S pecial edition paper
音板の最適な傾斜角度と材料特性を検討するため、従来型 防音壁と条件を変えた遮音工それぞれについて数値解析を行 い、騒音低減量を比較した(4.1節)。その後、関東近郊の 在来線沿線に改良型遮音工を仮設し、現車試験による条件 を変えた遮音工ごとの騒音低減量の確認を行った(4.2節)。
風洞実験による風荷重軽減効果の確認
3.
3.1 遮音工模型
改良型遮音工の風荷重軽減効果を確認するため、模型 試験による検討を行った。
近年、都市部においては、在来線沿線の建物の高層階 に対する騒音対策が課題となっている。
しかし、従来のように防音壁を設置して対策する場合、音 源から受音点までを遮蔽しなければ効果が得られないため、
防音壁が高大となる。高大な防音壁は風荷重を強く受け、
防音壁本体や防音壁が設置された構造物への負荷が増大 することから、強風時にも耐えうる強度を確保すべく補強が 必要となり、工事費や施工時間の増加を招く。また、反射音 の影響により、当該線の反対路線沿線においても騒音レベル が上昇するなど課題が多い。図1に、これらの課題をまとめ た従来型防音壁の概要図を示す。
筆者らは、今回新たに高所空間(本稿では、防音壁・遮 音工高さより高い空間とする)において騒音低減効果が大き く、風荷重を軽減できる新しい形状の改良型遮音工を考案し
たので報告する。
改良型遮音工の概要と検討内容
2.
図2に改良型遮音工の概要を示す。今回考案した改良型 遮音工は、高大な高さでも従来型防音壁ほど風荷重の影響 を強く受けず、高所空間や反対路線沿線への騒音伝搬を低 減できる構造を目指した。具体的には、従来の防音壁のよう な直壁形状ではなく、軌道側に傾斜させた遮音板を数段配 置し、開口部を設けることにより、騒音低減と風荷重の軽減 を試みることとした。
最適な改良型遮音工の形状を検討するにあたり、まず、風 洞実験による遮音工の開口率と遮音板の角度による風荷重軽 減効果を確認した(3章)。次に、騒音低減効果が大きい遮
在来線沿線の高所空間 における騒音低減に
関する研究
●キーワード:在来線、高所空間、騒音、遮音工、風荷重
近年、都市部においては、在来線沿線の建物の高層階に対する騒音対策が課題となっている。地上側での騒音対策の場合、
防音壁による遮蔽対策が一般的であるが、通常高さ2〜3mの防音壁では高所空間には効果がなく、嵩上げで対応するには高大 な防音壁が必要となり、日照および自然風の阻害、風荷重、設置費用などの諸問題を引き起こすことが考えられる。そこで、筆者 らは高所空間において騒音低減効果が大きく、風荷重の影響が小さい改良型遮音工を考案した。その結果、高所空間において
最大7dB程度騒音低減効果があり、風荷重を3割程度まで軽減できることが確認された。
1. はじめに
伊戸川 絵美* 石川 聡史** 金子 達哉* 清水 満***
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図1 従来型防音壁(直壁)の概要
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図2 改良型遮音工の概要
模型は1/5スケールとし、図3に示すとおり遮音工の開口率 と遮音板の角度を変えた10条件について確認を行った。外 形寸法は高さ200mm×幅1,040mmとし、厚さ2mmのステンレ ス板を使用した。図4に、風洞実験の様子を示す。
3.2 測定方法
測定は、風速を0、10、20、30、40m/sの5条件で実施した。
温度、湿度、大気圧および動圧から風速を計算し、リアル タイムで表示させた風速を風速条件と一致するように風洞を
操作し、模型条件ごとの風荷重を測定した。
風速0m/sでは3秒間(2kHzサンプリング6,000点)平均の 1回測定を、風速10、20、30、40m/sでは10秒間(2kHzサ ンプリング20,000点)平均の3回測定を行った。風速0m/sと 各風速条件時の差をとり、模型四隅において風荷重を測定 し、その合計を算出し各模型条件の風荷重を求めた。
3.3 測定結果
風荷重の大きさは、従来型防音壁が受ける風荷重を100と したときの相対値として評価した。図5に測定結果を示す。
図5より、遮音工が受ける風荷重の大きさは、遮音板の角 度が同条件である場合、遮音工の開口率が大きいほど小さく なると言える。また、開口率が同条件である場合、遮音板の 角度が小さいほど風荷重も小さくなると言える。通常の直壁 形状の防音壁に受ける風荷重と比較し、開口率が50%・30°
の場合、最大3割程度に軽減できる。また、開口率が0%の 場合でも、傾斜をつけた遮音板を設置することで、風荷重を 4割〜8割程度まで軽減できることが確認された。
改良型遮音工による騒音低減効果
4.
4.1 数値解析による騒音低減量の把握
騒音低減効果が大きい改良型遮音工の傾斜角度と材料 特性を検討するため、条件を変えた各遮音工について数値 解析による騒音低減量を把握した。
4.1.1 数値解析の概要
数値解析は、(a)従来型防音壁(直壁)、(b)改良型遮 音工(遮音板角度30°)、(c)改良型遮音工(遮音板角度 45°)、(d)改良型遮音工(遮音板角度60°)の4条件につ いて行った。図6に解析に用いた各遮音工の断面形状を示 す。改良型遮音工の開口率は、3章の検討結果において、
風荷重を3割〜4割程度に軽減できることが確認された50%を 採用した。また、吸音材の有無による騒音低減効果を確認 するため、遮音板の両面に吸音材(ポリエステル繊維系吸 音材料45mm:既報1)参照)を敷設した場合についても計算 した。
図7に示す2次元断面の領域において、軌道から受音点ま での伝搬を2次元の有限差分法(FDTD法)を用いて解析 した。
数値解析では走行車線の軌道中心、レールレベル高さに 音源を配置し、計算エリア内の評価点で求めた音圧波形より 騒音レベルを推定した2)。最終的に計算結果については、従
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図4 風洞実験の様子 図3 改良型遮音工模型概略図
図5 風荷重測定結果
巻 頭 記 事
Special edition paper
特 集 論 文 9
るバラストに吸音される割合)が最も高くなり、その結果騒音 低減量が大きくなったと考えられる。
また、吸音材の有無に関わらず45°の場合に最も騒音低減 効果が大きくなったが、吸音材がない場合においては60°と 30°の低減効果が逆転した。これは、30°の場合の方が遮音 板に敷設した吸音材の表面積が大きくなり、60°より遮音板に よる吸音効果が大きくなったためと考えられる。
4.2 現車試験による騒音低減量の把握 4.2.1 現車試験の概要
関東近郊の在来線沿線において、改良型遮音工を仮設し、
現車試験による騒音低減量を把握した。図10に仮設した改 良型遮音の設置状況を示す。改良型遮音工には、長さ1.8m
×幅0.9m×厚さ12mmのコンクリートパネル(コンクリート型枠 用合板)を使用した。
設置位置は、図11に示すように近接側軌道中心から水平 方向に6m離れとし、高さは地上から5m、延長は測定断面を 中心に10mずつとし、計20mの区間において仮設した。測 定点は地上1.2m〜地上10mまでの計5点とした。図12に騒音 計マイクロフォン設置状況を示す。
来型防音壁、各改良型遮音工設置前を基準とした騒音低 減量で整理した。
4.1.2 解析結果
図8に従来型防音壁、図9に改良型遮音工設置における 騒音低減効果の分布を示す。
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図8より、従来型防音壁の騒音低減量は計算エリア全体で 大きいが、線路に近接した高所空間では騒音低減量が小さ いことが分かる。一方、図9より改良型遮音工の騒音低減量 は計算エリア全体では従来型防音壁より小さいが、線路に近 接した高所空間では、従来型防音壁より大きいことが分かる。
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遮音板に吸音材を敷設しない場合の騒音低減量は、遮音 板角度45°>60°>30°の順であるが、吸音材を敷設した場合 は、遮音板角度45°>30°>60°の順である。
既報3)によると、列車の走行音は走行車線の軌道中心付 近から斜め上40°に向かって強く伝搬することが明らかになっ ている。遮音板の角度を45°とした場合、列車の走行音が遮 音板に到達し、軌道に戻される割合(軌道に敷設されてい
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図8 従来型防音壁設置による沿線騒音の低減量
測定対象列車は、首都圏を走行する10両編成の車両(列 車速度:85〜90km/h)とし、単発騒音暴露レベルによる評 価を行った。なお、吸音材の有無による騒音低減量を把握 するため、厚さ25mmのグラスウールを両面に敷設し、吸音 効果の有無による比較検討も併せて行った。表1に、測定を 実施した各遮音工(パターン1〜4)の条件を示す。
4.2.2 試験結果
図13と図14に、近接車両、遠隔車両それぞれの現車試 験により得られた単発騒音暴露レベルと地上高さの関係を示 す。なお、図13、図14ともに、遮音工を設置しない場合(パ ターン4)の地上1.2m高さの単発騒音暴露レベルを基準とし、
その相対値として表示した。遮音工設置による騒音低減量 は、近接・遠隔車両ともに地上5m付近が最も大きい。これは、
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巻 頭 記 事
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特 集 論 文 9
地上5m付近では車両下部からの走行音が遮音板に遮蔽さ れるため騒音低減効果が大きくなったと考えられる。反対に 地上付近では、遮音板の隙間の影響により走行音が受音点 に到達しやすいためそれほど騒音低減効果が見られなかった と考えられる。一方、近接・遠隔車両ともに地上7.5mおよび 10mでは騒音低減効果が見られなかった。これは、受音点 高さが遮音工より高所にあるため、走行音が遮音工に遮蔽さ れず受音点に到達したためと考えられる。
遮音板パターン別の騒音低減量の大きさは、近接車両の 場合、地上5mにおいてパターン2が最大6.6dB、パターン1が 最大6.4dB、パターン3が最大4.5dBの順である。遠隔車両 の場合も同様に、地上5mのときパターン2が最大7.4dB、パター ン1が最大6.8dB、パターン3が最大4.9dBの順である。パター ン2の騒音低減量が近接・遠隔車両ともにパターン1より大きい 理由としては、表1に示す開口率の大きさによる遮音性能の 相違が関係していると考えられる。
また、パターン1とパターン3の結果より吸音材の有無による 騒音低減量を比較してみると、吸音材がある場合、近接・遠 隔車両ともに最大3〜4dB程度低減効果が得られることが分 かった。
今回の現車試験においては、当初の近接軌道中心より
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図11 測定断面
図12 騒音計マイクロフォン設置状況
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図13 単発騒音暴露レベルと地上高さの関係(近接車両)
図14 単発騒音暴露レベルと地上高さの関係(遠隔車両)
図10 改良型遮音工設置(仮設)状況
表1 各遮音工条件
参考文献
1) 石川聡史、白神亮、廣江正明、杉江聡;軌道近接対策に よる高所空間での騒音低減効果について,日本騒音制御工 学会秋季研究発表会講演論文集,pp.117〜120,2009.9.
2) 伊戸川絵美他;数値計算による構造物音を含む在来鉄道騒 音の予測, 日本騒音制御工学会秋季研究発表会講演論文 集,pp.49〜52,2011.9.
3) 白神亮、石川聡史、柳沼謙一;高所空間の在来線騒音測 定に関する一考察,日本騒音制御工学会秋季研究発表会 講演論文集,pp.121〜124,2009.9.
3.5m離れではなく、現地の状況に応じて6m離れに遮音工を 設置したため、地上7.5m、10m高さにおいて期待した騒音 低減効果が得られなかったと考えられる(図15)。しかし、
図16に示すとおり、軌道中心より3.5m離れに設置した場合に は、地上7.5m、10m高さにおいても望んだ騒音低減が得ら れると推察される。
最適な高所空間対応型遮音工の形状
5.
3〜4章の結果より、最適な高所空間対応型遮音工の形状 を検討した。
遮音板の開口率については、3章の風洞実験による検討よ り、最も風荷重軽減率が高かった50%を採用することとした。
全体の形状については、4.1節の数値解析による検討結果 より、改良型遮音工は高所においては騒音低減効果が大き いが低所においては騒音低減効果が小さかったため、低所 は直壁、高所は改良型遮音工とし、それぞれの利点を生か した形状とすることとした。
遮音板の角度については、4.1節の数値解析と4.2節の現 車試験による検討より、45°とすることとした。これは、現車試 験における結果では、60°の場合が最も騒音低減効果が大き かったが、45°の場合も同程度の低減効果が得られることと、
設置位置を本来の低減効果が望める位置(軌道に近接した 位置)に設置した場合の数値解析結果においては45°の場 合が最も効果が高かったことから45°を採用することとした。
これらの検討を加えた最適な高所空間対応型遮音工の概 要を図17に示す。なお、4.1節、4.2節の検討結果より、遮音 板には吸音材を敷設することが望ましいと言える。また、高 所空間対応型遮音工は、風荷重を軽減できることから直壁 防音壁高さより高く設置可能であると考えられるが、遮光性を 損なわないよう、高所については透明板の使用が望ましい。
6. おわりに
高所空間において騒音低減効果が大きく、風荷重を軽減 できる改良型遮音工の形状について各種検討を行った。そ の結果、高所空間における騒音については最大7dB程度の 低減効果があり、風荷重についても3割程度まで軽減できるこ とが確認された。また、各種結果を整理して検討した高所空
間対応型遮音工の形状を考案した。
今後は、高所空間対応型遮音工の実導入に向けた課題 を整理すべく、設置基準の策定や、耐久性の評価について 引続き検討を続けていく。
図15 現車試験測定時遮音工設置断面(6m離れ)
図16 通常時遮音工設置断面(3.5m離れ)
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図17 高所空間対応型遮音工の概要