留学生と日本人学生の友人関係
著者 土屋 博嗣
雑誌名 明治学院大学国際学部付属研究所研究所年報 =
Annual report of the Institute for International Studies
巻 16
ページ 83‑85
発行年 2013‑12‑01
その他のタイトル Friendship between International Students and Japanese Students
URL http://hdl.handle.net/10723/1956
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留学生と日本人学生の友人関係
土 屋 博 嗣
日本に来ている外国人留学生の数は、平成23 年 5月 1日現在で、138,075人で、昨年度より
3,699 人(2.6%)減少している。そのうち、アジアからの留学生が 129,163 人で、その内訳は一
位が中国から87,533 人、二位が韓国から17,640人、三位が台湾から 4,571 人、四位がベトナム
から4,033人、五位がマレーシアから2,417人である。
留学生とホスト国学生との関係であるが、多くの留学生を受け入れてきたアメリカでも、ホス トと留学生の間の個人的接触は限られている。イギリスでも、留学生のベストフレンド(親友)
はイギリス人が4分の1しかいず、半数余りの留学生にはイギリス人の友人は全くいなかったと いう研究もある。イギリスの学生寮における留学生の友人関係を調べた調査では、17%の者にし かイギリスの友人がいなかったという。
日本でも、「私費留学生実態調査」(1988)によると、留学生の 90%近くが日本人学生の友人 がほしいと思っているが、現実には3分の1の留学生が親しい日本人の友人を一人も持っていず、
70%の留学生は日本人学生は友達になりにくいと感じている、という。
少なくとも一人でもホスト国の親しい友人がいる者は、いない者よりその国での困難が少ない ことが分かっている。異文化での友情形成は、滞在者の満足感を高めることができるし、異文化 社会で暮らす不安から抜け出すためには、ホスト文化の視点からの理解が必要になる。ホスト国 の友人を持つことかできるかどうかは、留学生にとってその国での留学生活を快適なものにでき るかどうかを決定づける要因の一つになっていると言えるだろう。
留学生の友人関係は、相手の出身地域によってその機能が分化していると言われている。勉強 の相談に乗ったりするような学問を続ける上での援助をホスト国の学生が担う。出身文化を共有 したりホスト国での違和感を共感し合ったりするのは、同国・同文化圏の留学生である。他国の 外国人留学生は、一緒に遊んだり楽しんだりする、レクリエーショナルな機能を担っている。
日本にいる外国人留学生の場合、西洋の出身者は日本人と友人関係を作りやすいが、アジア出 身者は同国人との結びつきが強い。西洋出身者もアジア出身者も同国人と日本人とに友人が集中 している傾向があり、他国籍の外国人留学生との交流が希薄である。
実際には、日本で留学生が対人行動上でどんなことに困難を感じているかを、国立大学の留学 生24人に面接調査し、その回答を分類したところ、次のようになった(田中,2000)。
① 感情や機嫌を損なわずに調和を保つ工夫としての表現の間接性
特にネガティブなことの直接性の回避、主張・主体性を隠すこと、デリカシー、事実と言う ことの食い違い、調和の尊重
② 礼儀や社会の通念としての行動
挨拶、社交的おつきあい、義理、儒教的上下関係、規則、社交辞令
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③ 抑制の効いた自己表現
抑制の効いたつつましい自己表現、人付き合いの慎重さ、まじめで禁欲的態度
④ 異性との関わり
対女性文化、異性関係の慎重さ・同性交友社会
⑤ 日本人による外国人の特別扱い
外国人の回避、英語・米国への注目過多、外国人との付き合いの不慣れ
⑥ 集団主義的な行動と同一性の尊重 集団行動への同調、異質さへのためらい
これは、日本文化におけるコミュニケーションの特徴がよく表れた結果となっている。留学生 が違和感を感じる文化的行動の背後には、その存在理由があるのだが、自文化での行動に慣れて いる留学生にとっては、理解しがたいのであろう。日本での人間関係には独自性の高い文化ルー ルが存在しており、留学生がホスト社会との関係を深めるほど、このようなルールの存在を意識 することになる。
現地のホスト文化を取り入れている人ほど、社会文化的適応をしていると言われており、文化 ルールの理解を促進すると共に、それを生かした実際の行動の仕方を習得していくことも必要な ことである。たとえば、留学生は、自分に向けられた「外人扱い」をそれとなくやり過ごし、
「間接性」は正確に理解し、「集団主義的傾向」は尊重してなるべく同化するように行動すると、
うまく人間関係が保てるようになる、ということになる。
実際に現在付き合っている中国人留学生と日本人学生との友人関係からは何が分かるだろうか。
中国人留学生は、「面子」に関わるので、比較的自己防衛意識が強く、自らの「非」に言及しな い傾向があり、日本人学生は、相手のことを察し、思いやる「気遣い」の意識が強い。両者とも、
自国の文化で形成された「暗黙のルール」にとらわれてしまうため、付き合う過程で障害や誤解 が生まれていると言える(戦,2007)。
また、日本人学生はどのようなスタンスで外国人留学生と付き合っているかを見てみると、大 きく二つのタイプがある。一つは、相手文化の保持に協力する「母文化温存型」とでもいうやり 方で、これには、相手文化に付加価値を見出し積極的に温存を図る「文化歓迎型」と相手の文化 学習の動機付けの少なさに呼応して忍耐する「文化忍耐型」とがある。もう一つは、高い主張性 を自分も取り入れて、主張行動によってお互いの相互作用と文化的変容の可能性が確保される
「主張行動習得型」である(中島 他,2008)。誤解を避けて相手の真意を理解して交流するため には、ホスト国の学生も自文化のルールを認知的に説明でき、相手の行動をサポートできるよう な行動レパートリーを習得しておくことも求められる。
留学生が人間関係を育むことができる適切なソーシャルスキルを学習し、生活場面において使 用することができれば、不愉快な思いをすることも少なくなるし、円滑な留学生生活を送るため の一助になると思われる。留学生自身は、自文化からの被害的な方向の解釈を修正し、過度の非 難に偏らないように、原因帰属に注意することが求められる一方で、ホスト側では行動が持つ文 化背景への知識を提供し、メッセージの読み取りの枠組みを提供するようにしていく必要がある。
85 たとえば、間接性は、ごまかしや不正直な態度ではなく、相手の感情に配慮した表現であること を認知的に理解できるように説明し、自分が望まない反応を避け、自分のやりたいことやいいた いことを適切に表現するために必要な知識・行動の仕方が学べるようにしていくことである。日 本社会で留学生が有用だと考えているコツや工夫には、①お辞儀や挨拶や敬語など、日本の行動 様式を取り入れること、②自己主張を控えめにして人の気持ちを考えるなど、相手との和に配慮 すること、③慎重に時間をかけて、親密になる努力をすることなどが挙げられるが、より具体的 に留学生が困難を覚える、さまざまな場面でのソーシャルスキルの学習をできるようにしていく ことも必要であろう。
<参考文献>
アジア文化会館留学生生活調査グループ(1988)「私費留学生実態調査」『月刊アジアの友』1988年9・10月号 (財)アジア 学生文化協会
戦旭風(2007)「友人との付き合い方から見る中国人留学生と日本人学生の友人関係」『留学生教育12』95-105
田中共子・藤原武弘(1992)「在日留学生の対人行動上の困難―異文化適応を促進するための日本のソーシャル・スキルの 検討―」『社会心理学研究7-2』92-101
田中共子(2000)『留学生のソーシャル・ネットワークとソーシャル・スキル』ナカニシヤ出版
田中共子(2007)「異文化適応方略としてのソーシャルスキル学習」『人間関係のゲーミング・シミュレーション』北大路書 房 179-200
中島美奈子・田中共子(2008)「異文化交流における日本人学生のソーシャルスキル―在日外国人留学生との交流の要領に 関する分析―」『留学生教育13』63-72
日本学生支援機構(2012)「平成23年度外国人留学生在籍状況調査結果」