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四〇頁−原判決破棄・自判

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判例研究

根抵当権の実行としての競売に関し︑申立書の記載が︑ 被担保債権の一部について根抵当権の実行をする旨及び その範囲を示すものではないとされた事例

平成一七年一一月二四日最高裁第一小法廷判決︵平成一五年︵受︶第二七八号

配当異議事件︶裁判所時報第一四〇〇号四六六頁︑金融・商事判例一二四〇号

四〇頁−原判決破棄・自判

・       手 賀   寛

       有する下記債権のうち︑下記記載の順序にしたがい上記金額に ︻判決要旨︼        満つるまで︒﹂との記載に続けて差押債権者が債務者に有する

 根抵当権の実行としての競売の申立書に︑﹁被担保債権及び  債権が順に記載されていても︑民事執行規則一七〇条四号︵平

請求債権﹂として﹁金八億円 但し︑債権者が債務者に対して  成一五年最高裁判所規則第二二号による改正前のもの︶の﹁被

被担保債権の一部を請求債権とする競売申立書の記載方法       ︵都法四十七−二︶ 二八五

(2)

二八六

 担保債権の一部について担保権の実行﹂をする旨及び﹁その範    権・請求債権目録﹂には︑﹁担保権﹂として本件根抵当権

 囲﹂を示す記載があるとは認められない︒       が記載されており︑﹁被担保債権及び請求債権﹂として︑

      ﹁金八億円 但し︑債権者が債務者に対して有する下記債 ︻事案︼      権のうち・下記記載の順序にしたがい上記金額に満つるま

  一.      で︒﹂との記載に続けて︑XがBに対して有する七件の手

  1.Vないし聡︵いずれも被告・被控訴人・被上告人︶︑孔︑   形貸付に係る各約定遅延損害金債権及び各元本債権がその

   脇︵共に被告・被控訴人︶及びAは︑それぞれ︑平成一一    順に記載されている︒

   年四月二二日︑Bとの間で︑B所有の土地一〇二筆︵以下︑   4.執行裁判所は︑本件土地について︑代金を二五億四三八

   ﹁本件土地﹂という︒︶について︑Bを債務者とする順位一    五万一一二四円とする売却許可決定をなし︑代金の納付を

   番の根抵当権設定契約を締結し︑同月二八日︑その旨の根    受けた︒

   抵当権設定登記手続をした︒それぞれの根抵当権の極度額   5.Xは︑平成一三年一一月七日︑本件根抵当権の被担保債

   は︑本稿末尾の別表﹁極度額﹂欄記載のとおりである︒     権額を別表﹁届出債権額等﹂欄記載の遅延損害金及び元金

  2.X︵原告・控訴人・上告人︶は︑平成一二年三月一七日︑    の各額のとおり︑合計六三億六九三九万八四三六円と記載

   Aより︑A所有の前記根抵当権︵以下︑﹁本件根抵当権﹂    した債権計算書を提出した︒▽ら他の第一順位の各根抵当

   という︒︶及びその被担保債権全部を譲り受け︑同年四月    権者も︑別表﹁届出債権額等﹂欄記載の遅延損害金及び元

    一三日︑その旨の付記登記手続をした︒      金の各額のとおりと記載した債権計算書を提出した︒

  3.その後︑Bが破産宣告を受けると︑Xは︑平成一二年一   6.執行裁判所は︑平成一三年一一月二七日︑配当期日を開

   二月一一日︑神戸地方裁判所伊丹支部に対し︑本件根抵当    き︑配当表を作成したが︑各債権者への配当額は︑別表

   権に基づき本件土地の競売を申し立てた︵同庁平成=一年    ﹁配当額﹂欄記載のとおりであった︒これらの配当額は︑

   ︵ケ︶第二三三号︶︒執行裁判所は︑同月二八日︑申立てを    上記本件土地の売却代金から︑執行手続費用二五六六万九

   認め競売開始決定をした︒その際︑Xが提出した申立書    八六四円を控除した残額を︑X︑Yないし脇︑孔︑脇が    ︵以下︑﹁本件申立書﹂という︒︶中の﹁担保権・被担保債    それぞれ提出した債権計算書記載の債権額︵但し︑債権額

(3)

  が極度額を超えるものは極度額による︶の割合に応じて按   2.第一審裁判所は︑争点ωについては︑

  分したものであったが︑Xについては︑本件申立書に﹁被  ①民事執行規則一七〇条二号︑同四号は︑差押債権者が

  担保債権及び請求債権﹂として記載されていた八億円を債     自己のいかなる権利の行使として競売を申し立てるのか

  権額とした按分が行われていた︒Xは同期日において配当     を明確にするよう求めており︑請求債権とは︑差押債権

  異議の申出をしたが容れられず︑配当異議の訴を提起した     者がその民事執行手続において権利を行使することを選

  のが本件である︒   ︑      択した請求権又は被担保債権を意味するのであって︑配

 7.なお︑本件の係争中に︑珊及び孔が有していた本件土地     当の上限を画するにすぎないものではない︒差押債権者

  の根抵当権に係る権利は︑会社分割及び合併を経て︑▽     が請求債権を被担保債権の一部に限定した場合には︑そ

  ︵被控訴人訴訟承継人・被上告人︶に承継された︒         の他の被担保債権については︑請求債権を拡張する場合

       を除き︑その民事執行手続において権利を行使すること

二.       が許されず︑配当計算の基礎として算入することもでき

 ー.第一審︵神戸地裁伊丹支部平成二ご年︵ワ︶第四五三号︑     ない︒

  平成一四年三月二〇日判決︶では︑Xが請求債権を被担保  ②差押債権者以外の担保権者に対しては実体的債権額を

  債権のうち八億円に限定して申立てを行ったという認定の     基礎として配当計算がなされるが︑自ら民事執行手続の

  もと︑以下の二点が争点とされた︒      開始を申し立てた債権者と︑権利の行使をいわば強制さ

   争点ω XとYらに対する各配当金額を計算するにあた     れる他の担保権者との間に若干の取扱いの差があっても

    り︑計算の基礎となるXの債権額を請求債権の八億円     不合理ではない︒

    に限定すべきか︑実体的被担保債権総額である六三億     などの理由を挙げて︑差押債権者に対する配当計算の基

    六九三九万八四三六円とすべきか︒      礎額に請求債権以外の債権の金額を算入することは許され

   争点② 仮に配当計算の基礎が請求債権に限定されると    ない︑とし︑争点ωについても︑

    するならば︑Xの債権計算書の提出により請求債権の  ①自ら請求債権を限定した差押債権者がその拡張を求め

    拡張があったとみることができるか︒      ることは︑請求債権の限定に対する他の債権者らの信頼

被担保債権の一部を請求債権とする競売申立書の記載方法      ︵都法四十七−二︶ 二八七

(4)

二八八

   を裏切り信義誠実の原則に反する︒       を補足し︑特に争点ωについてより詳細に論じた上で︑第

  ②請求債権の金額は超過競売などの判断基準となるの  一審判決を維持し控訴を棄却した︒Xの原審で付加した主

   で︑開始決定後に拡張を許すと民事執行手続が不安定に    張︑及び原審の補足した理由は︑概略次のとおりである︒

   なり混乱するおそれがある︒       2.Xが付加した主張

  ③請求債権の拡張を認めると︑登録免許税免脱目的の濫  ①配当計算の基礎として実体的債権額によると解さない

   用的な申立てが行われるおそれがある︒      と︑差押債権者は︑配当段階で按分計算が行われること

  ④差押債権者が開始決定後に被担保債権の全部につき権   が確実であっても︑被担保債権全額を請求債権として高

   利を行使したいと考えた場合には︑二重開始決定を求め     額の登録免許税を納めて申立てをしなければならず︑経

   ればよい︒      済合理性に反する︒

   という理由から︑差押債権者が請求債権を被担保債権の  ②本件の担保権者間には︑各債権者の順位と極度額につ

  一部に限定して競売を申し立て︑これに基づき開始決定が     いての合意と︑この合意に基づいた清算の約定が存在す

  なされた後においては︑特段の事情のない限り︑差押債権     るから︑実体的債権額を配当計算の基礎とする特段の事

  者は請求債権の拡張をすることができず︑本件においては     情がある︒

  そのような特段の事情はないとして︑結果︑Xの請求を棄  ③被担保債権の存在は認められているのに︑申立て時に

  却した︒       請求債権を限定したために受けられるべき配当金が大幅

   Xはこれを不服として︑第一審判決の取消しと配当表の     に減少するのは︑Xの犠牲のもとYらが偶発的に利益を

  訂正を求めて控訴した︒      得ることになり不公平不合理である︒

       3.原審が補足した理由 三︐   ・       ①民事執行法および同規則において︑﹁配当の上限とし

 ー.原審︵大阪高裁平成一四年︵ネ︶第一三五三号︑平成一四     ての請求債権﹂と﹁按分計算の基礎となる請求債権﹂と

  年一〇月三一日判決︶は︑Xの付加した主張に応じて理由    を区別する考え方は採られていない︒同規則一七〇条は︑

       申立債権者が当該民事執行手続で権利行使する債権を請

(5)

        求債権として申立書に記載させる趣旨であり︑請求債権     できない︒

        は配当の上限額にすぎないものではない︒     ⑤登録免許税等の手続費用は︑最優先で配当を受けるこ

       ②本件申立書にみられる︑﹁被担保債権及び請求債権﹂  とができるのであるから︑登録免許税の負担は実体的債

        として︑﹁金八億円 但し︑債権者が債務者に対して有     権額によって配当計算を行う理由とならない︒

!    する下記債権のうち︑下記記載の順序にしたがい上記金  ⑥債権者間で民事執行手続外で法律の定めと異なる合意

        額に満つるまで︒﹂と記載し︑続けてXがBに対して有     が成立していたとしても︑執行裁判所としては︑配当期

        する各債権の順位を付す︑という記載の方法は︑通常の     日にすべての債権者間で合意が成立しない限り︑法律の

        一部請求による競売申立ての記載と異なるところがな     定めに従って配当をするほかなく︵民事執行法一八八条︑

        い︒本件申立書からは︑被担保債権及び請求債権が配当     八五条五項︶︑Xとしては︑民事執行手続外でしかるべ

        を受ける上限額の意味であり︑配当計算の基礎としては     き請求をする以外にはない︒

        被担保債権全額を用いる︑あるいは配当段階で請求債権  ⑦申立債権者自身が被担保債権の一部に限定して申立て

        を拡張できるという趣旨に解することはできない︒       をしたのであるから︑自身の配当が減少し︑他の債権者

       ③他の債権者は︑申立書の記載や従来の執行実務から   らが利益を得ることがあってもやむを得ない︒

        いって︑本件申立書記載の被担保債権及び請求債権を配

        当の上限額だと理解できないので︑配当計算の基礎とし   Xは原審のこの判断を不服とし︑上告受理申立てをした︒そ

        てXの実体的債権額を用いることは︑他の債権者らの期  の理由は次のとおりである︒

        待に反する︒        ︻上告受理申立て理由︼        ④Xが引用する判例︵最判昭和四八年四月五日判決・民

        集二七巻三号四一九頁︑同平成六年一一月二二日判決・  1.被担保債権の一部を請求債権として競売を申し立てた債権

        民集四八巻七号二二五五頁︶は訴訟上の一部請求に関す   者について︑配当金額の按分計算を行うにあたっては︑按分

        るものであり︑多数の利害関係人の中で手続を積み重ね   計算の基礎として被担保債権を用いる︵但し︑配当の上限は

        る民事執行では明確性が要求され︑同列に論じることは   請求債権額とする︶見解︵以下︑﹁被担保債権説﹂という︒︶

被担保債権の一部を請求債権とする競売申立書の記載方法      ︵都法四十七−二︶ 二八九

(6)

二九〇

 と︑按分計算の基礎として請求債権額を用いる見解︵以下︑    の期待を害することはないこと

 ﹁請求債権説﹂という︒︶があり︑東京地裁の運用は被担保債  ⑥被担保債権説に立っても︑手続の安定を害するなどの弊

 権説に︑本件第一審及び原審は請求債権説によっている︒     害は生じないこと

2.被担保債権説と請求債権説を比較すると︑以下の理由から ⑦一部請求と相殺の問題に関する最高裁判例の趣旨には被

 被担保債権説が妥当である︒      担保債権説こそが整合すること

 ①民事執行法八五条五項が実体法に従った配当の順位及び 3.仮に本件を請求債権の拡張の問題と捉えたとしても︑上記

  額の決定を定めていること︑及び民事執行規則一七〇条四   ①ないし⑦の点からすれば︑請求債権の拡張禁止の例外とし

  号にいう﹁担保権の行使﹂は︑﹁担保権に基づき配当を受   て︑拡張が許されるべきである︒

  けること﹂を意味し︑﹁按分計算の基礎とすること﹂を含

  まないこと       最高裁判所はXの上告受理申立てを受理し︑これを容れて︑

 ②被担保債権説は︑被担保債権を按分計算の基礎とし︑請 原判決を破棄・第一審判決を取消し︑本件配当表の各債権者に

  求債権の範囲内で配当を受けるという申立債権者の合理的  対する﹁配当実施額等︵円︶﹂欄記載の金額を︑別表の同各債

  意思に適うこと      権者に対する﹁変更後の配当額﹂欄記載の金額にそれぞれ変更

 ③被担保債権説は︑配当見込額に応じた登録免許税を支払 した︒その理由は以下のとおりである︒

  い︑実体法上有する被担保債権による按分割合に基づく配        ︻判決理由︼   当を受けるものであり︑登録免許税法の応益課税の趣旨に

  合致しつつ申立債権者の経済合理的選択を可能にすること   ﹁民事執行規則一七〇条は︑担保権の実行としての競売の申

 ④請求債権説は︑申立債権者の一部請求を事実上禁止し︑ 立書には︑﹃担保権及び被担保債権の表示﹄︵二号︶︑﹃担保権の

  過大な登録免許税の負担を課して不動産競売手続の利用を  実行又は行使に係る財産の表示﹄︵三号︶︑﹃被担保債権の一部

  著しく困難にするものであり︑また︑申立債権者の犠牲の  について担保権の実行又は行使をするときは︑その旨及びその

  もと他の債権者が偶発的な利益を得る不公平を招くこと   範囲﹄︵四号︶等を記載しなければならないと規定し︑同規則

 ⑤被担保債権説に立っても︑法的保護に値する他の債権者 一七三条一項︑≡二条一号は︑不動産に関する競売の申立書に

(7)

は当該不動産の登記簿の謄本を添付しなければならないと規定  権のうち﹃下記記載の順序にしたがい﹄八億円に満つるまでの

している︒︵中略︶上告人は︑本件申立書により︑本件土地に  配当を請求すること︑換言すると︑八億円までの範囲で配当を

対して本件根抵当権の実行としての競売を申し立て︑被担保債  請求することを示す趣旨のものと解するのが相当である︒すな

権の表示として本件手形貸付債権を記載しているところ︑本件  わち︑上記﹃被担保債権及び請求債権﹄の部分の記載は︑民事

申立書添付の登記簿謄本には︑本件根抵当権者らの順位一番の  執行規則一七〇条四号の﹃被担保債権の一部について担保権の

各根抵当権が記載されており︑また︑本件土地は︑競売により  実行﹄をする旨及び﹃その範囲﹄を示す記載であると解するこ

二五億四三八五万一一二四円で売却された価値を有するもので  とはできない︒

ある︒そして︑本件申立書には︑上告人が被担保債権の一部に   そうすると︑本件申立てにおいて本件根抵当権の実行の基礎

ついて本件根抵当権の実行をする旨の明示の記載はない︒    とされた被担保債権は︑本件手形貸付債権の全部であるという

 ところで︑本件申立書には︑﹃被担保債権及び請求債権﹄と  べきであり︑本件申立てに係る競売事件における配当額の計算

して︑﹃金八億円 但し︑債権者が債務者に対して有する下記  の基礎となる上告人の債権額は︑本件手形貸付債権の額とすべ

債権のうち︑下記記載の順序にしたがい上記金額に満つるま  きである︒﹂

で︒﹄との記載に続けて本件手形貸付債権の記載がある︒原審   このため︑原判決には﹁判決に影響を及ぼすことが明らかな

は︑この記載は上告人が被担保債権である本件手形貸付債権の  法令の違反があり︑原判決は破棄を免れない︒論旨は︑この趣

うち八億円の範囲で本件根抵当権の実行を申し立てる趣旨であ  旨をいうものとして理由がある︒そして︑前記事実関係によれ

ると解した︒しかし︑先に述べた本件申立書︵添付の不動産登  ば︑本件手形貸付債権の額は六三億六九三九万八四三六円︑上

記簿謄本を含む︒︶の全体の記載の中で上記﹃被担保債権及び  告人を除く本件根抵当権者らの各被担保債権の額は別表の﹃届

請求債権﹄の部分の文言を見れば︑同部分の記載は︑被担保債  出債権額等﹄欄記載のとおりであり︑以上の各被担保債権の額

権である本件手形貸付債権のうち八億円の範囲に限って本件根  を基礎として本件根抵当権者らの配当額を計算すると︑別表の

抵当権の実行を申し立てる趣旨のものとは解し難く︑本件手形  ﹃変更後の配当額﹄欄記載の各金額となる︒そうすると︑上告

貸付債権の全部について本件根抵当権を実行し︑本件手形貸付  人の請求は理由があるから︑これを棄却した第一審判決を取消

債権の全部を配当額の計算の基礎とした上で︑本件手形貸付債  して︑同請求を認容することとする︒﹂

被担保債権の一部を請求債権とする競売申立書の記載方法      ︵都法四十七ー二︶ 二九一

(8)

二九二

      録免許税法二条︑同別表第1一⌒五︶︶ことから︑担保目       ︻参照条文︼       的物の価値が被担保債権に比して少ないと見込まれる場合        ︵注1︶        民事執行規則︵平成一五年最高裁判所規則第二二号による改    に︑この負担を軽減する目的で行われるものであるが︑こ

      正前のもの︶第一七〇条       のような一部実行の申立ても︑民事執行手続における処分

        担保権の実行としての競売︑法第一九三条第一項に規定す    権主義の一つとして許容されている︒

        る担保権の実行若しくは行使又は第一八〇条の二若しくは第   2.本件は︑Xがこの一部実行を企図して担保権の実行を申

        一八〇条の三の規定による預託株券等若しくは振替社債等に    し立てたところ︑執行裁判所が︑Xと同順位根抵当権者ら

       関する担保権の実行︵以下﹁競売等﹂という︒︶の申立書に    との間で配当額の按分計算をするにあたって︑一部実行を

       は︑次に掲げる事項を記載しなければならない︒        ︐申し立てた請求債権額を計算の基礎としたため︑被担保債

       四 被担保債権の一部について担保権の実行又は行使をする    権全体を按分計算の基礎とした場合に比して配当額が減少

        ときは︑その旨及びその範囲       したXが︑被担保債権全体を基礎として按分計算した配当

      額へと配当表を訂正するよう求めた配当異議訴訟である︒       ︻批評︼        原審及び第一審は︑本件申立てが一部実行の申立てであ

       一.問題の所在       ると認定し︑配当額を同順位根抵当権者らと按分計算する

       ー.担保権の実行としての不動産競売の申立てに際し︑請求    に際し︑計算の基礎として︵一部実行の申立てがされた請

        債権を被担保債権の一部に限定した申立て︵以下︑コ部    ︑求債権額ではなく︶被担保債権全額を用いることができる

        実行の申立て﹂という︒︶がなされることがある︵民事執    か︑それによって︑X主張のように配当表における各債権

        行規則一七〇条四号︒以下︑単に﹁規則﹂という︒なお︑    者への配当額を変更することができるか︑について論じて

        以下︑本稿では本判決に準じ︑平成一五年最高裁判所規則    いた︒

︑     第二二号による改正前のものを指すが︑改正後も本判決と    そこで争点となったのは︑①一部実行の場合に︑按分計

        の関係で実質的な変更はない︶︒差押の登記に係る登録免    算の基礎として請求債権額ではなく被担保債権全額を用い

        許税の負担が請求債権額に比例する︵一〇〇〇分の四︒登    ることができるか︑又は②按分計算の基礎としては請求債

(9)

 権額を用いるが︑債権計算書の提出によって請求債権が被    権の一部について担保権の実行又は行使をするときは︑そ

 担保債権全額に拡張されたものと認めることができるか︑    の旨及びその範囲﹂を記載するように求めている︒では︑

 の二点である︒原審・第一審とも︑①②の双方について否    具体的にどのような記載が同条の︑﹁被担保債権の一部につ

 定し︑一部実行の場合には請求債権が配当の按分計算の基    いて担保権の実行﹂をする旨及び﹁その範囲﹂を示すもの

 礎となり︑本件においては請求債権の拡張は認められない    といえるのであろうか︒本判決以前において︑どのような

 ので︑配当表の変更は許されない︑としていた︒        議論がなされていたかを検討する︒

3.本判決は︑これに対し︑前記①②の争点には触れず︑本

 件申立書の記載によれば︑本件申立てはそもそも請求債権   ︵注−︶佐伯一郎.判批︑銀行法務21六二二号八九頁によれば︑パブ を被担保債透部に限定した申立てとはいξ︑とし ㌶麟鷲鱗竃鴛鯵ポぽ邊法

 て︑結果︑配当額の按分計算の基礎としては︑被担保債権      なっているので・あらかじめ売却価格を見込んで一部実行を申

 全体と等しい請求債権額を用いる︑と判示したものである︒     立てることが日常行われているとされる︒

 このように本判決はいわゆる事例判決ではあるが︑多数の

 関係者が存在する民事執行手続の明確性及び安定性を確保  二.従来の議論

 するためには︑申立書の記載自体において請求債権が客観   1.規則一七〇条四号に関しては︑従来︑一部実行が行われ

 的に特定されることは非常に重要であるにもかかわらず︑    たことを前提に︑請求債権の拡張の可否について論じられ

 一部実行の申立てをなすために競売申泣書に具体的にどの    ることが多かった︒そこでは︑前提たる一部実行にあたる

 ように記載すべきかについては︑従来あまり詳細に論じら    ための要件については︑申立書に﹁被担保債権の一部につ

 れてこなかった︒このため︑一部実行が認められるか否か    いて担保権の実行﹂をする旨及び﹁その範囲﹂の記載が必

 について︑申立書の記載の解釈を直接に検討して新しい判    要であるとの一般的な説明がなされるにとどまることが多

 断を示した本判決の意義は大きいといえる︒      く︑一部実行をする旨及び一部実行をする範囲を示すため

4.担保権の実行としての競売申立書の記載事項を定める規    には︑具体的にどのような記載が必要なのか︑という記載

 則一七〇条は︑一部実行に関し︑四号において﹁被担保債    方法については︑実務の運用に委ねていたためであろうか︑

被担保債権の一部を請求債権とする競売申立書の記載方法      ︵都法四十七⊥一︶ 二九三

(10)

二九四

 あまり論じられてはこなかった︒最も詳細に論じていると    債権の両者は︑一部請求をする場合を除き原則として一致

 思われるのが︑次に示す︑最高裁判所自身による文献であ    するから︑通常は﹃被担保債権および請求債権﹄として記

 る︒      載する︒﹂とするが︑これに従えば︑一部請求によって被

2.最高裁判所事務総局民事局監修﹃民事裁判資料第一七六    担保債権と請求債権が異なるに至った場合については︑少

 号 民事書記官事務の手引︵執行手続−不動産編1︶︵上︶﹄   なくとも﹁被担保債権および請求債権﹂と一括して表記す

 ︵昭和六三年︶一六頁は︑﹁不動産競売申立書等の点検事項﹂    るべきではなく︑被担保債権と請求債権を別個に記載すべ

 として︑規則一七〇条四号に関連しで︑﹁被担保債権の一    きだ︑ということになろう︒この見解も︑やはり︑申立書

 部について担保権の実行を求める場合には︑その旨及びそ    に請求債権と被担保債権とを別個に特定して記載すること

 の範囲の記載がされているかを確認する︒﹂﹁具体的には    が︑﹁被担保債権の一部について担保権の実行﹂をする旨

 三部として﹄﹃︵一部請求︶﹄等と記載させる︒﹂﹁被担保債    及び﹁その範囲﹂を示すために必要だと考えているといえ

 権の一部について担保権の実行を求める場合は︑﹃被担保    る︒       ︵注2︶  債権﹄と﹃請求債権﹄とを別に記載させる︒﹂とする︒     4.また︑阪本勤夫・東京地裁民事執行実務研究会﹃不動産

  これは︑①=部として﹂﹁︵一部請求︶﹂等の記載と︑  競売申立ての実務と記載例︹全訂三版︺﹄︵平成一七年九月︶

 被担保債権と請求債権を別々に特定して両者が異なること    二七三頁は︑被担保債権の一部について担保権を実行する

 を明確にする記載の両方をもって︑﹁被担保債権の一部に    には︑①被担保債権が単数で︑そのうちの一部についての

−ついて担保権の実行﹂をする旨を明らかとし︑②被担保債    み請求をする場合と︑②被担保債権が複数で︑そのうちの

 権とは別個に特定された請求債権を記載させることで︑   ある債権のみについて請求をする場合の︑二つの形態があ

 ﹁被担保債権の一部について担保権の実行﹂をする﹁その    るとし︑申立書の記載方法としては︑﹁①のケースについ

 範囲﹂を申立書において明示させるもの︑と評価できよ    ては︑たとえば︑被担保債権が一口の一〇〇〇万円で︑そ

 う︒       のうち五〇〇万円についてのみ請求するならば︑﹃被担保

3.次に︑古島正彦・園部厚﹃書式不動産執行の実務︹全訂    債権﹄として︑﹃金一〇〇〇万円︑ただし︑平成○年○月

 六版︺﹄︵平成一七年五月︶七八頁は︑﹁被担保債権と請求    ○日付金銭消費貸借に基づく貸金﹄とし︑次いで項を﹃請

(11)

︑求債権﹄として︑﹃金五〇〇万円︑ただし上記被担保債権    請求債権の拡張の可否に関する事例が多かった︒すなわち︑

 一〇〇〇万円の内金﹄と記載すればよいであろう︒﹂﹁②の    債権者がその意思により︑又は誤記や計算間違い等により︑

 ケースの場合も︑被担保債権としてすべての債権を掲げ︑    その有する債権の一部のみを請求債権として競売を申し立

 請求債権を別項としてあげることになろう﹂とする︒これ    て︑後に残部について請求債権に含めるよう拡張を求めた︑       ︵注3︶  も︑被担保債権とは別に請求債権を特定して記載させるこ    というケースである︒この問題に関連して︑民事執行法下

 とで︑請求債権が被担保債権の一部であること︑すなわち    で以下の二件の最高裁判決が出されているが︑一部実行に

 被担保債権の一部について担保権の実行をする旨と︑被担    あたるか否かの認定に関しても︑重要な示唆を含むものと

 保債権の一部である請求債権の範囲を︑申立書の記載によ    考えられる︒

 り明らかにさせるものといえよう︒      2.一四年判決

5.以上のように︑本判決以前の文献においては︑規則一七     最三小判平成一四年一〇月二二日・裁判所時報二三一六

 〇条四号に基づく記載として︑①﹁一部として﹂﹁︵一部請   号三頁︵以下︑=四年判決﹂という︒︶は︑執行申立書に

 求︶﹂等の文言の記載︑②被担保債権を特定した記載と︑    記載した請求債権の金額に誤記・計算違いがあったが︑債

 被担保債権と別に特定した請求債権の記載とを併記するこ    権計算書でこれを訂正したという事案につき︑﹁競売申立

 と︑が挙げられ︑①②の両方の記載を要求する見解と②の    書に明白な誤記︑計算違いがある場合には︑その後の手続

 を要求する見解︵もっとも︑この見解が①を不要とするも    においてこれを是正することが許されるものと解すべきで

 のであるかは明らかでない︶とが存在していた︒        あり︑これを一部請求の趣旨と解することは相当でない﹂

       と判断し︑正しい計算結果に基づいて配当表を変更したも ︵注2︶霧名義に係る請求権の一部について強製行を求める場合  ので齋・ ︑

  ざ規則一一一条四項︶についても同様である︒同書三頁︒        すなわち・同判決によれば・明白な誤記゜計算違いの結

      果︑執行申立書に記載した請求債権の金額が︑申立債権者

三︐従来の判例      が実体法上有する被担保債権の金額と異なっても︑そのこ

 ー.裁判例においても︑一部実行が問題とされるのはやはり︑    とをもって一部実行の申立てがあったと解するべきではな

被担保債権の一部を請求債権とする競売申立書の記載方法      ︵都法四十七−二︶ 二九五

(12)

二九六

 いこととなる︒       ると︑場合によっては当該競売手続の取消しが避けられ

3.一五年七月判決      なくなる事態を生じさせかねないなど︑競売手続の安定

(一

j最一小判平成一五年七月三日・裁判所時報一三四三号     性が害されるおそれがあるので︑競売申立債権者に︑競

  二〇二頁︵以下︑コ五年七月判決﹂という︒︶は︑根抵     売申立ての段階で︑被担保債権すなわち担保権の実行を

  当権の実行としての競売申立書に根抵当権の元本債権の     求める請求債権の額︵全額か︑一部の特定された額か︶

  全額が記載されながら附帯債権が存する旨の記載がな     を確定させようとする趣旨であると解される︒﹂

  く︑申立債権者が附帯債権をも含めた配当を受けるべく    ︵三︶そして︑配当表の変更に関しては︑﹁被担保債権の一

  配当表の変更を求めて配当異議を提起した︑という事案     部のみの実行を申し立てた者は︑当該手続において申立

  について︑以下のように判断している︒   ︑       てに係る債権の拡張を制限されてもやむを得ないという

︵二︶まず︑規則一七〇条二号︑同四号の趣旨については︑    ことができる︒しかし︑この結論は︑当該申立債権者の

  その原審である東京高判平成一四年八月二八日・判例時     選択を信頼した競売手続の関係者に対する禁反言の要請

  報一八〇七号九四頁を引用して次のように述べる︒       から生ずるものであって︑﹂﹁被担保債権の一部実行を申

  ﹁不動産競売の申立書には︑被担保債権及び請求債権の     し立てる意思はなく︑錯誤︑誤記等に基づき競売申立書

  表示を記載しなければならず︑かつ︑競売申立債権者が     に被担保債権の一部の記載をしなかった場合にまで︑一

  被担保債権の一部について担保権の実行又は行使をする     律に真実の権利主張を禁ずることが︑前記の禁反言から

  ときは︑その旨及びその範囲を記載しなければならない     の当然の帰結ということはできず︑規則一七〇条二号︑

  ︵規則一七〇条二号︑四号︶︒これらの規定の趣旨は︑被     四号の規定が予定するところということもできない︒﹂

  担保債権額が︑登録免許税の額の算定基準となることは     申立書の記載からは﹁直ちに︑上告人が附帯債権につい

  もとより︑いわゆる過剰競売や無剰余取消しの判断基準   ゜ ての優先弁済請求権を放棄し︑元本についてのみの実行

  となっており︵民事執行法六一条ただし書︑六三条︑七     の意思を表示したものと認めるには足りない﹂として︑

  三条等︶︑被担保債権額が不動産競売申立ての段階の後     配当表の変更を求めることができる事情の有無を審理さ

  ︵例えば配当手続の段階︶に至り拡張等により変更され     せるべく︑事件を原審へ差し戻している︒

(13)

︵四︶なお︑同判決の事案は︑申立書には﹁被担保債権及び      ら同年一一月一八日まで二九五日間の年一四%の割合による損

  請求債権﹂として﹁元金 六〇〇〇万円 但し︑債権者      害金︵中略︶として九二六円とすべきところを九二円との記載

  が債務者に対し︑平成六年一一月一五日付︵金銭消費貸      がされていた﹂が︑別途被担保債権が記載されていたのか否か

  借契約︶に基づいて貸付けた元金﹂と記載され・利息・     は定かではない︒

  損害金の記載はなかったというものであるが・このよう  四︐本判決の位置づけ

  な場合でも︑﹁錯誤・誤記等に基づき競売申立書に被担 −.以上を前提として本判決の位置づけを検討する︒

  保債権の一部の記載をしなかった﹂のではなく・被担保     本判決は︑本件申立書には︑﹁被担保債権及び請求債権﹂

  債権の一部実行を申し立てる意思であったならば・同判    として︑﹁金八億円 但し︑債権者が債務者に対して有す

  決に従えば︑被担保債権の一部のみが請求債権とされ・    る下記債権のうち︑下記記載の順序にしたがい上記金額に

  残部につい℃債権の拡張をすることは制限されることと    満つるまで︒﹂との記載に続けて本件手形貸付債権の記載

  なる︒       があるものの︑被担保債権の一部について本件根抵当権の

       実行をする旨の明示の記載はなく︑本件申立書の記載を全 ・

︵注3︶請求債権の拡張に関する裁判例の整理について・吉田直弘゜    体としてみれば︑上記﹁被担保債権及び請求債権﹂の部分

  判批・関西大学法学論集五四巻三号=九頁以下︑中島弘雅゜    の記載は︑規則一七〇条四号の﹁被担保債権の一部につい

  判批.法学研究﹇慶鷹義塾大学﹈七七巻一〇号一二九頁以下︑    て担保権の実行﹂をする旨及び﹁その範囲﹂を示す記載で

  野村秀敏.判批.NBL七八五号六六頁以下参照︒         あると解することはできない︑とする︒ ︵注︑︶申立書には︑請求債権とし三残元金五七九五万九・七・円 2.従来の議論との整合性という観点から︑﹂れをみると・本

  及びこの金額に対する平成九年一月二八日から支払済みまでの

  

N西%の割合による損害金との記警如え・同年二月三日 件申立圭白には︑①=部としてL﹁︵蔀請求︶﹂等の妾口   の内入弁済金一;芳二七三九円に対する同年一月二八日から   が記載されていない︒また︑②﹁被担保債権及び請求債権﹂

  同年二月一七日まで二一日間の年一四%の割合による損害金    との表記で︑単に﹁金八億円 但し︑債権者が債務者に対

  ︵中略︶として九三=二円とすべきところを九一二円︑同年一    して有する下記債権のうち︑下記記載の順序にしたがい上

   一月一八日の内入弁済金八一九一円に対する同年一月二八日か    記金額に満つるまで︒﹂との記載に続けて本件手形貸付債

被担保債権の一部を請求債権とする競売申立書の記載方法      ︵都法四十七−二︶ 二九七

(14)

二九八

 権を記載したのみでは︑被担保債権と請求債権との峻別が     債権と請求債権を一体として峻別することなく記載した

 なされておらず︑本件申立書の記載からは︑請求債権が被     場合でも︑﹁錯誤︑誤記等に基づき競売申立書に被担保

 担保債権の特定の一部の範囲であることを︑認めることは     債権の一部の記載をしなかった﹂のではなく︑被担保債

 できないといえる︒従って︑二.で挙げた従来の議論に    権の一部実行を申し立てる意思であったならば︑一部実

 よっても︑本件申立書は︑規則一七〇条四号にいう﹁被担     行の申立てがあったと認められることとなりうるため︑

 保債権の一部について担保権の実行﹂をする旨及び﹁その     本判決とは矛盾するようにも思われる︒

範囲﹂の記載を欠くこととなり︑本判決の立場と整合的に      だが︑一五年七月判決は︑実体的に存在する被担保債

 理解することができる︒       権のうち︑附帯債権が︵錯誤︑誤記等に基づくか否かは

3.次に︑三.に挙げた判例と本判決の関係を検討する︒      別として︶申立書に全く記載されていなかった事案につ

(一

j一四年判決と本判決の関係       いての判断であった︒そもそも申立書に一部債権の記載

   一四年判決は︑明らかな誤記・計算違いにより申立書     がないのであるから︑申立書の解釈としても︑また︑競

  記載の請求債権額が実体的に存在する被担保債権額と異     売手続の安定性確保︑及び︑申立書の記載を信頼した他

  なったとしても一部実行にあたるものではない︑とする     の債権者ら競売関係者の保護︑という観点からいっても︑

  ものであって︑いかなる要件を満たした場合に一部実行     申立書に記載のない債権が請求債権に含まれ︑被担保債

  と認められるのか︑についての十分条件を示したもので     権の全体について担保権が実行されていると認めること

  はない︒本判決は︑本件申立てが一部実行とは認められ     は不可能である︒このため︑申立書に記載されなかった

  ないとしたが︑これは︑被担保債権の全てが請求債権と     債権については請求債権から除かれ︑結果︑︵実体的に

  して申立書に記載されているためであって︑平成一四年     存在する被担保債権の一部が請求債権とならないという

  判決とは︑その事案を異にし︑矛盾しない︒      意味で︶一部実行となるのではあるが︑これは︑規則一

︵二︶一五年七月判決と本判決の関係       七〇条四号の予定する申立書において明示された一部実

   一五年七月判決に従えば︑申立書において一部実行を     行とは異なり︑むしろ規則一七〇条二号が求める﹁被担

  申し立てる旨の明示の記載がなく︑かつ申立書に被担保     保債権の表示﹂を欠いた結果ではないかと思われる︒一

(15)

五年七月判決は︑申立書に記載されなかったが実体的に      このように︑一五年七月判決は︑申立書記載の被担保

は存在する被担保債権を請求債権に含めることができる     債権がそのまま請求債権であるのを原則としながら︑例

か︑について判断したものといえる︵この点は︑誤記・     外的に申立書に記載されなかったが実体上存在する被担

計算違いによって申立書に記載のなかった被担保債権に     保債権を請求債権に含めることができる場合があるかに       ︵注5︶ ついて論じた一四年判決も同様である︶︒      ついて︑本判決は︑申立書記載の被担保債権がそのまま

 これに対し︑本判決は︑規則一七〇条四号の一部請求     請求債権であるのを原則としながら︑例外的に被担保債

が認められる場合︑すなわち申立書に記載された被担保     権の一部が請求債権から除かれる場合にあたるか︑とい

債権の一部が請求債権から除かれるのはどのような場合     う問題について論じたものであって︑両者は矛盾しない

か︑という問題を扱ったものである︒本件申立書には一     ばかりか︑申立書記載の被担保債権がそのまま請求債権

部実行である旨の明示がなく︑実体的に存在する被担保     であるという原則を維持しようとする姿勢として一貫し

債権全体が記載されており︑請求債権はその記載におい     ていると評価できる︒

て被担保債権と特に峻別されていなかったのであるか   4.まとめ

ら︑申立書の記載を全体として客観的にみて︑規則一七     以上述べたように︑本判決は︑従来の議論及び判例と整

○条四号の要求する︑﹁被担保債権の一部について担保    合的であると評価できる︒

権の実行﹂をする旨及び﹁その範囲﹂の記載があるとは     もっとも︑原審及び第一審が本件申立てを特に問題とす

いえない︒このため請求債権を被担保債権とは別に限定    ることなく一部実行の申立てであると認定していること︑

するための根拠がなく︑本件申立書記載の被担保債権す    特に原審に至っては︑本件申立書の﹁被担保債権及び請求

なわち実体的に存在する被担保債権全体が請求債権であ    債権﹂欄の記載の方法は︑﹁通常の一部請求による競売申

る︑と扱うべきこととなる︒よって︑差押債権者として    立ての記載と異なるところがな﹂いと認定していることを

は一部実行の意思で本件申立てを行っていたとしても    みると︑一部実行の申立てにあたって本件のような申立書

︵本件のXのように︶︑一部実行の申立てがされたとは認    の記載方法を採り︑これが一部実行の申立てと扱われ処理

められない︒      されることも︑実際には相当程度あったのではないかと思

被担保債権の一部を請求債権とする競売申立書の記載方法       ︵都法四十七ー二︶ 二九九

(16)

三〇〇

 ︵注6︶

われる︒      のような記載方法をとるものはなくなると思われるが︑執

 確かに︑本件申立書の﹁被担保債権及び請求債権﹂欄に    行申立書の記載方法については︑裁判所窓口での指導も含

よれば︑被担保債権とは別に︑それより少額の﹁金八億円﹂    め︑より一層明確なものにしてゆくことが望まれよう︒

との金額の記載があること︑﹁下記債権のうち︑﹂︑﹁上記金

額に満つるまで﹂と︑被担保債権たる本件手形貸付債権の   ︵注5︶この点で︑一般に請求債権の拡張の可否として論じられてい

全額について満足を得ることを予定していないとみられる      る問題の対象は︑規則一七〇条四号にいう﹁被担保債権の一部

記載もあることから・この﹁金八億円﹂を請求債権として     について担保権の実行﹂をする場△口よりも広く︑実体的には存       在する被担保債権が申立書に記載されなかったために請求債権 蔀実行を申し立てるものだと扱︑︐ことも元できそうで  から除かれた場合も含むこととなる・例えば・競±冗申立時には ある︒      被担保債権の全てが確定的に存在していたが・錯誤誤記等に

 しかし︑特に一部実行の旨を明示することなく︑﹁被担      より一部実行を申し立てる意思を欠いた状態で被担保債権の一

保債権及び請求債権﹂としたのみで︑両者を項を分けるこ      部実行を申立て︑その後︑配当段階等で請求債権額を拡張して

となく一体と表記し︑﹁金八億円﹂について特に請求債権      残余債権についても配当を要求するケース︵前掲︵注3︶吉田判

である旨の記載もない︑という本件申立書には︑請求債権      批一五八頁にいう事後的拡張型H︶がそれである︒

が被担保債権と異なる担保権実行の申立てであること・す   ︵注6︶本件についての無署名解説︵金融.商事判例=西○号四〇       頁︶も︑これまでには本件記載と同じような被担保債権及び請 なわち︑﹁被担保債権の一部について担保権の実行﹂をす  求債権の記載をした申立書による不動産競売の申立て事例は決

る旨及び﹁その範囲﹂の記載があったと認めることは︑や      して少なくないと思われる上・一部実行の趣旨でこのような記

はり無理があると考えられる︒このような認識のもと︑本      載をした申立債権者や︑その趣旨の申立てであるとして処理を

件申立書の﹁被担保債権及び請求債権﹂の記載を合理的に      した執行裁判所もあったと思われる旨指摘する︒

解釈するならば︑被担保債権全体を請求債権とした上で配

当を請求する範囲を示したもの︑との︑本判決の判断は妥 五・付記

当である︒       本判決ではそもそも一部実行であること自体が否定されたた

 本判決を契機に︑一部実行の申立てに際して本件申立書

(17)

    め︑被担保債権全体が請求債権とされ︑結果︑被担保債権全体  るから︑得られる満足に比して過大な手続費用を負担させるべ        ︵注8︶     が按分計算の基礎となった︒しかし︑原審及び第一審で中心的  きでなく︑この点においても被担保債権説の方が合理的である︒

    争点とされた︑①一部実行の場合に︑按分計算の基礎として請   ②については︑一五年七月判決が参考になる︒一部実行を申

    求債権額ではなく被担保債権全額を用いることができるか︑又  し立てた債権者が請求債権の拡張を制限される根拠は︑︑請求債

    は②按分計算の基礎としては請求債権額を用いるが︑債権計算  権をあえて被担保債権の一部のみに限定した申立債権者が後に

    書の提出によって請求債権が被担保債権全額に拡張されたと認  その拡張を求めることは︑他の債権者らとの関係で禁反言の原

    められるか︑については︑その前提たる一部実行該当性が否定  則にふれ信義則に反するためであるが︑これら信義則ないしは

    されたために︑判断の対象となっていない︒      禁反言の原則に反しないのであれば︑例外的に請求債権の拡張       ︵注9︶      このうち①については︑東京地裁が被担保債権説をとる旨の  が許される場合もありうる︒例えば︑根抵当権実行の申立時に          ︵注7︶     文献がみられるものの︑原審及び第一審のように請求債権説を  は未発生だった割引手形買戻請求権が競売手続進行中に発生す

    とる実務も存在するなど︑運用が定まっておらず︑最高裁の統  るなどして被担保債権の範囲が広がったときや︑求償債権を担

     一的判断が望まれるが︑以下の理由から︑私見としては被担保  保する抵当権について︑事前求償権を請求債権として競売の申

    債権説を採りたい︒まず︑申立債権者の合理的意思としては︑  立てをした後︑代位弁済し︑事後求償権に切替える場合には︑       ︵注10︶     担保不動産の価値を考慮して手続費用節約のため一部実行を申  信義則に反せず︑請求債権の拡張が許される︒一五年七月判決

    し立てたにすぎず︑按分計算の基礎となる債権を制限して自己  は︑禁反言の原則に反せず︑請求債権の拡張を認める余地があ

    の配当を減らし︑もって他の債権者を利する目的はないと考え  る場合として︑一部実行を申し立てる意思がなく錯誤や誤記等

    られる︒次に︑被担保債権説によっても︑請求債権の拡張とは  によって被担保債権の一部を申立書に記載しなかった場合をあ

    異なり︑申立債権者の受ける配当の上限は当初から申立書に記  げたが︑本件のXのように︑申立て時に被担保債権の存在を認

    載されていた請求債権額であるから︑他の債権者らの信頼を裏  識した上であえて一部実行を申し立てた債権者が︑按分計算に

・    切って不足の損害を与えることはなく︑信義則ないしは禁反言  よって予想外に配当額が減少したからといって請求の拡張を求

    の原則に反するとはいえない︒また︑最優先に弁済される手続  めるのは︑やはり禁反言の原則にふれ︑許されないであろう︒

    費用の増加は︑各債権者らの受ける満足の減少に繋がるのであ

被担保債権の一部を請求債権とする競売申立書の記載方法      ︵都法四十七−二︶ 三〇一

(18)

三〇二

︵注7︶︐東京地方裁判所民事執行センター﹁さんまエクスプレス第13

   回﹂金融法務事情一六六〇号三四頁︑東京地方裁判所民事執行

   センター実務研究会編著﹁民事執行判例エッセンス2002﹂

   ︹事案44︺判例タイムズ一一〇三号五一頁のコメント参照︒

︵注8︶前掲︵注7︶の各文献に加え︑原審の無署名解説︵判例タイム

   ズニ〇九号二六三頁︶が参考となる︒

.︵注9︶ 前掲︵注3︶吉田判批・申島判批・野村判批参照︒また︑実務

   の運用に関して︑﹁︿座談会v V 民事執行実務をめぐる最近

   の諸問題と対応策﹂金融法務事情二二七八号一一八頁以下参

   照︒

︵注10︶ この例について︑東京地裁民事執行実務研究会﹁改訂 不動       ︑

   産執行の理論と実務︵上︶﹂三五頁参照︒

︻参考文献︼

本文中に挙げたもののほか︑本件の評釈として︑吉田光碩・NBL八

二六号六頁︑河津博史・銀行法務21六六〇号四一頁がある︒

また︑脱稿後︑奈良輝久・本件判批・法の支配一四二号五七頁にふれ

た︒

(19)

額当己高日︶の円菱︵そ更変

111︐68β405 01﹂68β40554199422179777230394β2273445β421−3501﹂68β40545β421︐3506β37β833 額 ︶当円 ︵配 97β87β71597087β715941−91704287555β34329734β94787791−0697087β715787791︐06032851︐84

等額権債出届  ︻27ヱ957一234一8︐      ︐33一674ニー90二U盟路 ⁝ ↑60一620一200一〇︐       ︐∩V∩︶一〇i・6一764一〇麗幽 ︸− 一54一919一〇63一〇︐      ︐∩Vう﹂一3∩◎9一704一5劉ほ ⁝−

額度極円億95円億95円億40円億60円億10円億10円億95円億10円億65

者権債

1Y 2Y 3Y 4Y

 ︑5Y

6Y

︶分継承のりよ︐1α7Y︶分継承のりよ︐2ぽW

X

被担保債権の一部を請求債権とする競売申立書の記載方法      ︵都法四十七−二︶ 三〇三

参照

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