• 検索結果がありません。

スポーツとリスクに関する文化論的研究

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "スポーツとリスクに関する文化論的研究"

Copied!
2
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

81  ピーター・ドネリーが述べるように、「スポーツと

リスクについて最初に注意することは、スポーツにお いてリスクを取るためのあらゆる種類の方法がある ということである。ケガのリスクはおそらく最も一 般的であり、おそらくより長期的な病気のリスクに 関連」1)している。それゆえ、これまでのリスクとス ポーツに関する研究の多くは、スポーツの現場に関 わるケガや事故を取り上げてきた。そうした議論は、

スポーツの現場に関わるケガや事故の減少を目指す という実践的な関心と分かちがたく結びついている。

そして、あらゆるリスクを、科学的根拠に基づいて可 視化することに努めていき、そこから、スポーツのリ スクマネジメントが重要視されるようになっていく。

無論、スポーツの現場から立ち上がる問題意識に基づ いたスポーツのリスクマネジメントに関する研究が 中心的に蓄積されている2)

 一方、リスクとスポーツに関する研究は、ケガや 事故とは別の位相の現象を問題化していく可能性を もっている。スポーツをめぐる政治経済的状況は、人 びとの生活をめぐるリスクとも結びついている。これ は、本プロジェクトのテーマの1つに据えられている。

これと同時に、本プロジェクトの最も大きなテーマ は、リスクとスポーツに関する研究を人文・社会科学 の領域で体系化を図っていくことである。もっとも、

以上のテーマは、これから開拓していくものであり、

本報告は、その一里塚である。ここでは、既存の研究 の枠組みを抜け出ることを見据えて、次年度以降の展 望を示すにとどめたい。

 亀山佳明は、『21世紀のスポーツ社会学』という題 目をもつ書の「はじめに」において、「リスク社会にお けるスポーツとは」という副題をつけた。それは、ベッ

ク、アンソニー・ギデンズ、スコット・ラッシュによっ て提起された「再帰的近代化」3)という見方に基づい てスポーツ研究の見直しを提案するものであった4)。 ここで亀山は、ウルリッヒ・ベックの「リスク社会」

論にも触れている。そこではリスクがキーワードの一 つになっている。現代社会においてリスクがキーワー ドの一つであるとすれば、現代社会と不可分な関係に ある現代スポーツにおいてもリスクはキーワードに なってくるはずである。そこで、本年度は、リスクと スポーツに関する研究を検討することにした。

 リスクとスポーツを主題として、それを研究して いくための社会学的理論と研究アジェンダを分析し たのはリチャード・ジュリアノッティである。ジュ リアノッティは、2009年に「リスクとスポーツ:社 会学的理論と研究アジェンダの分析」5)と題して「ス ポーツの社会学者に簡潔な導き手を提供」することを 試みる。ここでジュリアノッティは、リスクとスポー ツの社会学的研究を進めるために4つのカテゴリーを 提示する。ただし、これらは相互に排他的なものでは なく、相互に関連性を持つ可能性があることも付け加 えている。第一はリスクとカリキュレーション、第二 は快楽主義、主意主義そして超越のリスク、第三はリ スクカルチャーとサブカルチャー、第四はリスクと近 代化である。この論考からリスクを主題とするスポー ツの社会学の主要な論点を学ぶことができる。これま で、リスクを主題とするスポーツ研究の多くはケガ を扱ってきた。ケガのリスクはスポーツ実践と分か ちがたく結びついているからである。ただ、このジュ リアノッティの論考が教えてくれるように、リスクを 主題とするスポーツ研究の対象はケガのみではない。

さらに、また、ジュリアノッティは、あくまで、社会 学的なパースペクティブで4つの理論的枠組みを提示 したのだが、しかし、リスクとスポーツ研究は社会学 の隣接領域でも論じることも示唆されている。おそ らく、第一のリスクとカリキュレーションは心理学、

第二の快楽主義、主意主義そして超越に関するリスク は哲学、第三のリスクカルチャーとリスクサブカル

はじめに

今後のリスクとスポーツの研究の 方向性について

スポーツとリスクに関する文化論的研究

尾川翔大(スポーツ危機管理研究所)  野井真吾(教育福祉系)

研究プロジェクト❹

(2)

82

スポーツとリスクに関する文化論的研究

研 究 プ ロ ジ ェクト ❹

究学会編『リスク学事典』丸善出版、2019年、ⅰ)。

したがって、リスクは、分野横断的に追及されて よいものである。いわゆるスタディーズ系の分野 といえるものであろう。

チャーは文化・社会人類学と結びつくものであり、無 論、第四のリスクと近代化は社会学的な問いである。

したがって、このジュリアノッティの論考は、ここで 挙げた4つのカテゴリーにおけるリスクとスポーツに 関する研究を拡張する可能性を秘めている。今後は、

このジュリアノッティの論考を出発点にして、リスク とスポーツの研究を押し広げていきたい6)

註・引用および参考文献

1) Peter. Donnelly. Sport and Risk Culture. In:

Kevin Young(ed.). Sporting Bodies, Damaged Selves: Sociological Studies of Sports-Related Injury. Oxford: Elsevier. 2004. p. 29.

2) 美馬達哉が述べるように「可視化しやすいものだ けをマニュアル化するリスクマネジメントの構造 のなかでは、可視化されにくいリスクや扱いにく いリスクや計算の困難なリスクは、存在しないも のとして扱われがち」である(美馬達哉『リスク 化される身体-現代医学と統治のテクノロジー』

青土社、2012年、p.27)。また、東賢太朗は「ま すます複雑化する社会システムの中で生きている 限りにおいて、個々人がリスクを適切に認識し、

引き受け、それらすべてに対処することは、困難 である」と述べている(東賢太朗「「リスク社会」

へのオルタナティブ-イントロダクション」東賢 太朗ほか編『リスクの人類学-不確実な世界を生 きる』世界思想社、2014年、pp.231-232)。

3) ウルリッヒ・ベック、アンソニー・ギデンズ、ス コット・ラッシュ、松尾精文、小幡正敏、叶堂隆 三訳『再帰的近代化-近現代における政治、伝統、

美的原理-』而立書房、1997年。

4) 亀山佳明「はじめに-リスク社会におけるスポー ツとは-」日本スポーツ社会学会編『21世紀のス ポーツ社会学』創文企画、2013年、pp.1-4。

5) Richard, Giulianotti. Risk and Sport: An Analysis of Sociological Theories and Research Agendas.

Sociology of sport Journal. 2009. 26(4): 541- 556.

6) 2019年に日本リスク研究学会の編集によって

『リスク学事典』が刊行された。リスクに対する現 代社会の関心の高まりをうかがい知ることができ る。ここでリスク学は「自然科学、社会科学、自 然科学など多様な分野におけるリスクに対するア プローチの集合体」とされている(日本リスク研

参照

関連したドキュメント

専攻の枠を越えて自由な教育と研究を行える よう,教官は自然科学研究科棟に居住して学

いない」と述べている。(『韓国文学の比較文学的研究』、

・アカデミーでの絵画の研究とが彼を遠く離れた新しい関心1Fへと連去ってし

 リスク研究の分野では、 「リスク」 を検証する際にその対になる言葉と して 「ベネフ ィッ ト」

関西学院大学手話言語研究センターの研究員をしております松岡と申します。よろ

さらに体育・スポーツ政策の研究と実践に寄与 することを目的として、研究者を中心に運営され る日本体育・ スポーツ政策学会は、2007 年 12 月

経済学研究科は、経済学の高等教育機関として研究者を

社会学研究科は、社会学および社会心理学の先端的研究を推進するとともに、博士課