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ポルフィリン症研究の歴史と世界および日本の第 1 例報告
東京都市大学 近藤 雅雄
(総説論文:2017 年 3 月 5 日公開) ポルフィリン症は「病気の主座がポルフィリン代謝の異常にある一群の疾患」と定義する。ポル フィリン症はポルフィリン・ヘム合成の中間代謝物が過剰に体内に蓄積することによって発症する 遺伝性の難病で、患者は皮膚、消化器、精神・神経、循環器、運動器、内分泌等の多彩な機能障害お よび症状を呈することが特徴である。 ポルフィリン症は医聖ヒポクラテスにより既に紀元前460 年頃に記載されていることが報告され ている1)が、今日的には 1874 年 Schultz2)による先天性骨髄性ポルフィリン症(congenital erythropoietic porphyria, CEP)と思われる症例報告が初めてである。その後、1912 年、有機化学 者のH. Fischer3)によってポルフィリンの本格的な研究がスタートし、患者のぶどう酒様の尿の中 から赤い色素を分離し、その構造を決定してからポルフィリンの生化学、臨床医学が急速に進展し た。本症の原因は長い間不明であったが、1950 年代には米英の研究者により、ヘム合成に関与する 各酵素が発見され、ポルフィリン・ヘムの生合成経路が解明された。その後、1960~1970 年代には 各種遺伝性ポルフィリン症の発見および酵素異常が次々と明らかにされ、2008 年までに 8 つのヘム 合成(またはポルフィリン代謝とも言う)酵素のすべてにおいて、遺伝子変異による酵素活性の低 下が報告された(図1)。 図1.ポルフィリン代謝系酵素とその異常症 ポルフィリン代謝には8 個の酵素が関与するが、このすべてに関して酵素異常が認められ、9 病型のポルフィリ ン症が見いだされている(□内に示した)。これら酵素の障害は基質の過剰生産を招くため、体内にこれら代謝産 物が増加・蓄積される。ポルフィリン前駆体であるδ-アミノレブリン酸(ALA)、ポルホビリノゲン(PBG)が増 量する場合は主に腹部・神経症状が、またポルフィリンが増量する場合は主として光線過敏症が出現する。また、 赤芽球系細胞でのALAS2 の減少はヘム生産量の著明な減少と環状鉄芽球の出現を起こし、強い貧血(鉄芽球性貧 血症)を生じるが、ポルフィリン代謝異常を起こさない。一方、XLDP は ALAS2 の異常増加に伴い EPP と同様 のポルフィリン代謝異常および症状を示す。各ポルフィリン症および酵素の略語は表1 参照。 XLDP2
1.ポルフィリン症研究の歴史
1)ポルフィリン症研究の黎明期 1874 年 Schultz2)による皮膚型ポルフィリン症(CEP)と思われる症例報告が初めてである。急 性ポルフィリン症としては1889 年 Stokvis4)によるものが最初であるが、当初はその3 年前に睡眠 導入剤として開発・発売されたスルホナールによる中毒と考えられており、1890 年 Ranking ら5) による特発性ポルフィリン症の報告がある。その後、1892 年 Friedreich6)によるスルホナール中毒 の3徴候として急性ポルフィリン症の代表的な症状である暗褐色尿、腹痛、運動麻痺を挙げている。 その後も多くの薬剤にこのような誘発作用があることが報告され、本症と薬剤の関係は極めて重要 な問題とされ、次第にポルフィリン症という疾患単位が確立していった。 生化学的には1871 年に Hoppe-Seyler7)によるヘマトポルフィリンと命名された物質に類似する 物質が、Stokvis4)の患者の尿中に認められたことに端を発して研究がすすめられた。その後の臨床 および生化学的研究の結果が、1911 年、Günther8)によるヘマトポルフィリン症の提唱とその4 病 型の分類となって結実し、以後、本格的なポルフィリン症研究の時代に入った。すなわち、1915 年 にFischer3)によるポルフィリンの化学構造の決定に始まり、1940 年頃までは主として中間代謝産 物の分離、化学構造の決定、異性体の分離などが中心テーマとなった。1923 年、ポルフィリン症は 小児疾患研究の開祖Archibald Garrod9)により“inborn errors of metabolism”として提唱された 代表的な先天性代謝異常疾患の一つであるとして位置付けられ、世界中で研究が推進された。 このような生化学の進歩は、その時代に応じて確実に臨床にフィードバックされてきた。すなわ ち、1931 年に Sachs ら10)は急性ポルフィリン症患者の尿中にエールリッヒ試薬反応陽性物質が増 加 し て い る こ と を 認 め 、 こ の 物 質 は 1939 年 、 Waldenström に よ り ポ ル ホ ビ リ ノ ー ゲ ン (Porphobilinogen, PBG)と命名された11)。さらに、PBG は 1941 年 Watoson-Schwartz12)により、 その簡便なスクリーニング法が開発されてから患者の発見が極めて容易になると同時に急性ポルフ ィリン症の報告が相次いだ。 ポルフィリン並びにその前駆物質の古典的な分析法については近藤ら13)が詳細にまとめている。 2)ポルフィリン症研究の確立期1937 年 Waldenström14)は急性間歇性ポルフィリン症(acute intermittent porphyria, AIP)を 報 告 し た 。 ま た 、 ポ ル フ ィ リ ン 症 の 新 し い 分 類 を 発 表 し 、Günther の 言 う Chronic Haematoporphyria を晩発性皮膚ポルフィリン症(porphyria cutanea tarda, PCT)と命名した。
1940 年から 1950 年代半ばまでは赤血球などを用いたヘムの生合成研究、生体試料によるポルフ ィリン関連物質の分離・測定法の開発が進められた。 1951 年、Watoson15)は生体試料の分析から肝性ポルフィリン症と骨髄性ポルフィリン症に大別 する分類を初めて提唱した。1954 年、Schmid ら16)も肝と骨髄に沈着したポルフィリンの分析か ら、肝性と骨髄(または赤芽球)性に二大別することが提唱され、分類の骨格が出来上がった。 さらに1950 年代後半から 1960 年代にかけて、個々の症例の代謝異常の相違の検討から、多様性 (異型性)ポルフィリン症(variegate porphyria, VP)17)、遺伝性コプロポルフィリン症(hereditary coproporphyria, HCP)18)、骨髄性プロトポルフィリン症(erythropoietic protoporphyria, EPP) 19)などの新しい病型が相次いで報告された。
1960 年代に入ると、急性ポルフィリン症における肝 ALA 合成酵素(ALAS)の誘導が実証され 20)、続いて各病型における酵素異常の部位が次々と明らかにされると同時に肝以外の赤血球、線維
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芽細胞などを用いた酵素学的診断法21)が確立された。1980 年代には近藤ら22、23)により生検材 料からの高速液体クロマトグラフィーを用いた高精度迅速自動ポルフィリン分画測定法および微量 酵素活性測定法が相次いで開発され、ポルフィリン代謝異常症の鑑別診断法が確立した。
そして、近年に至り酵素異常および体内に過剰蓄積・排泄されるポルフィリン代謝産物の質と量 の解析によって肝性骨髄性ポルフィリン症(Hepato-erythropoietic porphyria, HEP)(PCT のホモ 接合体)24)、ALA 脱水酵素欠損性ポルフィリン症(ALA dehydratase deficiency porphyria, ADP) 25)、ハルデロポルフィリン症(Harderoporphyria, HP)26)、などが新しい病型として加えられ、 さらに最近、X連鎖優性プロトポルフィリン症(X-linked dominant protoporphyria, XLDP)27) が発見され、現代に至っている。また、遺伝形式は実に常染色体優性、常染色体劣性、X連鎖性優性 の3 種からなる他の遺伝病とは異なった壮大な代謝異常症候群であることが分かった。現在までに 確定しているポルフィリン代謝酵素異常症をヘムの生合成経路の順に、また、障害酵素別に表 1 に まとめた。 一方、急性ポルフィリン症(AIP、VP、HCP)の臨床症状は多彩だが、①腹部症状(腹痛、嘔吐、 便秘 = Günther の三徴)、②神経症状(四肢脱力・麻痺、筋痛、しびれ感、球麻痺など)、③精神症 状(不安、不眠、ヒステリー、せん妄など)、④自律神経症状(高血圧、頻脈、発汗、発熱など)、⑤ 視床下部症候(乏尿、低ナトリウム血症、高血糖、成長ホルモン・副腎皮質刺激ホルモン・バゾプレ シの分泌異常など)、⑥暗褐色尿または赤色尿などが特徴とされている。発症誘発および憎悪因子と しては、薬剤(バルビタールなど)、ストレス,飢餓、女性ホルモンなど多くが知られている。 3)ポルフィリン症研究の成熟期 1950 年代半ば以降は ALA 合成酵素をはじめとする酵素学的研究が主流となり、1970 年代の終わ りまでにヘム合成に関与するすべての酵素およびその異常の詳細がほぼ明らかにされ、遺伝子解析 を中心とした分子生物学的研究の時代に時入った。 表1 ポルフィリン代謝異常症 ポルフィリン代謝酵素 遺伝子座 ポルフィリン代謝異常症 エラー!せ 遺伝 形式 我が国の患者数 (1920~2010) 順位 酵 素 名 略 称 疾 患 名 略称
1 ALA synthase ALAS2 Xp11-q12 Ⅹ連鎖優性プロトポルフィリン症 XLDP X優 0 2 ALA dehydratase ALAD 9q34 ALAD欠損性ポルフィリン症 ADP 常劣 1(0:1) 3 PBG deaminase PBGD 11q24.1-24.2 急性間欠性ポルフィリン症 AIP 常優 198(32:166) 4 Uro'gen Ⅲsynthase
UROS 11q25.2-26.3 先天性骨髄性ポルフィリン症 CEP 常劣 36((15:21) 5
Uro'gen decarboxy-
lase
UROD 1p21
家族性晩発性皮膚ポルフィリン症 fPCT 常優 0 散発性晩発性皮膚ポルフィリン症 sPCT なし 328(300:25)*
肝骨髄性ポルフィリン症 HEP 常劣 6(4:2) 6 Copro'gen oxidase
CPO 3q12 遺伝性コプロポルフィリン症 HCP 常優 41(13:27)* 7 Proto'gen oxidase
PPO 1q22 多様性ポルフィリン症 VP 常優 56(10:46) 8 Ferrochelatase FeC 18q21.3 骨髄性プロトポルフィリン症 EPP 常優 203(137:66)
我が国の患者数は1920年の第1例報告依頼2010年までの91年間に総計926例が報告されている39)。
カッコ内は(男性の例数:女性の例数)を示す。その他に分類不明の急性ポルフィリン症が58例(17:40)*報告 されている。*性別不明の患者を示す。
4 1995 年までにすべてのポルフィリン代謝系酵素 cDNA のクローニングが完成し、ポルフィリン 遺伝子異常の解明が一気に進んだ。その結果、酵素遺伝子の変異は単一ではなく、患者家系によっ て異なる場合が多く、その異常も点変異、挿入、欠失など多種にわたり、その部位も多数存在するこ とが分かった。したがって、遺伝子診断は家系内の診断には有用であるが、一般的な鑑別確定診断 としては生化学検査や酵素活性による診断法で十分である28)。現在では生化学的、分子生物学的、 臨床医学的に総合的なアプロ-チが成されるようになった。 日本では近藤ら29)によってポルフィリン症研究が 2009 年難治性疾患等克服研究事業に採択さ れ、“遺伝性ポルフィリン症の全国疫学調査並びに診断・治療法の開発に関する研究”として 2014 年まで本格的な研究が行われ、2015 年、厚生労働省により指定難病として認定された。 これら、ポルフィリン症の主要症状、生化学的所見、発症年齢などについて表2 に示した。
2.世界最初のポルフィリン症報告と疫学
1)先天性骨髄性ポルフィリン症(CEP)1874 年に Schultz2)がpemphigus leprosus として、症状はハンセン病に似ているが尿が赤いと いうことで、今日でいうCEP が報告されたことに始まる。その後、1911 年に Günther によって詳 細に記載されたことからGünther(ギュンターあるいはガンサー)病とも呼ばれる30)。発症頻度は 低く、これまでに世界で200 例も報告されていない極めて稀な疾患である31)。 2)急性間歇性ポルフィリン症(AIP) 1937 年、Waldenström14)はスウェーデンを中心に北欧で多数の報告があることから、スウェー デン型ポルフィリン症(Swedish Porphyria)と命名した32)。北欧では10 万人当たり 60~100 人 表2.ポルフィリン代謝異常症の分類、主要な臨床所見および特徴的な生化学所見 分 類 病 型 発症年齢 主要症状 生化学的所見(増量するポルフィリン類) 神経・ 消化器 肝 皮 膚 尿 血 液 糞 便 急 性 型 肝 臓 型 AIP 思春期~ 中年期 ++~+++ -~+ - ALA, PBG, UPⅢ, 5P 正常範囲内 正常範囲内 ADP 幼児期 ++~+++ -~+ - ALA,CPⅢ PP CP,PP VP 思春期~ 中年期 ++~+++ + + ALA, PBG CPⅢ, UPⅢ 正常範囲内 PP>CP, XP HCP 思春期~ 中年期 ++~+++ + ±~+ CPⅢ, ALA, PBG 正常範囲内 CPⅢ 皮 膚 型 P C T 家族性 幼児期 - +~++ ++~+++ UP,7P 正常範囲内 CP>PP, isoCP 散発性 中年期 HEP 幼児期~ 思春期 - + +++ UP,7P PP(FP,ZP) isoCP 骨 髄 型 CEP 乳幼児期 - - +++ UPⅠ> CPⅠ CPⅠ,PP(ZP) CPⅠ EPP 幼児期~ 思春期 - -~++ + 肝障害により CPⅠ PP(FP) PP XLDP EPPと同じ EPPと同じ EPPと同じ EPPと同じ ? ZP ?
AIPは緩解期でも尿中PBGの増量を見る。主要症状として、EPPを除いた全病型において赤色尿が 診られる。EPPでは蛍光赤血球を見る。PCTは遺伝性と非遺伝性が知られ、遺伝性のPCT を家族性 PCT(fPCT)、非遺伝性を散発性PCT(sPCT)と分類する。急性ポルフィリン症では消化器症状の3大 徴候として腹痛、嘔吐、便秘(下痢)が必ず生じる。
5 の発症頻度であり、米国に比べて約10 倍多い。発症頻度は病因遺伝子保因者の 10~30%である。 ポルフィリン症の中ではADP と共に皮膚光線過敏症は見られない。 3)晩発性皮膚ポルフィリン症(PCT) 1937 年 Waldenström14)がPCT を報告した後、PCT は遺伝性のもの(家族性 PCT, fPCT)と非 遺伝性(散発性、獲得性または後天性PCT, sPCT)が報告された。非遺伝性の代表的なものとして は1956~1961 年にトルコで広範囲に約 4000 人が多発したヘキサクロロベンゼン中毒33)が有名で ある。ダイオキシン中毒もPCT が発症する。遺伝性のものの比率はドイツで 51%、スペインで 49% と多くの症例が報告されている。ポルフィリン症の中では最も報告数が多い病型である。 4)多様性ポルフィリン症(VP) 1955 年、Dean ら17)によって発見され、南アフリカ共和国の白人では人口 1000 人に 3 人の頻 度が報告され、1980 年までに 10,000 人の患者が見いだされていることから南アフリカ型ポルフィ リン症と呼ばれることもある。その理由として17 世紀にあるオランダ人移民を共通の祖先としてい ることから、‘founder effect’(創始者効果)によるものと推測されている。フィンランドでの人口 10 万人に対して 1.3 人の有病率という報告があり、妥当と考えられる。 5)遺伝性コプロポルフィリン症(HCP) 1977 年に Grandchamp ら34)によってホモ接合体が発見された。急性ポルフィリン症の中では AIP や VP よりも頻度が低く、欧米では 10 万人に 2 人の発症頻度である。 6)骨髄性プロトポルフィリン症(EPP) 1961 年にMagnus ら19)によって報告され、ポルフィリン症の中では唯一尿中にポルフィリンの 過剰排泄を見ない型である。骨髄性ポルフィリン症の中では最も頻度が多く、今後も報告が増加す るものと思われる。様々な人種での報告があるが、アフリカ黒人の報告はない。EPP の皮膚光線過 敏症状は他のポルフィリン症と異なって、顔面その他の露光部に熱感、疼痛を伴う浮腫性紅斑がみ られ、肝障害を伴うことがあることが特徴であり、注意を要する。 7)肝骨髄性ポルフィリン症(HEP) 1967 年に Günther24)によって肝性と骨髄性の双方の生化学的性質を持つ珍しいポルフィリン症 として報告された。Elder ら35)はHEP 患者のウロポルフィリノーゲン脱炭酸酵素活性が正常の 7 ~8%であることを認め、家族性 PCT のホモ接合体と考えられている36)。本症は2010 年までに世 界で約40 例37)しか報告されていない極めて稀な疾患である。 8)ALA 脱水酵素欠損性ポルフィリン症(ADP)
1979 年に Doss ら25)によって発見され"Doss porphyria," または "Plumboporphyria"とも呼ば れる。ALA 脱水酵素活性の異常低下により尿中に ALA とコプロポルフィリンⅢが大量に出現する がPBG は正常である。2007 年までに 10 例しか報告を見ないという極めて稀な疾患である。 9)ハルデロポルフィリン症(HP) 1983 年に Nordmann ら26)によってHCP の変形として発見された。本症は常染色体劣性遺伝で あり、コプロポルフィリノーゲン酸化酵素遺伝子のダブルヘテロ接合体として発症する。本症は糞 便および尿中のハルデロポルフィリンの増加が特徴的で、新生児黄疸、溶血性貧血、肝脾腫及び光 線過敏症が認められる。 10)X連鎖優性プロトポルフィリン症(XLDP)
6 ィリン症 (EPP)と同様の光線過敏性皮膚症状を有する 8 家系の新型ポルフィリン症が発見された。 しかし、その後の症例報告は見当たらない。
3.日本での最初のポルフィリン症報告と症例
大正 9 年(1920)に報告された第 1 例から医学中央雑誌に 2010 年までにポルフィリン症として記 載されたすべての報告の中から、ポルフィリン症として記載するのが適当でないもの(例えば他疾 患に併発された一過性のポルフィリン尿症、ポルフィリン症の診断基準を満たしていないもの、ポ ルフィリン症の可能性が高いが検査所見の記述が不十分なもの、同じ症例を重複して報告している ものなど)を除き詳細に検討した結果、926 例の報告を見出した。本調査に際しては掲載された雑誌 数は日本内科学会雑誌など 234 雑誌に及んだ。すなわち、国内の医学関係の基礎および臨床分野の 雑誌のほぼすべてに記載されていることとなる。本調査によって見いだされた各病型の報告患者数 を表 1 に示した。ここでは、日本で初めて見いだされたポルフィリン症例の報告を紹介する。各病 型の詳細については成書38,39)を参照されたい。 1)先天性骨髄性ポルフィリン症(CEP) 1920 年佐藤ら40)が児科雑誌239 号 47-48 ページに“未ダ記載セラレザル一種ノ家族的貧血症カ 偽血色素尿性貧血症(一名「ポルフィリン」尿性貧血症)として生後3 か月の哺乳児の CEP を報告 し た の が 本 邦 で 最 初 で あ る 。 そ の 後 、“Oligochromaemia Porphyrinuria (Megalosplenica Congenita)(先天性巨脾症)ポルフィリン尿性萎黄症”のタイトルで CEP と考える 1 例として論文 報告した。本症はポルフィリン症の中では最も激しい光線過敏性皮膚症状を呈し、我が国では36 家 系が報告されている。近藤ら31)はそれらの全症例について臨床症状など詳細に解析し報告した。 2)急性間歇性ポルフィリン症(AIP) 急性ポルフィリン症は1932 年に松尾ら41)により第1 例が報告されている。症例は 31 歳女性。 非常に強い腹痛、嘔吐およびぶどう酒様の尿を自覚。尿中から溶媒抽出法(エーテル―氷酢酸―塩 酸)によってウロポルフィリンとコプロポルフィリンを同定し急性ポルフィリン症と診断された。 その後、1941 年岩鶴42)は腹痛、食欲不振、尿の暗赤色着色を主訴とした 33 歳女性患者の急性 ポルフィリン症を見出した。症例は28 歳時突然激しい腹痛・疼痛を自覚し、同時に悪心、嘔吐、腹 鳴を伴い、便秘、食欲、睡眠障害と、赤色尿にて入院した。尿中から溶媒抽出法によってポルフィリ ンの強い赤色蛍光を確認し、AIP と診断した。 3)晩発性皮膚ポルフィリン症(PCT) 1957 年に西浦らにより報告され、1960 年論文43)として紹介された。尿中ウロポルフィリンの大 量排泄が報告され、その病因として患者のマラリア罹患とキニネー剤の大量持続的投与による漸進 的酵素障害が主因と考えられ、素質的要素も関係すると報告している。その後、長期飲酒が誘因で 発症した後天性PCT の報告が多く、遺伝性(家族性 PCT)の報告は未だにない。 4)多様性ポルフィリン症(VP) 1962 年に高崎ら44)によりVP の第 1 例が報告された。症例は 44 歳女性、風邪様症状に引き続 き腹痛、嘔吐、便秘などを訴え、麻痺性腸閉塞症状、鮮明なぶどう酒様の尿であった。全身倦怠、皮 膚知覚異常、筋緊張低下、腱反射の減少、不安、不眠、光線過敏を訴え、尿より多量のPBG とポル フィリンおよび糞便ポルフィリンの著増と赤色蛍光が認められ確定診断された。 5)骨髄性プロトポルフィリン症(EPP) 1964 年に桝屋ら45,46)により本邦第1 例の EPP が報告された、症例は 53 歳男性で、7 年前(467 歳時)頃から日光過敏症(疼痛、水疱、瘢痕、色素沈着)を認め、49 歳時に貧血、肝機能障害を指 摘され、溶血性貧血症と診断された。52 歳時にはヘモクロマトージスが疑われた。肝および骨髄生 検で赤色蛍光が確認され、赤血球プロトポルフィリン値は 1400~2690γ/dl(正常 20~60)と増量 していた。本症例の肝機能は軽度の黄疸が認められる以外は正常であった。肝生検により赤色蛍光 を示したことから肝性皮膚ポルフィリン症と命名したものと思われるが、今日でいう骨髄性プロト ポルフィリン症に合致する。 6)遺伝性コプロポルフィリン症(HCP) 1966 年に松岡ら47)によりHCP の第1例が報告された。症例は 26 歳の女性。4 年前より下腹物 鈍痛、便秘、嘔吐を自覚し、非常に神経質となり、脱力、ぶどう酒色の尿、尿中PBG 陽性、糞中コ プロポルフィリンが寛解後も約30mg/日の排泄があり、HCP と診断された。発症はバルビタール剤 の服用と月経前期が誘因と考えられる。1967 年佐々木48)は8 例の HCP について詳細に報告した。 7)ハルデロポルフィリン症(HP) 1996 年に近藤ら49)によりHP の 1 例が報告された。症例は 56 歳の男性で 1986 年頃より皮膚 光線過敏症を自覚し、貧血、肝障害を指摘されていたが、とくに加療せず、1991 年に肝障害、貧血、 血小板減少、脾腫を指摘された。1992 年にポルフィリン症の疑いということで精査した結果、PCT またはEPP が疑われた。さらに、カルフォルニア大学の KM Smith 教授に標準ハルデロポルフィ リンを頂き、検討した結果、尿と糞便中に大量のハルデロポルフィリンの存在を確認し HP として 確定診断した。患者は1995 年に MDS に伴う血小板減少のため消化管出血により死亡した。 8)肝骨髄性ポルフィリン症(HEP) 1999 年に近藤、伊藤50)により HEP の本邦第 1 例が報告された。症例は 15 歳の男性で、3 歳 頃、ピクニック中に顔面、四肢の露出部に浮腫が出現し痛がったが、浮腫が取れると痂皮形成を繰 り返していた。13 歳頃から皮膚症状は次第に軽快したが、日光に照射されると黒色の痂皮形成、爪 剥離などがみられ、その後、全身倦怠感、食欲不振が増強し、肝肥大を指摘され、1986 年に入院し た。尿中ポルフィリン(正常値の約103 倍)および赤血球ポルフィリン(正常値の約 600 倍)の異 常増加があり、HEP と確定診断された。約 4ℓの全血液交換を試行し、痛みはやや軽快したが、急性 肝不全によって死亡した。 9)ALA 脱水酵素欠損性ポルフィリン症(ADP) ADP については 1995 年に1例が報告されたが51)、ポルフィリン代謝関連物質の測定情報が不 十分であり、真意は不明である。その後の症例報告は未だにない。 10)X連鎖優性プロトポルフィリン症(XLDP) 日本においては、XLDP の報告は未だにない52)。 コラム 国王の病気 1968 年、Macalpine ら53)は英国のジョ-ジⅢ世(1738-1820) の病因追及および血縁調査を行 い、近世ヨ-ロッパのスチュワ-ト、ハノ-バ-、およびプロシアの三大王家にわたる共通の病 状を確認し、国王の病気(Royal Malady)と呼んだ。その病状は激しい腹痛に始まり、便秘、嘔 吐、四肢の疼痛と脱力が起こり、さらに頻脈、発汗障害、しわがれ声、視力障害、嚥下障害、不 眠症、高い興奮性、めまい、頭痛、振戦、昏迷、そして痙攣が引き続いて起こるという一連の腹 部、神経、循環器症状および皮膚光線過敏症など多彩な症状がみられたという。また、これらの 症状が不定期に憎悪と寛解を繰り返していたということ、さらに赤色尿の記述から、現在医学の 知識に照らしてみると彼らの病気はプロトポルフィリノ-ゲンオキシダ-ゼの異常症である多様 性ポルフィリン症と推測されている53、54)。これを風刺した演劇が多数知られている。ポルフィリ ン症(porphyria)の語源はギリシャ語の”porphyros”、つまり“由緒ある紫”に由来する。
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療法の開発に関する研究、厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業平成 21-26 年度研究 成果報告書.
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31) 近藤雅雄、矢野雄三、浦田郡平ほか(2005)、本邦で報告された先天性赤芽球性ポルフィリン症の全症 例解析、Porphyrins 14 (2),69-84.
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40)佐藤彰、高橋寛 (1936)、“Oligochromaemia Porphyrinuria (Megalosplenica Congenita)(先天性巨 脾症)ポルフィリン尿性萎黄症”-先天性ヘマトポルフィリンの一新型―、臨床報、239、47. 41) 松尾巌、櫻井英徳、神前武利(1932)、急性ポルフィリン症、実験消化器病学 7, 1221. 42) 岩鶴恒三(1941)、急性(特發性)「ポルフィリン」症の臨牀的観察、 43) 西浦環、武田克之、谷徹郎ほか (1960)、遅発性皮膚ポルフィリン症の一例について、皮膚科紀要 55, 566-575. 44) 高崎浩、板倉武彦、関内淳ほか(1962)、急性ポルフィリン症の 1 例、日本内科学会誌 51(8), 1113. 45) 桝屋富一、平戸民男、村山暁ほか(1964)、溶血性貧血を伴った肝性皮膚ポルフィリン症の 1 例、第 64 回吸収血液研究同好会例会講演抄録、333、 46) 桝屋富一、西秀雄、肝性皮膚ポルフィリン症?、診断と治療 39.4, 667-674. 47) 松岡松三、常山秀夫、佐々木英夫ほか(1967)、癲癇症状の診られた急性ポルフィリン症の 2 例、臨 床神経学7, 352. 48) 佐々木英夫(1967)、肝性ポルフィリン症の臨床と疫学、日本内科学会誌 56(9), 951-955. 49) 近藤雅雄、宮田隆光、池嶋健一ほか(1996)、骨髄異形成症候群に合併したハルデロポルフィリン症 が疑われた特発性ポルフィリン症、ポルフィリン5(4), 363-374. 50) 近藤雅雄、伊藤嘉信(1999)、肝赤芽球性ポルフィリン症が疑われた一症例、ポルフィリン 8(2)、 81-86.
51) Muraoka A1, Suehiro I, Fujii M et al (1995), Murakami K. delta-Aminolevulinic acid dehydratase deficiency porphyria (ADP) with syndrome of inappropriate secretion of antidiuretic hormone (SIADH) in a 69-year-old woman, Kobe J Med Sci 41(1-2):23-31.
52) 中野創、川田暁、近藤雅雄ほか (2014)、厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患等克服研究事業) ‘遺伝性ポルフィリン症:新病型の診断法と新しいガイドラインの確立に関する研究’、総合研究報 告書、(全227 ページ)
53) Macalpine I, Hunter R, Rimington C (1969), Porphyria in the royal houses of Stuart, Hanover, and Prussia. A follow-up study of George 3d's illness. Br Med J 1:1–18.
翻訳:“特集医学生物学 遺伝子の病理”サイエンス(別冊)、日本経済新聞社、p.70-79, 1979 54) Peters T et al (2011), King George III and the porphyria myth – causes, consequences and
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ポルフィリン症研究の歴史
【ポルフィリンの基礎医学】 Iron-free ヘム分離 1867 (Thudicum) ヘマトポルフィリンの命名 1871 (Hoppe-Seyler)Soret Bandの発見 (Soret) 1883
【ポルフィリン症】
1874 Pemphigus Leprosus:ポルフィリン症第1例 (Schultz) ヘマトポルフィリンを発見,抽出 (Baumstark) 1886 Sulphonal の合成 (Beumann) 1889 急性ポルフィリン症第1例-sulphonal中毒(Stokvis) 1890 特発性ポルフィリン症の報告 (Rankingら) 1911 ヘマトポルフィリン症の提唱と分類と命名(Günther)
CEPの報告 (Congenita-, Acuta-, Toxica-, Chronica-に分類) 1913 ヘマトポルフィリンによる日光過敏症の証明(Meyer, Betz) 1920 CEP本邦第1例報告(佐藤、高橋) 1922 先天性代謝疾患の代表的疾患として確立(Garrod) 1931 尿中Ehrlich反応物質の発見 (Sachs) 1932 急性ポルフィリン症本邦第1例報告(松尾ら) 鉛中毒患者の血中プロトポルフィリン上昇 1937 AIPの報告(Waldenström)、PCTの命名、新しい分類 (Congenita-, Cutanea tarda-, Acuta-)
1939 PBGの分離、命名(Waldenström) 1941 PBGスクリ-ニング法発表(Watson, Schwartz) 1941 AIP本邦第1例報告(岩鶴) 1951 肝性ポルフィリン症と骨髄性ポルフィリン症に大別する分類法の提唱 (Westall) 各種ポルフィリン化合物分離 ポルフィリンの化学の時代 Fischer ポルフィリン研究 1912 始める ポルフィリンの化学構造決定 1915 (Fischer,UPⅠ, UPⅢ, CP, PP) ヘミンの合成、化学構造決定 1929 (Fischer) ポルフィリン及び前駆体の分 離、生化学的研究の時代 ポルフィリン生合成の解明 1945 (Shemin) 生体試料中ポルフィリンの分 離、分析法開発の時代
1952 セドルミドによる実験的ポルフィリン症の作成 (Schmid, Schwartz) 1955 VPの報告(Dean, Barnes)、HCPの報告(Berger, Goldberg) 1957 PCT本邦第1例報告(西浦ら) 1959 Hexachlorobenzene中毒(中毒性PCT, トルコ南東部で多発) 1961 EPPの報告(Magnus) 1962 VP本邦第1例報告(高崎ら) 1964 EPP本邦第1例報告(桝屋、西田) 1965 ヒト急性ポルフィリン症で肝ALAS誘導の証明(中尾、浦田ら) 1966 HCP本邦第1例報告(松岡、佐々木ら) 1967 HEPの報告 (Günther) 骨髄性コプロポルフィリン症の報告(Pinol, Aquade) 1979 ADPの報告(Doss, Bird) 1982 HPLCによるポルフィリン症自動診断法の開発(近藤) 1983 ハルデロポルフィリン症の報告(Nordmann) 1986 ポルフィリン研究会設立(近藤、浦田) 1992 学術刊行物『ポルフィリン,Porphyrins』第1巻1号発行 1996 ハルデロポルフィリン症の本邦第1例報告(近藤ら) 1996 第1回国際ポルフィリン・ヘムシンポジウム開催 1999 HEP症の本邦第1例報告(近藤、伊藤) 2008 XLDPの報告(Whatley) 2015 ポルフィリン症指定難病となる(厚生労働省告示266号) 2016 本邦初のポルフィリン症専門外来開設(堀江) 酵素学的研究の時代 実験的ポルフィリン症でALAS 誘導証明 (Granick、浦田) 酵素異常解明の時代 微量生体試料中ポルフィリン のHPLC自動分画精密分析法 開発の時代 染色体、遺伝子解明 分子生物学的研究の時代 再生医療の時代 略語:CEP;先天性骨髄性(赤芽球)ポルフィリン症、AIP;急性間歇性ポルフィリン症、PCT;晩発性ポルフィリン症、VP;異型 (多様性)ポルフィリン症、HCP;遺伝性子プロポルフィリン症、EPP;骨髄性プロトポルフィリン症、HEP;肝骨髄性ポルフィリン症、 ADP;ALAD欠損型ポルフィリン症、XLDP;X連鎖性優性プロトポルフィリン症 、ALA;δアミノレブリン酸、ALAS;ALA合成酵素、 PBG;ポルホビリノゲン、HPLC;高速液体クロマトグラフィー