論文審査の結果の要旨
氏名:大 津 麻里子
博士の専攻分野の名称:博士(歯学)
論文題名:Bactericidal and salivation enhancing effects of bittern water (にがり水の殺菌および唾液分泌促進効果)
審査委員:(主 査) 教授 今 井 健 一
(副 査) 教授 佐 藤 秀 一 教授 浅 野 正 岳 教授 宮 崎 真 至
口腔の 2 大疾患である齲蝕と歯周病は,共に細菌感染によって引き起こされる。齲蝕病原細菌であ る Streptococcus mutans(S. mutans)は,食物由来の糖を代謝することで産生される有機酸により 歯牙硬組織を脱灰する。歯周病では,歯周病原細菌の内毒素などが誘導する炎症性サイトカインによ り,歯周組織の破壊と歯槽骨吸収が生じる。両疾患の予防には,原因となる細菌数の抑制と生体防御 力の維持・増強が必須である。唾液中には感染防御因子が多く含まれているが,特に分泌型免疫グロ ブリン A(secretory Immunoglobulin A:sIgA)は,口腔粘膜の感染防御において主体的な役割を担 っている。口腔内細菌に対して,内毒素の中和や粘膜上皮との結合阻害作用を有するため,sIgA は口 腔内の感染防止や恒常性維持において極めて重要である。
にがりは,塩化マグネシウム(MgCl2)と塩化ナトリウム(NaCl)が主成分の食品添加物である。こ れまでに,にがりが血中 IgE 濃度の上昇を抑えること,また高濃度の MgCl2 水溶液が Helicobacter
pylori の増殖を抑制することなどが報告されている。しかし,にがり水の口腔内細菌,および免疫に
対する作用についてはよく解っていない。そこで本研究では,にがり水の S. mutans に対する直接的 な殺菌効果,および唾液と sIgA 分泌に対する影響について検討した。
にがり水の齲蝕病原細菌に対する効果は,S. mutans をにがり水の原液と混合後,Brain Heart Infusion(BHI)寒天培地に播種し,コロニー数を数えることにより調べた。唾液と sIgA 分泌に対す るにがり水の影響を検討するため,安静時の唾液を採取した後,にがり水の原液,もしくは 10% ま たは 50% に希釈したにがり水で 1 分間含嗽した。2 分および 1 時間後に唾液を採取し,sIgA 濃度 は enzyme-linked immunosorbent assay(ELISA)にて,唾液中の sIgA 量は sIgA 濃度と唾液量から 測定した。
その結果,以下の結論を得た。
1. にがり水は,処理時間依存的に S. mutans の増殖を抑制した。
2. にがり水による含嗽により,唾液量と唾液中 sIgA 量が増加した。
3. 希釈したにがり水による含嗽においても,唾液量が増加する傾向が認められた。
以上の結果から,にがり水は S. mutans への殺菌効果と sIgA の分泌促進効果を有することが明ら かとなり,齲蝕予防に有効である可能性が示唆された。本研究は,齲蝕,歯周病および口渇などの予 防と治療へにがり水を応用する上で重要な基礎的知見を提供するものであり,歯周病学ならびに関連 歯科臨床分野の発展に寄与するものと考えられた。
よって本論文は,博士(歯学)の学位を授与されるに値するものと認められる。
以 上
平成29年3月8日