論文内容要旨
論 文 題 名 Oral tolerance is inducible during active dextran sulfate sodium-induced colitis
掲 載 雑 誌 名 World Journal of Gastrointestinal Pharmacology and Therapeutics 2016年 掲載予定
医学研究科病理系微生物学専攻 猪 聡志 内容要旨
背景
炎症性腸疾患は遺伝的素因を背景に環境要因が作用し、過剰な免疫応答で 起きる多因子疾患である。経口免疫寛容を応用した経口免疫療法は多くの 免疫疾患に効果を示し、炎症性腸疾患に対する効果も期待される。近年ク ローン病に対する経口免疫療法の有効性が報告されたが、潰瘍性大腸炎に 対する有効性については報告がない。本研究の目的は、潰瘍性大腸炎類似 のデキストラン硫酸ナトリウム誘導性腸炎モデルの活動期に経口免疫寛 容が誘導可能かどうか、経口免疫寛容に関与する制御性T細胞や制御性B 細胞、サイトカインが腸炎活動期にどのように変化するかを調べることで ある。
方法
マウスは6-8週齢の BALB/c雌を用いた。1から11日目に 2%デキストラ ン硫酸ナトリウム(DSS)を自由飲水下で投与したマウスを DSS(+)、オー トクレーブ水を投与したマウスをDSS(-)とした。それぞれ8,9,10,11日目 に卵白アルブミン(OVA)もしくはPBSを経胃投与し、OVA群とコント ロ ー ル 群 と し た 。 1µg/日 の OVA と 0.1mg/日 の ア ル ム ニ ウ ム 塩 を 14,28,42,56 日目に腹腔内投与し感作し、63 日目に血清OVA 特異的 IgE 抗体濃度を測定し、経口免疫寛容誘導の可否について調べた。また、14日 目の脾臓と腸間膜リンパ節を採取し制御性 T 細胞や制御性 B 細胞をフロ ー サ イ ト メ ト リ ー で 、 各 種 サ イ ト カ イ ン の mRNA 発 現 を reverse transcription real time-PCRで解析した。
結果と考察
DSS(+)マウスでは 8 日目から下痢や血便が出現し、DSS(-)マウスと比較
しDisease Activity Scoreは有意に上昇し、5-16日目で有意な体重減少を
示し、8 日目には有意な腸管長の減少を認めた。病理学的解析において DSS(+)マウスは上皮欠損とリンパ球を主体とした炎症細胞浸潤を粘膜層 や粘膜下層に認め、DSS(-)マウスと比較して病理学的スコアは有意に上昇 した。
腸炎の有無によらず感作前にOVAを経胃投与されたマウス(OVA群)の 血清OVA特異的 IgE抗体濃度は、PBSを経胃投与されたマウス(コント ロール群)と比較して有意に減少していた。これらの結果から、腸炎の活 動期にも経口免疫寛容の誘導が可能であることが示された。また、腸炎活 動期の脾臓や腸間膜リンパ節において制御性 T 細胞や制御性 B 細胞の割 合には有意な変化を認めなかった。DSS(+)マウスの脾臓で IFNγの発現
が DSS(-)マウスと比較して有意に低下していたが、その他のサイトカイ
ン発現には有意な変化を認めなかった。脾臓や腸間膜リンパ節における制 御性細胞の恒常性やサイトカイン背景が腸炎活動期においても経口免疫 寛容の誘導を可能にしたかもしれない。適切な抗原が選択されれば、経口 免疫療法が潰瘍性大腸炎に対して有効な治療になりうる可能性を示唆す る結果であった。