九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
有限温度での中間子遮蔽質量と極質量に対する有効 模型
石井, 優大
https://doi.org/10.15017/1806807
出版情報:Kyushu University, 2016, 博士(理学), 課程博士 バージョン:
権利関係:Fulltext available.
(様式6-2)
氏 名 石 井 優 大
論 文 名 Effective model for meson screening and pole masses at finite temperature
(有限温度での中間子遮蔽質量と極質量に対する有効模型)
論文調査委員 主 査 九州大学 教 授 八尋 正信 副 査 九州大学 教 授 野呂 哲夫 副 査 九州大学 准教授 清水 良文
論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨
ハドロンは、クォーク3つから構成されるバリオンと、クォークと反クォークからなるメソ ンに大別される。多くの物質はハドロンから構成されており、ハドロンの性質を解明すること は物質の性質を解明することと密接に関わっている。現在、ハドロンの性質として注目されて いるのがメソン質量の温度依存性であり、重イオン実験と第一原理計算である格子量子色力学
(格子QCD)とによって、その温度依存性が議論され始めている。
メソンの質量には、通常の質量(ポール質量)と遮蔽質量の2種類の質量がある。ポール質 量は時空内を時間軸方向に粒子が伝搬する時の質量であり、遮蔽質量は空間軸方向に粒子が伝 搬する時の質量である。温度が有限の時、両者は異なった値を持つ。ポール質量の温度依存性 は実験で原理的には測定できるが、依然大きな誤差を持ち、特定のメソンに限られている。一 方、第一原理計算である格子 QCD計算では、ポール質量の温度依存性の算出は非常に難しく、
主に遮蔽質量の温度依存性が算出されている。このため、「有限温度おける、メソンのポール質 量と遮蔽質量の関係の解明」は最新の課題となっている。この課題は、宇宙初期で起こる QCD 相転移を理解し、その後の物質の形成機構を知る上で重要であり、現在、ハドロン物理学にお ける最も重要な課題の1つになっている。
本研究者は上記課題に取り組み、以下の重要な成果を得た。
(1)有効模型を用いて遮蔽質量を導出することは、これまで、難問とされてきた。この問 題を解決し、簡便的に遮蔽質量を導出する方法を考案した。
(2)格子 QCD計算で求められたメソンの遮蔽質量の温度依存性を再現する「信頼できる有 効模型」を考案した。
(3)「信頼できる有効模型」を用いて、種々のメソンのポール質量の温度依存性を予言した。
特に、η’メソンに対しては、予言値が実在する実験値と無矛盾であることを示した。ポー ル質量の温度依存性と遮蔽質量の温度依存性の間に近似的関係式があることも発見した。
これらの結果は、ハドロン物理学の分野において価値ある業績と認められる。よって、本研 究者は博士(理学)の学位を受ける資格があるものと認める。