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デンマークの高齢者施設の特徴について

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(1)

デンマークの高齢者施設の特徴について

~オランダの高齢者施設との比較を通して~

熊 坂   聡1

 オランダは世界に先駆けて介護保険制度を導入し、民間組織を積極的に活用して、効率的に高齢者 に関する事業を進めていた。保険者、プロバイダー(介護サービスを提供する民間の組織)、住宅協会、

ハメンテ(自治体)、そしてボランティアを積極的に活用し、それらが連携して高齢者施設に関する事 業とケアを提供していた。一部には施設を大規模化することによって地域社会の一角を占め、地域福 祉に貢献する施設もあった。オランダは、デンマークよりも施設という形態を上手に地域社会に活用 していた。デンマークでは、高齢者に関する事業を自治体と住宅協会と民間組織によって進めていた。

デンマークは、民間活力ではなく、国と自治体が責任をもって提供する仕組みであり、安定した住居 と介護サービスの提供を実現していた。一方この仕組みによって、地域社会に対しては閉鎖的な面が あるなど、一部に課題があることも分かった。

Keywords

:保険者、プロバイダー、ハメンテ、民間活力、施設福祉、日課、個人の生活リズム、地域

はじめに

 筆者は、

2011

年度からデンマークの介護住宅、

および関係機関への聞き取り調査を続けている。

その内容は研究資料として有意であると判断し、

記録を圧縮し、若干の考察を加えて研究ノートと して寄稿してきた。今回は、2017年度に行った ヨーロッパという視点からみてデンマークの高齢 者施設の特徴を明らかにするその一環として、オ ランダのいくつかの高齢者施設の聞き取り調査結 果を寄稿する。

Ⅰ 調査目的

 オランダの高齢者施設の実際(サービス内容、

サービス提供システム、社会との関係)を調査し、

デンマークのそれと比較して、デンマークにおけ る高齢者施設の特徴をより明らかにすることが目 的である。

Ⅱ 調査の方法

 オランダの高齢者施設を訪問し、施設見学と概 要説明と合わせて一か所に付き

1

時間半程度のイ

ンタビュー調査を行った。聞き取りは、

IC

レコー ダーに録音し、逐語録にデータ化した。

 調査は、半構造化面接法を用い、①施設の概要、

②施設の課題、③高齢者政策の動向という3枠を 設けて、その枠の中で自由に話していただく方式 をとった。ただし、途中確認したいことが生じた 場合は随時質問させていただくことにした。

Ⅲ 記録方法 1. 逐語録の圧縮

 逐語録自体は、問答形式の膨大な記録なので、

本研究ノートに寄稿するに際しては、記録を圧縮 することとした。圧縮に際しては、次の原則を立 てた。

1

)できる限り逐語録にあるインタビュー回答者 の言い回しを残す。

2

)筆者のインタビューの言葉は入れず、回答者 の返答をまとめる。

3

)理解が難しい表現はその意図を変更しない範 囲で表現を一部訂正する。

(4)説明が重複している場合は削除する。

(5)質問の枠に入らない回答者の説明は削除する。

(6 )説明で理解できる内容は、それを補足する具

1.

宮城学院女子大学教育学部

(2)

体例を述べていても記録としては削除する。

(7 )文章化するに際して、回答者の説明の理解を 補足するため(注)を入れる。

2. 補足説明の入れ方

(1 )回答者の説明の意味がつながるように補足す る場合は文中に( )を入れる。

2

)回答者の説明に補足の説明を入れる場合は文 中に(注

 )を入れる。

3

)回答者の説明に補足を入れる場合は文中に

(注

1

)を入れ、節の末尾に【注】を設ける。

Ⅳ 前回までの調査との関連

 データ化した記録を元に、これまでのデンマー クの高齢者施設に関する調査で得た知見と比較す ることによって考察する。

Ⅴ 調査期間と調査対象 1. 調査期間

 2017年12月

4日

(月)~6日(火)

2. 訪問先の概要

(1) シニアアパートメント エリザベス・オッタークノル  ・住 所  Elisabeth Sophia Knoll

Loowaard 3, 1082 KR Amsterdam Nederland

 ・対応者  Petra Donkerペトラ・ドンカ

(施設長)

 ・訪問日 

2017

12

4

日(月)

2

)介護施設

Vreedenhoff

フレーデンホフ  ・住 所 

Zorgcentrum Vreedenhoff

Espertolaan 2,6824 LV ARNHEM Nederland

 ・対応者 

Wout Oldhoff

(取締役 所長)

 ・訪問日 

2017

12

5

日(火)

3

)高齢者複合施設

lingehof

リンガホフ

 ・住 所 

Gouden Appel 122 6681 WP Bemmel 6680 A D Bemmel Nederland

 ・対応者 

Patricia Bender

パオリシア・ベンダー

 (地域マネジャー)

Marloes Muijderman

マルルーズ・ムイダーマン  (セクションマネジャー)

 ・訪問日 2017年

12月 6

日(水)

(4) シニアアパートメント

Rinjwaaalリデュイナ

 ・住 所 

Gouden Appel 122 6681 WP Bemmel 6680 AD Bemmel Nederland

 ・対応者 

Helmin Lankhorst

ヘルミン・ランクホルスト

(地域マネジャー)

 ・訪問日 

2017

12

6

日(水)

Ⅵ 調査訪問者  熊坂聡、大橋杏子(調整・通訳)

Ⅶ インタビュー記録(圧縮)

1.シニアハウス エリザベス・オッタークノル

(シニアハウス

/

エリザベス・オッタークノル)

1

)施設概要

 このシニアハウスは、オッタークノル女史

Jo- hanna Elisabeth Sophia Knoll

1820-1900

)によっ て収入がない淑女に住まいを提供する目的で設立 された私設財団である。

1982

年にアムステルダ ムの中央から現在の場所に移った。

2012

年に再 度建設した。今は自立した高齢者が暮らすシニア ハウスになっている。サービスは、例えば、洗濯、

ゴミ運び、家事援助、医療的な連絡、食事の世話

(3)

などはジンジア(注

1)から提供を受ける。家の

中にベルがあって、毎日

12

時までにベルを押し て生きていることを証明することになっている。

ベルを押さないとスタッフが訪問する。日中はこ こにいる職員が対応するが、夜はこのアパートメ ントに住んでいる

13

人の学生(注2)が対応する。

学生が安い家賃で入居する代わりに夜間対応をす ることになっている。電灯の交換、庭木の手入れ、

パソコンのことなどもやってくれる。この団体は 私設財団が運営しているクローズドの団体である。

したがって、建設や運営に国からの助成はない。

ハイクラスの女性の生活を維持することを目的と して始められたが、今は男性も入居している。個 人が公的制度を使って、外からのケアを受けるこ とはできる。ここの運営費は、家賃とサービスに よる収入しかない。それでも、大きい部屋は

4

年 待ち、小さい部屋は

2

年待ちくらいである。ここ のようなシニアハウスは徐々に増えてきてはいる。

小さいスケールでよいサービスが受けられるよう なハウスである。

(2)入居者

 ここには、105人の個人、15組の夫婦、13人の 学生が住んでいる。高齢の入居者の年齢は69歳 から

104

歳までである。シャワー、ストッキング をはかせるなど毎日のケアが必要な入居者が

50

人いる。医療が必要になった場合、末期の癌になっ た場合には他の施設に移る。できるだけ一人で部 屋に置かないようにして、一緒に過ごすようにし ている。いろいろなアクティビティも行なってい る。認知症でもあまり狂暴的でなければ、できる だけここで生活できるようにしている。裸で徘徊 する人や暴力をふるう人はここにはいられなくな る。個々に暮らしながら必要があれば外部のいろ いろな公的医療や介護サービスを受けることがで きる。誰もが受けられる公的サービスを受けなが ら、このハウスで協力して暮らしている。

3

)地域

 地域の方との交流としては、公民館のアクティ ビティに入居者が行くことができるし、ここの アクティビティに招くこともある。(注3)

(4)職員

 スタッフは

9

人で、所長1人、経理

1人、受付 3

人、サービス担当が4名である。サービス担当ス タッフは、食事や洗濯ものを持ってきたり届けた り、サービスプログラムを作り、入居者の申込管 理などである。誰もフルタイムはいない。所長は 週

30

時間、経理は週

32

時間、後は大体週に

2

3

日の就労である(注

4

)。

(居室の居間、他に寝室、台所、トイレ、シャワー)

<考察~デンマーク高齢者施設との比較>

 日本では在宅の人が訪問介護を受けられるよう に、入居者が個人的に公的制度の介護サービスを 受けることができるという仕組みである。入居者 数に対して極端に雇用されている職員は少ないし、

勤務時間も短い。これでは、管理と軽微なサービ スしか提供できないだろう。したがって、他の入 居者に迷惑をかける程度の状況になった時は退去 しなければならない。このシニアハウスは、福祉 施設というよりは、高齢者向け高級住宅というと ころである。高齢者向けの介護施設でもアムステ ルンやジンジアといった公的な要素を備えた民間 のケア提供組織からケアスタッフの派遣を受けて 運営をしているので、一般住宅、集合住宅、介護 付き住宅、どの段階でも外付けで介護サービスを 付けることができる。デンマークでは、訪問介護 サービスは充実しているものの、高齢者施設に外 部組織がケアスタッフを派遣するという仕組みは ない。高齢者向け住宅だけを提供し、訪問介護を 組み合わせる施設としてエルダラボーリアという

(4)

中間施設はあるが、現在積極的には建設されてい ない。また、学生を住まわせ、夜間帯の管理を任 せるという仕組みは、業務上の責任として公的責 任で介護サービスを提供しているデンマークでは 導入は難しいだろう。オランダでは介護事業を民 間組織で育成してきたからこそ、住宅と介護の多 用な組み合わせが育っているといえるのかもしれ ない。

【注】

(1) ここに住む高齢者で介護サービスが必要な場合は、

ジンジアという介護サービス提供組織から提供を受 ける。一般住宅に訪問介護サービスを導入するのと 同じ。介護サービスが民間で育っている。

(2) シニアハウスの中の空いているいくつかの部屋を学 生に低家賃で貸し出し、代わりにボランティアや一 定の役割を果たしてもらう仕組み。デンマークには 見当たらない。

(3) 地域福祉との関係の質問に対する回答であった。こ のシニアハウスは私設なので、地域福祉に積極的に 貢献する動きは見られない。

(4) オランダには多様な働き方が認められており、その 一つが短時間勤務でも正規職員という仕組みである。

デンマークでは基本は8時間で勤務を組んでいる。

2.介護施設 フレーデンホフ

1

)概要

 この介護施設の建物は

1964

年に建設されて

53

年になる。プロテスタント系の財団(注

1

)が運 営するこの地域のみの介護施設である。アーネム

市内で最も小さいケアセンターで、約

200

人の高 齢者が5人の学生と共に生活している。毎日異 なったアクティビティなどを通して居住者が楽し く生き生きと暮らしていけることをモットーとし ている。“Old School”と称して、居住者が自分の 専門分野について語るオープンクラスも開かれる。

(2)ワウト オルトホフ/取締役、所長の経歴  所長は

53

歳で、

21

年間鉄道で働いていた。介 護の仕事について

7

年になる。この仕事に入った 理由は、自分の祖父がヘルスケアの仕事をし、母 親が心理ケアの仕事をし、妹が看護師、義理の姉 は医師、そして自分の妻も看護師、このような関 連で介護の分野で働くことになった。

3

)施設概要

 以前はオランダのヘルダーランド州というとこ ろにあってこの施設が一番大きかったが、今は組 織の統合が進んで大きな組織になったところがあ り、私たちの組織(施設)は、今は小さなサイズ の組織(施設)にランクされている。ただ、独立 し た 施 設 と し て は 大 き な 施 設 で あ る。 財 源 は、

WLZ(注 2)という長期ケアの制度が適用される。

ここに住む多くの方はこの制度の利用者である。

ZVW

(注3)は、在宅ケアの制度で、何種類かの 保険会社がこの制度によって在宅のケアを提供し ている。WMO(注

4)は地方自治体の制度である。

ここの施設の財源の

20

%を占めている。これら

3

つの制度が当施設に適用されているところがユ ニークで、運営が難しいところでもある。運営費 は

1350

万ユーロ(約

17

7

千万円)である。ケ アワーカーはいくつかの外部団体(注

5

)から来 ているが、主としてはインタームーアという組織 に委託している。

300

人のワーカーを雇っている が、フルタイムワーカーは

165

人である。ここで 行うリハビリの

80

%は認知症の方が対象であり、

30

%は身体的障害プログラム、あとは問題のない 高齢者プログラムである。

4

)施設の理念

 この施設では、サービスを分散せずに統一して 提供する仕組み(注

6)を貫いてきたため、国の

方針から逸れた施設になっていた。その結果運営

(5)

が難しく、2014年時点では入居者が少なくなっ ていた。そこで、いきいきと暮らせるように ア クティビティ、特別なケア、意義ある暮らしがで きる、このような特徴を盛り込むことによって、

みんながここに入居したいと思ってもらえるよう なケアにしようと心掛けてきた。ここがアーネム

(注

7)で「最も心地よいケアをできる」をビジョ

ンとしてきた。オランダに「イゼレッグ」という 言葉あり、「居て気持ちがいい・快適」という意 味で、そういう環境を提供することを使命として いる。

5

)施設のケア

 上図は「入居者の希望ピラミッド」である。ラ インより下のサービスはあって当たり前のもので ある。国民に気に入ってもらうためのサービスは、

ラインの上の部分である。人の交流、親しみのあ るアットホームな環境を作ることが施設としても 特色となる。障害者とともに、健常者や若い人が 入っていることで少しでも普通の集合住宅のよう にミックスされていることが大事だ。オランダに あるほとんどの施設は小規模で、

40

人から

50

人 が入居する施設で、押し込められているような状 態である。多くが認知症、病気、活動がない人(寝 たきり)である。そういう施設に家族が来ると、

悲しい気持ちになり、だんだんと来なくなる。し かし、ここに来ると、いろいろな人たちがいて、

認知症、学生、たくさんのプロラムによる交流が あって生き生きしているので、家族も安心するし、

来やすい。フレーデンホフはそういう施設になっ

ている。この施設は古いタイプであり、大きなア パートメントでもないので大きな部屋を提供する ことができない。一階でやっていたこの時期のオ ランダの伝統行事である「シントニクラス」は一 年に一回の行事である。今日も

80

人くらいが参 加している。このようなスケールでイベントがで きると人も集まってきて アクティビティをしや すくなる。そういうスケールメリットを持ってい る。音楽や映画、バザーもやっている。春のバザー、

インドネシアバザーなどをやると

80

%は外の人 が来る。ディナー、ファッションショー、スペシャ ル・アクティビティも行う。オールドタイマーズ という企画では、クラシックカーに乗って古い家 を訪問する。アイデアを発揮していろいろなこと をやる。モノポリ―ゲームをアーネムの町の中の 場所を指定してやった時は、ここに住んでいる人 は全く興味を示さなくて失敗だった。しかし、次 の日の新聞には大きく取り上げられた。ここでは、

入居者が

100

歳になるとその人の名前を付けた廊 下にしたり、ネームボードを貼りだしたりする。

市長も来るので、家族にとっても特別のことにな る。2016年の夏には、外にテントを張って、バー ベキューをやって、キャンプをやったが、テント に寝たいかと聞いたら

3

人が希望した。一人は68 歳の男性で片足しかない人で、他に

99

歳と

100

歳 の女性がテントで一晩寝た。自分の人生ではじめ てテントに寝たということだった。もちろん、面 白いイベントだったので

TV

で報道され、広く周 知された。これは若い人を入居させてアパート(施 設)の空き部屋を埋めるためのよい広告になった。

9

10

名の学生が興味を持ってくれた。はじめは 学生がうるさいのではないかと心配されたが、心 配はいらなかった。当初

5

名の学生が住んだ。学 生にとっては豪華なアパートメントである。バス トイレ付

28 m

2で月

2

万円払えばよい、その替わ り学生は月に

20

時間のボランティアをしなけれ ばならないことになっている。学生が施設に入居 するという方法は、デーヴェンタ (注

8

)にある 施設がはじめて行なった。

 20時間のボランティアは義務ではあるが、活

(6)

動内容を指定していない。自分が住んでいれば責 任を感じるだろうから、任せている。学生が行なっ た面白い活動は、90歳のおじいさんとビールを 飲みながらサッカーの試合をテレビで見ること だった。出ていった学生たちも戻ってきて入居者 に面会したりするが、ここに住んでいる人達の孫 の代わりになっていて、寂しさを埋めてくれる。

彼らにケアを期待しているわけではない。このよ うに学生が関わることで、入居者は寂しさが軽減 されるし、学生も知識や経験を得て、かつ新しい ことを聞き出すテクニックも学ぶことになる。ま た、アーネムの町の中に

2

つの小さいレストラン を経営していた入居者がいる。そこで作っていた 特別料理のレシピを学生が聞いて、学生がそれを 作って売るということをやった。孫が入居者に メールをくれる場合もある。このように、フレー デンホフでは高齢者の生活に周囲の人々から関心 を寄せてもらえるようにしている。

 フレーデンホフの“Old School”

には入居者 200

人中64人が参加している。“Old School”のコン セプトは、関係を作ること、知識を得ること、社 会的に承認されること、孤独から解放されること である。例えば、高齢の女性が鏡に向かってハン カチを振っているのは、彼女がバレリーナだった からだ。その時代の幻想を見ているのだ。そうい う入居者に「バレリーナだったのね」と話しかけ て、知識と経験を引き出すことによって彼女の中 の孤独を軽減する。

<考察~デンマーク高齢者施設との比較>

 ワウト氏はケアだけではなく、適用される制度 についても説明してくれた。オランダでは保険制 度で高齢者にケアを提供する仕組みになっている。

基本的にすべてのサービスを税金で賄っているデ ンマークとは制度が違っている。日本に当てはめ れば、介護保険制度と措置制度の違いということ になろう。この制度の違いの中で、高齢者施設に 関してどのような違いがあるのかということにな る。残念ながら、ワウト氏が提供してくれた時間 は限られており、情報も限定的なものになったが、

その中でもデンマークとの比較ができる点につい て考えてみたい。

 ワウト氏は理念をいくつか挙げている。Pyra-

mid of cliënt wishes

の図でも示されているように、

顧客の満足度に向けた理念が作られている。ここ には利用者の確保が念頭にあると思われる。この 点、デンマークの高齢者施設では、入居者の確保 が念頭にないわけではないが、ワウト氏ほどは意 識されていない。オランダが民間の仕組みで高齢 者にケアを提供しているのに対して、デンマーク ではあくまでも公的な責任で提供していることに よる違いであると思われる。この違いが提供する ケアにもさまざまに反映している。ワウト氏が強 調した一つは、「ノーマル」ということである。

学生に施設の居室を貸し出すことや数多くのイベ ントで実現しようとしていた。以前は閉鎖的だっ たフレーデンホフを普通の社会の一部に位置づけ て、それが一般住民のニーズに叶い、利用者の確 保につながると考えていた。そして、この一般社 会と変わらない状態を施設の中に作り出すにはあ る程度大きい施設規模が必要だという。つまり、

ワウト氏は「スケールメリット」の活用がポイン トだと指摘している。例えば、イベントはある程 度の人数が集まることで楽しさと満足を提供する ことができるという。私はイベントを行う能力を 施設内に保持するためにも一定の施設規模が必要 なのだろうと思う。この点に関して、デンマーク ではスケールメリットはほとんど考えられていな い。古い建物を壊して新しい施設を作ることがな かなかできないデンマークでは、大型だった施設 を高齢者住宅に切り替えて、一人二部屋を使える ように改修して使っている場合が多い。そこに、

スケールメリットという考え方は見られない。

 ワウト氏は地域に対する働きかけも積極的で あった。それは利用者を確保するための「広報」

的意味をもった活動ではあるが、結果として施設 が地域福祉に一定の貢献をすることになっている。

デンマークでは、高齢者施設が地域に積極的に働 きかけ、地域に貢献するという意識はあまりみら れない。ここにも、両国の制度の仕組みの違いに

(7)

よって施設機能の相違がみられる。

 次章のリンガホフとリデュイナの調査記録にも 登場するが、オランダは国民のボランティア意識 が高い。オランダが民間の組織を積極的に活用し て福祉政策を行なっているのも、このような国民 意識が基礎にあるからなのかもしれない。この点、

デンマークでは、ボランティアはあまり活発では ない。限られた予算の中で、いかに従事者を確保 するかということを考えている。

【注】

(1) 財団 日本の社会福祉法人に当たる。

(2) WLZ 2015年1月1日より導入された長期療養サー ビス保険制度で、高齢者、障害者の中で継続的なモ ニタリングを必要としたり、24時間のケアを必要と したり、密度の高いサービスを必要とする人々に給 付を行うことを想定している。(大森正博「オランダ の長期療養・介護制度改革」健保連海外医療保障

,健

康保険組合連合会 社会保障研究グループ, No.107,

2015. 9. p.24)

(3) ZVW 健康保険法(中澤克佳「介護保険制度の持続 性:オランダ・ドイツからの示唆」平成

29

年度海外 行政実態調査報告書,会計検査院, 平成30年3月, p.3)

(4) WMO 2015年1

1日 よ り 導 入 さ れ た 社 会 支 援 法、

地方自治体による家庭内援助をはじめとする社会 サービスに関する制度(前掲(2)

p.20)

(5) 外部団体 日本のように施設がスタッフを雇用せず、

スタッフは派遣会社から派遣してもらって配置する。

(6) 「サービスを分散せずに統一して提供する仕組み」 

フレーデンホフは制度による縦割りのサービス提供 という弊害を克服しようと様々な制度を統一的に使 用して総合的にサービスを提供しようとしてきた。

(7) アーネム(Arnhem) オランダのほぼ中央に位置す るヘーデルランド州の州都、人口は約

14万人。

(8) デ ー ヴ ェ ン タ(Deventer)  オ ラ ン ダ 東 部 の オ ー ファーアイセル州にある基礎自治体(ハメンテ)。人

口は約

10万人。

【参考文献】

(1) 「健保連海外医療保障」

,

健康保険組合連合会 社会

保障研究グループ, No.107, 2015. 9.

(2) 「平成29年度海外行政実態調査報告書」会計検査院, 平成

30年 3月。

3.リンガホフ

(リンガホフの正面玄関)

1

)所長と統轄マネジャー

 マルルーズはリンガホフの所長。看護師で、リ ンガホフにきて

2

年半なる。その前は精神科病院 で働いていた。パトリシアはリンガホフを含む

4

つの施設を統轄するマネジャー。看護師で、経営 とマネジメントの修士号を持っている。

(2)ジンジアという組織(注

1)

 ジンジアは

4

種類の施設を経営する組織である。

4

種類とは、介護施設、ホスピス施設、リハビリ 施設、デイケアセンターである。ジンジアには、

ハメンテ(最小単位の自治体)と介護保険と疾病 保険の

3

つの制度が適用される。介護が必要な人 には介護保険が適用される。リハビリが必要な人 には疾病保険が適用される。

Wmo

はデイケアや 在宅ケアの制度である。

 行政は施設整備に係る予算をもつが、その予算 は結局大きないくつかの保険会社に配分される。

保険会社が公的な役割をもって、施設の整備と運 営を行なっている。施設整備と運営のノウハウを もっているのは保険会社である。(注

保険会社 の委託を受けて施設運営を行うのがジンジアであ る。)ハメンテは家事や洗濯などの在宅サービス 部分だけを行なっている。

(3)施設概要

 リンガホフは、ジンジアという組織の中の1つ

(8)

の複合施設である。ここには、ナーシンホームと ホスピス施設とリハビリ施設があり、全部で

143

ベッドある。さらにショートステイがある。ナー シングホームは認知症の中でも重度の人で、家に 家族がいても面倒を見切れないので

24時間専門

的なケアが必要と認定された人たちが入居する施 設である。リハビリ施設では、3か月の中で自宅 に帰すためのプログラムを作成するが、専門家が チームを組んで、運動的・精神的・薬などの視点 から検討してプログラムを作成する。体の状況が うまくいかない場合は、医師と相談して入居期間 を延長する場合はある。その全体を統轄するのは 医師となる。

4

)リンガホフ設立の経緯

 

20

年ほど前にジンジアの組織とハメンテとケ アの専門の組織が保険制度の面から必要な施設が どういうものかを検討して、この施設ができた。

施設内ですべてが整うということで、当時はオラ ンダで注目を集めた。その後外向けのサービスの 仕組みも入ってきて、今の形になった。現在ジン

ジアは

4事業所をもっているが、以前はそれぞれ

独立した施設として各村にあった。15年くらい 前に法律が変わって、統轄されてジンジアという 組織になった。

(5)リンガホフの職員

 資格がない人たちは部屋の掃除や食事を運ぶ業 務などを行う。看護師のレベルは

2-3-4-5

とある が、

2-3

の看護師は日常生活のケアをする。レベ ル

5

の看護師は、医学的判断と指示をする。その 上には医師がいる。その他に、理学療法士、心理 療法士、言語療法士、精神科医が別に配置されて いる。

6

)リンガホフのケア

 それぞれが自分の幸せな形で暮らしていけるよ うにプランを作っている。プランは本人の意思と 家族の意向に基づいている。趣味や宗教、その人 の生活の中で大事なこと、デイケアのサービスで どんなことが好きか、悲しみや怒りを出した時に どういう形で対処したらよいか、そういうことを プランニングする。着替えやシャワーなどの介護

もプランの中に組む。一番大事なのは、悲しくな くて、できるだけ楽しく、孤独にならなくてそこ で生きていけることである。以前は、本当に閉じ 込めて最低のことだけをやっていたが、今は個人 ごとの生活の向上を大事にしたケアを行なってい る。ただ怪我しないように痛みがないようにとい うだけでなく、暖かい気持ちで暮らすことができ るようにしている。

 また、ナーシングホームの入居者たちの認知症 が進んでいくので、いつも同じパターンでケアを するのではなく、状況に合わせて、ケアを変えて いる。そこで一番大事になるのは個人のリズムに 合わせることである。そして一番気をつけている のは、介助は必要最低限にして、できるだけ本人 の自発性に任せるようにすることである。絶対に 強制しない、可能性のあるものを封じ込めない、

寝たきりにさせないことを方針にしてやっている。

施設にはケアのベーシックな日課はあるが、あく までもケアは流動的にする。食事の時間などは決 まっているが流動的になる。ただし、治療的なケ ア、例えばインシュリンなどは担当者が采配する。

食事も食堂で決まったものを食べるが、パンを食 べないという人がいればお粥のようなものやヨー グルトなどを出す。食堂に揃って一緒に食べるの ではなく、読書コーナーや趣味の部屋で食べるな ど、押し付けないケアを大事にしている。全体の アクティビティを行う場所では、必ず何か行なっ ている。スポーツ、音楽、ボクシング、ダンス、

庭の草いじりなど、プログラムによって参加者が 違うし、時間も固定していない。こういうアク ティビティをやっているのはすべてボランティア である。寝たきりになっても、自分の部屋に置きっ ぱなしにはせず、リズムができるように昼間は公 共の場に連れてきて、ベッドのままでもみんなと いる感覚をもてるようにする。居室は、窓側にベッ ドがあり、内側にランドリーやシャワーがある。

施設は基本的に回廊式(注2)になっていて、歩 き続けられるようになっている。二人部屋もある。

居室はその人が自分で鍵を持って自分で開けるの で、誰も開けることができないようになっている。

(9)

衣類を鞄に詰めて

10

回も出ていこうとする人の 場合は、ロッカーに鍵をかけて、洋服を出せない ようにする。結局出入口は鍵をかけている。扉の コードは定期的に変えている。

(ナーシングホームの居室)

<考察~デンマーク高齢者施設との比較>

 ジンジアは大きくはないがプロバイダーの一つ である。これは高額な税金を徴収してサービスは 基本的に行政が提供するという仕組みのデンマー クとは全く違う仕組みである。

 リンガホフでは「プランは本人の意思と家族の 意向に基づく」「個人ごとの生活の向上」「個人の リズムに合わせる」「本人の自発性に任せる」な どをケアの理念としているが、デンマークと大き な違いはない。そこにはヨーロッパを通底する個 人尊重の理念が施設ケアの理念にも反映している ものと思う。ただ、ケアについては、違いがある ように思う。リンガホフでは「いつも同じパター ンでケアをするのではなく、状況に合わせて、ケ アを変えている。」「ケアのベーシックな日課はあ る。」「全体の アクティビティを行う場所では、

必ず何か行なっている。」という。これに対し、

デンマークではコンタクトパーソンシステムなの で、入居者の要望に個別に対応していくケアに なっている。このことから、リンガホフでは提供 型ケアになっており、デンマークの高齢者住宅で は対応型ケアになっているように思う。

 オランダでは多くの国民がボランティアをして 社会に貢献している。デンマークではボランティ

アが施設で行うアクティビティのすべてを賄うこ とはありえない。民間を活用するオランダと基本 的には行政がすべてのサービスを提供するデン マークの違いが明確に表れている部分である。

 リンガホフのナーシングホームは、居室が一部 屋である。デンマークもプライエムと呼ばれるい わゆるナーシングホームは一人一部屋である。し かし、デンマークではプライエムからプライエ ボーリ(高齢者住宅)への転換をほぼ終えており、

ここでは一人二部屋(寝室と簡易キッチンとトイ レ兼シャワールーム付きの居間)になる。オラン ダはいわゆる施設という性質を残しながらその充 実を図っており、デンマークはいわゆる施設を住 宅という性質に切り替えていこうとしているとい えるのではないだろうか。

 リンガホフのナーシングホームは、回廊式に なっていて、ロッカーと扉に施錠を掛けている。

やむを得ない理由によるということは理解できる が、「施錠ありき」になっている印象を受けた。

デンマークでは「施錠なし」を大前提として対応 している。オランダの民間委託という仕組みは、

それが進めば進むほど安全の確保が優先される面 があるのではないだろうか。

【注】

(1) オランダでは、民間組織だが公共を担う団体がある。

行政も積極的にこれらの団体に委託する。高齢者施 設についてもこの仕組みを使い、全国に福祉事業を 引き受ける巨大な団体が存在する。

(2) 回廊式とは、廊下が一周できるようになっている施 設であり、認知症の方が歩き回っても行きどまらな いので、ストレスがかからないということで一時期 流行した施設廊下の作り方であった。日本では30 以上前に多く建設されたが、今は回廊式の廊下は作 られていない。

4.リデュイナ

1

)施設長ヘルミンの経歴

 ヘルミンは地域マネジャー(注

地域に複数あ る施設の統轄管理者)で、ここともう一つの施設

(10)

を統轄している。ヘルミンは看護師として病院で 看護の統轄マネジャー、次にナーシングホームで 仕事をしてからこのリデュイナに来た。

(施設の内側、放射状に住居がある。)

2

)施設概要

 ケア付きシニアアパートメントとしてのリデュ イナは入居者の高齢化に伴い介護が必要になって きたことで、ナーシングホーム(日本の特別養護 老人ホーム)と違いが少なくなってきている。リ デュイナは、内付けの介護(注

1)が必要な人が 65

人、外付けの介護(注2)を受けて住んでいる 人が

60

人である。その65人は施設のスタッフか ら介護サービスを受けている。その60人の入居 者は完全に自立している人や外から軽い介護サー ビスを受けている人などである。資格を持った介 護専門職をフルタイム換算すると

30

人くらいで ある(注

3

)。それ以外に資格をもたない介護員 や掃除の人と、その他に

50

人くらいのボランティ アがいる(注

4

)。アクティビティを指導する別 の専門スタッフもいる。高齢者に関する国の政策 は在宅志向である。したがって、施設に入居する 人も減ってきている。入居者のうちの

14

人は認 知症のレベル

5

以上、重介護の人は

5

人いる。介 護が必要ない人がシニアアパートメントに

60

人 入居している。介護のレベルが

4

7

の人が介護 付きシニアアパートメントに入ることができて、

レベル

7

の人はナーシングホームに入居が必要な 人である。したがって、リデュイナには介護レベ ル4~7の 人 が 入 居 し て い る と い う こ と に な る。

2016

年まではレベル3の人もリデュイナに入居で きたが、今は入居できない。入居者の

80%以上

が女性である。

(3)リデュイナのケア

 ケアスタッフの勤務形態は、朝のみ

3時間~4

時間勤務、日中

8

時間勤務、夜間勤務がある。そ れぞれ違った契約によって働き方(勤務時間)を 選び取っており、それらを勤務表に組んでいる。

夜 勤 は き つ い の で、

55

歳 以 上 に な る と し な い。

夜勤の勤務者を確保することが難しくなっている。

一つのチームに

10

人~

15

人くらいのスタッフが いて、それを

3

チームで当番を決めて回している。

その勤務形態によって作られた生活日課の中で、

それぞれの個性に合わせてスケジュールが決めら れている。例えば、ヤンセンさんが朝に入浴した いということであればそういうスケジュールが決 められている。何曜日の何時に入浴と決まってい るが、本人が入りたくないということであれば入 浴はしない。温かい食事を食べるのは一日一回昼 である。温かい物を食べるように

12 : 00~13 : 00

の間に集まって食べるというのが基本的に決まっ ている。朝はそれぞれの人のところを訪問してケ アをした後で、随時朝食をとることができる。時 には食べないこともある。お昼も食堂で食べたく ない場合は、自分の部屋で食べることもある。生 活日課の基本は決まっているが順守しなければな らないということはない(注

5

)。ケア上の課題は、

住んでいる人の希望に沿って、個性を尊重しサ ポートしていくという点だ。もう一つは、ここに 入居しても、マントルゾルフ(注

6

)を高めると いうことである。ここに入居しても親せきとか家 族が強いつながりを保ち、定期的に来るとか、コ ミュニケーションをもつことで、入居者が孤立し てしまうのを避けるため、マントルゾルファー

(注

親せきや家族の人たち)との強い関係を作っ ていく必要があると考えている。家族は、ここに 入ればすべてうまくいくだろうと思ってしまうけ れども、施設側としては人材不足などもあるので、

家族と協調してやっていかなければどちらも満足 することができない状況である。

(11)

(4)人材

 看護職の技術レベルには

1~5

まであるが、高 度技術となる

4~5

レベルの看護師を施設に定着 させることが難しい。施設の待遇のことも一部あ るかもしれないが、専門性の高いレベルの人は高 度の専門の病院で働こうとする。ここは仕事の重 圧があり、仕事自体が新しいことをするのではな いので魅力のアピールが難しい。介護スタッフの 確保も難しい。ヨーロッパ全体がそういう状況で ある。従業員のほとんどはこの地域から雇ってい る。若い人も働いているが、彼らの多くは、中学 を出てから職業訓練校で介護を学んだ人たちであ る。メインで働いている人たちは

45

歳くらいで

10

年 く ら い 働 く と 辞 め て い く。 辞 め る 理 由 は、

45

歳くらいまでは子育て世代ということもあっ て働くが、年金年齢の

65

歳まで働く人はほとん どいない。この組織には外国人は勤務していない が、東ヨーロッパの人たちが働いている施設もあ る。

(5)地域との関係

 施設のレストランやデイケアは地域の人々のた めにもあるが、なかなか敷居が高くて、こないと いうのが現状である。もっとこれを盛んにしなけ ればならないと思っている。アクティビティス タッフなどは「ハメンテ」(注

“gemeente”

地方

自治体、最小行政区)と連携を取り、意見を交換 するということはある。

6

)高齢者向け住宅の今後

 今後はもっと一般住宅が改修されて高齢者向け 住宅になっていくだろう。しかし、高齢者向け施 設が消滅するとは思っていない。家に住むと言っ ても安全や孤独の問題があって、このような施設 は増えると思う。オランダの場合は、家族と住ん でいない限りは、一人になったら最終的には介護 なしには生きていられなくなる。家に介護の人が 来てくれると言っても、何かあった時に

10

分で 来ることができるということはなかなかないので、

結局はこういう施設に入る。さらに認知症や多く の介護が必要になれば、このような施設は不可欠 になる。オランダでは家族が世帯単位に住むのは

当たり前で、その分家族の協力がなければ結局施 設で暮らすしかない。確かに国は在宅を重視する 政策をとっているが、最後まで家にいることは無 理なので、結局施設に入居し、介護はもっと必要 になればジンジアが運営するような特別養護老人 ホームに移ることになる。今オランダ全体で、施 設に入居して亡くなるまでは

8

ヶ月である。

<考察~デンマーク高齢者施設との比較>

 ヘルミンは看護師である。デンマークの場合も 施設長の多くが看護師で、かつ修士号を取得して いる。特にマネジメントを専攻する場合が多い。

 暮らし方という点では、オランダもデンマーク も世帯が分離していくことは同様であるが、デン マークの高齢者サービスについては「できるだけ 在宅で」という政策方針である。オランダも在宅 重視の政策である。ヘルミンは、オランダ人の暮 らし方を踏まえて高齢者向け住宅・施設が今後も 増えていくだろうといっているので、オランダの 方が高齢者施設の制度的位置づけが積極的である と推測される。

 デンマークの高齢者施設ではコンタクトパーソ ンという個別ケアシステム(注

7)でケアを回し

ているが、リデュイナでは共通の日課を基礎にし てケアを回しつつ個別ケアに努めていると思われ る。食事形態はオランダとデンマークでは違いは ない。「マントルゾルフ」という考え方は今回は じめて知った。親族や家族とのつながりを強調す る考え方であるが、デンマークでは施設から住宅 への転換がほぼ完了している中で、その点を強調 する声を聞いたことがない。オランダがこの考え 方を強調するのは、施設というあり方が親せきや 家族の距離を生んでしまっているからこそ、逆に 強調しなければならないのではないか。

 ヘルミンは介護人材の不足が全ヨーロッパの課 題だと述べ、オランダも不足しているとのことで あった。しかし、デンマークでは人材不足は生じ ていない。デンマークでは移民を積極的に介護分 野に採用しているためである。また、デンマーク では介護ヘルパーから介護アシスタント(注

8)

(12)

への移行を進めており、介護レベルの高度化を進 めているが、オランダの介護従事者の状況につい てはそのような話題は出てこなかった。

 リデュイナでは、地域住民に配食サービスを行 なっていた。デンマークでは、施設に地域の高齢 者が食事に来ることはあっても、施設が配食サー ビスを手掛けることはあまり聞かない。ヘルミン は、施設入居者が減ってきて、余剰な人材が生じ たので地域に関わっていこうという程度の考え方 であった。デンマークでは、地域に関わっていく 意識はほとんど見られない。施設の地域における 役割意識はオランダの方が若干高いと推測する。

ただ、日本のように地域福祉を含む包括的なケア システムという考え方で進めているのかはわから なかった。

【注】

(1) 「内付けの介護」とは介護スタッフが施設内に雇用さ れているということ。

(2) 「外付けの介護」とは介護を提供する団体から介護ス タッフに派遣を受けること。

(3) オランダでは個人の判断によってパートタイムで働 く人が多いが、基本的には専任職員である。

(4) オランダではボランティアが非常に盛んで、一人が 数件のボランティア活動をするのが当たり前になっ ている。

(5) リ デ ュ イ ナ の 食 事 方 法 は デ ン マ ー ク と ほ ぼ 同 じ。

ヨーロッパでは施設に入居してもあくまでも個人は 一人ひとりであるという考え方が確定しているので、

このような食事方法が形成されてきたのではないか。

その点、日本は入居者を一つの家族とみなし、家族 は一緒に食事をするものという慣習的考え方が影響 して、一斉食事を当然とする食事形態が浸透してき たのではないだろうか。

(6) マントルゾルフとは親類や友人、近所の人が長期に 提供するケアを指す。オランダの全国マントルゾル フ(直訳すると外套でおおうという意味)提供者・

ボランティア協会によると、この言葉は

1970年代か

ら大学教授らによって提唱され始め、一般に知られ るようになった。2008年には約

260

万人が介護にあ

たった。内訳で最も多いのは子どもの

4割。配偶者

らは2割、友人や近所の人、その他の親類は3割を 占める。(朝日新聞 朝刊 生活1,2013.02.20)

(7) 「コンタクトパーソン」とは、デンマークの高齢者介 護住宅におけるケアシステムで、勤務するスタッフ がその日一日担当する入居者が決まっていて、それ ぞれの個人の日課に合わせてケアを提供していくシ ステムをいう。

(8) 介護ヘルパーは介護の仕事に就くに基本的な資格で、

ケア以外のことはできない。介護保健アシスタント は日本的に言えば准看護士のような資格で、服薬管 理や一定の医療行為ができる。デンマークでは入居 者の重度化に伴って介護保健アシスタントの配置を 進めている。

Ⅷ まとめ

1.オランダのケア提供システム

 オランダは、中福祉中負担を基本として、世界 で初めて介護保険制度を導入した。介護施設は県 や市が直営するのではなく、競争が働く民間団体 に任せている。その民間団体は企業ではあるが、

公益性の高い団体である。民間の活力をうまく活 用した仕組みである。オランダでは介護などの サービスを供給する大規模な非営利団体(プロバ イダー)が存在し、高齢者施設に介護を提供する。

建物は住宅協会が建設し、入居者から家賃を徴収 する点はデンマークと同じである。

 プロバイダーは、ナーシングホームなどの施設 も運営する。アムステルダムの「アムスタ」や、

今回訪問したヘルダーランド州の高齢者施設「リ ンガホフ」と「リデユィナ」を運営している「ジ ンジア」などがプロバイダーと呼ばれる団体であ る。デンマークは施設でスタッフを雇用してサー ビスを提供する内付け介護のシステムなので、プ ロバイダーは存在しない。

2.オランダの高齢者施設

 オランダの高齢者施設の種類は図表

1

「既住研 究におけるオランダの高齢者施設および高齢者向 け住宅の整理(一部抜粋)1)」のとおりである。デ

(13)

ンマークの高齢施設は、協同組合住宅、共生型住 宅、高齢者住宅、プライエム、保護住宅、プライ エボーリ(介護付き高齢者住宅)などがある。オ ランダは施設の地域化を図っているのに対し、デ ンマークは施設の住宅化を進めているように思う。

オランダは、脱施設化を施設の廃止ではなく施設 の活用によって成し遂げようとしている。地域包 括ケアや認知症村等一般住民と一体的に利用でき る場所づくりや一か所に様々なサービスが揃えて 一般住民も利用できるゾーンを地域社会に作って いくなどの政策を進めている。

3.オランダと比較した時のデンマークの高齢者 施設の特徴

 デンマークで「エリザベス・オッタークノル」

のような形で民間が発展することはないと思う。

実は、オランダでは、そこに入居しているインド ネシア系のオランダ人とも面会することができた。

その言動に自分で生きていくという強さが感じら れた。デンマークで

2013

2

月に、自宅に訪問し た高齢者は、歩行に困難があり、室内では

4

点杖、

外の移動は電動車いすを利用している女性だった。

彼女も自分の考えを持ち、自分の生活スタイルを 守ってしっかりと暮らしていた。二人に違うのは、

国に託する意識の違いであった。デンマークの 人々は国を信頼し、何かあれば支えてくれること を信じて疑わないなかで人生を歩んでいるように 思った。安心と信頼が基盤にあるのである。

 フレーデンホフでは、施設規模が大きいことで

高齢者施設の地域社会との融合を図ることができ るという考え方に触れた。施設が大きくなると、

施設内で多くのことを完結してしまい、地域との 関係が必要なくなり、クローズド化していくと考 えていたが、フレーデンホフは逆だった。デンマー クにも大規模な施設はあるが、ここまで地域社会 との融合は考えていないと思う。介護保険制度に よる一定の競争原理が働くことで、施設が地域に 進出していく必要性が生まれ、それが結果として 地域福祉への貢献につながっていくという仕組み になっていることにも気づいた。競争原理が働く 中で、顧客満足度がケアの理念に反映していくこ とも知った。デンマークに競争原理がないわけで はないが、オランダほどではないので、その意味 で地域への積極的なかかわりが生まれてこないの ではないか。つまり、施設運営上地域に関わって いく必要性が生じてこないのである。それよりも デンマークの高齢者住宅が気にしているのは行政 による監査であろう。デンマークには「高齢者委 員会」という市民が政策提言し、行政を監視する 公的な仕組みがある。高齢者施設に関する提言も しているが、競争を促す機関ではない。デンマー クでは、競争原理がそれほど強く働いていないこ と、税金を投入して高齢者政策を進めていること により、政策を進めるために考え方が強調されて くるのだろう。今まで訪問したデンマークの高齢 者施設の方々はとにかく理念を強調していたのは こういう背景があるからなのだと思った。ただ、

結果として打ち出されているケアの理念にそれほ

図表

1 既住研究におけるオランダの高齢者施設および高齢者向け住宅の整理(一部抜粋)

1)

施設/

住宅の 種類

高齢者施設等 高齢者向住宅

ナーシングホーム ス モ ー ル ス ケ ー ル リ ビング

高齢者ホーム(住宅) ケアード・リビング ギ ャ ラ ン テ ィ ー ド・

リビング 入居

基準

重度の身体・精神障害

・ 24時間のナーシング・ケアを必要とするこ

一般住宅での生活が困難となる障害もしく は状況(独居・家族と遠距離など)

生活支援を必要とすること

特に制限なし

特徴 ・ 24時間のナーシン グケアを提供する

多床室あり

・ 24時間のナーシン グケアを提供する

・ 6名程度のユニット ケア、原則個室

高齢者ホーム法に基 づく居住施設

住宅内にナーシン グホーム

住宅内にナーシン グホーム、レスト ラン

・ 1住宅30戸(国基準 による)

住宅のみ可能

住宅外から各種 サービスを提供す

(14)

ど大きな差異があるわけではない。これはヨー ロッパに通底する個人主義・自由主義思想が反映 しているのではないか。

 リンガホフでは、ジンジアという介護を提供す るプロバイダー組織と国の政策に基づいて予算配 分を受けた介護保険事業者という民間組織を知っ た。デンマークでは自治体が中心であり、そこに 住宅協会と施設運営者(自治体や民間団体)が関 わって事業が展開されていく。デンマークはオラ ンダに比べると民間団体活躍の領域が小さいとい えるだろう。ここでは、施設内でのケア提供の仕 組みの違いがみられた。日課への比重の置き方で ある。オランダはケアの提供に積極的であり、見 せるケアをしている。そのためある程度日課を基 盤としてケアをプログラム化して進めている印象 を受けた。デンマークはコンタクトパーソンシス テムなので、入居者の生活リズムと個人の意向に 即してスタッフが個別にケアを提供していく。日 課はあるが、オランダほどは重視されていないの である。

 リデユィナは、介護付き高齢者住宅であり、デ ンマークの介護付き高齢者住宅(プライエボーリ)

と似ていた。その中で、ケア提供の仕方について は、リデユィナでは日課を基準にしながらも個人 の希望に即したケアの提供に努めているのに対し、

デンマークでは日課を参考程度に位置づけて、あ くまでも個人の生活リズムに即して個別に対応し ている。デンマークが、より個別的ケアを提供す るシステムを持っているといえるだろう。

おわりに

 

2015

3

月にスウェーデンの高齢者施設を調査 した。スウェーデンは北欧福祉の一角であり、基 本的な福祉の仕組みはデンマークと同様であった。

しかし、オランダは介護保険制度を導入し、民間 を積極的に活用し、高齢者施設に対する介護の外 付けに徹し、ボランティアも積極的に導入し、一 部には施設を大規模化することで一般社会との融 合を図っていた。オランダの高齢者施設を訪問し てみて、デンマークの福祉が国主導のプロジェク

トであり、それは国民の国に対する信頼によって 成り立っていることを改めて認識した。また、そ のことがサービスの多様化や積極的展開につなが りにくいことも分かった。今回は協力して下さっ た方々によって訪問が実現した限られた高齢者施 設での聞き取り調査であったので、オランダ全体 の事情として判断することはできない。また、高 齢者施設のケアの事情は十分に調査できなかった し、政策や制度面の検証も十分ではない。このよ うな限界を前提として、今回の比較分析を理解し ておきたい。

 最後に、今回の調査に当たってオランダでの調 整に奔走し、通訳もしてくださった大橋杏子さん

(オランダ在住)に心から感謝申し上げたい。現 地での訪問先調整が難航する中で、多大な努力を してくださったことに改めて御礼申し上げたい。

【引用文献】

1)

佐藤渓「社会動向レポート オランダの高齢者向け住 宅―入居者の生活の質に着目した取組―」みずほ情報 総研レポート, 2012. 3, p.2.

【参考文献】

松岡洋子「はみ出す・まじる『地域まるごとケア』の 諸相 第1回オランダにおける高齢者の住まいの革

新」

, 財団ニュース№130,

一般財団法人高齢者住宅財団,

2016. 1.

松岡洋子「はみ出す・まじる『地域まるごとケア』の 諸相 第2回『施設』をいかに『住宅』化するか

ランダ都心での挑戦」

, 財団ニュース No.131, 一般財団

法人高齢者住宅財団, 2016. 3.

松岡洋子「はみ出す・まじる『地域まるごとケア』の

諸相 第

3回オランダの『社会住宅』

『住宅協会』と地

域づくり」

,

財団ニュース

No.132, 一般財団法人高齢者

住宅財団, 2016. 5.

松岡洋子「デンマークの高齢者福祉と地域居住」新評 論, 2005. 10, p.148.

熊坂聡「デンマーク・プライエボーリ(介護住宅)に 対する聞き取り調査結果(2)」発達科学研究

2018/No.18,

宮城学院女子大学発達科学研究所, pp.65-67.

参照

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