川部 健寸
A Tentative Plan of Semi−Special Cultivated Physics Education II
Takeshi KAWABE
A improvement of physics education in college is proposed for the sake of making more students fascinate in physics. The interesting events in science should be abundantly taken up in the subject of physics. Two terms ofthe extreme physical properties and big.bang are exemplified among皿any items in different fashion from ordinary one.
Key words: physics education, laser, superconductivity, big−bang, Kamiokande
1 はじめに
従来の物理教育を刷新する一つの試みとして,最近 の輝かしい科学の発展も取り入れ,学生を魅了する話 題の提供を主眼としたカリキュラム構築の提案を行っ てきた1).論文1では20世紀科学2),3)の一大革命を もたらした「量子力学」とこの分野の発展にも寄与し,
相対性理論を提起することによって科学史に最も大き な足跡を残した「アインシュタインの世界」を取り上 げた.科学の進歩は一門と加速している感を強く受け るが,量子力学と相対性理論を基盤とした科学は2ユ 世紀に突入した今日において一層,深遠さと共に広汎 な分野で科学技術の花を咲かせつつある.今,世界の 産業界の最も大きな先端技術を掲げるならば,IT(情 報技術),バイオテクノロジー,ナノテクノロジーであ ろう.量子力学はこれらの技術と深く関わっている.そ して,これらの分野は,もはや物理の領域を越えて科 学・技術・産業・生活という人間社会そのものの構造,
組織形態に大きな影響をもたらしている.それ故,物 理学は単に科学の基盤を担うという以上に人間の活動 に関わっていると云ってもよい.
物理教育としての枠組みは,科学の基礎的な教育を 主体とするにしても,ときにそれを基礎に開発された 最新技術に触れることが求められる.物理学会誌の最 新号4)に 「理科離れ」と咄前授業」 と題する報 告の中で次のようなことが述べられている.《出前授業 の依頼を見ていると,宇宙,超伝導,生物とかの よく わからないが何となく面白そう,夢がありそう といっ た講義題目とか, どこかできいたことのある最先端の ことを目の前で実験して見せてくれる といった内容
の授業に人気があるようだ.》物理学に限らず学問その ものは,本来,非常に地味で,奥の深いものであるか ら,学生の顔色を伺いながらするものではないが,未 知の世界と現実の話題を教育の中に取り入れることが 魅力ある授業の要件と考えられる.
この論文における目的は,魅力ある物理教育を追求 することにあるが,最近の日本の社会における「理科 離れの」の現状について次のような河合氏の興味深い 報告5)がある。《一96年のOECD国際シンポジウム 報告書によると日本の一般市民の科学技術に対する意 識が世界最低なのだ.一科学技術に最も関心が高い国 は米国である.ポルノ雑誌の横に科学雑誌が山積みさ れている。一科学技術に無関心な親が子供にもっと勉 強しなさい,とは虫がよすぎる.子供は親を見て育つ.
子供の理科離れを嘆く前に,まず親の科学技術離れを なんとかするべきだろう.》著者がカオスの研究を始め た頃,ジェイムズ・グリックの「カオスー新しい科学を つくる」6)が出版された.ニューヨーク・タイムズに 毎週発表されるベストセラー・トップテンの座を半年 間も続けたそうである.高いレベルの科学啓蒙書がこ れ程よく読まれることに,また米国の科学水準の高さ に驚嘆させられる.科学雑誌が廃刊されていく最近の 日本の現状との格差を痛感する.このような状況にあ るからこそ,物理教育に関わる教師の意識の高揚と使 命の重大さがある.
どのようにすれば学生を魅了するような物理教育が 可能であるのか,そのために20世紀に作り上げた科学 の中にどのような素材が散在しているのか,できるだ け多くの参考資料を渉猟したり,或いは教育関連の講 演会や研究会の参加7),自らの成果の発表8)を行って きた1この1年余りの間に経験した講演会や研究会な
原稿受付平成13年8.月31日
言一般科昼(物理)
津山高専紀要第43号 (2001)
どで受けた印象は,文献5で河合氏が述べているよう に,「子供の理科離れというより大人の理科離れ」であ る.それと同時に,極端な表現かもしれないが理科教 員の理科離れがある.科学は絶えず進歩を続けている.
しかしながら,教師の多くが10年,或いは20年も昔 に高校,大学で学んだ知識からほとんど前進していな いのではないか.或いは,大学受験のための問題解き がすべてで,科学のおもしろさを教師自身が知らない のではないのか.仁科記念講演会を除いて,教員研修 会の参加の少ないこと,世界的に著名な講師の講演に おいても,会場の盛り上がりのない状況に暗澹とした
思いに;なる.
最近の雑誌に,「なぜ,(自然科学を)学ぶのか 科学 者の 科学離れ 」(戎崎俊一)9)の記事には共感する 部分が多く,その最初の一節を紹介するが,子供の理科 離れの進行する現状と無関係ではない.《日本の科学者 の大部分は,科学が好きではないようだ.これは,青少 年の科学離れより深刻な問題である. 馬鹿をいうな,
科学者が科学を好きでないわけがないではないか と いう人がほとんどだろう.よく考えてほしい.大部分 の科学者が好きなのは,科学の中の,いま自分が研究 している分野だけである.いやしくもいま真剣に打ち 込んでいる仕事を好きでない人間はいないはずだ.し かし,自分が研究している比較的小さな分野が好きな だけでは,科学が好きとはいえない.》
論文1では「量子力学」と「アインシュタインの世 界1を取り上げた.量子力学完成から3/4世紀が経過 して,その科学技術への応用は目を見張るものがある が,量子力学はその中にあって最も基礎的な,或いは 最も本質的な役割を担っていると云ってよい.ここで 取り上げる「極限物性」は,極低温やミクロな世界の 量子論的な統計性に関わっている.レーザー,超伝導
(超電導),超流動,ボース・アインシュタイン凝縮,ナ ノテクノロジーなどいずれも「量子力学」の成果の数々 である.また,「ビッグバン」はアインシュタインの一 般相対性理論から導かれ,従来の変化しない静的な宇 宙に対する認識を一変させた.ガモフが唱えたビッグ バン宇宙という科学史上の出来事は,「量子力学」に比 べると現代の科学技術,物質文明の豊かさへの貢献は 皆無と云ってもよい.しかし,進化する宇宙としての 新たな認識やマクロな世界の極限としての宇宙とミク ロな極限としての素粒子の世界の関わりを与える事象 である.これもまた自然の真理を探求する純粋科学と
して,最も本質的な重要性をもっている.
2.1 レーザー
2 極限物性
レーザー(LASER)2)はく誘導放出による光の増幅〉
(Light Amplification by Stimulated Emission of Ra−
diatio皿)の頭文字をとったものある.アインシュタイ
ンは1916年に,原子から放出される光には,自然に光 子を放出するメカニズムと相当するエネルギーが与え られるならば誘導放出するメカニズムが生ずることを 理論的に予言していた.ボーアの原子論によると電子 の軌道は正確なエネルギーが付与されていて,電子が 高いエネルギーの軌道から低いエネルギーの軌道へ遷 移するとき,正確にその差に相当するエネルギーの光 子放出が起こる.ところがこうした光子放出は,これ と同じエネルギーの光の吸収が引き金になってほとん ど同時,ナノ秒(10億分の1秒)程度の瞬間に起こる ので,結局2個の同じエネルギーの光子放出が起きる と考えればよい.そして,この2個の光子は近くの2 個の原子に吸収されて,同じエネルギーをもつ4個の 光子放出を誘導する.このようにして各原子から同じ エネルギーと位相(極めてシャープなスペクトル)を もつ光の放出が得られる.同じ位相をもつ光はコヒー レント(coherent)な光とよばれる.
レーザーの理論的な原理はこのように早い時点で分 かっていたが,どのようにして多くの原子を励起状態に するかという実験上の問題やその実用性が疑問視され ていて,実際に本格的な研究が始まるまでに長い年月 を要した.1954年アメリカのタウンズ(C.H. Townes)
がアンモニアの分子にマイクロ波を照射してレーザー 研究の歴史は始まったと云ってよい。この実験はマイ クロ波ゆえにメーザー(MASER)〈誘導放出によるマ イクロ波の増幅〉とよばれた.メーザーは非常に安定
した振動数のマイクロ波を放出するので原子時計とし て利用された.振動数の逆数は周期を与えるから時計 の振り子に相当している.
ここで,長さと時閻の定義10)をしておこう.物を測 る単位は,国や地域,或いは時代によって,千差万別と 云われるほど異なっていた.国際化と情報化が進み,技 術革新によって測定の精度の向上と共に単位やその基 準となる対象が変化してきた.例えば,18世紀末,フ ランス革命期に誕生したメートルは地球の子午線を一 周した長さの40,000,000分目1と定義された.この長
さの基準は,その後も尊重された上で,より精度の高 い基準が採用されるようになった.レーザーの発振波 長の極めて千渉性の強い性質が大きな質献をしている.
1960年にはクリプトン(86Kr)の波長が長さメートル の基準に用いられた.その後,レーザーによる真空中の メタン(CH4)の吸収線から波長λ,振動数vの高精度
の測定が行われ,光速。=λレ=2.997 924 58 × 108 m/s
が求められた.そして,1986年以来,上記の光速。の 値を物理定数として定義し,長さの単位メートルはこれ
を用いて,光が真空中を1m/c=3.335640952 x 10−9 秒間に進む距離として定義されるようになった.
時間の単位,秒の定義も従来の太陽暦などの天体の 運動から決められていた値に近い値を念頭に,より大 きな普遍性と精度の高い,原子から出てくる電磁波を 基準に決めらるようになった.1967年以来,セシウム
(133Cs)原子の基底状態超微細準位問の遷移に伴う特
定のスペクトルの振動数レ=9, 192, 631, 770 Hz,すな わちこの回数の振動に要する時間を1秒と定義するよ
うになった.
タウンズの至剛ザーは波長がセンチメートルのマイ クロ波であったが,1960年にはこれより105倍も波長 の短い可視光線のレーザーがアメリカのメイマン(T.
H.Maiman)によって開発された.メイマンはクロミ ウムの不純物を含む酸化アルミニュームの結晶であるル ビーを用いた.1960年以降,固体レーザー一,ガスレー ザー,半導体レーザーが開発され,一時期停滞するこ ともあったが,1980年から最近の技術開発の進展とそ の広範な応用には目を見張るものがある.情報産業で は音楽用CD, CD−ROM, MD, DVD,プリンタ,光 ファイバー通信用光源などがある.また,原子配置を 崩すほどの強度があるため工業的な切断,溶接に使わ れている.レーザーは光ピンセットとしてほとんど出 血しない外科手術として,或いは距離などの精密測定 にも使われている.月までの距離(38万Km)に対し,
15m程度の精度で測定が可能になっており,宇宙開発 においても人工衛星の姿勢制御や衛星間の距離測定の センサーとして利用されている.身近な例としてバー コードの読み取りにも使われている。以下の節でも述 べられるが,科学研究の手段と・して今,最も注目され ている分野でもある.このようにレーザーは現代の文 明に欠かせない存在になっている.
2.2 レーザー強度とレーザー冷却
レーザーの研究は,次節に述べるボース・アインシュ タイン凝縮と関連して,今や原子物理学の実験,理論 の両面において非常に重要な分野になっている11)一13).
現在,フェムト(lf=10−15)秒という極めて短い パルスを発信するレーザーが開発されている.1フェ ムト秒は光が僅か3x10−5cmしか進めない距離であ る.人が紙面の文字を読むとき光が網膜に届くのにナ ノ(1n=10−9)秒,更に情報が人の神経を伝達する 速度は数十マイクロ(1μ=10−6)秒というから時間 制御の技術には驚かされる.
フェムト秒の制御によって,化学反応や電子の運動 の瞬間を捉えることも可能になって,運動の解析を効 率的に行えるようになった.また,超短パルスレーザー の開発によって,目の手術で角膜を薄く切り出したり する精度が格段に向上した.パルスレーザーは増幅を 重ねていくと高強度のレーザービームを作ることがで き,プラズマの生成,核融合への利用が考えられてい る.最近,35フェムト秒でテラワット(1012W)のパ ルスを発振する卓上レーザーシステムでは,その焦点 において重水素の核融合が起きることが確かめられた.
大型レーザー装置は標的で1cm2当たり2×1021 Wの 非常に大きい強度をもつ.こうしたレーザーが生み出 す温度,圧力は恒星内部の温.度,圧力に匹敵し,恒星 内部の研究に道を開く.1cm2当たり1030 Wという集
光強度を作り出せば粒子・反粒子対を作ることも可能 とされている.
・レーザー冷却は,上述したパルスレーザーの増幅に よる高エネルギー化とは反対にレーザー光を物体に当 ててこれを冷やそうというのである.レーザーは光を 閉じこめ,これを増幅してきれいに揃った強い光にす るから冷却とは逆の現象しか実現しないように思われ る.レーザーは振動数を揃えれば単色光になり,時間 的に揃えれば非常に短いパルスの光が作られる。この ようにレーザーは自然界にない光であり,この性質を うまく利用すれば物質の温度を上げることも冷やすこ とも可能になる.
原子の一番外側の軌道の電子(外殻電子)は,原子 の種類にも依るが,光を放出してそれより低いエネル ギーの軌道に落ちる.その際に放出する光(光子)の エネルギーは軌道間のエネルギーに厳密に等しい.逆 に,低いエネルギーの軌道電子は同じエネルギーをも つ光を吸収して外側の軌道に遷移する.このような光 の吸収,放出を繰り返して物体の熱エネルギーを外部 に発散させることができれば物体の温度は下がる.光 を冷却するべき原子に照射するにしても,正確に軌道 問のエネルギー差相当の振動数の光でなければならな いからここにレーザーの長所が発揮されるのである.
ある方向(例えばx方向)に運動している原子に,前 方とこれと反対の後方の2方向から同じレーザービー ムを当てる.ドップラー効果によって原子の前方からの 光は実際より高い振動数の光として,後方からの光は より低い振動数の光として原子に入射する.原子の電 子遷移周波数分布は大体ガウス分布しているから,レー ザー光の振動数を調節することによって方向による光 の吸収差が生じる.前方からの光の吸収が多くなるよ うに調整すれば,その運動量による抵抗力を受けるこ とになり,原子は減速して一方向の運動エネルギーが 小さくなる.このような操作をy方向やz方向につい て行い,原子の運動エネルギーを奪っていくと温度は どんどん下がっていってmK以下になる.原子の外殻 電子は吸収した光子を直ちに放出して励起状態から基 底状態へ変化する.そのとき原子は出ていく光子から 反跳を受ける.光子が出ていく方向は全くランダムで あるから原子はそのランダムな反跳のカを受けて運動 する.この運動エネルギーを除くために,磁気光学ト ラップ,偏光勾配冷却,蒸発冷却などの方法を組み合わ せて今はμK以下の温度,nKの温度領域に突入してい る.最後になったが,絶対温度の基準は長さや時間と 同様に,水の三重点を273.16Kとして定義されている.
2.3 ボース・アインシュタイン凝縮
電子や陽子などのミクロな粒子が多数集まると,粒
子の種類によって2種類の異なった統計的な振舞いを
示す.1っはボース統計と呼ばれ,光子やπ中間子が
ある.ボース粒子は何個でも1つの状態を占めること
津山高専紀要第43号 (2001)
ができるが,もう1つのフェルミ統計に従う粒子は『パ ウリの排他原理』によって1つの状態に1個の粒子し か入れない.電子や陽子,中性子はフェルミ統計に従
うフェルミ粒子である.また,フェルミ粒子が偶数個集 まった複合粒子はボース統計に従い,奇数個の複合粒 子はフェルミ統計に従う.これらの粒子は通常の温度 では,いずれも気体分子と同じような振舞いをするが,
極低温になると量子論によってこれらの統計性の違い が顕在化して全く異なる振舞いを示す.例えば,ヘリ ウム原子を考えてみる.ヘリウム原子はそのほとんど が陽子2個と中性子2個の原子核からなるヘリウム4
(4He)であるが,ごく僅:か中性子が1個のヘリウム3
(3He)が存在する.原子核の周りを運動する2個の電 子を考慮すると,ヘリウム4は6個のフェルミ粒子か らなる複合粒子でボース統計に従い,ヘリウム3は5 個月フェルミ粒子からなる複合粒子でフェルミ統計に 従う.ヘリウム4もヘリウム3も化学的性質は同じで,
極低温以上の温度での振舞いに違いはないが,極低温 になると超流動などその統計性の違いが原因となる現 象がみられる.
量子論では,すべての物質は粒子としての性質(粒子 性)と波のしての性質(波動性)があって,通常の高い 温度では粒子として振舞う物質も低温になるにしたが い波としての性質が現れてくる.これを物質波,或いは その発見者の名前をとってド・プロイ波とも呼ばれ,そ の波長(ド・プロイ波長)は,物質の運動量をpとした ときλ=h/pで表される.hはプランク定数と呼ばれ
る量子論では最も基本的な定ta h = 6。626×10−34[J・s]
で,運動量x長さの次元をもっている。因みに振動数 レの光子(光の粒子)はhyのエネルギーをもつ.絶 対温度丁では1個の粒子はおおよそ3kBT/2の運動
エネルギー一をもっているので,p2/2m= 3kBT/2から ド・プロイ波長λ=h/(3mkBT)1!2が定義される.室 温(温度〜300K)における電子のド・ブvイ波長は原 子の大きさ10−9m程度になる. kBはエントロピー などの概念を導入したことで有名なオーストリアのL.
E.Boltzmannに因んでつけられたボルツマン定数で,
kB=1.38×10−23[J/K]で与えられ,アボガドロ数N,
気体定数.RとR=NkBの関係がある.電子サイズは 原子より遙かに小さいので電子の運動は室温でも量子 効果が大きいことを示している.これに対し,原子の ド・プロイ波長は質量が大きいのでこれより2桁以上 小さく,原子サイズより短くなるため室温では原子は 波としての振舞いを示さない.言い換えると原子は超 低温にならないと量子効果が現れない.
アインシュタインは1925年に「ボース統計に従う粒 子は温度が下がるに従いエネルギーの最:も低い状態(基 底状態)を占める割合が多くなるが,それが連続的に変 化していくのではなく,粒子間の距離がド・プロイ波長 に等しくなったときに顕著な変化,相転移(固体が液体 に変化するような一般に系の振舞いが変化する現象を 相転移という)を示す」ことを予言した.粒子の密度が
小さいときは気体分子のように乱雑な運動をしている が,密度が大きくなり,しかも低温になって粒子が量:子 的な波の振舞いを始めてその波長と粒子間の距離が等 しくなると波と波の相関が生まれ,波の位相が揃った振 舞いが現れる.巨視的な数の粒子があたかも1個の粒 子のような振舞いをするとき,量子現象がマクロな現 象となって観測される.アインシュタインは粒子間に相 互作用のない理想ボース気体でもこのような相転移の 存在を示唆している.これが『ボース・アインシュタイ ン凝縮』である.液体ヘリウム4の2.17K以下でみら れる超流動はその例とされている.最近ではレーザー 冷却の技術が進歩して,絶対零度(一273.150C)に極 めて近い極低温が達成されており,アインシ;・タイン の予言は純粋な『ボース・アインシュタイン凝縮』を目 的とする実験において確認されてきている,ルビジウ ム原子気体において,温度が下がるにしたがい量子的 に同じ状態の密度の増加が観測された.その後,ナト リウム,リチウム,水素の原子気体でもボース・アイ ンシュタイン凝縮が観測されている.
2.4 超流動と超伝導
オランダの物理学三子ンネス(H.Kamerlingh−Onnes
)は1908年ヘリウム気体の液化(臨界温度5.2K)に成 功した.天然に存在するヘリウムは4Heであるが,こ の4He液体の温度を下げていくとTA=2.17K:で比熱 の異常を伴う2次相転移を起こす.すなわち,TA以下 で全く異なった液体の振舞いを示す.このことから乃 以上のヘリウムをHe I,TA以下のヘリウムをHe II として区別している.HgIは通常の液体と同じ振舞い
(常流動)を示すのに対し,He IIは普通の液体が通れ ないような非常に狭い隙間を通り抜けたり,コップに 入れると壁面に膜をつくって這い上がり外へ出てしま う(超流動)ような異常な振舞いを示す.ロンドン(F.
Londonドイツ, USA)はHe IIについて粒子間の相互 作用がない理想ボース気体がボース凝縮を起こすモデ ルを考え,実験値に近いTA=3.13Kを得た.その後,
L.Tiszaの2流体モデルやL. D. Landau(ロシア)の 量子化モデルなどによって超流動現象が明らかになっ
てきた.
ある種の金属,合金の電気抵抗がその物質に固有の
温度(転移温度)以下でその電気抵抗が0になる現象
を超伝導とよぶ.この現象はヘリウムの液化に成功し
たオンネスが1911年,水銀の電気抵抗が4.2K以下で
完全に0になることを発見した.すべての物質が超伝
導になるわけではなく,例えば,銀や銅は絶対零度ま
で抵抗が残る(残留抵抗)常伝導であるのが一般的で
ある.超伝導にはいろいろな性質があって,例えば,超
伝導体に外からある値以上の強い磁場を掛けると,超
伝導の性質が破壊される.また,超伝導体の内部には
表面から約10一6cmより内部には磁力線は侵入するこ
とはできないが,この性質はマイスナー効果としてよ
く知られている.超伝導体に磁石を近づけると反発力 を受けるがこれはマイスナー効果に関連している.超 伝導体のリングに電流を流すと永久に電流が流れ,こ れによって永久磁石(超伝導磁石)が作られる.
超伝導はときに超電導とも書かれる.内容に違いが あるのではなく,主として理論的な研究分野では前者 が,応用的(工学的)な分野では後者が使われる.い ずれもSuperconductivityであることに変わりはない.
超伝導現象の理論的な研究は,この現象が発見されてか ら約50年問,解明されないままであったが,1957年,
アメリカのJ.Bardeen, L. N. Cooper, J. R. Schrieffer
による有名なBCS理論(反対向きのスピンを持つクー パーペアと呼ばれる2個の電子対が安定になる)によっ て明らかにされた.
超伝導はその性質の特異性ゆえに,多方面で応用さ れている14).電子計算機の素子,磁場の精密測定(
SQUID),電磁流体(MHD)発電など抵抗がなくて,
ジュール熱や熱雑音を伴わない長所が利用されている.
しかし,1980年までは23Kを越える超電導物質は発
見されなかった.1986年,ベドノルツ(J. G. Bednorz,
ドイツ)とミュラー(A.Mtiller,スイス)は,今までよ りも50%も高い転移温度(35K)をもつ銅,ランタン,
バリウムの酸化物を探し当てた.これが引き金になっ て,「高温」超電導体探しは過熱し,イットリウムという なじみのない元素の化合物で,90Kについで125K:と いう高温超電導体がっくりだされた.このような高温 になるとヘリウムと違って,安価な液体窒素で超伝導 現象を利用することができるようになり,超電導体の 実用化はこの10年閥に加速していった.しかし,酸化 物高温超電導体の起こるメカニズム,理論的な研究は,
実用化している現在においてもまだ解明されていない.
超電導利用の3つのポイントは
1.臨界温度以下の電気抵抗ゼロ状態の利用 2.磁力線を排除するマイスナー効果の利用
、3.非常に薄い絶縁層は,電圧を掛けなくても電流が 流れるというジョセフソン効果の利用
にある.1の利用は,送電中の電気抵抗による電力損失 の軽減やこれに関連して,発電量の省力化はCO2排出 の削減,地球温暖化防止にもつながる.超電導マグネソ
トは従来のモーターや発電機より小型化,軽量化,高出 力化をもたらし,経済効果も大きい。断層画像撮影装置 MRI(Magnetic Resonance lmaging)は頭部や人体内の 患部を診断する威力のある装置として我々にも既にな
じみがある.また,エレクトロニクスの分野でも通信 衛星のアンテナ,共振器,フィルターなどのデバイス やコンピュータの超高速演算素子やスイッチング素子,
配線材料などへの応用がある.
2のマイスナー効果を利用した磁気浮上による高 速鉄道(リニアモーターカー)の建設が着実に進めら れており,東京,大阪をユ時間で結ぶ夢の超特急の実 現も21世紀には可能になるだろう.超電導センサー
SQUID(Superconducting Quantum lnterference De−
vice)は3のジョセブソン効果を利用したものであり,
心磁図や脳一図として医療診断だけでなく,非破壊検 査,構造物の検査や分析機器へ今後一層の活用が期待
されている.
また,将来の科学の発展を支えるものと期待される ものとして,最近,話題の走査トンネル顕微鏡カーボ ンナノチューブの発見がある.走査トンネル顕微鏡は 1982年にピニング(G.Binnig,ドイツ)とローラー
(H.Rohrer,スイス)によって開発された表面構造分 析顕微鏡である.鋭くとがった探針を試料表面に近づ け(〜1nm),探針・試料間の距離を一定に保ちながら 表面を走査し,原子スケール(0.01nm)で,その表面 の凹凸を観測する.この顕微鏡の分解能は細い探針先 端から局所的にでるトンネル電流を利用している.
1985年H。W。 Kroto(UK),R. E. Smally(USA),
R.F. Cur1(USA)は星間物質の研究から未知の炭素 物質でサッカーボールそっくりの形をしたフラL一一一レン と呼ばれる物質C60を見つけた.この名前の由来はア メリカの建築家バックミンスター・フラーによってい る.この物質の発見によって3人は1996年ノーベル化 学賞を受賞したが,これがきっかけになってカーボン ナノチューブという世界最小,ナノサイズのチューブ の発見が日本の飯島澄男15)によってもたらされた.電 気伝導性や構造の安定性などナノテクノロジーの担い 手,ナノテク素材の代表として大いに;期待されている.
例えば,カーボンナノチューブでナノサイズのピンセッ トを使って,微粒子をつかんで操作するようなことが できるようになった.ナノの世界を見る原子問力顕微 鏡の走査針に使われたり,DNA(直径2ナノ)の観察 や操作も可能になってきている.
3 ビッグバン
3.1 宇宙進化の研究
宇宙の誕生や進化について科学的に研究されるよう になったのは,アインシュタイン(A.Einstein USA,
ドイツ生まれ)の「一般相対性理論」(1915)発表から である16),17).当時,宇宙は永遠に不変であると考えら れていた.アインシュタインもまた膨張も収縮もしな い静的な宇宙を考えていた.宇宙に存在する星,銀河,
星間物質などあらゆる物体に重力(万有引力)が作用し
ている.この力は宇宙の収縮に作用しているが,静的宇
宙を考える以上は重力をうち消す斥力の存在がなけれ
ばならない.そこでアインシュタインは宇宙項(宇宙定
数)を斥力として導入した.しかし,1929年,ハッブ
ル(E。Hubble USA)が銀河の観測から赤方偏移現象を
発見宇宙の膨張が示された.アインシュタインはこの
宇宙項を導入したことが人生最大の失敗だったと嘆い
たそうである.同じ斥力といっても後述するインフレー
ション理論の斥力とは起因するところが異なる.1922
津山高専紀要第43号 (2001)
年にロシアの天文学者フリードマン(A.Friedmann)
は一般相対性理論のアインシュタイン方程式を宇宙論 に適用して,宇宙が膨張するか,または収縮するかど ちらかの解が存在することを示した.
3.2 ハッブルの偉大な発見
ハッブルは,ウィルソン山パロマ天文台で当時として は世界最大の100インチ大口径望遠鏡を駆使して,銀 河の距離,速度,分布を観測していた.そして,観測さ れるどの銀河も地球から遠ざかっていることを発見し た18).ハッブルは地球にある水素原子から馴せられる 光と銀河内の水素原子からやってくる光とを比較して みたところ,銀河からの光が赤みがかっている「赤方偏 移」現象を交い出したのである.「話方偏移」は物体が 遠ざかっているとき,その物体が出す光が実際(その 物体が静止しているとき)より周波数の小さな光に見 えるというドップラL一一一一効果を表している.どの銀河か らの光も「赤方偏移」することからハッブルは1929年 に「今,宇宙は膨張している」ことを発表し,フリー ドマンの膨張解の存在を実証することになった.また,
遠ざかる速度がハッブルの法則v=Hr(r:地球から の距離)で与えられることを示した.
3.3 ビッグバン
現在の宇宙が膨張しているとなると宇宙の過去は縮ん でいたことになる.1948年にガモフ・(G.Garnow USA,
ロシア生まれ)はハッブルの宇宙膨張の観測事実を念 頭に,一般棺対性理論と熱力学の:方程式を使って,宇 宙初期の高温の火の玉からすべての元素がつくられる
ビッグバン宇宙論19)を発表した.宇宙は約100億年前 に超高温,超密度の火の玉から始まり,物質は最小単位 の素粒子という形で存在した.宇宙の膨張によって温 度は下がり,素粒子は結合して原子核がっくられ,さ らに電子と結合して原子が出来上がった.万有引力に よって,原子は集まって物質をつくり,星ができ,さら にこれが集まって銀河系がつくられ,現在の宇宙が形 成された.このようにビッグバン理論は宇宙が誕生し て3分以降のようすを予言することができて大成功を おさめた.ビッグバン理論は宇宙論の標準理論である.
1965年ペンジャス(A.Penzias USA)とウィルソ ン(R.Wilson USA)はベル電話研究所の所員で,通 信衛星の高性能ラッパ形アンテナの研究をしていた.そ の論文は雑音を除去する技術が淡々と書かれ,数式が
ユつもない2ページにも満たないものであった.論文 の目的は宇宙にビッグバンの残光を探し当てようとす るものではなかった.彼らが検出した4080MHzの弱 いマイクロ波の電波は,特定の銀河から来ているもの ではなく,宇宙空間全体を満たしているマイクロ波で あった.これは,温度が3Kの完全黒体から発せられ るマイクロ波と一致し,膨張宇宙初期(宇宙の大きさ が現在の1000分の1の頃)の高密度な状態で宇宙を満
たしていたビッグバンの残光(宇宙背景放射)と考え られている.ビッグバンの証拠が見つかったのである.
これによって,ペンジャスとウィルソンは1978年ノー ベル物理学賞を受賞した.1989年11月に打ち上げら れたアメリカの宇宙背景放射探索機COBE(COsmic Background Explorer)はその温度が2.73Kで,しかも 得られたデータはプランクの分布曲線に非常によい一 致を示した.この温度は極低温であるが,その存在は 膨張している宇宙の過去に遡れば,エネルギー保存則 より収縮した宇宙の温度は高温になっていく.そして,
行き着く先は,小さな火の玉宇宙ということになる.こ のようにして,ペンジャスとウィルソンの観測結果は
ビッグバン理論を裏付けるものであった.
しかし,ビッグバン理論は,時間0の宇宙や宇宙が なぜ爆発的な膨張を起こしたのか,:更に宇宙の「平坦 性問題」つまり宇宙の曲がりはほとんど測定できない ほど小さいことが分かっていることに回答を与えるこ とはできなかった.時間0において空間0に無限のエ ネルギーをもっという特異点の存在を回避することが できない.また,光速度以上の速度で膨張した宇宙に おいて,互いに離れた2っの宇宙空間は,相関をもた ないはずで,密度,温度に差がない宇宙の状態をビッ グバン理論では説明できない.この特異点を避けるた めに,「 神の最初の一撃 によって宇宙がはじまった」
というような,或いは,物理学でよく出てくる初期値 として,これを黙認することが当時の一般的な考え方
であった.
3.4 宇宙の急激な膨張インフレーション
この難問への回答は思わぬ分野から与えられた.創 生期の宇宙はミクロ宇宙であり,しかも極めて高温の 状態で,物質は最も小さな素粒子の状態としてしか存 在しなかったと考えられる.このような素粒子の世界は 量子論的にしか扱えない.1980年代,物質世界の基本 的な力を統一的に理解しようという研究が大きな進展 を見せていた.自然界には4つの力がはたらいていて,
宇宙のはじめにはこれが統一されて1つであった(「統 一理論」)と考えられている.4っの力とは,重力,電 磁力,核子(陽子,中性子)間にはたらく強い力,ベー タ崩壊の際に現れる弱いカである.宇宙が膨張し,冷 却する過程でカも枝分かれを起こし4っの力が生まれ た.最初の力の分化が起こるとき,宇宙の真空の性質 も変化する(真空の相転移).ここでいう真空というの は,物が何もない状態ではなく,量子論的な状態の揺 らぎをもつ状態を云う.具体的に云うと物理的な真空 状態として電子と反粒子である陽電子や陽子と反陽子 のように,物質粒子と反物質粒子がペアを作っていて,
これが生成消滅を繰り返している.物理的な真空状態 は,このような量子的な揺らぎの状態のみが存在する 基底状態である.
真空が相転移すると宇宙は急激に膨張する.なぜか
というと相転移前の真空は高いエネルギーを持ってい ることが知られており,このエネルギーをアインシュ タイン方程式に代入すると,空間に対して斥力として 宇宙空間を指数的に急膨張させることが示されるので ある.この膨張の割合はビッグバンモデルでは考えら れないような何十桁,何百桁の急激で瞬間的な膨張で ある。この真空のエネルギーはアインシュタインが考 えた宇宙項に相当する効果を生み出す.真空の指数的 な膨張を伴う相転移の後に,真空のエネルギーは潜熱 という形で解放され,通常の熱エネルギーとして原子,
分子など物質の形成に使われるようになった.10−33cm の宇宙が光速度以下のスピードで瞬間的(指数的)に 数cmの大きさになった.これは我々が見通せる1つの 宇宙の領域であり,初期の密度や温度の一様性が保た れた状態である.これが宇宙の「インフレーション理 論」20)で,現在の宇宙の一様性の問題に一つの解答を 与えている。インフレーション理論は1981年,東京大 学の佐藤勝彦とMITのダース(Alan Guth USA)が 独立に導いた.この加速度的な宇宙膨張の後は,現在 のような減速膨張が続いて100億光年の大きさになっ たbビッグバンはインフレーションが終わった後から 適用できる理論である.
1992年に打ち上げられた宇宙背景放射観測衛星 COBEは宇宙誕生30万年頃のマイクロ波を観測し,
インフレーション理論から予測されるパワースペクト ルとよく一致して,その密度揺らぎが極めて小さいこ
と,宇宙が平坦であったことが示された。このように ビッグバンモデルを補填する形でインフレーション理 論がつくられ宇宙創生のパラダイムは前進していった.
が高ければ高いほど大きくなる.
ホーキング(S.Hawking UK)は量子論的宇宙の波 動方程式より導かれる解の中で,ビレンキンの宇宙が 最も存在確率が高いことを示した.トンネル効果によっ て高い真空のエネルギーから素粒子より小さい宇宙が 突然生まれるというのである.真空のエネルギーが高 い程,ポテンシャルの頂上とのエネルギー差が小さく なるから,トンネル効果でポテンシャルの山の反対側 に粒子が浸み出す(この場合は宇宙が作られる)確率 が大きくなる.トンネル効果によって作られた超ミク ロ宇宙はポテンシャルの坂道を下るように一気に膨張 していった.
宇宙の大きさは量子論的に許される最小のプランク 長さ10−34cm,時間は最小の10−44secから始まった.
トンネル効果によって生まれた超ミクP宇宙は1r34cm しがなかったが,高い真空エネルギーによって斥力を 受け,指数臨急膨張「インフレーション」を起こして,
あっという間に膨れあがった。一度つくられた超ミク ロ宇宙は,物理法貝llによってポテンシャルエネルギー の低い状態の方向(宇宙膨張の方向)に進み,元に戻 ることはない.
このように宇宙はビッグバンで始まったのではなく,
量子論的なトンネル効果で生まれた宇宙がインフレー ションという段階を経てビッグバンが始まるのである.
つまり,10ff36secに現在の宇宙の1028分の1cmだっ た宇宙はインフレーションによって10−4秒後に1012 分の1cm(温度1012K)に膨張し,陽子,中性子がつ くられた.1秒後には温度が1010Kまで下がり水素原 子がつくられ,3分後にはヘリウム元素が合成されたと 考えられている.
3.5 無からの宇宙創生
宇宙はどこからどのようにして生まれたのだろうか?
ソ連の物理学者ビレンキン(A.Vilenkin USA,ソ連ウ クライナ生まれ)は,1993年未だ完成途上にある量子 重力理論を使って,「無」からの宇宙の誕生について驚
くべき結論が得られることを示した.ここで云う「無」
とは単に物質がないというのではなく,時間,空間,エ ネルギニのない状態を意味する.量子論では非常に短 い時間の中では時間,空間,エネルギーは1つの確定 した値を取り得ず,絶えず揺らいでいる.この揺らい だ「無」から真空の高いエネルギーをもつ超ミクロ宇 宙がトンネル効果によって突然生まれる.トンネル効 果は,電子などの量子力学に従う粒子に特徴的な現象 である.通常,我々の視覚に捉えられる物体(ニュート ン力学に従う)が運動しているとき,高い障壁(坂道)
を乗り越えるには,物体が最初にそれだけの運動エネ ルギーを持っていない限り,100%不可能であるが,量 子力学に従う粒子は,たとえ十分なエネルギーを持っ ていなくても,常にある確率でこの障壁を通り抜ける ことができる.トンネル効果で宇宙が生まれる確率は,
宇宙が小さければ小さい程,また,真空のエネルギー
3。6 超新星爆発
宇宙の起源の話からずれるが,1987年2月23日岐 阜県神岡鉱山の地下1000メートルにある「カミオカン デ」の超新星爆発SN1987Aの観測は,天文ファンなら ずとも科学上の非常に興味深い話題を提供してくれた 21).研究施設「カミ無調ンデ」に届いた一通のファック ス「大マゼラン星雲に4〜7日前に超新星が出現した.
おまえたち見えるか?これこそ350年待ち望んだもの だ!」は16万3千年前に起こった壮大な宇宙のドラマ をニュートリノというミクロな素粒子が捉えた最もエ クサイティングなイベントのはじまりであった.また,
そこには光電子増倍管やチェレンコフ光という20世紀 物理学の重要な成果が使われている.
宇宙線観測装置「カミオカンデ」には3000トンの純 水が蓄えられている.太陽や超新星爆発などの核融合 反応に伴って放出されるニュートリノは,電荷をもたな い,ほとんど質量Oに近い粒子であるため,他の粒子
との相互作用も起こさず,宇宙のあらゆる方向に飛ん
で行き,地球も容易に貫くことができる.他の粒子が
到達できない地底に到達したニュートリノは水の中で
津山高専紀要第43号 (2001)
電子と反応し,反ニュートリノは水の中の水素原子核
(陽子)と反応する.反応の結果できた電子や陽電子は チェレンコフ光を発する.チェレンコフ光は粒子が光 の速度を超えるときに発する光である.水中における 光速は,真空中の約3/4に落ちるから,原子炉の核反 応の際には青白い光を観ることがでる.これは,飛行 物体が音速を超えるときに爆音を伴う衝撃波が生じる
ことに対応している.
しかし,飛来してくるニュートリノはごく稀であり,
これを確実にキャッチするにはこれを可能にするような 装置の製作が先ず必要である.巨大な光電子増倍管は,
アインシュタインの光電効果に関連して,ある波長以 下の光が光電面に当たるとそこから電子が放出される.
これを1000万倍くらいに増幅してやれば,1個,1個 のニュートリノの到来を捉えられるというしくみになっ
ている.
銀河系内へびつかい座の超新星以来400年ぶりに,
我々から最も近い銀河,大マゼラン星雲のなかに肉眼 で観測できる超新星が誕生した.肉眼で観測できると 云っても南半球でしか観測できない位置にある.アンデ ス山中,チリのラス・カンパナス天文台のSheltonは,
2月24日付けでボストンの国際天文台連合へ第一発見 者としてテレックスを送っている。超新星爆発は太陽 の8倍以上の質量の星が辿る最後の姿であり,爆発と 同時にニュートリノが大量に放出される.光はニュー
トリノより18時間遅れて出るのでラス・カンパナス天 文台の光学観測より時間的に早くカミオカンデの観測 データに現れている.ビッグバンのテーマの最後に超 新星爆発の話題を取り上げた.宇宙の進化と同じよう に,これもまた,マクロな極限の宇宙の出来事をミク ロな極限の素粒子ニュートリノを通して,偶然にも稼 働したばかりの地下1000mの「カミオカンデ」で捉え たという感動的な話題である.
4 おわりに
この小編で扱った2つのテーマ,「極限物性」と「ビッ グバン」の内容は,末尾の文献を参考にまとめたもの である.物性の極限と云えば,温度や圧力,或いは対象 の物体の極微な粒子,超薄膜のような物性が文字通り の意味かも知れないが,もっと広く量子力学が意味を もつような物質の物性にまで拡張して考えている.最 近は微細加工技術,低温技術,精密測定技術の進歩に
よって量子力学の適用範囲がミクロな世界からマクロ に近い領域へ広がってきている.マクロの領域を1mと すれば,ミクロサイズは原子の世界で10−10m,最近,
話題になっているメゾスコピックなサイズは10−6mと 考えればよい.そして,メゾスコピックな領域までミ クロな量子現象が展開しているのである.
自然科学の広い領域に研究の対象をおく物理学の中 で興味深い部分として,論文1とIIにおいて,「量子力 学」,「アインシュタインの世界」,「極限物性」,「ビッグ
バン」の4つのテーマを取り上げた.20世紀最後の4 半世紀に開拓された最も大きな成果は,非線形現象と してのカオスやフラクタルの話題であり,残された興 味深いテーマとして次の機会に報告したい.
参考文献
1.川部健,専門的な教養物理教育の試み1,津山高専紀要,
42(200e)73−80
2.カート・サプリー,「20世紀の物理学」,Newton 1999 年8月ニュートンプレス
3.佐藤文隆,「物理学の世紀」1999年12月,集英社 4.寺内正己,「理科離れ」と「出前授業」,日本物理学会誌,
56(2001)489−491
5.河合知二,子供の理科離れを嘆く前に,朝日新聞,2001.
5. 26
6.James Gleick, CHAOS−MaJ血g a New Science 1987,
(大貫昌子訳)新潮文庫
7.(1)ティーチャーズ・サイエンスキャンプ,日本原子力 研究所 東海研究所,2000年8月23日〜25日;(2)理 数系教員のための講習会,順子物理学の最先端の話題」
清水忠夫,凶口東京理科大学 2000年8月30日;(3)
市民科学講演会,「すばる望遠鏡:宇宙への夢」国立天文 台長海部宣男,「急浮上する高温超電導技術」超電導工 学研究所長田中昭二,中央大学理工学部2001年3月 29日;(4)仁科芳雄博士記念科学講演会,「ニュートリノ 天体物理学の誕生」小柴昌俊(仁科賞,学士院賞,文化 勲章など多数を受賞)仁科記念会館2001年7月28日
8・