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性犯罪者の犯行の否認・責任の最小化と再犯との関連の検討

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性犯罪者が,しばしば犯行を否認したり,自らの責 任を最小化したりすることは,多くの研究者や臨床家 に よ っ て 報 告 さ れ て い る(Barbaree, 1991; Freeman, Palk, & Davey, 2010; Maruna & Mann, 2006)。性犯罪者 の否認の発生率について,Nunes et al.(2007)は,地 域のクリニックに通院している性犯罪者のうち 28% の者が自らの犯行の全てを否認していたと報告してい る。 ま た,Hood, Shute, Felizer, & Wilcox(2002) は, 刑事施設に収容された性犯罪者のうち否認者が 33% を占めていたと報告している。否認の発生率は,否認 の定義の在り方(否認の有無の二分法での把握か,犯 行の全部否認から一部否認までを連続体として把握す るか)や,刑事司法のどの段階で否認を測定するか(検 挙時,裁判時,有罪判決確定後,刑事施設収容後)の 相違により値が変動し,また,その国や管轄地域の法 体系や司法制度の在り方,責任の受容や罪を認めるこ とをめぐる文化的規範等によっても影響を受けると考 えられるが,我が国の司法心理臨床の実務においても, 性犯罪者に否認や最小化がしばしば認められることが 指摘されている(藤岡, 2006)。 こうした性犯罪者の否認や最小化は,近年,欧米の 刑事司法に携わる実務家や研究者によって注目を集め ている(McGrath, Cumming, Burchard, Zeoli, & Ellerby, 2010)。その理由は,性犯罪者の否認が,処遇プログ ラムへの編入の可否や刑事施設からの仮釈放の許否判 断等の重要な意思決定の判断要素の 1 つとされること が多いことによる。たとえば,集団での認知行動療法

性犯罪者の犯行の否認・責任の最小化と

再犯との関連の検討

1

高橋 哲

 

西原 舞

 法務総合研究所

Examination of the relationship between denial/ minimization and recidivism among sex offenders Masaru Takahashi and Mai Nishihara (Research and Training Institute, Ministry of Justice) It is widely accepted that sex offenders frequently deny their offense or minimize their responsibility, and there is controversy regarding how this should be approached in psychological interventions. However, few studies have examined the relationship between denial/minimization and recidivism, and the results are inconsistent across the limited body of research. The purpose of this research was to estimate the prevalence of denial/minimization in sex offenders and examine its relationship with recidivism. We examined 1,484 sex offenders who had been convicted from July 2008 to June 2009 in Japan. The prevalence of both denial and minimization was 16.3% overall. In addition, the relationship between denial/minimization and recidivism was investigated for 753 convicts whose sentences had been suspended. Controlling for possible confounding variables, including empirically known risk factors, logistic regression revealed that denial/minimization did not significantly increase the possibility of both any and sexual recidivism during the 5-year follow-up period. Implications for psychological intervention and future research are discussed.

Key words: sex offender, denial, minimization, recidivism, risk factor.

The Japanese Journal of Psychology 2017, Vol. 88, No. 5, pp. 460–469

J-STAGE Advanced published date: November 10, 2017, doi.org/10.4992/jjpsy.88.16060

Correspondence concerning this article should be sent to: Masaru Takahashi, Research and Training Institute, Ministry of Justice, Hinode, Urayasu 279-0013, Japan. (E-mail: [email protected]

1 本研究は,法務総合研究所が行った「性犯罪に関する総合

的研究」(2016)の未公表データを用いて検討したものである。 本研究結果の一部は,第 43 回日本犯罪社会学会大会(2016)で 発表された。なお,本稿中,意見や評価にわたる部分は著者ら 個人の見解であり,所属する機関を代表するものではない。

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をベースにした処遇プログラムへの編入を例に取る と,他の受講者への影響を考慮して処遇プログラムか ら一律に除外すべきと主張する者もいれば,再犯率の 低減を目指して可能な限り処遇プログラムに組み込む べきと主張する者もいることが指摘されている(Ware, Marshall, & Marshall, 2015)。実際,米国及びカナダ全 土において,性犯罪者を対象とした約 1,400 の処遇プ ログラムの現状と課題について調べた研究では,国や 地域によって否認者の取扱い方が大きく異なることが 報告されている(McGrath et al., 2010)。 こうした性犯罪者の否認・最小化と心理学的介入に 関する議論の前提として,そもそも「性犯罪者の否認・ 最小化が将来の再犯を予測するのか」という論点があ る。刑事司法に携わる実務家や研究者の多くは,性犯 罪者の否認は再犯の可能性を高めると捉えているとの 指摘がある(Blagden, Winder, Gregson, & Thorne, 2011; Hood et al., 2002; Lund, 2000)ところ,こうした見解 が妥当であるか否かは,性犯罪者の再犯防止に向けた 心理学的介入の在り方にとって重要な意味を有する。 なぜなら,「性犯罪者の否認・最小化が将来の再犯を 予測するのか」という先ほどの問いは,否認・最小化 が実証的な根拠に裏付けられた介入のターゲットとい えるのかという問いに換言できるからである。 ここで,再犯防止に効果的な心理学的介入に関する 代表的な理論的枠組みとして,Andrews & Bonta (2010) に よ り 提 唱 さ れ た RNR 原 則(risk-need-responsivity principle)がある。RNR 原則は,リスク原則,ニード 原則,反応性原則という主要な 3 つの原則から成り, それぞれ要約すると,リスク原則は「犯罪者の再犯リ スクの程度と提供される介入の水準(密度,重点度) を一致させること」,ニード原則は「将来の犯罪と関 連性が強く,介入によって変化可能な再犯リスク要因 (犯罪誘発性ニーズ(criminogenic needs)とも称される) を介入の標的とすること」,反応性原則は「対象者の 能力や学習スタイルに合致した方法で介入を実施する こと」である。これらの原則に沿った介入が再犯率の 低減に寄与することが Lowenkamp, Latessa, & Smith (2006)や森・高橋・大渕(2016)など国内外の数多 くの研究で支持され,性犯罪者に対する心理学的介入 に も 当 て は ま る と さ れ て い る(Hanson, Bourgon, Helmus, & Hodgson, 2009)。このうちニード原則に照 らせば,再犯と関連があり,かつ,介入によって変化 可能な要因を優先的にターゲットとしない限り,再犯 率の低減は見込めないということになる。そのため, 「性犯罪者の否認・最小化が将来の再犯を予測するの か」という先ほどの問いは重要となる。しかしながら, 性犯罪者の否認・最小化と再犯との関連性について実 証的に検討した研究は限られており,両者の関係は十 分には明らかになっていない。 Hood et al. (2002) は,イングランド及びウェールズ における,否認している性犯罪者に対する仮釈放の許 否判断と実際の再犯状況との関連について報告してい る。まず,仮釈放委員会によって「再犯の可能性が高 い」とみなされた性犯罪者は,罪を認めている者では 半数である一方で,否認者では 3 分の 2 に達しており, 否認者の方が,釈放後に更なる犯罪に及ぶ可能性が高 いとみなされやすいという結果が得られた。しかしな がら,仮釈放委員会が再犯リスクの判定を行い,かつ, 少なくとも4年間の社会内での追跡期間が確保できた 144 人の実際の再犯状況を検討したところ,性犯罪又 は重大な粗暴犯罪により再び有罪判決を受けた者の割 合は,罪を認めている者(97 人中 12 人,12.4%)よ りも,否認者(47 人中 1 人,2.1%)で有意に少なかっ た。

Hanson & Morton-Bourgon (2005) は,29,450 人の性 犯罪者を含む 82 の再犯研究を統合し,性犯罪者の再 犯リスク要因に関するメタアナリシスを実施してお り,そのうち,否認と再犯との関連については,デー タの得られた 9 つの研究における 1,780 人の性犯罪者 に関して検討を行っている。その結果,否認と性犯罪 再犯との間に有意な関連は見出さなかった。ただし, Hanson & Morton-Bourgon (2005) のメタアナリシスに 含まれた一次研究の中には,Hood et al. (2002)のよ うに,否認群と非否認群におけるベースライン特性(た とえば,加害者の年齢や被害者に小児を含むか否かな ど)を統制していない研究も含まれ,否認の有無では なく,当該差異が結果に影響を与えている可能性を否 定できない。 上記のメタアナリシス以降に,否認と再犯の関連性 を検討した研究として Nunes et al. (2007)がある。 Nunes et al. (2007)は,接触型の性犯罪により有罪判 決を受けた 489 人を対象に,約 11 年間の追跡調査を 行っている。その結果,全体として否認は再犯予測に 有意に寄与しなかったものの,近親姦や再犯リスク得 点の低い性犯罪者の一群に限ると,否認が性犯罪再犯 のリスクを増大させるという結果も報告している。 Langton et al. (2008) は,刑事施設に収容されている 436 人の性犯罪者の否認について複数の方法で測定 し,再犯リスク得点や処遇プログラムの受講状況を統 制した上で,出所後約 5 年間における再犯の有無との 関連について検討を加えている。その結果,全否認か 否かの二分法でも,全否認から一部否認までを尺度を 用いて得点化した場合でも,全体としては否認と性犯 罪再犯との間に有意な関連を見出さなかった。ただし, 再犯リスク得点の高い性犯罪者に限定すると,否認の 尺度得点が高ければ高いほど性犯罪再犯を有意に予測 するという結果も得られている。

さらに,Harkins, Howard, Barnett, Wakeling, & Miles (2015)は,6,891 人の性犯罪者を対象に,再犯リスク

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の再犯率の上昇にも否認が有意に寄与しなかったと報 告している。この結果を踏まえ,Harkins et al.(2015) は,否認が再犯リスクを上昇させるとの見解は広く受 け入れられているものの,再考すべきであり,性犯罪 者に対する量刑,処遇,刑事施設からの仮釈放の決定 といった重要な意思決定は,否認以外の実証的に支持 された要因に基づくべきであると結論付けている。 これまで性犯罪者の否認・最小化と再犯との関連を 検討した先行研究を概観してきたが,数が限られてい る上,その結果は必ずしも一貫していない。また,方 法論の観点からも,先行研究では,一部を除いてサン プルサイズが小さく,様々な類型の性犯罪者が網羅さ れてはいないこと,否認・最小化と再犯との関連を検 討する際に,既に十分に実証された既知の再犯リスク 要因を考慮に入れた検討が十分でないこと等の課題が 指摘されており(Ware et al., 2015),これらの課題を 克服した上で知見を蓄積する必要がある。 以上を踏まえ,本研究は,我が国の性犯罪者の再犯 防止に向けた心理学的介入における否認・最小化の取 扱いについて示唆を得るため,性犯罪者の否認・最小 化とその後の再犯との関係性について検討することを 目的とする。著者らの知る限り,我が国では性犯罪者 の否認・最小化について実証的に検討した先行研究は ないことから,まずは,性犯罪者の否認・最小化の該 当率と,否認群別の再犯率について概括的に把握する。 その上で,罪名や再犯リスク要因等の潜在的な交絡要 因を統制した上でなお,性犯罪者の否認・最小化がそ の後の再犯を予測するか否かを検討する。 方  法 調査対象者 全国において,性犯罪を含む事件で懲役刑の有罪判 決を受け,2008 年 7 月 1 日から 2009 年 6 月 30 日ま での 1 年間に裁判が確定した 1,791 人のうち,対象者 数が極めて少ない女性,来日外国人の他,裁判確定か ら 5 年経過時点で刑事施設に服役中又は服役中に死亡 したため,後述する再犯調査の対象となり得ない者を 除外した1,484人を調査対象者(以下,全対象者とする) とした。 ここで,本研究における「性犯罪」とは,強姦(強 姦致死傷,準強姦,準強姦致死傷,集団強姦,集団強 姦致死傷,集団準強姦及び集団準強姦致死傷を含む), 強制わいせつ(強制わいせつ致死傷,準強制わいせつ 及び準強制わいせつ致死傷を含む),わいせつ目的略 取誘拐,強盗強姦(強盗強姦致死を含む)及び都道府 県のいわゆる迷惑防止条例で禁止されている痴漢,盗 撮等(以下,条例違反とする)とし,これらの既遂だ けでなく未遂も含む。 全対象者の平均年齢は,37.44 歳(SD = 13.25)であっ た。また,本件により執行猶予の言渡しを受けた者(以 下,執行猶予群とする)は 753 人,実刑に処せられて 服役し刑事施設から出所した者(以下,実刑群とする) は 731 人であった。性犯罪者の類型について,「性犯 罪の罪名や犯行態様」(強姦又は強制わいせつを含む か,都道府県の条例違反の場合に痴漢か盗撮等か),「被 害者の年齢」(被害者に 13 歳未満の者を含むか否か), 「共犯の有無」(単独犯か否か)に着目した類型化を行っ た結果を Table 1 に示した。類型化手続の詳細は,法 務総合研究所(2016)を参照されたい。 調査項目 基本的属性等 調査対象者の裁判が確定した性犯罪 事件(以下,本件とする)に係る刑事確定記録等に基 づき,本件犯行時の年齢,婚姻状況,就労状況等の基 本的属性2の他,本件の概要及び裁判内容等について 調査した。 否認・最小化の有無とその態様 本研究では,性犯 罪者類型別の様々な否認の態様の実態把握も可能なよ うに,態様ごとに該当の有無を把握することとした。 具体的には,全対象者の本件に関する刑事確定記録等 を用い,調査対象者の供述が被害状況や客観的証拠と 一致しているか否かの観点からの検討を行い,「犯人 2 本件が複数ある場合には最初の犯行時点を基準とした。 Table 1 性犯罪者類型別人員 総数 執行猶予群 実刑群 総数 1,484 753 731 (100.0) (100.0) (100.0)  単独強姦型 220 38 182 (14.8) (5.0) (24.9)  集団強姦型 53 5 48 (3.6) (0.7) (6.6)  強制わいせつ型 668 444 224 (45.0) (59.0) (30.6)  小児わいせつ型 136 58 78 (9.2) (7.7) (10.7)  小児強姦型 17 7 10 (1.1) (0.9) (1.4)  痴漢型 313 152 161 (21.1) (20.2) (22.0)  盗撮型 77 49 28 (5.2) (6.5) (3.8) 注) ( )内は,各群の総数に占める各類型の該当人員の比率 を示す。

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性」,「同意」,「犯行態様」,「犯意」,「共謀」の各々の 態様の否認3について,裁判の結審段階を基準に該当 の有無を符号化した。その上で,いずれかの態様に該 当する者は「否認・最小化」群に,いずれにも該当し ない者は「非否認」群に分類した。 なお,本研究では,原則として,犯行の全てを否認 する者からその一部を否認する者までを「否認・最小 化」群と捉えて検討するが,必要に応じて,「否認・ 最小化」群のうち,犯行の全てを否認していることが 確実である「犯人性」と,「その他」の否認態様別に 内訳も示すこととした。 性犯罪の再犯リスク要因 前述のとおり,否認・最 小化と再犯との関連を検討する上では,性犯罪の再犯 リスク要因を統制する必要があるが,我が国の性犯罪 者を対象に予測的妥当性の検討がなされたリスクアセ スメントツールはない。そこで,性犯罪者を対象とし た 代 表 的 な リ ス ク ア セ ス メ ン ト ツ ー ル で あ る Static-2002(Hanson & Thornton, 2003)を参考に,性 犯罪者の再犯との関連が実証されている要因について 入手できた情報の範囲内で調べた。具体的には,「性 犯罪の持続性」(性非行・性犯罪の初発年齢,性非行・ 性犯罪による前科・前歴・保護処分歴のいずれかの有 無),「性的関心の偏り」(本件に男性被害者を含むか 否か,本件に 13 歳未満の被害者を含むか否か,非接 触型性犯罪の 1 つである公然わいせつによる前科の有 無),「被害者との関係性」(本件に面識のない被害者 を含むか否か)及び「一般犯罪性」(自由刑実刑前科 の有無,性犯罪以外の粗暴犯罪4による前科の有無, 本件が執行猶予中等の事案か否か5)の 4 領域 9 項目の 再犯リスク要因を調査した。 再犯 本件の裁判確定から 5 年経過時点での再犯の 有無及び内容に関する調査(以下,再犯調査とする) を行った。ここで,再犯とは,罰金以上の刑で再び有 罪の裁判を受けて裁判が確定した事件をいい,その事 件の犯行日が本件の裁判確定日以前の事件(判決確定 前の余罪),実刑に処せられた者がその服役中に犯し た事件並びに自動車運転過失致死傷等及び交通法令違 反による事件を除いた。また,再犯の内容によって, 罪名を問わない全ての再犯を「全再犯」,性犯罪を含 3 「犯人性」の否認とは,「別の人物が犯人であって,自分は 事件とは全く無関係である」と主張している場合,「犯行態様」 の否認とは,わいせつ行為の全部又は一部を否認していたり, 暴行・脅迫の内容を否認していたり,既遂か否かについての争 いがあったりする場合,「犯意」の否認とは,「被害者の胸に手 が当たったのは事実だが,わざとではなく,偶然である」といっ た主張をしている場合を指す。 4 「粗暴犯罪」は,本研究では,傷害,暴行,脅迫及び暴力行 為等処罰法違反をいう。 5 「執行猶予中等」は,本研究では,執行猶予中の他,保護観 察処分中,少年院仮退院中,仮釈放中をいう。 む再犯を「性犯罪再犯」とした。 なお,再犯までの追跡期間(社会内での再犯可能期 間)は執行猶予群と実刑群とでは異なる。すなわち, 執行猶予群では,全員について,本件の裁判確定から 5 年間を追跡期間として一律に設定できる一方で,実 刑群では,刑期の長短や仮釈放の有無により刑事施設 からの出所日が対象者ごとに異なることから追跡期間 に長短が生じざるを得ない。以下の分析に当たっては この点を考慮して行う。 分析手続 最初に,全対象者の「否認・最小化」群への該当率 と各群別の再犯状況を確認した。次に,執行猶予群を 対象に,再犯を従属変数とするロジスティック回帰分 析を行い,否認・最小化が再犯に与える影響を検討し た。ここで,ロジスティック回帰分析を執行猶予群に 限定したのは,全員が追跡期間を 5 年間確保でき,か つ,刑事施設における専門的で密度の濃い処遇プログ ラムを受講していないため,心理学的介入の否認・最 小化への影響を統制することが可能になるという理由 による。 具体的には,従属変数を全再犯又は性犯罪再犯とし, 否認・最小化の有無(0 = なし,1 = あり)を共変量 として第一ブロックで強制投入した上で,犯行時の年 齢,就労状況,婚姻状況といった基本的属性,性犯罪 者類型(カテゴリ変数),性犯罪の再犯リスク要因を 尤度比検定による変数減少法によりモデルに投入し た。また,得られたモデルの予測精度を検証するため に ROC(receiver operating characteristics)分析を実施 した。 倫理的配慮 本研究のデータは法務総合研究所が行った「性犯罪 に関する総合的研究」の一部を利用したものである。 法務総合研究所では,研究計画及び研究結果を検証す るために,外部の学識経験者等から構成される研究評 価検討委員会を設置しており,当該研究も事前評価を 経た上で実施された。研究の実施に当たっては,行政 機関の保有する個人情報の取扱いに係る法令を順守し て実施した。データ収集に際しては,刑事司法機関の 通常業務の手続により得られた文書情報のみを用い, それらの情報を匿名化した上で分析を実施した。 結  果 否認・最小化の該当率と再犯状況 Table 2 は,全対象者について,性犯罪者の類型別 に「否認・最小化」群への該当人員と該当率を示した ものである。全対象者のうち「否認・最小化」群は 242 人(16.3%)であり,そのうち「犯人性」の否認

Table 2

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に該当した者は 27 人(1.8%)であった。 Table 3 は,全対象者の再犯状況を群別に示したも のである(参考値として「犯人性」群と「その他」群 の内訳も示した)。「否認・最小化」群のうち 26 人 (10.7%),「非否認」群のうち 281 人(22.6%)が全再 犯に,「否認・最小化」群のうち 12 人(5.0%),「非 否認」群のうち 195 人(15.7%)が性犯罪再犯に及ん でいた。いずれも「否認・最小化」群に比べて「非否 認」群の方が再犯率が有意に高かった(χ2 (1) = 17.43, p < .001; χ2 (1) = 19.47, p < .001)。 執行猶予群と実刑群別にそれぞれの再犯状況を見る と,まず,全員が 5 年間を社会内で追跡できた執行猶 予群 753 人のうち 80 人(10.6%)が「否認・最小化」 群に該当し,「否認・最小化」群の 7.5%,「非否認」 群の 18.3%が全再犯に,「否認・最小化」群の 1.3%,「非 否認」群の 11.7%が性犯罪再犯に及んでいた。いずれ も「否認・最小化」群に比べて「非否認」群の方が再 犯率が有意に高かった(χ2 (1) = 5.85, p = .016; χ2 (1) = 8.28, p = .004)。 一方,実刑群では,731 人のうち 162 人(22.2%) が「否認・最小化」群に該当した。上述のとおり,実 刑群では,対象者によって追跡期間に長短があり,平 均再犯可能期間(本件の裁判確定から 5 年経過時点ま での期間から,刑事施設における服役期間を減じた日 数の平均値)は 1,006.79 日(SD = 479.12)であった。 再犯率を見ると,「否認・最小化」群の 12.3%,「非否 認」群の 27.8%が全再犯に,「否認・最小化」群の 6.8%, 「非否認」群の 20.4%が性犯罪再犯に及んでいた。い ずれも「否認・最小化」群に比べて「非否認」群の方 が再犯率が有意に高かった(χ2 (1) = 16.28, p < .001; χ2 (1) = 16.24, p < .001)。ただし,平均再犯可能期間は, 「否認・最小化」群では 842.21 日(SD = 497.94),「非 否認」群では 1,053.65 日(SD = 463.49)であり,「否認・ 最小化」群の方が有意に短かった(t (729) = 5.04, p < .001)。 なお,実刑群と執行猶予群それぞれについて,7 つ Table 2 性犯罪者類型別の否認・最小化の該当率 人員 否認・最小化群 否認・最小化の態様の内訳 犯人性 同意 犯行態様 犯意 共謀 総数 1,484 242 27 42 178 96 9 (16.3) (1.8) (2.8) (12.0) (6.5) (0.6)  単独強姦型 220 67 4 20 52 30 – (30.5) (1.8) (9.1) (23.6) (13.6)  集団強姦型 53 21 5 5 13 10 9 (39.6) (9.4) (9.4) (24.5) (18.9) (17.0)  強制わいせつ型 668 109 8 15 88 38 – (16.3) (1.2) (2.2) (13.2) (5.7)  小児わいせつ型 136 15 1 – 11 7 – (11.0) (0.7) (8.1) (5.1)  小児強姦型 17 1 – – 1 – – (5.9) (5.9)  痴漢型 313 26 9 2 11 10 – (8.3) (2.9) (0.6) (3.5) (3.2)  盗撮型 77 3 – – 2 1 – (3.9) (2.6) (1.3) 注) ( )内は,各類型の人員に占める各否認態様の該当比率を示す。 Table 3 否認群別の再犯状況 否認・最小化群(n = 242) 非否認群(n = 1,242)犯人性(n = 27) その他(n = 215) 全再犯 10.7% 18.5% 9.8% 22.6% 性犯罪再犯 5.0% 11.1% 4.2% 15.7%

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の性犯罪者類型別に,否認の有無と全再犯・性犯罪再 犯との関連を検討したところ,全ての類型において両 者の間に有意な連関は認められなかった。 ロジスティック回帰分析 「否認・最小化」群と「非否認」群のベースライン 特性の差異を統制して検討するために,執行猶予群を 対象に,再犯リスク要因等を共変量として投入してロ ジスティック回帰分析を行った。Table 4 は,全再犯 を従属変数としたロジスティック回帰分析の最終的な 結果を示したものである。第 1 ブロックとして否認・ 最小化の有無を投入した後に,基本的属性や性犯罪者 類型の他,9 つの再犯リスク要因を尤度比検定による 変数減少法により投入したところ,最終的に,否認・ 最小化の他,犯行時の年齢,犯行時に無職,性犯罪の 前科等あり,本件に面識のない被害者を含む,本件が 執行猶予中等の事案といった 6 つの説明変数を含むモ デ ル が 採 択 さ れ た。 モ デ ル の 適 合 に つ い て は, Nagelkerke’s R2 値 が .14, χ2 (6) = 67.67, p < .001, Hosmer-Lemeshow 検定の結果は 0.05 より大きく(p = .36),適合はよいと考えられた(Hosmer, Lemeshow, & Sturdivant, 2013)。最終的なモデルで得られた予測確 率を用いて ROC 分析を実施したところ,ROC 曲線の 曲線下面積(Area Under the Curve)は,0.5 がチャン スレベル,1.0 が完全な予測となるところ,AUC = .73 (95% CI = .68 ─ .77)であり,許容される水準の予測 精度を示した。 モデル中で調整オッズ比が最も高く有意であったの は「本件に面識のない被害者を含む」であり,該当す るほど全再犯に及ぶオッズが有意に高くなる。一方, 犯行時の年齢の調整オッズ比は 1 未満で有意であるた め,年齢が高くなるほど全再犯に及ぶオッズが有意に 低くなる。ここで,否認・最小化ありの調整オッズ比 は,95%信頼区間の上限と下限で 1 をまたいでおり, 再犯リスク要因を調整した上でも,否認・最小化は全 再犯の予測に有意に寄与しなかった。 Table 5 は,性犯罪再犯を従属変数としたロジス ティック回帰分析の最終的な結果を示したものであ る。「否認・最小化あり」の他,「犯行時に未婚」,「性 犯罪の前科等あり」,「本件に 13 歳未満の被害者を含 む」,「本件に面識のない被害者を含む」といった 5 つ の説明変数を含むモデルが採択され,全再犯の結果と 同様にモデルの適合度はよく,AUC = .77(95% CI = .73 ─ .82)と相応の予測精度を示していた。しかしな がら,「否認・最小化あり」の調整オッズ比は非有意 であり,全再犯と同様に,性犯罪再犯の予測にも寄与 しなかった。 考  察 否認・最小化と再犯との関連 本研究では,我が国の性犯罪者を対象に,否認・最 小化とその後の再犯との関連について検討した。欧米 の刑事司法に携わる実務家の間で,否認する性犯罪者 の再犯率は高いと受け止められているとの指摘がある (Blagden et al., 2011; Hood et al., 2002)が,こうした一 般的な受け止め方とは反して,本研究では,既知の再 犯リスク要因など潜在的な交絡要因を統制した上でも なお,否認・最小化は全再犯及び性犯罪再犯の予測に 寄与しないという結果が得られた。 ここで,一般的に再犯と関連があると考えられてい る要因が必ずしも再犯を予測しないことは,これまで 多くの実証研究が明らかにしてきた。再犯予測の精度 に関しては,経験や直感に基づく専門家の判断よりも, 保険数理統計手法に基づくリスクアセスメントツール (actuarial risk assessment instrument)による予測の方が 相対的に優れているとの知見が,Gendreau, Little, & Goggin(1996) や Mori, Takahashi, & Kroner (2017)な ど,国内外で数多く積み重ねられている。専門家の再 Table 4 全再犯を従属変数とするロジスティック回帰分析の結果 説明変数 OR [95%CI] 否認・最小化あり 0.50 0.20 ─ 1.22 犯行時の年齢 0.98 ** 0.96 ─ 0.99 犯行時に無職 2.23 ** 1.36 ─ 3.66 性犯罪の前科等あり 2.53 ** 1.66 ─ 3.88 面識のない被害者を含む 3.63 ** 1.53 ─ 8.64 本件が執行猶予中等 3.43 0.87 ─ 13.63 Nagelkerke’s R2 .14 χ2 検定 p < .001 Hosmer-Lemeshow 検定 p = .36 * p < .05, ** p < .01 Table 5 性犯罪再犯を従属変数とするロジスティック回帰分析の結果 説明変数 OR [95%CI] 否認・最小化あり 0.18 0.02 ─ 1.33 犯行時に未婚 1.87 * 1.13 ─ 3.11 性犯罪の前科等あり 4.12 ** 2.46 ─ 6.88 13 歳未満の被害者を含む 2.13 0.93 ─ 4.86 面識のない被害者を含む 6.90 ** 1.61 ─ 29.57 Nagelkerke’s R2 .19 χ2 検定 p < .001 Hosmer-Lemeshow 検定 p = .93 * p < .05, ** p < .01

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犯予測の精度が相対的に劣る背景要因としては,利用 可能性ヒューリスティック等によるバイアス,少数経 験の過大視,判断の結果に関するフィードバックの得 られにくい環境,再犯に係るベースレート情報の不足 などが指摘されている(高橋,2015)。無論,刑事司 法に携わる実務家による意思決定には,再犯リスクの 推定といった行動科学の知見だけでなく,法学上・実 務上の多様な要素が勘案されるものの,本研究の結果 からは,少なくとも,性犯罪者の否認・最小化の存在 のみをもって,その者の性犯罪の再犯リスクが高いと 一律に判断することは妥当ではないと結論付けられ る。 それでは,多くの専門家や実務家の直感と反して, 否認が再犯予測に有意に寄与しないのはなぜであろう か。Lord & Willmot(2004)は,当初犯行を否認して いたが,後に犯行を認めた性犯罪者と面談し,その面 談内容の分析を行った結果,性犯罪者の約7割の者が, 否認を続けていた理由として「家族や友人からの支援 を失うことへの恐れ」を挙げていたと報告している。 また,Ware & Mann(2012)は,性犯罪者の否認の理 由として,(a)自由や地位,身近な他者との対人関係 を維持するため,(b)既に傷ついている自尊心を守り, 恥辱感を減少させるため,(c)今後も犯罪を続け,逸 脱した空想と性的刺激を維持したいと考えているた め,といった複数の理由を指摘している。このように, 一概に否認といっても,その果たしている機能は多様 であり,それゆえ,再犯リスクとの関連も異なること が予想される。たとえば,(b)のように,恥の感覚や 烙印付けを回避しようとしての否認は,他者からの評 価を気にし,自己価値の更なる低下や他者からの非難 を避けようとするため,再犯を回避する動機づけとな る可能性があるとの指摘もある(Ware et al., 2015)。 一方で,(c)のように,犯行を続けたいがために否認 を続けている者の場合,否認は再犯リスクを高めるよ う働くかもしれない。実際,Nunes et al. (2007)は, 被害者を親族とする者に限定すると否認が再犯率の上 昇につながることを見出しており,こうした者の中に は,被害者への接近を目的として無実を訴える者もい ることを指摘している。 また,検挙段階で捜査官の取調べを受けている者と, 矯正施設において否認を続けている者の否認とでは, その動機や機能が異なることも予想される。たとえば, 有罪判決の確定前における否認は,上記の Ware & Mann(2012)の(a)の指摘のように,刑事罰を受け ることにより自由や地位を失うことへの恐れが主たる 動機となるかもしれない。一方で,有罪判決が確定し た後の否認は,別の動機によるかもしれない。たとえ ば,Mann, Webster, Wakeling, & Keylock (2013)は,刑 事施設に収容されている性犯罪受刑者の否認につい て,自分たちが性犯罪者であることが他の被収容者に 知られることによるスティグマや攻撃を受けることを 恐れていることによると指摘している。 総体としては,否認・最小化は性犯罪の再犯を有意 に予測しないものの,否認・最小化の果たしている機 能の差異により再犯への影響が異なる可能性もあり得 る。今後,刑事司法の段階によって否認・最小化の機 能が異なるのか否か,否認・最小化の機能の相違によっ て再犯との関連が異なるのか否かという点についてよ り詳細に探求することが,本研究の結果を解釈する上 で有用となると考えられる。 否認者に対する心理学的介入への示唆 本研究の結果は,性犯罪者に対する心理学的介入に おける否認及び否認者の理解と対処の在り方にも示唆 をもたらすと考える。 Ware et al.(2015)は,犯行の全部を否認する全否 認者への心理学的介入について,第 1 に,否認者の処 遇プログラムからの除外,第 2 に,否認を克服するこ とを目的とした処遇プログラムの実施,第 3 に,否認 者のみを対象とし,犯罪に関連する主要な要因に介入 はするものの,否認と直接対決しない処遇プログラム の実施といった 3 つのアプローチを紹介している。こ こで,第 2 のアプローチは,本格的な処遇プログラム の実施前に否認者向けの介入を行うものと,罪を認め ている者を含む通常の処遇プログラム全体を通して否 認に働き掛けるものの二つに分けられる。 第 1 のアプローチについて,Ware et al.(2015)は, 再犯リスクを減少させるための機会を失わせることに なるとして否定的な見解を示し,否認があっても介入 に取り込めるよう働き掛ける工夫が必要であると論じ ている。実際,否認をしている者の中でも再犯リスク 要因の多寡は対象者によって異なることを踏まえる と,全否認者であろうとなかろうと,否認を変化可能 性の乏しさと一律に結び付けて,否認者を処遇プログ ラムから除外することは適切ではない。決して容易な ことではないが,あくまでリスク原則に依拠した受講 者の選択が妥当ではないかと考える。 ここで,否認をする性犯罪者を処遇プログラムに編 入するとした場合,次に論点となるのは,否認の克服 を主たる介入目標に据えるか否かということである。 否認は再犯リスク要因ではないという本研究の結果を 踏まえると,否認の克服に狙いを据えることは「将来 の犯罪と関連性が強く,介入によって変化可能な再犯 リスク要因を介入のターゲットとすること」という ニード原則とは矛盾する。そのため,先行研究により 明らかになっている他の犯罪誘発性要因をターゲット として優先させることが必要となるかもしれない。た とえば,Marshall, Thornton, Marshall, Fernandez, & Mann (2001)は,全否認者のみを対象とした処遇プログラ ムを提唱し,否認に関する懸念を「脇に置き」,他の

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犯罪誘発性要因を介入の目標として強調することで, 拒否感を和らげて処遇プログラムに導入するという工 夫を図っている。否認の克服を主たる介入目標とする か否かの議論はあろうが,少なくとも治療関係が構築 される前の介入の初期段階で否認に対決的な姿勢で臨 むことは,処遇プログラムからの中途離脱を促す恐れ が高いことからも有益ではないと考えられる。ただし, こうした否認を直接扱わない処遇プログラムについて は,「責任の受容」という観点から適切なのかという 懸念も当然のことながら指摘されている(Levenson, 2011)。否認に対して積極的に働き掛けを行わないこ とが,現状を肯定し変化の必要はないという誤った暗 黙のメッセージを伝える結果となっては不適切であ り,他の犯罪誘発性要因に焦点を当てて介入を行って いく過程で,機を見て徐々に否認をめぐる話題を取り 上げていく方向性が現実的であろう。ただし,これは まさに「言うは易く行うは難し」であり,治療者には 相当の経験と技量が求められることは間違いない。い ずれにせよ,現状では,否認をする性犯罪者に対する 最適なアプローチは何かという結論を出せるほどの研 究が蓄積されていないことから,今後の研究の進展が 望まれる。 なお,全否認者と一部否認者とでは,考慮すべき事 項やアプローチの仕方も異なるであろう。たとえば, Levenson (2011)は,全否認者への心理学的介入をめ ぐる倫理的なジレンマについて論じる中で,処遇プロ グラムから除外することによって他の者には提供され る機会を全否認者に提供しないことは非倫理的とみな され得る一方で,自分には問題がないと主張している 当の問題に対して処遇プログラムを提供することも同 じく非倫理的と指摘されかねないと述べている。これ に対し,Ware et al. (2015)は,全否認者の一部は実際 に無実である可能性を否定できないことから慎重に接 する必要があるとしながらも,有罪判決を受けた性犯 罪者に対する心理学的な介入を提供する責任のある者 は,現実的には,全否認者に何らかの形で取り組まな ければならないとも論じている(Ware et al., 2015)。 このように,否認をする性犯罪者に対する心理学的 介入を考える際には,当該介入が再犯防止や改善更生 にどれだけ寄与するかという視点はもとより,他にも 種々考慮すべき課題がある。とはいえ,性犯罪者の再 犯を防ぎ,更なる被害者を生み出さないためには,否 認という現象を行動科学の視点から多角的に検討し, その諸相を明らかにしていく必要性が高いと考える。 本研究の限界と今後の課題 本研究は,我が国において初めて性犯罪者の否認・ 最小化の実態と,その後の再犯との関連を実証的に検 討したものであり,欧米の先行研究を踏まえても,幅 広い性犯罪者を対象に再犯リスク要因を統制して検討 を加えた点で一定の意義があると考える。しかしなが ら,本研究には方法論上の幾つかの限界もあることか ら,今後の研究課題と併せて指摘する。 第 1 に,本研究は,有罪の裁判の結審段階における 公的記録を基に否認・最小化の符号化を行ったが,測 定が 1 時点に限られていることが限界として挙げられ る。検挙段階,裁判段階,受刑段階など刑事司法のい ずれの段階での否認・最小化を検討の俎上に載せるか は先行研究でも統一的な見解はないが,各段階で否認・ 最小化の発生率だけでなく,果たしている機能が異な る可能性もある。再犯との関連でいえば,否認・最小 化を測定する時点(有罪判決の前後)によって結果は 変わらないことを示した研究もある(Nunes et al., 2007)が,実証的な研究は限られている。そのため, 可能な限り刑事司法の多様な段階で否認・最小化の符 号化を行い,その機能や再犯との関連を緻密に検討す ることが望まれる。特に,処遇プログラムの実施前後 で,全否認者の割合が 31%から 2%へと大きく低下し たとの報告(Marshall, 1994)があるが,心理学的な 介入を通じての否認・最小化の変化と再犯との関連を 検討できれば実務上有益である。その際,心理学的な 介入を経て罪を認めることに転じた性犯罪受刑者との 半構造化面接等を通じて,より有益な情報が得られる のではないかと期待される。 第 2 に,本研究の情報源が公的記録のみであったこ とも限界の 1 つである。否認・最小化の符号化につい ては,認定された事実との対比という観点から公的記 録を用いる手続は欠かせないと考えるが,それだけで は不十分であり,質問紙による自己報告や臨床家の評 定など多角的な手法を併用することで,否認や最小化 という事象への理解が促進されると期待される。 また,本研究では,犯人性の否認の該当者数が極め て少数であったため,それのみを取り上げての分析は 行わなかったが,今後,全否認者を明確に定義し,そ れを一部否認者から分離した上で,より詳細な検討を 加えることも求められよう。ただし,先行研究では, 全否認者のベースレートが低いことが,同じくベース レートが低いとされる性犯罪再犯との関連を論じるこ とを難しくしている面も指摘されている(Langton et al., 2008; Ware et al., 2015)。いずれにせよ,多様な測 定方法により,全否認から一部否認までを細やかに把 握する研究が望まれる。さらに,従属変数である再犯 については,公的記録に依拠せざるを得ない面はある が,一般に性犯罪には暗数が多いとされ,公的記録の みでは再犯を過小評価している可能性を否定できない 点にも留意する必要がある。 第 3 に,再犯調査時点で服役中の受刑者については 分析対象から除外せざるを得なかったことが,結果の 一般化可能性への障壁となる。また,本研究の実刑群 では,平均再犯可能期間が「否認・最小化」群の方が

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有意に短かったことから6,実刑群の再犯率の結果の解 釈は慎重に行う必要がある。しかしながら,実刑群に おいて,「否認・最小化」群が,「非否認」群に比べて, 全再犯で 15.5pt,性犯罪再犯で 13.6pt も再犯率が低い という結果を踏まえると,仮に実刑となった全ての者 について追跡期間を揃えて分析を行ったとして,執行 猶予群を対象とした分析と正反対の結果(つまり,「否 認・最小化」群の方が「非否認」群に比べて有意に再 犯率が高い)が得られるとまでは考えづらい。今後, より犯罪性が高いと考えられる,比較的刑期の長い出 所受刑者も含め,追跡期間も一律に揃えた上で検討す ることが望まれる。 なお,調査対象者の範囲に関していえば,本研究で は有罪の裁判により犯罪事実が認定されている者を対 象にしたため,条例違反等の軽微な罪で罰金刑(略式 命令)となった者は除外されている。また,捜査段階 で被疑者が犯行を否認していた場合,それ以外の証拠 が十分に揃わなかった事件については不起訴処分と なっているものもあるものと推察され,こうした事例 も除外されている。本研究では扱えなかったこれらの 者を対象にした研究の進展により,性犯罪者の否認・ 最小化と再犯との関連について,より有用な知見が得 られるものと期待される。 第 4 に,再犯リスク得点や性犯罪者の類型に応じた 詳細な検討も望まれる。我が国の刑事施設では性犯罪 受刑者を対象としたリスクアセスメントツールが導入 されているものの,我が国の性犯罪者を対象に予測的 妥当性の検討を十分に経てはいない(橋本,2006)上, 執行猶予群では,そもそもそうした情報は得られない ため,本研究では,再犯リスク得点の高低による詳細 な検討は行えなかった。また,本研究では,性犯罪者 類型は,ロジスティック回帰分析の最終的なモデルに は採用されなかったが,先行研究では,否認と再犯と の関連の在り方が,再犯リスク得点や性犯罪者の類型 によって異なる可能性を示唆した研究もある(Harkins, Beech, & Goodwill, 2010; Langton et al., 2008; Nunes et al., 2007)。こうした再犯リスク得点や性犯罪者の類型 ごとの否認・最小化と再犯との関係性が明らかになれ ば,再犯リスク得点の高低等に応じて否認・最小化に 対するアプローチを変更する必要性の有無が示唆され ることから,今後の検討課題としたい。さらに,本研 究では,諸外国で実証研究の蓄積のある再犯リスク要 6 「否認・最小化」群の平均再犯可能期間が短い理由は,両群 における罪名等の差異が影響を与えている可能性の他,「裁判官 が確信をもって有罪とした以上,否認している被告人は,罪を 逃れようとしているのであるから,事実を認め犯罪している被 告人よりも重く処罰するのはやむを得ないという考え方もある」 (原田,2008,pp.16–17)との裁判官の指摘を踏まえると,「否認・ 最小化」群の方が言渡し刑期が長くなり,その分,刑事施設出 所後の期間が短くなった可能性も考えられる。 因を統制はしたものの,場合によっては,我が国固有 の再犯リスク要因が存在する可能性も否定できないこ とから,その点についても今後の検討が必要である。 その他,再犯リスクとの関連では,いわゆる「認知の 歪み」と否認や最小化の関連についての研究も,一部 の例外(Nunes & Jung, 2012)を除いては十分に検討 されていないことから今後の進展が望まれる。 第 5 に,性犯罪者の再犯に至るまでの期間は他の罪 名の者に比べて長い傾向にある(法務総合研究所, 2016)ことを踏まえると,より長期間の追跡期間を設 けて再犯との関連を検討する必要性が高く,この点も 今後の課題としたい。 最後に,以上に示したような幾つかの限界はあるも のの,本研究は,我が国において初めて性犯罪者の否 認・最小化の実態とその後の再犯との関係を実証的に 検討した点で意義がある。また,我が国では,近年, 再犯率の低減に向けた具体的な数値目標が初めて設け られ,実証的な根拠に基づく刑事政策の推進が一層求 められているところ,本研究は,心理学の現実場面へ の貢献の一例として意義を見出すこともできる。否認 する性犯罪者の理解と介入の在り方をめぐっては,実 務上整理すべき課題も多いが,まずは議論の前提とし て実証的な知見を 1 つずつ積み重ねていく必要があ り,今後,更なる実証研究の進展が期待される。 引 用 文 献

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