熊 大 教 育 実 践 研 究 第 1 0 号 , 2 7 ‑3 0 , 1 9 9 3
回転運動におけるエネルギーと角運動量
桃 井 凡 夫 *
R o t a t i o n a l K i n e t i c Energy and A n g u l a r Momentum
Tsuneo MOMOI
( R e c e i v e d September 3 0 , 1 9 9 2 )
There a r e some i n t e r e s t i n g phenomena a s s o c i a t e d w i t h an o b j e c t w h i c h i s n o t r i g i d , b u t w h i c h c h a n g e s from o n e r i g i d c o n d i t i o n w i t h a d e f i n i t e moment o f i n e r t i a , t o a n o t h e r r i g i d c o n d i t i o n .
は じ め に
最も基本的な物理量である運動量と,より高次元 かつ高度の物理量であるエネルギー量の双方を物理 現象として観測することは物理学的にも教育的にも 意義あり興味深いことである.これらを実験的に観 測対象とするには,直進運動より回転運動において 行うのがより効果的である.このための方策として 始めに次のような手順がなされるのが適切であると 考えられている.運動量とエネルギーとは直進運動 においては質量と速度によって決定されるが,回転 運動の場合には,直進運動における質量を慣性モー メントに,速度を角速度にそれぞれ置き換えて角運 動量と回転エネルギーを導くのである.このような 対比が有効となるのは回転運動そのものが直線運動 の延長上にあるからである.唯ここでは実験的要請 から置き換えが必要となるのである.確かに直進運 動の最中に質量を増減させながら,運動量保存とか エネルギ一保存という物理量を観測することは極め て困難である.しかるに回転運動ではこれらの観測 が,以下の理由により極・めて容易なものとなるので ある. それは質量に相当する慣性モーメントが,回 転軸からの質量の位置を変えることだけで可能とな るからである.このような身近な事例は回転してい る人が腕を伸び縮めする場合や,本報で取り扱うぶ らんこの乗り手が体を上下に動かす運動がこれに相 当する.このような状態を簡単な実験器具で教示
1)することは回転台を用いるなどいたって容易なもの である.しかもこのような状態は物理的には一つの
‑理科教育
剛体状態から他の剛体状態に移行することであり,
極めて興味ある力学的現象の実験観測を容易にして いるものである.本研究もぶらんこの運動解析その ものが目的ではなく,剛体状態の移行により生じる 力学的現象の解明が真の目的である.このために誰 しもが経験するぶらんこの運動をもとに,回転する 物体の運動の解析手段として取り扱うものである.
当然これまでにもこの点に着目したいくつかの報 告
2‑3)があるが,本報の成果は,当然これらの報告と は異なる解析の方法と結果により特徴づけられてい るものマある.
回転運動での保存の法則
ある軸の回りに回転する一つの物体が軸からの距 離が変わる場合と,ぷらんこ上の乗り手が自ら体の 重心を移動させる場合の力学的類似性をもとに保存 の法則を考えてみる.これらの状態をより適確に理 解するために F i g . l が示しである.左右の図共に物 体が位置 a にあるとき回転軸 O の回りの慣性モーメ ントを l a ,位置 b にあるときのそれを λ とし,これ
a a
F i g . l 回転運動
一
2 7‑
桃 井 凡 夫
らに対応する角速度を ω11'ωb とする.いま回転して いるとき外力が加わらなければ,角運動量は保存さ れるので慣性モーメントと角速度の関係は 1 1 1 >
1 b , ωa く ωb であり,
I a ωa‑ ん ω ( 1 ) となり角運動量保存の法則が成り立つ.
回転運動エネルギーに関しては,(1)式と ωa<ωb の関係から
~ιωa2 く~んωb
2( 2 ) となることは明らかである.即ち a の位置から b の 位置まで物体を移動さたことで b の位置ではエネル ギーが増加したものと考えられる.
このことは一見して外力が加わって無いにもかか わらず,どうしてエネルギー保存の法則は成り立っ ていないのか疑問を生じさせるところでもある.し かし,このところに物理的に極めて興味ある事実が 内在されているのである.それは回転している物体 に働いている遠心力に抗して a の位置から b の 位置までの移動距離分だけの仕事が回転エネルギー
として増加することによるものである.
この事実に関連させてぶらんこの運動を考えてみ る.ぶらんとの場合は円弧の一部という部分的な回 転ではあるが,ぶらんこに乗った人物が最下点近傍 で腰を落として重心を低くしていたものが回転する と共に立ち上がって重心を高くすれば回転運動エネ ルギーを増して行くことになることが予想される.
果たしてぶらんこの乗り手の動きがこのようなもの であるのか,この事の決定は次の運動の軌跡の観測 によらねばならない.いずれにしろぶらんこの場合,
乗っている者は外力の助けを得なくても,自らの振 幅を増大させることが出来るのであるが,このこと を物理的にどのように考えるかという興味深い問題 が提起されているのである.角運動量は保存されて 変わらないが,回転エネルギーが増大していくとこ ろにこの解決のための糸口がある.
軌跡の観測
ぶらんと自体の運動のメカニズムを解析する手段 として次の 3 種の実験を行い,運動する物体につい て軌跡の実験的観測を行った.いずれの実験におい ても始めにビデオカメラで撮影した録画を再生時に は一定時間ごとにコマ送りし,あらかじめ用意した 座標軸と撮影画像を重ねて平面での座標を読み取っ て行った.
ぶらんこのモデル実験によるシュミレーションの でも,実際のぶらんとで乗り手が振幅を増大させる
場合であっても,振幅増大の物理学的要因としては,
次の示す 2 通りが考えられる.ひとつは遠心力に逆 らっててなされた仕事がぶらんこに回転エネルギー として蓄えられて振幅を大きくして行く.遠心力の 最大になる機会は l 周期に 2 回あるので,そのたび
に仕事をするように乗り手が動作する.いまひとつ には l 周期に 2 回身体の重心を上下させることは,
錘をつけた糸の長さを変えることであり,パラメタ ー励振が振幅を増大させるのと同じであるという考 え方である.前者の原理に基づくモデル実験の試作 機は,ぶらん
ζに搭載した比較的重量のある錘,電 池,モーターそれに簡単な錘の上下移動装置から構 成されていてる.この錘を上下に移動させて,全体 の運動の様子をビデオカメラにより撮影しその軌跡 を求める.
次に実際ぶらんこ上の人物の動きを観測するため に,校庭に設置されているぶらんこに小学生に乗っ てもらい,腰に目印を付けてその動きを撮影する.
この印しの移動する様子を軌跡として求めるのであ る.
パラメター励振の錘の軌跡を観測するのに使用し た装置の概略図が F i g . 2 に示しである.このような 装置により振り子の糸を 1 周期に 2 回動かして,そ の錘の動きを撮影し軌跡を観測するのである.これ ら 3 つの方法により得られ運動について以下解析考 察する.図中の ωは角振動数である.
2 ω
争ーー+
F i g . 2 パラメター励振の装置概略
運動の解析と考察
モデル実験によるシミュレーションにおいて,ぶ らんこの左右の振れである振幅が錘の上下運動によ り増大していく様子が実験では明確に観測できるべ このときの錘の動きの軌跡を示したものが F i g . 3 ‑ a である.次の軌跡 F i g . 3 ‑ b は実際のぷ 6 んこの乗り
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回転運動にお貯る保存則
手である小学生がぶらんこの振れを大きくしようと している場合のものであり, F i g . 3 ‑ c はパラメター 励振の軌跡である.これら a , b ,
Cの軌跡が同一 傾向を示しているのが一見して認められる.これら 軌跡に関して実際のぷらんこの乗り手のものが,モ デル実験とパラメター励振のものと同一であること が明確に示されている.さらに詳細に観測結果をみ れば a , C のような機器的な運動軌跡より, b の場 合の人の乗ったぶらんこの軌跡の方がやや複雑な動 きであることが判る.このあたりが人の運動の特徴 でもあり,個人の運動技能の差異にもよるものと推 察される.また一方,人がどのようにして,このよ うな物理的根拠に基づく運動を体得するのかを含め て興味ある点でもある.
ぶらんこの運動ではモデル実験であれ,実際の人 が乗っている場合であれ最大振幅である両端で重心 を高くして,最下点近傍で重心を低くしている.こ の高低の状態を自ら作り出すことが,初めは小さな 振幅で振れているぶらんこや励振の振幅を大きくす るという先の推論はここで確証を得たことになる.
力学的には,遠心力の最大であるぶらんこの最下点
‑ ・ ・ .
で物体を常に持ち上げるようにすれば, F i g . l のと ころで述べたように遠心力に逆らってなされた仕事 がエネルギーを増大することとなるのである.角速 度を増し回転エネルギーを増大させることで l周期 で 2 回,回転エネルギーを増大させる機会を得てぶ らんこは静止する両端での位置エネルギーを大きく していく,言い換えると振幅を大きくするのである.
パラメター励振であっても,振幅増大の根拠は同 様のものである.違いはパラメター励振では長さを,
ぶらんこでは重心の位置を上下させて見かげ上の振 り子の長さを変化させているためである.しかし,
ぶらんことパラメター励振の決定的相違点はパラメ ター励振では外からエネルギ}が加えられている点 であり,ぶらんこでは乗り手が仕事をして,モデル 実験では物体を上下させる動力源(ここでは乾電池) が振幅の増大に寄与している点である.
以上はモデル実験機,実際のぷらんこ,パラメタ ー励振により得られた結果と考察を行ったものであ るが,パラメター励振の場合,コンピュータにより 運動方程式を解くことによりこれらの結果を考察す るととも当然可能である.本報告でもその結果を
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