GIS による言語地理学研究 -『瀬戸内海言語図巻』との比較を通じて-
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(2) 博士学位論文. GIS による言語地理学研究 -『瀬戸内海言語図巻』との比較を通じて-. 徳島大学大学院総合科学教育部 峪口. 有香子.
(3) GIS による言語地理学研究 -『瀬戸内海言語図巻』との比較を通じて-. 目次. Ⅰ.序論 第1章. 本論文の目的と意義・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1. 1. GIS による言語地理学研究の意義とそこから見出される本論文の目的・・・・1 2.. 言語地理学の現状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2. 3. 言語地理学の課題-GIS を援用した言語地理学研究-・・・・・・・・・・・ 3 第2章. 本論文の目的と研究方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6. 1.. 本論文の目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6. 2. LAS の成果と課題とは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6 3. LAS の追跡調査について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7 4.. 本論文の構成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8. 第3章. LAS の電子データ化の試み・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9. 1.. 本章の目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9. 2.. 電子化の手順・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9. 2.1.データの入手と加工・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9 2.2.全国市区町村界データの入手・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9 2.3.LAS の電子化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10 2.4.ラスタデータの取得・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11 2.5.空間補正・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・12 2.6.属性データ化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13 2.7.シンボルの変更・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13 2.8.印刷用の地図作成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13 3. 本章の結論と今後の課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 14. I.
(4) Ⅱ.GIS の空間解析を用いた言語分析 第4章. 空間検索・標準偏差楕円による言語分析-「さつまいも」を事例として-・16. 1.本章の目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16 2.調査・地図化の方法と本論の対象・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16 3.「さつまいも」の方言分布・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17 3.1.先行研究・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17 3.2.瀬戸内海全域における方言分布の概観・・・・・・・・・・・・・・・18 3.3.淡路島における方言分布の概観・・・・・・・・・・・・・・・・・・28 4.. 本章の結論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・32. 第5章. 標準偏差楕円による言語分析-「にわか雨」を事例として-・・・・・・・33. 1.. 本章の目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33. 2.. 調査・地図化の方法と本論の対象・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33. 3.. 「にわか雨」の方言分布・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33. 3.1.全国分布の概観・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33 3.2.通時的考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・34 3.3.瀬戸内海全域における方言分布の概観・・・・・・・・・・・・・・・35 3.4.香川県における方言分布の概観・・・・・・・・・・・・・・・・・・43 3.5.淡路島における方言分布の概観・・・・・・・・・・・・・・・・・・46 4.. 本章の結論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・54. 第6章. カーネル密度による言語分析-文末詞「ナー」「ノー」を事例として-・・ 56. 1.. 本章の目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・56. 2.. 調査・地図化の方法と本論の対象・・・・・・・・・・・・・・・・・・・56. 3.. 全体の結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・56. 4.. 文末詞「ナー」のカーネル密度による方言分布・・・・・・・・・・・・・59. 5.. 文末詞「ノー」のカーネル密度による方言分布・・・・・・・・・・・・・72. 6.. 本章の結論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・85. 第7章. 標準偏差楕円・メッシュ地図による言語分析 -接続助詞「から」を事例として-・・・・・・・・・・・・・・・・・86. 1.. 本章の目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・86. 2.. 調査・地図の方法と本論の対象・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・86. 3.. 先行研究・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・87. 4.. 瀬戸内海域における原因・理由を表す接続助詞「から」の方言分布・・・・88 II.
(5) 4.1.1.瀬戸内海地域における方言分布の概観・・・・・・・・・・・・・88 4.1.2.瀬戸内海域「カラ」における地理的分布特性の算出・・・・・・・97 4.2.1.淡路島における方言分布の概観・・・・・・・・・・・・・・・・99 4.2.2.淡路島「カラ」における地理的分布特性の算出・・・・・・・・・99 4.3.1.小豆島における方言分布の概観・・・・・・・・・・・・・・・・105 5. 方言分布から推定される変化の過程・・・・・・・・・・・・・・・・・・106 6. 本章の結論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・115 第8章. WEB による言語地図の公開・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・116. 1. 本章の目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・116 2. 分析手法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・116 3. R と Leaflet による可視化方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・117 4. 本章の結論と今後の課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・120. Ⅲ.GIS 地図をベースとした言語分析 第9章. 瀬戸内海地域における言語変化-「コピュラ形式」を事例として-・・・・121. 1. 本章の目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・121 2. 取り扱う調査について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・122 3. コピュラ形式の方言分布・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・122 3.1.全国分布の概観・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・122 3.2. 「-だ」における方言分布の概観・・・・・・・・・・・・・・・・・・123 3.3. 「-だった」における方言分布の概観・・・・・・・・・・・・・・・・129 3.4. 「-だろう」における方言分布の概観・・・・・・・・・・・・・・・・134 4. 本章の結論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・134 第 10 章. 瀬戸内海地域における言語動態 -文末詞「ノーシ・ノモシ」 「ゾイ」を事例として-・・・・・・・136. 1. 本章の目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・136 2. 取り扱う調査について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・136 3. 文末詞「ノーシ・ノモシ」における方言分布の概観・・・・・・・・・・・137 4. 文末詞「ゾイ」における方言分布の概観・・・・・・・・・・・・・・・・145 5. 本章の結論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・153. III.
(6) 第 11 章. 淡路島における言語動態 -「じゃがいも」 「さといも」を事例として-・・・・・・・・・・154. 1. 本章の目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・154 2. 取り扱う調査について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・154 3. 「じゃがいも」の言語動態・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・154 3.1.先行研究・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・154 3.2.LAS と 2012 年調査の比較・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・155 4. 「さといも」の言語動態・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・159 4.1.先行研究・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・159 4.2.1999 年調査と 2012 年調査の比較・・・・・・・・・・・・・・・・・160 5. 本章の結論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・163 第 12 章. 逆接の接続助詞について -「けれども」 「そうだけれども」を事例として-・・・・・・・・164. 1. 本章の目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・164 2. 取り扱う調査について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・164 3. 島別にみた「けれども」の方言分布・・・・・・・・・・・・・・・・・・164 3.1.淡路島における「けれども」の方言分布・・・・・・・・・・・・・・164 3.2.小豆島における「けれども」の方言分布・・・・・・・・・・・・・・167 4. 島別にみた「そうだけれど」の方言分布・・・・・・・・・・・・・・・・169 4.1.淡路島における「そうだけれど」の方言分布・・・・・・・・・・・・169 4.2.小豆島における「そうだけれど」の方言分布・・・・・・・・・・・・172 5. 本章の結論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・173 第 13 章. 小豆島における民俗語彙 -「神輿」 「葬式」 「埋葬地」 「墓制」を事例として-・・・・・・・174. 1. 本章の目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・174 2. 取り扱う調査について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・174 3. 「神輿」における方言分布の概観・・・・・・・・・・・・・・・・・・・174 4. 「葬式」における方言分布の概観・・・・・・・・・・・・・・・・・・・176 5. 「埋葬地」における方言分布の概観・・・・・・・・・・・・・・・・・・177 6. 「墓制」における方言分布の概観・・・・・・・・・・・・・・・・・・・178 7. 本章の結論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・179. IV.
(7) Ⅳ.結論 第 14 章. 本論のまとめと今後への提起・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・181. 1. 本論のまとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・181 2. 今後への提起・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・188 参考文献 既発表論文との関係 ※【注】は、それぞれの章末に付した。. V.
(8) Ⅰ.序論.
(9) 第1章. 本論文の目的と意義. 1 . GIS に よ る 言 語 地 理 学 研 究 の 意 義 と そ こ か ら 見 出 さ れ る 本 論 文 の 目 的 本 研 究 は 、 GIS( Geographic Information System 地 理 情 報 シ ス テ ム ) に よ る 言語地理学研究をテーマにしたものである。 言語地理学とは言語史研究の一部をなし、音声・文法・語彙などの地理的分布 にもとづいて言語の変遷を解明する研究分野である。例えば、方言の地理的分布 を通じ、歴史的にどのように形作られてきたのか、そして、そこにはいかなる要 因や背景が関与しているのか、といった点を究明することが主な目的である。 柴 田( 1969)は 、言 語 地 理 学 は 地 方 の 言 語 史 を 再 構 成 す る こ と で あ る と 定 義 し ている。地域的な変種、すなわち、方言の地図化を行うことによって地理的分布 を見出し、地域的変種の時間的変化とその要因を推定することで、ある地方(地 域)における言語変化の歴史をあとづけるという意味である。 本研究は、柴田が定義した言語地理学的研究にもとづき、瀬戸内海地域をフィ ー ル ド 調 査 の 対 象 地 域 に 設 定 し 、言 語 変 化 を 解 明 す る こ と を 本 論 文 の 目 的 と す る 。 方 言 地 理 学 の 大 き な 成 果 で あ る 藤 原 与 一・広 島 大 学 方 言 研 究 所 編( 1974)『 瀬 戸 内 海 言 語 図 巻 上 ・ 下 巻 』 の 調 査 が 開 始 さ れ て か ら 50 年 以 上 が 経 過 し 、 瀬 戸 内 海域における方言も変化が進行していることが予想される。そこで、本研究では 方言分布の「実時間」上における経年変化に焦点をあて、そこに見出しうる方言 分布の変動を捕捉し、瀬戸内海地域での言語変化の解明を目指したい。また、こ れ ら の 目 的 を 遂 行 す る た め 、 GIS の 技 法 を 援 用 す る 。 す な わ ち 、 言 語 地 理 学 を 言 語研究の枠内に閉じ込めるのではなく、地理情報科学・空間情報科学という新し い 学 問 分 野 と の 融 合 の 道 を 切 り 開 く た め 、 GIS を 援 用 し 、 言 語 の 地 理 的 な 分 析 を 試みる。従来の言語地理学の方法を踏襲するとともに新たに地理・空間情報シス テムをフルに活用した研究であることが本論文の特色である。 日 本 の 方 言 研 究 界 に お い て こ れ ま で に GIS を 利 用 し た 研 究 と し て 大 西 ( 2008) が一部にあるものの、本格的に活用された研究はほぼ皆無に等しい。詳細につい て は 後 述 す る が 、 GIS に つ い て さ ら に 敷 衍 す る と 、 地 理 情 報 シ ス テ ム と 呼 ば れ る も の で あ る 。 地 理 空 間 に お け る 事 象 を 扱 う 言 語 地 理 学 に お い て 、 GIS へ の 理 解 と 注目は進みつつある。言語地理学は過去と現在の地理的分布から言語変化をいか に考えるか、という目的をもった学問領域であり、その目的を達成するうえで、 GIS に よ る 時 間 と 空 間 に 関 す る 分 析 が 、こ れ か ら の 言 語 地 理 学 的 研 究 に お い て 必 要とされる。. 1.
(10) 2.言語地理学の現状 日 本 に お い て 言 語 地 理 学 研 究 が 盛 ん に 行 わ れ た 時 期 は 、 1960 年 初 頭 か ら 1970 年 代 後 半 に か け て で あ り 、 こ の 期 を 中 心 に 約 400 冊 の 言 語 地 図 集 と 約 30,000 枚 の 言 語 地 図 が 公 表 さ れ 、 こ の 数 は 世 界 ト ッ プ で あ る ( Lameli et al.2010)。 言語地理学研究は、言語地図の解釈を通して方言分布に見出せる言語変化の 種々の現象を追求し、一定の成果を挙げてきた。日本の言語地理学では柳田國男 が提唱した『方言周圏論』を出発点とし、言語地理学=文献国語史の解明といっ た 目 的 を 掲 げ 、国 立 国 語 研 究 所 を 中 心 に 柴 田( 1969)『 言 語 地 理 学 の 方 法 』、グ ロ ー タ ー ス ( 1976)『 日 本 の 方 言 地 理 学 の た め に 』、 徳 川 ( 1993)『 方 言 地 理 学 の 展 開 』、馬 瀬( 1992)『 言 語 地 理 学 的 研 究 』ら の 研 究 に よ っ て 進 め ら れ 、隆 盛 を み た が 、 真 田 ( 1990) に よ っ て 指 摘 さ れ た よ う に 、 80 年 代 以 降 は 研 究 動 向 が 地 理 的 研究から社会言語学研究へ移行したため、言語地理学的な研究自体が後退する傾 向にあるのは事実である。 日本の言語地理学は、小地域をフィールド調査の対象とした研究と、全国ある いは関東地方、中国地方などといった広範囲を対象とした研究の両面から進めら れ て き た 。 前 者 の 代 表 は 、 柴 田 ( 1969) に よ る 、 新 潟 県 糸 魚 川 地 方 で の 調 査 で 、 その後の言語地理学的研究の草分け的存在となった。この研究の影響を受け、全 国各地での言語地理学的調査が行われた。その結果、全国各地で微細言語地図が 次々に作成された。一方、微細言語地図に対し、全国や地方など、広域な地域を 対象とした鳥瞰的広域言語地図もこれまで多く作成されている。日本における方 言 の 全 国 規 模 の 調 査 に は 、 国 立 国 語 研 究 所 編 ( 1966-1974)『 日 本 言 語 地 図 第 1 6 集 』、同 編( 1989-2006)『 方 言 文 法 全 国 地 図 第 1 -6 集 』 な ど が あ げ ら れ る 。 地 方 単 位 で の 研 究 成 果 と し て 、広 戸 惇( 1965) 『 中 国 地 方 五 県 言 語 地 図 』、藤 原 与 一 ・ 広 島 大 学 方 言 研 究 所 編( 1974) 『 瀬 戸 内 海 言 語 図 巻 上・下 巻 』、大 橋 勝 男( 1974-1976) 『関東地方城方言事象分布地図』などがある。このように日本において言語地理 学的手法に基づいた調査研究は、半世紀以上も前から本格的になされ、多くの成 果を上げてきた。 2011-2015 年 度 文 部 科 学 省 科 学 研 究 費 基 盤 研 究( A) 「方言分布変化の詳細解明 ― 変 動 実 態 の 把 握 と 理 論 の 検 証・構 築 ― 」 ( 代 表:大 西 拓 一 郎( 国 立 国 語 研 究 所 教 授 ))の 調 査 研 究 が 2011 年 か ら ス タ ー ト し 、新 た に「 方 言 の 形 成 過 程 解 明 の た め の 全 国 方 言 調 査 」を は じ め 、21 世 紀 初 頭 の 日 本 全 国 の 方 言 分 布 解 明 に 乗 り 出 し て いる。前世紀に行われた方言調査結果との比較を行うとともに、現在の分布を明 らかにすることで、時間を隔てた方言分布の変化が解明できると考えられる。 方言研究がことばの地域差に関する研究である以上、地理的視点からのアプロ. 2.
(11) ーチを無視することはできないはずである。言語地理学に新たな視点を導入し、 今、研究自体を再構築する時期であると確信する。 方言形成の過程を明らかにする研究においては、方言周圏論、孤立変遷論に基 づ く 既 知 の 分 布 理 論 の 分 析 の ほ か に 、徳 川 宗 賢( 1972、1993)は 、分 布 領 域 に 対 して正確な距離や方向・面積などの測定を実施することで、言語伝播の速度測定 につながり、絶対年代による中央語史の再構築に有効な知見を見出しうると述べ た。方言の地理的伝播速度による研究はその後、一連のグロットグラム調査を実 施 し た 井 上 史 雄( 2003、2004)に よ っ て す す め ら れ 、方 言 は 年 速 1 ㎞ の 速 度 で 伝 播するという結果が導かれた。 言語の歴史的変遷と地理的条件が伝播速度に基本的に働いているのは事実であ るが、この伝播速度に影響する要因は、伝播速度が問題となる語形の使用頻度数 とも関係し、また語形の使用領域のほかに使用場面、さらには社会・文化的要因 が 言 語 変 化 に 複 雑 に 絡 み 合 う 。こ の よ う な 状 況 の も と 、20 世 紀 後 半 に 行 わ れ た 諸 研究の継続と、さらに新たな知見を生み出すためには、言語地理学における核心 的 課 題 で あ る 方 言 の 空 間 分 析 が 可 能 と な る 新 た な 分 析 手 法 と し て 、GIS を 用 い て 多元的な視点から言語変化の状況を把握することが、日本語の諸方言の過去・現 在・未来において言語地理学的研究は極めて重要な意味をもつ。 以上のことを踏まえて、次節では言語地理学の課題についてみていく。. 3 . 言 語 地 理 学 の 課 題 ― GIS を 援 用 し た 言 語 地 理 学 研 究 ― 第 3 節 で は 、 GIS を 利 用 し た 言 語 地 理 学 の 新 た な 可 能 性 に つ い て 述 べ た い 。 言 語 研 究 へ の GIS を 用 い た 分 析 手 法 の 導 入 は 、 ま だ 緒 に 就 い た ば か り で あ る 。 た と え ば 、既 存 の 言 語 地 図 を GIS 利 用 に よ っ て デ ー タ ベ ー ス 化 し た 試 み と し て 大 西( 2003、2008)、 鳥 谷( 2006)の 研 究 が 見 ら れ 、社 会 言 語 学 の フ ィ ー ル ド 調 査 で 得 ら れ た デ ー タ を GIS ソ フ ト に よ っ て 言 語 地 図 化 す る 試 み と し て は 松 丸 ( 2003)、中 井( 2005)が あ り 、さ ら に は『 日 本 言 語 地 図 』の 電 子 化 が 熊 谷( 2013) によって進められている。 また日本の方言研究界では、各地の方言の実態に関する膨大なデータが蓄積さ れ て お り 、 そ れ に 見 合 っ た 将 来 と 展 開 が 必 要 で あ る と 考 え る 。 GIS を 利 用 し た 方 言のデータ分析は、停滞しがちとみられる言語地理学の状況を打破することがで きるはずである。 GIS を 援 用 し つ つ 、 地 図 デ ー タ と 属 性 デ ー タ を 管 理 し 、 言 語 地 理 的 事 象 を 時 空 間上で捉えることは、これまで試みられていなかったデータ分析を可能にする。 例 え ば 、方 言 研 究 に GIS を 用 い る こ と で 、多 種 多 様 な デ ー タ の 利 用 が 可 能 に な り 、. 3.
(12) 時間軸に関する分析が可能となることにともない、多くの現象を包括的に考察す ることができるようになる。 また、 『 瀬 戸 内 海 言 語 図 巻 』は 現 在 紙 媒 体 で し か 存 在 し な い が 、こ の 言 語 地 図 の 電 子 化 を 行 う こ と に よ り 、GIS の 技 法 を 利 用 し た 方 言 の 地 理 的 分 布 の 解 釈 や 言 語 変化についての時空間分析ができるばかりか、追跡調査との経年変化を明らかに するための比較・対照も、同じ土俵の上で可能になる。データの階級区分におけ る階級数や階級区分の方法を変える場合、手書きの地図だと、その都度、最初か ら描き直すことになり作図には描き換えるたびにかなりの時間を要するとともに、 誤 差 を 生 じ る こ と に な る が 、GIS を 用 い れ ば 言 語 情 報 の デ ジ タ ル 化 が 可 能 と な り 、 コンピュータで作図する場合は設定を変えるだけで容易に描き直すことができる。 また近接性やポテンシャルの測定など、膨大な空間データを用いた高度な統計解 析も手間がかからず容易に行うことができる。 GIS の 最 大 の 利 点 は 、 主 題 の 異 な る 複 数 の 空 間 デ ー タ 群 が 存 在 す る 場 合 で も 、 そ れ ら の デ ー タ を 重 ね 合 わ せ て 表 現 で き る こ と で あ る 。こ の よ う な 特 性 を 活 か し 、 語形ごとのレイヤ地図を重ね合わせ、瀬戸内海域の言語鳥瞰地図と微細地図を交 互に示し、視覚化し表示することにより、詳細な方言の分布、ことばの伝播模様 を探り言語変化の実情に明らかにすることを示した。 ま た 、GIS を 用 い た 空 間 分 析 の 事 例 と し て 、高 坂 、関 根( 2005)に よ る と 、近 年 の GIS は 、空 間 分 析 、空 間 モ デ リ ン グ 、そ し て 空 間 統 計 学 と シ フ ト し て き た と さ れ る 。初 期 に お け る GIS の 利 点 は 、空 間 デ ー タ の 蓄 積 、更 新 、表 示 の 能 力 に あ ったが、今日では、空間データ分析に頻用されるようになってきたという。利用 の範囲は種々の分野に及び、犯罪分析や疫病学においても、空間モデリングや空 間統計が援用されている。 永 家 ら( 2011)は 、東 日 本 大 震 災 の 際 、社 会 福 祉 施 設 が 潜 在 的 に ど の よ う な リ スクを抱えていたのか、施設立地の側面から分析を試みた。具体的には、地形的 側面、施設立地の特性(標高、海岸線からの距離、高台までの最短距離)などつ い て GIS の 手 法 で 明 ら か に す る も の で あ る 。東 北 3 県 の 福 祉 施 設 の 地 理 的 分 布 状 況を表したもので、分布志向性分析を用いて分析を行っている。岩手県と福島県 に お け る 福 祉 施 設 の 地 理 的 重 心 は 、海 岸 線 か ら 100 ㎞ 程 度 離 れ た 内 陸 部 に あ る の に対して、宮城県は海岸線に近い場所にある。また、標準偏差楕円は3県のうち 宮城県が最も小さく細長い。施設立地傾向からみて、宮城県は海岸線に近く凝集 度が高いことから、他の2県と比べて津波被害のリスクが高い施設が多かったと いうことになる。このような事例を参考に、地点データ・地理的分布の空間解析 を言語地図にも応用し分析を試みる。. 4.
(13) 本論文では、このような方法をもとに、それぞれの事例に基づいた検討を行う ことで、言語地理学研究の新たな展開の可能性を提示したい。. 5.
(14) 第2章. 本論文の目的と研究方法. 1.本論文の目的 本 研 究 の 目 的 は 、1974 年 に 藤 原 与 一・広 島 大 学 方 言 研 究 所 に よ っ て 出 版 さ れ た 『 瀬 戸 内 海 言 語 図 巻 』( 以 下 LAS と 略 す )の 追 跡 調 査 を 実 施 し 、方 言 の 経 年 比 較 と い っ た 視 点 か ら 言 語 変 化 を 探 る こ と に あ る が 、こ れ ら 一 連 の 工 程 で は GIS を 用 いた言語地理学研究のもとに進めるという点が新規的であり、日本の方言研究界 においても新たな方向性を示すものであると確信する。 LAS の 刊 行 以 来 、本 図 巻 を 対 象 と し た 研 究 も 多 く み る こ と が で き る 。追 跡 調 査 だ け で も 、室 山( 1977)・岸 江( 1981・1983)・広 島 大 学 方 言 研 究 会( 1986)・ 友 定 ( 1988)・ 佐 藤 ( 1990)・ 町 ( 1999) な ど を あ げ る こ と が で き る 。 こ れ ら は 、 い ず れ も LAS の 調 査 地 域 内 で 、同 調 査 か ら 一 定 の 年 数 を 経 て 追 跡 調 査 を 行 い 、方 言がどのように変化しているのかを考察したものである。これらの研究成果も大 い に 参 考 に し な が ら 瀬 戸 内 海 地 域 に お け る 言 語 調 査 を 企 画・実 施 し 、室 山( 1999) の指摘した瀬戸内海言語の近畿圏の影響の増大と共通語化による言語変化といっ た仮説のもとに、当地域における言語流動の実態を解明することを目指す。この ような点で、本研究の成果は方言伝播の新たな理論を生み出す可能性を秘めてい ると同時に、停滞している言語地理学研究への貢献も大いに期待できるものと思 われる。. 2 . LAS の 成 果 と 課 題 と は 第 2 節 で は 、LAS に つ い て 説 明 す る 。LAS は 、上 述 し た よ う に 藤 原 与 一・広 島 大学方言研究所編が発刊した言語地図である。これは鳥瞰図的な視点に立つ、世 界でも類をみない、日本の言語地理学的研究の成果であるといっても過言ではな い 。LAS は 、老 年 層 と 若 年 層 の 二 層 を 対 象 と し た 計 251 図 か ら な る 言 語 地 図 で あ り、地理的な言語変異を描き出すと同時に世代間の言語変化を浮き彫りにしたも のである。調査対象地域は、一大内海多島地域の瀬戸内海域である。調査時期は 1960 年 か ら 1965 年 の 5 カ 年 、 LAS 完 成 ま で に は 実 に 14 年 の 歳 月 を 要 し た 。 和 歌山、大阪、兵庫、岡山、広島、山口、福岡、大分、愛媛、香川、徳島の各府県 で 特 に 瀬 戸 内 海 に 含 ま れ る 地 域 を 対 象 に 行 わ れ た 。総 調 査 地 点 数 は 計 842 地 点( 島 嶼 部 701 地 点 、 沿 岸 地 点 141) で 各 地 点 、 老 年 層 の み な ら ず 少 年 層 を 対 象 と し た 方 言 調 査 を 実 施 し た 。老 若 二 世 代 に お け る 地 理 的 分 布 を 同 時 に 提 示 し た こ と で「 見 かけ時間」上の方言差を映し出すことに成功している。. 6.
(15) 3 . LAS の 追 跡 調 査 に つ い て 第 3 節 で は 、追 跡 調 査 に つ い て 論 じ る 。追 跡 調 査 と は 、LAS と 同 様 、瀬 戸 内 海 島 嶼 部 お よ び 瀬 戸 内 海 沿 岸 地 域 に お い て 2011 年 10 月 か ら 2014 年 12 月 ま で 筆 者が行った大規模方言調査(通信調査・面接調査)のことである。筆者が行った こ の 調 査 を 以 下 で は 峪 口 調 査 と 称 す る 。 た だ し 、 今 回 の 追 跡 調 査 で は 、 約 50 年 前の同一人物に対して調査をしているわけではない。 調査対象地域を詳しく述べると、瀬戸内海島嶼部各地をはじめ、大分、福岡、 山口、広島、岡山、徳島、愛媛、香川、兵庫、和歌山、大阪各府県の瀬戸内海沿 岸の諸地域である。 調査方法は、通信調査が主で、臨地面接調査も一部並行して実施した。通信調 査では、各地の教育委員会および公民館などの機関を通じ、回答者に調査票を配 布頂き、調査票の返送をお願いした。 通 信 調 査 で は 第 一 次 調 査 と し て 、 2011 年 10 月 か ら 同 年 12 月 ま で に 瀬 戸 内 海 域 の 市 町 村 教 育 委 員 会 、公 民 館 、漁 業 協 同 組 合 等 の 協 力 を 得 、約 600 地 点 で 、1962 年 以 前 に 生 ま れ た 生 え 抜 き の 方 々 か ら 回 答 を 得 た 。 第 二 次 調 査 は 2012 年 8 月 か ら 同 年 9 月 に 実 施 し 、 こ ち ら も 約 600 地 点 の デ ー タ を 得 た 。 第 三 次 調 査 は 2013 年 4 月 か ら 2014 年 12 月 に 実 施 し 、150 地 点 の デ ー タ を 得 た 。第 四 次 調 査 は 、2015 年 6 月 か ら 9 月 に 実 施 し 、 150 地 点 の デ ー タ を 集 め る こ と が で き 、 現 時 点 で 得 ら れ た デ ー タ 数 は 、 1500 地 点 で あ る 。 臨 地 面 接 調 査 は 、2011 年 10 月 か ら 2014 年 12 月 に か け て 随 時 、各 地 を 訪 問 し た。訪れた地域は、香川県小豆島、豊島、香川県さぬき市、香川県綾歌郡宇田津 町 、 香 川 県 観 音 寺 市 ( 大 野 原 町 、 豊 浜 町 )、 香 川 県 高 松 市 ( 牟 礼 町 )、 香 川 県 坂 出 市 、香 川 県 東 か が わ 市( 三 本 松 、黒 羽 )、兵 庫 県 姫 路 市( 家 島 、坊 勢 、白 浜 町 、大 塩 町 )、淡 路 島 、福 岡 県 北 九 州 市 、大 分 県 国 東 半 島 、広 島 県 尾 道 市 か ら 愛 媛 県 今 治 市にかけてのしまなみ海道、広島県大崎上島、徳島県徳島市、阿南市(椿泊町、 橘町、海陽町、鳴門市(鳴門町、里浦町、瀬戸町)である。なお、香川県での調 査には香川県話しことば研究会の島田治氏に人選をして頂き調査を遂行した。 第 一 次 調 査 、 第 二 次 調 査 、 第 三 次 調 査 、 臨 地 調 査 と 併 せ て 、 1,500 人 の 各 地 生 え 抜 き 話 者( 1962 年 以 前 に 生 ま れ た 男 女 )か ら 回 答 を 得 た 。な お 、各 章 に よ っ て 調査人数には異同があることを断っておく。 調 査 項 目 数 は 161 で 、挨 拶 ・文 法 ・語 彙 ・ 民 俗 に 関 す る 質 問 項 目 が 中 心 と な っ て い る 。 な お 、 調 査 項 目 は LAS 調 査 で 取 り 上 げ ら れ た 項 目 を 大 幅 に 採 用 し た 。. 7.
(16) 4.本論文の構成 本 論 文 は 、 大 き く 分 け て 、 序 論 、 GIS の 空 間 解 析 を 用 い た 言 語 分 析 、 GIS 地 図 をベースとした言語分析、結論の 4 部構成となっている。 このうち序論は第1章で、本論文の目的と意義、これまでの言語地理学研究に おいて言語地理学がどのように取り上げられてきたかを概観し、これからの言語 地 理 学 の な す べ き 課 題 を 明 ら か に し た 。ま た GIS を 利 用 し た 新 た な 言 語 地 理 学 の 方 向 性 を 示 し た 。第 2 章 で は 、こ れ ま で 筆 者 が 行 っ て き た LAS の 追 跡 調 査 に つ い て 詳 細 に 示 し た 。第 3 章 で は 、紙 媒 体 で し か 存 在 し な い LAS の 電 子 化 の 過 程 を 述 べ 、 GIS 地 図 の 可 能 性 を 示 唆 す る 。 具 体 的 な 事 例 に 基 づ い た GIS の 空 間 解 析 に よ る 言 語 分 析 は 第 4 章 ・ 第 5 章 で 、 空間検索・標準偏差楕円による言語分析、第6章ではカーネル密度による言語分 析、第7章では標準偏差楕円・メッシュ地図による言語分析を、それぞれの事例 に よ る 検 討 を 行 う 。 第 8 章 で は 、 WEB に よ る 言 語 地 図 の 公 開 に つ い て 論 じ 、 従 来の言語地理学研究とは違う方法論を提示する。 GIS 地 図 を ベ ー ス と し た 言 語 分 析 は 、 第 9 章 ・ 第 10 章 ・ 第 11 章 ・ 第 12 章 ・ 第 13 章 で 、 瀬 戸 内 海 全 域 と 、 よ り ミ ク ロ な 視 点 か ら そ れ ぞ れ の 事 例 に よ る 検 討 を行う。 結 論 は 第 14 章 で 本 論 文 の ま と め と 、 今 後 の 言 語 地 理 学 に 対 し て 本 論 文 が 提 起 する問題を示す。. 8.
(17) 第3章. LAS の電子データ化の試み. 1.本章の目的 本 章 で は 、 LAS の 電 子 化 の 工 程 に つ い て 説 明 す る 注 1 。 ま た 、 電 子 化 の 対 象 と し た 、LAS の 50 年 後 の 変 化 を み る た め に 瀬 戸 内 海 域 島 嶼 部 お よ び 沿 岸 で 行 っ て い る 追 跡 調 査 の 結 果 を 併 せ て 示 す こ と に し 、実 時 間 上 の 言 語 変 化 に つ い て 考察する上で電子データ間の比較の有効性について述べることにしたい。 2.電子化の手順 2.1.データの入手と加工 近 年 、 GISで 扱 え る 図 形 デ ー タ や 統 計 デ ー タ を 提 供 す る ウ ェ ブ サ イ ト が 急 速 に 増 え て い る 。 特 に 、 国 土 交 通 省 や 国 土 政 策 局 、 総 務 省 統 計 局 な ど の GIS関 連 サ イ トの充実は著しい。ここでは、そうしたウェブサイトのうち国土交通省の国土数 値 情 報 を 紹 介 し 、そ こ か ら デ ー タ を 入 手 あ る い は 加 工 す る 手 順 に つ い て 説 明 す る 。 まず図形データに関して、サイトから国土数値情報を入手する手順を述べる。 つ づ い て 加 工 す る 方 法 に つ い て 詳 述 す る 。最 後 に 、LASを 大 型 ス キ ャ ン 注 2 に か け て 読 み 取 り 、画 像 を デ ー タ 化 し 、属 性 デ ー タ 注 3 を 作 成 し て い く 具 体 的 な 手 順 を 示 す。. 2.2.全国市区町村界データの入手 国 土 交 通 省 国 土 政 策 局 国 土 情 報 課 の 「 GIS ホ ー ム ペ ー ジ 」 の サ イ ト で は 、 GIS の利用に役立つデータなどが無償で提供されている。ここでは一例として「国土 数値情報行政区域データ」のダウンロードの手順を紹介する。まずこのサイトに ア ク セ ス を す る 。( http://nlftp.mlit.go.jp/ksj/gml/gml_datalist.html) ベ ク ト ル デ ー タ 注 4 の 「 行 政 区 域 ( 面 )」 を ク リ ッ ク す る と 図 1 が 現 れ る の で 、 ウィンドウをスクロールダウンするとメニュー画面に「ダウンロードするデータ を選択」が現れるので、ダウンロードしたい都道府県をクリックしてダウンロー ド画面に進む。次にデータのダウンロードの選択という画面に進み、ダウンロー ドしたい年度の地図をクリックする。このように、県別のアーカイブファイルを 1 つ ず つ ダ ウ ン ロ ー ド す る ( 今 回 作 成 を 試 み た 地 図 情 報 は 、 平 成 25 年 度 版 の 地 図 を ダ ウ ン ロ ー ド し て 作 成 を 行 っ た も の で あ る )。な お 、こ の デ ー タ は 圧 縮 さ れ て い る の で 、 解 凍 先 を フ ォ ル ダ に 指 定 し て 解 凍 す る 。 zip フ ァ イ ル を 解 凍 す る と 、 dbf、 sbn、 shp、 shx の フ ァ イ ル が 生 成 さ れ る が 、 こ れ ら は 順 に 属 性 デ ー タ 、 投 影 情 報 、イ ン デ ッ ク ス デ ー タ 、説 明 フ ァ イ ル で あ る 。こ の「 行 政 区 域( 面 )」の シ. 9.
(18) ェ ー プ 形 式 フ ァ イ ル を 、GIS( ArcMap)に デ ー タ を 追 加 す る 。シ ェ ー プ フ ァ イ ル に は 地 理 座 標 系 注 5 の 情 報 が 含 ま れ て い な い の で 、 別 途 ArcCatalog で 地 理 座 標 系 を 日 本 測 地 系 2000( JGD2000) 注 6 に 指 定 す る 必 要 が あ る 。 ま た 県 別 で は 扱 い に く い た め 、 ArcGIS の ジ オ プ ロ セ シ ン グ ツ ー ル ( デ ー タ 管 理 ツ ー ル >一 般 >マ ー ジ 注 7 ) を 使 用 し て 1 つ の シ ェ ー プ に ま と め て お く 。 以 上 の ように、地図データの作成を行う。. 図1. 行政区域(面)のダウンロード画面. 2 . 3 . LAS の 電 子 化 地図をデジタル化するためには、単にスキャナで読み取りデジタル画像化する だ け で は 意 味 が な く 、読 み 取 っ た 地 図 を も と に GIS 化 す る こ と が 重 要 で あ る 。こ. 10.
(19) う す る こ と で LAS と 峪 口 調 査 図 を 重 ね 合 わ せ た り 、経 年 変 化 の 言 語 動 態 を 調 べ た り す る こ と が 容 易 に な る 。そ こ で 、以 下 で は LAS の GIS 化 の 手 順 の 説 明 を 行 う 。 ま ず 、 こ の LAS の 資 料 に つ い て 概 観 す る 。 LAS は 、 各 図 、 老 女 、 少 女 二 層 図 を 上 下 に 対 照 さ せ た 計 251 図 か ら 成 る 。 調 査 時 期 は 1960 年 か ら 1965 年 の 5 カ 年 、LAS 完 成 ま で に は 実 に 14 年 の 歳 月 を 要 し 、総 調 査 地 点 数 は 842( 島 嶼 部 701 地 点 、 沿 岸 地 点 141) で 各 地 点 を 臨 地 調 査 し た 結 果 に 基 づ く 2 冊 の 言 語 分 布 の 図 巻 で あ る 。 両 巻 と も 、 各 図 、 縦 57 セ ン チ ・ 横 101 セ ン チ の 分 布 図 を 二 つ 折 り に し、凡例記号は黒一色で、ゴム印を作成し1つ1つ地点と照らし合わせ押印して 地 図 化 さ れ て い る 。項 目 の 内 訳 は 、音 声 関 係 の 項 目 18、文 法 関 係 の 項 目 102、語 彙 項 目 121 を 含 む 、各 項 目 に は 関 連 す る 項 目 が あ る も の が 多 く 地 図 は 上 下 巻 あ わ せ て 総 計 251 枚 と な る 。さ て 現 在 で は 、デ ジ タ ル 技 術 が 進 歩 し た た め 、以 上 の よ うな大盤の地図であっても、大型スキャナがあれば電子化が可能となる。. 2.4.ラスタデータの取得. 図2. 地図の編集作業. ま ず 、ラ ス タ デ ー タ 注 8 を 取 得 す る に は 、一 般 に マ ッ プ を ス キ ャ ン す る か 、航 空 写真や衛星画像を収集する。スキャンしたマップデータセットには、通常、空間 参照情報は含まれていない。このため、ラスタデータセットを他の空間データと. 11.
(20) 併 せ て 使 用 す る に は 、マ ッ プ 座 標 系 に 合 わ せ る 、つ ま り ジ オ リ フ ァ レ ン ス 注 9 が 必 要になる。マップ座標系は、マップ投影(地球の曲面を平面に描写する方法)を 使用して定義される。 そ こ で 、 LAS を 大 型 ス キ ャ ナ で 読 み 取 り 、 ラ ス タ デ ー タ を TIFF フ ァ イ ル 注. 10. で 取 得 す る 。デ ー タ 化 す る た め に は 、い く つ か の 作 業 が 必 要 と な る 。LAS は 二 層 図 に な っ て い る こ と か ら 、Adobe Photoshop Elements9 を 用 い 、地 図 の 編 集 作 業 を 行 う ( 図 2 )。. 2.5.空間補正. 図3. ジオリファレンス後の地図. 次 に 、 上 述 し た 国 土 交 通 省 の 地 図 と の 誤 差 を 抽 出 す る た め に 、 ESRI 社 の ArcGIS9 を 使 用 す る 。LAS を 現 在 の 測 地 座 標 系 に 登 録 す る に は 、図 中 の 座 標 と 測 地座標との対応関係、すなわちコントロールポイントを指定する必要がある。コ ントロールポイント注. 11. は、主として拡幅されていない県境界や、地理的特徴物. に 設 定 し た 。こ れ ら の コ ン ト ロ ー ル ポ イ ン ト を 基 に し て 、LAS を 相 似 変 換 で 、現. 12.
(21) 在の投影座標系にフィットさせた。地図の空間的歪みは大きく、アジャスト変換 注 12. を行い補正した。コントロールポイントは、各項目地図によって異なり、約. 50 地 点 に 及 ぶ も の の 、地 域 に よ っ て 粗 密 が 大 き く み ら れ た 。適 宜 、空 間 的 補 正 を し て ジ オ リ フ ァ レ ン ス を 行 っ た 。こ の よ う に ArcMap で ジ オ リ フ ァ レ ン ス を 施 し て 、 背 景 図 と し て 表 示 さ せ る ( 図 3 )。. 2.6.属性データ化 次 に 、LAS に お け る 調 査 地 点 の ポ イ ン ト デ ー タ を 新 規 シ ェ ー プ フ ァ イ ル に 生 成 し、文字情報を属性テーブル注. 13. に入力しデータベースを作成する。この属性テ. ーブルには、地物に関する情報が数値、テキスト、日付などのフォーマットで保 存 さ れ る 。す な わ ち LAS に お い て は 、調 査 地 点 に ポ イ ン ト デ ー タ を 打 ち 、方 言 形 をテキストで一つ一つ入力していかなければならない。地点の重なりや凡例など に注意しながら、適宜原図を確認し作業を行った。. 2.7.シンボルの変更 以 上 に よ う に 、2 - 2 .で 取 得 し た 基 図 に 、2 - 3 .で 作 成 し た 新 規 シ ェ ー プ フ ァイルを重ね合わせると、地点データのシンボルのみ表示されるようになる。 次に、シンボルの表示と変更の作業を行う。新規シェープファイルを作成したフ ァ イ ル の テ ー ブ ル ・ オ ブ ・ コ ン テ ン ツ を 右 ク リ ッ ク し た あ と [プ ロ パ テ ィ ]を ク リ ッ ク す る と 、[レ イ ヤ プ ロ パ テ ィ ]ダ イ ア ロ グ ボ ッ ク ス が 現 れ る の で [シ ン ボ ル ]タ ブ をクリックする。 左 側 の レ ン ダ リ ン グ リ ス ト で [カ テ ゴ リ ] の 下 の [個 別 値 ] オ プ シ ョ ン を 選 択 し 、カ テ ゴ リ が 格 納 さ れ て い る 属 性 フ ィ ー ル ド( 方 言 形 )を 選 択 す る 。続 い て [す べ て の 値 の 追 加 ] ま た は [値 の 追 加 ] を ク リ ッ ク し 、 表 示 す る カ テ ゴ リ を 特 定 す る 。[値 の 追 加 ] で は 、フ ィ ー ル ド 値 の サ ブ セ ッ ト を 選 択 し て 、カ テ ゴ リ と し て レ イヤ表示に含めることができる。 カテゴリの表示に使用するシンボルを特定する。このためには、各カテゴリの シ ン ボ ル を 右 ク リ ッ ク し て 、シ ン ボ ル プ ロ パ テ ィ を 変 更 す る か 、別 の シ ン ボ ル を 選択し、凡例記号を決めていく。. 2.8.印刷用の地図作成 次にマップのレイアウトを整えて出力する際に方位記号や縮尺などの様々な情 報をつけ加えていく。 ま ず タ イ ト ル 表 示 は 、[表 示 ]→[レ イ ア ウ ト ビ ュ ー ]と ク リ ッ ク し デ ー タ ビ ュ ー の. 13.
(22) 中 に レ イ ア ウ ト ビ ュ ー を 表 示 さ せ る 。そ の あ と 、[挿 入 ]→[タ イ ト ル ]を 選 択 す る と タイトルを入力するボックスが表示されるので、ここでタイトルを入力する。 次 に 、方 位 記 号 を 表 示 す る に は [挿 入 ]→[方 位 記 号 ]と ク リ ッ ク し 、ダ イ ア ロ グ ボ ッ ク ス を 表 示 さ せ 、候 補 の 中 か ら 使 い た い 方 位 記 号 を 選 択 し て [OK]を ク リ ッ ク す る と 方 位 記 号 が レ イ ア ウ ト ビ ュ ー 上 に 表 示 さ れ る の で 、適 当 な 位 置 に 移 動 さ せ る 。 縮 尺 記 号 も [挿 入 ]→[縮 尺 記 号 ]と ク リ ッ ク し ダ イ ア ロ グ ボ ッ ク ス を 表 示 さ せ 、候 補 の 中 か ら 使 い た い 縮 尺 記 号 を 選 択 し て [OK]を ク リ ッ ク す る と 縮 尺 記 号 が レ イ アウトビュー上に表示されるので、適当な位置に移動させる。 最 後 に 凡 例 を 表 示 さ せ る に は 、[挿 入 ]→[凡 例 ]と ク リ ッ ク し [凡 例 ウ ィ ザ ー ド ]ダ イアログボックス(凡例項目選択)を表示させる。候補の中から使いたい凡例項 目 を 選 択 し て [次 へ ]を ク リ ッ ク す る と 、[凡 例 ウ ィ ザ ー ド ]ダ イ ア ロ グ ボ ッ ク ス が 表 示される。ここで、凡例のタイトルや、凡例フレームの設定が可能となる。全て 入力すると、設定した凡例がレイアウトビュー上に表示されるので、それを適当 な位置に移動させる。 作成したマップをワードやパワーポイントに貼り付けるのは、マップをエクス ポートしてファイルに保存をする必要がある。マップをエクスポートするには、 [フ ァ イ ル ]→[マ ッ プ の エ ク ス ポ ー ト ]と ク リ ッ ク し 、ダ イ ア ロ グ ボ ッ ク ス を 表 示 さ せ る 。[保 存 す る 場 所 ]を 作 業 用 フ ォ ル ダ に 設 定 し 、[フ ァ イ ル 名 ]を 入 力 し 、[保 存 ] をクリックするとエクスポートされる。以上の作業を経て言語地図が完成する。. 3.本章の結論と今後の課題 本 章 で は 、 LAS の 電 子 化 の 手 順 に 触 れ 、 当 言 語 図 巻 の 50 年 後 の 変 化 を み る た めに瀬戸内海域島嶼部および沿岸で行った追跡調査の結果との比較を行い、言語 変化がどのように進行しているかについて考察してきた。 研究目的にも触れたように、紙地図を電子データ化することにより汎用性が増 し、コンピュータさえあれば誰もが利用することが出来るようになる。紙地図を GIS 化 す る に は 、 相 当 な 時 間 を 有 し 、 大 変 な 労 力 が か か る 。 しかし、今後は言語地理学の分野においても、ディジタルアーカイブの第一段 階として、このような情報技術を用いたアプローチには大きな可能性があると思 われる。 具体的には、地図を介して各種の地理情報を照合するオーバーレイと呼ばれる 方 法 や 、言 語 内( 方 言 ) ・言 語 外 の 地 理 情 報 を 多 角 的 に 分 析 す る こ と が で き る 。さ らに言語変化に対しても過去に行われてきた変化の跡づけるだけではなく、未来 の言語変化を予想することも可能になると思われ、言語の地理的分布のメカニズ. 14.
(23) ムの解明につなげていくことが可能になるはずである。 最 後 に 言 語 地 理 学 に お け る GIS の 活 用 に つ い て み て き た が 、そ の 応 用 は こ こ に あげたものに止まらず、さらに多様な利用が可能であろう。. 【注】 注1. 以 降 、本 論 文 で は 、各 章 の 始 ま り ご と に 番 号 を( 1 )( 2 )( 3 )…と 振 り な お す。. 注2. 本 研 究 で 用 い た 大 型 ス キ ャ ン は 、 GRAPHTEC MASTER JET JW1000 を 使 用 した。. 注3. 属 性 デ ー タ は 、空 間 オ ブ ジ ェ ク ト と リ ン ク し た 、空 間 情 報 以 外 の デ ー タ で 、ID、 距離、面積や周囲の長さなどである。. 注4. 図 形 を ポ イ ン ト 、ラ イ ン 、ポ リ ゴ ン の 3 要 素 で 表 現 す る 形 式 の 図 形 デ ー タ の こ とを指す。. 注5. 地 理 座 標 系 は 、3 次 元 の 球 面 を 使 用 し て 、地 球 上 の 位 置 を 定 義 す る こ と を い う 。. 注6. 測 地 系 と は 、地 球 の 重 心 に 座 標 系 の 原 点 を 置 い た 、世 界 で 共 通 に 利 用 で き る 位 置の基準のことをいう。. 注7. 複数のレイヤを1つのレイヤにまとめてしまう機能のことをいう。. 注8. 図形を格子状に並んだ画素の集合体として表現する形式の図形データのこと をいう。. 注9. 紙地図をスキャンしたイメージや、任意に入手した地図イメージファイルを GIS の 地 図 画 面 上 に 取 り 込 ん で 同 じ 位 置 で 重 ね 合 わ せ て 表 示 す る 機 能 の こ と をいう。. 注 10 非 圧 縮 の デ ー タ の こ と を い う 。 注 11 コ ン ト ロ ー ル ポ イ ン ト は 、ラ ス タ デ ー タ セ ッ ト と 現 実 の 座 標 で 正 確 に 特 定 で き る位置のことをいう。 注 12 ア ジ ャ ス ト 変 換 は 、レ イ ヤ の 座 標 を あ る 場 所 か ら 別 の 場 所 に 変 換 す る こ と を い い、主に歪みの多い地図に用いられる。 注 13 シ ェ ー プ フ ァ イ ル の 属 性 デ ー タ を 意 味 し 、こ の デ ー タ は 行 に レ コ ー ド 、列 に フ ィ ー ル ド を 配 し た テ ー ブ ル 形 式 で 表 現 さ れ る の で 、属 性 テ ー ブ ル と 呼 ば れ て い る。. 15.
(24) Ⅱ.GIS の空間解析を用いた言語分析.
(25) 第4章. 空間検索・標準偏差楕円による言語分析 -「さつまいも」を事例として-. 1.本章の目的 本 章 で は 、 GIS の 空 間 解 析 に よ る 言 語 分 析 を 示 し 、 語 彙 「 さ つ ま い も 」 を 事 例 と し た 考 察 を 行 う 。同 調 査 の 質 問 項 目 は 全 体 で 約 180 項 目 に 及 ぶ が 、こ の 中 か ら 「 さ つ ま い も( 甘 藷 )」の 項 目 に つ い て 、今 回 、実 施 し た 調 査 結 果 を も と に 分 析 を 行うことにしたい。また、過去において当地域を対象とした調査があり、これら の結果との経年比較が可能である。以下では、これらの結果を併せて示すことに する。. 2.調査・地図化の方法と本論の対象 本 章 で 比 較 ・ 考 察 の 対 象 と す る の は 、LAS( 1974)、1999 年 合 同 調 査 は 徳 島 大 学・神 戸 松 蔭 女 子 学 院 大 学・園 田 学 園 女 子 大 学 3 大 学 合 同 調 査 、2012 年 度 に 実 施 し た 淡 路 島 で の 方 言 調 査 、 峪 口 調 査 ( 2011-2012) で あ る 。 LAS( 1974)は 、第 2 章 で 紹 介 し た よ う に 、老 女( 当 時 明 治 生 ま れ )・少 女( 当 時 中 学 1・ 2 年 生 ) 二 層 図 を 上 下 に 対 照 さ せ た 上 下 二 巻 、 計 251 図 か ら な る 言 語 地 図 集 で あ る 。 1960 年 か ら 約 5 年 間 、 計 842 地 点 ( 内 海 島 嶼 部 701 地 点 、 沿 岸 部 141 地 点 ) で 面 接 調 査 を 行 い 、 そ の 結 果 を 言 語 地 図 化 し た も の で あ る 。 1999 年 合 同 調 査 は 徳 島 大 学・神 戸 松 蔭 女 子 学 院 大 学・園 田 学 園 女 子 大 学 3 大 学 合 同 で 、1999 年 8 月 8 日 か ら 同 年 8 月 10 日 の 2 泊 3 日 で 行 な わ れ た も の で あ る 。 調 査 地 点 は 、 淡 路 島 全 域 61 地 点 、 調 査 対 象 者 は 、 生 え 抜 き ( 昭 和 18 年 生 以 上 ) で あ る 。調 査 結 果 は 公 刊 さ れ て い な い 。2012 年 度 に 実 施 し た 淡 路 島 で の 方 言 調 査 は 、 通 信 調 査 と 面 接 調 査 を 実 施 し 、 第 一 次 調 査 と し て 2011 年 10 月 か ら 12 月 に か け て 、淡 路 島 各 集 落 の 回 答 は 76 地 点 で あ っ た 。第 二 次 調 査 は 、2012 年 8 月 以 降 に 実 施 し 、 調 査 地 点 は 18 地 点 で あ る 。 第 一 次 と 第 二 次 調 査 を 合 わ せ る と 、 計 94 地 点 分 の デ ー タ が 淡 路 島 か ら 回 収 さ れ た 。な お 、こ の 調 査 デ ー タ を も と に 岸 江 信 介 ほ か 編 ( 2013)『 淡 路 島 言 語 地 図 』 を 公 刊 し た 。 こ の 報 告 で は 、 上 記 の 第 一 次・第二次調査で得られたデータをもとに大半の調査項目について解説を行った が、一部、データの解説ができなかったものがあり、そのうちの重要と思われる 項目を今回ここで取り上げる。 峪 口 調 査 は 、LAS 追 跡 調 査 を 行 う た め 、瀬 戸 内 海 島 嶼 お よ び 沿 岸 に お け る 全 域 調 査 を 2011 年 か ら 約 4 年 間 に わ た っ て 実 施 し た 。 な お 本 章 で は 、 1,300 人 の デ. 16.
(26) ータを用いて言語地図化を行っている。以上の調査結果を随時比較し考察してい くことにする。 GIS を 用 い た 調 査 結 果 に つ い て 、 空 間 統 計 ツ ー ル の 地 理 的 分 布 特 性 を 算 出 し 、 分布志向性分析を用いて解析を試みる。また、瀬戸内海全域の分布をみるときは 峪 口 調 査 の 地 点 は 、LAS と 比 べ 広 域 に 調 査 地 点 の あ る こ と か ら 、LAS と 同 じ 調 査 範囲内のポリゴンデータを作成し、その範囲内のポイントデータを空間検索し取 り出し作図を試みている。. 3 .「 さ つ ま い も 」 の 方 言 分 布 3.1.先行研究 「 さ つ ま い も 」は 、ア メ リ カ 大 陸 原 産 で あ り 、コ ロ ン ブ ス の 大 航 海 時 代 の 時 に 、 ま ず ス ペ イ ン に も た ら さ れ 、 や が て フ ィ リ ピ ン 、 中 国 福 建 を 経 て 1605 年 に 琉 球 に 伝 え ら れ た 。そ し て 、1605 年 の 薩 摩 の 琉 球 入 り 以 降 に 琉 球 か ら 薩 摩 に も た ら さ れ た と い う 。 内 地 に 広 ま っ た の は 、 1615 年 6 月 14 日 の イ ギ リ ス の 商 館 長 リ チ ャ ー ド・コ ッ ク ス 注 1 の 日 誌 に 自 分 が こ の 芋 を 琉 球 か ら 長 崎 に 持 ち 込 み 、平 戸 で 栽 培 したことを記している。 ま た 内 地 に 栽 培 が 普 及 し て い っ た こ と を 、佐 藤( 1991)は 、青 木 昆 陽 の 努 力 に よるところが大きいといい、昆陽は当時の全国的な飢餓を憂えて幕府に進言し、 1735 年 に 薩 摩 か ら 種 芋 を 得 て 今 の 小 石 川 植 物 園 に 植 え 、さ ら に 下 総 、上 総 、伊 豆 諸島に移植し、これがサツマイモの名称の起こりであり、サツマイモの名は、以 後栽培の普及とともに、関東を中心としてその周囲に広がったものと指摘してい る。 渡来作物の名称には、その出身地・経由地を示すものが多い。その名称は出身 地 ・ 伝 来 経 路 に 由 来 し 、『 日 本 言 語 地 図 』( 以 下 LAJ と 略 す ) 第 4 集 ・ 第 176 図 「 さ つ ま い も( 甘 藷 )」の 地 図 を 大 き く 分 類 し て み る と 、東 日 本 か ら 近 畿・中 国 に か け て「 サ ツ マ イ モ 」、九 州 北 部 か ら 山 口 な ど に か け て「 ト ー イ モ( 唐 芋 )」、九 州 南 部 と 四 国 の 一 部 で「 カ ラ イ モ( 唐 芋 )」、九 州 北 西・中 国・四 国・能 登 な ど で「 リ ューキューイモ」と称している。西日本が複雑で錯綜し、東日本が単純な分布を 示している。 江戸中期から、様々な文献にサツマイモが出てくるようになってきた。以下、 『日本国語大辞典. 第二版』等を参考にまとめて示す。. ● 『 俳 諧 ・ 手 挑 灯 』( 1745) 中 「 九 月 〈 略 〉 薩 摩 芋 ( サ ツ マ イ モ )」 ● 『 雑 俳 ・ 柳 多 留 ‐ 八 』( 1773)「 品 川 は 山 の い も よ り さ つ ま い も 」. 17.
(27) ●『 物 類 称 呼 』 ( 1775) 「 畿 内 に て り う き う い も と 云 ,東 国 に て さ つ ま い も と い ふ , 肥前にてからいもという」 ● 『 浄 瑠 璃 ・ 古 戦 場 鐘 懸 の 松 』( 1761) 二 「 ホ ホ ホ ホ ホ あ な た と し た 事 が . さ つ ま芋か何んぞの様に,是がどこにさもしい物」 ●「 甘 藷 百 珍 」( 1789)「 八 里 半〔 栗( 九 里 ) に 近 い 味 〕」「 十 三 里 〔 栗( 九 里 ) よ り ( 四 里 ) う ま い 〕」 ● 『 滑 稽 本 ・ 浮 世 床 』( 1813~ 1823) 初・上「琉球芋(サツマイモ)なら一本十六文(そくもん)宛(づつ)もし べいといふ角(つの)を二本生しゃアがって」 初・中「しかし家鴨と迄もいくめへ薩摩芋(サツマイモ)の精霊さ」 ● 『 雑 俳 ・ 手 ひ き ぐ さ 』( 1824)「 と っ と 退 き 下 女 に 買 は し た さ つ ま い も 」 ● 和 田 定 節 『 春 雨 文 庫 』( 1876~ 1882) 九 「 い つ 何 時 ( な ん ど き ) 薩 摩 芋 ( サ ツ マイモ)が浪人者を引きつれて京都へ押し込んで来るかも知れぬとて」 ● 松 村 任 三 『 日 本 植 物 名 彙 』( 1884)「 サ ツ マ イ モ リ ウ キ ウ イ モ 甘 藷 」 ● 夏 目 漱 石 『 吾 輩 は 猫 で あ る 』( 1905) 一 〇 「 坊 ば は 固 ( も と ) よ り 薩 摩 芋 が 大 好きである」. LAJ で は 現 在 、近 畿 一 帯 は ほ ぼ サ ツ マ イ モ で 覆 わ れ て い る 。し か し 、上 述 し た ように、 『物類称呼』 ( 1775 年 刊 )を み る と 、か つ て 近 畿 一 帯 に リ ュ ー キ ュ ー イ モ が広がっていた時期があり、それが東日本から押し寄せたサツマイモによって追 われて、現在の状態になったと考えられる。現在、能登半島の先端に見られるリ ューキューイモは、昔、近畿を覆っていたものの残存だといえる。 す な わ ち 、サ ツ マ イ モ が 琉 球 あ る い は 九 州 南 部 に 渡 来 し た と き に 、 「 唐 イ モ 」の 名 が 与 え ら れ 、琉 球 か ら あ る 程 度 離 れ た 土 地 に 到 達 し て 、 「 琉 球 イ モ 」と な り 、薩 摩から江戸に移入された「薩摩イモ」となったわけである。この順序で列島の西 から東へ向かって分布している。. 3.2.瀬戸内海全域における方言分布の概観 LAS 第 149 老 年 層 図 か ら 作 図 注 2 し た 、 図 1 を み て い く 。 共 通 語 と 同 形 の サ ツ マイモは、近畿から山口県周防大島までの地域全体に分布がみられ、一方で、九 州 に は 僅 か 3 地 点 し か 分 布 が み ら れ な い 。ま た 単 純 化 さ れ た イ モ は 、LAS で は 淡 路以西の全域にひろく分布域を形成していることがわかる。カライモ・トーイモ 系・リューキューイモ系をみると、カライモが、愛媛の三地点にみられ、トーイ モ系が香川県西部から愛媛県、山口県西部、福岡県、大分県に分布している。. 18.
(28) 19. 図1. LAS 第 149 図 か ら 作 図 「 さ つ ま い も 」.
(29) 20. 図2. 峪口調査「さつまいも」.
(30) 21. 図3. LAS 第 149 図 か ら 作 図「 さ つ ま い も 」グ ル ー ピ ン グ 図.
(31) 22. 図4. 峪口調査「さつまいも」グルーピング図.
(32) 23. 図6. LAS. 峪口調査. 図5. 空間検索後サツマイモ. サツマイモ.
(33) 24. 図8. 峪口調査. 図7. イモ. 空間検索後イモ. LAS.
(34) 25. 図 10. 峪口調査. 図9. リューキューイモ系ほか. 空間検索後リューキューイモ系ほか. LAS.
(35) 26. 図 11. 峪口調査. 空間統計図. 標準編楕円.
(36) 特にリューキューイモ系が、主に淡路島南部に盛んに分布がみられ、続いて徳島 県・岡 山 県 西 部・愛 媛 県 島 嶼 部・山 口 県 下 へ 点 在 し て い る 。ま た LAS で は 、珍 し い形式である、ゲンジイモが愛媛県の佐田岬半島にみられ、ゲンキイモが山口県 大津島に確認ができた。 次に図2の峪口調査をみていくと、サツマイモは近畿から九州までの地域に勢 力が拡大していた。つまり、サツマイモが共通語形として受け入れられ、今まで あった方言形がサツマイモに変わっている様子を掴むことができる。また香川県 に関しては、サツマイモの語形しかみられない。さらに、イモの分布は縮小する 傾向がうかがえる。カライモは愛媛県に多く分布をし、飛び地的に兵庫県、香川 県小豆島、岡山県島嶼部、山口県西部、福岡県とみられる。トーイモ系は、山口 県以西に分布が盛んにみられ、徳島県、愛媛県と分布がみられる。 つぎにリューキューイモ系は依然として淡路島南部に特に盛んにみられ、徳島 県、愛媛県、山口県西部に分布していました。愛媛県島嶼部でみられたリューキ ューイモ系の分布がみられなくなり、内陸部に多く分布していることがわかる。 次に、この二枚の地図で比較するのは、困難な為、グルーピングした地図を作 成し比較を試みる。 以下で示す地図は、 「サツマイモ」 「イモ」 「 リ ュ ー キ ュ ー イ モ 系・ト ー イ モ 系 ・ カライモ系」と、3つにグルーピングした地図である。 まず図2と図3を比較してみると、サツマイモの共通語化の進捗状況を把握で きる。サツマイモが瀬戸内海西部域に分布を拡大させている一方、図7・図8で はイモが減少していることがわかる。つまり、当地域ではイモがサツマイモに置 き 換 わ っ た と い え る 。 続 い て 図 9 ・ 図 10 の リ ュ ー キ ュ ー イ モ 系 、 ト ー イ モ 系 、 カ ラ イ モ 系 の 図 で は 、依 然 と し て LAS 時 と 同 地 域 に 分 布 が 確 認 で き る 。な お 既 存 の分布域のみならずそれ以外の地域(小豆島、香川県西部、山口県島嶼部)にも 新たに分布が確認できた。 次に、 「 さ つ ま い も 」の デ ー タ を 使 い 空 間 解 析 の 分 布 志 向 性 分 析 を 用 い て 分 析 を 試 み る 。 図 11 の 標 準 偏 差 楕 円 の 図 で は 、 LAS の 分 布 領 域 と 比 べ て 峪 口 調 査 の 楕 円が拡大していることから、共通語形のサツマイモが広域で使用がひろがってい ることが判明した。 以上、グルーピングした 3 つの語形をみてみると、一番古い語形は、イモであ る。かつてイモはサトイモの名称として使用されていたが、使用される地域や時 代によって、イモの意味は、サトイモ・サツマイモ・ジャガイモへと変化してい っ た よ う で あ る 。甘 藷 が 日 本 に 渡 来 し て き た の は 、江 戸 時 代 で あ り 、中 国・沖 縄 ・ 薩 摩 を 経 て 渡 来 し て き た こ と か ら 、経 由 地 を 呼 称 し た 名 前 が 今 で も 残 存 し て い る 。. 27.
(37) 今回の事例から明らかになったことは、複雑な分布の中にも、古い語形が淘汰さ れ共通語形が拡大する分布、一方、古い語形が未だに地域を限定し残存する分布 の2種類あるということである。 つまり、サツマイモの語形は共通語として一般化し、広域にまとまった分布の 様相を呈しているが、逆にリューキューイモ系ほかの分布は、伝承されていた地 域のみに地域言語として残存しているといえるのである。. 3.3.淡路島における方言分布の概観 ま ず LAS 第 149 老 年 層 図 の「 さ つ ま い も 」か ら 作 成 し た 地 図( 図 12)と 、1999 年 に 行 わ れ た 1999 年 調 査 の 地 図 ( 図 13) と 、 2012 年 調 査 ( 図 14) の 地 図 を 概 観し、比較・考察を行う。 「さつまいも」の地図3枚共、全域に共通語形のサツマイモが分布している。 その中で、方言形で盛んにおこなわれているのが、淡路(おもに南部)のリュー キ ュ ー イ モ 系【 リ ュ ー キ イ モ 、リ ュ ー キ ュ ー イ モ 、リ ュ ー キ ュ イ モ 、リ ュ キ イ モ 、 リ キ イ モ 、ジ ュ ー キ イ モ 】で あ る 。LAS 全 体 地 図 で は 、徳 島 ・岡 山 県 西 部 ・ 愛 媛 島嶼・山口県下に分布が点在している。その中でも、淡路が特に分布が優勢であ る 。藤 原( 1976)も 指 摘 し て い る よ う に 、淡 路 島 に お い て は 、西 方 、九 州 や 、山 口県下などとともに、しばしば比較的古い語形をとどめがちのようである。 このリューキューイモ系が経年変化でどのように言語変化が起きたかを言語地 図 を 比 較 す る こ と で 推 定 す る こ と に し た い 。1999 年 調 査 を み る と 、リ ュ ー キ ュ ー イモ系【リューキイモ、リューキューイモ】は、淡路島南部(南あわじ市)に分 布 が み ら れ 、サ ツ マ イ モ と リ ュ ー キ ュ ー イ モ 系 の 併 用 回 答 の 地 点 が 多 く み ら れ た 。 さ ら に 2012 年 調 査 に お い て も 、 リ ュ ー キ ュ ー イ モ 系 【 リ ュ ー キ イ モ 、 リ ュ ー キ ューイモ】の分布は、淡路島南部(南あわじ市・洲本市)に使用の確認ができ、 1999 年 調 査 と 同 じ く 、 サ ツ マ イ モ と リ ュ ー キ ュ ー イ モ 系 の 併 用 回 答 が 目 立 っ た 。 先 行 研 究 で 上 述 し た『 物 類 称 呼 』 ( 1775 年 刊 )で は 、 「 さ つ ま い も 」の 見 出 し 語 としてリューキューイモが立てられており、当時、共通語の位置にあったとみら れる。現代ではリューキューイモ系の形式はサツマイモに追われ、淡路島におい ても淡路島南部に追いやられ残存しているとみられる。このような現象は近畿周 辺部にも散見される。上述した能登半島の例とも一致している。 次に、イモという回答を比較してみる。まず兵庫県において、イモとはどの地 域 に 回 答 が あ る の か を 、LAJ を み て 確 認 し て み る 。兵 庫 県 で は 淡 路 島 中 央 部 の み に、 「 さ つ ま い も 」を イ モ と 回 答 し て い た 。全 国 的 に み る と 、西 日 本 を 中 心 に 分 布. 28.
(38) 図 12. LAS 第 149 老 年 層 図 「 さ つ ま い も 」. 29.
(39) 図 13. 1999 年 調 査 「 さ つ ま い も 」. 30.
(40) 図 14. 2012 年 調 査 「 さ つ ま い も 」. 31.
(41) が み ら れ る 。LAS で は 、淡 路 島 全 域 に み ら れ た 。1999 年 調 査 、2012 年 調 査 に お いては、若干分布の数は減少しているものの、依然としてイモの分布は健在であ ることがわかった。 ま た 1999 年 調 査 で み ら れ た 、 カ ン シ ョ ( 甘 藷 ganshu) は 、「 さ つ ま い も 」 の 漢 名 の こ と で あ る 。 そ し て 同 じ く 1999 年 調 査 で み ら れ た 、 ア カ イ モ 、 ア マ イ モ は「 さ つ ま い も 」の 別 名 で あ る と い え る 。こ の 他 、2012 年 調 査 で 分 布 が 確 認 で き たサツマは、イモの部分が脱落した方言形である。. 4.本章の結論 以上、本章で論じてきたことをまとめ、結論を述べる。 LAS の 時 代 で 多 く み ら れ て い た 、一 番 古 い 語 形 で あ る イ モ は 、時 間 が 経 つ こ と により、イモからサツマイモという共通語形へ置き換わっていった。その理由と しては、かつてイモはサトイモの名称として使用されていたが、使用される地域 や時代によって、イモの意味は、サトイモ・サツマイモ・ジャガイモへと変化し ていったためである。 また共通語形のサツマイモは、空間統計図で確認できたように、瀬戸内海域で 使用の拡大がみられる。一方で、リューキューイモという経由地を呼称とした名 前が地域を限定して、今でも残存することが明らかとなった。 今回の事例から明らかになったことは、複雑な分布の中にも、古い語形が淘汰 され共通語形が拡大する分布、一方、古い語形が未だに地域を限定し残存する分 布の2種類あるということである。 つまり、サツマイモの語形は共通語として一般化し、広域にまとまった分布の 様相を呈しているが、逆にリューキューイモ系ほかの分布は、伝承されていた地 域のみに地域言語として残存しているといえるのである。. 【注】 注1. 江 戸 初 期 に 日 本 の 平 戸 に あ っ た イ ギ リ ス 商 館 長 を 務 め た 人 物 で あ る 。在 任 中 に 記 し た 詳 細 な 公 務 日 記「 イ ギ リ ス 商 館 長 日 記 」 ( Diary kept by the Head of the English Factory in Japan: Diary of Richard Cocks, 1615-1622) は 、 イ ギ リ スの東アジア貿易の実態や日本国内の様々な史実を伝える史料となっている。. 注2. LAS を 電 子 化 し た 地 図 の 凡 例 は 、 LAS の 凡 例 に 近 い 記 号 を 割 り 振 っ て い る 。. 32.
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