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Vol.66 , No.2(2018)074清水 晶子「ジャイナ教徒のゴートラの神と祭祀に関して――パンジャブの白衣派尊像崇拝派を例として――」

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Academic year: 2021

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(1)

ジャイナ教徒のゴートラの神と祭祀に関して

―パンジャブの白衣派尊像崇拝派を例として―

清 水 晶 子

1.

 はじめに

パンジャブの白衣派に属するジャイナ教徒の大多数が,歴史のある時期にラー ジャスターンから移住してきた人々を祖先とする.移住してきた人々の大半はオ スワール(Osvāl)と呼ばれる商業カーストに属し,サブカーストと呼ばれるゴー トラ(gotra, 系族)を単位として,一族あるいは家族によるジャイナ教徒の移住が 行われた.定住した地域は広範囲で現在のアフガニスタンの国境地帯の町まで及 び,ゴートラごとによる居住地域の分布が見られる,移住してきたジャイナ教徒 は,パキスタン,パンジャブのそれぞれの都市や町にコミュニティーを形成し寺 院を建立した. 小稿では,2017年4月にデリーとルディアーナにおいて実施したフィールド ワークにより得られたデータに基づいて,パンジャブの白衣派の信徒組織Śrī

Ātmānanda Jain Sabhā(Tapā Gaccha)に帰属する人々のゴートラに焦点を当てて,

移住地,ゴートラの神(kula deva/devī)と祭祀に関して検討したいと思う. 2.

 ゴートラと移住の歴史―パンジャブの白衣派の例

パンジャブのオスワール・カーストに属する白衣派のジャイナ教徒(多数派の スターナカワーシー派,尊像崇拝派,テーラパント派)は,一説によればラージャス ターンのオシア(Osia)に起源があると言われる.さまざまの時期に,グジュラ ンワーラ,ラホール,ラワルピンディー,ムルタンをはじめとして,空衣派の信 徒に比べて広範囲にわたり移動している1) グジュランワーラは,分離独立以前のパキスタンにおける尊像崇拝派の拠点で あり,300の白衣派の信徒の家族のうち,225の尊像崇拝派,75のスターナカ

ワーシー派の家族が住み,Duggaṛ, Baraṛ, Lohṛā, Jakh, Muhnānī, Līgā, Tripankhiyā, Pārakh, Gadhiyāに属するゴートラの家族が居住していたとされる(Duggar 1979:

(2)

245). アフガニスタンとの国境地帯の町,バンヌ,コーハットには,Kharatara Gaccha に属するVaidとSaurāṇāゴートラに属する信徒がジャイサルメール近郊の町から 移住し,バンヌでは1917年に10–12の家族により尊像崇拝派の寺院が建設された (Duggar 1979: 242–3). 現在,インド・パンジャブ州の尊像崇拝派が多く住む都市として,アムリット サル,ジャランダル,ホシヤールプル,チャンディーガル,ルディアーナが挙げ られる.白衣派尊像崇拝派の拠点は,繊維・機械産業を主産地とするルディアー ナ(人口162万人,2011 Census)にあり,信徒には伝統的な商業活動に従事する者よ り,綿・ウールを中心とする繊維製品製造の工場経営者が大半を占める.ルディ アーナは,分離独立以前には五つのゴートラ(Gadhiyā, Pātṇī, Vaid, Līgā, Baṃb)に

属する約100のジャイナ教徒の家族が住むほどの都市であったが,分離独立後,

パキスタンから逃れてきたジャイナ教徒が多く定住するようになった.現在, 尊像崇拝派の信徒は,約4,500家族(12,000–15,000人)がŚrī Ātmānanda Jain Sabhā, Ludhianaに所属し,北部インドで最大数の信徒を有し,その組織は特別にŚrī Sanghaと呼ばれている.このうちGadhiyāゴートラの家族がおおよそ1,000世帯

に上り,ルディアーナで最大のグループとなっている2)

デリーには見られないが,パンジャブ州に住む信徒の間では比較的多く認めら

れたゴートラ(Tateḍ, Mehmī, Prachī等)や特定の地域に住むゴートラの一族・家族

(ジーラのNaulakhā,パティアラのSarafの例等)を分析すると,人々の移住は広範囲

にわたり,ゴートラと居住地域は密接に関係しているように思われる3)

3.

 パンジャブのゴートラの神

一般にゴートラの神として,ラージャスターンにおけるオスワール・カースト

のゴートラには,それぞれ名称を持つkula devīが一人か,あるいはkula devaと

kula devīの両方の神が存在する(kula devaのみのゴートラは確認されていない),これ に比べて,パンジャブのオスワール・カーストのゴートラの神にはいくつかの特

徴が見られる4).大半のゴートラは祖先を神としてkula deva/devīと見なして崇拝

している.単に親族関係の名称を用いた(1)dādī(父方の祖母)あるいは,bābā

(男性の先祖),または双方をゴートラの神とする例がある.さらに,(2)固有名詞

を持つゴートラのグループもある.Nāharの場合,Cāī, Ammā, Bīnī-Śabīnīと呼ばれ

(3)

名前は知られているが,伝説・由来に関するものは伝えられていない.(3)パン ジャブに特有の例としては,子供の頃に不慮の事故に遭遇し死亡した男性をbābā として供養するゴートラ(LohṛāとBaraṛ)や,ムガルの軍隊と戦って一族を守った 夫妻がDādā Kālu, Dādī Viroとして祀られているゴートラ(Bhābhū)等がある.この 場合,死者は悪霊となることなく,一族の守護者(guardian)としての神となる5) ゴートラの神が祀られている聖地は,samādhiあるいはṭomrīと呼ばれ,それ ぞれのゴートラで異なる,一方で,samādhi/ṭomrīを持たないゴートラも多くあ る.Vaidは地域で信仰されているkṣetrapālaを一族の神とし,ジャイサルメール にある祠を聖地とする.Baraṛゴートラは,本来グジュランワーラ近郊のパプ

ナーカに,若くしてkula devaとなったBābā Gajja Jīが亡くなった地にsamādhiが

建てられていたが,分離独立後にルディアーナに新たなṭomrīが建立された.

さらに,G. T. Road沿いにあるŚrī Ātmānanda Jain Sabhāの拠点であるVallabha Smārakの宗教複合施設の近くにもデリーの信徒の便宜を図り,Bābā Gajja Jīの

ṭomrīが建設されている.Lohṛāゴートラについても同様に,Bābā Vairā Jīが旅の

途中で殺害されたラホール―アムリットサルを結ぶ道路沿いにsamādhiがある.

ホシヤールプルの近郊に位置するダーディーコーティーと呼ばれている土地に は,Gadhiyā, Nāhar, Mehmī, Bhābhū等のゴートラの聖地(tīrtha)として,それぞれ

samādhiあるいはṭomrīが建立されている. 4.

 ゴートラの神への祭祀

信徒個人が寺院あるいは家庭において,ジャイナ教の宗教儀礼を実行する場 合,信徒の支持する修行者教団(samudāya)の作成したテキスト・儀軌に従って 行われる.一方,kula deva/devīに対する祭祀・儀礼そのものは多くの場合シンプ ルであるが,ゴートラ毎に決められた儀軌(日時,作法,供物等)は詳細で,バラ エティーに富んでいる. ゴートラの神に対する祭祀の主なものは,日常,季節,一年,通過儀礼 (saṃskāra),特別の祈願の場合において行われる.ただし,ゴートラにより上記 の祭祀・儀礼に関しては全てが実行されるわけではない. 日々の祈り―毎朝個人が,沐浴を済ませた後,自宅に設置された祭壇(house

shrine)の前に立ち,洗って清めたコインを一つ手に持ち,Namaskāra Mantraの後 に短い祈りの言葉(jay dādī jī kī, jay bābā jī kī, Bābā Gajja Jī kī jay等)を唱え,コイン ボックスにお金を納めて,家族の安寧・繁栄を祈る.

(4)

季節の祭祀の代表的なものとして,一年に二回,春(Caitra, 3–4月)と秋(Āśvin, 9–10月)の時期にNavarātrī 6)があり,家長が中心として一家で儀礼を行う.日時

に関しては,ゴートラにより異なる.ゴートラの神に対しては,春には小麦のパ

ン(roti),秋には米(cāvala)が供物(prasāda)と共に捧げられる.それぞれのゴー

トラにおいて,供物としてはlaḍḍū, halvā, balfīといった異なる菓子が供えられ

る. 定期的に一族で集合して祭祀を行うゴートラもある,ダーディーコーティーで は,年に一度vārṣik utsavaと呼ばれる大祭があり,北インドに住むそれぞれの ゴートラに属する人々が集まり,霊 を礼拝する(Nāhar, Bhābhū等).デリーでは, ゴートラによっては,三カ月毎(MuhnānīやVaid等)などと日時を決めて定期的に 地域に住む一族が,ジャイナ教寺院に付属する会堂(upāśraya)やメンバーの自宅 等において祭祀を行う. 通過儀礼の中で信徒にとって最も重要な祭祀としては,結婚に関する儀礼と剃 髪式(muṇḍana)が挙げられる.それぞれの儀礼はゴートラ毎にrīti-rivāj(作法と習 慣)として規定されている.婚姻の儀式は,ヒンドゥー教のパンディットにより 執り行われるが,ゴートラの神に対しては,婚礼の前後の期間にわたり花嫁・花 婿それぞれの自宅で,家族・親族により諸種の儀式が行われる.結婚後に,カッ プルがsmādhi/ṭomrīを参拝することも重要な行事とするゴートラもある. 剃髪式は男児のみに行われ,一般的に3度目のダセラ(Daśaharā)を迎えた後に 行われる場合が多いが,誕生後40日以内に(Lohṛā)と定められたゴートラもあ る.剃髪式の行われる場所はゴートラ毎にsmādhi/ṭomrī, 自宅等とされている 例や,あるいは規定された場所がないために会堂やパーティー会場等が使用さ

れる例もある.Kharatara Gacchaに帰属するゴートラの中には,Dādā baṛī祠堂

(Kharatara Gacchaの4人の僧[Dādā guru]の崇拝所)において剃髪式を行う.Kharatara Gacchaに属していても,Vaidゴートラは祖先の地にあるkśetrapālaの祠のある ジャイサルメールで行う. 特別の場合として,家の新築や人々が町を離れて旅行(yātra)する際には,家 族が自宅でゴートラの神に供物を捧げて加護を祈願する祭祀が行われる. 5.

 おわりに

ゴートラはジャイナ教徒が属する社会組織の最小の単位である.パンジャブの ジャイナ教徒の特徴として,大半のオスワール・カーストに属する白衣派の信徒

(5)

は,父祖の地,ラージャスターンを離れ,移住と定住を繰り返しながら.帰属する 集団の社会的文化的伝統を維持しつつも,新天地においてはさまざまな外的要素 を受容して行ったと考えられる.パンジャブにおいては独自に祖先がゴートラの神 として崇拝されるようになり,ゴートラごとに異なる祭祀・儀礼が行われている. 一方で,宗教的には修行者集団との関係を通して,ジャイナ教徒としてのアイ デンティティーを確認していったと考えられる.パンジャブにおける白衣派尊像

崇拝派は,Śrī Ātmānanda Jain Sabhāのもとに一つの組織として纏まり,オスワー

ル・カーストという枠組みの中で,同Sabhāの中にはKharatara Gacchaやスターナ

カワーシー派の若干のグループが含まれている.信徒の構成が多様で独自の様相

を示していても,パンジャブの尊像崇拝派の信徒はŚrī Ātmānanda Jain Sabhāを母

体として,異なる支派の信徒も包摂して一つの組織としての機能を果たしている. 1)パキスタン,パンジャブにおけるジャイナ教徒の居住地に関して,Singh(2011: 109–

113),Duggaṛ(1979: 227–252)を参照.

2)ルディアーナの尊像崇拝派に関する情報は,Śrī Ātmānanda Jain Sabhā, Ludhianaの前

Secretary-General, Sikander Jain氏による.

3)パンジャブ州の各都市におけるオスワール・カーストの分布に関して,Ravinder Jain

氏,マレールコトラにデータの提供をいただいた.

4)パンジャブの農村において,一族が移住により,独立したカーストや慣習を新しく生 み出す例を紹介している(Hershman 1981: 88–90).

5)Babb(1996: 165)には悪霊となったdescesed kinpersonがジャイナ教の僧に宥められて

vyantara(精霊)となった例が挙げられているが,Ibbetson(1919: 200)によると,sainted deadとして一族の守護者となった例(Bābā Gajju jī)を紹介している.

6)ヒンドゥー教のNavarātrīに関しては,パンジャブにおけるDevīの祭祀としてErndl

(1993: 119)を,ラージプットのNavarātrīについては,Babb(1996: 144)を参照. 〈参考文献〉

Babb, Lawrence A. 1996. Absent Lord. Berkeley and Los Angeles: University of California Press. Duggaṛ, Hīrālāl. 1979. Madhya Eśiyā aur Pañjāb me Jain Dharma. Dillī: Jain Prācīn Sahitya Prakaśān

Mandir.

Erndl, Kathleen M. 1993. Victory to the Mother: The Hindu Goddess of Northwest India in Myth, Ritual

and Symbol. New York: Oxford University Press.

Hershman, Paul. 1981. Punjabi Kinship and Marriage. Delhi: Hindustan Publishing.

Ibbetson, Densil. 1919. A Glossary of the Tribes and Castes of the Punjab and North-West Frontier

Provinces. Vol. I. Lahore: Superintendent Government Printing.

Singh, Pradyumna Shah. 2011. Jainism in Punjab. Patiala: Publication Bureau Punjabi University.

〈キーワード〉 パンジャブ,オスワール,ゴートラ,dādī/bābā,祭祀

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