Ⅰ はじめに
スイス民事訴訟法は,スイス国内で26あった各カントン(州)民事訴訟法を
統一し,2008年12月に成立し,2011年より施行された統一民事訴訟法典である。
筆者らは,これまで早稲田大学比較法学誌上に「スイス統一民事訴訟法の概要
(1)~(6)」(早大比較法学51巻3号(2017),同52巻1号(2018),同2号,同3号
(2019),同53巻1号,同2号)とのタイトルで,この2011年のスイス民事訴訟法 について紹介してきた。比較法学誌上で概説したのは,通常の民事訴訟手続に ついてである。このスイス民事訴訟法が規定した通常手続以外のその他の手続
(特別手続)については,その紹介を残していた。本稿は,その特別手続につ
(1) 特別手続については,以下の文献を主に参照した。Spühler/Tenchio/In- fanger, Schweizerische Zivilprozessordnung, 3.Aufl. (2017), Oberhammer/
Domej/Haas (Hrsg.), Kurzkommentar Schweizerische Zivilprozessordnung, 2.Aufl. (2013), Christoph Leuenberger/Beatrice Uffer─Tobler, Schweizerisches Zivilprozessrecht, 2.Aufl. (2016), Baumgartner/Dolge/Markus/Spühler, Sch- weizerisches Zivilprozessrecht. 10 Aufl. (2018)(des von OSCAR VOGEL be-
松 村 和 德 吉 田 純 平
資 料
スイス民事訴訟法における特別手続( 1 )
Ⅰ はじめに
Ⅱ スイス民事訴訟手続の範囲と種類
Ⅲ 簡易手続(Vereinfachtes Verfahren)
Ⅳ 略式手続(Summarisches Verfahren)(以上,本号)
いての概要を紹介するものである(1)。
Ⅱ スイス民事訴訟手続の範囲と種類
スイス民事訴訟法における手続は,調停手続,通常訴訟手続,簡易手続
(Vereinfachtes Verfahren),略式手続(summarisches Verfahren),家事裁判手 続に分けられる。調停手続,通常訴訟手続については,すでに紹介した(2)。以 下では,それ以外の手続の概要について概説することにしたい。
Ⅲ 簡易手続(Vereinfachtes Verfahren)
( 1 )目的と特色
簡易手続は,従前多くの連邦法によって児童扶養法,賃貸借法,労働法及び 消費者法の一部などの領域で規定されていた(各州では不統一であった)「簡 易・迅速手続(einfache und rasche Verfahren)」の後継手続(3)で,スイス民訴 法第243条から第247条に規定されている。簡易手続は,統一的に独立したかつ 簡潔な手続としては規定していない。スイス民訴法1条から196条の総則規定 が簡易手続に適用され,かつ基本手続として通常訴訟手続の規定が尊重されね ばならない(スイス民訴219条)。すなわち,スイス民訴法では,すべての民事 訴訟において,原則として調停前置が採られるが,簡易手続でも,原則として 調停が先行する(スイス民訴197条以下が通常手続と同様に適用される)。住居及び 営業所の賃貸借についての事件,ならびに同等化法に基づく事件については,
特に中立に構成された調停機関によって処理されることが定められている(ス イス民訴200条)。また,簡易手続には,特別の規定がない限りで,通常手続に 関する諸規定が適用されるのは,上記のとおりである(スイス民訴219条)。 個々の特別な規定は,通常手続の簡易化に関するものであり,したがって,簡 易手続は,限定された形式を伴う手続で,多くは口頭のかつ迅速な手続であ
gründeten Werkes), Botschaft des Bundesrates zur Schweizerischen Zivilproz- essordnung vom 28.6.2006 (Botschaft ZPO), BBl 2006.などである。
(2) 調停手続については,早大比較法学51巻3号(2017)161頁以下で,通常手 続については,同52巻1号129頁,同52巻2号217頁,同52巻3号284頁,同53巻 1号202頁参参照。
(3) Botschaft ZPO, S.7346.
る(4)。通常手続との違い(詳細は後述)は,(ア)方式の簡略化(スイス民訴244 条)─口頭による訴え提起,訴状の記載内容の簡略化など─,(イ)手続期間 の短縮化(スイス民訴246条)─とくに,第一回期日での紛争解決が目指されてい る─,(ウ)事実関係の確定に際しての裁判所の協力の強化(スイス民訴247 条) ─裁判所の実体的訴訟指揮の強調,とくに裁判官の発問義務の拡張 ─,
(エ)第一審手続における広範な更新権(スイス民訴247条2項と関連して229条3 項),(オ)費用の軽減(スイス民訴113条以下)にある(5)。略式手続との相違は,
証拠制限も認識制限(Kognitionsbeschraenkungen)もない手続である点にあり,
それゆえ,その判決は完全な既判力を有するのである(6)。
簡易手続は,少額訴訟や社会的民事法に関連する訴訟であること(後述)か ら,特別の経済的かつ社会的手続として,次の特色を有する。まず,通常訴訟 では手続が重すぎる事件や社会的弱者たる当事者の特性から素人を配慮した手 続が要請される事件すべてにおいて適用される点である。そして,簡易手続で は,弁護士以外の特別に認められた補佐人や法的助言者が当事者の訴訟代理人 として認められている点である(7)。
( 2 )適用範囲
簡易手続は,二つの紛争類型を適用範囲とする。まずは,少額紛争である。
スイス民訴法243条1項は,すべての財産上の争訟で,訴額が30,000スイス=
フランまでの少額争訟に簡易手続が適用される旨を規定する。30,000スイス=
フランを超える訴額の争訟については,通常訴訟手続が適用されるのである。
もう一つは,訴額に関わらず,法律により社会政策上特別に考慮された事件が 適用対象となる(スイス民訴243条2項)。以下,詳論する。
(a)訴額が30,000スイス=フランまでの財産法上の争訟
簡易手続は,すべての財産法上の争訟で,訴額が30,000スイス=フランまで の事件に適用される(スイス民訴243条1項)。例えば,ここでいう財産法上の
(4) Leuenberger/Uffer─Tobler, a.a.O. (Fn.1), S.379.
(5) Spühler/Tenchio/Infanger, a.a.O. (Fn.1), S.1409 (Stephan Mazan)., Ober- hammer/Domej/Haas (Hrsg.), a.a.O. (Fn.1), S.1121. (Christian Fraefel)など 参照。
(6) Oberhammer/Domej/Haas (Hrsg.), a.a.O. (Fn.1),. S.1121. (Christian Frae- fel)参照。
(7) Baumgartner/Dolge/Markus/Spühler, a.a.O., S.335.参照。
争訟(8)には,債権,物権および相続法上の争訟が該当する。債権法上の争訟に 該当するものとしては,さらに,労働法上の争訟,賃貸借法上の争訟,消費者 法上の争訟,債権取立法及び破産法(SchKG)に基づく実体破産法上の訴え
(例えば,否認訴訟,相殺,順位訴訟)などがある。
(b)訴額を考慮しない,社会政策上の適用対象となる争訟
これらと並んで,スイス民訴法は,特定の事件については,訴額にかかわら ず,簡易手続において取り扱われるべきことを規定する(スイス民訴243条2 項)。このようなものとして,以下のものがある。
─対等化法に基づく事件
─民法(ZGB,以下「ZGB」)28b条による暴力,脅迫,つきまとい事件
─ 住居および営業所の賃貸借事件,ならびに農地の賃貸借事件(賃料の供託,濫用的 賃料,解約保護,または賃貸借関係の延長が問題となるかぎりで対象となる)
─情報保護に関する連邦法による情報要求権の実現のための事件
─ 協力法(Bundesgesetz über die Information und Mitsprache der Arbeitnehmerinnen und Arbeitnehmer in den Betrieben)に関する事件
─健康保険に関する連邦法に基づく社会健康保険への任意保険についての事件
─子供の利益のための非訟事件
簡易手続は,スイス民訴法5条及び8条により州が唯一の審級となる訴訟,
そして同6条による商事裁判所での訴訟には適用されない(スイス民訴243条3 項)。また,賃貸借法において簡易手続が指定されているときには,商事裁判 所の管轄は排除される(BGE129Ⅲ457)。
〔参考条文試訳〕
スイス民訴法第243条 適用範囲
1 簡易手続は,訴額が30,000スイス=フランまでの財産法上の争訟に適用され る。
(8) 財産法上の争訟という概念は,連邦裁判所法55条に基づき規定されてい る。訴訟物が財産法上であるか否かは,必ずしも明確ではないが,金銭債権 が訴求されている場合には,常に財産法上の争訟であるといえる。判例
(BGE118Ⅱ528)は,最終的にかつ主に財産的利益が追求されているか否か で判断しているとされる(Spühler/Tenchio/Infanger, a.a.O. (Fn.1), S.1414
(Stephan Mazan).)。
( 3 )調停手続および通常手続の原則的適用
簡易手続にも,原則として調停が先行して試みられる(調停前置)。住居及 び営業所の賃貸借についての事件,ならびに同等化法に基づく事件は,特に対 等に構成された調停機関が指定される(スイス民訴200条)。
簡易手続には,通常手続についての諸規定が,特に規定がない限り,準用さ れる(スイス民訴219条)。個々の特別な規定は,通常手続の簡易化に関するも のであり,したがって,簡易手続は,限定された方式を伴う,多くは口頭の,
そして迅速な手続である。
( 4 )特別な手続規定 1 訴え
簡易手続では,訴えの提起は,「簡易な」訴えの提起が認められている。訴 えは,書面でないし電子上で提起し,または口頭でなし,調書をとらせること でもできる(スイス民訴130条,同244条,同400条2項)(9)。内容的には,簡易な 訴状のみが要求される(10)。簡易な訴状に要求されるのは,以下の記載事項で
2 簡易手続は,次に掲げる争訟については,訴額に関係なく適用される。
a. 1995年3月24日の同等化法に基づく争訟
b. ZGB28b条に基づく暴力,脅迫,又はつきまといに基づく争訟
c. 住居および営業所の使用貸借および賃貸借,ならびに農業用地の賃貸借 の争訟で,賃料の供託,濫用的な賃料からの保護,解約からの保護,ま たは賃貸借関係の延長に関するもの
d. 情報保護に関する1992年6月19日の連邦法に基づく情報請求権に関する
争訟
e. 1993年12月17日の協力法に基づく争訟
f. 健康保険に関する1994年3月18日の連邦法による社会健康保険に対する 任意保険に基づく争訟
3 簡易手続は,第5条および第8条,並びに商法第6条に基づき州が唯一の
審級となる争訟には適用されない。
(9) 口頭による訴えの提起に際して,電話等では訴えを受け付けることはでき ず,また,無形式には受けることができない。Spühler/Tenchio/Infanger, a.a.O. (Fn.1), S.1421 (Stephan Mazan).
(10) 簡易な訴え提起は,素人(法律の専門家ではない者)に優しい方式である
ある(スイス民訴244条1項)。すなわち,
①当事者の表示,
②法的要求,
③訴訟物(争いの基礎となる生活関係の簡潔な記載)(11), ④訴額の必要な申告,及び
⑤日時および署名 である(12)。
しかし,特に,訴えの本来の意味での理由づけは,必要とされない(スイス 民訴244条2項)(13)。また,原告は,文書で理由づけられた訴状を,スイス民訴 法221条を類推して,提出することもできる。この場合,簡易手続は,通常の ものと同様に開始される(14)。
場合によっては,当事者が,訴訟物をある程度詳細に記載するべきか,それ とも当事者が理由づけられた訴えを提起すべきかが容易には判断されない場合 がある。そのような場合には,どちらかというと,訴訟物の記載を出発点とす るべきであるとされている(15)。なぜなら,そうでなければ,訴えは,すでに 完全に理由づけられたものとなるし,被告がこれにより答弁を要求されるから である。
訴状に添付するものとして,代理人がいる場合には,代理権の証明書を,訴 えの認可または調停手続を放棄する旨の説明文書,ならびに証拠方法として利
ことが重要な点であるとされた。Spühler/Tenchio/Infanger, a.a.O. (Fn.1), S.1421 (Stephan Mazan).
(11) たとえば「…の契約による残金の支払い」や,「…の時点からの賃金およ び休暇金」など。
(12) 通常手続における訴えの提起においては,スイス民訴法221条により,① 当事者あるいは代理人の表示,②法的要求,③訴額の明示,④事実の主張,
⑤主張事実のための個別の証拠方法の表示,及び日付及び署名である。
(13) 立法時の議会において,簡易な訴えの提起に理由付けを含めるべきかが議 論された。議会における少数意見は,「簡潔な理由づけ」及び「証拠方法の 表示」が含まれなければならない,と主張した。しかし,簡易手続について は形式的に簡素な訴え提起が重要な要素であるとして,訴訟物の表示のみで 足りるとされた。
(14) Botschaft ZPO, S. 7347.
(15) Christoph Leuenberger/Beatrice Uffer─Tobler, a.a.O. (Fn.1)., S.380.
用する文書を提出しなければならない。
2 審理
( 1 )口頭弁論
裁判所は,訴えが提起された場合には訴状を被告に送達し,同時に審理(主 要弁論期日)への呼出しを行う。その際に,原告は,訴えの理由づけを行わず,
訴えを提起した場合も,その訴えについて,口頭で理由づけをなすことができ る。他方,被告も,答弁を口頭でなすことができる。これに対して,原告の主 張がなされることで,再抗弁と再々抗弁が続くが,これらも口頭でなすことが できる。状況により必要とされるときは,裁判所は,書面交換を命じかつイン ストラクション審理を実施することができる(スイス民訴246条2項),つまり,
当事者には文書による再抗弁及び再々抗弁のための機会が与えられているので ある。
争われているのは,被告が主要弁論期日において欠席する場合に,裁判所は 事件をどう処理することができるかである。ここで問題となってくるのは,裁 判所が,スイス民訴法219条との関係で,同234条を依拠して,欠席判決を下す べきかどうかという点である。この点は,原告が欠席する場合にも該当してく
〔参考条文試訳〕
スイス民訴法第244条 簡易な訴え
1 訴えは,第130条による形式において提起することができ,又は口頭で裁判 所に対して調書をとらせることができる。訴状には,次に掲げる事項を記載 するものとする。
a. 当事者の表示 b. 法的要求 c. 訴訟物の表示
d. 必要な場合には訴額の申告 e. 日付及び署名
2 訴えの理由づけは,必要としない。
3 訴状に添付するものとして次に掲げるものを提出しなければならない。
a. 代理人がいる場合の代理権の証明文書
b. 訴えの許可又は調停手続を放棄したことの説明文書 c. 証拠方法として利用しようとする入手可能な文書
る。換言すれば,出席当事者の提出した文書と陳述に基づいて判決を下すべき かという問題である。しかし,スイス民訴法234条1項は,この場合には該当 せず,むしろ,口頭で理由づけられた訴えへの被告への最初の態度決定が問題 となることから,答弁が欠ける場合の規定(スイス民訴223条)が適用されるべ きであるとの見解がある(16)。そして,スイス民訴法223条は,被告が答弁をし ない場合に,猶予期間を伴った応答の機会を与える。これが,理由づけられて いない訴えを伴った簡易手続にも適用されるというのである。この呼出しによ っても被告がなお出席しない場合には,スイス民訴法234条1項の適用が認め られている(17)。
( 2 )書面審理
原告が,訴えを理由づけて提起した場合,訴状は,被告に対して書面による 意見表明のために送達される(スイス民訴245条2項)。そこでは,スイス民訴 法221条との関連で同222条に基づき,被告は原告の事実の主張を個別に認める かそれとも争うのかを説明しなければならず,また,裁判所は被告に対して答 弁を個別の争点もしくは法的要求に限定することを求めることができる(スイ ス民訴222条2,3項)。他方,簡易手続においては,例えば,原告の主張に対し て詳細な反論を欠くとか,主張に対しての詳細な証拠方法の説示を欠くよう な,不完全な意見表明についても,十分なものとされなければならない。被告
〔参考条文試訳〕
スイス民訴法第245条 審理及び意見表明のための呼出し
1 訴状に理由づけの記載がないときは,裁判所は,訴状を被告に送達し,同 時に,審理のために当事者を呼び出すものとする。
2 訴状に理由づけの記載があるときは,裁判所は,さしあたり被告のために,
書面による意見表明のための期間を設定する。
(16) Leuenberger/Uffer─Tobler, a.a.O. (Fn.1), S.380., Oberhammer/Domej/Haas
(Hrsg.), a.a.O. (Fn.1),. S.1136. (Christian Fraefel)
(17) Oberhammer/Domej/Haas (Hrsg.), a.a.O. (Fn.1),. S.1136. (Christian
Fraefel)参照。つまり,このことは,二度目の呼出しが行われる場合におい
ては,通常手続(スイス民訴219条)の類推適用を意味するとされる(Leuen- berger/Uffer─Tobler, a.a.O. (Fn.1), S.380.)。
の意見表明は,それでもなお,類推して答弁とみなされるのである(18)。 被告が答弁を提出しない場合,スイス民訴法223条1項(被告に短期間の猶予 を認める)の類推適用により猶予期間が設定される。そして,上記,欠席の場 合と同様の手続となるのである。その際,裁判所は,その懈怠の結果を指摘し なければならない。答弁が猶予期間の徒過後も提出されない場合,それによっ て,主要弁論期日がなくとも,事件が判決に熟しているときには,スイス民訴 法223条2項により,終局判決を下すことができる(19)。他方,裁判所が疑問を もつ場合には,弁論期日を定めなければならない(20)。
被告が,理由づけた答弁を提出する場合には,裁判所はスイス民訴法246条 2項に基づき,状況により必要とされるときは,二度目の書面交換を命じるこ とができる。しかし,通常,裁判所は,答弁の提出後,直接,当事者を主要弁 論期日に呼び出す。連邦裁判所は,理由づけられた答弁の提出の後も,スイス 民訴法219条に基づき,同245条及び同228条以下との関連で常に主要弁論期日 が行われなければならない旨の判断をした(21)。弁論期日の放棄は,両当事者 が共同でのみすることができる(22)。
( 3 )訴訟進行及びインストラクション手続
簡易手続における弁論は,特に証拠調べの関係で,訴訟事件を可能な限り最 初の期日で処理することができるように必要な処分をしなければならない(ス イス民訴246条1項)。このことは,簡易手続における事件は,最初の期日で可 能な限り解決することを目的としたものと言える(23)。そして,それは,法的 かつ事実関係が極め簡潔な場合で,かつ必要な証拠方法をすべて利用できる場 合のみ可能であるとされている(24)。しかし,旧民訴法においては,簡易手続 を一般に促進する規定はほとんどなかった。また,草案段階での期間の放棄や 1か月の答弁期間は規定されなかった。スイス民訴法において一般的訴訟促進
(18) Botschaft ZPO, S. 7348参照。
(19) この点については,一部争われているLeuenberger/Uffer─Tobler, a.a.O.
(Fn.1), S.381.参照。
(20) Leuenberger/Uffer─Tobler, a.a.O. (Fn.1), S.381, S.353.参照。
(21) BGE140Ⅲ450参照。
(22) Leuenberger/Uffer─Tobler, a.a.O. (Fn.1), S.381参照。
(23) Oberhammer/Domej/Haas (Hrsg.), a.a.O. (Fn.1),. S.1137. (Christian Fraefel)参照。
(24) Botschaft ZPO, S. 7348参照。
に寄与するのは,口頭主義,弁論への直接的呼出し(スイス民訴245条1項)並 びに実体的訴訟指揮の強化(スイス民訴247条1項)のみであるとされてい る(25)。もっとも,スイス民訴法246条1項にいう「必要な処分」が何を意味す るかは定かではない。裁判所は,手続の種類とは無関係に,訴訟の遂行と解決 の促進を配慮しなければならない。書面交換(スイス民訴246条2項)は,事実 関係が複雑な場合には必要的である。
したがって,簡易手続には二種類のバリエーションがあることになる。一つ は,純粋な口頭による手続であり(当事者呼出し,主要弁論期日),もう一つは,
書面による手続と口頭による手続をミックスさせた手続である(訴状,答弁書,
主要弁論期日)。訴訟過程は,個々の事案の必要性により柔軟に形成される。例 えば,裁判所は,必要な場合には,呼出し後に,最初の書面交換後にまたは最 初の主要弁論期日後に書面交換を命ずることができる。そして,通常手続と同 様に,和解弁論を行い,または証拠調べをするためにインストラクション手続 を行うことが認められる(スイス民訴246条2項)。
( 4 )発問義務および職権探知主義
①発問義務
簡易手続は,通常手続の特殊な形態であることから,原則として弁論主義が 妥当する(スイス民訴55条1項)が,裁判所は,この手続においては強化され た発問義務を負う。したがって,裁判所は,一般的に,発問によって,当事者 の事実関係に関する不十分な陳述を補完し,かつ証拠方法を示すことを目指さ なければならない(スイス民訴247条1項)。裁判所は,実体的真実発見のため
〔参考条文試訳〕
スイス民訴法第246条 訴訟指揮上の処分
1 裁判所は,事件を可能な限り最初の期日に処理できるように,必要な処分 をなすものとする。
2 状況により必要とされるときは,裁判所は,書面交換を命じ,かつインス トラクション審理を実施することができる。
(25) Oberhammer/Domej/Haas (Hrsg.), a.a.O. (Fn.1),. S.1137f. (Christian Frae- fel)参照。立法者の意思によれば,方式の簡素化と口頭主義が手続を迅速化 させると考えていた(Botschaft ZPO, S.7348参照)。
に,訴訟資料収集に際して必要な場合には補助するという裁判所の責任は強化 されているのである。この点に,簡易手続の特色がある。当事者は,たとえ ば,特定の資料(契約,通信など)は,前もって提出し,弁論のために持参す ることが要求されている。スイス民訴法は,この発問義務を同法第56条におい て一般的な義務として規定し,ここで挙げた同法第247条1項で拡張された発 問義務として規定しているのである。ただ,スイス民訴法247条1項の文言か らは,発問義務は事実関係の調査と証拠方法の表示のみに限定されている。抗 弁や申立ての変更について当事者に指摘すべきかについては,何ら言及されて いないが,むしろ,簡易手続の趣旨から,可能な本案及び訴訟上の申立てを指 摘すべき義務が裁判所にあるとされている(26)。
②職権探知主義
簡易手続には,職権探知主義のメルクマールはなく,通常の手続と同様に,
弁論主義に服するのが原則である。しかし,スイス民訴法は,社会政策的理由 から,特定の事件において社会的弱者の保護のために職権探知主義を規定し た。それが,スイス民訴法247条2項である。つまり,裁判所は,社会的民事法 関連の一定の種類の訴訟において,社会的職権探知主義という意味において,
職権で事実関係を確定する(スイス民訴247条2項)。このスイス民訴法247条2 項に基づく職権探知主義は,「社会的職権探知主義又は緩和された職権探知主 義」と言われる。これは,いわゆる「制限された職権探知主義」と区別される。
制限された職権探知主義においては,裁判所は事実関係を究明すべきである,
とされる。制限された職権探知主義は,公的利益や第三者の利益において事実 を確定しなければならない場合に適用される。当事者が訴訟物についての処分 権を有さず,裁判所が当事者の申立てに拘束されない職権主義(Offizialmaxime)
の場合に妥当する典型的な職権探知主義とは区別されるものである。この社会 的職権探知主義とは,裁判所もまた事実関係を確定すべきものとして,事実収 集についての裁判所と当事者の共同責任を意味してくる(27)。共同責任という 意味は,当事者は主張責任及び理由づけ責任を負い,裁判所は当事者の事実主 張が完全になされているか否かを審査しなければならないという点にあり,事 実関係の解明における裁判所の発問は調査手段の一つであるとされている。つ まり,裁判所は,指摘や発問を通じて,当事者に事実関係を主張させたり,補
(26) なお,この点については議論があるところである。Oberhammer/Domej/
Haas (Hrsg.), a.a.O. (Fn.1),. S.1142. (Christian Fraefel)参照。
(27) Baumgartner/Dolge/Markus/Spühler, a.a.O. (Fn.1), S.339.
強させるように努めるのである。ここには,社会的弱者たる訴訟当事者が有す る請求権の実現を容易にし,これらの者たちに弁護士による代理を必要としな い訴訟追行を可能にさせる,という法政策上の考慮が存しているのである(28)。 スイス民訴法247条2項が規定するこの社会的職権探知主義が適用される事 件としては,上記スイス民訴法243条2項に基づく事件,及び訴額が30000スイ ス=フランまでで,住居及び営業所の賃貸借,または農地賃貸借から生じるそ の他の事件,ならびに労働法事件においてである。このような職権探知主義 は,簡易手続の性質として重要な点であり,かつ社会的弱者に優しい手続とい う観点において重要な要素である(29)。
( 5 )新たな事実及び証拠方法
新たな事実及び証拠方法(Noven)に関する規律は,通常手続の規律が妥当 する(30)。簡易手続において,この点につき独自の規定はない。当事者は,口 頭による訴えの提起及び答弁の後も,文書により理由づけられた訴え及び文書 による答弁の後も,口頭による抗弁及び再抗弁において弁論でなお新たな事実 及び証拠方法を提出する権利(Novenrecht)を有するのである(スイス民訴229 条2項)(31)。しかし,裁判所が,抗弁及び再抗弁とともに二度目の文書交換ま
〔参考条文試訳〕
スイス民訴法第247条 事実関係の確定
1 裁判所は,適切な発問により,当事者が事実関係についての不十分な陳述 を補い,証拠方法を示すように努める。
2 裁判所は,次に掲げる場合には,職権により事実関係を確定する。
a. 第243条2項による事件
b. 訴額が30,000スイスフランまでの訴訟で次に掲げる場合
1. 住居,営業所の賃貸借,および農地の賃貸借に基づくその他の事件 2.労働法上のその他の事件
(28) Spühler/Tenchio/Infanger, a.a.O. (Fn.1), S.1438 (Stephan Mazan).
(29) Spühler/Tenchio/Infanger, a.a.O. (Fn.1), S.1438 (Stephan Mazan).
(30) 連邦政府の草案においては,新たな事実及び証拠方法が判決審理まで考慮 されうる旨が規定されていたが,議会における審議により修正された。
(31) スイス民事訴訟法は,当事者による事実及び証拠方法の提出について,同
たはインストラクション手続を命じた場合は,それによってAktenschluss(新 たな事実及び証拠方法の提出終了)が生じ,このことは,主要弁論期日では,ス イス民訴法229条1項の条件の下でのみ,新たな事実及び証拠方法を提出する ことができるにすぎないことを意味する(32)。つまり,当事者は主要弁論期日 の始めに制限的に新たな事実及び証拠方法を提出することができるにすぎない のである。
簡易手続において職権探知主義が妥当する場合には,新たな事実及び証拠方 法は,判決審議まで認められる(スイス民訴229条3項)。したがって,簡易手 続において同時提出主義は,当事者の一方の最終の事実及び証拠方法の提出後 でも,その提出が裁判所の発問の結果である場合には,新たな陳述が許される という形で制限されねばならないのである(33)。
( 6 )訴訟費用
簡易手続においては,原則として訴訟費用が肯定される。しかし,手続は,
以下の事件においては無償である。すなわち,同等化法による事件(SR151条 1項),障害者同等化法による事件(SR151条3項),訴額が30,000スイスフラン までの労働仲裁法にもとづく労働関係による事件,協力法による事件,そし て,疾病保険に関する連邦法による疾病社会保険への付加保険の事件である。
( 7 )簡易手続における裁判及び上訴
簡易手続における裁判については,通常手続における判決に関する規定が適 用される(34)。簡易手続における判決に対しては,原則として控訴がなされる
時提出主義を採用している。そして,事実及び証拠方法の提出については,
Aktenschluss(新たな事実及び証拠方法の提出終了)という時的限界を定 め,原則としてはその時点までの提出のみを認め,例外的にNovenとして 新たな事実及び証拠方法の提出が認められる。Aktenscluss及びNovenにつ いては,松村和德=吉田純平「資料:権利救済法システムの比較研究(1)
スイス統一民事訴訟法の概要(4)」比較法学52巻3号284頁以下参照。
(32) BGE140Ⅲ312参照。
(33) Oberhammer/Domej/Haas (Hrsg.), a.a.O. (Fn.1),. S.1146. (Christian Fraefel)参照。
(34) スイス民事訴訟法における裁判(判決)については,松村和德=吉田純平
「スイス統一民事訴訟法の概要(5),(6)」(注17)比較法学53巻1号228頁以 下,同2号244頁以下参照。
が(スイス民訴308条1項),少額の財産法上の事件については控訴は排除され
(同条2項),抗告のみが認められる(スイス民訴319条以下)。
Ⅳ 略式手続(Summarisches Verfahren)
1 意義と特徴
スイス民事訴訟法における手続は,通常手続,簡易手続及び略式手続の三種 類に分類される。通常手続及び簡易手続は,基本的には終局判決により終了す る。これに対して,略式手続は,終局的な判決を伴わなければならない手続で はなく,裁判官による迅速な介入を可能にする手続である。他方で多数の事案 において,略式手続において,通常手続とも同じように終局判決をすることも 可能である。略式手続の本質は,当事者にすべての攻撃防御方法を利用させな い,短縮化された手続である。この手続の迅速性は,特に短縮された期間に現 れており,部分的には証拠の制限にも現れている。
実務において,略式手続は重要な役割を果たしている。略式手続は,極めて 様々な目的のために用意され,場合によっては最終的な,場合によっては暫定 的な裁判をもたらす。その形成によって,迅速で柔軟な手続となり,通常は単 独裁判官のしばしば口頭によって行われるものである。そして,調停手続は行 われず(スイス民訴198条a),スイス民訴法145条1項の期間の停止は適用され ず,上訴期間は短縮されている(スイス民訴314条および321条)。上述のように,
部分的には,証拠方法の制限が存在する。すなわち,第一に,書証のみを用い ることができ,手続を遅滞させない証拠方法のみが認められる(スイス民訴254 条1項,2項a)。他方,略式手続の適用範囲の多くにおいては,この制限は適 用されない(スイス民訴254条2項bおよびc,同255条)。加えて,略式手続にお いては,しばしば疎明で十分である。それは,仮処分(スイス民訴261条)また は占有保護の際の妨害に関してである(スイス民訴258条2項)。
2 適用範囲
スイス民訴法248条のa号からe号は,略式手続の一般的な適用範囲を列挙 する。これにより,略式手続が適用されるのは,以下のような場合であり,非 常に広範に及ぶ。すなわち,(1)法律によって規定された場合(スイス民訴
249条~251条),(2)明確な事案における権利保護の場合(スイス民訴257条),
(3)裁判所による禁止による占有保護について(スイス民訴258条以下),(4)
仮処分(スイス民訴261条から269条),⑤非訟事件の場合である。以下,これら を簡単に紹介する。
( 1 )法律で規定される場合
まず,略式手続が適用される事件として,「法律で規定される場合」が挙げ られる(スイス民訴248条a)。これについて,スイス民訴法は,民法典上の事件
(スイス民訴249条),債務法による事件(スイス民訴250条)及び債務取立及び破 産法による事件(スイス民訴251条)を挙げている(内容については以下の条文の 試訳を参照のこと)。その他にも,婚姻保護手続(スイス民訴271条)や子どもの 利益に関する一定の事件(スイス民訴302条)なども,これに属するものとされ る。判例は,「法律において規定される場合」とは連邦法に規定されるものの みを意味することを明らかにしている(35)。
〔参考条文試訳〕
スイス民訴法第248条 適用範囲
略式手続は,次に掲げる場合に適用される。
a. 法律において規定されている場合 b. 簡明な事案における権利保護のため c. 裁判所による差止めの場合 d. 仮処分の場合
e. 非訟事件の場合
〔参考条文試訳〕
スイス民訴法第249条 民法典上の事件 略式手続は,特に次に掲げる場合に適用される。
a. 身分法
1 未成年または被成年後見人の法律行為を保護するための期間設定
(ZGB19条a)
2 反論請求(ZGB28条I)
3 失踪宣告(ZGB35-38条)
(35) Spühler/Tenchio/Infanger, a.a.O. (Fn.1), S.1448 (Seephon Manzan).
4 民事身分登録簿への登録の処理(ZGB42条)
b. ─廃止─
c. 相続法
1 口頭遺言の受領(ZGB507条)
2 失踪者の遺産相続の場合の担保(ZGB546条)
3 支払能力ない相続人に対する共同相続人の相続財産分割の延期及び請 求権の保全(ZGB604条2,3項)
d. 物権法
1 共同所有の場合の物の価値及び使用権原の維持のための措置(ZGB647 条2項1号)
2 特別に時効取得した土地に対する物権の登記(ZGB662条)
3 区分の処理に対する異議の取消し(ZGB712条c第3項)
4 区分所有権の場合における管理人の選任及び解任(ZGB712条q,r)
5 法定土地担保権の仮登記(ZGB712条I, 779条d,779条及び837条~839 条)
6 占有の用益及ぶ侵奪に際しての担保のための期間設定(ZGB760条及び 762条)
7 用益財産の債務清算命令(ZGB766条)
8 土地担保保全のための担保設定者に有利な処分(ZGB808条1,2項並
びに809条~811条)
9 債務証書の場合の代理に関する命令(ZGB850条3項)
10 債務証書の無効宣言(ZGB856条及び865条)
11 訴訟事件における処分制限の仮登記及び仮登録(ZGB960条1項1号,
961条1項1号及び966条2項)
〔参考条文試訳〕
スイス民訴法第250条 債権法
略式手続は,特に次に掲げる場合に適用される。
a. 総則
1 代理権喪失のための裁判上の供託(債権法(OR─以下OR)36条1項)
2 保証のための適切な期間の設定(OR83条2項)
3 債権者遅滞の場合の責任財産の供託及び売却(OR92条2項及び93条2
項)
4 代替執行のための権限(OR89条)
5 契約履行のための期間の設定(OR107条1項)
6 争いのある額の供託(OR168条1項)
b. 個別の契約関係
1 事業業績又は手数料決済の事後審査のための鑑定人の表示(OR322a条
2項及び322c条2項)
2 賃金の減損の場合の保証のための期間の設定(OR337a条)
3 契約に違反して履行された成果の場合の期間の設定(OR366条2項)
4 成果の審査のための鑑定人表示(OR367条)
5 文学的又は芸術的な成果の新たな産出のための期間の設定(OR383条 3項)
6 供託物の管理人よる引渡し(OR480条)
7 連帯保証の場合における担保保証評価(OR496条2項)
8 不動産抵当権の実行の場合の保証人に対する取立ての実施(OR501条 2項)
9 主たる債務者による保証及び保証免除(OR506条)
c. 会社法
1 代理権の暫定的取消し(OR565条2項,603条及び767条1項)
2 共同代表の表示(OR690条1項,764条2項,792条1号及び847条4項)
3 清算人の決定,解任及び交代(OR583条2項,619条,740条,741条,
770条,826条2項及び913条)
4 全引受価格の売却不動産の売却方法(OR585条3項及び619条)
5 利益計算及び損益計算の審査のための鑑定人の表示及び合資会社の貸 借対象表(OR600条3項)
6 社員の不十分な支払い又は必置機関が欠落している場合の期間の設定
(OR731b条,819条及び908条)
7 株式会社の株主及び債権者,有限責任組合員及び共同組合員への情報 提供命令(OR697条4項,697h条2項,802条4項及び857条3項)
8 株式会社における特別審査(OR697a~697g条)
9 株式会社又は共同組合の総会招集,審議対象の通知及び有限責任組合 の組合総会の招集(OR699条4項,805条5項2号及び881条3項)
10 行政による総会決議取消しに際しての組合又は共同組合の代表の表示
(OR706a条2項,808c条及び891条1項)
11 監査機関の指名及び解任(OR731b 条)
12 清算における債権分担金の供託(OR744条,770条,826条2項及び913 条)
13 管理人及び共同組合の監督機関の解任(OR890条2項)
( 2 )明確な事案における権利保護
スイスの民事訴訟においては,伝統的に「明確な事案における権利保護
(Rechtsschutz in klaren Fällen)」は,略式手続の事件とされてきた(スイス民訴 248条b,257条)(36)。この伝統に従って,立法者は,スイス民訴法248条b及び 同257条において「明確な事案における権利保護」の定義を規定したうえで,
略式手続の対象とした。この明確性が手続の迅速な遂行を可能にすることか ら,略式手続の対象となったのである。職権主義(Offizialgrundsatz)が妥当す る手続は,「明確な事案における権利保護」の適用対象とならない(スイス民訴 257条2項)。
ここにいう「明確な事件」とは,事実関係に争いがない事件か又は証明が即
〔参考条文試訳〕
スイス民訴法第251条 債権取立法および破産法 略式手続は,特に次に掲げる場合に適用される。
a. 執行異議裁判所,破産裁判所,保全裁判所及び遺産裁判所によって下され る裁判
b. 事後的な債務者の説明(債権取立法及び破産法(SchKG)(以下,SchKG)
77条3項)及び手形の取立てにおける債務者の説明(SchKG181条)の許可 c. 執行の取消し又は停止(SchKG85条)
d. 新得財産の存在に関する裁判(SchKG265a条1~3項)
e. 夫婦財産の分離命令(SchKG68b条)
d. 有価証券法
1 有価証券の無効宣告(OR981条)
2 手形の支払禁止及び手形金額の供託(OR1072条)
3 債権者集会が社債の発行に際して代表者に付与した代理権の消滅
(OR1162条4項)
4 社債債権者の要請に基づく債権者集会の招集(OR1165条3項及び4
項)
(36) たとえばチューリッヒ州民事訴訟法222条2項により,略式手続における命 令手続が規定されていた。Spühler/Tenchio/Infanger, a.a.O. (Fn.1), S.1448
(Seephon Manzan)参照。
座にできる事件でかつ法状況が明白な事件をいう。この場合に,当事者は権利 保護を要求して,略式手続での裁判を求めうる。すなわち,明確な事案におけ る権利保護は,事実関係が争われないか,即座に証明されうる場合で,かつ明 らかな法的状況を基礎とするような訴訟においてなされる(スイス民訴257条1 項)(37)。明確な事実及び法律関係は,それが略式手続に服する限りで,手続の 迅速な遂行が認められる(38)。
( 3 )裁判所による差止め
次に,典型的な略式手続として,裁判所による差止めが挙げられる(スイス 民訴248条c)。実務上の意義が大きく,「第4節」という形で条文が規定されて いる。これは,不動産について物権を有する者が裁判所に一般的な差止めの発 令を求めることができるとするものである。裁判所による差止めは,不動産に 物権を有する者に,一方の当事者のみによる手続において,占有侵害に対する 権利保護を得させるものである(スイス民訴258条1項)。この裁判所による差 止めは,民法(ZGB)928条以下の民事法上の占有保護に加えられる。土地所 有者の刑法上の保護の特別形式(刑法上の占有保護)として位置づけられてい る(39)。差止めを申し立てる当事者は,文書によってその物権を証明し,侵害
〔参考条文試訳〕
第 3 節 明確な事案における権利保護
スイス民訴法第257条 明確な事案における権利保護
1 裁判所は,次に掲げる場合には,略式手続において権利保護を与える。
a. 事実関係に争いがなく,又は即座に証明できる場合,でかつ b. 法律状況が明らかな場合
2 事件が職権主義に服するときは,前項の権利保護は除外される。
3 裁判所は,第1項の権利保護をなすことができないときは,この要請に立
ち入らない。
(37) Oberhammer/Domej/Haas (Hrsg.), a.a.O. (Fn.1),. S.1152 (Ingrid Jent─So- rensen, Spühler/Tenchio/Infanger, a.a.O. (Fn.1), S.1490 (Dieter Hofmann)など。
(38) Botschaft ZPO, S. 7349.
(39) Spühler/Tenchio/Infanger, a.a.O. (Fn.1), S.1505 (Luca Tenchio/Kristina Tenchio)など参照。
の存在,またはそのおそれを疎明しなければならない(同2項)。
裁判所による差止めは,差止めの期限を付けててなすこともでき,または期 限を付さなくともできる(同1項第2文)。
この差止めは,公示されねばならず,かつ不動産上によく見える形で掲示を しなければならない(二重の公示;スイス民訴259条)。これが,客観的な刑罰要 件となるのである。差止め内容には,誰にでも理解できる形で,差出人(認可 官庁)及び差止めの期間が記載されねばならない。公示は州の官報に掲載され る形で行われる。
この裁判所による差止命令には,既判力は生じない。それゆえ,差止めによ って問題となった不動産の法律関係には影響は与えない。差止命令には,執行 力が付与されるのである。そこで,差止めを了承しない者には,異議権が認め られている(スイス民訴260条1項)。異議は,差止めを認めた裁判所に書面で なされる。差止めに関係しうるすべての者が異議をなしうる。しかし,この異 議は,適時に申立てられた場合には,異議申立者は対する差止めを無効にす る。それゆえ,差止めを実行するためには,訴訟(承認の訴え)(40)を提起しな ければならない(スイス民訴260条2項)。
第 4 節 裁判所による差止め
〔参考条文試訳〕
スイス民訴法第258条 原則
1 不動産に物権上の権限を有する者は,裁判所に対して,あらゆる不動産上 の妨害に対する差止めを申し立てること及び違反行為に対して申立てに基づ き2000スイス=フランまでの過料命令を申し立てることができる。この差止 めは期間を付しても期間を付さなくともなしうる。
2 申立人は,物権上の権利を文書で証明しなければならず,かつその妨害の 存在又はその妨害が切迫していることを疎明しなければならない。
スイス民訴法第259条 公示
差止めは,公示されねばならず,かつ当該不動産上によく目立つところに掲 示しなければならない。
(40) 承認の訴えについては,Spühler/Tenchio/Infanger, a.a.O. (Fn.1), S.1517
(Luca Tepchio/Kristina Tenchio)など参照。
( 4 )保全処分
保全処分は,対審の手続において出されるものであり,主張される請求権及 びその侵害,又はそのおそれが疎明されることを要件とする(スイス民訴261条 1項)。仮処分は,略式手続において最も重要な適用領域である。特に緊急性 のある場合には特別保全命令(superprovisorische Anordnung)を相手方の審尋 をすることなく発することができる点にその特色がある(スイス民訴265条1 項)。特別保全命令がだされた後に,裁判所は相手方当事者を遅滞なく審尋し,
そののち遅滞なく裁判する(スイス民訴265条2項)。 スイス民訴法第260条 異議
1 差止めを了承しない者は,当該公示及び不動産上への明認方法の設置以降 30日以内に,異議を申し立てることができる。この異議には,理由づけは必 要ない。
2 異議は,申立当事者に対する差止めを無効にする。差止めの実行のために は,裁判所に訴えが提起されねばならない。
第 5 節 保全処分と保護書面
〔参考条文試訳〕
スイス民訴法第261条 原則
1 裁判所は,申立当事者が以下に掲げる事項を疎明したときは,必要な保全 措置を行うものとする。
a. 自己に帰属するする請求権が侵害されていることまたは侵害のおそれがあ ること
b. 侵害により容易に回復できない不利益が生じるおそれがあること
2 相手方当事者が適切な担保を提供するときには,裁判所は,その保全処分 をやめることができる。
スイス民訴法第262条 内容
保全処分は,差し迫った不利益を回避するために適切な裁判所の命令であり,
とくに以下に掲げる内容の命令をなしうる。
a. 差止め
b. 違法な状態を除去するための命令
c. 登録官庁または第三者への指示 d. 現物給付
e. 法律で定められた事件における金銭支払いの実行
スイス民訴法第263条 訴訟係属前の措置
本案に関する訴えがまだ係属していないときには,裁判所は,申立当事者に,
命じられた措置が期間を経過することなく即座になすという予告とともに,訴 状の提出期間を定めるものとする。
スイス民訴法第264条 担保提供及び損害賠償
1 裁判所は,相手方当事者に損害が生じるおそれがあるときは,保全処分命 令を申立当事者の担保提供にかからめしめることができる。
2 申立当事者は,不当な保全処分により生じた損害について責任を負う。但 し,申立当事者がその申立てを善意になした旨を証明する場合には,裁判所 は賠償義務の軽減またはその免除を行うことができる。
3 提供された担保は,損害賠償の訴えが提起されたことが確定する場合には,
返還されなければならない。不確実な場合には,裁判所は,訴えのための期 間を定める。
スイス民訴法第265条 特別保全命令
1 裁判所は,特別に切迫しているとき,とりわけ,請求妨害の危険がある場 合には,即座にかつ相手方当事者を審尋することなしに,保全処分を命じる ことができる。
2 裁判所は,この命令でもって,両当事者を弁論に呼び出すものとする。こ の弁論は遅滞なく行われねばならない。また,裁判所は,相手方当事者に書 面による意見表明のための期間を定めるものとする。
3 裁判所は,申立当事者に対して職権によりあらかじめ担保を提供するよう 義務を課すことができる。
スイス民訴法第266条 メデイアに対する措置
裁判所は,定期的に発行されるメデイアに対して,以下に掲げる場合にのみ 保全処分を命じることができる。
a. 申立当事者に差し迫った権利侵害が特別重大な不利益を引き起こす可能性 がある場合
b. 正当事由が存在しないことが明らかな場合,及び c. 保全処分が不当であると思われる場合
( 5 )非訟事件(Freiwilligen Gerichtsbarkeit)
最後に,法律によって略式手続の対象となるものとして,非訟事件が挙げら れる(スイス民訴248条e)。非訟事件は,広い範囲の事件に適用される。非訟事 件は,言い換えるならば,「裁判所,又は行政機関における公法的(hoheitlich)
手続」であり,「私法上の権利実現を内容とし」,「一方当事者のみの審尋がな されるもの」といえる(41)。
スイス民訴法第267条 執行
保全処分を発令した裁判所は,必要な執行措置を行うものとする。
スイス民訴法第268条 変更及び取消し
1 事情が変更したとき,または保全処分が不当なものであることが事後的に 明らかになったときは,当該保全処分は,変更または取消しをなすことがで きる。
2 本案の判決に法的確定力が生じたことでもって,当該保全処分は,法律上 失効する。裁判所は,執行に資する場合または法律がこれを規定する場合に は,保全処分の続行を命じることができる。
スイス民訴法第269条 留保 以下に掲げる規定は留保する。
a. 金銭執行における保全処分に関するSchKG
b. 相続法上の保全処分に関するZGB
c. ライセンス付与を求める訴えに関する1954年6月25日の特許法
スイス民訴法第270条 保護書面
1 事前の審尋なしに特別保全命令,SchKG271条乃至281条による仮差押命令 またはその措置命令を申し立てられたことを承認する理由がある者は,自ら の立場を即座に書面で説明することができる。
2 保護書面は,相手方当事者が相応する手続を開始したときにのみ,相手方 当事者に通知される。
3 保護書面は,その提出後6ヶ月間は,考慮してはならない。
(41) Spühler/Tenchio/Infanger, a.a.O., S.1450 (Stephan Mazan).
3 手続および裁判
( 1 )一般的な手続規定
略式手続において全ての事件に適用されるのが,スイス民訴法252条から同 256条の規定である。もっとも,個別の手続についての異なる規定,または補 充する規定が存在しない限りにおいてである。
通常手続についての規定は,補足的に準用される(スイス民訴219条)。その 結果,反訴(スイス民訴224条)は,略式手続において判断されるうることを要 件として(スイス民訴224条1項),略式手続から排除されていない(42)。これに 対して,訴訟告知の訴えは,略式手続においては認められない(スイス民訴81 条3項)。さらに,法的開示請求のための態度決定が懈怠される場合には,ス イス民訴法223条1項の意味での猶予期間は設定されないとするのが判例であ る(43)。争われているのは,略式手続において,一般的に申立てについての猶 予期間が放棄されるべきか否かである。この点は,時間的に緊急の略式手続に ついては肯定されるべきである,との見解がある(44)。
( 2 )手続の流れ
略式手続は,直接に裁判所に提出される申立てによって,事前の調停手続な しに係属する。申立ては,通常は文書でなされる(スイス民訴130条参照)。例 外的に,簡易な,または緊急の場合には口頭でも可能であり,その場合には,
それを調書にすることができる(スイス民訴252条2項)。申立てには,当事者 の表示と並んで,法的要求,重要な事実及び証拠方法,書証が記載される(ス イス民訴219条による同221条1項及び2項の準用)。
相手方当事者は,適切な期間内(通常は約10日)に,文書による意思表明の 形で,または口頭での弁論の機会を与えられる(スイス民訴255条)。当事者の 申立てが明らかに不適法,または明らかに理由がないときは,裁判所は,この 意思表明を放棄できる。
原則として,略式手続においては,正式な規則に基づいた二回目の文書交換 は行われず,弁論も考慮に入れられてない(スイス民訴256条)。このことから,
略式手続においては,Aktenschlussは,最初の申立ての後にすでに生じ,当 事者には,固有の利益において,全ての事実の主張と証拠方法を,その最初の
(42) Botschaft ZPO, 7350.
(43) BGE138Ⅲ483参照。
(44) Leuenberger/Beatrice Uffer─Tobler, a.a.O. S.384.
申立てにおいて提出することが予定されているのである。当事者は,単に連邦 裁判所に認められた法的審尋の保護への抗弁権の意味で,相手方当事者の最後 の申立てへの態度を表明することができるにすぎない。しかし,裁判所は,例 外的に二度目の文書交換を開始し,弁論に呼び出す場合には,当事者は,通常 手続における規定の観点から,二度目の提出においてなお新たな事実の主張及 び証拠方法を提出することが可能とされなければならない。同じことが,申立 ての提出の後にすぐ弁論に呼び出され,答弁ならびに抗弁及び再抗弁が口頭で なされる場合にもの適用される。当事者が抗弁及び再抗弁を要求することはあ まり意味がない。なぜなら,裁判所には事実関係がなお明らかではなく,同時 に当事者は新たな事実及び証拠方法を提出することを禁じられるからである。
略式手続におけるAktenschlussの問題は,確かに争われており,連邦裁判所 においてもまだ判断されていない(45)。
他の法律上の規定(たとえばスイス民訴273条)を留保条件として,弁論を行 うか,文書交換の後に資料に基づいて裁判するかについては裁判官の裁量によ る(スイス民訴256条1項)。一方当事者は,連邦裁判所の判例及び欧州裁判所 の判例により,人権について明示的に,または黙示的に,EMRK 6条1項に民 事事件の第1審で保障された公開の弁論を放棄することができる。この放棄 は,当事者が制限的な法律上の規定(ここではスイス民訴256条1項)が公開の 弁論のない手続を認め,当事者が通常は文書による手続において裁判されるこ とを知っているが,公開の弁論の申立てをしなかった場合に推定される(46)。 主手続と依存関係にある仮処分の事件において,EMRK 6条1項に含まれる公 開手続の保障は,連邦裁判所の判例によれば,原則として関係ない。判例によ れば,EMRK 6条1項は,公開の弁論がなく,執行債権が理由づけられるかど うかを判断しない執行手続においては要求される(BGE141Ⅰ97)。
〔参考条文試訳〕
スイス民訴法第252条 申立て
1 手続は,申立てにより開始される。
2 裁判所は,第130条による形式でなされなければならない。簡易または緊急 の場合においては,申立ては,裁判所に対して口頭で調書をとらせることで
(45) Leuenberger/Beatrice Uffer─Tobler, a.a.O. (Fn.1), S.386参照。
(46) BGE127Ⅰ44参照。
( 3 )証拠方法の制限 1 )原則
スイス民訴法254条は,略式手続についての証拠方法の制限を規定している。
原則として,即座に取り調べることができる証拠方法のみが認められる。この ことから,書証が原則となる(スイス民訴254条1項)。証拠方法が書証に制限 される手続は,特にそこで簡略な審理及び単なる疎明に基づいて仮の裁判をす るような手続である。しかし,この原則には,以下の重要な例外がある。
2 )例外
次の場合には,他の証拠方法が問題となる。すなわち,①それが,本質的に 手続を遅滞させない場合,②手続の目的が他の証拠方法の適用を必要とする場 合,③例外的に職権探知主義が妥当し,裁判所が事実関係を職権で確定する場 合である。最後の場合について,このことは,スイス民訴法225条aにおいて 挙げられたSchGKの手続,非訟事件のすべての裁判所の命令についての手続 が該当するが,しかしまた,スイス民訴法227条に基づいて,婚姻保護につい て,一般的に家族法上の事件における略式手続について,ならびに子の利益に 関係する手続についても該当する(スイス民訴296条1項参照)。
( 4 )裁判の公開
裁判の公開については,通常手続の一般規定が適用される。それは,文書で も口頭でもなすことができる。裁判の公開は,さしあたり主文のみでもするこ とができ,直接文書による理由とともに行うこともできる。略式手続において は,多くの事案で,スイス民訴法239条により,さしあたり主文のみ公開する ことには意味がない。というのも,裁判は,はじめから簡潔な理由をつけて文 書で開示することができるからである。
することができる。
〔参考条文試訳〕
スイス民訴法第253条 意見表明
申立てが明らかに不適法である,または明らかに理由がないと思われるときに は,裁判所は,相手方当事者に口頭,または書面によって意見表明する機会を与 える。
( 5 )上訴
略式手続における裁判に対して,スイス民訴法308条および309条ならびに 319条の基準による控訴または抗告が問題となる。上訴期間は,略式手続のお いては,短縮され,おおよそ10日間となる(スイス民訴314条1項および320条2 項)。非訟事件における命令については,例外的に撤回の可能性もある。
〔参考条文試訳〕
スイス民訴法第254条 証拠方法
1 証明は,文書によってなされなければならない。
2 他の証拠方法は,次に掲げる場合にのみ許される。
a. それが手続を本質的に遅延させない場合 b. 手続の目的が必要とする場合
c. 裁判所が事実関係を職権により認定させるべき場合
スイス民訴法第255条 審理原則
裁判所は,次に掲げる場合には職権により事実関係を認定する。
a. 破産裁判所または遺産裁判所として裁判する場合 b. 非訟事件の命令の場合
スイス民訴法第256条 裁判
1 裁判所は,法律が特に規定しない限り,弁論の実施を放棄することができ,
書面に基づいて裁判することができる。
2 非訟事件の命令が事後的に不当であると証明された場合,その命令は,法 律に反するか,法的安定を害する場合を除き,職権または申立てにより,取 り消し,または更正されうる。