1.論文の構成 序章 第 1 節 研究背景•問題提起 第 2 節 研究目的•研究対象 第 3 節 研究方法 第 4 節 先行研究の検討 第 5 節 本論文の構成 第1 章 中国政府による「中外合作弁学」の設置基準と 質保証政策 第1 節 「中外合作弁学」の定義及び分類 第2 節 「中外合作弁学」の政策的変遷 第3 節「中外合作弁学」に対する監督体制の現在 第4 節 「中外合作弁学」に対する質保証体制の現在 第2 章 黒龍江省におけるロシアとの教育協力の現状と 発展 第1 節 中国とロシア両政府間の教育協力関係 第2 節 ロシアの高等教育と「中外合作弁学」に関す る政策 第3 節 中国全体における「中外合作弁学」の現状 第4 節 黒龍江省と極東ロシアの教育協力関係の発展 第3 章 黒龍江省の大学における「中外合作弁学」の現 状と課題 第1 節 黒龍江省における「中外合作弁学」の展開 第2 節 黒龍江省における「中外合作弁学」の分類と 実態 第3 節 黒龍江省における「中外合作弁学」の政府に よる監督管理体制 第4 節 黒龍江省における「中外合作弁学」の直面す る課題 第4 章 黒龍江省の大学における「中外合作弁学」の実 態調査 第 1 節 調査の目的と対象 第 2 節 調査内容 第 3 節 まとめと分析 終章 第 1 節 まとめ• 結論 第 2 節 日本はどう関与しているのか 2.論文の概要 〈序章〉 中国では、WTO に加盟後、教育の海外進出を展開し、 トランスナショナル教育プログラムの開発が進められて いる。トランスナショナル教育は、中国語で「中外合作 弁学」と称される。なお、教育渉外監管信息網が公表さ れたデータによると、2015 年 5 月 5 日までに、黒竜江 省の国務院学位委員会から認定された中外合作弁学は 176 件であり、全国における 911 件のうちの 18.7%を占 め、北京、上海を抜いて第一位である。数字から見れば、 中外合作弁学の発展には黒竜江省が重要な役割を果たし ていることが分かる。中国東北部に位置し、経済成長は 全国平均レベルである黒龍江省における中外合作弁学は どのように発展してきたのか、その展開過程の中にどの ような課題を抱えているのか、今後の発展方向はどうな るかについて考えることにしたい。 そこで、本研究では中国黒龍江省の大学における極東 ロシアと協力運営し、かつ既存している学校において設 置された学部プログラムを研究対象とし、その展開過程 を明らかにする。具体的に言えば主に3 つの重点課題が ある。第一に、中国の中外合作弁学の歴史を概観したう えで、黒竜江省と極東ロシアの大学における中外合作弁 学の政策的プロセスを解明する。第二に、中国政府から 認定された170 件のプログラムの中で、事例研究を行う。
中国黒龍江省の大学と極東ロシアにおける「中外合作弁学」の
展開過程に関する研究
キーワード:黒龍江省,極東ロシア,中外合作弁学,展開過程,政策 所 属 教育システム専攻 氏 名 于 洋資料を整理した上で分析し、具体的に募集条件、専門の 設置、カリキュラムと教科書、授業形態、学校による監 督管理の方面から実態について考察する。第三に、黒竜 江省と極東ロシア両政府は発布した高等教育の連携に関 する政策文献を収集して考察しながら、中外合作弁学の 発展動向と課題を提示する。 研究方法については、文献研究という方法に加え、現 地調査の方法を用いる。 まずは、公的文書の分析である。中央政府による「中 外合作弁学」の政策を解明するため、国務院及び教育部 が発布した公的文章を中心として分析する。黒龍江省政 府による「中外合作弁学」の政策を検討するため、2009 年 5 月に発布した「中外合作弁学機構の不法行為に対す る処罰制度」、「学部レベル以上の中外合作弁学の教学に 対する評価制度」を中心として分析する。また極東ロシア の関連文献を整理する。 その次、黒龍江省の大学における中外合作弁学の事例 研究を行う。即ち黒龍江省の大学を訪問し、関連資料を 収集する。プログラムの設置目的、達成目標、運営特徴 等の項目について分析し、発展の実態と課題を明らかに する。調査対象は黒竜江大学中俄学院とハルビン師範大 学である。 〈第1 章〉 第1 章では、中国政府による中外合作弁学の設置基準 と質保証政策について論じた。まず、中外合作弁学の定 義を明確にした。中外合作弁学とは、外国の教育機関が 中国の教育機関と中国大陸部において中国公民を主要な 募集対象とした教育機関や教育プログラムを共同に運営 することである。中外合作弁学は公益性事業であり、中 国の教育事業を構成する一部であると位置づけている。 そして学校の種類、証書の種類、協力モデルという3 つ の基準に基づき分類することができる。 1978 年改革開放の初期、中国は全国統一の大学入試制 度が回復されて以降、中国の優秀な大学が高等教育を立 て直すと同時に、様々な形式での中外合作弁学や交流活 動を模索してきた。1986 年に、アメリカの Johns Hopkins University が南京大学と共同運営で設置され た「中米センター」が中外合作弁学の最初の機関といわ れる。1978 年から現在までに中外合作弁学に関する政策 的な背景を解明するため、重要な管理規定の発布時間を 区切りとして5 つの段階に分けて説明した。それぞれの 時期は「政策の萌芽段階」「政策の初期形成段階」、「政策 の規範的発展の段階」「政策の法制化段階」、「政策の充実 と整備の段階」という5 つの発展階段である。 第 3 節では、中外合作弁学に対する監督体制を検討し た。中央政府は審査基準と手順、許可登録、年間点検、 再審査、インターネットによる監督と発信などの措置を 取り入れた。 そして質保証体制については、「中外合作弁学条例」に よると、教育行政部門、中外合作弁学自体と社会業界は 共に中外合作弁学に対する質保証の主体となり、それぞ れの役割を果たしている。政府は、中外合作弁学に対す る管理が多部門との協力により行われるものである。政 府のマクロ管理に基づき、各地方がそれぞれの実情に応 じて対応することは、質保証体制を構築するための前提 である。また、中央政府は UNESCO と OECD の規定 に基づき、6 つの面から中外合作弁学の質に対する評価 指標を定めた。それぞれの評価指標の下、29 の二級指標 と三級指標を明確に規定した。このフレームワークの構 築によって、中外合作弁学の質向上に科学的な根拠を提 供し、中外合作弁学の内部質保証と政府による評価に大 きな役割を果たしている。 〈第2 章〉 中国とロシアの教育協力における黒竜江省の位置付け を明らかにした。まず、中国とロシア両政府間の教育協 力関係を説明した。ロシア革命、第二次世界大戦、文化 大革命とソ連解体は4 つの大事件として両国の教育交流 に大きな影響を与えた。分析の結果から見ると、1980 年代までに、中国とロシアの教育交流は主に政府の指示 により発展してきたが、政治的な意図は強く、1980 年代 以来両国の大学間は協定を結び、さらに教育協力関係を 深めることにより、両国の経済を発展する意欲が強まっ たことを明らかにした。 黒龍江省は、中国とロシアの教育交流に大きな役割を 果たしている。中外合作弁学の展開だけではなく、大学 間の言語交流、大学フォーラムの開設、芸術祭などの民 間的な文化交流が盛んに行われている。その理由につい ては、地理的、歴史的、経済的な面から分析した。地理 的には、黒竜江省は中国の東北部に位置し、ロシアと隣 接し、中ロ国境線の7 割以上を持っている。歴史的には、 1950 年に黒龍江省の東北農業大学が率先して「ロシア語 研究班」を開設し、大量のロシア語人材を育成した。経 済的には、黒龍江省の対ロシア貿易額は、中国全国の四 分の一を占め、ロシア貿易において長期にわたって中国 の全地域の中のトップを維持している。そして、中外合 作弁学の分布から見ると、黒龍江省は、中外合作弁学が 最も集中した省であり、全国の16%を占め。そのうちロ シアと協力しているものは全国の60%を占めている。
また、ロシアにおける高等教育の歴史と現状について 紹介し、ロシア政府が発布した高等教育に関する政策を 整理した。特に、教育分野における国際協力は、大学ま た他の教育機関と個人は直接に関係を定める権利を有し、 教育の対外経済活動は政府による制限が少ないことを明 らかにした。 〈第3 章〉 第3 章では、黒竜江省の大学における中外合作弁学の 現状と課題について検討した。まず、黒龍江省における 中外合作弁学が実際に採用している協力モデルと学校運 営モデルを明らかにした。また、黒龍江省における中外 合作弁学の全体的な状況を把握した。専攻の設置は工学 に集中し、その他、文学管理学などの文科系の専攻が主 流である。地域分布から見ると、ほぼ経済がより発展し ている都市に分布、教育の開放レベルは経済の発展状況 と密接に関連していることは明らかである。そして、各 都市における極東ロシアと協力する中外合作弁学の割合 は、綏化、大慶、黒河など辺鄙な都市の方が高く、それ ぞれの理由は異なると考えられる。エネルギー資源の共 同開発、対外貿易の依存と民間交流の拡大に強く影響さ れる。 そして、黒龍江省政府は中央政府が発布した法律規定 に基づき、黒竜江省自体の発展状況に応じて独特な監督 管理方法を取り入れている。2009 年 9 月 4 日に、黒竜 江省教育庁は、中外合作弁学の規則違反行為に対す処罰 制度を設けた。処罰の手順として主に立案、取調、告知 と公聴、審議と決定、書類の作成と送達、執行、ファイ リング、結果の公告という8 つの部分からなり、それぞ れの業務内容を明確にした。また、大学における中外合 作弁学をさらに規範化するため、法律規定と中外合作弁 学の質的評価に関するフレームワークに基づき、黒竜江 省政府は教育の質問題に重点を置き、中外合作弁学の教 学に対する評価制度を設けた。大きく教育理念と改革、 教育教学体系という2 つ面から 5 つの二級指標と 16 つ の三級指標を制定した。 黒龍江省の中外合作弁学の現状について分析した結果 から見れば、現在は質の問題、評価の問題、監督管理の 問題と教育主権の問題が直面している。特に、教育の質 問題と評価の問題は際立っている。 弁学レベルと学歴レベルは低く、専攻の設置は大学の独 自性を生かして設けられた特色のある専門科目は少なく、 大学側の教育資源の改善という目的が果たせていない。 専攻の構成から見ると、低水準で重複が多いという問題 は効果的に抑制されたものの、専攻の分布が過度に集中 し、バランスを欠いている。また地域の分布は不均衡で あり、省都以外に大慶、チチハルなどの都市にも設置さ れたが、多くの都市には中外合作弁学はない。外国籍の 教員グループも不安定であり、ほぼ外国語科目を担当し、 専門科目を教える教員は極めて少ない。カリキュラムと 教材の導入にも規範が足りず、ロシアの単位体制をその まま持ってきて教育管理を行っている学校もあり、黒龍 江省と極東ロシアの合体した独特な教育効果は十分に発 揮できないと考えられる。 黒龍江省の中外合作弁学はすでに 20 年の歴史を持って いるが、評価業務はまだ初級段階にある。評価の方針が 画一的であり、一つの評価方針で全ての学校を評価する ことは確かに妥当性を欠くという問題を抱えているので ある。また評価の主体が単一的であり、社会、特に雇用 側の参加はほとんどない。そのため、社会各界の意見と 要望を評価過程に反映することは困難となり、評価はわ ずかに政府部門と大学の両者の間に行われるものになる。 単一の評価主体、単一の基準から単一の評価結論が導き 出されるではないかと考える。 〈第4 章〉 黒竜江省における中外合作弁学の実態を考察し、極東 ロシアの大学との展開状況を把握するために、現地調査 を行った。調査対象としたのは黒竜江省の中外合作弁学 の協力モデルに代表される中外合作弁学二級学院(黒竜 江大学中俄学院-極東ロシア国立大学)と中外合作弁学 プログラム(ハルビン師範大学-極東ロシア国立人文大 学)という主要な 2 種類がある。まず、大学側の中外合作 弁学に関わる基本状況、教育方針や管理制度を概観し、 いかに成立したのか、運営されているのかを明確にし、 その現状を整理する。また、この2 つの中外合作弁学を 比較しながら、発展の特徴を整理し、中外合作弁学を展 開する意義や示唆を検討した。 調査項目は、協力経緯、設置目的、達成目標、運営特 徴、専攻設置、カリキュラム、育成モデル、使用言語、 教員構成、授業料と奨学金、学位授与である。分析の結 果から見ると、黒竜江大学中俄学院-極東ロシア国立大 学、ハルビン師範大学-極東ロシア国立人文大学協力プ ログラムは教育内容にしても、運営体制にしても、それ ぞれ異なった方式で展開されている。中外合作弁の性格 を左右する要素については、次の3 点にまとめることが できる。 第一に、スターターの違いがプログラムの特徴を方向 づける。大学間で協力プログラムを設置するにあたり、 必ず積極的に提案するスターターが存在している。スタ
ーターの違いは、そのプログラムの目的、運営体制、合 作程度などに反映されている。第二に、在籍する対象者 の違いによりプログラムの特徴が決められる。黒竜江大 学中俄学院の募集対象は、ロシア人学生も中国人学生も 含めており、「双方向的な性格」をもっているが、ハルビ ン師範大学-極東ロシア国立人文大学協力プログラムは 中国 人学生を主なる対象にして設計されたものである ため、「一方向的」に展開されていると考えられる。第三 に、奨学金の有無がプログラムの展開に影響を与えてい る。外国の大学が優秀な中国人留学生を惹き付ける場合、 奨学金の有無がその結果に大きな影響を与える。黒竜江 大学中俄学院-極東ロシア国立大学は、極東国立大学が 手厚い奨学金を提供しているため、中国人学生にとって 非常に魅力的なプログラムとなっており、「2015 年に入 学した学生の質はより優秀になった」という成果も大学 担当者から指摘されている。それと対照的に、ハルビン 師範大学-極東ロシア国立人文大学協力プログラムにお いては、中国側大学の授業料の 20 倍に相当する極東国 立人文大学の授業料が多くの中国人学生にとって極めて 大きな負担になり、奨学金枠が少ないため、優秀な学生 を送り出す「ネック」が存在していると言われている。 黒龍江省は、極東ロシアと中外合作弁学を協力するの は、高等教育の国際化を実現し、優れた教育資源を導入 することにより大学運営の改革が政府に期待されること、 ロシア語授業や共同研究、 国際的カリキュラム等学問的 なメリットを教員と学生に与えること、そして外資の導 入、プログラムの学費収入等の財政的メリット等、大学 に強く影響を与えると考えられる。大学にとって財政的 メリットは最も魅力的なものであると思われる。政府、 大学と学生の間にズレが生じ、この傾向が広がっていく と、教育の質を保証できるかどうかという課題が発生し、 様々な弊害を招く可能性があると考えられる。 〈終章〉 本論文では、中国の高等教育の国際協力は急速に発展 する背景の中で、黒竜江省大学における極東ロシアの大 学との中外合作弁学に着目し、その展開過程と実態につ いて考察した。 研究の結果としては、2 つの点が明らかになった。一 つ目は、黒龍江省における中外合作弁学の急発展は、両 国政府間の政策的に支援し、経済的な協力をさらに推進 し、大学間の教育交流を深め、両国の教育面において不 足を補い合うためである。黒竜江が極東ロシアと協力す る場合、地理的と歴史的な要因のほか、学生募集による 経済的な利益を目指し、共同で人材を育成することによ り、科学技術プロジェクトに貢献できるためである。ま た、現在極東ロシアでは学生の数は減少しつつあり、大 学の運営が困難になり、黒竜江省の学生を引きつけると いうことも要因の一つと考えられる。二つ目は、黒竜江 省における中外合作弁学の発展状況から見ると、普及ス ピードは速やかであるが、質保証は数の増加より遅れて いることである。その原因は政府、大学と学生の間にズ レが生じるため、国内において教育の質を向上すること は難しいと考えられる。 今後、黒竜江省の中外合作弁学は質保証を前提にした 上で、ますます柔軟かつ幅広くに展開されることを期待 している。また、協力相手はより多くの先進国とバラン スよく共同に教育を行うのが今後の発展方向である。 また、中国における中外合作弁学の拡大に対応するた め、日本の各大学においては、海外の大学との連携によ る国際的な教育プログラムの開発等の取組が進められて いる。平成26 年 11 月 14 日に、文部科学省は「大学設 置基準等の一部を改正する省令等の施行について(通 知)」を発布し、これは、中外合作弁学と関連する日本で 最初の政策である。中国の高等教育市場に進出するチャ ンスをいかにして獲得するのか、成熟しつつある中国高 等教育市場においていかにして日本の大学のブランド力 を打ち出すかということについて検討することが今後の 課題である。 〈主要参考文献〉 黄福涛 「中国における高等教育の国際戦略 -1990 年 代以降の国際化政策の展開を中心に」 『各国における 外国人学生の確保や外国の教育研究機関との連携体制構 築のための取組に関する調査報告書』 平成19 年 3 月 周嵐 「中国における中外合作弁学の現状分析−日本は どう関与すべきか−」 『教育情報研究』 第 26 卷 第 1号 2010 年 7 月 H.E.鲍列夫斯卡亚 B.N.鲍列辛柯夫 『20-21 世纪之交 中俄教育改革比较』 教育科学出版社 2006 年 8 月 林金辉 『高等教育中外合作办学研究』 广东高等教育 出版社 2010 年 7 月 杜鹃 「浅谈黑龙江省高校中俄合作办学中存在的问题及 对策」 『经济师 2013 年第 4 号 宗希云 「黑龙江省高校中外合作办学评估指标体系的研 究」 『教育探索』 2009 年第 9 号 王玥 孙立鹏 「中俄全面战略协作伙伴关系下的两国高等 教育交流与合作研究」 『黑龙江高教研究』 2015 年第 3 号