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公私混合部門をめぐる動向を中心に

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公私混合部門をめぐる動向を中心に

その他のタイトル Preparatory sketch for a Study on the Modern Corporate System in Japan

著者 橋本 理

雑誌名 関西大学社会学部紀要

巻 35

号 3

ページ 1‑26

発行年 2004‑03‑30

URL http://hdl.handle.net/10112/3105

(2)

関西大学「社会学部紀要』第35巻第3号, 2004, pp.1‑26

ISSNO287‑6817

企業システム研究のための緒論

一公共部門および公私混合部門をめく、る動向を中心に−

橋本

PreparatolysketchfOraStudyontheModernCorporate SysteminJapan

SatoruHASHIMOTO

Abstract

AspreparationfOrastudyonthemoderncorporatesystem,thisnotefOcusesonthepubhcsectorandthe

mixedsectorwhichhaveasignmcantinnuenceontoday'ssocietyandexplainshowtheyworkmreah跡 First, itexanUnesthesupplyofgoodsandservicesmthepubUcsectorandthenUxedsector.Second, it mquiresmtoprivatization,deregulation,adnUnistrativerefOrmandfiscalrefOrmmJapan.Fmanyithispaper pomtsoutanewdirectionfOrastudyofthemoderncorporaiesystem.

Keywords:CorporateSystem,PublicSector,Privatization,Deregulation,AdministrativeReform,Fiscal

RefOrm,NonprohtOIganization,CorporateGovernance,BusmessEthics

抄 録

企業システム研究の準備作業として、現代社会で重要な位置を占める公共部門、公私混合部門に焦点を あてて、現実の動きを整理する。第一に、公共部門、公私混合部門における財.サービスの供給の実態を 整理する。第二に、民営化や規制緩和、行財政改革について、 日本での進捗状況を概観する。最後に、企 業システム研究の新たな展望を考察する。

キーワード:企業システム、公共部門、民営化、規制緩和、行政改革、財政改革、NPO、コーポレート ・

ガバナンス、企業倫理

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第1節序にかえて一問題意識と議論の限定

1.1 問題意識

これまで産業社会を支えてきたシステムが立ちゆかなくなり、新たな社会システムをデ ザインする必要に迫られている−これが本研究をつらぬく問題意識である! )。従来型のシ ステムの機能不全の具体例としては、環境問題(大量生産、大量消費、大量廃棄の矛盾の 噴出)、人口をめ<"る問題(先進国における少子高齢化の進行、未解決なまま放置される 途上国における貧困や飢饅)2)、通貨をめく る危機(金融市場の自由化・グローバル化、

IT化の進展に伴うマネーの暴走)3'など、人類の存亡存続に関わるものがあげられる。

これら問題の根幹は、現代社会を牽引する経済そのものが大きな矛盾を内包しているこ とにある。人類が「豊かさ」の実現のために経済成長を追い求める営為は、そのもくろみ とは裏腹に、人類の存亡存続を脅かす諸問題を惹起しているのである。

戦後の日本社会もまた、同様の問題を内包しながら経済成長を実現してきた。否、 とり わけ現代日本は、資本主義のトップランナーである米国とともに、経済成長に逼進してき た代表格であるといっても過言ではない。国民の豊かさの実現には経済成長が欠かせない という考えのもと、社会全体が経済成長の実現を目指してきたのが、戦後の日本社会の姿 であろう。その結果、 日本では、経済の担い手である企業の成長が重視され、企業中心社 会ができあがった。 「法人資本主義」といわれるように、個人よりも会社企業に代表され る法人が、社会の中心に位置するようになったのである。政府は企業の成長を支えること に大きな力を注いできたし、社会全体の風潮もまた、経済的な価値観に支配される傾向が

強くなったのである ' )。

経済成長の負の側面の代表例としては、公害問題があげられる。高度成長期の日本は驚 異的な経済成長を実現したが、その成功は、悲惨な公害の発生と裏腹の関係にあることは 否定できない。経済成長の裏側には、多くの人命や自然環境の破壊という犠牲が払われて きたのである。そして21世紀を迎えたいまも、公害問題への対応はすすんできてはいるも のの、土壌汚染や大気汚染などの未解決の問題が山積したままなのである。

また、人々の意識においても、経済最優先の社会システムに対する疑問が噴出するよう になった。高度経済成長を調歌した後、石油危機を乗り越え「日本的経営」全盛、 「ジャ パン・アズ・ナンバーワン」と賞賛される時代を迎えたころから、その成功とは相反して 経済的な価値観一辺倒の風潮に疑問が提示されるようになり、 「豊かさとは何か」という 問題が繰り返し問われるようになったのである51。さらには、バブル崩壊とその後の長期

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企業システム研究のための緒論一公共部門および公私混合部門をめぐる動向を中心に−(橋本)

にわたる経済の低迷は、従来型の社会システムに対する疑問をより大きなものとしている。

また、経済の主要な担い手である企業組織で頻発する不祥事、社会を支える行財政機構で 露呈する様々な不正は、 日本社会におけるモラルの崩壊を印象づけた。このような諸矛盾 が噴出するなか、企業組織のあり方を根本から問い直す作業一企業システム研究一が、重 要な意味を持つようになったのである。

1.2議論の限定

企業システム研究においては、①企業制度一制度として企業を捉える視点一、②市場競 争と企業組織一企業が織りなす諸活動を、個々の企業に固有の問題として捉えるのではな く、相互の関連から把握する視点一、③企業と社会、企業と公共性一企業と社会の関わり を考察するという観点一、がとりわけ重要なものとなろう。別の用語を使用すれば、 「株 式会社制度」 「民営化」 「企業間関係」 「コーポレート ・ガバナンス」などが企業システム

研究のキーワードとなるであろう6)0

以上の点を踏まえて、本稿ではひとまず、企業システム研究の準備作業として、現代日 本で重要な位置を占める公共部門、公私混合部門に焦点をあてて、現実の動きを整理する ことに議論を限定する7)。具体的には、第一に、公共部門、公私混合部門における財・サ ービスの供給の実態を整理する。第二に、 20世紀末以降の世界的な潮流ともいえる民営化 や規制緩和について、その日本での進捗状況を概観する。またここでは、可能な限り、行 財政領域で進められている改革の実態についても触れることにする。そして最後に、企業

システム研究の新たな展望を考察することにしたい○

第2節公共部門、公私混合部門と企業組織

2.1 公共部門の経済的機能

現代社会では、公共部門が果たす役割は非常に大きく、企業の諸活動を分析するうえで も、その動きをみることが欠かせない。今日の資本主義社会の経済は、混合経済と呼ばれ るように、民間部門のみならず、政府などの公共部門もまた、多くの経済的機能を果たし

ている。では、公共部門の役割とは一体どのようなものであろうか。公共部門の活動は非

常に多岐にわたるが、その概要全般は、財政の役割の一般的な説明としてあげられる、資 源の最適配分(公共財の供給)、所得の再配分(所得格差の是正)、経済の安定的成長(景 気調整)の三つから説明されよう:)。これら三つの中身とそれぞれの関係を明確にするこ

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とは難しいが、これらが公共部門の最も重要な機能であることは間違いない。

歴史的にみれば、資本主義の発展とともに、公共部門の活動は増大の一途をたどってき た。自由市場経済がもたらした大不況、貧困問題、都市問題などに対応するために、公共 部門が経済活動に様々なかたちで関わることになり、現代資本主義社会では公共部門の占 める位置が大きくなったのである(「大きな政府」の実現)。だが、 ,971年のニクソン・シ ョック、 ,973年の石油危機を契機とした世界不況下では、不況とインフレが同時進行する スタグフレーションが起こり、従来型の政府による景気調整がうまく機能しなくなり、不 況のなかで膨大な財政赤字が生まれるようになった。そのような状況下、 「大きな政府」

に対する不信感が広がり、できるだけ市場原理に任せて「小さな政府」を目指すという新 自由主義的改革が取り組まれるようになったのである。21世紀を迎えた時点では、その改 革の取り組みが試行錯誤を繰り返すなかで、依然、市場原理の重要性を説く議論が活発に なされているが、他方、経済活動に占める公共部門の比重が大きいという現実はさほど変 化していない。だがいずれにせよ、これからの公共部門のあり方をどう描くかは、今日の 最重要課題のひとつとなっているのである9)O

ところで、企業組織と公共部門の関係をみる際には、公共部門による財の供給活動に注 目することが重要である。なぜなら、財の供給活動は企業組織の基本的な機能でもあり、

公私の役割分担を考えるうえで、そのあり方を分析することが欠かせないからである。で はなぜ、民間部門のみならず、公共部門もまた、財の供給に携わることになるのだろうか。

公共経済学の観点によると、公共部門による財の供給が行われる理由は、供給される財の 性質から説明きれる。図 にみるような公共財やそれに類する財などを供給する場合には、

民間部門よりも公共部門の方が適しているとされるのである。だが、これらの財の特徴づ けには不明確な部分も多く、現実には公共部門が私的財を供給することもあれば、民間部 門が公共財を供給する場合もある。その理由は、現実には、公共部門の活動が、経済的な 理由だけでなく、政治的な理由や社会的な理由のためにもなされることに関わっている。

したがって、どのような領域において公共部門の活動が必要とされるのかについては、そ れぞれの領域の個々の現実をみていくことが欠かせない。

2.2企業組織と政府の関係

公共部門は、一般の行政活動などを行う政府と、独立の運営主体として主に財の供給に 携わる公企業に大別できる。ここでは政府の政策が民間企業にどのような影響を与えてい るかをみておくことにし、公企業については次項以降で取り上げることにする。

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企業システム研究のための緒論一公共部門および公私混合部門をめぐる動向を中心に−(橋本)

図1 財・サービスの分類

消 費

・職合霊蜑住豊ーアー言毒夛漁筌灘料金

専修学校 、高等教宣タジ學雲。 、サービス 図書館義水道

●医療

●ゴミ処理 ●国立公園

●初等教育

パレード見物 ●駐車場

私的財 排除可能

排除性

セントラルパーク

消防 道路● ●

警察●

●川,湖

マラ患。

●地下水 排除不可能

●海の魚

●海底の鉱物

コモンズ ●大気

予防苧公害対策

公共放送●強制徴収財 国防 (租税など)

(注)原典は、B.S.Savas,P"""z加g"eP"MC舵αoJIChatham,1982,p.34

(出所)宮本憲一『公共政策のすすめ一現代的公共性とは何か』有斐閣、 1998年、 93頁

今日の日本の経済的な豊かさをもたらしたともいえる高度成長期をはじめとして、政府 は経済成長を実現するために様々な手を尽くしてきた。政策の中身は多岐にわたるが、産 業発展のための政策、有効需要創出のための公共事業投資は、その代表例である。例えば、

産業発展に関する政策としては、幼稚産業の保護・育成や産業構造の転換・高度化などの

ために、特定産業の保護・育成策として、資源の集中的な投入、補助金、税制優遇、政策 金融などの手法が活用された。第二次大戦後間もない日本で、傾斜生産方式によって基幹 産業(最初は石炭や鉄鋼)の復興が図られたのは、その典型的な例である。

また、産業基盤整備を重視した公共事業が推進されてきたことも特徴的である。すなわ ち、工場用地、工業用水の整備、道路や港湾などの建設を中心とした公共事業に莫大な投 資がなされてきたのである。これらの政策の結果、石炭や鉄鋼、石油、石油化学など、素 材供給型の重化学工業を中心とした産業構造ができあがり、 日本経済は輸出主導型となり、

経済面で国際的な地位を確立することが可能となっていった'0)。

政府の許認可などによる公的規制や行政指導、税制度もまた、経済成長を促すことに重

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点がおかれてきた。行政指導とは、民間の企業や個人に対して、政府官庁や官僚が明示さ れた法的権限なしに様々な「指導」を行うという、 日本独自の仕組みである。例えば、あ る産業内で競争が激化し、過当競争による共倒れが起こりかねないときなど、それを避け るために、投資調整や価格統制、企業合併などを促す「指導」がなされるのである。高度 成長期には、行政指導による国内産業の保護と輸出促進の活動が、輸出主導型の経済構造 を作り出すのに貢献した。また、 1973年の第一次石油危機以降、素材供給型の重化学工業 から、既に興隆していた自動車中心の加工型産業やサービス産業へと、産業構造は大きく 転換していくが、その際にも、生産設備の整理を促進するために、行政指導が大きな力を 発揮した。また、税制度も、政府の経済優先の考え方を裏打ちすべ<、各種の企業優遇措 置が取られている。日本の法人に対する税制度は、諸外国と比較して名目税率は高いが、

様々な特別措置によって税が軽減されており、実効税率は低くなっている11)。

さて、以上から見出きれることは何だろうか。第一に、政府の政策が、経済優先であり、

企業中心社会の形成に大きな役割を果たしていることを指摘できる。特定産業の保護や育 成策は、当該産業内で活動する企業の収益力向上につながるのはもちろんだが、その効果 はそれだけにとどまらない。例えば、戦後復興期に素材供給型の重化学工業の確立が目指 された意味は、他産業への波及効果をもたらすことにある。また、公共事業に関しても、

受注する土木業や建設業の利益拡大につながるほか、建設された道路や港湾を使用する企 業が受ける便益も大きなものとなる。政府が特定の産業を保護することは問題視されても おかしくはないが、他産業への波及効果が国民経済全体の底上げに貢献するということを 根拠に、政府の市場への介入が正当化されることになるのである。これは、経済成長を国 是とし、成長あってこそ国民生活が向上するという考え方が背景にある。すなわち、重化 学工業中心の産業構造の確立に向けた各種政策や産業基盤整備は、経済成長をもたらし、

国民生活の向上に貢献することから、公共性があるとみなされるのである。工場用地や工 業用水の整備、道路や港湾などの建設が、公共事業として「公共」を名乗る理由もここに あるといえよう。だが他方、経済成長という至上命題のもと、その実現のために企業の利 益拡大に重点をおかれていたことは否めないだろう。

但し、当然のことながら、政府の政策が、すべて経済成長を直接の目的としてきたわけ

ではない。例えば、公共事業のなかには、産業基盤整備を主眼とした工場用地や道路、港 湾などの社会的生産手段の建設と、学校や住宅、上下水道、病院、公園など国民の消費生 活に欠くことのできない社会的消費手段の建設とがあるが'2)、後者に対しても政府は力を

注いできたし、経済成長を通じた財政収入の拡大によって、その充実がより図られるとい

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企業システム研究のための緒論一公共部門および公私混合部門をめぐる動向を中心に一(橋本)

った面もあったであろう。また、政府によって、社会保障制度の整備や教育の充実化など 社会サービスの拡充がすすめられ、国民生活の向上が図られてきたこともみておく必要が ある。だが、公共事業についていえば、社会的消費手段よりも社会的生産手段への投資額 のほうが圧倒的に多く、諸外国から羨望されるほどの経済成長に成功した割には、多くの 国民が真の豊かさを享受したという実感を得られていないことの要因になっている。なお、

社会的消費手段については、公園や文化施設など建造物の建設には力が注がれる一方(ハ ードの重視)、その中身が伴わないことが多く (ソフトの軽視)、 「ハコモノ」中心主義と 椰楡される状況もある。また、社会的消費手段の整備や、社会サービスの拡充は、労働力 の確保による企業活動の円滑化の一方策という観点からすすめられている面もあり、各制 度の具体的内実については、 より詳細な分析が必要である。

第二にいえることは、許認可を典型とする公的規制や行政指導に代表されるのだが、企 業組織と政府の関係に不透明な点があるということである。そもそも、経済成長を下支え する政府の政策が企業活動に与える影響力は大きい。したがって、各企業は自らが属する 産業の保護や育成策の内容には重大な注意を払うことになる。また、公共事業を政府から 受注することは、安定的な収益の確保につながることが多く、政府から発注を受けるべく 企業間で熾烈な競争がなされることになる。さらに、公的規制や行政指導は、企業活動の 方向性を左右しかねない影響力があり、各企業は政府がどのような政策を取るかというこ とに敏感に反応することになる。このような状況下、各企業は自らの利益にかなうかたち で政策が形成されることを欲することになる。そのようななか、複数の企業が集まり経済 団体を組織し、政府に働きかけて政策形成に影響力を与えることがある。複数の企業によ って組織された経済団体の活動は、一般に「財界活動」と称されるが、その活動の重要な 役割のひとつには、政治献金の窓口を担うことがあげられる'31.特定産業や特定企業の利 害が政策形成と密接に絡み、そこに企業や産業界による政治献金がかみ合わざると、特定 産業や特定企業の意向が政策形成に反映される可能性が生じてくる。また、行政指導の権 限を有する官僚と強く結びつきたい企業が、退職した官僚を受け入れることも多い。官僚 が退職後、民間企業や民間団体などに就職することを、俗に「天下り」というが、各種の 指導権限を有する官僚が、関連産業内の企業や業界団体に就職するという状況は、明示的 な法的権限のない行政指導という手法と相俟って、不透明で不公正な政策形成の可能性を 否定しがたいものとしている。最もひどい場合には、贈収賄事件などの犯罪に結びつくが、

そのような犯罪は立件されたものだけでも相当数にのぼっている。

(9)

2.3公企業の分類

政府が果たす経済的機能は、民間企業に対する産業政策にとどまらない。様々なかたち で、政府自らが企業経営に携わる場合がある。政府が出資・経営する企業は、一般に公企 業と呼ばれる。ここではまず、多種多様な公企業を分類しておこう。

公企業の特徴をみる際には、 まず所有主体と経営の自主性に着目しなければならない。

なぜなら、所有主体は、企業形態比較の重要な基準となるからであり、 また特に公企業に ついては、政府から自立して経営が行われているかどうかが重要な指標となるからである。

ここでは、法的規定を前提とし、 さらに所有主体と経営の自主性の観点を加味して、現時 点における日本の事業形態を概観する。まず、所有主体をもとに分類したのが、図2であ る。政府(中央政府および地方自治体)が出資・経営に関わるものについては、公共部門 (政府が全額出資しているもの)に属するものと、公私混合部門(政府と民間の双方が出 資しているもの)に属するものとに分類できる。また、経営の自主性については、政府の 関与が強いか弱いかがポイントになるが、 さしあたりは、法人格の有無や種類に基づいて、

政府省庁企業、公共企業体(公共法人の公企業)、会社公企業に分類できる(図3)。形式 上からいえば、経営の自主性が最も低く、政府の関与が強いのが政府省庁企業であり、そ れに対して、会社公企業は、経営の自主性が最も高く、政府の関与は小さくなる。

公共部門に属する公企業については、政府の省庁の一部局である現業部門や地方公営企 業などの政府省庁企業(官庁企業)、公団や事業団および公庫などにあたる公共企業体(公 共法人の公企業)、株式会社形態をとる会社公企業、が含まれる。また、公私混合部門に ついては、金庫などの公共企業体(公共法人の公企業)、株式会社形態をとる会社公企業(中 央政府と民間の混合出資のものを「特殊会社」、地方自治体と民間の混合出資のものを「第 三セクター」'4)と称することがある)、が含まれることになる'5'。

なお、特殊法人という用語は、広義には特別の法律に基づいて設けられる法人のことを いうが、狭義には、 「政府が必要な事業を行おうとする場合、その業務の性質が企業的経 営になじむものであり、これを通常の行政機関に担当せしめては、各種の制度上の制約か ら能率的な経営を期待できないとき等に、特別の法律によって独立の法人を設け、国家的 責任を担保するに足ると特別の監督を行うとともに、その他の面では、できる限り経営の 自主性と弾力性を認めて能率的経営を行わせようとするもの」'6)を指すものと説明される。

また、公益企業(もしくは公益事業) という概念は、公企業のように所有主体に着目す るのではなく、公益的な性格のもの、すなわち、生活に欠かせない財やサービスー具体的 には、電力やガス、水道、通信など−を供給するのものを指す。したがって、公益企業に

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企業システム研究のための緒論一公共部門および公私混合部門をめぐる動向を中心に−(橋本)

図2 日本の事業諸形態の概観

民間部門 個人(商人[商法第一編])

会社(合名、合資、株式[商法第二編]/有限[有限会社法]/外国会社)

民法上の組合、匿名組合[民法第三編第二章第12節、商法第三編]

相互会社[保険業法]

公益法人 財団法人・社団法人[民法第34条]

学校法人[私立学校法]、宗教法人[宗教法人法]、医療法人[医療法]、社 会福祉法人[社会福祉法]、更生保護法人[更生保護法]、特定非営利活動法 人[特定非営利活動促進法]

公益信託[信託法第68条]

協同組合 事業協同組合・企業組合・商工組合など[中小企業団体の組織に関する法律.

中小企業等協同組合法]、農業協同組合[農業協同組合法]、消費生活協同組 合[消費生活協同組合法]

その他法人格をもたない任意団体

公私混合部門中央政府 特殊会社−電源開発株式会社、NTT、 JT、関西国際空港株式会社

地方自治体地方公社(地方公営企業以外) ・ 「第三セクター」 (公私共同出資により設立 されたもの)

公共部門 中央政府 特殊法人一郵政公社、公団、事業団(事業団については民間出資のものもあ る)、公庫、その他の特殊法人(海外経済協力基金など)、 JR4社(北海道、

四国、九州、貨物)

中央・地方営団、金庫

地方自治体公営企業一地方公社のうち地方自治体の全額出資になるもの、上水道.下水 道・都市交通.ごく一部の電気・ガス[地方公営企業法]

中央政府 農林水産省林野庁の「現業部門」

行政部門 中央政府

地方自治体都道府県、政令指定都市、市・町・村、特別区、広域連合、一 部事務組合

(注l)独立行政法人、中間法人等、一部の法人は略してある。

(注2)法制度の改正等を踏まえて、筆者が加筆修正。

(原注) [ ]内は根拠法

(出所)浜川一憲「「現代企業形態論』試論(1)」 「経営研究』第45巻、第2号、 59頁

図3公企業の経営形態の概要

中央政府 現業、資金運用部

地方自治体地方公営企業

全額政府出資(公社、公団、公庫、事業団など)

公私混合出資(営団、金庫など)

公有会社(JR4社など)

公私混合企業中央 (ⅢT、 JTなど)

地方自治体 (「第3セクター」)

政府省庁企業

(官庁企業)

公共法人の公企業

会社公企業

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は、政府所有のものと、民間所有のものの双方が存在しており、なかには公私混合所有の

ものもある。

ところで、公企業について考察するうえでは、公企業における企業性とは何かという問 題に触れておかなければならない。一般に、公企業における企業性とは、独立採算制から 説明される。このことは、政府の行政活動と比較することによって明確になる。政府の行 政活動は、一般会計の枠組みのなかで遂行されるが、公企業の場合には原則的には特別会 計や企業会計のもと、独立採算による運営が求められるのである。なお、実際には、多く の公企業で一般会計等から補助金などの繰り入れがあることには留意が必要である。とも あれ、独立採算制の仕組みを取っているかどうかは、公企業と政府の一般行政活動を区別 するものとして、ひとつの指標となるといえよう。

2.4公企業の存在根拠

続いて、公企業の存在根拠についてみておこう。現存する公企業の存在理由は多岐にわ たっており、《経済的な理由のほか、政治的な理由や社会的な理由にも注意を払う必要があ る。経済的な理由に基づく説明によれば、先にもみたように、公共財などの価格メカニズ ムが働きにくい財の供給のために、公企業が存在することになる。すなわち、価格メカニ ズムがうまく機能しにくい領域においては、民間企業による財の供給が不十分になる可能 性が高く、公企業が存立する余地が生じるとされるのである。価格メカニズムがうまく機 能しない領域では、企業活動を展開しても、採算を合わせることは困難であるが、そのよ うな場合でも財の供給が必要とされることがある。つまり、採算が合わないため民間企業 が企業活動を成り立たせることが困難な場合に、公企業が財の供給の役目を果たすことに なるのである。だが、採算を合わせることが困難な領域であるから、当然のことながら、

独立採算制で事業を成立させることは難しい。公企業は、その存在根拠自体に、企業性と 公共性のジレンマを内包している。

ところで、歴史的にみると、公企業は、産業政策の遂行の一環として設立きれたものが 数多く存在する。その例として、第二次大戦前では、明治維新後の官営工場の設立や、 日 清戦争・日露戦争期における官営八幡製鉄所の設立、鉄道国有化、第二次大戦中の国策会 社の設立などがある。また、第二次大戦後の復興期においても、傾斜生産方式での国家資 金の集中的投下のために政府全額出資の復興金融公庫が設立され、他にも、政府が全額出 資した公団が多数形成された。さらに高度成長期にも様々な特殊法人が設立されている。

それらの多くが産業の保護や育成と密接な関連があり、産業の発展を支えてきている。

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企業システム研究のための緒論一公共部門および公私混合部門をめぐる動向を中心に−(橋本)

また逆に、衰退産業の保護や救済などのために、民間企業が国有化されることもある。

特殊な例ではあるが、バブル崩壊後、経営破綻状態にあった金融機関が、存続のために一 時的に国有化されたことなどは、公的所有の特殊な事例として注目に値する。また、財政 収入の確保のために、公企業が存立することもある。タバコ専売事業などはその典型的な 例である'7)。

このように、公企業の存在については、経済的な観点のみならず、政治的な理由や社会 的な理由にも注意を払うべきである。本来、公企業は公共目的に資するために、政府が設 立し、出資・経営に携わるものであるが、政府の政策自体が、政治的に決定されることを 見逃してはならない。先に、官僚による民間企業への「天下り」の問題に触れたが、公企 業もまた「天下り」の温床になっていることには注意すべきである。すなわち、公企業は いずれも政府官庁の監督下にあるのだが、監督官庁の官僚が退職後、監督下にある公企業 に「天下り」することにより、監督官庁と公企業が持ちつ持たれつの関係に陥ることがあ るのである。監督する側とされる側が同根なため、両者が癒着関係に陥る例が生じている

のである。

第3節新しい経済の胎動と企業組織

3.1 民営化・規制緩和の潮流

民営化という用語は多種多様な内容を包含するものであり、広義に理解すれば、規制緩 和の推進や民間活力の導入も民営化の一環と理解されるが、狭義には、公企業における所 有および経営の民間への移行として説明され、一般に狭義の意味で使用されることが多

li,18)O

さて、上述のとおり、 日本では公共部門が経済成長の実現に大きな役割を果たしてきた。

また、先進資本主義諸国全般としても、社会保障制度の拡充などにより、福祉国家の体制 が構築されてきた。だが、 1970年代の世界不況下、大きな政府に対する不信感が広がって いく。市場の失敗に対応するための公共部門の諸活動は非効率であるとされ、政府の失敗 が問題視されるようになったのである。政府の失敗の是正と市場原理の積極的な導入を目 指す新自由主義的な改革の動きは世界的な潮流となり、民営化や規制緩和の動きが活発化 する。とりわけ、英国のサッチャー政権や米国のレーガン政権は、新自由主義的改革の先 導的な役割を果たし、それに続き、他の国でも改革がすすめられていく。英国や他のヨー ロッパ諸国ではもともと公企業が多かったことからその所有や経営の移行を中心とした民

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営化が多くすすめられ、他方、公企業が少ない米国においては規制緩和が改革の中心とな った。また、発展途上国や旧社会主義国では、経済開発を目的とした公企業が多く存在し たが、世界銀行やⅢFなどの国際機関の強い圧力のもと、民営化がすすめられた。

日本もまた、 1980年代以降、民営化や規制緩和の取り組みが進展する。その目指すとこ ろは、 1981年発足の第二次臨時行政調査会(第二臨調)で網羅的に議論された。第二臨調 は、行政改革と「増税なき財政再建」を目的として行財政全般に関わる包括的な改革案を 提示し、今日における市場原理優先の議論につながる政治的な流れをつくりあげた。第二 臨調の議論から実現に結びついた最も注目すべき成果は、三公社−日本国有鉄道(国鉄)、

日本電信電話公社(電電公社)、日本専売公社(専売公社)−の民営化である。 l985年には、

電電公社が日本電信電話株式会社(NTT)へ(1999年に分割・再編成)、専売公社が日本 たばこ産業株式会社(JT)へと改組された。また1987年には、国鉄が6つの旅客鉄道株 式会社(JR北海道、 JR東日本、 JR東海、 JR西日本、 JR四国、 JR九州) と日本貨物鉄道株 式会社(JR貨物)などに分割されたのに加え、国鉄の長期債務の返済などを目的とした 日本国有鉄道精算事業団が設立された。ところで、これら三公社の民営化後も、各社の株 式の全部もしくは一部が政府に所有されており、いずれも完全な民間企業となったわけで はない(但し、 2001年の法改正をうけ、 JR東日本は全株式が売却され完全民営化きれた。

また、 JR西日本、 JR東海も完全民営化が予定されている)。すなわち、三公社は、政府規 制の強い公社形態から政府の関与が小さい特殊会社へと改組されたのである。その意味で は、三公社の特殊会社化というほうがより適切な表現であろう'9)。

ところで、公企業の民営化の目的については、一般に、株式売却による財政収入増や、

過度な政府の関与を排除し、経営の自主性を与えて非効率な経営の改善を図ることなどと 説明される。だが、個々の事例に関してはそれぞれ固有の事情を抱えている。例えば、電 電公社民営化の場合は、電気通信技術の発達に伴う競争条件の変化の対応という目的が重 要であり、電気通信事業では参入規制と料金規制の緩和がなされた。また、国鉄民営化の 場合には、深刻な経営危機の克服に加えて、労使関係の安定化が目的とされた。国鉄から JRへの移行の際には、所属組合による採用差別が行われ、国鉄労働組合の組合員が激減し、

労使協調路線をとる労働組合が多数を占めるに至ったのである。

さて、 日本では、第二臨調を機にして民間活力の導入も盛んにすすめられるようになる。

その現れとして、公私混合所有の企業形態が多く設立されるようになる。その典型的な例 は、 1984年に設立された関西空港株式会社である。同社は、大規模民活プロジェクトの第 一弾として、従来は公共部門が担ってきた国際空港の建設や運営を目的として、政府およ

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企業システム研究のための緒論一公共部門および公私混合部門をめぐる動向を中心に−(橋本)

ぴ地方自治体と民間企業による公私混合所有の企業として設立された。また、 1980年代後 半には、地方自治体と民間企業の公私混合所有の企業形態である「第三セクター」が、設 立ラッシュを迎えることになる。補助金や税制優遇などの設立促進策もあり、地域開発や 都市開発、農林水産、観光やリゾートおよびテーマパーク、運輸や道路など、様々な分野 で「第三セクター」は設立されていく。なお、NTTの株式売却益の一部は、社会資本整備 を主眼とした公共事業や民活事業へと投資きれたのだが、 「第三セクター」もその対象と して支援を受けている。また、 JR発足後、地方の不採算路線の廃線が相次いだが、その 受け皿としても「第三セクター」は設立されている。

規制緩和もまた、第二臨調における主要な論点であったが、その後に続く第一次から第 三次にわたる臨時行政改革推進審議会(行革審)においても各種の規制緩和が提言され、

1995年に規制緩和推進計画、 1998年に規制緩和推進3か年計画が策定されるに至る。規制 緩和は、行政事務の簡素合理化や民間活力の促進などを目的としてなきれるが、 1990年代 に入ってからは、経済の活性化や内需の振興などを図る観点から経済政策課題のひとつと なった点に特徴がある。規制緩和の主要な内容は、許認可などの手段による公的規制を緩 和したり、撤廃することにある。公的規制の緩和による市場競争の活発化が、経済活性化

につながると考えられているのである20)。

3.2バブル崩壊と改革のゆくえ

以上にみたように、民営化や規制緩和、民間活力の導入は、市場競争の活発化を目指し、

それにより消費者利益の拡大を図り、国民生活の豊かさを実現するという論理のもとすす められてきた。公共部門による企業経営の非効率な面が指摘され、 また、各種の公的規制 は市場競争を妨げており、経済成長の足を引っ張っていると考えられた。そこで、公共部 門をスリム化し、できるだけ市場原理に任せて、民間企業の活動の場を広げることにより、

経済の活性化を図ることが目指されたのである。確かに、公共部門では非効率な運営も多々 みられ、 また各種の公的規制や行政指導は官僚と産業界の癒着構造の原因となっており、

公共部門を改革する必要性は大きかった。だが、市場原理の活用、民間活力の導入などの 諸政策が、経済優先の風潮をさらに助長し、バブル経済の成立と崩壊の一因となったこと

を見逃してはならない。土地取引や土地利用の規制緩和は、民間企業主導の地域開発を促

した。また、税制優遇などの助成策もとられ、 リゾート地開発などに莫大な投資が行われ た。そのようななか、地方自治体の多くは、地域振興を錦の御旗として、開発主体となる

「第三セクター」を設立した。その結果は、金融部門での規制緩和と相俟って、投機が投

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機を呼ぶかたちとなり、異常な地価上昇をもたらしたのである。バブル崩壊とともに、開 発は頓挫し、 「第三セクター」に出資をした地方自治体の多くは巨額の負債を抱えること

になり、歳入減もあわさって、深刻な財政危機に陥ることになったのである。

本来、公的規制や行政指導などの政府の介入や公企業の活動は、市場の失敗の是正や国 民生活に不可欠な財の供給などのために、重要な役割を果たすものである。だが、技術革 新や社会環境の変化などに伴い、公共部門の諸活動は改革される必要が生じる。また、公 共部門の諸活動が、官僚や産業界、政治家の利権と結びつき、癒着構造ができあがってい る場合には、それを断ち切るための改革が必要となる。ところが、民営化や規制緩和、民 間活力の導入は、いずれも市場原理の導入の必要性を強調し、効率性追求に偏り、民間企 業の活動の拡大に重きがおかれたという意味で一面的なものであった。確かに、公共部門 のなかには不必要な浪費を重ねているものもあり、公共部門の改革は不可欠である。しか し、その改革は、単純に公共部門の活動の縮小に結びつくわけではない。逆に、例えば、

地球環境問題への対応などのように、新たに公共部門の活動が必要とされる領域さえある のである。したがって、時代の変化とともに不必要になった公共部門の活動を縮小・撤廃 するとともに、公共部門の活動が必要とされる領域では、活動の維持や時には拡大が必要 とされ、さらには、その活動が一部の官僚や政治家、経営者らによって利権化されること を防ぐために、活動の透明性を高め、国民の監視が働く仕組みづくりが必要となるのであ る211。だが、現実の改革の歩みは、癒着構造の温存と透明性の向上という二つの相反する 論理が共存したままにすすめられているのである。

バブル崩壊以降の不況が続くなか、繰り返される景気対策は効き目がなく、財政危機は 深刻化の一途をたどっている。そのようななか、一層の行政改革の必要性が強調され、 21 世紀を迎えたいまも新しい動きが進行中である。 1996年に設置された行政改革会議では、

中央省庁の再編も含めて、国家機能のあり方全般が議論され、その結果、行政の減量・効 率化を目指した改革がすすめられている。その特徴は、改革の矛先が政府の一般行政活動 にも向かっていることにある。2001年には内閣機能の強化するとともに、省庁の数を半減 させて行政機構のスリム化を図る省庁再編が実現した。また、政府省庁の一部局(現業部 門)で実施されていた郵政三事業については、2003年に郵政公社へと移行されており、 さ らには民営化の可能性も検討されている。また、政府省庁が提供している行政サービスの 効率化を図るための制度として、2001年には独立行政法人制度が創設された。制度創設に 伴って、美術館や博物館、研究機関などの独立行政法人への移行が実現した。さらには国 立大学についても、2003年の国立大学法人法の成立により、国の組織から独立した国立大

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企業システム研究のための緒論一公共部門および公私混合部門をめぐる動向を中心に−(橋本)

学法人への移行が予定されている。なお、経営の非効率性や不透明性が指摘されている特 殊法人については、統廃合や情報公開の充実化など改革策が盛んに論じられている。

公共事業については、民間活力導入という方針には変化がないが、新しい手法として PFI (PrivateFmancelnitiative)が注目を集めている。PFIとは、民間資金を活用して、公 共施設などの整備を促進するものである。その特徴は、透明性・公平性の確保のもとで国 や地方自治体が事業を担う民間事業者を選定して契約を結び、選定された民間事業者が独 立性を保って効率的な事業の実施を行うことにある。 1999年にはPFIを推進する法律が成 立し、国および地方自治体でPFI導入がすすめられている。地方自治体と民間部門の共同 出資による「第三セクター」の多くは、不透明かつ無責任な経営が蔓延し、経営破綻が相 次いでいるが、PFIにはその問題点を克服することが望まれているのである。

ところで、公共部門の見直しの議論については、国だけでなく地方自治体の役割にも目 を向けることが重要となる。なぜなら、地方自治体の活動の多くは、国民生活と直結して おり、国民生活に欠かせない様々な行政サービスを提供するという重要な役割を担ってい るからである。地方自治体の財政危機が深刻化するなか、地方自治体においても、効率性 追求のもとで、コスト削減を目的として、庁舎の清掃や警備、学校給食などの業務の民間 委託がすすめられている。また、行政サービスに市場原理を導入することの必要性が唱え られ、民営化や独立行政法人、PFIの導入も検討されている。さらには、地方行革の名の もとで、事務事業の見直しや組織・機構の見直し、公務員の人員削減などがすすめられて おり、市町村合併の動きも加速化している。

これらの地方自治体をめく.る動きは、地方分権の潮流とも密接な関わりがある221O国家 機能や行政の役割の見直しは、公共部門の役割を民間部門へ移行する動きに加えて、国の 役割を地方へと移行する動きにもつながっている。財政危機の深刻化がすすみ「大きな政 府」から「小さな政府」への転換が必要とされていること、 また、経済活動がグローバル 化するなかで国家単位の政策よりも地域単位での政策が必要とされていることなどにより、

地方分権の必要性が高まっているのである。2000年には政府の地方分権推進計画を法制化 したいわゆる「地方分権一括法」が施行され、分権の取り組みがすすめられている。だが、

地方分権の動きもまた、財政危機への対応が迫られるなか、効率性の追求に偏重しかねな い状況にある。例えば、行政サービスの民間委託は、自治体が直営で事業が行われる場合 のコスト高の克服が意図されており、市町村合併の理由としては、スケールメリットの追 求が重視されている。しかし、地方自治体が提供する行政サービスは、いかに地域住民の ニーズを充足するかという観点から捉えられるべきであって、ニーズを反映したサービス

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供給を実現するためには、住民や市民の参加が保証された住民自治の実現が必要である。

住民のニーズに応えられないようなかたちのコスト削減では、効率性が高まったとはいえ ない羽)。住民自治を充実化させ、住民や市民の意見を反映できる仕組みづくりが望まれて

いるのである。

3.3 NPO−新しい事業組織の創成

近年、新しい事業組織の形態として注目を集めているのが、NPO(Nonpront OIga血ation)である。そもそもNPOとは非営利組織の略称である。従来、経営学の研究 領域では、非営利組織という用語は、公共部門の組織一公的な非営利組織一が非効率であ ることを指摘する際に使用されることが多かった。だが、今日のNPOについての議論は、

民間の非営利組織に焦点をあてるという特徴がある。すなわち、NPOと呼ぶ場合には、公 的な非営利組織を除外して、民間の非営利組織のみを指すのが一般的なのである。また、

NPOでは、ボランティアなどの自発的な参加者の存在が重視される場合が多い。

NPOが脚光を浴びるようになった背景のひとつには、公共部門に対する不信感の広がり がある。そもそも、今日においてNPOの活動と認識されているものの多くは、古来からコ ミュニティにおいて相互扶助などのかたちで取り組まれてきたものである。だが、資本主 義社会の発展とともに、都市化がすすみ、コミュニティが解体されていくなかで、それに 対応すべ<政府の役割は拡大していった。つまり、政府が、社会サービス供給というかた ちで、その役割を引き受けるようになったのである。ところが、財政危機や官僚制の弊害 など、政府による社会サービス供給への不信が高まるなか、社会サービス供給に携わる民 間で非営利の組織の役割に注目が集まりだすのである。したがって、NPOに対する注目の 高まりは、 1980年代以降の新自由主義的改革の進展とも大いに関連している。英国のサッ チャー政権や米国のレーガン政権は行政サービスの民間委託をすすめるが、その担い手と

してNPOが活用されていくのである。

日本では、NPOが脚光を浴びるようになるのは1990年代以降である。とりわけ、 1995年 に起きた阪神.淡路大震災に際しては、復興に向けて多くのボランティアが参加し、NPO の活躍もまた、社会的に広く知られるようになった。 1998年には特定非営利活動促進法が 成立し、NPOに対する法制度の整備もすすめられていく。同法に基づく法人は、保健・医 療.福祉や、 まちづくり、環境問題、国際協力などの分野で活動を展開している。

また、NPOは、狭義には特定非営利活動法人や市民活動団体、ボランティア団体を指す が、広義には民間で公益的な活動を行う団体全般を指す。法人分類に基づけば、財団法人

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企業システム研究のための緒論一公共部門および公私混合部門をめぐる動向を中心に−(橋本)

や社団法人などの狭義の公益法人に加えて、学校法人や社会福祉法人、医療法人などの特 別法に基づく公益法人も含まれることになる(図2)。なお、特定非営利活動法人もまた、

特別法に基づく公益法人に位置づけられる。また、協同組合のように、公益的ではなく共 益的な活動を行う組織(不特定多数を対象とせず、会員を対象とする組織) も含めて、

NPOと称する場合もある。このように、NPOという用語が非常に多義的なものであること

には注意を要する24)。

ところで、財団法人や社団法人などの狭義の公益法人のなかには、特殊法人などと同様 に、官僚の「天下り」先として利用されたり、事業運営の実態が不透明であったりするな どの問題を抱えているものも多い251.行政改革の論議では、公益法人改革の必要性が大き な論点のひとつとなっているほどである。したがって、今日のNPOへの期待には、 「公益」

を名乗っているにも関わらず、一部の官僚や産業界の利権となっている公益法人一従来型 の非営利組織一の問題点を克服できるのではないかという思いが込められている。すなわ ち、NPOを高く評価する人々は、NPOという言葉に対して、従来型の不透明で不公正な事 業組織の弊害を克服するという意味を感じ取り、その活動の可能性に期待を込めているの である。では果たして、NPOが持つ現代的意義とは、一体どのようなものであろうか。

NPOの現代的意義は、第一に市民参加の重要性から説明される。既存の公共部門の組織 は、その活動の実態が市民には明らかにされておらず、不正の可能性があったとしてもそ れを指摘する方法がなかった。だが、NPOでは、市民が活動に参加することに重きがおか れる。すなわち、市民自らが、社会活動に参加するためのルートとしてNPOは機能するの である。従来、公共性のある活動とは、政府などの公共部門が担うものと考えられてきた。

だが、真の「公共」とは、市民社会の構成員が、政策形成の場に参加していくことで実現 するのであり、NPOはそのような市民参加の場として重要な意味を持っているのである。

言うなれば、NPOは新たな「公共」空間の創造に向けての取り組みということになろう。

第二には、共同性の再構築から説明される。先にも触れたように、資本主義社会の発展 とともに、都市化がすすみ、地域住民の共同課題を解決するというコミュニティの機能は 徐々に損なわれていった。地域における人々のつながりの場が少なくなり、困ったときに は互いに助け合えるという人間関係が希薄になっていったのである。そのようななか、

NPOは失われたコミュニティの機能を回復する場としての役割も果たしている。したがっ て、NPOの活動は地域に根ざしたものが非常に多く、地域でのまちづくりや仕事おこしの 取り組みと幅広く関わっているのである。なかには、地域が抱える課題の解決を仕事おこ しにつなげる活動を行うNPOもあり、その取り組みは地域に根ざした事業であるコミュニ

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ティ ・ビジネスとして発展することもある。また、地域における市民活動の活発化や地域 経済の活性化などを目的に、地域内のみで流通・循環する仕組みを持った地域通貨の発行

などもすすめられており、NPOの新たな活動として注目されている妬)。

他方において、今日では必ずしも地域に限定されない新たなかたちの共同性が創出され つつある。インターネットなどの情報技術の発達によって、問題意識を共有しているもの 同士がネット上で架空のコミュニティを形成するような例もみられるのである。なお、情 報技術の革新は、大きな資源を持たない一般の市民が情報発信機能を持つことを可能にし、

NPOの活動の広がりに大きく貢献している意味でも注目される。

第三には、企業中心社会の克服から説明される。NPOの重要な特徴のひとつは、自発的 な参加者であるボランティアが関わっていることにある。会社のためには猛烈に働くが家 族や地域社会のことを顧みない「会社人間」は、経済成長に逼進する社会の産物であった。

だが、経済成長が鈍化し、企業成長に陰りが生じ、雇用リストラも頻繁に起こるなか、こ れまでのように会社にすべての力を注ぐことに疑問を持つ人々が増えるようになった。ま た、終身雇用や年功序列などの「日本的経営」に揺らぎが生じてきており、会社優先の姿 勢では自分や家族の身を守れないと感ずる人々が増えるようになった。そのようななか、

会社の論理をこえて、自分の興味や好奇心を発揮できる場を求め、NPOを通じて地域社会 の様々な課題に取り組む人々が増えてきたのである。また、高齢社会の到来などに伴い社 会福祉領域での課題が山積みであること、地球環境問題の深刻化が進んでいることなど、

「見て見ぬ振りができない」問題が社会の至るところに存在していることも、NPO活動の 活発化を後押ししている。すなわち、NPOは、新たな「生きがい」の創出という意味合い を持っており、 さらには、企業の論理とは異なる価値観、金儲けの論理とは異なる価値観 の重要性に目を向けたという意味でも重要な意義を有しているのである271。

このように、NPOの現代的意義は、社会システムのあり方を根本的に変えていく力を有 するほどの重要性を持っている。だからこそ、NPOは、社会の様々な領域で脚光を浴びて いるのである。バブル崩壊後の不況が続くなか、NPOには雇用対策や起業支援などの分野 でも活躍することさえ期待されるようになった。すなわち、民間企業と同様に、産業分野 での活躍も期待されつつあるのである。但し、その取り組みはまだ端緒的なものが多く、

今後の推移を見守るしかない。だが、ここで注意しておかなければならないのは、上に述 べたNPOの意義は未だ理想のレベルに留まるものも多く、過大評価の危険性があるという

ことである。先にも触れたように、NPOは、市民性の発揮やコミュニティへの貢献の一形

態として期待されるとともに、政府活動の削減への対応策としても注目きれてきたという

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企業システム研究のための緒論一公共部門および公私混合部門をめぐる動向を中心に−(橋本)

経緯がある。したがって、NPOは一歩間違えれば、政府の下請化に陥る可能性があり、さ らには、新たな利権の温床となりかねない危険性もあるのである。すなわち、NPOに対す る過剰な期待は禁物であり、NPOが期待どおりに有効に機能する仕組みをつくっていくこ とが重要となるのである。従来型の事業組織の弊害は、不透明で無責任な事業運営のあり 方からもたらされるものが多かった。したがって、事業運営の透明性を高め、適切なガバ ナンスが機能するための仕組みづくりが、今後の重要な課題なのである。

第4節結びにかえて−企業システム研究の新たな展望

4.1 企業システムと公共性、社会性

企業システムをめく、る新たな動きは進行中である。とりわけ、①民営化・規制緩和の一 層の進行、②頻発する企業不祥事、 という二つの現象は、株式会社制度を再検討すること の重要性を高めているといえよう。まず前者については、従来、主として行政によって供 給されてきた財やサービスを民間企業が供給するケースが増えてきたことがあげられる。

例えば、2000年に公的介護保険制度が創設されたが、この制度のもとでは、在宅サービス などの領域に株式会社が参入することが可能になった28)。また、株式会社が、病院や介護 施設、学校などの経営に携われるように制度を変更すべきであるという意見も、規制緩和 関連の審議会等で盛んに議論されている291。すなわち、市場原理の導入の一層の推進により、

効率的なサービス供給が可能であることが喧伝されているのである。

長期の経済低迷や財政危機の深刻化の現状を受けて、既存の公共部門の非効率性が強調 されるなか、公共部門から民間部門への移行(広義の民営化)の有効性がことさら指摘さ れる傾向にある。だが、従来型の社会システムを根本から問い直すという観点にたてば、

実のところ、民営化(「公→民」の方向)のみならず、民間部門において公共性、社会性 を確立する作業(「民→公」の方向)が重要な意義を持つようになってきていることに注 意すべきである。つまり、公共部門に民間企業が参入するということは、民間企業が今ま で以上に公共性、社会性を意識した活動を行う必要に迫られるということなのである。と りわけ、社会福祉の領域や医療分野など生命に直接関わる領域、生活を支える領域に株式 会社が参入するということは、株式会社が、直に公的な機能を担う場面が生じることを意 味しており、ひいては、株式会社が新たな「公共」空間の一翼を担う状況が生み出されて いるということになるのである。そうであるならば、株式会社とは何か−社会の中の制度 のひとつとして株式会社とはどのような存在であるべきか−を改めて問い直すことが欠か

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