• 検索結果がありません。

囲 日米貿易摩擦の政治学

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "囲 日米貿易摩擦の政治学"

Copied!
12
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

一15‑一

〈 論 説〉

日米 貿 易 摩 擦 の政 治 学

石 川 博 友

日米摩擦の本質 と構造

日 米 貿 易 摩 擦 の 本 質 と構 造 を 解 明 す る た め に は, 単 に 経 済 的 側 面 だ け で は な く,政 治 的 側 面 か ら の 分 析 が 必 要 で あ る 。 そ の た め に はt米 国 の 複 雑 な 権 力 構 造 を 理 解 す る 必 要 が あ る 。

米 国 の ビ ッ グ ビ ジ ネ ス は1960年 代 に 対 外 直 接 投 資 を 行 う こ と に よ っ て 多 国 籍 企 業 に 変 身 し た が,

そ れ と 同 時 に 世 界 最 強 の 軍 事 力 と 政 治 力 を 誇 る 米 国 政 権 の 対 外 政 策 に 影 響 力 を 行 使 し,米 政 権 と の 連 携 戦 略 を 展 開 し て 利 益 と 成 長 を 図 っ て き た 。 さ ら に,1970年 代 後 半,ニ ク ソ ソ大 統 領 の 辞 任 後 は, 相 対 的 に 政 治 パ ワ ー を 強 化 し た 米 議 会 に 対 し て も, 猛 烈 な ロ ビ イ 活 動 を 展 開 し,強 力 な 産 業 ・政 治 ・ 議 会 複 合 体(industrial‑Governmental‑Congress三 〇n‑

a1Complex)を 形 成 す る に 至 っ た 。 こ の 産 ・政

・議 複 合 体 は,1960年 代 初 期 に ア イ ゼ ソ ハ ワ ー 大 統 領 が 指 摘 し た 産 軍 複 合 体(Military‑lndustrial Complex)が 拡 大 し た も の と み て よ い ユ)。

い ま ま で の 日米 摩 擦 を み る と,米 国 の 政 府 は 自 由 貿 易 主 義 の 立 場 に 立 つ が,米 議 会 は 保 護 貿 易 主 義 が 強 く,日 本 に 対 し て も厳 し い と い う論 調 が 多 い 。 事 実,米 政 府 は 米 議 会 の 対 日 保 護 立 法 を 阻 止 で き な く な る と い う論 法 で,日 本 側 の 譲 歩 を 求 め て く る ケ ー ス が 多 い 。 鉄 鋼,自 動 車,半 導 体e工 作 機 械 な ど,戦 略 的 分 野 の 貿 易 摩 擦 で は,こ う し た 米 政 府 の 要 請 を 受 け 入 れ て,日 本 側 は 譲 歩 を 重 ね て き た 。 そ の 結 果 は,米 議 会 の 要 求 を 受 け 入 れ た の と 変 わ りが な か っ た 。 米 国 の 産 業 ・政 府 ・議 会 複 合 体 の 意 思 は 同 一 で あ り、 米 政 府 と 米 議 会 で 意 見 が 異 な る わ け で は な い 。 米 政 府 の ほ うが 外 交 辞 令 で 表 現 が ソ フ トで あ り,米 議 会 の 主 張 が 本 音

で厳 しい とい う相 違 が あ る にす ぎな い 。 こ の 複 合 体 の 関 係 を 図 示 す れ ば,第1図 の 通 りで あ る。

こ の 複 合 体 の 中 核 に 存 在 す る の が 米 国 産 業 で あ り,そ の産 業 の 主 導 権 を握 って い る の が 多 国 籍 企 業 グ ル ー プで あ る。 第2次 世 界 大 戦 後,自 由 ・無 差 別 ・多 角 化 の 原 則 に 基 づ い て,ブ レ トン ・ウ ッ

ズ体 制 が 構 築 さ れ た が,そ の推 進 力 に な っ た の は , 強 大 な 国 際 競 争 力 を 誇 っ た 米 国 産 業 で あ り,そ の 主 導 権 を 握 った 米 ビ ッグ ビジ ネ ス=多 国 籍 企 業 で あ った 。 事 実,自 由 ・無 差 別 ・多 角 化 の 旗 印 の下 で,米 国 の 製 品 と資 本 は グ ローバ ル な 進 撃 を 破 竹 の勢 い で 開 始 し た の で あ る 。 しか し,自 由 ・無 差 別 ・多 角 化 の 原 則 は,決 して 万 古不 易 の 原 則 で は なか っ た 。 そ れ は,米 国 産 業 と米 ビ ッ グ ビ ジ ネ ス の強 さを 反 映 し た 、1つ の政 治 イ デ オ ロギ ー で あ っ た 。

事 実,ユ970年 代,80年 代 に 米 産 業 の 競 争 力 が 失 わ れ,日 本 やECの 国 際 競 争 力 が 強 ま り,NIES の 追 い 上 げ が 急 速 に 高 ま る と,自 由貿 易 主 義 イ デ オ ロギ ー も後 退 し,米 国やEC内 に は 公 正 貿 易 論

第1図 産 業 ・政 府 ・議 会 複 合 体

(巨大企 業,多国籍企 業 グルー プ)

ビ ジ ネ ス ・ラ ウ ン ド テ ー ブ ル (有 力 企 業200社

(2)

一16一 日米貿 易摩擦の政治学 や 新 保 護 主i義,管 理 貿 易 論 が 唱7i..られ,ガ ッ トの

危 機 が 叫 ぽ れ る よ うに な った 。

こ うみ て く る と,日 米 摩 擦 の 本 質 が 明 確 に 浮 び 上 が って くる 。 米 産 業 の主 導 権 を 握 る多 国 籍 企 業 が 国 際 競 争 力 で 圧 倒 的 な 優 位 に 立 って い た60年 代 に は,貿 易 摩 擦 は 存 在 しな か った 。 競 争 は 激 し く て も,自 由競 争 で あ るか ぎ り,是 認 す べ き もの で あ った 。 米 国 産 業 は,経 済 的 競 争 で 劣 勢 に立 った と き,こ れ を政 治 的 に 巻 き返 え そ う とす る こ とで, 摩 擦 が 生 じた の で あ る。 さ らに,米 経 済 の地 盤 沈 下 と後 退 に つ れ て,航 空 宇 宙 や ハ イ テ ク産 業,建 設 業,そ れ に 銀 行 ・保 険,コ ン ピ ュー タ ・ソフ ト

ウ エ ア の サ ー ビス 産 業 な ど,米 国 の産 業 で な お 国 際 競 争 上 優 位 に立 つ 産 業 分 野 で は,報 復 や 制 裁 と い っ た パ ワ ー を 背 景 に して,強 引 に 他 国 の 市 場 開 放 を 要 求 す る に 至 っ た 。 これ も摩 擦 要 因 とな って

い る。

最 近 の 日米 貿 易 摩 擦 に つ い て み れ ば,前 者 は 半 導 体 型 とい って よ く,後 者 は建 設 型 に 代 表 さ れ る。

筆 者 は す で に 日米 貿 易 摩 擦 の本 質 と構 造 に つ い て は,拙 著 『日米 摩 擦 の政 治 経 済 学 』 で 論 述 した が,

こ の 論 文 は そ の 後 生 じた 新 しい 展 開 を 追 跡 し,前 著 と同 じ く,米 国 の産 業 ・政 府 ・議 会 複 合 体 の 視

点 に 立 っ て 分 析 した も の で あ る。

日米半導体協定の問題点

1986年7月 末,日 米 政 府 間 で1年 ぶ りに 半 導 体 交 渉 が 最 終 合 意 に 達 した 。 レ ー ガ ソ大 統 領 は こ の 合 意 を歴 史 的 な もの と高 く評 価 し,今 後 予想 され る先 端 技 術 分 野 で の 不 公 正 貿 易 防 止 の た め の 重 要 な 一 歩 と強 調 し た 。 半 面,わ が 国 の 半 導 体 産 業 は, そ の 内 容 の 厳 し さ に 大 き な シ ョ ッ クを 受 け た 。 こ

の協 定 は5力 年 間 に 及 ぶ も の で あ り,9月 に な っ て 正 式 に 調 印 され,発 効 し た 。 この 日米 半 導 体 協 定 は,ハ イ テ ク産 業 の よ うな 戦 略 分 野 に お け る 日 米 摩 擦 解 決 の1つ の ヒナ 型 と して 注 目す べ き も の

で あ る。

こ の協 定 の 特 徴 は,第1に 米 国 政 府 が 日本 の メ ー カ ー に 生 産 コス トな ど の デ ー タ の 提 供 を 求 め , 価 格 設 定 段 階 に まで 介 入 して い る点 で あ る。

第2に,米 国 政 府 は 日本 メ ー カ ー の 収 益 状 況 ま で 監 視 して い る。EPROM(紫 外線 で消去 ・再 書 き込 み可能 な読 み出 し専用 メモ リー)お よび256K以 上 のDRAM(記 憶保持動 作が必要 な随時書 き込 み読 み 出 し メモ リー)の 反 ダ ソ ピ ソ グ法 適 用 停 止 協 定 に 基 づ き,米 国 政 府 は 日本 メ ー カ ー の利 益 率 を 基 礎

と して 適 正 価 格 を 設 定 す る こ とに な った 。 第3に,日 米 間 だ け で な く,日 本 の 海 外 工 場 経 由 の 輸 出 に ま で 規 制 の 網 を 広 げ た こ とで あ る。 こ れ は シ リ抜 け 防 止 の た め で あ る。 しか し,こ れ は 第3国 市 場 に 影 響 を 及 ぼ す た め,ECか ら 日米 に

よ る市 場 支 配 とい う警 告 を 招 い た 。

第4に 次 世 代 の主 力 メ モ リー と 目 され る1メ ガ ビ ッ トDRAMが 反 ダ ン ピ ソ グ法 適 用 停 止 協 定 の 対 象 品 目 に加 え られ た こ とに よ り,新 製 品 開 発 の 段 階 か ら監 視 の網 が か け られ る こ と に な っ た。

こ の厳 しい 管 理 貿 易 体 制 は,米 国 の半 導 体 産 業 の 救 済 に な るか ど うか 。 日本 車 の 自主 規 制 は,自 動 車 の 価 格 を 吊 り上 げ,日 米 自動 車 メー カ ー の 利 益 に な った が,米 自動 車 産 業 の 本 質 的 な競 争 力 回 復 に は 役 立 た な か っ た よ うに,米 国 の 半 導 体 産 業 が こ の 日米 協 定 に よ り本 当 に 競 争 力 を 強 化 で き る

とい う保 証 は な い 。 事 実,大 手 ユ ー ザ ー のIBM は,韓 国 か ら安 い 半 導 体 を調 達 す る動 きを 示 し たQ

こ の 日米 半 導 体 協 定 に は 「秘 密 の 覚 書 」 が つ い て い た こ とが 後 日暴 露 され たQこ の 覚 書 で 日本 側 は,「 ア メ リカ企 業 が5年 以 内 に シ ェ ア20%の 目 標 に達 す るの を 了 解 し,歓 迎 し,か つ支 援 す べ く 努 力 す る2)」 と述 べ て い る。 通 産 省 は これ を 否 定

した が,日 米 半 導 体 協 定 の 締 結 交 渉 に あ た った1 人 で,当 時 米 商 務 省 審 議 官 の 地 位 に あ ったC.V、

プ レス トウ ィ ッ ツJr.は,そ の著 書 の 中 で 「これ は 日本 官 僚 の十 八 番 の 手 で,表 向 き は 譲 歩 しな い よ うに 装 い な が ら,米 国 側 に は譲 歩 した よ うに 思 わ せ る テ ク ニ ッ クに す ぎな い 」 と書 い て い る。

米 国 政 府 が 日米 半 導 体 摩 擦 で は,鉄 鋼 や 自動 車 とは 異 な り,自 主 規 制 とい う形 で は な く,政 府 間 協 定 の 形 を と り,予 想 を 上 回 る厳 しい 管 理 貿 易 体 制 を 要 求 した 背 景 に は,安 全 保 障 や 国 防 問 題 と も 関 連 す る 半 導 体 の よ うな 戦 略 的 ハ イ テ ク分 野 に お い て は,日 本 を抑 えつ け て,主 導 権 を 回 復 した い

(3)

日米貿易摩擦 の政治学 一17一 第1表 報復 関税 品 目の 内容

電子計 算機等

カ ラ ー TV

電動 工 具

米 国 発 表 に よ る 品 目

ポ ー タ ブ ル ・マ イ ク ロ コ ン ピ ュ ー タ ー(携 帯 型 を 含 む)及 び 卓 上 型 コ ソ ピ

ユ ー タ ー

ユ8‑‑20ン

蓄 電 式 で な い 回 転 ド リル 電 動 圧 搾 式 回 転 ド リル

グ ラ イ ソ ダ ー,サ ソ ダ ー, ポ リシ ャ ー と い っ た 研 磨 工 具

米国推定に よる米 国輸入額

1億8000 万 ㌦

9000万K74

3000万

導利の無半体用有

0

O

X

半 導体 製 造企 業の生 産

国額

お定に推ア国るヱ米けシ

1.8%

(パ ソ コソ全 体)

数%

VT

18%

(電動工具全体)

1900億 11億3000

万 ド (同 左り

71QO億 42憶2600

万 ㌦

(同 左)

1220億 7億2600

万 ㌦ (同 左)

うち対 米 輸 出額

460億 2億7300

万 ㌦ (同 左)

760億 円 4億5200

万 ㌦

(同 左)

310億 円

1,x,8400

(同 左)

対 米輸 出大手 3社

① 東 芝

② セ イ コ ー エ プ

ソ ソ

③ 三菱 電機

① ソ ニ ー

② 日本 電 気 ホ ー ム エ レ ク ト博 ニ クス

③ 松 下 電 器 産 業

① マ キ タ電 機 製 作 所

② リ 。一 ビ

③ 日立 工 機

(出 所:朝 日新 聞,1987年4月18日)ド (ド ル 換 算 は1986年 平 均 の1㌦=ユ68円)

と い う米 国 の 執 念 が あ っ た と み て よ い 。

事 実,1986年12月 に な る と,早 く も ヤ イ タ ー 米 通 商 代 表 は,日 本 製 半 導 体 の 第3国 市 場 で の ダ ソ

ピ ソ グ に 警 告 を 発 し,87年3月,米 上 院 本 会 議 が, 日 本 の 協 定 違 反 を 理 由 と し て,レ ー ガ ン 大 統 領 に 対 日報 復 措 置 の 実 施 を 求 め る 決 議 を 全 会 一 致 で 可 決 す る と,レ ー ガ ソ大 統 領 は,米 通 商 法301条(不 公 正 貿 易 慣 行 に 対 す る制 裁)を 発 動 し,日 米 半 導 体 協 定 違 反 と し て,日 本 側 に 対 す る 報 復 措 置 を 発 表 し た 。 そ れ は 電 子 ・電 気 製 品 を 対 象 に し て 約20品 目 を 候 補 に あ げ,一 一律 に100%の 報 復 関 税 を か け る と い う も の で,そ の 規 模 は 日 本 の 協 定 違 反 で 被 っ た 米 国 の 被 害 に 相 当 す る3億 ドル に す る と い う も の で あ っ た 。 そ し て 同 年4月17日,実 際 に パ ソ コ ソ,カ ラ ー テ レ ビ,電 動 工 具 の3品 目 に100%

の 高 率 関 税,金 額 に し て3億 ドル を 課 し,対 日制 裁 を 実 施 に 移 し た 。 報 復 関 税 品 目 の 内 容 は 第1表 の と お り。

そ の 後,87年6月 の ベ ネ チ ア ・サ ミ ッ トの と き, レ ー ガ ソ大 統 領 は,20イ ン チ カ ラ ー テ レ ビ を 対 象 に し て ダ ソ ピ ソ グ 分 の5100万 ドル の 制 裁 を 部 分 解 除 し た 。 さ ら に 同 年11月,第3国 で の ダ ソ ピ ソ グ

が 改 善 した と して,ダ ン ピ ソ グ制 裁 と して 実 施 し て きた8440万 ドル 分 の報 復 関 税 を解 除 した 。 これ で,カ ラ ー テ レ ビに つ い て は 全 面 的FY,パ ソ コ ソ

と電 動 工 具 に つ い て は 一 部 が 解 除 され た 。 こ の 結 果 ダ ソ ピ ソ グ制 裁 分 は 完 全 に 解 除 され た が,対

日市 場 ア ク セ ス(参 入)の 報 復 関 税1億6400万 ド ル に つ い て は,依 然 継 続 され る こ とに な っ た 。

日米 半 導 体 協 定 につ い て は,以 前 か らECは, 圧 倒 的優 位 に 立 つ 日米 に よ る半 導 体 市 場 の 支 配 と い う懸 念 を 表 明 し て い た が,1988年3月 に は,日 米 協 定 が 第3国 向 け 輸 出 価 格 ま で 監 視 す る の は, 半 導 体 価 格 を つ り上 げ る も の で あ り,ガ ッ トの 禁 止 条 項 に 触 れ る と して,「 ク ロ 」裁 定 を下 し た 。 また,協 定 締 結 後2年 間 に 米 国 の半 導 体 市 場 は, 不 況 か ら半 導 体 不 足 へ と大 き く転 換 し,「 協 定 見 直 し」 を 求 め る米 国 の 中 小 コ ソ ピ ュ ー タ ・メ ー カ ー と,日 本 の半 導体市 場 の開放 が進 まない こ とに い らだ つ 大 手 半 導 体 メ ー カ ー と の間 で,利 害 が 対 立 す る とい う事 情 が生 ま れ た 。 そ れ に もか か わ ら ず,米 政 府 は 協 定 見 直 しに は 消 極 的 で あ り,依 然 対 日制 裁 を 続 行 して い る。 これ は,大 手 半 導 体 メ ー カ ー の 発 言 権 が 依 然 と して 強 い こ とを示 す も の

(4)

18一 目米貿易摩擦の政治学 で あ る。 さ らに,半 導 体 とい う戦 略 商 品 が,米 国

の 安 全 保 障 や 国 際 問 題 に 深 くか か わ りを もつ こ と を 示 して い る。

国防条項 と保護主義

ユ980年 代 後 半 に な っ て か ら 目立 つ1つ の 特 徴 は, 米 政 府 の 通 商 政 策 に お い て も,米 国 連 邦 議 会 の 立 法 に お い て も,国 防 条 項 を 強 化 し て,安 全 保 障 面 か ら 貿 易 を 規 制 し よ う と い う動 き が 強 ま っ た こ と で あ る 。

半 導 体 に つ い て は,上 記 の よ う に,1986年9月 に 日 本 に と っ て き わ め て 厳 し い 日米 半 導 体 協 定 が 調 印 さ れ た が,そ の 背 景 に は,米 国 の 安 全 保 障 と 国 防 的 考 慮 が あ っ た こ と は 明 白 で あ る 。 事 実, ユ987年2月11日 に 作 成 さ れ た 米 国 国 防 総 省 の 半 導 体 報 告 書(ReportonSemiconductorDependency,

Washington,D。C。,February1987年)は,マ ー チ ソ ・マ リ エ ッ タ 社 の 会 長 で 防 衛 科 学 委 員 会 半 導 体 タ ス ク ・フ ォ ー ス 議 長 の ノ ー マ ソ ・オ ー ガ ス チ ソ が 当 時 の ワ イ ソ バ ー ガ ー 国 防 長 官 に 提 出 し た も の だ が,そ の 中 に 次 の よ う な 記 述 が あ る 。 「米 半 導 体 業 界 は い ま や 商 業 用 大 量 生 産 の 面 で リ ー ダ ー シ

ッ プ を 失 い つ つ あ る 。 や が て 米 国 の 国 防 は,半 導 体 の 先 端 技 術 に お い て 外 国 の 供 給 元 に 左 右 さ れ る

こ と と な ろ う。 こ の よ う な 状 況 は 甘 受 で き な い 。」

こ の 報 告 書 の 中 で,オ ー ガ ス チ ソ は,「 日 本 か ら の 仮 借 な い 圧 力 の 下 で い ま や 足 元 の 危 う く な っ た 半 導 体 産 業 は,テ レ ビ や 自動 車 産 業 の た ど っ た 道 を 急 速 に 歩 み つ つ あ り,現 状 で は,も は や 民 間 市 場 で 日本 と 太 刀 打 ち で き な い 。 こ の 事 態 は 米 国 の 安 全 保 障 に 重 大 な 意 味 を も っ て お り,そ の 存 亡 に か か わ る21の 軍 事 シ ス テ ム に お い て,日 本 を 主 と す る 諸 外 国 の 供 給 に な る チ ッ プ が 使 わ れ て い る 。 中 核 的 な 半 導 体 技 術25分 野 の う ち,日 本 は12分 野 で す で に リ ー ドを 奪 い,8分 野 で 米 .国 と並 び,5 分 野 で は ギ ャ ッ プ を 縮 め て い る 」 と 指 摘 し た3)。

こ う し た 認 識 が,厳 し い 日米 半 導 体 協 定 を 生 み, ま た そ の 違 反 と 称 し て,厳 し い 対 日 制 裁 を 実 施 さ せ た とみ て よ い 。 実 際 に,日 米 半 導 体 の 技 術 格 差 は 一 段 と拡 大 し つ つ あ る 。::年11月1日 付 の 朝

日新 聞 は,日 本 電 気 が 半 導 体 の16メ ガ ビ ッ トDR AM(記 憶 保持動 作が必要 な随時読 み出 し書 き込 み メモ

リー)の 量 産 を5,6年 後 に は 開 始 す る と報 道 し た 。 日本 の 半 導 体 メ ー カ ー のDRAM生 産 は 現 在, 256キ ロ ビ ッ トか ら1メ ガ ビ ッ トへ の 移 行 期 に あ り,2,3年 後 に は4メ ガ製 品 を 量 産 す るが,米 国 で は 一 段 階 前 の4メ ガ 製 品 を 開 発 中 で,メ モ リ ー(記 憶素 子)分 野 で の 日本 の優 位 は 明 白 で あ る。

そ こで,国 防 総 省 は1987年2月 に は 安 全 保 障 の 観 点 か ら米 半 導 体 産 業 の 強 化 を 目指 して,同 省 が 中 心 とな っ て 半 導 体 製 造 技 術 研 究 所 の 設 立 を 求 め る 報 告 書 を 公 表 した 。 ま た,1988年4月 に は 国 防 総 省 は 官 民 共 同 の 半 導 体 開 発 ・生 産 会 社 セ マ テ ッ ク (SEMATECH)に1億 ドル の財 政 援 助 を行 う と 発 表 した 。

「国 防 条 項 」 が も っ と明 白 な形 で 日米 貿 易 交 渉 に 登 場 して き た の は,対 米 工 作 機 械 輸 出 の 自主 規 制 問 題 で あ る。 日米 政 府 は1986年11月20日,ワ シ

ソ トソで の 交 渉 の 結 果,MC(マ シ ニソグセソ ター) を含 むNC(数 値 制御)系 工 作 機 械3品 目に つ い て, わ が 国 が 対 米 輸 出数 量 を 自主 規 制 す る こ とで 合 意

に 達 した 。 ま た,日 本 の 通 産 省 は 非NC系3品 目 の 輸 出 に つ い て も監 視 す る こ とに な っ た 。 自主 規 制 の期 間 は,1987年1月 か ら5年 間 で,87年 の 対 米 輸 出 台 数 は86年 上 半 期 の実 績 と横 ぽ い,対 米 輸 出 が 最 高 に 達 した85年 水 準 に 比 べ 平 均 で20%削 減 す る,と い う もの で あ る。 この 合 意 に よ り,米 政 府 は,日 本 製 工 作 機 械 に対 して 国 防 条 項 の発 動 を 見 送 った の で あ る。

つ ま り,日 米 工 作 機 械 摩 擦 は,米 国 の 「国 防 条 項 」 の 圧 力 に よ って,解 決 され た もの で あ る。 当 時 の 朝 日新 聞 社 説 は 日米 工 作 機 械 交 渉 の 結 末 を

「ご り押 し の 国 防 条 項 」 と=書い た(1986年11月24日 付)。

米 国 の 「国 防 条 項 」 とい うの は1962年 通 商 拡 大 法232条 の こ とで,そ れ は 米 国 の 輸 入 品 が 国 家 の 安 全 を 損 な うお そ れ が あ る ほ ど増 え た 場 合 に,大 統 領 は 被 害 が な くな る ま で の期 間,輸 入 制 限 な ど の対 抗 措 置 を とる こ とが で き る,と 定 め て い る。

工 作 機 械 と安 全 保 障 との 関連 は,早 くか ら米 国 内 で 指 摘 され て き た 。1983年2月 に発 表 され た 米

(5)

日米貿 易摩擦 の政治学 商 務 省 の 「ハ イ テ ク報 告 書 」 で は,「 米 国 の 工 作

機 械 は か な り小 規 模 で あ るが,米 国 の 経 済,軍 事 力 に とっ て は 大 きな 意 味 を も っ て い る 。 … … 国 家 緊 急 時 に は,軍 需 生 産 の増 大 を 満 た す た め に,近 代 的 で 優 秀 な工 作 機 械 が 必 要 に な る4)」 と述 べ,

日本 の 最 新 技 術 を 警 戒 して い る。

ま た,上 記 のC.V.プ レス トウ ィ ッ ツJrも 『日 米 逆 転 』 の 中 で 「ユ986年に は,日 本 は す で に 世 界 最 大 の 工 作 機 械 生 産 国 で,労 働 者1人 当 りの 投 下 資 本,生 産 高 が と もに 米 国 の ほ ぼ2倍 で あ っ た 。

… … な に よ り重 要 な の は

,最 も成 長 の い ち じ る し い 最 先 端 部 門 で あ るNC機 器 を 日本 が 完 全)/Y牛耳 って い る点 で あ る。 これ を 発 明 した の が 米 国 で あ るに もか か わ らず,・ ・.年の 日本 のNC機 器 の生 産 は 米 国 の3倍 に 上 って い た 。 制 御 装 置 に 関 して は 日本 の 一一企 業,富 士 通 フ ァナ ッ クが 世 界 市 場 の 60%を 押 さ え,米 国 のNC機i器 メ ー カ ー の多 くが 日本 製 の 制 御 装 置 を 用 い て い る。 つ ま り,技 術 面 で 日本 に 依 存 して い るわ け で あ る。30年 前 に は 外 国 の工 作 機 械 に 依 存 す べ き で は な い と主 張 して い た 軍 部 も,い まで は 例 外 で は な い 」 と 書 い て い

る5)。

こ うみ て くる と,米 国 内 で は 半 導 体 や 工 作 機 械 に つ い て,国 防 や 安 全 保 障 との 関 連 が 強 く意 識 さ れ て きた こ とが わ か る が,軍 需 で は な く民 需 の 製 品 と して 開 発 して き た わ が 国 産 業 に と っ て は,国 防 条 項 の 発 動 は 唐 突 に思 え る。 そ こ で 上 記 の 朝 日 新 聞 社 説 が 書 い た よ うに,「 国 防条 項 は 単 に 輸 入 規 制 を す るた め の 口実 に 使 わ れ や す い 。 工 作 機 械 の 交 渉 を み て もそ の 印 象 が 深 い 。 工 作 機 械 か らさ らに ハ イ テ ク産 業 ま で,こ の種 の規 制 が 広 が る こ とが あ れ ぽ,日 米 双 方 に と っ て マ イ ナ ス が 大 き く な る 」 と思 わ れ る。

こ うし た 背 景 か ら,1987年7月 に ぱ 東 芝 機 械 の コ コム違 反 事 件 が ク ロ ー ズ ・ア ッ プ され た 。 この 事 件 は,東 芝 の子 会 社 の 東 芝 機 械 が1982年 以 降 コ

コ ムに 違 反 して ソ連 へ 工 作 機 械 を 輸 出 し,そ の た め ソ連 原 潜 の ス ク リ ュー 音 が 低 下 し,米 国 の 安 全 保 障 を 脅 や か し た と批 判 され た もの で あ る 。 しか し,東 芝 機 械 のNC機 と ソ連 原 潜 低 音 化 との 間 に は,直 接 の 因 果 関 係 が な い 、 とい う見 方 も あ り,

一19一

わ が 国 側 の 論 調 で は,疑 問 視 す る傾 向 が 強 か っ た 。 し か し,1988年8月 に 成 立 した 米 包 括 通 商 法 に は,東 芝 制 裁 条 項 は 除 去 され ず に含 まれ た 。 東 芝 機 械 か らの 輸 入 は3年 間 禁 止 され,東 芝 本 社 か ら

の 政 府 調 達 も3年 間 禁 止 され る こ とに な った 。 東 芝 制 裁 条 項 だ け で な く,新 通 商 法 は 明 らか に 国 防 条 項 の 強 化 を 意 図 して い る。 例 え ぽ1962年 通 商 拡 大 法 の232条(国 防条 項)を 修 正 強 化 し,商 務 省 の調 査 期 間 を短 縮 し,大 統 領 に 自主 規 制 を 実 施 さ せ る権 限 を 与 え て い る。 こ の ほ か,安 全 保 障 上 重 大 な理 由 が あ る場 合 に は,外 国 企 業 に よ る米 企 業 の 合 併 ・買 収 を 禁 止 で き る権 限 を 大 統 領 に 与 え て い る。 国 防 条 項 の 強 化 は,米 議 会 の 保 護 主 義 を 背 景 に して,実 際 に は米 産 業 の保 護 に 役 立 つ が,

こ うし た動 きは 米 議 会 だ け の もの で は な い こ とに 注 意 す べ き で あ る 。 す で に,1987年3月 に は,日 本 の 富 士 通 に よ る 米 フ ェ ア チ ャイ ル ド社(半 導体

メーカー)の 買 収 が,米 国 防 長 官 に よ っ て ス トッ プ さ れ て い た 。 米 国 の 国 防 条 項 の強 化 は,議 会 よ り も米 政 府 の ほ うが,先 に 手 を つ け て い る こ とに 注 目す べ きで あ る。 米 国 の 権 力 構 造 は,「 産 業 ・ 政 府 ・議 会 複 合 体 」 を 形 成 し て い る こ とは,こ ご で も立 証 され る。 とす る と,国 防 条 項 とい う名 の 保 護 主 義 は,ハ イ テ ク産 業 だ け で は な く,戦 略 的 産 業 と呼 ぽ れ るす べ て の 産 業 へ 波 及 して い く可 能 性 が あ る。

日米建設摩擦の本質

1986年5月,ヤ イ タ ー米 通 商 代 表 が 当 時 の 三 塚 運 輸 相 に 米 国 建 設 企 業 の 国 際 競 争 入 札 を 要 求 し て 以 来,難 航 を 続 け て きた 日本 の 建 設 市 場 開 放 を め ぐる 日米 協 議 は,1988年3月29日,小 沢 官 房 副 長 官 と ヤ イ タ ー 米 通 商 代 表 との ワ シ ソ トン会 談 で, 一 応 の 決 着 を み た 。

そ の後,こ の 合 意 は88年5月25日,ワ シ ソ トソ の 米 商 務 省 で,松 永 駐 米 大 使 とベ リテ ィ米 商 務 長 官 が 書 簡 に 署 名 し,そ れ を 交 換 した こ とに よ り, 最 終 決 着 を み た 。 しか し,米 国 の 建 設 ・エ ン ジ ニ

ア リ ソ グ業 界 は,今 回 の 政 治 決 着 で 満 足 して い る わ け で は な い 。 合 意 内 容 を 監 視 し,2年 後 に 見 直

(6)

一20一 日米貿易摩擦 の政 治学 す こ と に な っ て い る か ら,日 米 建 設 摩 擦 が こ れ で

解 決 し た と み る こ と は で き な い 。 そ こ で 日 米 建 設 摩 擦 の 図 式 を も う一 度 よ く整 理 し て,そ の 本 質 を 理 解 し た 上 で,根 本 的 解 決 策 を 検 討 し て み よ う。

今 回 の 日 米 合 意 の 内 容 は 次 の と お りで あ る 。 第1に,米 国 側 が 参 入 に 強 い 関 心 を 示 す 空 港 タ ー ミナ ル ・ビ ル な ど民 間

,第3セ ク タ ー が 発 注 主 体 と な る 民 間 工 事 に つ い て,7事 業(東 京 国際 空 港 タ ー ミナ ル,新 広 島 タ ー ミナ ル,新 北 九 州 空 港 ター ミナ ル,横 浜 み な とみ らい21 ,東 京 テ レポ ー ト,大 阪テ クノ ポ ー ト,六 甲 ア イ ラ ン ド)を 新 た に 開 放 対 象 と し て, そ の 参 入 を 日 本 政 府 が 「勧 奨 」 す る こ と。

第2に,公 共 事 業 に つ い て,す で に 参 入 対 象 と さ れ て い る7事 業(東 京 国 際 空 港 沖 合 展 開 皿期 工 事, 新 広 島空 港,東 京 湾 再 開 発,明 石 海 峡 大 橋,伊 勢 湾 岸 道 路,横 浜 み な とみ らい21,関 西 文 化 学 術 研 究 都 市)に 関 し て,見 積 も り期 間 を20日 か ら40日 に 拡 大 す る な ど,参 入 条 件 を 緩 和 す る こ と 。

第3に,新 た に,米 国 側 が 満 足 し て い る 関 西 空 港 方 式 の 大 幅 に 簡 素 化 し た 入 札 手 続 き を 東 京 湾 横 断 道 路 と 日 本 電 信 電 話(NTT)本 社 ビ ル に も 適 用 す る こ と。

日 本 側 は 米 国 企 業 の 参 入 対 象 プ ロ ジ ェ ク トの 拡 大 要 求 に こ だ わ っ た が,米 国 側 は 参 加 プ ロ ジ ェ ク

トの 数 よ り も 質 に こ だ わ っ た よ うだ 。 米 国 側 は, 関 西 新 空 港 へ の 参 入 を 求 め た1986年5月 の ヤ イ タ ー 通 商 代 表 の 当 初 の 要 求 以 来 空 港 ビ ル

,情 報 化 ビ ル な ど ハ イ テ ク 分 野 の 設 計 ,エ ソ ジ ニ ア リ ソ グ な

ど,い わ ゆ る ソ フ ト部 門 を ね ら っ て き た 。 米 国 に は 世 界 最 大 の エ ソ ジ ニ ア リ ソ グ 会 社 ベ ク テ ル を は じ め と し て,フ ル ア,キ ー ウ ィ ッ トな ど 大 手18社 の 建 設 会 社 が あ る(第2表 参 照)。

こ れ ら の 企 業 の 得 意 とす る 分 野 は,上 記 の エ ソ ジ ニ ア リ ソ グ ・コ ン ト ラ ク タ ー 業 務 で あ る 。

日 米 建 設 摩 擦 に つ い て も,米 国 側 の 政 治 的 推 進 力 は,上 記 の 大 手 建 設 会 社 で あ る 。 国 際 競 争 力 で 劣 勢 に 立 つ よ うに な っ た 産 業 は,鉄 鋼 や 自 動 車 の よ うに,米 政 府 や 米 議 会 に 圧 力 を か け,日 本 やE Cに 対 し て 対 米 輸 出 を 自 主 規 制 さ せ,他 方,農 業, 航 空 宇 宙,銀 行 な ど サ ー ビ ス 業 は 国 際 競 争 力 が 強 い か ら米 政 府 を 通 じ て 相 手 国 の 市 場 開 放 を 求 め る 。

第2表 社 名 (1)ア ズ コ ー ヘ ニ ス (2)バ ジ ャ ー ア メ リ カ ン (3)ベ ク テ ル

(4)オ ス カ ー ・J・ ボ ル (5)ド ラ ボ

(6)エ バ ス コ (7)フ ル ア (8)キ ー ウ ィ ッ ト (9)レ オ ナ ー ド (10)コ ム バ ス シ ョ ソ (11)ラ ス ト

(12/シ ュ ナ イ ダ ー

(13)ス ト ー ン ・ア ン ド ・ ウ ェ ブ ス タ ー

(14)UE&C一 カ タ リ テ ィ ッ ク (15)ラ ル フ ・M・ パ ー ソ ン ズ (16)ス コ ッ ト

(17)ト ム キ ソ ス ベ ク ウ ィ ズ (181ユ ニ バ シ テ ィ ー メ カ ニ カ ル

(出 所:

日本 進 出 を狙 う米 国 系 建 設 会 社18社 本 社 所 在 地 ウ ィ ソ ス コ ン シ ソ 州 マ サ チ ュ ー セ ッ ツ 州 カ リ フ ォ ル ニ ア 州 ウ ィ ス コ ン シ ン 州 ペ ン シ ル ベ ニ ァ 州 ニ ユ ー ジ ヤ ー ジ ー 州 カ リ フ ォ ル ニ ア 州 ネ ブ ラ ス カ 州 モ ン タ ナ 州

コ ネ チ カ ッ ト州 ア ラ バ マ 州 ペ ン シ ル ベ ニ ア 州 マ サ チ ュ ー セ ッ ツ 州

ペ ソ シ ル ベ ニ ア 州 カ リ フ ォ ル ニ ア 州 カ リ フ ォ ル 嵩 ア 州 フ ロ リ ダ 少卜1 カ リ フ ォ ル ニ ァ 州 日本 経 済 新 聞,1988年4月1日)

建 設 ・エ ソ ジ ニ ア リ ソ グ業 界 は,ま さ に後 者 の 例 の 典 型 とい え そ うだ 。

米 国 は 日本 の建 設 開 放 を 求 め て,相 互 主 義 の 原 則 を ふ りか ざ し,1987年12月 に は,88年 度 包 括 歳 出 法 を 可 決 し,日 本 な ど 「不 公 正 な 建 設 市 場 閉 鎖 国 の 企 業 に対 し て は,公 共 事 業 の全 面 的 な 発 注 禁 止 」 とい っ た 対 日制 裁 条 項(ブ ル ックス ・マ ヵウス

キ条 項)を 盛 り込 ん だ 。 この 条 項 に よ り1988年3 月 に は,日 本 の鹿 島 建 設 と米 キ ー ウ ィ ッ ト建 設 の 合 弁 企 業 が獲 得 した ワ シ ン トン地 下 鉄 工 事 の一 番 札 が 取 り消 され た 。 この 合 弁 企 業 へ の 鹿 島建 設 の 出 資 比 率 は30%に す ぎな か った か ら,こ の取 消 し は い か に も厳 しい も の で あ り,わ が 国建 設 業 界 は 初 の締 め 出 し制 裁 に直 面 して,大 き な シ ョ ッ クを

受 け た 。

さ らに 米 政 府 は 日米 建 設 開 放 協 議 を 有 利 に 展 開 す る た め,1988年3月 末 ま で に 通 商 法301条(不 公 正貿易慣 行に対 す る制裁条項)を 発 動 す る と圧 力 を か け て きた 。 こ うした 圧 力 に よ り,一 応 の 日米 合 意 が 前 記 の よ うに,1988年5月 に 最 終 的 に成 立 し た 。 日米 建 設 摩 擦 は,当 初,米 国 建 設 会 社 の 対 日 進 出 が 立 ち遅 れ た た め,米 国 側 の 意 図 は,日 本 の

(7)

艮米貿易摩擦 の政 治学 国 内 市 場 の 開 放 よ り も,米 国 内 で の 日本 の建 設 会

社 の 受 注 を 抑 制 す る こ とに あ る とい う見 方 が 出た 。 しか し,こ う した 見方 は 甘 い とい わ ね ば な らな い 。

米 国 の建 設 ・エ ン ジ ニ ア リ ン グ業 界 は,ベ クテ ル を 先 頭 に し て 世 界 最 強 の 国 際 競 争 力 を 誇 っ て い る。 そ の米 国 企 業 が 日本 市 場 に魅 力 を 抱 か な い は ず は な い 。 日本 の建 設 市 場 は,1988年 度 に は63兆 5600億 円 に達 し,2年 連 続 で 世 界 一 の 規 模 に 達 す

る 見 込 み で あ る。 日本 の 建 設 市 場 に は,関 西 新 空 港 や 東 京 湾 横 断 道 路,明 石 海 峡 大 橋 な ど,ド ーバ ー 海 峡 トソネ ル に 匹 敵 す る1兆 円 以 上 の 巨大 プ ロ ジ ェ ク トが 自白 押 し の 状 況 で あ る。 事 実,1988年 9月 ま で に は,シ ャ ー ル 。ア ソ シエ イ ツ社 が 建 設 業 の 許 可 を 取 得 し,フ ル ア社,ベ クテ ル 社 の 大 手

も 日本 国 内 で の 受 注 体 制 を 整 え た 。

1988年5月 の 合 意 書 簡 の交 換 で は,米 国 の ベ リ テ ィ商 務 長 官 は 「書 簡 内 容 は 米 国 に と って 満 足 の い く もの で あ り,総 額170億 ドル(約2兆2000億 円) の 建 設 工 事 に 参 入 が 可 能 に な っ た 」 と評 価 した 。 こ の 結 果,米 国 内 の公 共 事 業 か ら 日本 の 建 設 会 社 を 締 め 出 す 措 置 を 盛 り込 ん で い た 予 算 関 連4法 案 に つ い て,そ の 条 項 が1989会 計 年 度(1988年10月

〜89年9月)か ら削 除 され た 。

しか し,日 本 の建 設 業 界 に は,部 外 者 に 理 解 で き な い 慣 行 や 不 合 理 性 が 存 在 す る。 こ の建 設 市 場 が ガ ラ ス張 りに な り,外 国 企 業 が 自 由 に 参 入 で き る ま で に は,な お 多 くの 問 題 が 残 って い る。 米 国 側 は1兆 円 や2兆 円 の 規 模 で 実 績 を あ げ な け れ ぽ, 再 び 強 硬 に 市 場 開 放 を 要 求 して く る こ とは,明 白 で あ る。 建 設 摩 擦 の 解 消 の た め に は,わ が 国 の 建 設 業 が 国 際 競 争 力 を 強 め,内 外 市 場 で 米 国 企 業 と 対 等 に 戦 え る 実 力 を 身 に つ け る こ とが 先 決 で あ る。

コメ摩擦 の 焦点

日 米 農 産 物 交 渉 の 歴 史 は 古 い が,1988年2月 に は わ が 国 の 農 産 物12品 目 の ガ ヅ ト ・パ ネ ル の 裁 定 で,プRセ ス チ ー ズ な ど10品 目 の 輸 入 割 当 制 度 が ガ ッ ト違 反(黒),雑 豆,落 花 生 の2品 目 に つ い て は 輸 入 枠 拡 大(灰 色)が 勧 告 さ れ,決 着 す る こ と に な っ た 。 ま た,特 筆 す べ き こ と は,1988年6月,

一21一

3年 後 の 自 由化 と い うこ とで,難 航 に 難 航 を 重 ね た 牛 肉 ・オ レ ン ジ問 題 に つ い て も,日 米 合 意 が 成 立 した 。 こ の 結 果,日 米 農 産 物 摩 擦 の 残 され た 最 大 の焦 点 は,コ メ の 自 由化 問 題 と い う こ とに な っ た 。

日本 に と って,コ メ の 自由 化 は 牛 肉 ・オ レ ン ジ 以 上 に 困 難 な 問 題 を は らん で い る3'日 本 の コ メ 市 場 だ け を 世 界 に対 し て 閉 鎖 して お き,他 方 で 日 本 が 世 界 市 場 で 限 りな く輸 出 シ ェ ア を拡 大 して い く とい うこ とが で き る の だ ろ うか 。 コ メ 自 由 化 の ゆ くえ を さ ぐ るに は,牛 肉 ・オ レ ン ジ 問 題 が ひ と つ の 先 例 と して 注 目 され る。

牛 肉 ・オ レ ン ジ摩 擦 の 歴 史 も古 い 。 日本 は東 京 ラ ウ ン ドの 多 角 的 貿 易 交 渉 の合 意 に も とつ い て, 牛 肉 ・オ レ ソ ジの 輸 入 枠 を 安 定 的 に 拡 大 し て き た が,1978年1月 の 牛 場 ・ス トラ ウ ス 協 定 の も とで , 牛 肉 ・オ レ ソ ジの 輸 入 割 当 て の再 検 討 を1982年 か

ら開 始,そ の 修 正 を考 慮 す る こ とに 合 意 し た。 こ の 結 果,米 国 側 は 輸 入 自 由 化 をmし て 要 求 ,日 本 側 は 防 戦 に つ とめ た 。 日本 側 は 年 間 輸 入 枠 の 拡 大 を 実 施 し た が,米 国側 は こ う した 譲 歩 に は 不 満 で あ り,1984年3月 末 で 期 限 が 切 れ る 日米 協 定 の 改 訂 に 際 し て は,強 く 自 由化 を 要 求 した 。1984年

4月 に な って,期 限 切 れ に な っ た が,や っ と4年 間 の 日米 牛 肉 ・オ レ ソ ジ協 定 が 成 立 した 。 この 筋 定 は,自 由化 を 認 め ず,日 本 側 が 輸 入 枠 を年 々拡 大 す る とい うもの で あ った 。

そ こで,米 国 側 は こ の 協 定 の 期 限 切 れ の1988年 3月 末 を 前 に して,強 硬 な 自由 化 を 主 張,「 自 由 化 の 時 期 明 示 を 条 件 と しな け れ ぽ,交 渉 に 応 ぜ ず 」 と,交 渉 の テ ー ブ ル に つ くこ と さ え 拒 否 した 。 そ して この 問 題 を ガ ヅ トへ 提 訴 す る と予 告 した 。 88年3月 末 と5月 は じめ の2回,佐 藤 農 相 が 訪 米 した が,自 由 化 後 の 課 徴 金 導 入 で対 決 し,佐 藤 ・ ヤ イ タ ー 会 談 は 物 別 れ とな り,米 国 は つ い に ガ ッ

トへ 提 訴 し た 。

88年5月4日,ガ ッ ト理 事 会 は パ ネ ル 設 置 を 決 定,こ の 結 果,ガ ッ トは 年 内 に も ク ロ裁 定 を 下 す 可 能 性 が あ った 。 米 国側 もガ ッ ト協 議 で 決 着 が 長 引 くこ とを 嫌 い,再 び 日米 の2国 間 決 着 を 目指 し,

ヤ イ タ ー 米 通 商 代 表 が 来 日,88年6月20日 の 佐 藤

(8)

22一 日米貿易摩擦 の政 治学

・ヤ イ タ ー 会 談 で ,つ い に 牛 肉 ・オ レ ソ ジの 自由 化 と い う歴 史 的 な 合 意 に 達 し た 。 そ の 内 容 は1991 年4月 か ら 牛 肉 ・オ レ ソ ジ 生 果 は 自 由 化,オ レ ン

ジ 果 汁 は92年4月 か ら 自 由 化,牛 肉 関 税 は 初 年 度 7Q%,2,3年 目 は10%ず つ 引 き 下 げ る と い う も の で あ っ た 。 輸 入 課 徴 金 は 米 国 側 の 強 硬 な 反 対 で, 日 本 側 が 断 念,最 後 ま で 争 点 と な っ た 輸 入 急 増 の 場 合 の 緊 急 輸 入 制 限 は,当 面3年 間 と さ れ,こ の 問 題 は ウ ル グ ア イ ・ ラ ウ ソ ドで 見 直 し を 行 う こ と に な っ た 。 日 本 の 農 業 団 体 が100年 戦 争 も辞 せ ず と 豪 語 し た 牛 肉 ・オ レ ソ ジ 自 由 化 問 題 も,こ う し て 決 着 を み た が,そ れ は"最 後 の 聖 域"と 主 張 さ れ る コ メ 自 由 化 問 題 の い く}を も 暗 示 し て い る 。 日本 の コ メ 自 由 化 問 題 が 大 き く ク ロ ー ズ ア ッ プ さ れ た の は,1986年9月10日 の 全 米 精 米 業 者 協 会 (RMARiceMillersAssociation)の 提 訴 で あ る 。 RMAは 日本 の コ メ 輸 入 禁 止 に つ い て,米 通 商 法 301条(不 公 正 貿 易 慣 行 に対 す る制 裁 条 項)を 適 用 せ よ,と 米 通 商 代 表 部(USTR)に 提 訴 し た の で あ る 。 こ れ に 対 し て,ヤ イ タ ー 通 商 代 表 は,86年10 月22日,シ ョ ッ キ ソ グ な 決 定 を 下 し た ・RMAの 提 訴 に 対 し て は 却 下 の 決 定 を 下 し た も の の,そ の

内 容 は わ が 国 に 対 し て は 深 刻 な 問 題 を 突 き つ け る も の で あ っ た 。

米 通 商 代 表 部 の 提 訴 却 下 は,日 本 側 と し て も 評 価 で き る も の だ が,そ の 決 定 は 日 本 の コ メ が 公 正 で あ る こ と を 認 め た わ け で は な い 。 つ ま り301条 の 適 用 を 却 下 し た が,そ の 代 わ り ガ ッ トの ウ ル グ

ア イ ・ラ ウ ソ ドの 多 国 間 協 議 で こ の 問 題 を 取 り あ げ,も し 日本 側 が こ の 交 渉 で コ メ の 自 由 化 に 前 進 を 示 さ な け れ ぽ,改 め てRMAの 提 訴 を 審 議 す る,

と い う も の で あ っ た 。 つ ま り,条 件 つ き の 却 下 で あ っ た 。

そ れ よ り も も っ と 日本 に と っ て 重 大 な こ と は, 米 政 府 機 関 で あ るUSTRが こ の 決 定 に よ っ て 初 め て 公 式 に 日 本 の コ メ の 輸 入 制 限 が ガ ッ ト違 反 で あ る と判 定 し た こ と で あ る 。1970年 代 か ら80年 代 に か け て,日 米 経 済 摩 擦 は 激 し さ を 加 え て き た が, 不 思 議 な こ と に 米 国 は コ メ の 自 由 化 に つ い て は, 公 式 に は 強 く要 求 し な か っ た 。 米 農 務 省 の 高 官 も

フ メ だ け は 聖 域 と認 め,そ の 自 由 化 に 触 れ る こ と

は,外 交 上 の タ ブ ー と し て き た 。 し か し,86年10 月 の 却 下 決 定 で は,米 政 府 は 明 ら か に 態 度 を 一 変

さ せ た わ け だ 。

日本 政 府 は,従 来 コ メ,麦,専 売 品 な ど10品 目 に つ い て は,国 家 貿 易 品 目 と し て ガ ッ ト議 定 書 に 明 記 さ れ て お り,自 由 化 義 務 は 免 除 さ れ た と い う 立 場 を と っ て き た 。 コ メ は 牛 肉 ・オ レ ン ジ と は 異 な り,22品 目 の 農 産 物 残 存 輸 入 制 限 品 目 に は 含 ま れ ず,ガ ッ トが 当 初 か ら輸 入 制 限 を 認 め た も の と 考 え て き た 。 事 実,日 本 は ガ ッ ト加 盟 以 来,17条

4項aの 規 定(国 家 貿 易 品 目の通 告 義 務)に し た か っ て,通 常3年 に1回,食 管 制 度 の 運 用 状 況 を ガ ッ トを 通 じ て 各 加 盟 国 に 報 告 し て き た 。 い ま ま で は,こ れ に 対 し て 異 議 が 出 な か っ た 。86年10月 の 決 定 で,米 政 府 が 日本 の 食 糧 安 全 保 障 的 立 場 を 認 め な い と い う態 度 を と っ た 背 景 に は,米 国 の コ メ の 輸 出 シ ェ ア が 激 減 し,コ メ の 世 界 的 過 剰 の 下 で,

コ メ に 関 連 す る 業 者 が 苦 境 に 立 っ た と い う事 情 が あ る 。RMAの 提 訴 理 由 に よ る と,米 国 の コ メ 輸 出 量 は 生 産 量 の54%に 達 し,輸 出 比 率 が 高 い が, 世 界 の コ メ 輸 出 に 占 め る 米 国 の 市 場 シ ェ ア は,10 年 前 の28%か ら18%へ と大 幅 に 低 下 し た と い う。

そ こ で,世 界 最 大 の コ メ 消 費 市 場 で あ る 日本 の 輸 入 制 限 を 認 め る 余 裕 が な く な っ た とみ て よ い 。

1988年11月8日 の 米 大 統 領 選 挙 日 を 目 前 に し て, 再 び 日 本 の コ メ 自 由 化 問 題 が ク ロ ー ズ ア ッ プ し た 。 RMAが88年9月14日,日 本 の コ メ 市 場 開 放 を 求 め て,通 商 法301条 提 訴 を 再 び 起 こ し た 。 こ の 提 訴 は,大 統 領 選 挙 戦 と の 関 連 で 注 目 さ れ た 。 と い うの は,こ の 提 訴 に 対 し て 米 通 商 代 表 部 は45日 以 内 に 決 定 を 下 さ な け れ ぽ な らな い こ と に な っ て い る が,そ れ は11月8日 の 大 統 領 選 挙 日直 前 と い う こ と で,も し 却 下 の 決 定 を 下 せ ば,共 和 党 の ブ ッ シ ュ大 統 領 候 補 に 不 利 と 判 断 さ れ た か ら で あ る 。 加 州 米 の 産 地 の カ リ フ ォル ニ ア 州 は,47名 の 大 統 領 選 挙 人 を 抱iる 大 票 田 で,大 統 領 選 挙 人 総 数 の

1割 近 くを 占 め る 。 こ の 大 票 田 を 失 う こ と は,共 和 党 に と っ て は 痛 い 。 そ こ で ブ ッ シ ュ候 補 も,直 ち にRMAの 提 訴 を 受 理 す べ き で あ る と 言 明 し た 。

こ う し て,88年10月28日,ヤ イ タ ー 通 商 代 表 は 苦 渋 の 決 定 を 下 し た 。 そ れ は,条 件 つ き 却 下 で あ

(9)

日米貿易摩擦 の政治学 った 。 しか も そ の 条 件 は,86年 の 前 回 の 条 件 よ り

も厳 しい も の で あ った 。 ヤ イ タ ー通 商 代 表 は,88 年12月5日 か ら7日 に カ ナ ダ の モ ン トリオ ー ル で 開 か れ る ガ ッ トの 中 間 見直 し の た め の 閣 僚 会 議 で,

日本 が 「進 展 」 を 示 さ な い場 合 に は,直 ち にRM Aに 再 提 訴 を 求 め る こ とを 明 らか に した 。 米 国 側 は,v一 ガ ソ政 権 の終 わ る前 に,提 訴 の 決 着 を つ け る方 針 で,政 権 交 代 に よ る時 間 引 き延 ば しに は

ク ギ を 刺 した わ け だ 。

88年10月 のUSTRの 却 下 決 定 は,第1に 提 訴 を 受 理 す る よ り も,却 下 して ガ ッ トの多 国 間 協 議 に 持 ち込 ん だ ほ うが,日 本 の コ メ市 場 へ の 参 入 と い う 目的 に か な うとい う判 断 に よ る もの で あ っ た 。 第2に301条 の 制 裁 を 適 用 す る と 日米 関 係 全 般 に 悪 影 響 を 及 ぼ し,ウ ル グ ア イ ・ラ ウ ソ ドの農 業 交 渉 で も 日本 の協 力 が 得 られ な くな る と判 断 した 。 第3に,大 統 領 選 挙 戦 で は 共 和 党 の ブ ッシ ュ候 補 が 圧 倒 的 に 優 勢 に立 った こ とで,却 下 して も大 き

な 影 響 が な い 状 況 に な った こ とで あ る。

こ うみ て くる と,日 本 の コ メ 自 由化 問 題 はUS TRの 却 下 に よ って も,決 して 事 態 は 好 転 した わ

け で は な く,日 本 に と って は い っそ う厳 し さを 増 した とい っ て よい 。 しか し,RMAの コ メ 提 訴 は, は し な く も 日米 経 済 摩 擦 の 背 景 に 米 国 の ビ ッ グ ビ

ジ ネ ス=多 国 籍 企 業 グル ー プが 存 在 す る,と い う 一 般 的 メ カ ニ ズ ムの 妥 当 性 を 明 らか に し た よ うに 思 え る。 とい うの は,RMAの コ メ提 訴 の主 導 権 を握 っ た の は,米 国 で 活 躍 す る穀 物 メ ジ ャ ー,つ ま り多 国 籍 的 な 巨 大 穀 物 専 門 商 社 で あ る可 能 性 が 強 い か らで あ る。RMAは そ れ まで は 「米 国 農 業 界 で もほ とん ど無 名 の 存 在 」(日 本経済新 聞,1986 年9月28日)だ った が,コ メ提 訴 に よ り急 に 脚 光

を 浴 び た グル ー プで あ る。 調 査 に よ る と,カ リフ ォル ニ ア州 とル イ ジ アナ 州 な どを 拠 点 とす る精 米 業 者27社 で 構 成 され,傘 下 の 農 協 に よ る コ メ生 産 は 米 国全 体 の65%を 占め,ま た23社 の コ メ輸 出 業 老 が 準 会 員 と し て 加 盟 し,米 国 の コ メ輸 出 の ほ ぼ 全 量 を扱 っ て い る。RMAの 中 で ワ シ ソ トン政 界 に 影 響 力 を もつ の は,輸 出 業 者 の 穀 物 メ ジ ャ ー で あ るか ら,そ の 提 訴 は 多 国 籍 穀 物 商 社 の 主 導 で 進 め られ た とみ られ る。

米国通商政策の方向

一23一

日米 貿 易 摩 擦 の 本 質 は,現 象 面 を 追 うだ け で な く,構 造 的 ・歴 史 的 に 分 析 し な け れ ば,理 解 す る こ とは で き な い 。 第2次 世 界 大 戦 後 の 自由 ・無 差 別 ・多 角 化 の原 則 は,IMFとGATTの 基 本 原 則 と され,こ の 原 則 に基 づ い て ブ レ トン ・ウ ッズ 体 制 が 構 築 され た が,そ れ は 決 して 万 古 不 易 の 原 則 で は な か っ た 。 自 由 ・無 差 別 ・多 角 化 の 原 則 は, 大 国 で あ る米 国 の 強 大 な 国 際 競 争 力(e米 多国籍 企 業 グル ープの優位性)を 反 映 した,1つ の 政 治 的 イ デ オ ロ ギ ー で あ っ た とみ るべ きで あ る。 事 実,第

2次 大 戦 後,こ の 原 則 を 高 らか に 唱 え,こ の旗 印 の 下 で 米 国 の 製 品 と資 本 は グ ロ ーバ ル な進 撃 を 破 竹 の 勢 い で 開 始 した の で あ る。 自 由 貿 易 の イ デ オ Rギ ー を唱 え,そ れ を 現 実 に維 持 した の は,米 国 の パ ワー で あ った 。

しか し,1970年 代 に 米 国 産 業 の競 争 力 が 失 わ れ, 日本 やEC,さ らにNIES(新 興工i業経済地 域)の 追 上 げ が 急 速 に 高 ま る と,自 由主 義 イ デ オ 揖ギ ー も 後 退 した 。 こ うし て米 産 業 や そ の 主 導 権 を 握 る多 国 籍 企 業 は 自 由 な 国 際 競 争 に 対 処 で き な くな る と, 公 正 貿 易(FairTrade)を 主 張,西 欧 も 同調 し て 新 保 護 主 義(英 ヶンブ リ ッジ学派)や 管 理 貿 易 論 を 展 開 す る に 至 った 。 こ うして,世 界 貿 易 額 の 約 半 分 が,鉄 鋼,自 動 車,半 導 体 に み られ る よ うに,

自主 規 制 そ の他 の 規 制 を 受 け る よ うに な り,世 界 貿 易 は 管 理 貿 易 の 時 代 に 入 っ た とい わ れ た 。 しか し,管 理 貿 易 は 自由 貿 易 主 義 と保 護 貿 易 主 義 の 中 間 的 概 念 とい わ れ る よ うに,1930年 代 の 保 護 主i義

とは 異 な る もの で あ る。 半 面,ガ ッ トの 自由 ・無 差 別 ・多 角 化 の 原 則 に は 明 らか に違 反 す る とい う 性 格 を も っ て い る。 よ く検 討 す る と,こ うし た 中 間 的 概 念 こ そ1970年 代,80年 代 の 米 産 業 とそ の 多 国籍 企 業 に と っ て,最 も好 ま しい も の で あ る こ と が わ か る。 つ ま り,米 国 に と っ て は 「建 設 」型 の 国 際 競 争 力 の 強 い 産 業,例 え ば 銀 行 を 先 頭 とす る サ ー ビス 産 業 か ら場 合 に よ って は 農 業 ま で も含 む, 強 い 産 業 で は,他 国 の 市 場 開 放 を 力 つ くで 実 現 で

き る が,「 半 導 体 」型 の 弱 い 産 業,し か も戦 略 的

(10)

一24一 日米貿易摩擦 の政治学 に 重 要 な産 業 の 場 合,例 え ば 鉄 鋼,自 動 車S工 作

機 械 な どで は,国 際 競 争 力 の 強 い 国 に 対 して 輸 出 自主 規 制 を 求 め,場 合 に よ っ て は 国 防 条 項 の圧 力 に よ り強 引 に保 護 主i義的 効 果 を あ げ る。

こ う した メ カ ニ ズ ムは,米 国 の 通 商 政 策 と通 商 法 に そ の ま ま反 映 さ れ て い る。1988年8月 に 曲折 を 経 て 成 立 し た 米 国新 通 商 法 を た た き台 に載 せ て, そ の意 義 を論 述 して い こ う。

米 国 の包 括 通 商 法 案 は,1987年4月 に 下 院 で 可 決 され,同 年7月 に上 院 も可 決,下 院 案 と上 院 案 に つ い て 両 院 協 議 会 が 開 か れ,1988年4月 に 一 本 化 さ れ た 。 そ の 最 終 案 は88年4月21日 に 下 院 が 312対107の 賛 成 多 数 で 可 決,賛 成 は 大 統 領 の 拒 否 権 を覆 せ る3分 の2以 上 で あ っ た 。 次 い で4月27

日,米 上 院 が63対36で 可 決 し た が,賛 成 は3分 の 2を 割 っ た 。 こ う して 米 通 商 法 案 は88年6月,レ ー ガ ソ大 統 領 の拒 否 権 成 立 で い った ん 廃 案 とな っ た 。 しか し,大 統 領 の 拒 否 権 発 動 の 理 由 と され た

「工 場 閉 鎖 事 前 通 告 条 項 」 と 「ア ラ ス カ産 石 油 製 品 輸 出 制 限条 項 」 の2条 項 を 削 除 し た 形 で,再 び 88年7月 に下 院,8月 に 上 院 が そ れ ぞ れ3分 の2 を 超 す 大 差 で 可 決 した 。 レー ガ ソ大 統 領 も拒 否 権

を 発 動 せ ず,88年8月23日,同 法 案 に 署 名,や っ と新 通 商 法 が 成 立 した 。

日本 の マ ス コ ミは 米 包 括 通 商 法 の 成 立 に 際 して, 保 護 主 義 化 と対 日制 裁 の2点 を 強 調 して 報 道 し た 。

しか し,こ れ は 正 確 で は な い 。 確 か に保 護 主 義 的 な 性 格 の 強 い 条 項 と して74年 通 商 法301条(不 公 正貿易慣 行 に対 す る制裁)の 強 化 が あ げ ら れ る。 こ の 条 項 は,制 裁 発 動 の決 定 権 を 大 統 領 か ら米 通 商 代 表 部 に 移 した も の で,発 動 が 容 易 に な った 。 ま た,ス ー パ ー301条 の 創 設 が あ げ られ る。 これ は 市 場 障 壁 の あ る国 と期 限 を つ け て 交 渉 し,応 じな い 場 合 は 報 復 措 置 を 検 討 す る とい うも の で あ る 。 見 方 に よ って は,最 も懸 念 され る の は,知 的 所 有 権 を 侵 害 した 外 国 企 業 に 対 す る 制 裁 を 容 易 に した 関 税 法337条 の 改 正 で あ る 。 これ に よ って 特 許 権 な どを 侵 害 した 商 品 の 輸 入 差 し止 め は,被 害 の 立 証 が 不 要 とな っ た 。

対 日条 項 と して は,日 本 の建 設 市 場 の 開 放 を 求 め る建 設 市 場 調 査 条 項,安 全 保 障 の た め に 大 統 領

が 外 国 に よ る 米 企 業 の 買 収 を 制 限 で き る 対 外 投 資 規 制 条 項 が あ り,ま た コ コ ム に 違 反 し た 東 芝 機 械 と親 会 社 に 対 す る 東 芝 制 裁 条 項 や 国 債 市 場 が 閉 鎖 的 な 国 の 証 券 ・銀 行 に 米 国 債 の 公 認 デ ィ ー ラ ー 資 格 を 認 め な い 金 融 報 復 条 項 が あ る 。

こ の 新 通 商 法 は 審 議 の 過 程 で 下 院 案 に あ っ た ゲ ッ パ ー ト条 項(対 米 過 剰 貿 易 黒 字 国 に 対 して は1992年 まで 毎 年 黒 字 幅 を10%ず つ 削 減 させ る とい う 条 項)や 上 院 案 に あ っ た 日本 を 「敵 対 貿 易 国 」(adversarial tradecountry)と 呼 ぶ 言 葉 は 削 除 さ れ た 。 こ うみ て く る と,前 記 の 保 護 主 義 的 な 性 格 の 条 項 や 対 日 条 項 を た だ ち に 保 護 主 義 条 項 と き め つ け る こ とは 妥 当 で は な い 。301条 の 制 裁 条 項 に し て も,運 用 に よ っ て は 保 護 主 義 に 傾 く が,文 字 通 り不 公 正 貿 易 慣 行 の 是 正 に 適 用 さ れ れ ぽ,市 場 開 放 へ の 圧 力 と な り,自 由 で 公 正 な 貿 易 を 維 持 す る の に 役 立 つ と も い え る 。 米 国 側 か らす れ ば,新 通 商 法 は,こ の 法 律 の 原 名 が 語 っ て い る よ う に 「88年 包 括 通 商 ・競 争 力 改 革 法 」(OmnibusTradeandC・mpet‑

itivenessRef・rmAct)で あ り,米 産 業 の 競 争 力 を 強 め る た め の 法 律 で あ る 。 そ の 背 後 に は,自 由 ・ 無 差 別 ・多 国 間 主 義 を 原 則 と す る ガ ッ ト体 制 か ら 公 正 貿 易 と2国 間 主 義 ・相 互 主 義 に よ り,新 し い 自 由 貿 易 圏 を 目指 す 米 国 通 商 戦 略 の 大 転 換 が 読 み と れ る 。

2国 間協 定 と 自由貿 易 圏

レ ー ガ ソ米 大 統 領 は,1987年10月 は じ め,米 加 両 政 府 が 米 加 自 由 貿 易 協 定 に つ い て 合 意 に 達 し た と き,そ れ は 「歴 史 的 な 合 意 」 で あ る と語 っ た 。 こ の 協 定 の 成 否 は,カ ナ ダ 側 か らは,米 加 関 係 の 分 岐 点 で あ り,自 由 貿 易 か 保 護 貿 易 か の わ か れ 目 とみ られ た6)。 し か し,レ ー ガ ン政 権 は2国 間 主 義 の 米 加 自 由 協 定 に は,も っ と重 要 な 意 義 を 見 出

し て い た と思 わ れ る 。

2国 間 の 自 由 貿 易 協 定 に つ い て は,ガ ッ ト体 制 に 代 わ る 新 し い 貿 易 体 制 の ひ な 型,と い う積 極 的 評 価 と,保 護 主 義 を 背 景 と し た 経 済 ブ ロ ッ ク化 へ

の 引 き 金,と い う消 極 的 評 価 とが あ る7)。

い ず れ に し て も,米 加 自 由 貿 易 協 定 に よ っ て 示

(11)

日米 貿易摩擦 の政治学 さ れ た よ うに,米 国 は ガ ッ トの 多 国 間 主 義 を 離 脱

して,2国 間 主 義 の 方 向 を 明 確 に し た の で あ る。

い ま行 わ れ て い る ガ ッ トの ウル グ ア イ ・ラ ウ ソ ド が 大 き な 成 果 を あ げ な け れ ぽ,米 国 方 式 の2国 間 自 由 貿 易 協 定 が 世 界 貿 易 に お い て支 配 的 に な る可 能 性 もあ る。

米 加 自由 貿 易 協 定 は,1988年1月 に 正 式 に調 印 され,同 年8月 米 下 院 が 可 決,同 年9月 に は 上 院 も可 決,米 国 側 の批 准 手続 きは 完 了 した 。 次 い で, 同 年11月 の カ ナ ダ総 選 挙 で 米 加 自 由 貿 易 協 定 を 推 進 した 与 党 の進 歩 保 守 党 が 過 半 数 を 制 した こ と に よ り,カ ナ ダ側 も 同 協定 の 批 准 が 確 実 に な り, 1989年1月 か ら発 効 す る こ とに な った 。

この 協定 の 発 効 に よ り,北 米 に は 一 大 貿 易 圏 が 誕 生 す る こ とに な っ た 。1986年 に つ い て み る と, 米 加 の 輸 出 入 合 計 は 年 間1242億 ドル に 上 り,巨 大

な 自由 貿 易 市 場 が 形 成 され る こ と に な る。 同年 の 米 ・EC貿 易 は1327億 ドル,米 ・日本 貿 易 はX124 億 ドル で あ った か ら,ま さ に 世 界3大 貿 易 圏 の1

つ とい っ て よい 。

米 加 自 由貿 易 協 定 の 内 容 は 注 目す べ き も の が あ る。 ひ と言 で い え ば,第1に 両 国 間 の 関 税 ・非 関 税 障 壁 を,農 産 物 を 含 め て10年 間 で 段 階 的 に 撤 廃 す る とい う もの で あ る。 関 税 ゼ ロだ け で な く,金 融,コ ミュ ニ ケ ーシ ョ ンな どサ ー ビス,投 資 に 至

る ま で 自由 化 す る。 第2に 政 府 調 達 に つ い て も開 放 的 で 競 争 的 な も の に し,知 的 所 有 権 の保 護 を 強 化 し よ う と し て い る 。 第3に,貿 易 紛 争 を 処 理 す

る特 別 機 関 を 新 設 す る こ とが 規 定 され て い る。

米 加 両 国 は1986年5月 か ら正 式 に 自 由貿 易 協 定 の交 渉 を 開 始 した が,こ の協 定 は カ ナ ダ を 米 国 に 売 り渡 す もの だ とい う反 対 論 を 含 め て,国 を2分 す る よ うな議 論 を 呼 ん だ 。 また,貿 易 紛 争 処 理 の 方 法 や 米 国 の 新 しい 包 括 的 通 商 法 との 整 合 性,カ ナ ダ側 の 各 種 補 助 政 策 を め ぐっ て も,交 渉 は 難 航

した8)。 し か し,カ ナ ダ も1988年11月 の 総 選 挙 で, 米 加 協 定 を 支 持 し,歴 史 的 な選 択 を 決 定 し た の で あ る。

米 加 自 由 貿 易 協 定 は,1984年 ごろ か ら レー ガ ソ 政 権 が 打 ち 出 した2国 間 主 義 とい う原 則 の 延 長 線 上 に あ る も の だ 。 当 時 の 米 通 商 代 表 部 の 上 席 補 佐

一25一

官 フ ェ ケ テ ク テ ィ は,米 政 府 誌 「エ コ ノ ミ ッ ク ・ イ ン パ ク ト」(1984年1月 号)に お い て 「わ れ わ れ は 多 角 的 交 渉 に 加 え て,さ ま ざ ま の2国 間 交 渉, 複 数 国 間 交 渉,地 域 的 交 渉 で 補 足 す る こ と に な ろ

う 」 と述 べ た9)。

レ ー ガ ソ 政 権 は,す で に 米 ・イ ス ラ エ ル 自 由 貿 易 地 域 法 に 基 づ い て,イ ス ラ エ ル と の 閲 に 自 由 貿 易 協 定 と い う2国 間 協 定 を 結 ん で い る 。 こ の 協 定 は,米 加 協 定 と ほ ぼ 同 じ で サ ー ビ ス 貿 易 を 含 む 。 1995年1月1日 ま で に す べ て の 産 品 の 関 税 を 撤 廃 し,ま た イ ス ラ エ ル の 輸 出 補 助 金 の 撤 廃 を 規 定 し て い る 。 し か し サ ー ビ ス の 規 定 に つ い て は 拘 束 力 な し と し て い る 。 こ の 協 定 は1985年9月 に 発 効 し た 。

ま た,1987年11月 に は 米 国 は メ キ シ コ と の 間 で も,2国 間 の 自 由 貿 易 協 定 を 締 結 す る こ と で 大 枠 の 合 意 に 達 し,そ の 協 定 に 調 印,締 結 の た め の 交 渉 を 開 始 し た 。 さ ら に,ASEAN諸 国 と の 間 で も,

レ ー ガ ソ政 権 は 自 由 貿 易 協 定 の 締 結 を 打 診 し て お り,台 湾 と の 間 で は す で に 協 議 が 進 め ら れ て い る 。 日本 に 対 し て も 打 診 が あ り,米 国 は ゆ くゆ くは 日 本 を 含 む 西 太 平 洋 諸 国 と の 自 由 貿 易 圏 づ く りを め

ざ す と い う見 方 も あ る 。

事 実,米 政 権 は,ウ ル グ ア イ ・ ラ ウ ソ ド開 始 交 渉 で は,サ ー ビ ス 貿 易 の 自 由 化 を 含 ま せ る た め,

も し途 上 国 が そ れ に 反 対 す る な ら ば,ガ ッ トを 回 避 し て,イ ス ラ エ ル や カ ナ ダ の よ うに2国 間 協 定 に よ りサ ー ビス 貿 易 の 自 由 化 を 推 進 す る と 示 唆 し た こ と が あ る 。 銀 行,保 険 コ ソ ピ ュ ー タ ・ ソ フ トな ど の サ ー ビ ス 部 門 は 米 国 の 強 い 分 野 で あ り, 自 由 化 は 米 国 産 業 と そ の 多 国 籍 企 業 に と っ て 好 ま し い こ と で あ る 。 こ う し た 分 野 で は,ガ ッ トの 多 国 間 主 義 に 反 し て,2国 間 主 義 で 自 由 化 を 推 進 し

よ う と い うの が,米 国 の 通 商 戦 略 で あ る 。 1992年 にEC統 合 が 行 わ れ,世 界 経 済 の 一 角 に 一 大 経 済 ブ ロ ッ ク が 実 現 す る。 丁 度,そ れ に タ イ ミ ソ グ を 合 わ せ て,米 国 も2国 間 協 定 に よ り一 大 自 由 貿 易 圏 を 形 成 し て い く と 思 わ れ る 。 『大 国 の 興 亡 』 の 著 者 ポ ー ル ・ケ ネ デ ィ は 次 の よ うに 結 論 し て い る 。 「経 済 成 長 の ぱ らつ き は,遅 か れ 早 か れ,世 界 の 政 治 と軍 事 力 の バ ラ ン ス に 変 化 を 引 き

(12)

一26‑一 日米貿 易摩 擦 の政治学 起 こ さ ず に は い な い 。 こ れ こ そ,4世 紀Y'わ た る

大 国 の 興 亡 を 跡 づ け る な か で 明 確 に な っ た パ タ ー ン で あ る 。 し た が っ て,こ の20〜30年 間 に 世 界 の 生 産 の 中 心 に 生 じ た 異 例 な ほ ど の 急 激 な 変 化 は, 今 日 の 指 導 的 な 大 国 の 総 合 戦 略 に 影 響 を お よ ぼ さ な い は ず が な い の で あ る ユ。)。」

1ノー ガ ソ政 権 は,米 国 の 産 業 ・政 府 ・議 会 複 合 体 の 要 求 に 従 っ て,競 争 力 に ふ さ わ し い 戦 略 の 転 換 に 着 手 し た 。 そ れ が2国 間 主 義 と 自 由 貿 易 圏 構 想 で あ る 。 次 に 登 場 し た ブ ッ シ ュ政 権 は,小 物 の 実 務 型 政 権 と し て,よ り忠 実 に 産 業 ・政 府 ・複 合 体 の 利 益 を 志 向 す る と み て よ い 。 世 界 の 政 治 経 済 体 制 は,じ ょ じ ょに 自 由 ・無 差 別 ・多 国 間 の ブ レ

ト ソ ウ ッ ズ 体 制=ガ ッ ト体 制 か ら,管 理 貿 易 型 の プ ロ ヅ ク 経 済 体 制 へ 移 行 し つ つ あ る と いiる 。

1)石 川 博 友 著 『日米 摩 擦 の 政 治 経 済 学 』 ダ イ ヤ モ ン ド社, 1985年,p.80〜82.

2)C.V.プ レ ス トウ ィ ッ ツJr.t,国 弘 正 雄 訳 『日 米 逆 転 』 ダ イ ヤ モ ン ド社,1988年,p.96,(ClydeV.Prestowitz,

Jr,Trading、Places,BasicBooks,NewYork,1988.>

3)前 掲 訳 書 『日 米 逆 転 』p.40^‑41.

4)週 刊 ダ イ ヤ モ ン ド 編 集 部 訳 『ジ ャ パ ・ハ イ テ ク 産 業 の

脅 威 』 ダ イ ヤ モ ン ド 社,1983年,p.63(AraAssessment ofU,S.CompetitivenessinHighTechnologyIndus‑

tries,byU.S.DepartmentofCommerce,Interna‑

tionalTradeAdminis七ra七ion,Feb.1983.) 5)前 掲 訳 書 『 日 米 逆 転 』p.317^‑318.

6)AdamBromke,KimRichardNossal.ATurning pointinU.S.‑CanadianRelations,ForeignAffairs, Fall1987.p.148.

7)石 崎 昭 彦 『世 界 経 済 「2大 ブ ロ ッ ク 化 」 の 衝 撃 』 エ コ ノ

ミ ス ト,1988年8月30日 号,

8)RobertM.Stern.PhilpH.Trezise,JohnWhalley, Editors,PerspectivesonAU.S.‑CanadianFreeTrade Agreement,TheBrookingsInstitution,Washington

D.C.,1987.

9)TradeNegotiations:TheNextSteps,AnInterview withGezaFeketekuty,SeniorAssistantU.S.Trade Representative,EconomicImpact,1984/1

10)ポ ー ル ・ ケ ネ デ ィ,鈴 木 主 税 訳 『大 国 の 興 亡 』 ㈲ 草 思 社, 1988年,p.240.(PaulKennedy,TheRiseandFaliof

theGreatPowers,RandomHouse,NewYork,1987.

p.437)

参照

関連したドキュメント

権利

第 2005.60 号の品目別原産地規則 : CC (第 0709.20 号の材料又は第 0710.80 号のアスパラガス

[r]