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「物体が見える」という概念をつかませるための 教材開発とその成果

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Academic year: 2022

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1.はじめに

日本の子どもの理科の学力は、TIMSS(2019)1)や PISA(2018)2)に従えば他国と比較し て高い水準にあると考えられるが、日本の成人が有する科学に関する関心や理解度は概して低 い(文部科学省、2001)3)。奥田ほか(2008)4)によれば、成人が有する科学に関する関心や学 力が日本よりも高いイギリスと日本の中学校の理科教科書を「光」の単元で比較した結果、イ ギリスは身近な生活の中から科学的関心を引き出し、身近な生活に科学的知識を役立てようと する方向性が日本よりも強いことが明らかになった。このイギリスの教科書例は、子どもたち が生涯にわたって能動的に学び続けることができるようにするためには、学習内容を人生や社 会の在り方と結び付けて深く理解すること(文部科学省、2018)5)が必要であることを示すも のだと考えられる。

具体的に中学校理科で学習する「光」の学習内容を現行の中学校理科教科書(岡村ほか、

2016)6)で確認すれば、小学校で学習した光の直進性や反射することを基盤にして身近な物理 現象として光を捉えさせる流れの中で、光の反射・屈折や凸レンズの働きなどの規則性を理解 させることに重点が置かれるが、それが我々自身が物体を見る際にどのように関わっているか については十分に結びつけられていない現状がある。例えば、後述する今回の授業で、生徒は 物体が見えるという現象を図1のように表す場合がある。これは「見える」ことと「光の性質」

「物体が見える」という概念をつかませるための 教材開発とその成果

―中学校理科単元「光の世界」の実践から―

奥 田 雅 史

*1

・吉 川 武 憲

*2

Development of teaching materials and results to help people understand the concept of“seeing objects”

―Secondary Class Unit“World of Light”―

(OKUDA Masashi and YOSHIKAWA Takenori)

*1 堺市立金岡南中学校教諭

*2 近畿大学教職教育部准教授

〔キーワード〕光の世界、中学校理科、教材開発、物理分野、

生涯学習

(2)

とがまったく結びついていない状態である。このようなくいちがいを単元の学習で改善するこ とが求められるが、これまでの筆者らの経験からは、このようなことに力点を置く授業は十分 にはなされていない。

そこで本研究では、「光の性質」と「見える」という現象が結びついていることを理解させ ることを目的とした教材を作成し、 授業で実践した成果をここに示す。 これにより、「光」の 学習がより子どもたちの身近なものとなる一助になることをめざす。

2.作成した教材

「光の性質」と「見える」という現象が結びついていることを示す学習として、 例えば著者 の1人(奥田)が勤務する中学校で使用している東京書籍の中学校理科教科書6)では図2のよ うな図を用いて、ものが見えるときは①光源から出た光が、直接目に届いている。②光源から 出た光が、物体の表面で反射して目に届いている。とまとめている。今回の研究ではこのこと を実感させるために、 図3の「見えることと光の性質を結びつける教材」(以下、 結びつける 教材とする)を作製した。

この結びつける教材は、非常に分厚く側面から光を通さない拡大印刷用紙の空洞の芯(長さ が約1.2m)を利用したもので、その一方に周りをガムテープで数回巻いた紙コップを取り付け てある。この紙コップの中に観察させる物体(ここではイチゴの模型)を入れ、この物体の真 上に開閉できる窓を作成することで、物体にこの窓から直接光を当てることもできる。これに より、①(窓を閉じた状態で)光が出ていない物体は見えないこと、 ②外部から光が当たる

(窓を開ける)と見えるようになること、 ③光が空洞の中を直線状に進んでいることを体感的 に捉えさせ、光源から出た光が物体に当たり、それが反射して直線状に進んで目に届くことで

「見える」という現象が起こることを実感させることができると考えた。実際に図3の見る方 向から覗いてみると図4のように見える。

図1 課題1に対するある生徒の予想の図

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図3 結び付ける教材

図2 中学校理科教科書6)にある「見える」を説明する図

(4)

3.授業実践の概要

 実践授業の流れ

授業は2019年12月に著者(奥田)が勤務する中学校の1年生8クラス(288人)を対象に実 施した。授業の流れは表1に示すが、概略するとまず、学習内容1で光の方向性について意識 させた後、課題1(光っているライトが見えるときの光の道筋を考える)に対する予想の作成 とその検証、課題2(自ら光っていないイチゴが見えるときの光の道筋)に対する予想の作成、

結びつける教材(図3)を用いての観察、課題2の予想の修正、課題3(カーテンを閉め、蛍 光灯をつけている教室の机の上にある本が見えるときの光の道筋)に対する予想の作成をさせ た。それぞれの予想については、ワークシート(図5)に記録させた。ただし、課題1の学習 に際しては、レーザーポインターの光を拡散させたチョークの粉の中を通して見せ、光が直線 状に進むことを教員が押さえたが、課題2や課題3では教員の支援の下で生徒たちに議論させ ながら、自由に予想の図を考えさせた。また、課題3の予想に対する解答は、次の授業で教員

図4 窓を閉じたとき(上)と開けたとき(下)の物体の見え方

(5)

表1 授業の流れ

教師の支援 学習内容

〇ライトを持参し、すべての生徒にライトが見えているか を確認する。

〇ライトが見えなくなる方法を考えさせ、意見を出させる。

 Ex)ライトを消す、目を瞑る、違う方向を見るなど

〇目には見えていない光を意識すること、またそれらを図 示できるよう指示する。

〇予想が正しいかということより、積極的に予想を立てる ことに意味があることを強調する。

〇2で、光が直進しているような予想が多く出てくると考 えられるので、本当に光が直進しているかという流れで 発問する。

〇生徒からどのようにすれば見えるのかを問い、その予想 に従い実験する。

〇意見がでなければ、チョークの粉にレーザーをあてる実 験をする。

〇予想が正しいかということより、積極的に予想を立てる ことに意味があることを強調する。

〇課題1を踏まえて、科学的に考察できるよう声掛けする。

〇生徒から意見が出なければ、図3の教材を使い、予想を 確かめさせる。

〇図3の教材などを使って、考えたこと、わかったことな どを含めて、【課題2】を修正する。 班やクラスで協力 しても構わないこととする。

〇班で協力し合いながら、本時で学んだことをもとに自分 で表現できるよう支援する。

1.物体が見えるためには、「物体」と「目」

が必要であることを知る。

2.【課題1】光っているライトが見える とき、光の道筋はどのようになっている かを考える。

3.光が直進することをレーザーポインター を使って体感する。

4.【課題2】自ら光っていないイチゴが 見えるとき、光の道筋はどのようになっ ているかを考える。

5.2の予想を証明する実験を考える。

6.【課題2の修正】5.の活動を通して課 題2の予想を修正し、光の道筋がどうなっ ているか考える。

7.【課題3】カーテンを閉め、蛍光灯を つけている教室の机の上にある本が見え るときの光の道筋をワークシートに書く。

(6)

が解説した。

 授業中の生徒の様子

課題1を考える際に生徒は、「直進」や「反射」などの用語を口にする生徒も多かった。し かし、「本当に光が直進していることを証明することができるのか」という教員の指摘に対し ては自信をもって答えられる生徒は少なかった。その後、レーザーポインターを使って光の直 進性を見せると、生徒の多くは納得したような表情を見せた。そして、光の道筋を書く際には、

定規を使って一直線に書くように指示した。 また、課題2に際しては、「鏡で反射するのは小 学校で学んだけど、イチゴでは反射しないと思う」などの意見が出されたが、その意見にきち んと答えられる生徒はほとんどいなかった。課題2で使用した結びつける教材(図3)は各班 に1台ずつ配布したが、班の全員が自分で見え方を確認していた。その際の見え方については 思わず「あぁー」という声が多く聞かれ、 生徒自身の中で納得したような様子が見受けられ た。

図5 実際に使ったワークシート(左:表面 右:裏面)

(7)

4.実践授業の結果

 結果の検証方法

本研究では、課題3で「カーテンを閉め、蛍光灯をつけている教室の机の上にある本が見え るときの光の道筋を書きなさい」に対し、どのような予想の図が書けているかを検証すること で、結びつける教材(図3)の効果を検証することとした。評価の基準は①「蛍光灯から出て 本に当たる光」と②「本から出て、目に入る光」に着目し、この2つの光の道筋を直線と矢印 で正確に示している生徒をA評価とした。そしてA評価のうち、①と②がつながっている、す なわち、①が反射して②になったことが意識できている生徒を AA 評価とした。次に、直線で

①と②の道筋が書かれているが、矢印の方向が書かれていない生徒をB評価とし、①・②のど ちらか片方だけを正しく書けた生徒をC評価、①・②どちらも正しく書けなかった生徒をD評 価とした。そして、無回答の生徒は無回答とした。今回の実践では、結びつける教材だけでは 光源から物体に当たった光が反射して目に届いていることを確定的には言い切れないことから、

A評価であれば本授業の目標が達成できたと考えた。

さらに、本実践授業の定着状況を把握するために、本授業の3か月後に実施した定期試験の 問題に課題3と同様な問題を出し、その結果についても上記の評価基準を用いて検証した。定 期試験の問題は、蛍光灯、本、純子さん、花を図示した上で(図6)、「蛍光灯の光で本が見え るときの光の道筋を図に書き入れなさい」という問題である。ただし、定期試験を受験した生

図6 定期テストに出題した問題の図

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 課題3の予想の結果

課題3における AA~D評価の生徒の割合と解答例を図7に示す。AA と評価できた図は34.0%、

Aと評価できた図は48.6%であり、 本授業の目標が達成できた生徒は82.6%となった。一方、

B評価である2つの光の道筋は書けていたが光の方向が示せていなかった生徒は9.7%、C評価 である物体から目に向かう光、あるいは光源から物体に当たる光だけしか書けていなかった生 徒は7.6%であった。D評価と無回答の生徒はいなかった。ただし、本授業の課題1で図1の予 想を立てた一人の生徒は課題3で AA 評価となった。

5.定期試験の結果

定期試験における AA~D評価の生徒の割合と解答例を図8に示す。定期試験の結果では、

AA 評価が71.0%、A評価が18.0%で本授業の目標が達成されていると判断できる生徒は88.9%

であった。一方、B評価の生徒が7.2%でC評価、D評価の生徒はいなかった。また、無回答の 生徒が0.3%いた。 ただし、 誤って本ではなく花が見える光の道筋を書いた生徒が3.9%いたの

図7 課題3の予想の評価の割合

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で、これをE評価とした。

6.考 察

本授業の結果、今回の目標が達成できた生徒の割合(AA 評価+A評価)は82.6%であった

(図7)。この結果は、教員が考え方を示して習得させたものではなく、結びつける教材(図3)

を用いて生徒たちが主体的に導いたものである。その意味において、この教材の効果がこの数 値に表れているといえよう。これは、光を発していない物体が見えないことを確認した上で、

結びつける教材の窓を開けて光を当てるとその物体が見えることを確認することを通して、外 から入ってきた光が物体の見える原因であることを体感的に理解させたとともに、その光が長 い筒を通って目に届くことを印象付けていることから、直線状に進んでくることも体感的に理 解できたものだと考えられる。ただし、AA 評価の生徒が34.0%しかいないことからすれば、

蛍光灯から出て本に当たる光が反射して目に届く光となったことを認識させるには結びつける 教材は不十分であったといえよう。光源から物体に当たる光を限定し、その光を遮ると物体が 見えなくなることなどを経験させることができれば、光源から出て物体に当たった光そのもの が目に届いているという認識をもたせられたかもしれない。今後の改善が必要であろう。

一方、B評価の生徒が9.7%いたが、これらは光源から出て物体に当たる光と物体から出て目 に届く光を直線で表すことができていたが、光の進行方向が書けていなかった(図7)。 この ような図は、目が光を受け取って初めて物体を認識できることが十分に理解できていなかった ことを表していると考えられるが、これこそが見ることと光の性質が結びついていないことを

図8 定期テストの生徒の評価の割合

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どちらかしか書けていない(図7)。このような予想をした生徒は、 今回の結びつける教材が まったく機能しなかったと考えられる。結びつける教材の窓を開けることで、どこから届いた 光が、どこに当たったことで見えるようになったかを一つずつ考えさせる必要があったであろ う。

これらの結果を踏まえれば、本教材の大きさの問題と班での生徒の交流を意識して班に一つ の教材を用意したが、可能であれば一人一つの教材を用意することができれば、より生徒の理 解が深まったと考えられる。実際に4人班に一つの教材だと、理科の興味・関心が高い生徒や 大きな声で発言したりする生徒がその教材を使っている時間が長くなっていた。また、班での 意見交換によって自分は分かったように思っていたが、実際には理解できていなかった生徒が いたと考えられる。以上からすれば、ゆっくりと自分のペースで理解できるように一人一つの 教材が用意できればさらによかったと考えられるとともに、物体に当たる光を限定的に取り入 れる工夫が今後の課題であると言えよう。

最後に、本学習の定着状況を定期試験の結果から推測してみる。本授業後に反射を学習して いることから、AA 評価の生徒が大きく増大していることがわかる。また、A評価を含めると ほぼ90%となる。反対に目標に到達できなかったと考えられる生徒は、E評価の生徒の考え方 は理解できていると考えれば、B評価の生徒(7.2%)と無解答(0.3%)だけであった。この 結果からすれば、学習内容の定着状況は高いと推測できるが、比較するデータがないことから 十分に言い切れる結論とはいえない。

7.おわりに

「見える」という生徒の身近な体験を大切にした授業を光分野の導入で行うことで、それが、

直進や反射などといった「光の性質」を使って理解し、説明することができるようになったと 感じている。やはり「見える」という生徒の身近な体験と「光の性質」とを結びつけることを 意識することで、学習内容を人生や社会の在り方と結び付けて深く理解することにつなげられ たと感じた。今後は、同様に「聞こえる」、「触れたものが分かる」などの別の体験と現象を繋 げられる実践も行っていきたい。

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最後に、大学院時代に行っていた研究が教職12年目になる今年、このような形で繋がりまと められたことにより、これまでの教員人生で一貫性をもって取り組めたと感じることができた ことがうれしく思う。

引用文献

1)IEA 国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)2019 2)OECD 生徒の学習到達度調査(PISA)2018 3)科学技術に関する意識調査(文部科学省)2001

4)奥田雅史 藤田利光 宮永健史「日・英の中学校理科教材の比較―光の単元―」pp.320

326,物理教育,第56巻第4号,2008

5)中学校学習指導要領解説理科編(文部科学省)2018

6)新編「新しい科学1年」岡村定矩・藤嶋昭ほか49名(東京書籍株式会社)2016

参照

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