• 検索結果がありません。

さまざまな臨床における倫理的意思決定のための支援

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "さまざまな臨床における倫理的意思決定のための支援"

Copied!
4
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

さまざまな臨床における倫理的意思決定のための支援

Ethical decision-making in clinical institutions:

how is it done and how is the decision process supported?

日本看護倫理学会第

5

回年次大会 シンポジウム

伊藤 景一(東京女子医科大学看護学部) 

小西恵美子(鹿児島大学医歯学総合研究科)

107

日本看護倫理学会誌 VOL. 5 NO. 1 2013 医療の高度化と専門化にともなって、患者への情

報開示も進み倫理的問題に直面する場面も増加して いる。このような保健医療福祉を取り巻く状況の中 で,患者の人権や尊厳を擁護し主張する立場である 看護師の役割はますます重要になってきている。ま た、看護師はさまざまな臨床において葛藤場面に遭 遇するが,それらを倫理的な意思決定にまで高めて いくにはまだ課題も少なくない。そこで、本シンポ ジウムでは、リエゾン、精神、救命救急など、さま ざまな臨床の第一線で看護師たちの倫理的意思決定 の支援を行っている演者の方々に、その実践や課題 について語っていただくことにした。

最初に登壇した山内典子氏(東京女子医科大学病 院・精神看護専門看護師)は、「看護における倫理 的意思決定のプロセス―:ケアの倫理を日常の看護 の中で実践すること―」と題し、看護師は患者に とって最も身近な存在としてケアにあたり、関係の 築きを通して患者の本当の声をキャッチしていると 前置した上で、患者の悩みに揺れ動く感情や人生の 意味付けの変化を感じ取り、チーム全体を巻き込ん で倫理的意思決定を行うことの大切さを述べた。関 係する多職種が互いに尊重し合い、チームを巻き込 みながら患者と家族の安寧のためにケアにおける倫 理を貫く倫理的意思決定のプロセスについて事例を 用いて説明された。次に、江波戸和子氏(薫風会山 田病院・精神看護専門看護師)は、「精神科病院に おける倫理的意思決定のための支援」と題して、倫 理問題で実感する精神科病院の特殊な状況に言及し た。すなわち、治療上やむを得ない手段としての病

棟の閉鎖性と行動制限の存在、経済的要因に基づく スタッフ資源の乏しさと教育背景、そして一般診療 科にはない「意思に基づかない入院」という入院形 態である。このような課題を抱える精神科病院にお いて、当初はさまざまな価値の衝突や壁に当たりな がらも、事例検討やコンサルテーションを重ねるこ とで倫理的意思決定の支援への学びを深めていった プロセスが紹介された。最後に、浅香えみ子氏(独 協医科大学越谷病院・副看護部長/救急看護認定看 護師)は、「救急医療の場面における倫理判断の方 法と活用」と題して、救命救急センター開設当初は 急性病態への対応のみに焦点が置かれがちであった ものが、現在では医療者と患者・家族の倫理調整は もとより、患者・家族間の関係性のアセスメントの 比重が高まっていることに言及された。そして、救 急場面における倫理判断は社会情勢の変化に伴って その方法にも変化が生じていることを報告された。

3人の演者の臨床環境はさまざまであるが、共通 するキーワードは「チーム」「多職種協働」で「互い の価値観や思いを尊重し共有」しながら患者と家族 のケアにおける適切な倫理的意思決定を行うことに あると考えられた。会場からは、それぞれの演者の 専門性がとても高いので、そこまでいかないと患者 と家族の倫理的期待に答えるのは難しいのだろうか という発言も頂き、今後いかにして個々の看護師が ケアを支える看護倫理を探究するか、その探求を支 援する臨床教育の方略もさらに検討されるべき課題 であると考えられた。

(2)

108

日本看護倫理学会誌 VOL. 5 NO. 1 2013

る。事例では、チームが一丸となって患者と家族の ニーズにどう応えるかを常に考え、専門的・個別的 価値を互いに認識・尊重して活用し合い、それらを 統合したアプローチを行っていた。

看護師は日々の実践の中でこのようにケアの倫理 を実現しているにもかかわらず、あまりにも暗黙の うちに組み込まれているために、倫理として意識し ていないことが多い。臨床現場は常に事例を中心に 動いていることを思うと、実際に関わった事例を大 切に扱い、今自分たちが行っている実践の中心にこ そ倫理があるという認識ができるような教育が必要 と考える。看護倫理の講義で得た知識を自らが経験 した、またはしている事例につなげ、自分の行いや その動機、それが患者やチームに与えている影響、

さらに行為が法や倫理原則に則るものなのかについ て丹念に検討することが重要である。これにより私 たちの実践が意味づけられたり正当化されるとき、

ケアが倫理としてさらに保証されると考える。

最後に、この場を借りて事例提供にご了承くだ さったご遺族、病棟のスタッフの皆様、このような 貴重な機会、そして新たな問いをくださった先生 方、皆様に心より感謝を申し上げます。

本シンポジウムでは、治療を目的に入院したにも かかわらず、病状が進行して治癒を望めなくなった がん患者と家族の意思決定を支援する看護師たちの 関わりのプロセスを題材として「実践の場において ケアの倫理はどのようになされているのか」につい て1つの事例をあげて報告した。

事例を省察してわかったことは、看護師は患者と の関係の築きを通して、連続的、直接的に患者の声 に耳を傾け、言葉の背景に潜む本当の意思を知り、

生活援助を通して家族とともにそのニーズに応えて いるということであった。また、看護師は、患者が その都度表現する意思をばらばらにではなく、進行 する物語としてとらえ、悩みや迷いを繰り返し揺れ 動く感情や思いに寄り添いながら、患者の人生の意 味づけが変化していくのを感じとっていた。何が正 しい、正しくないと考えるよりも患者と家族の安寧 のためにそのニーズにどう応えるかを大事にケアに あたっていることが特徴的であった。これはケアの 倫理の実現であり、患者自らが尊厳を回復するプロ セスへの支援であった。

さらに、ケアの倫理を促進させるものとして、そ の状況に携わる他職種との協働が存在することも明 らかになった。ここには看護学生や教員も含まれ

精神科病院は大変特殊な状況に置かれています。

第一に、精神保健福祉法によって規定・運用されて いる、意志に基づかない入院からはじまる治療関係 や治療上やむをえない手段としての行動制限や代理 行為が日常的に存在します。これらは法により整 備・運用され、また監査もされているため、悪質な 人権侵害の防止につながっておりますが、その反 面、手続さえ踏めば正当化され、疑問すら持たずに 仕事をする可能性があります。第二に、閉鎖的な治 療環境が、様々な側面からスタッフの倫理的感性を 常に削ぎ落とす危険性をはらんでいます。このよう な状況では、倫理を語ることに限界を感じることが

しばしばありました。最後に診療報酬上、他科より 低い経済環境でのケアの実施はもちろんのこと、そ のことが看護師の賃金の低さに直結し、それに伴っ て優秀な人材をつかめず、人的資源の乏しさ、院内 教育資金の不十分さという悪循環もあります。

このような課題を抱える精神科病院で、手探りで 様々な試みをしました。初期には、価値の衝突が水 面下で繰り返されるだけで、倫理的問題に気付かな いまま、解決は看護師個人の能力に頼られていまし た。そのため、システムで支え、教育を行うことを 中心に、臨床における様々な整備が必要でした。そ の後、倫理的感受性が高まるにつれ、多職種を入れ

精神病院における倫理的意思決定のための支援

江波戸 和子(薫風会山田病院 精神看護専門看護師)

看護における倫理的意思決定のプロセス−ケアの倫理を日常の看護の中で実践すること−

山内 典子

(東京女子医科大学病院 看護部)

(3)

109

日本看護倫理学会誌 VOL. 5 NO. 1 2013 なくても、折あるごとにスタッフの物語を聴き、ど のような人生で、どのような価値がその人に形作ら れたのか、何を大切にしているのかを聴くように心 がけています。そうすることによって、倫理的問題 が発生した場合、そのスタッフは何を大切にしてお り、何に突き動かされて衝突が起きているのか、意 味が少しわかるようになりました。さらに、カン ファレンスでは対立だけではなく、医療者間の尊重 の体験の積み重ねが大切であることも実感しまし た。このような経験を通して、臨床倫理は社会を映 す鏡だけではなく、個人の経験としての価値の凝縮 の衝突でもあると実感しました。振り返ると、単に 倫理的に分析してどうこうするだけではなく、解決 には「関係性」と「その人の生い立ち」が鍵となっ ていたように思います。

てのカンファレンスに拡大することや ICN の4ス テップモデルの導入、倫理以外での解決方法の強化 などを工夫していきました。このように事例検討、

コンサルテーション、コーディネーションを重ね、

臨床場面での倫理的意思決定の支援、研究や継続教 育を通しての倫理的感受性への刺激など、スタッフ や組織の成長段階に応じて、組織と看護師個人への 両面の支援の段階が存在することがわかり、その中 で私自身様々なことを学ぶ機会となりました。

その中でも、患者の意思決定への支援において は、患者自身も決定までのプロセスで揺れ、それに 寄り添う看護師もまた揺れ、苦しさを抱えます。そ のグレーさに一緒に踏ん張り、ケアをするものも受 けるものも孤独にしないよう覚えて支援することを 心がけました。また、そのような倫理的問題が生じ

救急医療の場面における倫理判断の方法と活用

浅香 えみ子(獨協医科大学越谷病院 看護部)

はじめに

救急医療の意思決定場面では、短時間での意思決 定や、望まざる選択肢の中からの決定、一旦決定し た後の変更ができない決定など意思決定に関わる当 事者のストレスは非常に高い状況がある。また、患 者自身の意思決定力が喪失されている場合も多くあ る。このような診療特性のある中で、適切な医療を 提供するためには、患者の人格を尊重した医療選択 を判断基準に置き、患者の家族を意思決定者とする 場合が多い。

近年の人口構造の変化により、単身者、高齢者を 対象にする状況や、医療費問題を背景とする病床の 効率的な運用の課題への対応も求められている。こ のような中で、医療として適切な判断を行うため に、基盤に倫理をおいた当院の取り組みを考察を加 え述べる。

救命救急センター開設から

5

〜患者・家族を中心におくチーム医療へ〜

獨協医科大学越谷病院救命救急センターは開設後 15年目になる。開設当時は急性病態への対応のみに 視点がおかれていた。しかし、この施設を退院する 患者・家族は決して満足していないように感じてい

た。このことに問題を感じ、センターの運営が軌道 にのった時点で救急医療のプロセスを見直す機会を 設定した。方法は、救命救急センターの役割、患 者、その家族のニーズ充足を狙うための方策とし て、それぞれの求める価値に視点を置き倫理の4分 割表を用いて診療経過計画を立案する方法であっ た。ミーティングの参加者は、医師、看護師、薬剤 師、理学療法士、作業療法士、ソーシャルワーカー であり、現在の多職種連携の構造とほぼ同じ形態で あった。ミーティングを繰り返す中で、どの職種も 社会復帰に対する認識は少なからず持っていること が分かった。その認識に触れずに経過してきた結果 が、現状の問題であり課題であった。そこでは、医 師と看護師間で対立することが多かった事象の原因 が患者や家族のニーズが医師に伝わらず、理解され ていなかったことに気づく機会となった。このこと は、看護師のジレンマを解消するのみならず、医師 の治療選択や退院調整が円滑化した。「患者を以降 数年にわたりこの手法をもとに運営し、職場風土と して「救命救急センターの役割は」「患者は」「家族 は」という視点で状況アセスメントする習慣が定着 していった。

(4)

110

日本看護倫理学会誌 VOL. 5 NO. 1 2013

このような救急医療の背景が変化している中で、

「救命救急センターの役割」「患者は」「家族は」の カテゴリーの中で収集するべき情報の範囲が拡大し てきているように感じる。そのためには、定型的な 情報収集には入らない面会者との会話に中からこぼ れる情報をキャッチし、持参される日常生活備品の 管理状況などから、患者を囲む近親者の関係性をア セスメントするといった様々な情報収集が必要に なっている。その情報アセスメントに際しては、状 況解釈に地域特性や世代特性などを加味する必要が あると感じている。多職種で関わることともに、複 数の世代による価値判断を取り入れることが必要に なっている。

おわりに

より良い医療の選択を目指す過程において、救急 医療の特性に対応し、患者、家族、救急医療の役割 を尊重した意思決定に際して倫理を基盤に置いた実 践と課題を述べた。医療自体がそうであるように、

社会の価値観の変化と共に救急医療における最良の 判断も一定ではない。固定観念にとらわれることな く、救急医療に関わる専門職者が「患者、家族、救 急医療の役割」の最良の判断を目標に医療を継続し ていきたいと思う。

現在の救命救急センター

〜倫理判断の定着と新たな課題〜

現在では、日々の診療のなかで倫理の4分割表を 用いることはなくなったが、定期開催のカンファレ ンスや困難事例が生じたときの検討会ではそれぞれ の価値観に関する情報を用いて対処を検討してい る。また、毎週開催している患者カンファレンスで は、4分割表を用いて行ったミーティングスタイル として、多職種がそれぞれの専門性から最良のアイ ディアを出すスタイルが継続されている。

救命救急の診療場面では、患者自身の意思確認が できないことがあるため、その家族が代理意思決定 する場面が多い。家族の意思決定のみで心停止後臓 器提供さえ可能になった現在において、医療者と患 者、家族間の倫理調整はもとより、患者と家族間の 関係性のアセスメントの比重が高くなっているよう に思われる。人口構造の変化による高齢社会におい て、高齢者夫婦や介護される高齢者の増加が見込ま れ、患者と家族の関係性が患者の権利を正当に擁護 するものであるのかの判断が難しい場合がある。本 来は血族の意見のみが採用されるものであるが、友 人や知人の情報を参考にしつつ患者が望むであろう ものを推察し、家族の意思決定の支援に関わる傾向 が高くなっているように感じている。

参照

関連したドキュメント

向老期に分けられる。成人看護学では第二次性徴の出現がみられる思春期を含めず 18 歳前後から

54. The items with the highest average values   were:  understanding  of  the  patient's  values,  and  decision-making  support  for  the  place  of 

Development of an Ethical Dilemma Scale in Nursing Practice for End-of-Life Cancer Patients and an Examination of its Reliability and Validity.. 江 口   瞳 Hitomi

A total of 190 studies were identified in the search, although only 15 studies (seven in Japanese and eight in English), published between 2000 and 2019, that met the

2.認定看護管理者教育課程サードレベル修了者以外の受験者について、看護系大学院の修士課程

また、学内の専門スタッフである SC や養護教諭が外部の専門機関に援助を求める際、依頼後もその支援にか かわる対象校が

参加者:黒崎雅子 ( 理事:栃木、訪問看護ステーション星が丘 ) 、杉原幸子 ( 役員:君津中央病院医療連携室 ) 、大桐 四季子 ( 役員:ふたわ訪問看護ステーション

の 立病院との連携が必要で、 立病院のケース ー ーに訪問看護の を らせ、利用者の をしてもらえるよう 報活動をする。 の ・看護 ・ケア