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「異見表明」の方法に関する考察

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Academic year: 2022

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(1)メ‑ルによる話し合いにおける 「異見表明」の方法に関する考察 吉川 香緒子. キーウート. 異見・異見表明・全異見・部分異見・メールによる話し合い. 1.はじめに 「コミュニケーション主体1)A」が提示した意見とは異なる「コミュニケーション主体 B」の意見(これを「異見」と呼ぶ)を伝えることは、その伝え方によっては、 「コミュニ ケーション主体A」の対面を傷つける危険性、あるいは、 「コミュニケーション主体B」が 配慮のない人間だと思われる可能性があり、工夫を要する難しいコミュニケーションのひ とつだと言え.るだろう。実際には、 「コミュニケーション主体A」に同意しているふりをし たり、何も言わずにその場をやり過ごしたりするなど、 「コミュニケーション主体A」と異 なる考えである「コミュニケーション主体B」の「異見」は、あえて表明しないという場 合も少なくない。しかし、黙っていることにより、目的が達成されないおそれがある、自 分(または自分と相手)に不利益が発生する可能性がある、自分の清券に関わる、という ような場合には、 「異見」であっても表明する必要が生じる。特に「話し合い」という、相 互に意見をやりとりすることで成立するコミュニケーション行為においては、 「異見」を言 い控えるのではなく、その「異見」が他者に理解され、受け入れられるように主張するこ とが極めて重要となるO ただし、それと同時に、お互いの人間関係を維持していくために どうすべきか、という点にも気を配らなければなるまい。 日本語教育の実践場面などにおいても、筆者が学習者による話し合いやグル‑プ活動を 見ていて、そのやりとりの一部に違和感を覚えることがあるO学習者の中には、自分の考 えを述べる際、極めて攻撃的に、他の考えは絶対に認めない、という論調に終始する者が おり、筆者自身が、その学習者に対して「気が強そう」 「怖い」という感情を抱いてしまう ことがあった。また、時折日本語母語話者が学習者を評して「さすがに外国人は自己主張 がはっきりしている」と言うのを聞くことがあるが、これは「母語話者はもっと違う言い 方をするのに」というステレオタイプに当てはめた上での印象であり、学習者本来の性格 とは一致しない可能性がある。一方、学習者もこのように誤解される経験を経て、あるい は母語話者とのやりとりを通じて、日本人ははっきり言わない、特に否定的なことははっ きり言わない方がいいらしい、という思い込みを強くしていくようである。これでは、学.

(2) 早稲田大学日本語教育研究. 習者は「自分が本当に言いたいこと」が言えなくなってしまう。 日本語の教育や学習を考えていく際にも、こうした「異見」を表明するコミュニケーシ ョン行為を日本語によって適切に行うことは、重要な課題になる。現実に「異見」を表明 せざるを得ない場面は多く存在し、それだけに「コミュニケーション主体」は、各自、様々 な工夫を凝らしているはずである。本研究では、 「異見」を表明することを「避けるべきコ ミュニケーション主体の対立」と考えることはせず、むしろ、特に話し合いにおいては、 「コ ミュニケーション主体」の相互理解、目的の遂行のために不可欠なコミュニケーションであ ると捉えるo異なる考えをやりとりすることによって、相手をより深く知ることになり、 また、再度自分の考えと向き合うことで、自分の考えも発展していくものと考えるからで ある。この考えをもとに、 「異見」であっても、 「本当に言いたいこと」あるいは「言うべ きこと」を伝えるために、どのような表現上の工夫が考えられるのか、どのような伝え方 をすれば相手に対する配慮を示すことができるのか、これらを待遇コミュニケーション2) の観点から考えていきたい。. 2.研究方法 2. 1 「異見表明」考察のための枠組み 2.1.1用語の規定 「異見」と「異見表明」を、次のように規定する。 「異見」 : 「コミュニケーション主体A」からの、 「表現内容A」を含む「意見」に対する、 「コミュニケーション主体B」からの、 「表現内容A」とは異なる「表現内容B」を含む 「意見」のことを「異見」と呼ぶ。 「異見表明」 :「コミュニケーション主体B」が、コミュニケーションにおいて「異見」を 表現することを「異見表明」と呼ぶ3)。. 2.1.2 r異見表明」の考察範囲 「異見」の内容を含む「ひとまとまり」と考えられる部分を「異見部分」とし、その中 の「異見」の内容を示す部分を「異見の核」と呼ぶ。 「異見部分」の中で、 「異見の核」に 先立って、何らかの前置き、断り、理由説明など、 「異見」の前提に触れた部分がある場合 には「前提」、 「異見の核」の後ろに「異見」を支える理由説明、根拠の提示などに相当す る部分がある場合には「補足」とする。また、 「異見部分」の前に現れる、前置き、確認な どに相当する部分を「前置き」、 「異見部分」の後ろに現れる、補足、補償に相当する部分 を「フォロー」とするO. 前i*き. 蠎. 「異見部分」 ( 前提+ 異見の核 + 補足 ). 「異見表明」の考察範囲 一つの「異見表明」について、この構成要素のうち、必ず存在するものは「異見の核」.

(3) メールによる話し合いにおける「異味表明」の方法に関する考察. のみであり、 「前置き」 「前提」 「補足」 「フォロー」については、現れない場合もある。ま た、 「前置き」と「前提」、 「補足」と「フォロー」は明確に区分できない場合があるが、基 本的には「異見」の内容に直接関わっているものを「前提」 「補足」と考える。 例として、これを「異見表明」のメールで表すと次のようになる。 「発表用の資料に考察 2を入れる」という「意見」に対する、 「入れなくてよい」という「異見表明」である。. 2.1.3 「異見表明」の種類 「異見表明」というものを、まず、相手の意見と完全に異なる「異見」を表明する「全 異見」と、部分的に異なる「異見」を表明する「部分異見」に大別して考える。そして、 それぞれを相手の意見を否定する「否定型」と、相手と異なる意見を提示する「異見型」 に二分する。さらに「部分異見」の「否定型」、 「部分異見」の「異見型」のそれぞれにつ いて、基本的に肯定的な姿勢を取る「基本肯定」、否定的な姿勢を取る「基本否定」を考え る。また「部分異見」には、相手の考えは認めつつ、それだけでは不完全であることを「意 見の追加」という形で表明する場合があるものと考える。そうした「追加型」を加え、下 図のとおり全部で7種類とした。.

(4) 早稲田大学日本語教育研究. 「コミュニケーション主体A」から「表現内容A」が提示された場合の、 「コミュニケー ション主体B」による各「異見表明」が、どのような「表現内容」を含むか、例示的にま とめると次のようになる。なお、 「A (Al+A2+A3‑)」は、 「表現内容A」が「Al ‑A2+A3‑・」という要素で構成されていることを示す。また、 「×Al」は、 「Al」 という要素が否定されていることを示している4)。 「全異見」 : 「表現内容A」と「表現内容B」が完全に異なるもの. ①否定型 ②異見型. A (Al+A2+A3‑) ⇔B (×Al+×A2+×A3‑) A (Al+A2+A3‑) ⇔B (Bl+B2+B3‑). 「部分異見」 : 「表現内容A」と「表現内容B」 が部分的に異なるもの ③④否定型 A (Al+A2+A3‑) ⇔B (XAl+A2+A3‑) ⑤⑥異見型 A (Al+A2+A3‑) ⇔B (Bl+A2+A3‑) ⑦追加型 A (Al+A2+A3‑) ⇔B (Al+A2+A3+Bl‑) 2.2 話し合いの形態 「話し合い」とは、 「コミュニケーション主体が、ある共通の目的のために、相互に意見、 情報をやりとりする行為」だと考えると、その方法も形態も実に多様である。大別すれば、 音声を媒材とした「音声コミュニケーション」としての話し合いと、文字を媒材とした「文 字コミュニケーション」としての話し合いがあり、最も一般的な話し合いのイメージは、 複数名が向かい合って座り、互いの顔を見ながら話す「音声コミュニケーション」による ものであろう。しかし、本稿では「文字コミュニケーション」としての話し合い、具体的に はメ‑ルによる話し合いを扱うO. 近年、急速に有効なコミュニケーション手段となったパ. ソコンのメールには、電話のような1対1のやりとりに限らず、同時に複数の相手に対し て発信できる、というメリットがある。このメリットを生かし、共通の目的を持つ複数の コミェニケ‑ション主体が、パソコンを介してやりとりする行為は、 「文字コミュニケーシ ョン」としての話し合いの一種であると捉えて良いだろう。最近は、授業の一環として、 学習者同士がメーリングリストやBBSを使用した意見交換をする機会も増えている。今 後ますますこのメールによる話し合いが、 「文字コミュニケーションとしての話し合い」の 形態の一つとして重要になっていくと考えられ、これもメールによる話し合いを研究対象 とする意義になると思われる。. 2.3 調査方法 2005年4月から11月の間に、共同論文の執筆、グループによる発表用資料の作成など を目的として、 3名以上5)でやりとりされたメール80通の中から、 「異見表明」が顕著に 現れているメール30通を分析対象とした。コミュニケーション主体は、研究室内で共同研 究をしている、あるいは同じ授業を履修し、共同で発表しなければならない学生同士であ るが、多少の年齢差、上下関係は存在する。またコミュニケーション主体は16名であり、 日本語の母語話者が13名、非母語話者(上級)が3名となっている6)0 具体的な分析は、対象としたメールそれぞれについて、 「異見表明主体」が「異見」とし て伝えたい内容をメールの中でどのように表明しているのか、 2. 1.2で示した構成要素が どのように現れているか、 「異見表明」の後にどのようなやりとりが続くのか、という点を.

(5) メールによる話し合いにおける「異味表明」の方法に関する考察. 中心とした。このやりとりにおいて多く見られるのは、最初に「コミュニケーション主体 Ⅹ」が提示した「案」を、他のコミュニケーション主体が「Xの意見」とみなし、各人が コミュニケーション主体としての責任に基づき、案をより良いものにするため、 「異見表 明」するというパターンである。最終的な案の仕上がりには、各コミュニケーション主体 全員が責任を負うことになるため、ここで表現主体として何も表明しないメンバーは、謙 虚であるというよりも、責任を果たしていないと認識されることになる。しかし、あくま で目的を同じくする仲間内でのやりとりであり、ここでの「異見表明」が目指すところは Xの案を否定することではなく、案を少しでも良いものにすることである。 また、対象を3名以上でやりとりされたメールに限定したのは、 1対1の話し合いであ れば、一方が何も表明しなければ話し合いが進展せず、もう‑方が得たざるを得ないが、 3名以上の場合は、黙っていることが「同意」とみなされたり、 「自分の意見を持たない人」 と評価されたりする可能性があり、より積極的な「異見表明」が観察できると考えたから であるO. 3.仮説 2,1で述べた「考察のための枠組み」を考え方の基本として、 3点の仮説を立てた。 「人間関係」を維持・継続する必要があるコミュニケーションを行う場合、 「コミュニケー ション主体A」の意見に対して、 「コミュニケーション主体B」が「異見」を表明するとき、 次のような方法で人間関係の維持・継続を図ろうとするのではないだろうか。 (1) Bは「異見」だけを直接的に表明することは避け、その前後に様々な工夫をする。 (2) Bは「全異見」による「異見表明」は避け、 「部分異見」によって「異見表明」する。 (3) Bは「否定型」による「異見表明」は避け、 「異見型」によって「異見表明」する。. 4. 「異見表明」の方法に関する考察 3の仮説に示した方法が、メールによる話し合いの中でも、実際に現れているかどうか、 また、どのように現われているかについて、調査結果を基に、検討していく。 (以下、例文 中の「コミュニケーション主体」について、 NS (日本語母語話者)、 NNS (日本語非母語 話者)で示す。) 4.1仮説1 「異見」の前後の役割 4.1.1 「前置き」の役割 「前置き」部分に見られた方法として、次の4点が挙げられる。 ①相手に対する感謝やねぎらいを述べることで、その後に続く「異見表明」が、 「個人」を 否定するものではないことを示唆する。 ・ 「ありがとうございます。すごくきれいでわかりやすいと思います。忙しいのにすみませ ん。」 (NS) ・「ご連絡が遅くなりましたO申し訳ありませんO レポートで提出したときとは比べものに ならないほど内容が充実したと思います。本当にありがとうございます!」 (NS).

(6) 早稲田大学日本語教育研究. ② 「異見」の前提となる要素に触れ、相違の有無、自分の理解の程度などを確認する。 ・トっ教えていただきたいのですが、 23課のところの「可能形」と書いてあるのは語幹 +eru (reru)のことですか。」 (NS) ・「あと、私がずっと言っていることで、みんなの考えとちょっと違っているのかもしれな いのですが・ ・ ・」 (NS) ③ 「異見」を述べる自分の立場について言及する。 ・ 「コメントだけするのはえらそうなのですが」 (NS) ・ 「話し合いに参加できなかったうえ、今頃になって言うのも申し訳ないですが」 (NNS) ④ 「基本肯定」の姿勢を表す。 I 「細かいところをちょこちょこと変えましたが、大筋は全く変えていません。」 (NS) ・「既にこんなにキレイにまとめて下さっていたとは!お二人の案を拝見して、全く直すと ころがみつかりません。」 (NS). 4.1.2 「異見部分」の役割 「異見部分」には、主として次の4点の工夫が見られた。 ①断定的な表現を避けることで、 「異見」に確信を持っているわけではないことを示し、相 手に次の「異見表明」の余地を与える。 ・「ト定の影響力を持つ」というのは、うーむという感じなのですが、どうでしょう。」 (NS) ・ 「「社会的役割による関係」のほうが分かりやすいかなあとも思ったのですが、でもちょ っとクドイでしょうか。」 (NS) ②自分の意見を述べている、ということを強調し、 「異見表明」の趣旨が相手の意見に対す る否定ではないことを示す。 ・ 「個人的には、必要ないと思っているのですが‑ ・。」 (NNS) 「あくまで私の考えなので Cさんが最終的に判断してくださってかまいません。」 (NS). ③ 「異見」が主観に基づくものであることを強調することにより、相手の意見に対する. 自分の見解は、客観性、一般性が低い可能性を示唆する。 「「素直に受け入れることができる」という書き方が少し気になり ました。」 (NNS). I 「「語形」というのが私は「用法」に昼去るのですが、もしかして違ってますか?」 (NS) ④根拠をわかりやすく提示できる文章の展開を工夫する。次に挙げる例では、下線 部が「前提」、網掛け部分が「異見の核」、波線部が「補足」に相当する。 ④‑1 「前提」 ‑ 「異見の核」 「『みんなの日本語』には、そういう配慮はなかったので、 率去三」 (NS). ・ 「「要旨」の長さは他の論文とも比較したのですが、. 」 (NS). ④‑2 「異見の核」 ‑ 「補足」 これは規定が難しいのではないかと. ・。」 (NS). そうすれば. 赤字部分、触れずにすむかと 。」 (NS). 5の下の.

(7) メールによる話し合いにおける「異味表明」の方法に関する考察. 4.l.3 「フォロー」の役割 「フォロー」の部分には、次のような工夫が見られた。 ①自分の「異見表明」に関わる弁解、謙遜を示す。 ・ 「いろいろごちゃごちゃとすみません。」 (NS) ・ 「非常に勝手な、無責任なコメントをつけさせていただきました。」 (NS) ②メール全体の雰囲気を和らげる工夫を盛り込む。 メールは文章表現であり、簡潔さを要求されることからも断定的、直接的な表現が多く なる。また、イントネーションや声の調子、表情などに頼ることができないため、 「異見」 を表明した後の雰囲気を和らげるという役魯jは、主に「フォロー」部分が担うことになる。 具体的には、 ・ 「午後すぐ送りま‑すO. 申し訳ございませ‑んO」 (NS). のようにくだけた文体を用いる、直接関係ない話題を付加する、絵文字7)を利用する、な どの工夫が目立った。 ③さらにやりとりを続ける意思があることを表明する。 ・「どうでしょう。ご意見、お聞かせください。」 (NS) ・「もし、何か直した方がいいところがあれば、どんどん言っていただきたいです! 」 (NS) 今回対象にした、レジュメをまとめる、原稿を推蔽する、というような目的を持ったメ ールのやりとりの場合、自分の「異見」が完全だとは思っていないことや、さらに「異見」 があれば表明してほしい、ということを付け加えるパタ←ンは非常に多い。相手の「意見」 に対する、自分の「異見」に絶対的な自信を見せることは、相手からの次の「異見」を受 け入れるつもりがない、ひいてはこれ以上コミュニケーションを展開させるつもりがない と受け取られかねない。仮に自信があっても、自分の「異見」も完全ではないかもしれな い、 「異見」があれば、聞き、受け入れる心積もりがある、という姿勢を見せることで、相 手は「異見」を受け入れやすくなり、次の「異見」も表明されやすくなる。これは、話し 合い本来の目的であるレジュメや原稿の質を高めるという意味でも非常に重要な点である と言えよう。 ④基本肯定の姿勢を表す。 ・ 「勿論、原文のままでもいいと思いますが. 。」 (NS). ・「2と3は‑応、変えたのを書いてありますが、元に戻してくださってもかまいませんO」 (NS) 相手の意見に対し、基本的に同意しているということを最後に付け加えることにより、 意見を否定するつもりは毛頭ないが、共通する目的のために考えを絞った、という自らの 姿勢を示すことができるO メールの場合は、仮に自分の「異見表明」によって相手が気分を 害したとしても、相手の反応からそれを知ることは極めて難しい。したがって、自分の「異 見表明」が相手を不快にさせた、怒らせた、という考え得る最悪の事悲‑の対処として、前 もって謝罪する、おどけてみせる、自分の「異見」に対する「異見表明」を促す、基本的に は反対するつもりがないことを示すなど、手を打っておく必要があるのだと言えよう。そ のような観点から、 「異見表明」のメールにおける「フォロー」の意味は非常に大きい。. 4.1.4 仮説1のまとめ.

(8) 早稲田大学日本語教育研究. 「異見部分」の最大の役割は、 「異見」を正確に、分かりやすく相手に伝えることである。 そのため「異見の核」の前後に「異見」に直接関わる様々な要素を盛り込むことで、より 明確に、より説得力を持って「異見」を伝えることが可能になる場合がある。また、 「異見 の核」の表現形式には様々な工夫が見られ、これにより「異見部分」で「異見」を緩和し、 相手に対する配慮を示すこともできる。 「前置き」および「フォロー」については、この部分がメール全体の雰囲気を決定する と同時に、 「異見」が単独で相手に伝わるのを避けることにより、人間関係の維持に配慮し ている部分だと考えられる。 「異見表明」は、内容を伝える「異見の核」だけが担っているのではなく、 「前置き」から 「フォロー」まで、各部分がそれぞれ果たす役割が非常に大きいことから、仮説1は妥当 であると言えよう。. 4.2. 仮説2 「部分意見」による「異見表明」 「異見表明主体」が、主に次に示す3点の方法によって、自分の「異見」が「部分異見」. であることを明確に示している例が非常に多く見られた。 4.2.1明確な同意表明 「異見」を表明する場合には、同意できる部分、理解できる部分について、以下の例の ようにはっきりと「同じ意見である」 「賛成である」と表明することによって「部分異見」 であることが明確になり、 「異見」が受け入れられやすくなるものと考えられる。メールの 場合は、何も表明しなければ容認と受け取られることが多いため、同意表明を怠りがちで あるが、 「異見表明」の必要がある時には、明確な同意表明をしてこそ、効果的に「異見」 を伝えることができると考えられるO ・ 「後半はaさんと同じ意見です。」 (NS) ・ 「表記の件は、 Cさんの案に賛成です。」 (NNS) 4.2.2. 「部分異見化」. 「異見」の内容としては限りなく「全異見」に近いものであっても、 1箇所でも理解で きる部分、肯定できる部分があれば、そこに触れることで「部分異見化」が可能となり、 これにより相手は、多少なりとも肯定された、という印象を持つことができる。 ・ 「確かに例として取り扱う『毎日』 26課では、 「そば」 「相撲」等日本事情っぽい話題と 語秦が扱われているのですが、テキストの全ての課で日本事情‑の配慮がされているか というとちょっと心もとないので、あえて入れませんでした。」 (NS) ・ 「将来的には「お/ご〜して下さい」が多勢を占め、それが正しいものになってしまう可 能性はあるかも知れませんが、今はやはり未だ「誤用」だと思うのですが・ ・。」 (NS). 4.2.3. 「異見」の対象を明示. 次のように「異見」の対象を明確にすることにより、その後のやりとりのポイントが焦 点化されると同時に、概ね同様の考えを持っており、相手の意見と自分の「異見」の相違 が大きくないことが相手に伝わる。.

(9) メールによる話し合いにおける「異昧表明」の方法に関する考察. ・ 「さて、細かいところで気になったところだけ、小さな小さな訂正を入れました。」 (NS) ・ 「以下の2点についてだけ気になりました。」 (NS) ・ 「何も直す部分はないと思うのですが、 1つだけ」 (NS). 4.2.4. 仮説2のまとめ. 相手の考えの同意できる部分、納得できる部分に触れ、それを明言することで、自分の 「異見」が「部分異見」であることを強調でき、結果的に「異見」が目立たなくなる。仮 に9割が「異見」で、同意できる部分が1害服こ過ぎないとしても、その1割を取り上げる ことで、相手に「肯定された、受け入れられた」と感じさせることが可能になるからであ る。同時に、どの部分がどの程度異なるのか、という点が明確になるため、話し合いの目 的遂行という意味からも「部分異見」による「異見表明」は重要である。実際に、資料のほ とんどが「部分異見」であったことからも、仮説2は妥当になると言えるだろう。. 4.3. 仮説3 「異見型」による「異見表明」. 完全な「否定型」による「異見表明」はほとんど見られなかったが、 「否定型」になりか ねない状況を、あえて「異見型」にしようとする「異見表明主体」の姿勢が現れた例が複数 確認できた。 4.3.1. 「異見型」 ‑の移行. 現実のコミュニケーションにおいて、相手の提示した意見に対し、納得はできないが、 まだ適切な代案は思いつかない、という場合も少なくない。そのような場合に、 「問題があ る」 「良くない」 「もっと考えた方がいいのでは」というように「否定型」での「異見表明」 にとどめてしまうと、相手はただ文句をつけられたように感じ、ではどうするのかという 考えの提示がないことに若干の不満を抱くことがある。しかし、そこに代案の提示があれ ば、元の案と代案とどちらが適切か、さらにはよりよい第3の案があるかもしれない、と いうように話し合いは発展する。したがって、すぐに代案が提示できない場合であっても、 ・ 「「ご〜できる」が直接尊重語か関接尊重語なのかわからないということは、ちょっとま だ気になります。突っ込まれたときの対応だけでもないか、考えてみます。」 (NS) のように、 「異見表明」と同時に、代案を検討する意志があることを表明することが有効 となろう。次の例では、 「前提」に相当する部分で、代案を検討中であること、および、 すぐに代案提示できないことの謝罪を表明している。 ・「こう変えたらいいのでは、というのがちゃんと言えなくて申し訳ないのですが(明日考 えてみま‑す)ちょっと気になったのは、 (略) 「今学期の目的」が「シナリオ作成」に 聞こえてしまうかな、と思いました。」 (NS) また、代案を提示する際、 ・ 「他の題名を考えて見ましたが、敬語使用の実態・意識に関する考察 ‑ 「お/ご〜する」 を中心に‑ぐらいしか思いつきません。」 (NS) のように、必ずしも適切な代案ではなくても、検討の‑材料を提供することで、 「否定型」 にとどめるつもりはないことを表明することも効果的であろう。.

(10) 早稲田大学日本語教育研究. 4.3.2. 仮説3のまとめ. 相手の意見に同意できない場合、すぐに自分の意見を表明するよりは、相手の意見を否 定する方がたやすい。しかし「否定型」による「異見表明」は、相手からの返信が途絶える など、コミュニケーション意欲をそぐ結果を招くおそれがある。そのため、 「否定型」では なく、 「異見型」の「異見表明」を行うことで、相手に文句をつけるのが趣旨ではないこと を示す必要があろう。自分の「異見」がまだ表明できるほどにまとまっていない場合は、 今検討中である、検討するつもりがあるということを示すだけでも、より適切なコミュニ ケーションになると考えられる。したがって仮説3についても、妥当であると言えよう。 以上、今回の調査資料の分析から、 3に挙げた3点の仮説についての妥当性がほぼ裏付 けられたと言えるのではないだろうか。. 5.まとめと今後の課題 5.1コミュニケーションとしての「異見表明」 今回分析対象としたメールは、資料や論文をまとめるためのやりとりであったため、 「異 見」が表明されることによって、その都度問題点が明らかになり、検討を繰り返すことで対 象の論文などがより具体化し、完成度を高めていく様子が確認できた。自分の意見に対し 完全な同意が返ってきた場合、そこにそれ以上の考えの発展は望めない。しかし、異なる 考えを持つ相手とのやりとりを繰り返し、再度自分の考えと向き合うことで考えがさらに 練り上げられ、その過程において相手をより深く知ることにもなるのではないだろうか。 これまで見てきたように、伝え方に工夫することが可能であれば、 「異見表明」は、相手を 攻撃することでも否定することでもなく、コミュニケーション主体が互いを知るため、そ して互いの考えを発展させていくために必要不可欠なコミュニケーションである、と位置 づけることができるだろう。 伝え方の工夫という点に関しては、 「全異見」より「部分異見」、 「否定型」より「異見型」 という配慮を中心に、各コミュニケーション主体が「異見」を伝えることと人間関係の維 持を図ることの両立を目指している様子が多少なりとも確認できた。しかし、どのような 工夫が必要なのか、どのように「異見表明」すれば良いのか、という方法の問題以前に、 なぜ自分が「異見表明」するのか、という「意図」 8)に関わる部分、および「異見表明主体」 として表現すべきは、どのような「異見」であり、どのような「異見表明」を目指すのか、 という点が極めて重要であろう。多くは「前置き」の部分で、相手の「意見」や「案」に 対し、その意味するところを聞き直したり、相手の考えを自分が正確に理解できているか 否かを確認したりするやりとりによって、 「異見表明主体」が「異見表明」する「意図」を明 確にしていく様子が見られた。メールの場合は、やりとりに時間を要するため、 ・ 「一つ教えていただきたいのですが、 23課のところの「可能形」と書いてあるのは「語 幹+eru(reru)」のことですか。それなら何も書き足すことはないのですが、」 (NS) ・ 「もしかして、私の認識が違うのかもしれないのですが、」 (NS) ・ 「たぶん、 Cさんがイメージしている「グループ」を私が理解できていないんだと思いま す。ごめんなさい。 (A+A‑ってことですよね?)」 (NS) というように、本来なら「異見表明」の前に相手とやりとりすることで確認すべき点が「異見.

(11) メールによる話し合いにおける「異味表明」の方法に関する考察. 部分」およびその前後に組み込まれていたO このような確認作業を経て、自分の考えは本 当に「異見」なのか、どのような「異見」なのか、その「異見」は今ここで表明すべき「異 見」なのか、ということを「異見表明主体」が自身の中で明確に意識化してこそ、ではど のように「異見表明」するのか、という方法の問題が生きてくるのだと言えるのではないだ ろうか。. 5.2 日本語教育における「異見表明」 5.1で述べたように、 「異見表明」は、コミュニケーション主体が互いを理解し、考えを 深めていくために必要かつ有効なコミュニケーションであるo Lかし、そのように有効な コミュニケーションとするには、相応の工夫をもって、人間関係の維持に配慮する必要が ある。配慮を示す具体的な方法は、資料の中から見出したように実に多様であったが、一 方で、この方法を取れば必ず適切な「異見表明」になるという、万能の方法が存在しないの も事実である。 「異見表明主体」は常に相手とのやりとりにおいて状況を判断し、様々な方 法を組み合わせて「異見表明」をしなければならず、ここに「異見表明」の難しさがあると言 えるだろう。これは日本語母語話者にとっても慎重さが多分に要求されることであるが、 学習者にとってはそれがなおさらである。学習者が、日本語母語話者とのやりとりを重ね る中で「異見」は「表明しないほうがいいのではないか」、 「口にしてはいけないのではな いか」という思い込みを持ってしまった場合、彼らは「言いたいこと」を言えないまま、 自分の奥深くにしまい込むことになる。ここから脱却するためには、言わないことによっ てコミュニケーション上のトラブルを避けるのではなく、 「本当に言いたいこと」、 「言う べきこと」を表現するために表現の方法を工夫することが重要な意味を持つのだと言える。 しかし、表現の方法を工夫するとは、 「異見表明」でよく用いられる「私は〜と思います」 や「〜かもしれません」という表現を覚えることだけではない。必要なのは、 「部分異見化」 する、 「否定型」から「異見型」に移行させるといった配慮から、相手の反応次第で理由説 明を繰り返す、具体例を追加するといった「文語」 9)の展開まで、様々な方法があること を学び、状況に応じて選び取る力を養うことではないだろうか。 本研究は、そのための基礎研究の一つとしての位置づけになるが、今後は「音声コミュ ニケーション」としての話し合いの分析も併せて進め、様々なコミュニケ‑ション主体の 「異見表明」を分析することによって、さらに多くの「異見表明」の方法を明らかにしたいと 考える。と同時に、同一のコミュニケーション主体であっても、条件が変わることによっ て「異見表明」は様々に形を変えるはずである。親しい相手にこそ可能な「異見表明」もあ れば、親しさゆえに表明しにくい「異見」もあろう。また親しさの程度によって、配慮の 仕方にも大きく違いが出てくるはずであろうし、同じ「人間関係」であっても、 「場」が変 化すれば「異見表明」の方法も変えざるを得まい。さらに、 「異見表明」を「表現行為」とし て見るだけではなく、 「異見表明」された主体の「理解行為」に注目し、 「待遇コミュニケ ーションとしての異見表明」のあり方を明らかにすることを合わせて今後の課題としたい。 注. 1)蒲谷(2003)の規定による。.

(12) 早稲田大学日本語教育研究. 2)蒲谷(2003)の規定による。 3)本稿の「異見」および「異見表明」と近い概念として、 「反論」 「コンフリクト」 「不‑致」などの 用語を用いた研究がある。特に川上(1993)、木山(2001)などは、これらが話し合いの中でど のように表明されるかを扱っているが、本稿では文字コミュニケーションとしてのメールによる 話し合いにおいて「異見」がどのように表明されているか、という点に焦点を絞った。 4) 「部分意見」の「否定型」 「異見型」における「基本肯定」 「基本否定」については、 「表現内容」 としての差異はない。しかし、基本的な部分で肯定しているのか、否定しているのかという「異 見表明主体」の姿勢は、 「異見表明」の仕方に現れ、それが後続のやりとりに影響を及ぼすもの と考えられる。 5)分析対象としたメールは、最小で3名、最大で8名の主体間でやりとりされたものである0 6)今回は母語話者と非母語話者の比較分析を目的としていないこと、実際のやりとりを資料として 用いたことにより、母語話者と非母語話者が混在し、人数の調整もしていない。非母語話者の3 名は、母語話者と同等の日本語力を有すると筆者が判断したメンバーである。母語話者と非母語 話者の「異見表明」にどのような相違が見られるかについては、今後、調査の上検討していきたい。 7) (へ^) (〈on)などのほか、 「♪」や「(笑)」なども多く見られた0 8)蒲谷他(1998)の規定による。 9)蒲谷他(1998)の規定による。. 参考文献 大津友美(2001) 「雑談における共感作りのためのコミュニケーション行動一不一致を表明する際の緩 和処置について」 『言葉と文化』 2 名古屋大学大学院国際言語文化研究科 (2004) 「親しい友人同士の会話におけるポジティブ・ポライトネスー「遊び」としての対立行 動に注目して‑」 『社会言語科学』 6‑2社会言語科学会 蒲谷宏・川口義‑ ・坂本恵(1998) 『敬語表現』大修館書店 蒲谷宏(2003) 「「待遇コミュニケーション教育」の構想」 『講座日本語教育』 39 早稲田大学日本語研 究教育センター. 川上恭子(1993) 「話し合いの具体的分析‑共感と反発‑」 『日本語学』 4‑12明治書院 木山三佳(2001) 「話し合い場面での日本語学習者と母語話者の談話の比較一意見の述べ方に見るコミ ュニケーション原理の違い‑」 『山村学園短期大学紀要』 13 山村学園短期大学 久住まち子(2004) 「接触場面における「コンフリクト」克服に向けたコミュニケーションストラテジ ー ー「共感」の表現と理解について‑」早稲田大学大学院日本語教育研究科修士論文 香西秀信(1995) 『反論の技術‑その意義と訓練方法‑』明治図書出版 佐久間まゆみ・杉戸清樹・半滞幹‑(1997) 『文章・談話のしくみ』おうふう ザトラウスキー, P. (1993) 『日本語の談話の構造分析』くろしお出版 ジョーンズ, K. (1993) 「日本人のコンフリクト時の話し合い‑アメリカ人研究者から見た場合1 『日本語学』 4‑12明治書院 椙本総子(2004) 「提案に対する反対の伝え方‑親しい友人同士の会話データを基にして‑」 『日本語 学』 23‑10明治書院 本田厚子(1999) 「日本のテレビ討論に見る対立緩和のルール」 『言語』 28‑ 1大修館書店 吉岡泰夫(1993) 「言語行動としての話し合い‑目的遂行のためのコミュニケーション方略‑」 『日本語 学』 4…12明治書院 李吉鋒(2001) 「日・緑雨言語における反対意見表明行動の対照研究‑談話構造とスキ…マを中心とし て」 『阪大日本語研究』 13大阪大学 Brown,P. ,& Levinson, S. C. (1987) Politeness: Some universals in language usage. Cambridge: Cambridge University Press. Szatrowski, P. (2004) Hidden and Open Conflict in Japanese Conversatinal lnteraction し‑tJ.'li版. くろ.

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参照

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