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日本金属学会誌第 80 巻第 11 号 (2016) オーバービュー 鋼におけるラスマルテンサイトの形成機構 村田純教 名古屋大学大学院工学研究科 マテリアル理工学専攻材料工学分野 J. Japan Inst. Met. Mater. Vol. 80, No. 11 (2016),pp

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(1)

Fig. 1 Schematic illustration showing the hierarchic structure of lath martensite.

鋼におけるラスマルテンサイトの形成機構

村 田 純 教

名古屋大学大学院工学研究科 マテリアル理工学専攻材料工学分野 J. Japan Inst. Met. Mater. Vol. 80, No. 11(2016), pp. 669683

 2016 The Japan Institute of Metals and Materials OVERVIEW

Formation Mechanism of Lath Martensite in Steels Yoshinori Murata

Department of Materials, Physics, and Energy Engineering, Graduate School of Engineering, Nagoya University, Nagoya 4648603 Lath Martensite is formed in low carbon steels and plays an important role in the mechanical properties of heat resistant steels containing about 0.1 massC. The lath martensite shows the hierarchic microstructure being composed of packet, block and lath. Martensitic transformation is the phase transformation accompanying orderly shear deformation without atomic diffu-sion. Relaxation of the strain energy caused by the deformation is the origin of the hierarchic microstructure but the formation mechanism of this microstructure has heretofore not been understood. In this paper, we survey first both the experimental results and phenomenological formation mechanism of the lath martensite reported so far and introduce a new mechanism (Two Types of Slip Deformation model: TTSD model), which is constructed by considering, independently, two kinds of slip deformations using the slip deformation model proposed by Khachaturyan. It is also introduced that TTSD model enables us to simulate the martensite phase formation by the phasefield method. Furthermore, it is found that TTSD model allow us to predict the features of lath martensite, such as the existence of subblocks and high dislocation density in lath. In particular, for the first time, the rea-son why laths in a block structure exist, can be clearly explained by TTSD model. [doi:10.2320/jinstmet.J2016033] (Received May 31, 2016; Accepted July 27, 2016; Published October 25, 2016)

Keywords: lath martensite, formation mechanism, phasefield method, dislocation density, lath, block, packet, hierarchic structure, heat resistant steel

1. 緒 言 1.1 はじめに 鉄鋼材料におけるマルテンサイト相の研究は古く,ほぼ 1 世紀にわたって行われてきている.それは,鋼の機械的特性 をマルテンサイト相の利用によって自在に変化させることが でき,実用上極めて重要なためである.鋼では,その炭素量 により薄板状,レンズ状あるいはラスといったさまざまな形 態のマルテンサイトが観察されている.これらマルテンサイ ト全般については,これまでに多くの優れた教科書,解説, 等があり110),それらを参照して頂くとして,ここでは,ラ スマルテンサイトのみを対象とする. ラスマルテンサイトは 1 massC 以下で観察されるが, 特 に c / a が ほ ぼ 1 で あ る 立 方 晶 マ ル テ ン サ イ ト は 0.1 massC 程度の耐熱鋼の分野ではたいへん重要である(以 後,特に断らない限り組成を massで表す).ラスマルテン サイトは Ms 点が比較的高い合金系で生じ,その組織形態は Fig. 1 の模式図に示すように階層構造となっている1115).す な わ ち , 一 つ の旧 オ ー ス テ ナイ ト 相 (g 相 )粒 内に , 同 じ {111}g近傍に晶癖面を持つ粒の集合であるパケットが複数 存在し,それぞれのパケット内部には,平行な帯状領域であ るブロックが存在し,さらにそれぞれのブロックにはほぼ同 じ結晶方位で双晶を含まず高密度の転位を含んだマルテンサ イト結晶であるラスの集合が存在している14,15) 耐熱鋼の高温強度は鋼のミクロ組織変化およびその変化過 程に依存するため,ラスマルテンサイトの階層構造の形成お

(2)

Table 1 List of 24 variants in KS orientation relationship. Variant No. Closepacked Plane parallel Closepacked direction parallel Variant No. Closepacked Plane parallel Closepacked direction parallel V1 (111)g//(011)a′ CP1 [ ˜101]g//[ ˜1 ˜11]a′ V2 [ ˜101]g//[ ˜11 ˜1]a′ V3 [01 ˜1]g//[ ˜1 ˜11]a′ V4 [01 ˜1]g//[ ˜11 ˜1]a′ V5 [1 ˜10]g//[ ˜1 ˜11]a′ V6 [1 ˜10]g//[ ˜11 ˜1]a′ V7 (1 ˜11)g//(011)a′ CP2 [10 ˜1]g//[ ˜1 ˜11]a′ V8 [10 ˜1]g//[ ˜11 ˜1]a′ V9 [ ˜1 ˜10]g//[ ˜1 ˜11]a′ V10 [ ˜1 ˜10]g//[ ˜11 ˜1]a′ V11 [011]g//[ ˜1 ˜11]a′ V12 [011]g//[ ˜11 ˜1]a′ V13 ( ˜111)g//(011)a′ CP3 [0 ˜11]g//[ ˜1 ˜11]a′ V14 [0 ˜11]g//[ ˜11 ˜1]a′ V15 [ ˜10 ˜1]g//[ ˜1 ˜11]a′ V16 [ ˜10 ˜1]g//[ ˜11 ˜1]a′ V17 [110]g//[ ˜1 ˜11]a′ V18 [110]g//[ ˜11 ˜1]a′ V19 (11 ˜1)g//(011)a′ CP4 [ ˜110]g//[ ˜1 ˜11]a′ V20 [ ˜110]g//[ ˜11 ˜1]a′ V21 [0 ˜1 ˜1]g//[ ˜1 ˜11]a′ V22 [0 ˜1 ˜1]g//[ ˜11 ˜1]a′ V23 [101]g//[ ˜1 ˜11]a′ V24 [101]g//[ ˜11 ˜1]a′

Fig. 2 Schematic illustration showing the ratio of dimension of a lath and the crystalline plane.

よびその時間発展過程を明らかにすることが重要である.こ の報告では,ラスマルテンサイトの特徴を次節でまとめ,そ れらの形成機構に関するこれまでの報告を概観したのち,最 近著者らが行った研究を基に,ラスマルテンサイトの形態形 成機構について述べ,その機構から理解しうる現象を述べ る.特に,一つのブロック領域中になぜラスが存在するかと いう理由についても述べる. 1.2 ラスマルテンサイトの特徴 ラスマルテンサイトの組織形態についてこれまで報告され ている特徴をまとめておく.Kurdjumov と Sachs は X 線極 点図法によりマルテンサイト相とオーステナイト相との結晶 方位には特定の関係があることを見出した16).これは,KS 関係と呼ばれており,(111)g//(011)a′の最密面平行と, [ ˜101]g//[ ˜1 ˜11]a′の最密方向平行からなるものである(以後こ の論文中では,添字のg はオーステナイト相を,a′はマルテ ンサイト相を示す).この関係を満たすバリアントは結晶の 対称性を考慮すると全部で 24 種類考えられる.これら全 24 バリアントを Table 1 に示す10).このような結晶方位関係と しては他にも,(111)g//(011)a′,[ ˜211]g//[01 ˜1]a′で表され る NishiyamaWassermann(NW)の関係や,KS 関係と NW 関係の中間の関係である GreningerTroiano(GT)関 係が知られているが,ラスマルテンサイトは KS 関係に近 い結晶方位関係を示すことが多く報告されている13,17) 透過型電子顕微鏡観察などにより,ラスそのものの観察も 多く行なわれてきた.その結果,Fig. 2 に示すように一つ一 つのラスの形状は〈111〉gを長手方向とした薄い板状であ り,その長さと幅と厚さの比はほぼ 30:7:1 であると報告さ れている3,13,18).さらに,マルテンサイト相は〈111〉 g近傍に 晶癖面を持つことが知られているが,特にラスマルテンサイ トの場合には約 10°ずれた{557}g近傍であることが多数報告 されている19,20) 近年,走査型電子顕微鏡と後方散乱電子線回折(EBSD)に よる比較的広い範囲での解析も盛んに行なわれている.特に 森戸らは低炭素鋼について,ひとつのブロックはある一種類 のバリアントから構成されているとは限らず,別のバリアン トが混じっていることを明らかにしている14).このとき, Table 1 に示すバリアント 1(V1)からなるブロックには必ず バリアント 4(V4)のみが観察されるというように,混在す ることのできるバリアントの組合せは決まっており,森戸ら はこれを「サブブロック」と呼んで,いわゆるブロック境界 とは区別している14,20) Table 1 に示した 24 種類のバリアントはブロックの分類 であるが,ラスマルテンサイトは一つのブロックの中にラス の集団をもっている.ここで強調しておきたいことは,この ブロック中のラスの集団の結晶方位差は 5°以下と小さく, Table 1 で示される V1~V24 のバリアントのそれとは異な る.このラスの集団がどのように形成されているか,またそ の形成要因は何かついては,これまで明確な説明は全くなさ れていない. 1.3 ラスマルテンサイトの形成機構に関する従来の報告 実験的に確認されているラスマルテンサイトの結晶学的な 事実について前節で述べてきたが,その一方でマルテンサイ ト変態に伴う変形を幾何学によって理解しようとする研究も 多く行なわれてきている.代表的なものとしては Bowles Mackenzie(BM)理論や WechslerLiebermanRead(WLR) 理論がある21,22).これらは一般的に「マルテンサイト変態の

(3)

Fig. 3 Illustration showing the relationship between Bain lattice originated from the austenite lattice and the martensite lattice. 現象論」と呼ばれており,変態前後でマルテンサイト相と オーステナイト母相との接続が保たれているということか ら,マルテンサイト変態に伴う変形は晶癖面を無歪み無回転 の面とする不変面変形であるという考えに基づくものであ る.現象論ではこの考えを基に,全変形を結晶構造の変化そ のものである格子変形と,せん断による格子不変変形,さら に剛体回転を組み合わせたものとして捉えている.これをラ ス マ ル テ ン サ イ ト に 適 用 し た 例 と し て は , Sandvik と Wayman23)によるものや Kelly24)によるものがある.しか し,実際の形成機構として捉えたとき,格子変形と格子不変 せん断,剛体回転によって変形が生じるというのは人為的な ものであって,このような過程でマルテンサイト変態が起こ っているとは考えられない(先人も当然そう考えていたと思 われる).したがって,これらの現象論は実験的に確かめら れている結晶学的な現象そのものをうまく表すことはできる が,変態過程で結晶内で何が起こっているのかという,変態 の機構を説明するものではない. ところで,マルテンサイト相の形態を支配する大きな要因 として,核形成と成長の二つが考えられる.これらのうち, 核形成については積層欠陥や転位などの格子欠陥が重要な役 割を果たすことが Olson らによって示されている25,26).一方, Shimizu らは,Fe8Cr1C 鋼を用いてオーステナイト相の 積層欠陥を基に生成されるマルテンサイト相のごく初期の成 長を調べ,はじめに生成したマルテンサイトが格子欠陥を生 成し,それにより特定のバリアントをもつ新たなマルテンサ イト核が形成されることを示唆している27)(自己触媒型). 一方,成長に主眼を置いた研究として,マルテンサイト変 態によって生じる変形を記述するモデルが Khachaturyan に よって提案されている28).このモデルは,変形を結晶構造 の変化そのものを表す格子変形と,その歪を緩和するための すべりによる塑性変形の組合せによって理解しようとするも のである.これは変形の機構としても理にかなったものであ ると考えられるが,このモデルが提案された時点では,すべ り変形の結果が晶癖面とどのような関係になるかについての 記述はされていなかった. ここまでに述べてきたように,ラスマルテンサイト組織に ついては様々な研究が行なわれてきた.しかしながら,組織 の形態形成機構をはじめとして,近年の EBSD による詳細 な組織観察によって見出されたサブブロック構造などの特徴 的な組織の形成機構については不明な点が多い. これに対して,岩下らはマルテンサイト相の成長に主眼を 置いた Khachaturyan のすべり変形モデルを発展させた二種 類のすべり系に基づくモデルによりラスマルテンサイトの形 成過程を説明した29).次節以降では,そのモデルの詳細, およびその結果何が明らかになったかについて述べる. 2. 二種類のすべり(TTSD)によるラスマルテンサイ トの形成モデル

2.1 TTSD(Two Types of Slip Deformation)モデル

すべり変形によってラスマルテンサイトの形成を取り扱っ たのは前節でも述べたように Khachaturyan である28).しか しながら,当初この取り扱いでは,すべり変形による晶癖面 形成について合理的な説明はなされていなかった.岩下ら は,ラスマルテンサイトの晶癖面が{557}gであるという実 験事実に基づいて,二種類のすべり変形によって Bain の格 子変形のひずみを緩和して,その晶癖面を再現する形成機構 を考えた.すべり変形モデルでは,マルテンサイト変態に伴 う結晶の変形は,化学的自由エネルギーの差を駆動力として 生じる fcc→bct への格子変形と,この格子変形を補償する ための塑性変形(すべり)の組合せによって表される.以下, よく知られた Bain の格子変形も含めて,その詳細を述べる. まず,Bain 格子変形を記述する.Fig. 3 のように fcc 格 子を二つ隣り合わせて描くと,bct 単位格子とみなせる部分 が存在する.fcc の格子定数を agとすると,この bct 単位格 子の a 軸,c 軸方向の格子定数はそれぞれ ag/ 2,agであ る.これに対して,マルテンサイト相における bct 単位格子 の a 軸,c 軸の格子定数をそれぞれ aa′,ca′とおくと,マル テンサイト変態による変形行列は,h1= 2aa′/ag,h3=ca′/ag として, B3= 

 h1 0 0 0 h1 0 0 0 h3 

 , ( 1 ) と表される.この場合の fcc 母相と bct マルテンサイト相の 座標系の関係は,方向については

a b c

g = 

 1/2 -1/2 0 1/2 1/2 0 0 0 1 

u v w

a′ , ( 2 ) 面については (hkl)g=(pqr)a′ 

 1 1 0 -1 1 0 0 0 1 

 , ( 3 )

(4)

Fig. 4 Illustration showing the three kinds of Bain deforma-tion with respect to the lattice correspondence of z' axis of the martensite to the coordinate of the austenite lattice .

Fig. 5 Illustrations of plastic deformations by slips for V1 and V4.

で記述される30).このように二つの座標系の間に成り立つ 関係を定めたとき,形成される bct 格子がどのバリアントに 最も近いものになっているかを,KS 関係で平行関係にあ る面と方向のずれをそれぞれのバリアントについて比較する と,Table 1 に示す V1 もしくは V4 に最も近い方位関係を 持った状態となっていることが分かる.したがって,最小の 変形によって形成されうるバリアントはこの二つのどちらか である. 以上は[001]gと[001]a′が一致する場合についての例であ るが,実際の結晶中では[100]gもしくは[010]gと [001]a′ が一致する場合も考えられる.それぞれの格子変形の模式図 を Fig. 4 に示す.このような対応が全部で 3 種類存在し, それぞれ V2 もしくは V5,V3 もしくは V6 に対応する.な お,このときの格子対応は,V2,V5 については, B1= 

 h3 0 0 0 h1 0 0 0 h1 

 , ( 4 )

a b c

g = 

 0 1/2 -1/2 0 1/2 1/2 1 0 0 

u v w

a′ , ( 5 ) (hkl)g=(pqr)a′ 

 0 0 1 1 1 0 -1 1 0 

 , ( 6 ) によって関係付けられ,V3,V6 については, B2= 

 h1 0 0 0 h3 0 0 0 h1 

 , ( 7 )

a b c

g = 

 -1/2 0 1/2 1/2 0 1/2 0 1 0 

u v w

a′ , ( 8 ) (hkl)g=(pqr)a′ 

 -1 1 0 0 0 1 1 1 0 

 , ( 9 ) によって関係付けられる. ここで対象としているラスマルテンサイトは,a 軸と c 軸 の比がほぼ 1.0 の低炭素マルテンサイト晶であり31,32),Bain 格子のそれ(c/a~1.41)に比べてかなり小さい.そこで,格 子変形を補償するための塑性変形をすべりにより実現する. 格子変形による bct 格子の c 軸方向への収縮を緩和する方向 に塑性変形が生じるとして,そのような変形が起こるすべり 系 と し て , 簡 単 の た め に , Fig. 5 に 示 す よ う な [ 101 ] ( ˜101 )a′お よ び [ ˜101 ] ( 101 )a′の 二 つ を 選 ぶ . こ こ で , [101]a′と[ ˜101]a′は bct 系のすべり方向ではないが,このす

べりは Fig. 5(b)に示すように,二つの a/2〈111〉a′完全転位

(b1と b2に対応)を組み合わせることによって実現すること

が で き る . 実 際 に , ラ ス マ ル テ ン サ イ ト 内 部 に は a /

2〈111〉a′転位の存在が報告されている33).以上を前提とし

て,不変面変形が実現可能かどうかを以下に検討した.

(5)

変換されるとき,全変位を T(ra′)と表すと,

r′a′=ra′+T(ra′), (10)

と記述することが出来る.ここで,n1, n2を実際に変形が起

こ っ た す べ り 面 の 数 で あ る と す る と , 全 変 位 T ( ra′) は

[101]a′と[ ˜101]a′の正方向への変形であることから,

T(ra′)=T[101]a′・n1+T[ ˜101]a′・n2, (11) と表される.実際に変形が起こった最近接すべり面間の平均 格子面数を m1, m2とすると, n1= 1 m1 H( ˜101)a′ra′, (12) n2= 1 m2 H(101)a′ra′, (13) となる.このとき H は逆格子ベクトルであり,H(hkl)a′ra′は ベクトル ra′の長さ内に含まれる(hkl)a′面の合計数を表す. 式(10)に式(11),(12)および(13)を代入すると, r′a′=

(

I+ 1 m1 T[101]a′H( ˜101)a′+ 1 m2

T[ ˜101]a′H(101)a′

)

ra′, (14) となる.I は単位行列である. D=

(

I+1 m1 T[101]a′H( ˜101)a′+ 1 m2 T[ ˜101]a′H(101)a′

)

, (15) が,位置ベクトル ra′を r′a′に変換する,すなわち塑性変形 を表すテンソルとなる. 以上のようにして Bain の格子変形とそれを補償する塑性 変形のそれぞれを記述することができた.これらを基にして マルテンサイト変態による全変形を一つにまとめることがで きる.格子変形によって,ある位置ベクトル rgが ra′に変換 されるとすると,この変換は式( 1 )を用いて, ra′=B3rg, (16) という形で表される.これを式(14)に代入すると, r′a′=

(

IB3+ 1 m1 T[101]a′H( ˜101)a′B3+ 1 m2 T[ ˜101]a′H(101)a′B3

)

rg, (17) となる.このとき,式( 2 )の関係を用いて, T[101]a′=B3T

[

1 2 ˜1 21

]

g = 

 h1 0 0 0 h1 0 0 0 h3 

 

 ag 2 -ag 2 ag 

 = 

 ag 2h1 -ag 2h1 agh3 

 , (18) T[ ˜101]a′=B3T

[

˜1 2 1 21

]

g = 

 h1 0 0 0 h1 0 0 0 h3 

 

 -ag 2 ag 2 ag 

 = 

 -ag 2h1 ag 2h1 agh1 

 , (19) と表すことができる.また, H(pqr)a′=H(hkl)gB -1 3 , (20) より, H(pqr)a′B3=H(hkl)g, (21) であるので,式( 3 )の関係を用いて, H( ˜101)a′B3=H( ˜111)g= 

 -1 ag 1 ag 1 ag 

 , (22) H(101)a′B3=H(1 ˜11)g= 

 1 ag -1 ag 1 ag 

 , (23) と表すことができる.式(18),(19),(22)および式(23)を 式(17)に代入することにより, r′a′= 

(

1- 1 2m1 - 1 2m2

)

h1

(

1 2m1 + 1 2m2

)

h1

(

-1 m1 +1 m2

)

h3

(

1 2m1 + 1 2m2

)

h1

(

1- 1 2m1 - 1 2m2

)

h1

(

1 m1 -1 m2

)

h3

(

1 2m1 - 1 2m2

)

h1

(

- 1 2m1 + 1 2m2

)

h1

(

1+1 m1 +1 m2

)

h3 

 rg, (24) が得られる.したがって, A= 

(

1- 1 2m1- 1 2m2

)

h1

(

1 2m1 + 1 2m2

)

h1

(

-1 m1 +1 m2

)

h3

(

1 2m1+ 1 2m2

)

h1

(

1- 1 2m1 - 1 2m2

)

h1

(

1 m1 -1 m2

)

h3

(

1 2m1- 1 2m2

)

h1

(

- 1 2m1 + 1 2m2

)

h1

(

1+1 m1 +1 m2

)

h3 

 , (25)

A は Bain の格子変形と[101]( ˜101)a′および[ ˜101](101)a′

べりの塑性変形による全変形を表す行列である.この行列は Fig. 4(a)で表される格子変形による V1,V4 に対応してい る.一方,Fig. 4(b)で表される格子変形による V2,V5 に

(6)

Fig. 6 Calculation result of the relationship between m1and

m2values obtained from deformation matrix, Eq. (25), when

the eigenvalue exists. 

(

1+1 m1 +1 m2

)

h3

(

1 2m1 - 1 2m2

)

h1

(

- 1 2m1 + 1 2m2

)

h1

(

-1 m1 +1 m2

)

h3

(

1- 1 2m1 - 1 2m2

)

h1

(

1 2m1 + 1 2m2

)

h1

(

1 m1 -1 m2

)

h3

(

1 2m1 + 1 2m2

)

h1

(

1- 1 2m1 - 1 2m2

)

h1 

 , (26) となる.さらに Fig. 4(c)で表される格子変形による V3, V6 に対応したものは, 

(

1- 1 2m1 - 1 2m2

)

h1

(

1 m1 -1 m2

)

h3

(

1 2m1 + 1 2m2

)

h1

(

- 1 2m1 + 1 2m2

)

h1

(

1+1 m1 +1 m2

)

h3

(

1 2m1 - 1 2m2

)

h1

(

1 2m1 + 1 2m2

)

h1

(

-1 m1 +1 m2

)

h3

(

1- 1 2m1 - 1 2m2

)

h1 

 , (27) と表される. Table 1 に示す 24 バリアントのうち,Fig. 4 で示される 格子変形は各 CP(Closepacked plane parallel)グループ間で 同等であり,それぞれのグループに属する 6 つのバリアン トに対応する格子変形も式(25)~(27)で表される.すなわ ち,V1, V4, V7, V10, V13, V16, V19 および V22 が式(25)と 対応し,V2, V5, V8, V11, V14, V17, V20 および V23 が式 (26)と対応し,V3, V6, V9, V12, V15, V18,V21 および V24 が式(27)と対応する.したがって,3.1 節で後述するマ ルテンサイト変態におけるエネルギー変化を考えた場合,各 CP グループは等価となる.そこで,ここでは CP1 グループ を考え,Fig. 4 の(a)~(c)に相当する 3 種類の格子変形それ ぞれの場合について計算を行うこととした. 2.2 最密面平行関係と最密方向平行関係 前節の TTSD モデルによりマルテンサイト変態を記述す る行列が導かれた.しかし,この行列が実際に起こっている 変形を表すことができるか否かを確認する必要がある.その ための手段として,この変形によって生じる不変面と実際に 観察されている晶癖面,また,KS 関係で表される最密面 平行と最密方向平行について,それぞれがどのくらいのずれ を有しているかを検討した.そこで必要となるのが式(25) ~(27)の固有値である.式(25)を例にとって以下に示す. 式(25)で表される行列の固有値を,値の小さなものから 順にl1, l2, l3とし,それぞれの固有値に対応する固有ベク トルを e1,e2および e3とすれば,式(25)で表される変形が 不変面変形である条件は,l1<1,l2=1,l3>1 を満たすこ とである29,34).この条件を満たすとき,不変面の法線ベクト ル n は, n= 1-l 2 1 l2 3-l21 e1+ l2 3-1 l2 3-l21 e3, (28) と表される.また,ひずみ方向を表すベクトルを l,ひずみ 量を表す値をe0とすると, l=-l3 1-l2 1 l2 3-l21 e1+l1 l2 3-1 l2 3-l21 e3, (29) e0=l3-l1, (30) である. 式(25)の変態行列 A は,式(15)の D と式( 1 )の B3を用 いて A=DB3と表され,上述の固有値条件を満たすとき, 不変面変形は,AI=I+e0l◯×n=R1DB3と記述される28).R1 はすべり量 m1および m2に依存する行列である.ここで, AL= RIB3と す る と , 任 意 の 面 ( 逆 空 間 ) の 法 線 ベ ク ト ル

H(pqr)a′と,任意の方向を表すベクトル T[uvw]a′はそれぞれ, H(pqr)a′=(A

-1

L )TH(hkl)g, (31) T[uvw]a′=ALT[abc]g, (32)

で表される35).ここで,(pqr)

a′と(hkl)gについては式( 3 )

によって,[uvw]a′と[abc]gについては式( 2 )によって表さ

れる格子対応で関係付けられている. 以上のことを基に,式(25)で表される変形が実際に起こ っている現象を再現できるか否かの判定を,1m1, m2 100 の範囲で調べた.不変面について式(28)で表されるベク トルと実際に実験的に観察されている{557}gの法線ベクト ルとの内積をとり,角度差を評価することによって行なっ た.また,結晶方位関係についても同様に,式(31)を用い て(111)gと(011)a′それぞれの法線ベクトル同士の内積を, 式(32)を用いて〈 ˜101〉gと〈 ˜1 ˜11〉a′それぞれのベクトル同士の 内積をとり,角度差を評価することによって行なった. Fig. 6 に式(25)がl1<1,l2=1,l3>1 を満たす固有値を もつとき,すなわち不変面が実現できるときの m1と m2の 関係を示す.そのときの条件は Fig. 6 の実線上の m1と m2 の値であり,m1と m2は独立ではない.そこで,固有値で 与えられる不変面と,実験で観察されている{557}g晶癖面 との角度差を m1の値に対してプロットした図を Fig. 7 に示 す.図中,縦軸の角度差は,V1 および V4 に対応した変形 については(557)gとの値,V2 および V5 に対応した変形に ついては(755)gとの値,V3 および V6 に対応した変形につ いては(575)gとの値に相当するものである.Fig. 6 および Fig. 7からわかるように角度差が最小となるのは m1=m2 17.8 のときである.これは,すべり変形によってほぼ 17.8 格子面ごとに式(18)および式(19)で表される大きさの変位 が生じていることに対応している.

(7)

Fig. 7 Plot of angular deviation between the calculated invari-ant plane and the observed habit plane (557)gagainst the m1

value.

次に,KS 関係における最密面平行からのずれ,つまり

(111)gと(011)a′との角度差を Fig. 8 に示す.この図は Fig.

7 と同様に,式(25)で表される変形が行なわれた後の(111)g と(011)a′との角度差である.図より,m1の値が約 10 以上 の範囲では,黒線で示すように,角度差が約 5°以下とな り,広範囲で精度良く最密面平行の関係を満たしていること が分かる.なお,角度差が最小となるのは m1=m217.8 の ときである. さらに,KS 関係における最密方向平行からのずれ,つ まり,角度差を Fig. 8 の赤および緑の線で示す.赤色の線 は V1 での関係である[ ˜101]gと[ ˜1 ˜11]a′の角度差を示してい る.一方,緑色の線は V4 での関係である[01 ˜1]gと[ ˜11 ˜1]a′ の 角 度 差 を 示 し て い る . Fig. 6 お よ び Fig. 8 よ り , 同 じ Bain 格子変形によって生じているバリアント同士,つまり V1 と V4 における最密方向平行の角度差は m1と m2につい て対称関係となることが分かる.角度差が最小となるのは赤 線の V1 では m1=∞, m28 のときであり,緑線の V4 では m18, m2=∞のときである.すなわち,ほぼ一つの方向へ の変形のみが生じたときに,最密方向平行の関係をよく満足 することが分かる.しかしながら,この場合,最密面平行の 関係(Fig. 8 の黒線)が極端に大きくずれる.したがって,最 密面平行と最密方向平行の角度差をともに小さくするために は,m1=m217.8 近傍の値をとって,Fig. 8 の 3 つの曲線 のすべてがなるべく小さな角度をもつように折り合いをつけ ているものと考えられる.このことは,実際のラスマルテン サイトにおいて最密面平行はほぼ正確に満たすが,最密方向 平行からは最大で 5°程度のずれが生じているという結果36) や,KS 関係がラス間でもばらつきがあり,数度ずれると いう結果37,38)を生じさせる要因と考えられる. ここで,V3 での関係である[01 ˜1]gと[ ˜1 ˜11]a′,V5 での関 係である[0 ˜11]gと[ ˜1 ˜11]a′の角度差はそれぞれ V1 と同じに なる.一方,V2 での関係である[ ˜101]gと[ ˜11 ˜1]a′,V6 での 関係である[1 ˜10]gと[ ˜11 ˜1]a′の角度差については V4 と同じ になる.また,V2 と V5,あるいは V3 と V6 で比較したと き,最密面平行と最密方向平行の角度差における m1と m2 の議論は,Fig. 6 および Fig. 8 で示した V1 と V4 のそれと 全く同様である. さて,Fig. 6 および Fig. 7 に示したように,m1=m2が成 立するとき,それぞれのすべり変形によって生成した不変面 と{557}g面との角度差が最小となった.このとき,Fig. 8 における赤線と緑線で表される二つのバリアントにおける最 密方向平行からのずれの大きさは全く同じ(約 5.7°)とな り,ここで赤線と緑線が交点をもつ.すなわち,m1=m2の 条件ですべり変形が生じた場合,V1 と V4 はどちらのバリ アントになっているのか判断できないことが分かる.このこ とは,一種類のすべり変形のみ(m1=m2=m に相当)を考え た Khachaturyan の計算28)では,KS 関係を満たして生成し ているそれぞれのバリアントについての変形を十分には表す ことができないことを示している.それに対して,m1>m2 の範囲では,変形行列は V1 により近いものとなっており, 逆に m1<m2の範囲では V4 により近いものとなる.したが って,ラスマルテンサイトにおける各バリアントは,Bain 格子変形が起こったあとに生じる二種類の塑性変形の大小関 係によって定まっているものと考えるべきである.より具体 的には,たとえば一つの Bain 格子変形を Fig. 4(a)の格子変

形とすれば,格子緩和をになう[101]( ˜101)a′および[ ˜101] (101)a′の塑性変形において,[101]( ˜101)a′での変形の方が 大きいものを V1,逆に[ ˜101](101)a′での変形の方が大きい ものを V4 と分類する,という形で定義しなおすことができ る. 同様にして Fig. 4(b)と(c)についても考えると,m1>m2 の範囲においてはそれぞれの変形行列は V3,V5 により近 いものとなっており,逆に m1<m2の範囲においては V2, V6 により近いものとなっている.つまり,Fig. 4(b)の格子 変形と[101]( ˜101)a′および[ ˜101](101)a′での塑性変形から なる変形では,[101]( ˜101)a′での変形の方が大きいものを V5,逆に[ ˜101](101)a′での変形の方が大きいものを V2 と 分類することができ,Fig. 4(c)の格子変形と[101]( ˜101)a′ および[ ˜101](101)a′での塑性変形からなる変形では,[101] ( ˜101 )a′で の 変 形 の 方 が 大 き い も の を V3 , 逆 に [ ˜101 ] (101)a′での変形の方が大きいものを V6 と分類することが できる. ここで強調しておきたいことは,先にも述べたとおり各バ リアントはそれぞれ決まった m として生成しているもので はなく,m の値に自由度があるという点である.この m の 値に自由度があることによって,一つのバリアントの中にラ ス(単一の m の値をもつ領域)を形成することができる.こ れは言い換えると,一つのブロック内での各々のラス同士で の結晶方位差は格子緩和のために導入される転位の量の微妙 な違い(m の値のわずかな差)によって生じているというこ とができる.これについては,後の 3.4 節で再度述べる.実 際のラスマルテンサイトがこのような形態をとっていること は,先に挙げた森戸らの報告に代表されるような EBSD 分 析による結晶方位マップにおいて,一つのブロックが微小な 結晶方位差を持った微細な領域の集合として観察されること に良く現れている. 上述の TTSD モデルは逆問題を解く形で晶癖面があると したときの独立した二つのすべり量の関係を求めたものであ

(8)

る.最近,このような複数のすべり変形を考え,より一般的 に変態で生じた領域と母相との座標変換を取扱い,結晶格子 の対称性を考慮して,すべり変形の独立性とすべり量を条件 として実験結果と比較した報告がなされている35)(文献 35) 中で岩下らの論文が引用されて議論がなされているが,その 参考文献欄には岩下らの論文の記述がなく,全く別の論文が 引用されている.文献 35)中での岩下らの論文とは,本稿の 参考文献 29)である).しかしながら,その結論は TTSD モ デルと本質的には変わらない. 3. TTSDモデルにより理解できる現象 3.1 TTSDモデルに基づくラスマルテンサイト形成フェー ズフィールドシミュレーション 3.1.1 シミュレーション方法 すべり変形によって Bain の格子変形で生じたひずみを緩 和するという TTSD モデルにより,ラスマルテンサイト形 成のフェーズフィールドシミュレーションが可能となった. それは,薄板状介在物の周囲に存在するひずみとして転位を 表すフィールド変数が既にモデル化されていたからであ る39).この転位モデルを用いて,TTSD モデルで導入され る転位の場を表現することによりマルテンサイト相変態のフ ェーズフィールドモデルが構築でき,その発展方程式に基づ いてマルテンサイト相変態がシミュレートできる.以下,こ れについて詳述する. TTSD モデルでは,bct マルテンサイト相の c 軸がオース テナイト相の 3 つの等価な〈100〉軸に沿っているとしてフ ィールド変数qi(r)(i=1, 2, 3)を導入する.ここで r は位置 ベクトルである.塑性変形に関して,マルテンサイト相の転 位すべりを記述するフィールド変数を pa i(r)(i=1, 2, 3)で表 す.ここで,a はすべり系の数で,TTSD モデルでは a=1, 2である.pa iは以下の式で見積もられる. pa i= 3・|b(i)| ma (i)・ag . (i=1, 2, 3) (33) ここで,b(i)はバーガースベクトル,agはオーステナイト相 の格子定数である.ma (i)は式(12),(13),(24)および(25) での m1,m2と同じ意味をもち,最近接すべり面間の格子面 数である. マルテンサイト変態は弾塑性フェーズフィールドモデルで 記述される全自由エネルギーを最小化させる過程である.こ こで,全自由エネルギー Ftotalは, Ftotal=

f

r[fL+Egrad_q+Egrad_p+Eel]dr, (34)

と表される39).式中,f Lは自由エネルギー密度,Egrad_qと Egrad_pはフィールド変数qi(r)と paiに関する勾配エネルギー 密度であり,Eelは弾性エネルギー密度である.マルテンサ イト変態の場合,Df を変態の駆動力として,fLはランダウ 多項式により以下のように定義される40,41) fL=Df

{

a 2(q 2 1+q22+q23)- b 3(q 3 1+q32+q33) +c 4(q 2 1+q22+q23)2

}

. (35) ここで,a,b および c は展開係数である.ここでは,qi=0 およびqi=1 で fLが極小値をもつように,a=0.1,b=3a+ 12 および c=2a+12 としている.また,Df は CALPHAD 法に基づいた ThermoCalc 計算で得ることができるオース テナイト相とマルテンサイト相の化学的自由エネルギーの差 に等しい. 界面熱力学によれば,勾配エネルギー密度 Egrad_qは空間 においてqi(r)の変動がある場合,以下の式で表される42,43). Egrad_q= kq 2 3

i=1 (:qi(r))2. (36) ここで,kqはqi(r)に関する勾配エネルギー係数であり,こ こではフィティングパラメータとして扱っている. 変形ひずみ場の勾配エネルギー密度,Egrad_pは転位芯エネ ルギーの塑性変形寄与分として記述され,次式で与えられ る44,45) Egrad_p= kp 2 3

i=1

a ([na

(i)×:pa(i)]・[na(i)×:pa(i)]). (37)

式中のkpはオーステナイト相とマルテンサイト相の変形ひ ずみ場を滑らかにつなぐことを保証する勾配エネルギー係数 である.n(i)はすべり面の法線方向の単位ベクトルである. Khachaturyan によれば28),弾性ひずみエネルギーは以下 で与えられる. Eel= 1 2Cklmn{ekl(r)-e 0 kl(r)}{emn(r)-e0mn(r)}. (38) ここで,Cklmnは弾性係数であり,Cklmn=ldkldmn+m(dkmdln +dkndlm)である.dijはデルタ関数であり,l と m はラメ定 数であり,等方的立方結晶ではヤング率と体積弾性率により 得られる.ekl(r)は均一ひずみ šeklと不均一ひずみdeklの和と して定義される全ひずみである. ekl(r)= šekl+dekl(r). (39) 均一ひずみšeklは系のマクロな変形を記述している.マルテ ンサイト変態中,マクロ形状が固定されているとき均一ひず みは 0 である.これは旧オーステナイト粒界では成立して いると考えられる.不均一ひずみdeklは

f

Vdekl=0 を満足す る.弾性論によれば28),de klは以下のように与えられる. dekl(n)= 1 2{nlQkm(n)+nkQlm(n)}s 0 mn(n)nn. (40) ここで,Qij(n)はグリーン関数テンソルで,フーリエ空間の 波数ベクトルを k として,n≡k/|k|であり, Qij(n)= dij m- ninj 2m(1-n), (41) と表される.dijはデルタ関数である.式(40)中,s0mn≡Cmnkl e0 klと表され,e0kl(r)は全固有ひずみであり Bain 変形と塑性 変形に起因するひずみの和である.言い換えれば,格子変形 に関するフィールド変数qi(r)と転位に関するフィールド変 数 pa i( r ) の 寄 与 を 含 め た ひ ず み で あ る . Zhou ら に よ れ ば45),全固有ひずみは以下の式で与えられる. e0 kl= 3

i=1 [(eB kl(i)・qi(r))+

a ba

(i)◯×na(i)+na(i)◯×ba(i)

2|ba (i)| ・pa (i)(r)] , (42) ここで,b はバーガースベクトル,n はすべり面の法線方向 の単位ベクトルであり,◯×はダイアディック積を表す.eB kl

(9)

Table 2 Simulation parameters for the phasefield model in Fe0.1C mass steel.

Lattice parameters,a (m) ag=3.599×10-10,aa′=2.867×10-10,

ca′=2.880×10-10

Elastic constants,Cijkl(GPa) C11=267, C12=123, C44=72

Gradient coefficients,(J・m2/mol) k

q=1.6×10-14,kp=30×10-14

Driving force,Df (J/mol) 5085

Tempreture,T (K) 300 (i)は Bain 変形によって生じる固有ひずみであり以下のよう に与えられる. eB kl(1)= 

 2aa′/ag-1 0 0 0 2aa′/ag-1 0 0 0 ca′/ag-1 

 , (43) eB kl(2)= 

 ca′/ag-1 0 0 0 2aa′/ag-1 0 0 0 2aa′/ag-1 

 , (44) eB kl(3)= 

 2aa′/ag-1 0 0 0 ca′/ag-1 0 0 0 2aa′/ag-1 

 . (45) 式(39)~(45)を式(38)に代入することによって,弾性ひず みエネルギーが求められる.以上のようにして,マルテンサ イト変態の全自由エネルギーが決定できる. マルテンサイト変態でのフィールド変数は非保存変数なの で,そのダイナミクスは以下の AllenCahn 方程式に支配さ れる46) &M(r, t) &t =-LM dEtotal dM(r, t), (46) ここで,M(r, t),(M=qi, pai)は位置ベクトル r と時間 t に 依存するフェーズフィールド変数である.LMはそれぞれの フィールド変数の緩和係数である.各フィールド変数につい て式(46)をエネルギー最小の条件を満足するように連立し て解くことによってマルテンサイト変態がシミュレートされ る. 3.1.2 シミュレーション結果47) 結果の一例として,Fe0.1 massC 鋼の 300 K における 三次元シミュレーションの結果を以下に示す.計算に用いた 分割数は N3(N=64)であり,メッシュサイズは 4 nm であ り,計算領域は 256 nm×256 nm×256 nm である.初期条 件として,シミュレーション領域であるオーステナイト相の 中心の(111)面上に半径 12 nm の円盤状マルテンサイト核を 置いた.この核は単一のバリアント V1 から成る.なお,こ の核を他のバリアントとしても以後に述べる組織形態に本質 的な差は生じないことを確認している.計算パラメータをま とめて Table 2 に示す.等方体を仮定しているので,純鉄の 弾性率48)を参照して c 11=c12+2c44としている.フィールド 変数qi(r)は 0 から 1 まで変化し,0 はオーステナイト相,1 はマルテンサイト相を意味する.pa i の変域は 0 から 1.21 で あり,0 はすべり変形を生じていない領域,1.21 は最大のす べり変形を生じた領域に対応する. Fig. 9 にシミュレーション結果を示す.図では,Fe0.1 C 鋼の弾性ひずみエネルギー,化学的自由エネルギー,勾配 エネルギー,全自由エネルギーの時間変化を示している.弾 性ひずみエネルギーと勾配エネルギーは単調に増加し,10 ステップでほぼ飽和し,その飽和値は約 1300 J/mol であ る.一方,化学的自由エネルギーはマルテンサイト変態の 間,単調に約 4600 J/mol 減少する.この化学的自由エネル ギーはマルテンサイト変態の駆動力であり,弾性ひずみエネ ルギーを凌駕し,結果として全自由エネルギーは低下する. ここで,すべてのエネルギーは 10~15 タイムステップで定 常値となり,マルテンサイト相変態が終了していることがわ かる. Fig. 10に CP1 グループにおける 3 つの Bain 格子グルー プの生成状態を(111)面でカットした図を示す.濃紺の領域 は未変態オーステナイト相であり,3 つの異なった Bain 格 子グループの領域を赤,青,黄色で示している.各ドメイン はパラメータqi(r)の値によって決まる.ここでは,qi(r) 0.7 をマルテンサイト相として表示している.オーステナイ ト相におけるマルテンサイト相の c 軸の 3 つの選択性により, 3つの異なった色で 3 つのドメインが選定されている.t= 4 ですべての 3 つのドメインが交互に現れている.t=8 で は,存在するマルテンサイト相に沿って異なったドメインが 大きく成長している.ドメイン成長の過程で,あるドメイン が別のドメインに当たると,そのドメインは成長を止める. t=20 では,オーステナイト相を示す濃紺の領域はごくわ ずかになり,ほとんどマルテンサイト変態が終了しているこ とがわかる.これらのドメイン生成は初期に置いたマルテン サイト核とはほとんど無関係に,マルテンサイト相の生成に 伴うひずみを緩和するため,自発的に生成したものである. すなわち,式(34)で表される全自由エネルギーを下げるた め,マルテンサイト相(qi(r))が生成され,そのひずみを塑 性変形(pa i(r))が緩和するという自己緩和過程の結果である. Fig. 11 に,CP1 グループのバリアント分布状態を(111) 面でカットした図として示す.Fig. 11(e)には 6 つのバリア ントを表す 6 つの色が認められる.(e)からわかるように, V1V4, V2V5 および V3V6 の組合せ,すなわちラスマル テンサイトにおけるサブブロック形態が認められる. Fig. 12 に,CP1 グループ内の[ ˜101](101)a′すべり系に沿 ったすべり変形分布 pa i(r)を(111)面でカットした図として 示す.濃紺領域は未だすべり変形が生じていない領域であ り,赤色領域は最も劇的な変形領域を示す.図より,マルテ ンサイト相の核を置いたオーステナイト相の中心領域からマ ルテンサイト変態の進行とともに自己緩和によりすべりが広 が っ て い く 様 子 が わ か る . Fig. 11 と Fig. 12 を 比 較 す る と,バリアント形態の発展はすべり変形の発展に対応してい ることがわかる.相変態の進行により,すべり量が増加し, 結果的に Fig. 11 にみられるようなマルテンサイト相のバリ アントの成長と粗大化が自己緩和により生じる.言い換えれ ば,変形の発生と発展がラスマルテンサイトのバリアントの 形態形成を決定づけている.Fig. 13 に,Fig. 12 と異なった すべり系[101]( ˜101)a′によるすべり変形量 pai(r)の分布を (111)面でカットした図として示す.その形態は Fig. 12 と 同様であるが,局部的にみると,たとえば,Fig. 12(c)と Fig. 13(c)に丸印で示した A および B の領域のように, [ ˜101](101)a′すべりが多くはたらいている領域では,[101]

(10)

Fig. 8 Angular deviations between (111)g and (011)a′,

be-tween the equivalent close packed directions [ ˜101]g and

[˜1 ˜11]a′(for V1), and between the equivalent close packed

directions [01 ˜1]g and [ ˜11 ˜1]a′(for V4), calculated from the

deformation matrix, Eq. (25), for V1 and V4.

Fig. 9 Simulation result of time evolution of energy densities in Fe0.1C mass steel at 300 K.

Fig. 10 Time evolution of blocks of Bain group on (111) plane for (a) t=2, (b) t=4, (c) t=8, and (d) t=20 simulated by elastoplastic phasefield model. The three colors, i.e., blue, red, and yellow represent the three Bain groups and deep blue represents the austenite phase.

Fig. 11 Time evolution of variants on (111) plane for (a) t= 2, (b) t=4, (c) t=8, and (d) t=20 simulated by elastoplas-tic phasefield model. (e) is the specific explanation of variants shown in (d). The six colors represent six different variants in a CP group. (f) is the EBSP observation of lath martensite quot-ed from Ref. (14).

Fig. 12 Time evolution of plastic strain, pa

i(r), (i=1, 2, 3),

along [101]( ˜101)a′slip system in view of (111) plane for (a) t

=2, (b) t=4, (c) t=8, and (d) t=20 by phasefield simula-tion. ( ˜101)a′すべりはほとんど生じていないことがわかる.した がって,マルテンサイト変態に対する二つのすべり系の寄与 は局部的に相補的であることがわかる. Fig. 14 にマルテンサイト相変態にともなう弾性ひずみエ ネルギーの分布を(111)面でカットした図として示す.赤色 は弾性ひずみエネルギーが最大値であることを示し,濃紺色 は最小値,すなわちひずみエネルギーが 0 であることを示 す.マルテンサイト相変態の初期では,Fig. 14(a)に示すよ うに弾性ひずみエネルギーは小さく,初期に置いた核の周辺

(11)

Fig. 13 Time evolution of plastic strain, pa

i(r), (i=1, 2, 3),

along [ ˜101](101)a′slip system in view of (111) plane for (a) t

=2, (b) t=4, (c) t=8, and (d) t=20 by phasefield simula-tion.

Fig. 14 Time evolution of elastic strain energy in view of (111) plane for (a) t=2, (b) t=4, (c) t=8, and (d) t=20 simulated by phasefield model.

Fig. 15 The growth process of lath martensite at (a) t=2, (b) t=4, (c) t=8, and (d) t=20 in 3D space simulated by phasefield model.

Fig. 16 Time evolution of lath martensite at (a) t=2, (b) t =4, (c) t=8, and (d) t=20 in 3D space observed from the outside of austenite cubic simulated by phasefield model. Each color represents a block variant.

の狭い領域に限定されている.時間の進行とともに,ひずみ エネルギーは増加し,シミュレーション領域全体へ分布して ゆく.Fig. 14 を Fig. 12 および Fig. 13 と比べると,すべり 変形が弾性ひずみエネルギーの分布を決定づけていることが わかる.Fig. 14 に見られる弾性ひずみエネルギーの値は一 つの CP グループにおける局所的な弾性ひずみエネルギーで ある.局所的なひずみエネルギーの値を計算ドメイン全体で 加え合わせることで,ひずみエネルギーの最大値は Fig. 9 に示したようにマルテンサイト変態が終了したときの弾性ひ ずみエネルギーの値と当然等しくなる.二種類のすべり系に 沿ったすべり変形により相変態にともなう大きなひずみが緩 和され,全自由エネルギーの最小化が実現される.こうして 全体としてマルテンサイト相になる. Fig. 15 にラスマルテンサイトの成長過程を三次元表記で 示す.マルテンサイト相は核の周辺で大きく成長し,Fig. 15(d)に示すように,t=20 でオーステナイト相全体をほぼ 覆う.Fig. 16 にラスマルテンサイトのバリアント発展を三 次元で示す.Fig. 15(a)と比べると,t=4 では Fig. 16(a) に見られるようにラスマルテンサイトはオーステナイト相立 体の外では観察されない.相変態が進行するにつれて,ラス マルテンサイトはオーステナイト相立体の表面に達し,t= 20 で Fig. 16(d)に見られるように,ほぼ全体がマルテンサ イト相となる. 以上のシミュレーションでは,等方弾性体としてラメの定 数を用いている.これはマルテンサイト相の単結晶が実験的 に作製できないため,弾性定数を実験的に求めることができ ないためである.実際,これまでマルテンサイト相の弾性係

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Fig. 17 Simulation result of the time evolution of average value of the plastic strain pave.

Fig. 18 Change in dislocation density with carbon content in low carbon 10Cr5W steels. The solid squares represent the results measured with XRD in this study and the clear dia-monds represent the results in Morito's study measured with TEM. 数 Cklmnは全く報告されていない.そこで第一原理計算によ って求められた弾性定数49)を用いて,正方晶として同様の シミュレーションを行った.その結果,ブロックサイズがや や小さくなる傾向は認められるものの,Fig. 16 に示した形 態との本質的な相違は認められなかった50) 3.2 ラスマルテンサイト中の転位密度 上述のように,ラスマルテンサイトの形態形成はすべり変 形によって記述できる.このことは,すべり変形によって生 じたラスマルテンサイト中の転位密度を見積もることができ ることを意味している.この転位密度には,マルテンサイト 相形成過程で周囲のオーステナイト相に形成される転位密度 も含んでいると考えられる.それは,マルテンサイト相形成 過程でオーステナイト相に塑性変形が生じて格子ひずみが緩 和されれば,結果として,マルテンサイト相自体が緩和すべ き格子ひずみ量(pa i に相当)が減少するためである51).言い 換えれば,マルテンサイト相変態で生じた全弾性ひずみ量は Fig. 9 で示した弾性ひずみ量であり,その一部をオーステナ イト相が負担すれば,マルテンサイト相自体が負担する弾性 ひずみ量が減少すると考えられるからである. さて,シミュレーションによる転位密度を求めるために, マルテンサイト相の二つのすべり系への寄与をカウントする 平均値(pave)を導入する.paveには以下の関係がある52). pave= |b| D , (47) ここで,b はバーガースベクトル,D は最近接すべり面間の 距離である.TTSD モデルで用いた最近接すべり面間の格 子面の数を m とすると, D=m×dhkl, (48) と表される.ここで dhklは(hkl)面の格子面間隔である.さ らに,このときの転位密度をrlimとすると,D1/ rlimの関 係がある. Fig. 17 に示すように,ほぼマルテンサイト相変態が終了 した t=20 における paveの値は約 0.035 である.|b(101)a′| =4.06×10-10mとすると,m [101]はほぼ 57 となる.TTSD モデルにおける二種類のすべり系におけるバーガースベクト ル[101]a′または[ ˜101]a′のそれぞれが実際の bcc(bct)系の 二つのバーガースベクトル〈111〉a′から成っていると考えれ ば(Fig. 5),実際のすべり系における m[111]の値は 114 とな る.結局,Fe0.1C 鋼の転位密度はr=2.8×1015m-2と見 積もることができる. ところで,マルテンサイト相中の転位密度はこれまでにも 測定されているが,耐熱鋼で重要となる低炭素領域(0.1C 以下)における密度の報告は少ない53).ここでは,試料中の 平均的な転位密度を測定できる X 線回折法54,55)によってラ スマルテンサイト中の転位密度を測定した結果56,57)とシミュ レーションで得られた結果を比較する. 実験結果の例としてここで示した鋼は W を比較的多く含 む 10Cr5W 系57)であり,炭素量を 0.02, 0.03, 0.09 および 0.13と系統的に変化させた 4 種類の鋼である.その転位密 度測定結果を Fig. 18 に実線で示す.図には,比較として TEM 観察で過去に炭素鋼で測定された値53)も破線で示し た.鋼の合金元素の組成の差もあり,実線と破線のデータを 単純には比較できないが,TEM 観察結果の方が 1.3~1.5 倍 ほど高い.ただ,比較できる炭素量の範囲では,どちらも転 位密度の値は 1014m-2のオーダーである.炭素量に対する 転位密度の変化についてもどちらも同じで,0.13C 量まで 炭素量とともに転位密度は増加している.マルテンサイト相 では炭素量の増加とともに体積ひずみが増加し,転位密度が 増加したものと考えられる. 実験結果とシミュレーションの結果を比較すると,上述の シミュレーション結果の値r=2.8×1015m-2は実験結果よ り 1.5 倍ほど大きい.ここで,マルテンサイト相に寄与した であろうすべり変形で生じた転位が実際のマルテンサイト晶 中にすべて保存されている訳ではなく,ラスやブロックの境 界に蓄積され粒界の一部を形成したと考えれば,むしろシミ ュレーション結果と実験結果は定量的によく一致していると いえよう. 3.3 サブブロック構造 1 章で述べたように,ラスマルテンサイトにおけるサブブ ロック構造の存在は,EBSD 法という強力な実験手法の発 展により,森戸らによって発見された.これは,Fig. 19 の

(13)

Fig. 19 Schematic illustration showing the subblock struc-ture originated from the amount of slip parameter in TTSD model.

Fig. 20 Schematic illustration showing the laths in a block structure originated from the amount of slip parameter in TTSD model. 模式図に示すように,あたかもラス構造のようにみえる微細 構造が特定のバリアントが隣接したブロックにより成り立っ ている構造である.なぜ,このような特定のバリアントが隣 接するかに関しては,2.2 節で述べたように,Fig. 8 で示し た Bain 変形のグループと Bain 変形を緩和するためのすべ り変形の種類によって明確に理解することができた.実際に, 3.2 節のシミュレーション結果では,Fig. 11 に示すように 実験で観察される特徴が現れている. 3.4 ブロック中のラスの存在 ラスマルテンサイトの階層構造をなしているパケット,ブ ロック,ラスに関し,これまでパケット中のブロック構造で ある 24 種類のバリアントの生成については,Table 1 に示 したように,fcc オーステナイト相と bcc(bct)マルテンサイ ト相の面と方位の関係で明確に理解されてきた.一方,形態 の名前でもあるラスに関しては一つのブロック中にわずかな 方位変動を示す領域として実験的に観察されているものの, その形成についてはこれまで明確な説明は全くなされていな い.このブロック中のラス間の角度差は極めて小さく, TEM によってかろうじて区別できる構造であるため,たと えばそれらの大きさ,幅については,しばしば,ラスとブロ ックはまとめて(混同され)表現され,実験観察では明確な 区別が必ずしもなされているとは言い難い. これに関し,2 章で述べたように,TTSD モデルではラス の生成を合理的に説明できる.たとえば,Fig. 8 において, m1>17.8 となって一つのブロックバリアント(赤線に相当す る V1)が定まった領域の中で,m1が同じ値をもつ領域がラ スを形成していると考えることができる.すなわち,バリア ン トが 決 まっ ても m1の 値に は大 きな 自由 度 があ る(Fig. 8).その中で,同じすべり量(単一の m1値)によってひずみ が緩和された領域をラスと考えるのが合理的である.実際, Fig. 8 の 17.8<m1<100 の範囲の赤線で示される領域間の 角度差はほぼ 5°以内となり,実験的に観察されるラス間の 方位差とよく一致する.したがって,Fig. 20 の模式図に示 すように,m1と m2で示される各ブロック内に,m(i)1 と m(i)2 で表されるごくわずかな角度差をもつ領域(ラス)が存在する こととなる. このように,これまで全く説明できなかったラスの形成要 因を TTSD モデルは明確に示すことができ,ラスマルテン サイトで観察される構造的な現象を矛盾なく,かつ合理的に 説明できる. ここで,3.2 節で述べたシミュレーション結果では,V1~ V6 のブロックを表現しているが,ブロック中のラスについ ては現時点では表せていない.ブロック中のラスを表現する には,上述のように一つのブロックの中ですべり量がほぼ同 じ領域(m が単一の領域)を区分する必要がある.原理的に は,Fig. 12 および Fig. 13 で示したひずみ量(pa i(r))から, 式(47)および(48)の関係を用いてすべり量を見積もり,す べり量がほぼ同じ領域を区分することでラスを表現すること は可能であるが今後の課題としたい. 4. お わ り に ラスマルテンサイトで実験的に観察されている現象および その形成に関する現象論的説明を概観し,それらを基に構築 した TTSD モデルについて詳述してきた. TTSD モデルは,多くの先人たちのラスマルテンサイト 研究を基本的な土台とし,実験事実としての晶癖面を拠り所 として,ラスマルテンサイトの形成機構を,逆問題を解くと いう形でアプローチして得られたものである.ラスマルテン サイトという複雑な階層構造について,現象を説明しようと したのではなく,現実に何が生じてラスマルテンサイトが形 成されているのかという思索の結果である.特に,現象論的 な格子モデルのように天下り的に格子回転を導入せず,あく まで晶癖面という実験事実を現実的なすべり変形で実現した モデルである(結果的に式(25)で示した変態マトリクスは格 子回転を含むことになった).もちろんこのモデルは成長に 主眼をおいたモデルで,核形成過程を取り扱っていないた め,ラスマルテンサイトの形成を包括的に明らかにしている とは言えないが,少なくとも,ラスマルテンサイトにおける 階層構造の形成の必然性,サブブロック形成の必然性, ブロック中に存在するラス形成の意味と必然性,といった 諸現象をすべて無理なく合理的に説明できる.

(14)

ここ で,筆 者が 研究し てき た耐熱 鋼では 炭素 含有 量が 0.1C 程度で転位のみを含むラスマルテンサイトが対象で あったため,その形成をすべり変形を基に考えてきた.炭素 量の増加とともにマルテンサイト相中に含まれる欠陥が転位 から双晶へ変化することはよく知られている.この遷移は, マルテンサイト相形成時に転位が移動可能かどうかによって 生じているものと考えられる.それは,一般的な金属の変形 において,双晶の形成には大きなエネルギーが必要であり, 金属自体はなるべくすべりによって変形したいと考えている からである.言い換えれば,すべり変形ができれば,わざわ ざ双晶変形はしない.その意味では,マルテンサイト相にお ける転位から双晶への遷移はマルテンサイト相における転位 易動度(炭素量に依存するパイエルス応力の大小など)と関連 する問題であって,マルテンサイト変態中では,周囲のオー ステナイト相の影響は支配的ではないと考えられる. 最後に強調しておきたいことは,「学問的にあるアプロー チができ,その結果として晶癖面は***面,最密方向平行 は***方向,最密面平行は***方向である」と記述され るとしても,Fig. 8 にも示したように,現実の材料中では, それらの関係の折合いをつけた結果として晶癖面が生成さ れ,最密面方向は分布を示している.もちろん,どのような 晶癖面,最密面平行,最密方向平行が現れるかを全エネル ギーが最小になっているかどうかという条件から示す必要が あるかもしれない.しかし,現実の構造が常にエネルギー最 小の状態となっているとは限らず,かつマルテンサイト相自 体も平衡相ではなく,エネルギー極小の周辺でゆらいでいる と考えるのが自然である.繰り返しになるが,現実の材料で は,そのゆらぎの中で,折合いをつけた組織が現れていると いえよう. 本稿の内容に関しては,折にふれて小山敏幸博士(名古屋 大学教授),塚田祐貴博士(名古屋大学助教)に有益な議論を して頂いた.特に,TTSD モデルからマルテンサイト相シ ミュレーションへの展開について両先生から多大なる示唆を 頂いた.沼倉宏博士(大阪府立大学教授)にはマルテンサイト 相の弾性定数の第一原理計算結果を提供して頂いた.また, TTSDモデルは名古屋大学大学院生の岩下和尋君(現,埼玉 県高校教員)とのブレインストーミングの産物である.シミ ュレーションに関しては,名古屋大学大学院生の伊藤和樹君 (現,日本特殊陶業株),大曽根文人君,吉田啓太君(現,日 立建機株),Zhenhua Cong 博士(現,南京工業大学)の協力 により得られたものである.また,X 線回折による転位密 度解析については,同大学院生の国枝知徳博士(現,新日鐵 住金株),赤田兼資君(現,本田技研工業株),新谷剛志君 (現,三菱重工株)の多大なる協力を得た.さらに,ここで述 べた研究の一部は日本学術振興会,科学研究費補助金基盤研 究(B)の援助により実施されたものである.ここに謝意を表 します. 文 献

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Fig. 1 Schematic illustration showing the hierarchic structure of lath martensite.
Table 1 List of 24 variants in KS orientation relationship. Variant No. Close packedPlane parallel Close packed direction parallel VariantNo
Fig. 3 Illustration showing the relationship between Bain lattice originated from the austenite lattice and the martensite lattice.現象論」と呼ばれており,変態前後でマルテンサイト相とオーステナイト母相との接続が保たれているということから,マルテンサイト変態に伴う変形は晶癖面を無歪み無回転の面とする不変面変形であるという考えに基づくものである.現象論ではこの考えを基に,全変形を結
Fig. 5 Illustrations of plastic deformations by slips for V1 and V4.
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