣れつつ,緊張が解消しないまでも緩みかかけると ともに疲れも出始める時期であった。二日間連続の集 中講義において,初日に1名が欠席したが,二日目は 全員が参加した。
研究方法 1.研究対象
本集中講義には社会人入学生10名を含む1年次学 生42名(全員女性)が参加した。なお,実施した調査 紙における記入漏れがあった3名と,調査紙の一部を 回収できなかった4名の計7名を分析対象者から除外 した。その結果,分析対象者数は35名であり,彼らの 平均年齢は20.2歳(SD=4.65)であった。
2.調査内容
集中講義の教育効果を測定するために,次にあげる 心理尺度と授業記録紙を用いた。
(1) 協同認識尺度(増井・安永,2016): 本尺度は
「仲間重視」「自己貢献」「個人志向」「互恵懸念」の4 因子22項目5件法で構成されている。協同の捉え方を 測定する。
(2) ディスカッション = スキル尺度(安永・江島・藤 川,1998): 本尺度は「場の進行と対処」「積極的関 与と自己主張」「他者への配慮と理解」「雰囲気づくり」
の4因子25項目5件法で構成されている。ディスカッ ションに必要なスキルを自分自身がどれだけうまく使
表1 集中講義二日間の授業内容と構成
一日目 内容と展開 二日目 内容と展開
1限目
2限目 3限目 4限目
Ⅰ.授業の導入
授業の目的・内容・構成
Ⅱ.学びの場づくり
仲間づくり、学び合いの基本技法
Ⅲ.協同学習の考え方
協同の精神と学習観、基本要素 ジグゾー学習法
Ⅳ.LTD話し合い学習法 LTDの構成と過程プラン、ジグ ゾーで学ぶLTD、分割型LTD
Ⅴ.振り返り 協同学習の効果 一日目の内容確認 授業記録紙
1限目 2限目
3限目
4限目
Ⅵ.導入・授業通信 講義目的と内容、授業通信 グループ再編
Ⅶ.協同学習の考え方の確認 協同の精神と学習観、定義と効果
Ⅷ.LTD授業モデル
LTD授業モデルの特徴と効果、
LTDによる文章作成、看図アプローチ
Ⅸ.成功の秘訣と学び方 成功の秘訣、情報の整理方法 効果的なノートの取り方 ポートフォリオ
Ⅹ.振り返り
講義全体の振り返り、仲間への感謝 授業記録紙
えると思っているかを測定する。
(3) コミュニケーション不安尺度 (近藤・ヤンインリ ン,1996): 本尺度は「小グループ」「集会」「会話」
「スピーチ」の4因子について各6項目,計24項目5 件法で構成されている。因子名として表現されている 各場面で,話すことに対してどれだけ不安を感じるか を測定する。
(4) 思考動機尺度(安永・甲原・藤川,1999): 本尺 度は考えることに対する動機(以下,思考動機と略す)
を測定するものであり,1因子18項目5件法で構成さ れている。
(5) 授業記録紙(安永,2019): 授業の振り返りに使 う「授業記録紙」を準備した。この記録紙にある,授 業に関する「感想・意見・質問」などについての自由 記述欄(19行の罫線あり)の内容を分析対象とした。
3.調査手続き
上記4つの尺度からなる質問紙を作成して,集中講 義の開始時の「事前」と,終了時の「事後」,および集 中講義終了2.5ヶ月後の「遅延」の3時点で調査を実施 した。授業記録紙は,集中講義二日間の,それぞれ一 日の授業が終了した段階で,15分程度の時間をとって 自由記述を求めた。
4.倫理的配慮
本調査は,A校学科長に研究協力の承諾を得た。学 生に対しては調査実施前に,本研究の主旨や参加の自
由意思,守秘義務,個人を特定されないようにデータ の記号化処理などを口頭および文面で説明した。調査 はすべて記名式で行われ,調査用紙への回答をもって 研究参加に同意したものと判断した。
結 果
集中講義の事前,事後,および遅延の3時点で実施 した質問紙調査の結果は,使用した尺度の因子ごとに 集計を行い,事前・事後・遅延の調査時点での平均値 を算出した(表2)。なお,協同認識尺度における合成 得点は分析対象者ごとに4因子の得点を(仲間重視 + 自己貢献−個人志向−互恵懸念)に沿って算出した。
理論的な得点範囲は-8から +8となる。
1.質問紙調査の変化
表2の結果に基づき,時期を要因とする1要因の分 散分析を試みた。その結果を以下に示す。なお表2の 右端に分析結果を略記している。
(1) 協同認識尺度
「自己貢献」(F(2,66)=5.91, p<.01),「個人志向」(F(2,66)=7.34, p<.01)および「合成得点」(F(2,66)=9.38, p<.01)に有意 差が認められ,下位検定の結果,いずれも事前から事 後へ改善がみられ,事後から遅延にかけて事前のレベ ルに低下していた(いずれもp<.05)。一方,「仲間重 視」と「互恵懸念」に有意な変化は認められなかった。
表 2 使用尺度の事前・事後・遅延における、受講生 35 名の平均値と変化
尺度名 因子名 事前 事後 遅延 F検定1 下位分析2
協同認識尺度 仲間重視
自己貢献 個人志向 互恵懸念 合成得点3
4.43 3.66 3.41 1.90 2.76
4.57 4.02 2.90 1.88 3.91
4.41 3.80 3.38 1.90 2.92
ns
**
**
ns
**
1<2, 1≒3, 2>3 1>2, 1≒3, 2<3 1<2, 1≒3, 2>3 ディスカッション =
スキル尺度 場の進行と対処
積極的関与と自己主張 他者への配慮と理解 雰囲気づくり
2.76 3.13 3.85 3.00
3.34 3.75 4.24 3.63
3.05 3.34 3.95 3.31
**
**
**
**
1<2, 1<3, 2>3 1<2, 1≒3, 2>3 1<2, 1≒3, 2>3 1<2, 1<3, 2>3 コミュニケーション不安尺度 小グループ
スピーチ 集会 会話 不安全体
3.12 2.33 2.69 3.10 2.80
3.48 2.84 3.11 3.20 3.16
3.04 2.53 2.74 3.00 2.83
**
**
**
ns
**
1<2, 1≒3, 2>3 1<2, 1≒3, 2>3 1<2, 1≒3, 2>3 1<2, 1≒3, 2>3 思考動機尺度 2.86 3.07 2.78 * 1<2, 1≒3, 2>3
(注意)1:* p< .05、** p<.01 2:1= 事前、2= 事後、3= 遅延 3:合成得点は「仲間重視+自己貢献-個人志向-互恵懸念」で算出
(2) ディスカッション = スキル
本尺度の4因子すべてにおいて有意な変化が認めら れた。
「場の進行と対処」(F(2,66)=10.89, p<.01)と「雰囲気 づくり」(F(2,66)=13.93, p<.01)は,下位検定の結果,事 前から事後へ向けて有意に向上し,事後から遅延にか けて低下したものの,遅延においても事前よりも高い 値を示していた(いずれもp<.05)。「積極的関与と自 己主張」(F(2,66)=10.11, p<.01)と「他者への配慮と理
解」(F(2,66)=7.51, p<.01)は事前から事後へ高まったが,
事後から遅延にかけて低下し(いずれもp<.05),事前 と遅延との間に有意な際は認められなかった。
(3) コミュニケーション不安
「会話」を除く「小グループ」(F(2,66)=8.02, p<.01),
「スピーチ」(F(2,66)=7.44, p<.01),「集会」(F(2,66)=5.45, p<.01)および「全体」(F(2,66)=7.71, p<.01)において有 意な変化が認められ,すべてにおいて事前から事後に かけてコミュニケーション不安が改善し,事後から遅 延にかけて,事前とほぼ同じ水準まで低下した(いず れもp<.05)。
(4) 思考動機
思 考 動 機 も 有 意 な 変 化 が 認 め ら れ(F(2,66)=4.92, p<.05),事前から事後にかけて向上し,事後から遅延 にかけて,事前と同じ程度まで低下した(いずれも p<.05)。
2.協同認識尺度を用いたクラスター分析
先行研究により,協同の認識が高いほど,良好な人 間関係と高い成績を示すことが知られている。そこ で,協同の認識に特化して,その変化のパターンを同 定し,授業効果を検討するために,クラスター分析
(Ward法)を試みた。その際,表2に示した協同認識 尺度の合成得点を用いた。
分析の結果,図1に示す3つのクラスターを特定で きた。3つのクラスターは事前の初期値で高・中・低 に明確に分かれており,いずれのクラスターも事前か ら事後へむけて合成得点をほぼ同じ程度伸ばしてい た。しかし,遅延において各クラスターは異なる変化 を示していた。そこで,3つのクラスターをそれぞれ,
事前・事後・遅延を通して高い認識を示し,遅延にお いても事前とほぼ同じ水準を維持している「高・維持 群」,事前において中程度の認識を示し,遅延において 事前よりお低下している「中・低下群」,事前では低い 値を示しているが,事後から遅延にかけても認識を緩 やかにではあるが上昇した「低・上昇群」と命名した。
この3群における,質問紙調査の結果を比較した が,二日間の集中講義では3群とも上昇しているが,
遅延に向けては,事前の段階で協同認識の合成得点が 低かった低・上昇群のみが伸びている。つまり,集中 講義は授業前の協同認識の程度に関わらず全ての学生 に効果があるが,その後への影響は未知数であり,事 前の協同認識の高低によって,その後の変化を十分に は予測できないといえる。
3.授業に対する学生の意見・感想
授業日ごとに,授業終了時に,授業記録紙に意見・
感想を自由記述として求めた。以下に主な内容を抜粋 する。
①協同に関して: 「1日目はめんどくさくてだるい
…2日目は話を聞くのが苦痛じゃなくなって何か楽し かった。講義を受けるまではグループ活動で自分の負 担が増えるならしないほうがいいと思っていたけど,
今は負担があっても友だちや誰かのためになるなら,
進んでやりたい」,「仲間をたくさん作ってお互いのメ リットになることを勉強していってみんなで成功する というのが新しい勉強法なのかな」,「まとめたり考え たりすることをよくほめてもらえて自分に自信がつい たとともに,それなら仲間に役立てるという発見もで きました」など。
②協同学習仲間の認識: 「朝来た時に…『また一緒だ ね』『今日もできるね』って言い合えたので,昨日の仲 良くなった絆的なものは,うそではなかったんだな
…」,「LTDの大切さを知る事ができ,これからの学習 にいかして,看護師になる目標に向かってこのクラス の仲間と頑張っていきたい」など。
③自らやクラスの変容を認識: 「…自らが変われた なと思う授業…」,「1人で勉強しているときより集中 できて深く考えられたり,自分では思いつかなかった
事前 事後 遅延
6
4
2
0
高・維持群 中・低下群 低・上昇群
4.66
5.90
4.57
2.26 1.73 3.96
0.39 2.84
2.84 1.461.46 合成得点
図1 協同認識(合成得点)によるクラスター分析の結果
ところまで考えれて… “皆は1人のために,1人は皆 のために”の考えを持って,周りの人と教え合って協 力し合って一緒に学力向上していきたい」,「…クラス の雰囲気も良くなっていってると実感」など。
④これまでの学習体験との違いの認識: 「とても新 鮮だった」「18年間で初めて知ることも多くありまし た」「1人で勉強して1人で結果を出して満足する人 間だったので,グループの人に教えて,グループの人 と一緒に成果を出すという事がとても不思議でした」
「後からこういうふうにつながるんだ,と思うことが たくさんあって,今までの自分の『勉強』という概念 を変えてくれたものだった…LTDで自分の想像力や 発想力も広がるし…今までにない勉強のやり方がある ことを理解できました」など。
⑤緊張や不安: 「傾聴されることがいかに緊迫する ことなのかを感じました」,「少し緊張したけど,相手 に聞いてもらいうなづいてもらったり,コメントして もらえた時は,真剣に聞いてもらえるってことはこん なに良いことで,少しうれしかった」,「グループワー クというものが苦手で…学校に来るのが本当に嫌でし た。でも最初の挨拶から始まって,たあいもない話を いっぱいして…仲良く過ごす事ができました。喋れな いでいると皆が助けてくれたり,わからないことを共 有することでとても仲良くなれ…緊張がいつの間にか 笑顔に変わっていました」,「自分はあまりこのクラス に馴染めていないと感じていた…グループで話し合う ことで,周囲が他人事ではなく自分のことをわかろう としてくれていると感じました。…認めてもらえてい る安心感もあって楽しかった」など。
⑥学校や教員への願い: 「LTD学習法を活用するこ とはきっと先生が変わらないとできないと思うので
『先生』と名乗っている方に言ってほしい」,「入学して すぐにこの授業があった方が良いと思います。クラス の雰囲気がすぐにつくられているから」など。
考 察
1.二日間の集中講義の有効性について
本研究の実践結果から, 新設「看護学科」であって も,これまで報告のなかった集中講義による協同学習 の導入が有効であることが明らかになった。学生は高 等教育までに協同学習を学ぶ機会が少ないことが指摘 されているが(安永ら,1998;石橋,2010),自由記 述から判断して,二日間の集中講義という短期間で も,学生はこれまでの学習体験との違いを認識し,新
鮮な学習意欲が強く引き出された(足立・上田・伊 藤・山口・夏目・仙石,2010)と考えられる。
次に,この教育成果を本研究で取り上げた各尺度の 結果から考察する。
(1) 協同認識について
協同認識尺度の「自己貢献」因子の向上と「個人志 向」因子の低下は,それまでの競争的な認識から,こ れからの時代を生き抜くために求められる協同的な認 識への変容と考えられる。自由記述の内容も踏まえる と,学生の学習姿勢は集中講義の二日間で急激に変化 し,その変化過程を学生自身が明確に認識できている ことが確かめられた。メンバーとの関係を「…仲良く なった絆的な…」と表現し,単なるグループを超えた,
ともに学び合う関係に強い手応え感じており,富岡
(2011)の報告通り,学生が協同の精神や原理を理解 しつつ学習したことで,仲間と真剣に学び合うことの 良さを認める協同に対する肯定的な認識に変化したと いえる。「…看護師になる目標に向かってこのクラス の仲間と頑張っていきたい」など,クラスメイトを3 年間の目標を共有する仲間と意味づけ,協同的な学習 者としての構えができることが示唆された。
現 代 学 生 は 仲 間 重 視 や 互 恵 懸 念 が 高 い( 甲 原,
2018)一方で,看護大学1年次生は相互交流・関係構 築が不十分で,協同効用が低く,互恵懸念が高い(米 田・川端・伊丹・清水,2014)などの報告がある。こ れら先行研究の知見と本研究結果とを併せると,学生 の傾向を一様にとらえず,授業で指導する学生集団の 特性や傾向のみならず,学生一人ひとりの資質・能力 を常に考慮しながら,協同学習に依拠した授業を展開 する必要性が示されているといえる。
(2) ディスカッション = スキルについて
本研究で得られた学生の「…自らが変われたなと思 う授業」などの記述からも,学生自身がディスカッ ション = スキルの向上を実感し,自己効力感が向上し たことが推測される。富岡(2011)にも同様の指摘が ある。専門学校における看護基礎教育では,より実践 的な専門性の習得や,問題解決力,応用力などを求め られており(文部科学省,2009),本講義は看護実践 に不可欠な,他者と課題討議,つまりディスカッショ ンができる力の育成としても有効と言える。このよう な成果をもたらした要因として,本研究の集中講義で 活用したLTD授業モデルという明確な教授・学習の 枠組みや,授業を担当したベテラン教員の高い教授ス キルが考えられる。そのため,指導にあたる教員の資 質能力が教育成果におよぼす効果については今後検討
すべき課題と考える。
(3) コミュニケーション不安について
コミュニケーション不安は全体的に低下していた。
看護を含む現代の高等教育1年次生の傾向として,学 校組織への愛着も学生間の相互作用も少ないことが指 摘されている(米田ら,2014)。また,表面的な関わ りでは問題ないが,お互いに踏み込む状況に恐怖(岡 田,2002)や,過剰な不安(向,2013)を抱く現代学 生が多いという知見が報告されている。「傾聴される ことがいかに緊迫することなのか…」という記述か ら,他者に真剣に話を聴いてもらう体験がこれまでの 人生に少ないことが推測される。今回の集中講義は
「学生がそもそも抱いている他者との関わりに関する 不安を取り除く情緒的支援(中山・中西・長濱・中 島,2015)」としての機能を果たしていたと推測され る。「グループワークというものが苦手…でも……緊 張がいつの間にか笑顔に」などの記述があり,不安や 緊張が,授業を通して他者と理解し合い意見を述べ合 い,ともに発展したいと思うまで変化したことが示唆 されており,協同学習の機会は学生の希望を呼び覚ま す契機になるともいえる。平上ら(2017)が,退学な どの深刻な「しんどさ」でさえ教員や友だちに意図的 に隠す学生の傾向を明らかにしたうえで,そのような 学生にとっても協同学習が有効であることを指摘して いることにも通ずる。
(4) 思考動機について
思考動機の上昇は,二日間を通しての学習態度の変 化や,課題に対する学習内容などからも明らかとなっ た。授業中に繰り返されたグループワークをゲーム感 覚で取り組むうちに,課題に巻き込まれ,取り組みを 楽しく感じたり,初めて体験する刺激や新鮮さなど,
学ぶことのおもしろさを体験し,考えることを動機づ けられたことが推測される。学生の記述には「『勉強』
という概念を変えてくれたもの…」などがあった。こ の状況は平上・鈴木・鬼頭・伊礼の報告(2014)とも 一致する。教員が根拠を考える問いかけを行い,考え 答える時間を設定する従来の教授法は,思考動機を高 めるとはいえないと指摘されている(谷川・相馬,
2018)。この教授法は看護教育において常態化してい るが,今回の実践結果からも再考されるべき課題とい える。
2.集中講義の効果の持続について
集中講義の効果の持続性について,協同認識に関す るクラスター分析結果から考察する。
図1に示した協同認識のクラスター分析から,事前 調査における協同認識の高低にかかわらず,二日間の 集中講義により協同認識が改善されている。しかし,
事後調査から遅延調査にかけて,特徴的な差異が認め られる。つまり,当初から協同認識の高い学生は事後 調査で示した水準を維持できず,事前調査時と同じ水 準まで低下していた(高・維持群)。一方,事前調査で は協同認識の低い学生は事後調査において協同認識を 改善していたのみならず,遅延調査においてさらに改 善する傾向が認められた(低・上昇群)。また,事前調 査で中程度の協同認識を示した学生は,事後調査では 協同認識を改善したが,遅延調査においては,事前調 査よりも低い水準を示していた(中・低下群)。
このクラスター分析の結果から,なぜこのような遅 延効果が得られたのか,本研究知見からだけでは説明 がつかない。今後より詳細な検討が必要となる。だだ し,少なくとも授業前の協同認識の高低に関わらず,
協同学習を基盤としたLTD授業モデルによる授業を展 開することにより,協同認識を改善することはできる。
一方,事前調査における協同認識の高低によって遅延 効果を一概に予測できない,といえる。担当教員はこ の点を意識した指導を心がける必要があるといえる。
4.全体の考察と今後の課題
本研究で用いた心理尺度の分析結果と学生の記述か ら,学生の変容は顕著であり,二日間の集中講義が有 効であったことは明らかとなった。授業の終盤になる につれて,学生たちは夢や希望を言葉にできるほどに なっており,そのためには,安心できる場の雰囲気や,
個人やグループが細やかにケアされている実感,学習 成果のでる教授法などが不可欠であったと推測され る。これらが含まれる協同学習は,学生を自律した学 習者に変容させる支援ツールといえる。また,学生は 深く狭い付き合いに変化してゆくこと(落合・佐藤,
1996)や,友人と本音で付き合うことを理想としてい ること(松永・岩本,2008)からも,現代学生にマッ チした学習法であるといえる。
今後のもっとも大きな課題は,集中講義の成果を継 続して伸ばすことができる指導力を備えた教員の育成 といえる。これは学生が最も求めていることであり,学 校や教員の変化など,学生だけではできない学びの場 づくりを期待する思いが学生の記述にも書かれていた。
本研究の対象は,A校の1学年のみであり,二日間 の集中講義に限定した,挑戦的取り組みであり,今後 の継続研究が必要である。
謝 辞
本研究に快くご協力いただいたA校看護学科のみな さまに,こころより感謝いたします。
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「大学生活1年を経験した看護学生の協同作業認識
First-Year Experience Program at a Newly Founded Nursing School:
Effect of Learning through Discussion (LTD) Method
KumiKo HiraKami (Department of Nursing, Faculty of Nursing, Himeji Dokkyo University) Satoru YaSunaga (Department of Psychology, Faculty of Literature, Kurume University)
Abstract
The purpose of this study is to examine the effects of intensive LTD method for two-day session at a newly established nursing school. This first-year experience is a program designed to help students prepare for the transition from high school to college. The target group of this research is forty-two freshers. Measures of effectiveness have been evaluated three times: before, after, and 2.5 months later of the class. The survey rating scales are Cooperative Perception Scale, Discussion Skill Scale, Thinking Motivation Scale, and Communication Anxiety Scale. As a reference, students’ reflection sheets are clue to our analysis. As a result, all the measures of effectiveness are significant. Therefore, even at a newly founded nursing school, cooperative learning is an effective educational approach which aims to organize classroom activi- ties into academic experiences. Further studies are needed in order to enhance teacher professional development.
Keywords: cooperative learning, LTD class model, intensive lectures, newly established nursing school, first year experience