• 検索結果がありません。

ロボット・AI と法をめぐる国内の政策動向

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "ロボット・AI と法をめぐる国内の政策動向"

Copied!
7
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

1.問 題 の 所 在

AIおよびロボット(特に自律型ロボット)と法をめ ぐる最も大きな課題は,法的問題に関する検討課題が体 系的に認識・把握されていないとともに,そもそも法的 課題についての検討の必要性や重要性が十分認識されて いないこと自体が問題であるといえる.国外では,AI やロボットをめぐる問題を包括する法分野として「ロ ボット法」*1が提唱され,検討が必要な法的課題の把握 と研究が進められている.一方,国内においては,「ロボッ ト法」という「法律」を制定することを目的とした研究 という誤解があるなど,AI やロボットをめぐる法学的 な研究そのものが,研究開発やイノベーションを阻害し 萎縮効果をもたらす法整備を行うための研究という誤っ た認識に基づく批判が絶えない. 汎用型 AI または特化型 AI のいずれかにかかわらず, AIが搭載された自律型ロボットをめぐる問題は産業用 ロボットとは異なる特質を有する問題が生ずることが想 定されている.にもかかわらず,「ロボット」をめぐる 法的課題は,産業用ロボットに係る問題が主たる検討事 項にとどまっているとともに,既存のロボットに係る安 全基準で新たな課題が生じても対応できるといった考え すらある. 今後,「ロボット法」として一つの学問分野の定立が 成就するかは定かではないが,その位置付けについて今 後を見通した考えとして,夏井高人教授の先見的な指摘 がある.夏井教授は,ロボットをめぐる法的課題につい て,伝統的な法解釈学の範囲内で対処することができな い法的検討課題が非常に少ないことを示したうえで,そ の大半は既存の法解釈学の応用として吸収されてしまう ため,法解釈学という意味でのロボット法学が成立する 余地がないことを指摘し,現行の JIS や ISO の定義に おける産業用ロボットの範疇を超えるロボットや既存の 産業用ロボットに適用される法令が予測していないよう な動作をするロボットに限って,法解釈論および立法論 としてはロボット法学が成立する余地があるとの見解を 表している [夏井 17].つまり,ロボット法学の成立余 地は限られているといえるが,ロボットと AI,モノの インターネット(IoT)の相互作用に伴い,既存の法解 釈や現行の法体系では対応できない課題に対処するため の検討が求められるのと同時に,社会や制度の変革が大 きく求められる可能性があることは事実である.

2.社 会 の 変 革

AIおよびロボットの普及による社会の大きな変革は 第四次産業革命の到来ともいわれ,安全・安心なロボッ ト共生社会を迎えるために,ロボットの利用をめぐる社 会制度の整備や法的課題の検討に着手する重要性が高 まっている.ロボットを実際に導入し実社会において利 用するにあたっては,技術開発に従事する研究者そして 産業界にとって,安定した法基盤および倫理的に解決が 必要な課題の方向性について明確な指針が示されること も必要である. 国内の産業界にとっても,技術で勝ってビジネスで負 けることを繰り返さないためには,ルールがないために 生じるロボットの導入や実装へのためらいや萎縮効果, 不要な規制に起因する新たな技術革新への阻害を防ぐこ とが急務の課題となっている.ロボットの利用促進に 必要な法の基本的理念の提唱など,国際的にもイニシア ティブをとることができるロボットと法に関する研究や 検討を行うことが求められている.AI 研究開発の一層 の進歩を加速するためには,技術的課題を克服して技術 開発が市販レベルまで到達したとき,社会制度や法基盤, 法的責任やリスク,社会的な受容性などを総合的に検討 しなければ,新たな技術の普及を阻害するおそれもある. また,実際に検討を行うにあたって,ロボットをめぐ る新たな問題においては「新たな事象」も生じているこ とから,社会実装にあたっての課題を検討するためには, ① 個別の事象課題と② 個別の法的課題を場合によって

ロボット・AI と法をめぐる国内の政策動向

Recent Policy Trends of AI and Robot Law in Japan

新保 史生

慶應義塾大学

Fumio Shimpo Keio University.

[email protected]

Keywords:

law, AI, robot, policy. 「AI 社会論」

*1 ロボット法全般に関する研究は,[Calo 16, Pagallo 13] が先行 文献の代表例である.

(2)

は分けて考える必要がある.例えば,製造物責任に関す る問題でありながら,一方は既存の「物」の製造物責任 における解釈で対応が可能であり,他方は「情報」の製 造物責任をどのように考えるのか検討を行うような場合 である.

3.自律的判断と法

AIの自律的な判断に伴う動作や結果について,法は どのように対応すべきなのか.人間が直接指示をしたり 操作した結果ではないため,法的責任の所在について従 来の考えでは通用しない問題が生ずる可能性がある.と りわけ,人間の制御範囲を超えて AI が自律的に判断し た結果について,その開発者や製造者がどのような責任 を負うのか現時点では十分な議論がなされていない.AI による自律的な判断による結果生じた損害について製造 物責任を問うことができるのかといった検討も必要であ る. AIが搭載されたロボットの欠陥であれば,ロボット としての製造物責任を問うことができても,そのような 製造物の欠陥について予防的な対策を事前にすべて講じ ることは困難であると考えられる.無体物としてのプロ グラム単体として AI の暴走や制御不能による損害が発 生した場合の責任についても,誰が責任を負うのか現行 の法制度では解決できない可能性が高い.なぜなら,ロ ボットを制御するソフトウェアの欠陥による誤作動や不 正確な情報に基づく動作により事故が発生したとき,そ の原因となった情報そのものの製造物責任を問うことは 現行の製造物責任法の射程外であるからである. 一方で,AI の進化に伴い懸念されることとしては, 自律した AI が自発的に人間に脅威を及ぼすといった 「ターミネーター的脅威論」は,真に検討が必要な問題 の非現実化につながるため,キャッチフレーズ的に脅威 論を誇張することは避けなければならない. ところが,AI の悪用や暴走は脅威になり得る問題と して検討が必要であろう.また,新しい技術の利用にお いては,「ファンクションクリープ(Function Creep)」 の問題がある.設計時点における本来の目的のための機 能が,当初の想定とは異なる目的で利用されることであ る.ディープラーニングにより進化する AI による想定 外の結果をもたらす可能性についても認識したうえでの 議論が必要であると考えられる.

4.研究および政策の動向

4・1 研究組織の系譜 研究組織としての研究については,国内では,2014 年 11 月 22 日に慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスが主催 し開催した SFC オープン・リサーチ・フォーラムにお いて,赤塚亮太氏が企画した「202X 年のロボットと社 会制度」に関するセッション*2が開催されたことが,こ の分野における法的課題に関する議論の端緒であったと 考えられる.この研究会を嚆こう矢しに,我が国においてもロ ボットをめぐる法的課題の研究が必要であるとの認識が 生じたといえよう. 人工知能の社会的受容性をはじめとする研究について は,2014 年 9 月号の「人工知能」(Vol. 29, No. 5)特集 「人工知能技術が浸透する社会を考える」を端緒に,「AIR (Acceptable Intelligence with Responsibility)*3 研究会」

が活動を行っている. 人工知能学会では,人工知能と社会との関わりについ て検討を行い社会に発信することを目的に,2014 年 12 月に倫理委員会が発足している.2016 年 6 月には倫理 綱領(案)が公表され,その後,「人工知能学会倫理指針」 (2017 年 2 月 28 日)が策定されるに至っている.倫理 指針は,① 人類への貢献,② 法規制の遵守,③ 他者の プライバシーの尊重,④ 公正性,⑤ 安全性,⑥ 誠実な 振舞い,⑦ 社会に対する責任,⑧ 社会との対話と自己 研鑽,⑨ 人工知能への倫理遵守の要請,から構成される [松尾 16]. AI技術の発展による社会的な影響を多面的に検討す る研究会として,「AI 社会論研究会*4」が,本特集の企 画者でもある高橋恒一と井上智洋の両氏により 2015 年 2月 5 日設立に設立されている.研究会は,高橋が提 唱する哲学(Humanity),経済学(Economics),法学 (Law),政治学(Politics),社会学(Sociology)(略称: HELPS)による多面的なアプローチを用いた研究を行 うことを目指している. 2015年 10 月 11 日には,「ロボット法学会設立準備 研究会*5」を科学未来館において開催した.ところが, 「ロボット法」という新法を制定してロボット関連技術 の規制を行うことが目的なのかといった批判や,ロボッ ト工学をはじめとする従来からの研究技術開発に係る長 年の蓄積や安全基準などの技術標準で対応できるにもか かわらず,ロボットに関する技術的知見に乏しい法学研 究者が検討などできるのかといったさまざまな批判が寄 せられた.その後も,「ロボット法」という単なる「法 律を制定」することがロボット法の目的であるという短 絡的な論調を改善することができないまま現在に至って いることは,ひとえに著者の力量不足であることは否め ない. これらの批判を受けて,「ロボット法学会」の設立は 当面見送りとし,国内におけるロボット法に関する学 *2 ロボット法─ 202X 年のロボットと社会制度(http://orf. sfc.keio.ac.jp/2014/420/)(2014 年 11 月 22 日). *3 AIR: Acceptable Intelligence with Responsibility(http://

sig-air.org/).

*4 AI 社会論研究会(http://aisocietymeeting.wixsite. com/ethics-of-ai).

*5 ロボット法学会設立準備研究会(http://robotlaw.jp/) (2015 年 10 月 11 日開催).

(3)

術研究組織として,「情報ネットワーク法学会の研究会」 として,「ロボット法研究会」を 2016 年 5 月 21 日に設 立*6し,今後の法的・政策的研究の場として継続的な研 究会開催を行うことで,AI およびロボットをめぐる法 的課題の研究の実施を予定している. 4・2 基 本 政 策 AIおよびロボットの利用をめぐる基本政策としては,

「ロボット新戦略(Japan’s Robot Strategy ─ビジョン・ 戦略・アクションプラン)」が,2015 年 2 月 10 日に日 本経済再生本部決定として公表された.内閣官房に設置 された「ロボット革命実現会議」が経済産業省の協力の もと作成した戦略である.戦略の特徴は,従来の産業用 ロボットにとどまらず,ロボットの概念を広く柔軟に捉 え,「① 世界のロボットイノベーション拠点─ロボット 創出力の抜本的強化」,「② 世界一のロボット利活用社 会」,「③ 世界をリードするロボット新時代への戦略」を ロボット革命の実現に向けた戦略の三本柱としている. 戦略実現のための組織として,「ロボット革命イニシア ティブ協議会」が設立されている.なお,政策動向とし て具体的な検討が進んでいる課題としては,自動走行, 無人航空機,人工知能があげられる. 総合科学技術・イノベーション会議は,「第 5 期科学 技術基本計画」[内閣府 17] を策定し 2016 年 1 月 22 日 に閣議決定されている.基本計画では,Society 5.0 の 実現のために人工知能技術も重要な役割を担うことに加 え,科学技術イノベーションと社会との関係深化の重要 性,そのために倫理的・法制度的・社会的取組みを行う べきとしている.また,「「超スマート社会」の実現に向 けた共通基盤技術や人材の強化」として,AI などの重 点的に取り組むべき技術課題などを明確にし,関係府省 の連携のもとで戦略的に研究開発を推進することを明示 している. 高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT 戦 略本部)データ流通環境整備検討会は,「AI,IoT 時代 におけるデータ活用ワーキンググループ中間とりまと め」(2017 年 3 月 15 日)を公表している.IoT 機器の 普及や AI の進化などにより,多種多様かつ大量のデー タを効率的かつ効果的に収集・共有・分析・活用するこ とが可能となっている一方で,民間の企業などにおいて それらの情報が十分に活用される環境にないことから, 多種多様かつ大量のデータの活用を可能にすることで AIの潜在能力を最大限発揮し,第四次産業革命(Society 5.0)の実現に貢献することを目的とした検討がなされ た.個人を中心とした仕組みの実現として,十分な情報 に基づく個人の意思決定を可能とする,安全・安心かつ わかりやすい仕組みとして,民間企業などから提案され ている PDS(Personal Data Store)や情報銀行などの 推進が提示されている.

5.AI をめぐる政策動向

5・1 総務省における検討 AIをめぐる政策的な検討については,総務省が 2015 年 2 月から「インテリジェント化が加速する ICT の未 来像に関する研究会」を開始している.政策的な側面か らの検討において,用語として「シンギュラリティ」を 政策的な検討会として初めて用い,シンギュラリティを も見越して将来的な長期にわたる検討が必要であるとの 認識を広めるきっかけとなった. 2016年 2 月からは「AI ネットワーク化検討会議」と して検討が継続し,2016 年 4 月 15 日に中間報告書とし て「AI ネットワーク化が拓く智連社会(WINS(ウイン ズ))─第四次産業革命を超えた社会に向けて─」が公 表されている. 中間報告書では,(1)機能に関するリスク/法制度・ 権利利益に関するリスク,(2)AI ネットワーク化の進 展段階とリスクの顕在化,(3)予測可能なリスク/不 確実なリスク,という観点から詳細な検討を行っている [総務省 17]. 報告書では,(1)目指すべき社会像として,「高度情 報通信ネットワーク社会」,「知識社会」の次に目指すべ き社会像として,「智慧」の連結に着目して「智連社会」 (Wisdom Network Society: WINS(ウインズ))を構想. (2)AI ネットワーク化の影響として,公共(まち)/生 活(ひと)/産業(しごと)の分野ごとに,2020 年代~ 2040年代の時系列で影響を評価.(3)AI ネットワーク 化のリスクとして,AI ネットワーク化のリスクを検討 するための枠組みの整理および現時点で想定されるリス クを例示.(4)当面の課題として,研究開発の原則の策 定,利用者保護の在り方,社会の基本ルールの在り方な どを提示し,AI ネットワーク化をめぐる諸課題に関し, 継続的に議論する国際的な場の形成および国際的な場で の議論に向けた国内での検討体制の整備の必要性を提唱 している. 報告書で示された AI 研究開発 8 原則は,2016 年 4 月 に開催された G7 サミットの情報通信相会合*7において 公表され各国の同意を得ている. 研究開発に関する原則として示された 8 原則は,① 透明性の原則(AI ネットワークシステムの動作の説明 可能性および検証可能性を確保すること),② 利用者支 援の原則(AI ネットワークシステムが利用者を支援す るとともに,利用者に選択の機会を適切に提供するよう *6 情報ネットワーク法学会特別講演会「ロボット法研究会」設 立記念シンポジウム(http://www.in-law.jp/bn/2016/ 20160331-2.html)(2016 年 5 月 21 日開催). *7 G7 香川・高松情報通信大臣会合(http://www.soumu.go.jp/menu_news/kaiken/01koho01_02000492.html).

(4)

配慮すること),③ 制御可能性の原則(人間による AI ネッ トワークシステムの制御可能性を確保すること),④ セ キュリティ確保の原則(AI ネットワークシステムの頑 健性および信頼性を確保すること),⑤ 安全保護の原 則(AI ネットワークシステムが利用者および第三者の 生命・身体の安全に危害を及ぼさないように配慮するこ と),⑥ プライバシー保護の原則(AI ネットワークシス テムが利用者および第三者のプライバシーを侵害しない ように配慮すること),⑦ 倫理の原則(ネットワーク化 される AI の研究開発において,人間の尊厳と個人の自 律を尊重すること),⑧ アカウンタビリティの原則(ネッ トワーク化される AI の研究開発者が利用者など関係ス テークホルダへのアカウンタビリティを果たすこと)と なっている.なお,AI ネットワーク社会推進会議報告 書 2017(2017 年 4 月 27 日)では,これら 8 原則に「連 携の原則」が追加された 9 原則として構成される予定と なっている. これらの成果を国際展開するための取組みとしては, 総務省「AI ネットワーク社会推進フォーラム」(国際シ ンポジウム)(2017 年 3 月 13 ~ 14 日)が開催されている. 5・2 人工知能技術戦略会議における検討 「人工知能技術戦略会議」は,2016 年 4 月 12 日に開 催された日本経済再生本部の第 5 回「未来投資に向けた 官民対話」において,人工知能の研究開発目標と産業化 のロードマップを策定するための会議として創設された 会議である.AI 技術の研究開発と成果の社会実装を加 速化させるために「研究連携会議」と「産業連携会議」 が設置されている.本会議は,総務省・文部科学省・経 済産業省が所管する五つの国立研究開発法人を総括し, AI技術の研究開発を進めるとともに,AI を利用する側 の産業の関係府省と連携し,図 1(人工知能研究の体制) の体制にて AI 技術の社会実装を進めている. 2017年度の検討結果として,人工知能技術戦略会議*8 「人工知能技術戦略」(2017 年 3 月 31 日)を公表してい る.当該戦略では,政府における人工知能技術開発に係 る推進体制,人工知能とその他関連技術の融合による産 業化のロードマップ,3 センターを中心とした人工知能 技術の研究開発および社会実装に係る取組みを示してい る.当該目標を達成するため,「人工知能の研究開発目 標と産業化のロードマップ」(2017 年 3 月 31 日)を公 表している. 5・3 内閣府における検討 内閣府「人工知能と人間社会に関する懇談会」は, 2016年 5 月 30 日から検討を開始している.検討結果と して,内閣府「人工知能と人間社会に関する懇談会」報 告書(2017 年 3 月 24 日)を公表している. 検討にあたっては,将来的に生ずる可能性がある問題 などの長期的な視点から検討が求められている事項では なく,現在の技術かつ現時点で検討が必要な問題を検討 の対象とし,現実問題として対応が求められる事項の討 議が行われた.その結果,① 倫理的論点,② 法的論点, ③ 経済的論点,④ 教育的論点,⑤ 社会的論点,⑥ 研究 開発的論点に論点を集約しつつ,各論点の議論を踏まえ て全体として検討が必要な問題を明らかにすることを目 指す報告書が公表されている.なお,討議内容について は,ブレーンストーミング的に委員から多種多様な意見 を表明してもらい,それを分析する試みがなされたが, その際に,議事録の内容を AI で分析することで,発言 内容の分析を行うなど興味深い取組みも実施された. 5・4 知的財産戦略本部における検討 知的財産戦略本部検証・評価・企画委員会新たな情報 財検討委員会は,「データ・人工知能(AI)の利活用促 進による産業競争力強化の基盤となる知財システムの構 築に向けて」(2017 年 3 月)を公表している. AIが自律的に作成した著作物は,自然人による創作 ではないことから著作権の保護対象に含まれないという 問題がある.しかし,今後は AI が作成した創作物のよ うな作品の増加が見込まれており,それらの作品が著作 物として保護対象にならないことについて,知的財産法 ではどのように対応すべきか検討がなされた. その背景には,データや AI の利活用を最大限に進め て我が国の産業競争力の強化を図るためには検討が不可 欠であるという問題認識がある.そのため,著作権・産 業財産権・その他の知的財産すべてを視野に入れて新た な情報財を最大限利活用できる基盤となる知財システム を検討し構築することが重要であるため,次の基本的視 点を基礎として検討が行われた. ① 産業競争力強化の視点(知的財産としてのデータ や AI が最大限利活用され,幅広い産業において付 加価値が創出され,産業競争力強化が図られること を目指す). ② 保護と利活用のバランスの視点(データや AI に *8 AI ポータル(http://www.nedo.go.jp/activities/ ZZJP2_100064.html). 図 1  人 工 知 能 技 術 戦 略(http://www.nedo.go.jp/ activities/ZZJP2_100064.html)

(5)

関する当事者の投資活動などが適切に保護されると ともに,円滑かつ積極的な利活用がなされるバラン スの取れた仕組みを目指す). ③ 国際的視点(経済・産業のグローバル化がますま す進展している中,データや AI の前提であるディ ジタルネットワークに関する制度をどのようにすべ きかについては国境を越えた課題であることを踏ま え,国際的な視点を踏まえた仕組みとすることを目 指す). 5・5 経済産業省における検討 産業構造審議会新産業構造部会では,第四次産業革 命に向けた施策として 2016 年 8 月から検討がなされ, 2017年 5 月 30 日に「『新産業構造ビジョン』一人一人の, 世界の課題を解決する日本の未来 [産業構造審議会新産 業構造部会]」が公表された. 新産業構造ビジョンは,IoT,ビッグデータ,人工知 能(AI),ロボットに代表される技術革新によって構造 的課題解決に取り組むことで,経済成長はもとより豊か な社会を実現するための施策をまとめたものである.中 長期的な将来像と戦略を示し具体化するための「目標逆 算ロードマップ」を定め,具体的な制度改革を見据えた 「突破口プロジェクト」をとりまとめている. 5・6 産業界における検討 産業界における検討としては,産業競争力懇談会が, 産業における AI の利用に向けた検討実施している.報 告書として,産業競争力懇談会(COCN)「AI・ロボット・ 人の共進化による産業力向上の実現 [産業競争力懇談会 a]」(2016 年 3 月),産業競争力懇談会(COCN)「人工 知能間の交渉・協調・連携による社会の超スマート化~ それぞれの目的の円滑な達成と互恵関係の形成~ [産業 競争力懇談会 b]」(2017 年 2 月 15 日)が公表されている.

6.自動走行をめぐる政策動向

6・1 国土交通省および経済産業省における検討 自動走行をめぐる近時の検討は,2015 年 2 月から国 土交通省・経済産業省「自動走行ビジネス検討会」が検 討を開始し,自動走行ビジネス検討会報告書「今後の取 組方針」(2016 年 3 月 23 日)が公表されている. 報告書では,自動走行(一般車両:レベル 2,3)は, 早ければ 2018 年までに,自動走行(レベル 2)を実現し, 協調が重要となる 8 分野を設定し,既存事業も活用しつ つ,取組みを進める(地図,通 信,社会受容性,人間工 学,機能安全など,セキュリティ,認識技術,判断技術). 自動走行(一般車両:レベル 4)は,専用空間などにお ける実施を先行して検討し,一般交通との混在も含めた 実施について,海外を含め幅広い関係者の考え方を収集 して検討を深めるとしている. 隊列走行(トラック:レベル 2)は,夜間長距離輸送 などにおいて,後続車両無人の 3 台以上の隊列走行を実 現するとしている. 自動バレーパーキング(専用空間:一般車両:レベル 4)は,2020 年頃に,専用駐車場における自動バレーパー キングを実現し,車両と駐車場の役割分担や標準化につ いて,関係者の合意形成を進めるとしている. その他,ラストワンマイル自動走行(専用空間など: 専用車両:レベル 4)として,専用空間における自動走 行(レベル 4)より,過疎地などにおける新たな移動サー ビスの実現を目指している.さらに,国際的なルール (基準・標準)づくりへの戦略的取組みへの参画や,産 学連携の促進により高度な自動走行の実現に向けて「学」 の担うべき役割や分野などについて検討するとしてい る. ただし,検討会では車両を中心とした検討を進めてお り,制度やインフラ側からの検討は対象外としている. 6・2 警察庁における検討 自動走行の制度的課題の検討は,① 自動走行システム に関する公道実証実験のためのガイドライン案の作成, ② 自動走行についての法律上・運用上の課題の整理を目 的として,警察庁の「自動走行の制度的課題等に関する 調査検討委員会」が 2015 年 10 月から検討を開始して いる. 検討委員会では,自動走行技術への期待として,渋滞 の解消・緩和(交通流の円滑化を実現するための最適な 走行を実現することにより,渋滞の解消や大幅な緩和効 果が期待される),交通事故の削減(自動走行の安全性 の向上により,人的ミスや前方の情報不足などに起因す る交通事故の削減効果が期待できる),環境負荷の低減 (不要な加減速の低減,空気抵抗の低減,渋滞の抑制な どにより,燃費向上や CO2の削減効果が期待される), 高齢者などの移動支援(運転負荷を大幅に軽減し,高齢 者の移動を支援するとともに,高齢者特有の交通問題を 解決することが期待できる),運転の快適性の向上(運 転負荷を大幅に軽減することにより, 長距離の移動でも 疲労が少なく移動することが期待できる)ことを,運転 支援システム高度化計画(平成 25 年 10 月運転支援シス テム高度化計画策定関係省庁連絡会議決定)に基づいて 示している. 検討委員会では自動走行の制度的課題を調査し,2016 年 4 月 7 日に「自動走行の制度的課題などに関する調査 検討委員会」の報告書を公表した.自動走行をめぐる制 度的課題を業界団体や研究者へのヒアリングなどを通じ て包括的に検討を行い,2016 年 5 月に「自動走行シス テムに関する公道実証実験のためのガイドライン [警察 庁 17a]」を提示した. ガイドラインでは,① 公道実証実験に用いる車両が道 路運送車両の保安基準の規定に適合していること,② 運

(6)

転者となる者が実験車両の運転者席に乗車して,常に周 囲の道路交通状況や車両の状態を監視(モニタ)し,緊 急時などには,他人に危害を及ぼさないよう安全を確保 するために必要な操作を行うこと,③ 道路交通法を始め とする関係法令を遵守して走行することについて,これ らの条件を満たせば,現行法上,公道実証実験を行うこ とを可能とした. 実施主体の責務については,① 実施主体の基本的な責 務,② 公道実証実験の内容などに即した安全確保措置, ③ テストドライバーの要件,④ テストドライバーに関 連する自動走行システムの要件,⑤ 公道実証実験中の実 験車両に係る各種データなどの記録・保存,⑥ 交通事故 の場合の措置,⑦ 賠償能力の確保,⑧ 関係機関に対す る事前連絡について定めている. その後も継続的な検討が行われており,「自動運転の 段階的実現に向けた調査研究報告書 [警察庁 17b]」が 2017年 3 月に公表され,「遠隔型自動走行システムの公 道実証実験に係る道路使用許可の申請に対する取扱いの 基準(案)」が 2017 年 4 月 14 日(金)から 5 月 7 日(日) の期間でパブリックコメントが実施された. 6・3 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP) 自動走行の実現のために必要な技術的・制度的課題に ついては,「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP) (2015 年 5 月 21 日)」(内閣府,警察庁,総務省,経産省, 国交省)に課題が示されている. 自動走行システムの開発・実証については,① 地図情 報高度化(ダイナミックマップ)の開発,② ITS による 先読み情報の生成技術の開発と実証実験,③ センシング 能力の向上技術開発と実証実験,④ ドライバーと自動走 行システムの HMI 技術の開発,⑤ システムセキュリティ の強化技術の開発,⑥ 自動走行システムの早期実現化に 向けた事業化研究と実証実験をあげている. 交通事故死者低減・渋滞低減のための基盤技術の整備 については,① 交通事故死者低減効果見積もり手法と国 家共有データベースの構築,② ミクロ・マクロデータ解 析とシミュレーション技術の開発,③ 地域交通 CO2排 出量の可視化を示している. 国際連携の構築については,① 国際的に開かれた研究 開発環境の整備と国際標準化の推進,② 自動走行システ ムの社会受容性の醸成,③ 国際パッケージ輸出体制の構 築を目指している. 次世代都市交通への展開については,① 地域交通マネ ジメントの高度化,② 次世代交通システムの開発,③ アクセシビリティ(交通制約者対策)の改善と普及をあ げている.

7.無人航空機(ドローン)をめぐる政策動向

首相官邸屋上への無人航空機(UAV)落下事件を端緒 に,衝突や落下事故など安全面における懸念の高まりを 受け,2015 年に航空法が改正*9されている.(1)無人 航空機の飛行にあたり許可を必要とする空域,(2)無人 航空機の飛行の方法,(3)事故や災害時の公共機関など による捜索・救助などの場合の適用除外が定められ,無 人航空機一般に対する規制として,① 飛行禁止空域の設 定,② 夜間飛行禁止,③ 目視による常時監視,ただし 重量が 200 g 未満の無人航空機は規制対象外とすること が定められた. さらに,小型無人機などの飛行を禁止地域を定める「小 型無人機等飛行禁止法*10」が 2016 年 3 月 18 日に公布 され,4 月 7 日に施行されている.

8.今 後 の 展 望

本稿では,2017 年 5 月時点における我が国のロボット・ AIと法をめぐる政策動向を確認した.AI およびロボッ トをめぐる法的課題が現在に至るまで体系的に検討がな されていないことが問題であることは前述したとおりで ある. 国の新たな施策や戦略をとりまとめる際に,法的観点 から検討が必要な事項は多い.しかし,政策はあくまで 現行法の範囲内における検討が中心となり,その枠組み における規制緩和としての課題の提示にとどまることが 多々見受けられる.AI やロボットをめぐる今後の政策 立案とその実現にあたっては,以下の点に留意すべきで あることを述べて本稿のまとめとしたい. ① 社会実装に向けた包括的かつ体系的な課題の把握 と整理・検討が必要である.例えば,AI の普及で 社会的にどのようは影響が生ずるのか,自律型ロ ボットが暴走したときに誰がどのように責任を取る のか,技術,機能,法的・倫理的・社会的課題(い わゆる ELSI)など総合的な視点からの検討ととも に,将来的な課題やリスクへの備えも念頭に社会・ 制度の変化・変革に対応するための施策の検討が求 められている. ② 政策や施策立案の在り方については,各行政領域 によるパッチワーク的な検討ではなく,ロボットや AIの利用促進に向けた方針や政策(戦略)の統一 を図る一方で,画一化しない多様かつ柔軟な議論の ため多元的かつ多面的な検討(マルチステークホル ダプロセス)が重要である. ③ 継続的な検討が可能な体制整備が必須である.行 政による検討の重複や競合を避け,担当者の交代に よる施策検討の不連続や断絶が生じないよう,産学 *9 航空法の一部を改正する法律(平成 27 年法律第 67 号)2015 年 9 月 11 日公布,12 月 10 日に施行. *10 国会議事堂,内閣総理大臣官邸その他の国の重要な施設等, 外国公館等及び原子力事業所の周辺地域の上空における小型 無人機等の飛行の禁止に関する法律(平成 28 年法律第 9 号).

(7)

民官の参画による継続的な検討体制の整備が不可欠 である. ④ 規制の不存在に伴う萎縮効果の解消・ガラパゴス 化しない配慮も必要である.自動運転車の公道走行 を禁止する法令がないにもかかわらず,公道走行の ルールがないために研究開発をためらわせたり普及 が遅れてはならない. ⑤ 国際協調ではなく国際的イニシアティブの獲得に 向けた検討を目指すべきである.ロボット大国の 地位を維持するためには,安易に協調して情報やノ ウハウが盗まれることを避けるとともに,諸外国の 取組みに先駆けて新たな視点からの検討を行う際に は,日本の法文化や法令遵守意識と国外の状況の違 いを認識したうえでの施策検討が必要である.

◇ 参 考 文 献 ◇

[Calo 16] Calo, R., Froomkin, A. M. and Kerr, I.: Robot Law, Edward Elgar Pub(2016)

[警察庁 17a] 警察庁:自動走行システムに関する公道実証実験の ためのガイドライン(平成 28 年 5 月),https://www.npa. go.jp/koutsuu/kikaku/gaideline.pdf [警察庁 17b] 警察庁:自動運転の段階的実現に向けた調査研究 報 告 書,https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/ council/jidounten/28houkokusyo.pdf(2017 年 3 月) [松尾 16] 松尾 豊,西田豊明,堀 浩一,武田英明,長谷敏司,塩野 誠,服部宏充,江間有沙,長倉克枝:人工知能と倫理,人工知能, Vol. 31, No. 5, pp. 635-641(2016) [内閣府 17] 内閣府:第 5 期科学技術基本計画(平成 28 年 1 月 22 日 閣議決定),http://www8.cao.go.jp/cstp/kihonkeikaku/ index5.html [夏井 17] 夏井高人:アシモフの原則の終焉─ロボット法の可能性 ─,法律論叢,第 89 巻第 4・5 合併号,明治大学法学部(法律 研究所)(2017)

[Pagallo 13] Pagallo, U.: The Laws of Robots - Crimes, Contracts,

and Torts, Springer(2013)

[産業構造審議会新産業構造部会 ] 産業構造審議会新産業構造部会: 新産業構造ビジョン,http://www.meti.go.jp/press/201 7/05/20170530007/20170530007.html [産業競争力懇談会 a] 産業競争力懇談会:AI・ロボット・人の 共進化による産業力向上の実現,http://www.cocn.jp/ thema86-L.pdf [産業競争力懇談会 b] 産業競争力懇談会:人工知能間の交渉・協 調・連携による社会の超スマート化,http://www.cocn.jp/ thema94-L.pdf [総務省 17] 総務省:『AI ネットワーク化検討会議』中間報告書 (平成 28 年 4 月 15 日),http://www.soumu.go.jp/menu_ news/s-news/01iicp01_02000049.html 2017年 7 月 4 日 受理

著 者 紹 介

新保 史生(正会員) 慶應義塾大学総合政策学部教授.博士(法学).専 門:憲法,情報法,ロボット法.憲法学会理事,情 報通信学会常務理事,法とコンピュータ学会理事, 総務省情報通信政策研究所特別上級研究員.2009 ~ 16年まで経済協力開発機構(OECD)情報セキュリ ティ・プライバシー部会(SPDE)副議長.総合科 学技術・イノベーション会議専門員,内閣府「人工 知能と人間社会に関する懇談会」委員,神奈川県「ロボット共生社会推 進検討会議」座長,総務省「AI ネットワーク化検討会議」委員,情報ネッ トワーク法学会「ロボット法研究会」主査.

参照

関連したドキュメント

市場動向 等を踏まえ 更なる検討

AI: Artificial Intelligence, DFFT: Data Free Flow with Trust, C4IR: Centre for the fourth Industrial Revolution network, GTGS: Global Technology Governance Summit, NFT:

DX戦略 知財戦略 事業戦略 開発戦略

1.2020年・12月期決算概要 2.食パン部門の製品施策・営業戦略

54 Zero Emission Tokyo 2020 Update & Report Zero Emission Tokyo 2020 Update & Report 55

子ども・かがやき戦略 元気・いきいき戦略 花*みどり・やすらぎ戦略

1-4 2030年に向けた主要目標 【ゼロエミッション東京戦略 2020 Update &

子ども・かがやき戦略 元気・いきいき戦略 花*みどり・やすらぎ戦略