イ タリアの合唱教育 に関す る一考察
‑ イタリアの国立中学校 とヴェルデ ィ音楽院児童合唱クラスを事例 に‑
虫明泉砂子
イタリアの国立中学校 とヴェルディ音楽院児童クラスの合唱指導 を視察 した結果,国立中 学校の合唱授業ででは,楽譜を使用 しないこと,発声が地声でハーモニーを創 れないこと, 更に,音楽の授業で生徒たちに歌 に対する意欲が極めて低 いことがわかった。一方,ヴェル ディ音楽院の児童合唱は,ベルカン トの発声で,生徒の歌唱の レベルは高いが,北欧やハ ン ガリーのような水準の高い合唱にはなっていないことがわかった。音楽教育の現場で起 こっ ているこれ らの問題の背景 には,イタリアの小学校 と高校で音楽教科 を廃止するという音楽 教育に対する国の方針があ り,このことが生徒のやる気や質の低下 を生み出していると考え られる。イタリアの音楽教育のこの ような状況は,音楽の授業が成立 しに くくなっている日 本の公立中学校の現状 と酷似 してお り, 日本の音楽教育にとって も将来を見据えた教育方針 の策定が急務であることを強 く示唆 している。
Keywords :イタリア,合唱,指導法,音楽教育
t.はじめに
最近の世界の合唱は
,
「世界合唱 シンポジウム1)」 でも見 られるように,現代 曲を取 り入れた技術的にも歌唱の レベルが高い合唱が増 え,響 きの美 しい合 唱に加えて,民族的な曲種や発声 を取 り入れるなど, 表現の多様性 を急速に広げている2)。 この傾向を代 表するヨーロッパの合唱 として,ハ ンガ リー,フィ
ンラン ド,ブルガリア,チェコ,バ ル ト三国,スカ ンジナ ビア,スウェーデ ン, ノルウェー,イギ リス 等多数の合唱大国が存在 している。その一方で,オ ペラ発祥の国,カンツォーネの国であるイタリアは, 合唱の国としての名声はあまり聞かれない。
筆者 は,2003年及び2007年の2度にわた り米国, ハ ンガリー, フィンラン ドの小中学校,大学,一般 の合唱団等での合唱教育を視察 した。 これ ら諸国で の視察 を通 して,合唱教育 に必要 な基礎能力 とは何 か,基礎能力 を伸ばすために有効 な練習方法 とは何 か,更に, 日本の学校教育の中で合唱能力 を伸ばす ための,教育現場の実態に別 した合唱指導法 とは何
かについて検討 して きた3'。
今回,イタリアの合唱教育の現場を視察 したので, その現状 を報告するとともに,現在のイタリアの合 唱教育が抱 えている問題点について検討 を加 えた。
また,その検討結果か ら, 日本の音楽教育が汲み取 るべ き事柄 と採 るべ き方向性 について も論 じた。
Il.イタリアの公立中学校の音楽授業の視察 1.国立ベネデ ッ ト・マルチェッロ中学校4)
筆者は2008年
1
1月に ミラノ市郊外 にある国立ベ ネデ イツ ト・マルチェッロ中学校 を訪問し,音楽の 授業を視察 した。 同校 は生徒数800名のイタリアで は標準的な学校である。音楽は, 自由選択授業 とな ってお り,授業の参加者 はわずか13名で,その内 訳は,男子4名,女子9名であった。基本的に参加 したい生徒が参加する形式であった。授業の場所は, 教室ではな く, 2
階の大 きなラウンジで行なわれた ため,楽器 はな く,長いすが10脚程度置かれてお り,前列 に生徒が座 る形で授業が始め られた。教師岡山大学大学院教育学研究科 芸術教育学系 700‑8530 岡山市北区津島中3‑ 1‑ 1
ConsiderationofChorusMusicEducationjnItaly:OntheBasisofObservationsof''ScuoLaMediaStatale"and
"ConservatorioCorsodiCorodelleVociBianchediG.Verdi"
MasakoMUSHM O
DepartmentofCu汀iculum Studies,MusicEducationCourse,GraduateSchoolofEducation,OkayamaUrtiversity,3‑1‑1 Tsushima‑nal(a,Kita‑ku,Okayamacity700‑8530
虫明鼻砂子
は,電子鍵盤楽器などを使用 した。
1)歌唱への導入
出席 をとった後,発声練習が以下の ような順で行 われた。
①a,e
,i,0,uの母音でクレッシェン ド・デ イミヌエ ン ドをつけて発声す る。開始音 は嬰 ト音か ら2
点 二音 まで行 なわれた。呼吸については,息 を吸 う 一息 を吐 く‑膨 らませ るようにとい う指導がなさ れた (語例1
)。語例
1
a e i 0 u a e も O u
(参呼吸法の練習
息 を吸 う
5
秒‑止める5
秒‑吐 く5
秒 (全部吐 き 切 る)。常 に5
秒 でやるよう注意が な された。手 を腰 に当てて,身体 をまっす ぐにす ること,何 回 も練習すること,学校では時間が ないので,家で も練習するように指導。③e
,iは咽喉が閉ま りやす く歌いに くい母音である が,a,
Oは歌 いやすい母音 であることを説明。 口 腔 を閉めて しまうと歌いに くくなるので,歌いや すいOでや ってみるよう指示 (譜例2
)。次 に,p
か らは じめ, クレッシェン ド・デ イミヌエ ン ドを つ けて発声す る。最後 は母音a
で発声 し, 3拍 め までに息の量 を増や して大 きくす ること,お腹が 膨 らんだのを感 じたか どうか生徒 たち‑確認 させ て,曲への導入 を終 わる。語例 2
♯ 聖二二二 0 >
呑0 ‑‑二二 ‑ ♭ 甘く‑=
0‑
2
)歌唱指導発声の後, クリスマスパーテ ィーの コンサー トの ための練習 に入った。楽譜は使用せず,詩のコピー のみが配布 された。 曲 目は, 1曲 目は独語の歌 (曲 名不明), 2曲 目は,ホワイ トクリスマス (英), 3 曲 目はBuonNatale(伊), 4曲めはBolaBola(伊),
5
曲 目は,教師が作詞,教師の父親が作 曲 したオ リ ジナルの歌NonsiamoSo止 (伊)であった。 ドイツ語 は,教師が発音 をして,生徒がそれ を範唱す る形で練習が行 なわれた。楽譜 は用いないため,生徒 たち は歌詞 を見て歌い,教師は,詩の行 を目安 に音楽的 な指導 を行 った。伴奏は,全て電子楽器で録音 され た ものが使用 された。歌唱指導の内容 をその まま列 記する。
まず コンサー トの時のように歌いましょう。
1曲 目独語の歌 (曲名不明) 生徒たち :1回歌ってみる。
・もし可能だった ら, こんな息を しないで (教師が 子 どもの真似)
・息を保って,一息で歌 うように
・同 じ行で,途中で息をしないで続けるように
・言葉の途中で息をしないで (教師は額繁に指導)
・ドイツ語の発音に注意 して
・一つの息で上手に言葉を使って
・心配 しないで
・息を吸って (教師は頻繁に指導)
息継 ぎの場所 はこんな感 じなので,今か ら曲の表現 に 入 りましょう.全部同 じで歌 ったで しょうD強弱の変 化 をつければ,曲が もっとよ く聴 こえて きます。だか らさっきヴオカリ‑ゼの練習で強弱 をつけてや らして みたのです。 1行 目は とて もやわ らか く,甘 く, 2行 目は明る く,強めに歌いましょう (教師が歌 う
)
。p,I, p,∫でやってみましょう。・やわ らか く
・強 く
すでに違いがでて きていいですね。一番最後は, クレ ツシェン ドがいい と思います.一番高い ところは,一 番強 く歌い ましょう。少 し音が下が ってい くので少 し 柔 らか く。 5, 6, 7行はクレッシェン ドで落ち着い た感 じで歌いましょう。
・天使みたいにやわ らか く歌ってみましょう
・強 く
・やわらか く
・言葉を息に乗せて
・ここか らpで始めて,クレッシェンドにしましょう
・強 く,やわらか く,強 く,やさしく
・少 しずつ強 くしましょう,
・もっともっと強 く
・言葉 を直 しましょう ドイツ語の発音 くり返す
・生徒が発音の質問 教師が模範
・Oは閉まった感 じの発音で
2曲目ホワイ トクリスマス (莱)
生徒 たち :1回歌 ってみる。 この曲も全て同 じように 歌わないで,音楽の演出もしてみましょう。
・曲はデ リケー トに始めてみましょう。
‑
7 4‑
・一番最後にタレッシェン ドができるように
・一息で (言葉をつないで)
・静かに聴いて
・アーチのようにタレッシェン ドしましょう
・もっと音が小 さくなるようにデ イミヌン ドしまし
ょう
・私を見て
・低い音は難 しいので柔 らか く音 をとりましょう
・ゆっくり息を吸う
・クッシ ョンの上に座 るようにや さしくやわ らか く 音をとる
・ゆっ くり音をとればいい
・前に走 らないで
・クレッシェンドを忘れない
・あ ま り正確 にと りす ぎないで,遅れる ぐらいで も
し ヽ し \
・息を吸って (教師は頻繁に指導) もう1回やってみましょう。
・ゆっ くり息を吸って
・クレッシェンド・デイミヌエ ンド
・Oを伸ば して私をみて
・pでは じめて少 しずつ大 きくしましょう
・やわ らか く音をとる
・息吸って (教師は頻繁に指導)
・Blightは デ リケー トにとってクレッシェン ドしま しょう
・下の音は柔 らか く取 りましょう もう1回やってみましょうO
・息を保って,途中で息をしないで
・タレッシェン ド・デイミヌエ ンド
・Oを伸ば して
・息吸って (教師は頻繁に指導)
・私 を見てのばして
・や さしくクレッシェンドしましょう
3曲目BuonNatale(伊) 生徒たち:1回歌ってみる。
一番はや さしく。 2番 はメゾフォルテ3番 は強 く歌 い ましょう。
・2番は少 しだけ大 きく,で も最高の強 さに しない ように
・同 じ強さでずっと歌って
・強 く
・今度はもっと強 く
・途中でよわ くならないように
・決断 して
・あと4倍大 きく
・
叫ばないで もっと強 く生徒たち :歌唱する。
もっと速いスピー ドで本番や りたいけど,言葉がわから な くなるので,少 しゆっくりしたスピー ドでや ります。
4曲目NonSiamoSoli(伊) 生徒たち :歌唱する。
・もう少 し感情 を入れて
・もっと強 く
・今度はや さしく
・エ コーみたいな感 じで
・入 り方は難 しいけれ ど僕 を見てればで きる
・どこで入るか確信がない
・す ぐに強 く入るように
・最後はエコーみたいにして歌いましょう
・強す ぎないように
・音が下がっているよ
・1回日と2回 目は違 うように
・音のメロディーを聞いてみよう 生徒たち :歌唱する0
5曲 目 BolaBola(伊) 生徒たち :歌唱す る。
・言葉を一つの息で歌いましょう
・フレーズの最後や さしく,ク ッシ ョンの上 に何か 置 くように
・走 らないで
・アル トの ところをみんなで歌いましょう
(生徒 にわか りやす くするために教師が 自分の声 も入れ て録音 しているものを使用)
・今度は外声をとってや りましょう
・2声で合唱する
・音楽にのって歌 うように
・曲の最後は,マルカ‑ トで 力強 く
・言葉を一つ一つ しっか りと
・最後 自分たちが歌 を先導 させるつ もりで 生徒たち :何回か繰 り返 し練習する。
・怒鳴 らないように
・これか ら本当に速 さで歌お う, もっと速 く 覚えさせるために導入部分を何度 も聴かせる。
生徒たち :歌唱する。
3 )考察
発 声 は , 単 純 な母 音 唱 法 で行 な わ れ た 。 生 徒 の 声 や 表 情 は , 生 き生 き と した もの で は な く, む しろつ ま らな そ う な表 情 が 随 所 に見 られ た。 呼 吸 法 の練 習 の後 , 一 つ の息 で ク レ ッ シ ェ ン ド ・デ イ ミヌ エ ン ド をつ け て発 声 す る練 習 で は, 具 体 的 に息 の 量 を生 徒 が 体 感 しなが ら声 を 出 す こ とが で きる の で , 効 果 が
虫明星砂子
あると感 じられた。全体的に
,
「息 を吸って」
「息 を 続 けるように,息の配分に気 をつけてことばをつな いで」呼吸に関連す る指導が多 く,
「もっ と表情 を つけて歌 ってみ よう」
「強弱の変化 をつけて」 な ど 曲の表情 にも意識 を向けるよう,繰 り返 し練習が行 われた。例 えば, 1曲目は独語の歌では, 1行 目 :とて も優 しく,天使みたいに柔 らか く
, 2
行 目 :明 る く強 く,3
行 目 :明るく強 く,言葉 を息 に乗せて,4
行 目 :明る く強 く, 5
行 目 :優 しく クレッシェ ン ドはピアノか ら始めてだんだん強 く, 6
行 目 :強 く, 7行 目 :リラックス して 柔 らか くというよう に,詩の行 ごとに,はっきりとわか りやすい表現で 指導 していた。全 曲を通 して,(丑デ ィナー ミック②息継 ぎ ③ クレシェン ド・デイミヌエ ン ド ④ テ ンポ感 ⑤柔 らかさ等 をポイン トとして示 し,音楽 的に的確 な指導が行われたと考える。 しか し,この 授業では,楽譜がな く,音や リズムを繰 り返 し録音 で聴かせて,耳で覚えさせ,詩を見 なが ら教師の指 揮 をみて歌 うという形 をとっているため,曲の入 り や リズムが速い箇所では声が揃いに くく,生徒たち の集中力が途切れる場面がたびたび見 られた。また, 音程 については,教師は伴奏 を録音 し,繰 り返 し覚
えさせ る,始終一緒 に歌 う
, 2
声の場合,教師 自身 の声 をアル トパー トに入れて生徒たちにソプラノパ ー トを歌わせ るなどの工夫が見 られたが,生徒 たち の声 は終始不安定で,強 く,怒鳴るような歌い方に なっていた。全体的に,教師主導の授業で行なわれ, 生徒たちは歌 に対 して受動的であ り,積極的な姿勢 は見 られなかった。授業後 に,生徒たちにどの曲が歌いやすかったか 質問 した ところ
,Whi t eChr i s t mas
(英)が一番多 く,続いてBuonNa t a l e
(伊) と,英語の歌 に関心 をもっていることがわかった。次に,声 を出す とき に気 をつけていることを質問 した ところ,生徒 たち か らは,声や息の量の コン トロール, 声 の出だ し の正確 さ,音の高 さの正確 さ,音楽 を伝 える感情 な ど,発声や音楽づ くりの面で大切 な事項の発言があ った。筆者が受けた受動的な生徒の印象にもかかわ らず,生徒たちの中では,歌に必要 な表現 を的確 に 捉 えていることがわかった。 しか しなが ら,それが 音楽表現 に結びついていないこと,授業に活気がな いことか ら,何 に起因 しているのか疑問を感 じた。2.
国立 カルロ ・ポルタ中学校5)イタリア中部 ミラノ市にある国立 カルロ ・ポルタ 中学校の視察は
2 0 0 8
年1 2
月に実施 した。同中学校 は 全校生徒数5 0 0
名で,音楽の授業は1
1歳か ら1 4
歳 ま での生徒約30名が参加。男子が数名 と少なかった。1)歌唱‑の導入
①
a
の母音で発声す るよう指示。音域 によって高声, 中声,低声のみに歌わせ る (譜例3)。
「出発の音 に注意 を して歌 うこと」
「背中を丸めない ように まっす ぐに立 って」
「の どを上 に引っ張 らないよ うに」
「フ アルセ ッ トと普通の声 の中間なので, 咽喉が閉まらないように口を良 くあけて練習 しましょう (開始音
1
点イ音の時)」
「高い音を押 さな いよう,音が下がるまでスピー ドをつけてい きましょう」などの指示。
譜例3
②
3
声の練習 (譜例4) 0 3
声に分かれて単音 をdo
,r e,mi
で発声 (発音 として)。中声部が弱 く外声 部 しか聴 こえないため,中声部の生徒たちにもっと強 く発声するよう何度 も注意がなされた。
語例
4
5d
do re mt do re mi
③
3
声の練習。高声 ,中声,低声の順にdo
で発声 (発音 として)。中声が聴 こえないため,ピアノで 高声や低声 を弾 いて,それぞれ中声 ・低声 ,高 声 ・中声の音程が正 しく取れるよう何度 も繰 り返 し練習す る (譜例5
)。間違 えて もいいか ら歌 う ように指示。語例
5
恵声
▼ ‑
t 事一 一 一
do中声do /do
低声 do do do
④下降のスケールの練習
。 2
回繰 り返 し, 1
回目を フォルテで, 2
回 目をピアノで歌 うよう指示 (請 例6)
。小 さい声 で歌 うときも口をもっと開けるようなつ もりで歌 うよう指示。
語例
6
‑ 76‑
2
) 歌 唱指導曲 目は, ア メ リカ映画 「天使 に ラブ ソ ング を」 よ り,OhHappyDayと ミュー ジカル 「ジーザ ス ク テ イ ス トス ーパ ース ター」 よ りSuperstar。 ク リス マ ス コ ンサ ー トの ため に用意 され た 曲で,本 番 はオー ケス トラ とと もに演 奏 す る とい う こ とで あ った。歌 唱指 導 の内容 をその まま列 記 す る。
1曲 目OhHappyDay
・ソリス トが始まったのを聞いて入 りましょう
・パー トごとにピアノを弾 く歌 うときにはよく考え て
・そのときそのときの自分の音をよく聴いて ソリ ス トの最初の音はあなたたちと同じでしょう
・それを良 く考えて,いちいち音をとらないから自 分たちの耳でとるように
・最初の音からをとる
・中声がいない
・ピアノを弾かないでや りましょう
・音程に気をつけて
生徒たち :中声部を何度も練習 し,続いて下声部のみ 何度も練習する。
・歌ってない子がいるよ 音をはず している
・音を切るように 音を残さないように
・決断力足らない
・しっかりフレーズを歌って入る パー トごとに音取 りをさせる。
・準備ができて出発するように
・自分の音程を確実に はっきりと 生徒たち:3声 とも準備 して歌唱する。
・集中して,自分の音を考えながら
・自分パ‑ トを耳で聴 く
・決断的に
最後伴奏をつけてやってみましょう (生徒たち :cDの カラオケで歌う)。
・まっす ぐに立って
・ソリス トたち 元気に 楽 しく
教師は中声のパー ト‑注意。弱いパー トをピアノで弾 いて誘導する。
2曲目 Superst∬
・小さい声で,ユニゾンで歌いましょう
・素晴 らしいオーケス トラが聴こえます でも怒鳴 らないように
・低声だけ歌って
・す ぐに歌いださないといけない
・いつも音がわからないように 漠然 とはいらない
・確実に音がわかって人らないといけない
・他のクラスか らも入って くるか ら,オーケス トラ の指揮者を見て,彼のサインを見て歌いましょう
・中声が聴こえない
・オーケス トラは強 く感 じるでしょう 録音だけで も強 く感 じるけれど,合唱は聴こえないといわれ てしまう
・オーケス トラはどんなテ ンポかわか りませんが, あわせて歌わないといけない
・他のパー トがあるときも集中して自分の音を歌わ なければならない
・出発昔ははっきりと確実に歌わなければならない
・スケールを聞いて準備 して 中声部は,確実に自 信をもってや りましょう
写真
1 国立 カルロ ・ポル タ中学校 での音楽の授業風景( 虫明撮影)
3)考察生徒 た ち は楽 譜 を使 用せ ず ,教 師の指 導 言 を聞 き なが ら,教 師 の指揮 と詩 の コ ピー を見 て歌 って いた。
指導全般 にわ た って,ピア ノを弾 いて音 を とらせ る, ピア ノを弾 きなが ら音程 を感 じと らせ る等 『音取 り』
に終 始 して い た。教 師 の範 唱 の声 は,叫 ぶ よ うな地 声 で行 なわれ,生徒 た ちの声 も地声 で,怒 鳴 り声 や 叫 び声 に近 く,ハ ー モ ニーの響 きを聴 きあ う とい う 合 唱 の体 系 を な して い なか った と思 う。 2曲 と も, ユ ニ ゾ ンの ソロパ ー トと合 唱 の組 み合 わせ に よる も ので あ ったが ,合 唱 にな った と きに音 程 や声 部 のバ ラ ンスが悪 い ため ,教 師 の指示 は, 曲の入 りや声 部 のバ ラ ンス の注 意 が多 く,音 を確 実 に正 しい音程 で 出す ため に,他 のパ ー トを聞 くこ と,音 の と りに く い箇 所 は フ レー ズ の 最 後 の昔 を頼 りにす る こ とな ど,音 に集 中す る よう助 言 していた。
授 業 後 に教 師2名 へ の イ ンタ ビュー を行 な った。
イタ リアの音 楽教 育 の現状 も含 め,興 味深 い内容 を 聞 くこ とが で きた。 以 下 の6項 目につ い て質 問 を行 なった。
① 楽譜 をなぜ使 用 しないのか
虫明晃砂子
早 く覚 えない といけないため,歌詞のみ をまず記 憶 させ る。色々なクラスか ら生徒が来ているため, 楽譜を用いるのは難 しい。
② クラスの編成について
生徒 は
,1
1歳か ら1 3,1 4
歳であ ること6)。合唱 授業はで きてまだ2年 目で,女子生徒が多 く,男子 学生は少 ないのは,変声期の生徒 をはず しているた めである。午前 中は4時間授業で1 3
時45分 に終了 し,昼食後,合唱をしたい生徒だけが参加 し,週1
回のペースで行 なわれる。 1
時間半 しかないため, 繰 り返 して耳に覚えさせて曲を増や している。③ do, r e, mi
と発声 させ る理由は何か。いつ もは,Oか
a
で練習 し,Ⅰは音 を集めるときに 使 う。特 に意図はない。(彰英語の曲をよく歌 うのか。
今年はたまたま英語でオーケス トラとあわせるこ とになったが,昨年はラテン語の曲
3
曲を歌 った。これは,劇場に出演 して,合唱の部分で参加 した。
⑤発音で気 をつけていることは何か。
歌 うと怒鳴って しまうので,声 を怒鳴 らない程度 に歌 うように指導する程度になっている。
⑥ イタリアの音楽授業についてどう思 うか。
3
年生のクラスでは, とくに退屈 して歌 わない, やる気のない態度の悪い生徒が多い。 1,2
年生はまだやる気 を出させることはで きるが
, 3
年生はや らないといけないか ら, リコーダーや音楽史をして いる。高校 には音楽授業がないため,やる気のない 壁徒 は "続 ける必要がないのに中学校でなぜ音楽 を しない といけないの ?" と思っているようだ。イタ リアはオペラの故郷 とか歌の国とか言われるが,坐 徒が必修で受ける授業は午前中で終了 し,午後の授 業は本当に勉強 したい生徒 しか残 らない。音楽 コー スの生徒 は,午後 2時間もあるのに,なぜ午前 も音 楽 をしない といけないのか という生徒 もいる。イタリアの音楽教育はこの ような現状になっている。試 験 は
, 3
年生の最後に口頭試問で行 なわれる。一般 的な音楽史の内容を聞 く。 ピアノや楽器 を習ってい る学生は,試験で実技 をして もよい。⑦楽譜 を読めない子は多いのか。
小 曲で練習 させて何 回かやるが,その時その時だ けで覚 えようとしない。 リコー ダーをや る時に も, 音のポ ジシ ョンを音符 につ いて楽譜 で説明 をす る が,やる気のある子は読めるけれ ど,読めない子 ど もや色々な子 どもがいる。 この中学校では,音楽は 次の2つのコースに分かれてお り,生徒が コースを 選択する。
cor s oA ;
音楽 クラス :楽譜は読め る。 ソルフェー ジュ ・オーケス トラのクラス。Cor s oB
;一般のクラス :個人で習 っている生徒 は 読める し,例 えばオーケス トラへ参加 も しているが,それ以外の生徒は読めない。彼 らの多 くは, ラップが音楽で,それ以 外 は音楽ではないと思っている。
教師へのインタビューか ら,イタリアの音楽教育 の現状 と授業の内容や歌唱の レベルが連動 している ことが理解で きた。 イタリアの現在の音楽教育 シス
図
1
イタリア (ミラノ市)の音楽教育 システム テムを図1
に示す。音楽 に興味のある子 どもは,幼少か ら音楽教室等 に通い, ソルフェージュや楽器を習得 しなが ら,普 楽の知識や能力 を獲得す る。その一方,音楽 に興 味 ・関心のない多 くの子 どもたちは,中学校で初め て音楽の授業 を受ける。その結果,中学校では読譜 がで きない生徒が大半 を占める もの と考え られる。
発声 について も,いい声の出 し方を学ぶには,中学 校では時期 を逸 していると考えられる。日本の場合, 小学校,中学校,高等学校 (選択 も含 まれる)では, 音楽授業は確保 されてはいるが,音楽に対する意義
を見出せない生徒や教師が多 く存在する。 また,小 学校の6年間音楽授業 を受けてきて も,中学校で楽 譜の読めない生徒 も多少な りとも存在する。さらに,
日常 に溢れ出る音楽は,ポ ップス,ロック,ラップ など,学校教育で行なわれる音楽 との相違があ り, 興味をもてない生徒 も多いことも事実である。 イタ
リアの現在の音楽教育の方針は,生徒のやる気や質 の低下を生み出 してお り,音楽教育の在 り方につい て議論することが取 り組むべ き緊急の課題 となって いる。 このイタリアの状況は,音楽の授業が成立 し に くくなっている 日本の公立中学校の現状 と酷似 し てお り, 日本の音楽教育にとって も,現状の問題点
‑ 78‑
を分析 し,将来を見据えた教育方針 を策定すること が急務であると改めて強 く感 じた。
Ill.国立 ミラノ ・ヴェ
ル
ディ音楽院児童合唱 コース7'の視察
国立 ミラノ ・ヴェルディ音楽院児童合唱 コースの 練習 を
20 08 年 1 2
月に2
日間に分けて視察 した。 こ のコースには男子 を含 む8‑ 9
才か ら1 7
才 までの 児童 ・生徒約80
名が参加。2009 年 3
月 と4
月にコンサー トが予定されていた。
1
)歌唱への導入 (丑身体の脱力背中,肩のほ ぐし。肩 をあげて脱力 を繰 り返す。
頭 をゆっ くりと回す。
②呼吸の練習
息 をゆっ くり吸 う‑すばや く吐 く
息を身体全体へゆっ くり入れる‑止める (保つ)
‑→吐 く
息 を吸 う‑ゆっ くり長 く吐 く (ス‑)‑全部吐 き 切 る
(彰ハ ミング (譜例 7)
鼻腔 にあてて。 まっす ぐに姿勢 を正 して。頭上の
1
点か らつるされているような感 じで。譜例
7
( ′ ヽ
④鼻腔 を感 じなが ら, i
‑dol c e
‑ pの ように。p を歌 うときに も,
∫で歌 うときと同 じような感 じ で息 を豊かに( a bbo nd a nt e )
吸って。p5
個 くら いの気持ちで。口蓋 を上げて,そこか ら始めるように。開始音変
1
点口音まで (譜例8
)。 譜例8
′ ㌣ \
I 17 I (7 I (1 I (7 〜
(9響 きを高 く。開始音変
1
点 ト音 まで (譜例9
)。譜例9
⑥ まず レガー トの練習。開始音
1
点 ト音 までい くと 下降に入 り,ス タッカー トで発声。その際,横隔 膜 を使 って, ピアニ ッシモのスタッカー トをするように指示 (譜例10)。 譜例
1 0
⑦ レガー トで。開始音嬰
1
点へ音からピアニッシモで 歌唱 し,最高音でロング トーンの練習 (譜例1
1)
。 譜例11
⑧柔 らか く,たたかないで歌 う。で きる限 りpで発 声 し,開始音
1
点イ音 まで (譜例1 2)
。語例
1 2
mt0 0 tmも 0 0 も mt0 0 1 1
⑨嬰1点 ト音 だけで発声 (譜例13)。デ イミヌエ ン ド:柔 らか く
( s o f f i c e me n t e )
‑小 さく一息がな く なって切れるまで‑→ハ ミングで。譜 例
13E i
十 十 十 十 十 一 Fil ========≡≡≡≡= コEQii写真
2
匡L立ヴェルディ音楽院児童合唱コースの練習風景 (虫明撮影)虫明鼻砂子
2)
歌唱指導曲目:DominicaⅡpostpaschaFelixMendelssohn‑
BartholdyTreMotettihthliop.39percorafemmi nile (メ ンデルスゾー ン作 曲 「女声合唱のための
3
つの モテ ッ ト」 より)歌唱指導の内容 をその まま列記す る。
最初 はみんなで一緒 に歌 い ましょう。
・Miを押 さない ように高 く
・もっ と高 く
・ポル タメ ン トは しない ように
・Miはクレッシェ ン ドがあるように思 って
・口の上 を使 って ハ ミング
・最初 の音 に支 えを入れて
・palato (ハ ミングの ような感 じ) (頃繁 に)
・あ くびを した ときの口で
・言葉 で とりましょう
・柔 らか く
下の声 の人 最初の部分か ら歌 い ま しょう。
・フ ア♯に気 をつ けて
・低 いです よ
・palatoで (頻繁 に)
・スペースをたてに長 く取 るように
・鼻 にスペースを広 げる感 じで
・Esを とる ときに
・たてにスペース を持 って
・Nu iに変 えて
・お腹 を押 さえて
1,2声最初か ら歌い ましょう。
・誰か2声 で 1声 につ られている 数名指名 して歌 わせ る。
・場所 を指定 して 低 い
・Ⅰは タテに昔 を とるように 全員で歌 いましょう。
第2声 だけ歌い ましょう。
・スペースはu
・ば らば らに出発 しない ように .No,noで
第 1声 だけ 最初か ら両方で
・2回 目は柔 らか く
・最初 のeがつぶれているので, タテにreを 上の声 の人だけ歌 いま しょう。
・少 しゆっ くりやってみ ま しょう
・Mで鼻の ところの骨 に音 を集めるように
・低 いです よ
・息 はた くさん 音 は小 さ く
・Mを しっか り
・もっ とゆっ くりや ってみ ましょう
・Mで歌 ってみ ま しょう
・最初のeがつぶれているので, タテに
・Palatoだけでや ってみ ま しょう,あ くびをす る よ うに (頻繁 に)
・言葉 をつ けて も同 じような感 じで
・いつ もあ くびを しているようにスペースを もって
・レガー ト フォルテ
・Alleluiaをnoで歌い ましょう
・音 を 1個ずつ押 さないで
・タテに前 に もっていって
・歌詞 をつ けて
・最初のaはOに近 く
・最初か らこの フレーズをや りましょう
・Noで歌い ましょう 鼻で音 をとる
・速 くきるように
・Palatoで (額繁 に)
・最初か らポジシ ョンを とって
・音をまる く
・NononoNininiで歌 う (頻繁 に)
・言葉 をつ けて
paola一一人で歌 ってみ ましょうO
・子音が少 し弱 か った 3名指名 して
・pで歌 ってみ ま しょう 第2声 みんなで歌い ましょう。
第1声みんなで歌 い ましょう。
・フォルテ とピアノの違い をみせ て
・Oの母音 を柔 らか く
・高 く出発 して くだ さい 2声 もいれて歌 い ましょう。
・Aの音が低 い
・は じめが低 ければ最後 まで低 い よ
・鼻 にスペースを もって タテにあけて
・タテにあけて始 めた ら,終わ りまで タテに
・あごを下に下げて口蓋 をあげて
・柔 らか く息 にのせ て
・デ イ ミヌエ ン ドを考 えて
・下 にだんだん落 ちない ように
・無理 した声 は出 さない
・自分の持 ってい る音量で歌い ましょう
・必要以上 に声 を強 くしない ように
・palatoで (原案 に)
・集 中 して出発 しましょう
・お互いの声 きいて
・音 をまわす ように
一緒に 2声 で歌い ま しょう。歌詞 をつけて。
・やわ らか く Alleluiaを
‑8 0‑
・Alleluiaもっと高 くOに近 く
・はじめ0に近 くは じめるんだか ら最後まで
・上にあがってい くような感 じで
・低い,同 じポジションを保つ ように
・自分 自身直す ようにしないと みんなで歌いましょう。
・第2声は第1声 よりも大 きな声で歌わないように
・音程が低いとき,スペースを空けるように考えて
・第2声は高 くタテに長 く 呼ばれた人だけ歌いましょう。
・長い音を出す ときには‥ 良を送るように
・長い音はスペースを作 って息を吹 き込むように
・硬 くならないように
・スペースをあげて mで
・言葉をつけて
・低 く感 じますね,この音は
・m スペースをあげるように考えて
・あごを下げて
・上に縦長 く
・スタッカー トで,お互いに聴いて
・音はまる く,豊かな音にしましょう
rI.audateDominiJ
・言葉がラテン語なのか何語かわか らない
・リズム何拍伸ばすのか
・最後 まで音を待って
・響 きを高 く持って
・母音が変わっても全部同 じところで
・着陸 しないように
・他の子の声 を聞いて歌ってみて
・響 きを高 く 口蓋 を上げて やわらか く
・フォルテ じゃなくて 音程に気 をつけて
・口蓋をあげて
・リズムがずれている
3)考察
発声練習では,ベルカン ト唱法で使用 される基本 的な音型が用い られていた。響 きを集めるためのハ ミング,子音 のm,nを用 いての レガー ト唱, また ピアニ ッシモやデ イミヌエ ン ドな どが丁寧 に指導 さ れてお り,響 きを大切 にした柔 らか く無理のない発 声が求め られていることがわかった。
練習時には, ピアノで終始上下のパー トの音が弾 かれ,音程の正確 さが求め られた。合 唱指導では, 言葉の意味やイ ン トネーシ ョンよ りも,音程や声の 響 きの位置や柔 らか さ,フレージングのなめ らか さ に重点が置かれていた。指導の中では,palato (伊) という言葉が頻繁 に使用 されていた。palatoは, 口
蓋 に当たる言葉である。 これは,ハ ミングとほぼ同 じと考 えられ,口の上部 (鼻か ら上) に響 きを集め て, 口 を開 けてmで発声す る方法であ る。指導者 は,特 に音程が悪 い とき (低め) には,必ずpalato
とい う言葉 を用い,音程への注意 を促 していた。常 にベルカン ト発声 を基本 としてお り,palatoまたは mのハ ミング‑音 の高 さを正確 にとる‑言葉 をつけ るとい う方法で,正 しい音程 に持 ってい き,高い響 きのある声 で歌 うように指導 した後,言葉 を高いポ ジシ ョンで歌わせ ていた。指導の後 には,的確 に音 程や響 きの位置が高 くなることか ら,生徒たちは一 人ひとりが十分 に対応で きる能力 を持 っていると思 われた。
指導者の話 によると,一人ひ とりの声の能力は次 の ような指導 によるとい う。
ヴェルデ ィ音楽院の合唱 クラスに通 う生徒 たちは,別 枠 で一人ひ とり声楽の個人 レッス ンを受 けている。声 楽の レッス ンでは,特 に声のテクニ ックが教 え られ, 合唱 クラスでは,それ を基礎 に合唱曲の練習 を行って いる。幼少期 より,音楽教育の知識,発声 に関 しては, 呼吸,姿勢,声 のポジシ ョン,横隔膜の支え,口のあ け方,母音 の位置,響かせ方,咽喉の リラックス法な ど全て教え られてい く。合唱 クラスでは,最初の20分 間で発声練習行い,呼吸の練習 に続いて,響 きのヴオ カリ‑ゼとメロディーのヴオカリ‑ゼを行なう。
音楽的な知識やテクニ ックを学びなが ら,合唱授 業 をうける とい う形態 をとっているため,楽譜の知 識や発声 の知識があ り,指導者の専 門的な助言にも 対応がで きている と思 われる。多様 な発声が用い ら れ る現代 曲 よ りは,ベ ル カ ン トの発声 で歌 える
1 6
世紀 の合唱 曲を中心 に練習 している。 ミラノスカラ 座で児童合唱が必要な場合, このクラスの中か らオ ーデ ィシ ョンを受けて,選抜 された子 どもが出演す るとい う形態 をとっているため,学校教育や一般の 児童合 唱団 とは全 く異 なる特別 な 目的 を持 ってお り,イタリアの伝統的な発声や合唱指導 を継承 して いる と考 え られる。練習 にピアノを多用 している点, 固定 ド唱法 を使用 している点は, ピアノだけでな く 音叉,ハ ン ドサイ ン,移動 ド唱法で練習す るハ ンガリーな どに比べて大 きく異なる点である。ハ ンガ リ ーや フィンラン ドの ように,純正律の音程感覚 を大 切 に している場合 と比べて, ピアノのみで音 をとっ ている場合,和声感は甘 くな りやすいことも確認で きた。
虫明晃砂子
J V. まとめ
イタリアの公立中学校 とヴェルデ ィ音楽院の合唱 指導の内容について次のようにまとめることがで き る。
イタリア国立の中学校
1.楽譜 を使用 しないで,歌詞を見て歌 う 2. 録音 した伴奏を使用 している
3. 発声が響 きのない地声になっている 4.ハーモニーが創れない
5.生徒 たちに歌に対する意欲がない イタリア国立ヴェルディ音楽院
1.ベルカン トの発声 を基本 としている 2. 個々の生徒の歌唱の レベルは高い 3.固定 ドでピアノを終始使用 している
4.声の響 きの高さや音程の正確 さを重視 した指導 である
5.専門の合唱教育機関にも関わ らず,北欧やハ ン ガリーの ような水準の高い合唱には至っていない 国立中学校 とヴェルディ音楽院児童が担 っている 合唱 クラスの今回の授業視察で,イタリアの教育全 体の中での音楽教育の位置づけやシステムに多 くの 問題点が有ることを実感で きた。イタリアの音楽教 育 を経験 した人達が,現在の制度をどの ように考え ているかを見るために,次に,ヴェルディ音楽院の 卒業生で,今期 ミラノスカラ座のスバルテ ィー ト
8'のオーデ ィシ ョンに合格 した女性
(23歳)の イン タビューの内容 を記載する。
小学校 では,音楽の授業 はな く, 5年 間はプライベ ー トで音楽の勉 強を しました。 イ タリアの小学校 では 音楽の授業 はあ りませ ん。 中学校 で は授業 はあるけれ ど,音楽 の歴 史や リコー ダー を学 び,少 し歌 うだけ。
私 は, 3歳か ら15歳 まで,月謝 を払 って, プライベー トで合唱団に入 り, オペ ラの児童合唱で出演 を して歌 っていました。
イタリアでは,楽譜 を読めない子 どもは とて も多い。
中学校 の とき,音楽の先生 はリコー ダーがふけな くて, 私が友人 に数 えてい ま した。 国立の中学校 で は,子 ど
もた ちは音楽 の時 間に歌 を歌 わない。 子 どもた ちは, 普段軽音楽 を聴 いているので,音楽 の授 業 はつ ま らな い と思 って少旦 。現実 に,畳寒 の時間 はL休憩時間の ようになってい ます。 こんな状況 なので,歌の好 きな 子 どもと嫌 いな子 どもに別れてい ます。 た とえ歌 の好 きな子がいて も, とて も退 屈になって くるO 中学校の 音楽授業は,問題があ ります。
しか し,他 の科 目の授業 は, とて も良か った と思 っ
てい ます。国語や社会,数学 な ど全 てを行 い,音楽 の 授業 を もっ とや る と国語 な どの他の教科 を削 るこ とに な り,それは よ くない と思 います。補講 として音楽 を やってもよいですが,それ以上やることは難 しい。
私 は,音楽 は,好 きな子 だけがやれば よい とい うこ のシステムは,決 していいシステムとは思わないけれ ど, イタリアの学校はこのシステムで機能 しています。音楽 の先生 も,昔 と比べて,技能を持っていない,勉強を し ていない人が先生 になって きていると思われます。
筆者は,他 に,セス トサ ンジョヴァンニ市立音楽 学校
9'の音楽授業の視察 も行った。 これは,子 ども たちが午後通っているプライベー トの音楽学校であ る
。6名の小学生が授業に参加 し,ソルフェージュ, 楽器 ( タンバ リンやマラカスなど)使用 して, リズ ム練習 ,2 声の合唱など総合的な授業を試みていた。
女性講師のインタビューを記載する。
いつ もは音程 を とる練習 を します。発声練習 はや り ませ んが,例 えば,全音や半音がわか るような音 を と る遊 びを します。 アルペ ッジ ョを耳で聞いて練習 しま すOた とえば, リズムの書 き取 りでは,子 どもたちは す ご く速 く聞 き取 るこ とがで きます。歌 うときも音程 がわか らない といけない, またそれ を移調 で きない と いけない。 だか ら,何 も考 えないで,耳で聞いてす ぐ にかける訓練 を してい ます。簡単な ものか らしますが, 彼 らはとても好 きです。
音楽学校 では義務 としてのプログラムがあるが,楽 器 を した り,総合的 な音楽の勉強を小 さい ころか ら取 り入れてい ます。小 さい曲をcDか らとって きて書 き取 った りもします。特 に彼 らは ピアノ じゃないほかの楽 器だ と難 しいので取 り入れ ます。
楽 しみ なが ら学ぶのが 自分の メソ ッ ドで,彼 らを巻 き込んでや らせ てい る。私 自身にはいい先生がい まし た。そ して,色 々な講習会に参加 して勉強 しましたC
小学校 の1クラス (30人)の うち2か ら3人が音楽 学校 に通っていると思います。小学校 は何 もしない し, 中学校で楽器 と理論 を少 しします。 フラ ンスでは4歳 か ら大学 まで音楽の勉 強 を します。高校 までは全員が 音楽 を します。 イ タリアは最悪です。 イタリアにいた らだめで,外 に出ない といけない。 音楽研 究 も音楽文 化 もばかに されているだけ。私 たち講師 もひ どい契約 でやってい る。好 きな人 しかで きない し, どん どん悪 い状況 になっている。1990年以降はひ どくなったO私 は,電子音楽 の作 曲家ですが,活動 はで きない。誰 も 仕事 は くれ ない し, スイスや ドイツに行か なけれ ば活 動で きない。
‑ 82‑
イタリアでの国立中学校, ヴェルデ ィ音楽院児童 合 唱 クラスの視察 や教 師へ の イ ンタビュー を通 し て,小学校,高等学校 で音楽授業がない ことによっ て,次の ような深刻 な問題が生 じていることがわか った。
1.楽譜 を読めない児童生徒が多数いること一読譜 力や演奏の力が育たない。
2.
音楽 とい う教科 の位置づ けが非常 に低いこと‑教師や生徒 の意欲が育たない。
3.
音楽教室等に頼 らなければ,音楽知識が学べな いこと‑一般の児童生徒 との音楽教育の格差 を生じている。
V.
おわ りにハ ンガ リーの作 曲家であ り音楽教育者の コダーイ は,学校での音楽教育の重要性 について多 くの提言 を残 している。そのい くつかを記載す る。10'
・音楽的文盲は,音楽文化の進展 を妨げること。
・小学校の教育養成の音楽授業課程 は改善 されな ければならないこと
・音楽は学校で必修にすべ きであること。
・合唱はこどもの教育に極めて重要あること。
・6才か ら16才 までの音楽経験 が子 どもに とっ て重要であること。
・子 どもには最高の芸術性 をもった音楽作 品が与 え られなければな らないこと。
コダーイは更に,合唱指導 について次の ように明 言 している11)
。
「合唱指導 は,鍵盤 に頼 ってす るの ではな く,メ ンバーが楽譜 によって 自ら音楽 を読む ように教 えなければならない。音楽的文盲 を無 くし, 音楽文化 を高める道は,楽譜の読み書 きを通 して得られるものである。」
イタリアの状況 を考 えると,公立学校 の音楽教育 では何 をすべ きか,その 日的は何 か を再考す る必要 があると思われる。現在のイタリアの国立中学校 は,
まさにマスメデ ィアの音楽の影響 を多大 に受 け,刺 弄 されて,学校教育が担 うべ き子 どもたちの感性や 心情 の育成 の部分が取 り残 されて い るのでは ない か。中学校のわずか
3
年間の音楽教育の期 間ではた して何が成 しえるのだろうか。 イタリアの音楽 シス テムが この状態 になって久 しいが,その間に,イタ リアは音楽教育で低迷 し,楽譜が読めない子 どもた ちが多数存在す るようになった。 ヴェルデ ィ音楽院 でオペ ラ歌手 を志望するイタリア人 も減 って きてい るとい う12)。 この ような状況は,公立の小学校 に音 楽の授業が ないことも大 きな原因になっている とい えよう。日本 では,学校数教育 における音楽科 の 目標 は, 小学校 で
,
「表現及び鑑賞の活動 を通 して,音楽 を 愛好 す る心 情 と音 楽 に対す る感性 を育 て る ととも に,音楽活動の基礎 的な能力 を培い,豊かな情操 を 養 う」 とある13)。中学校 において も概ね同 じ目標が 掲 げ られている。学習指導要領 には,子 どもたちの 音楽的な感受性 を育成す るためには,美 しい ものや 崇高 な ものに感動す る心 を育て ようとす ることであ ると記載 されている。す なわち,表現や鑑賞 におい て,個 々の児童生徒が音の質や音楽の豊か さを感 じ とれる力 を育てることが感受性 を広げてい くことに つなが るのではないだろうか。そのためには,幼少 か ら思春期 にかけての小 中学校の時期 に,学校教育 の場 であるか らこそで きる音楽 を厳選 し,児童生徒 に提示す る必要があるのではないか。日本で も,音楽科 の削減が危倶 される状況である ことか ら,音楽科 の存在意義を再考 し,小 中高の音 楽教育の連携や学校教育で養 うべ き音楽の基礎能力 を育成す るための指導法 開発 な ど早急 な推進が求め られ よう。
註
1
) 3年 に 1度 開催 され る世界合 唱の祭典。2008 年 には第8回が オランダのアムステルダムで開催された。
2) 2005年 に京都 で開かれた第 7回世界合唱 シ ン ポジウム 「世界合唱の祭典 ・京都」で も多様 な声 や表現 による演奏が多 く見 られた。
3)虫明異砂子
,
「学校教育 における合唱教育の在 り方 と発 声 の 捉 え方 」, 日本 声 楽 発 声 学 会 誌 (2009)等 を参照 されたい。4)sc uol amedi as t a t al è ̀ Be ne de t t oMa r ce l l o"di Mi l a no:Vi aCons t a nt1 9, Mi l a no
5)
sc uol ame d i as t a t a le" Ca r l oPor t a"diMi l a no:
Vi aMoi s とLor ia3 7 , Mi l a n0
6) イタリアでは,小学校 5年間,中学校 3年 間が 義務教育である。
7)
cons er va t or i o" G. Ver di "diMi l a no,Cor s odi c or odel l evoc ibi a nc he:Vi aCons e r va t or i o1 2 ,
Mi l a no
8
)オペ ラの上演のため,オペ ラをピアノと声楽用 に編 曲 した楽譜 を弾いて,歌手 を育成す る職業。9 ) ci vi ca scuol a dimusi ca diSes t o Sam Gi ovanni: Pi az z a Ol dr i ni1 20,Ses t o Sam Gi o va m i ( MI )
10)フォライ・カタリン セ一二 ・エルジェ‑ベ ト,
『コダーイシステム とは何か』,全音出版社
,1 9 7 4
, pp.43‑48を参照 した。虫明鼻砂子
ll)上掲書10),p46. 13)『小学校学習指導要領解説音楽編』,文部科学省,
1 2)
ヴェルデ ィ音楽院声楽教 師soni aTur uc he t t a 氏
2008,p7.へのイ ンタビューによる。