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超高密度波長多重伝送方式を用いた 高性能光ネットワーク

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(1)

超高密度波長多重伝送方式を用いた 高性能光ネットワーク

Advanced Optical Networks Employing

Super-Dense Wavelength Division Multiplexing Transmission Method

2008年 2月

鈴 木 裕 生

(2)

<目次>

1. 序論 ... 1

1.1. 光ファイバ通信技術の進展 ...1

1.2. 光多重化技術の進展 ...4

1.3. 本論文の位置づけ ...8

1.4. コアネットワークにおける課題 ...10

1.5. メトロネットワークにおける課題 ...20

1.6. アクセスネットワークにおける課題 ...23

1.7. 本論文の概要と構成 ...25

2. 超高密度波長多重伝送方式... 27

2.1. はじめに ...27

2.2. 適用領域 ...29

2.2.1. 設計指標...29

2.2.2. 光ファイバ伝送におけるシミュレーション手法...32

2.2.3. シミュレーション...35

2.2.4. 超高密度化の利点と要素技術...40

2.3. 多波長光源 ...41

2.3.1. 多波長光源のねらいと適用領域...41

2.3.2. 原理と構成...44

2.3.3. プロトタイプと仕様...46

2.3.4. 波長・光パワー安定性...50

2.4. 波長間隔 12.5 GHZテラビット伝送実験 ...57

2.5. まとめ ...65

3. 零分散領域での波長多重伝送における分布ラマン増幅の効果 ... 66

3.1. はじめに ...66

3.2. 分布ラマン増幅を適用した WDM 伝送システム構成 ...67

3.3. 分布ラマン増幅の基本特性 ...68

(3)

3.3.1. 雑音特性...68

3.3.2. 光ファイバ内でのパワー分布...72

3.3.3. 種々の光ファイバにおけるラマン利得係数...74

3.3.4. 所要励起光パワー...76

3.4. 分布ラマン増幅を用いた波長多重伝送システム設計 ...77

3.4.1. 利得飽和...79

3.4.2. 多波長励起による分布ラマン増幅の広帯域化...85

3.4.3. ファイバ入力パワー低減による四光波混合の抑圧効果...87

3.4.4. シミュレーション...89

3.5. 分散シフトファイバの零分散領域におけるテラビット伝送実験 ....91

3.6. まとめ ...97

4. 超高密度波長多重メトロリングネットワーク ... 99

4.1. はじめに ...99

4.2. 提案するリングネットワーク構成と特長 ...100

4.3. タップ型光分岐挿入装置 ...104

4.3.1. 基本構成...104

4.3.2. 冗長機能...107

4.3.3. 利得制御機能...110

4.4. 設計指針とシミュレーション ...114

4.5. プロトタイプ ...121

4.6. 実験的検証 ...123

4.6.1. スパンロス変動に対する自動利得制御...123

4.6.2. リングネットワーク上での超高密度波長多重伝送実験...125

4.7. まとめ ...128

5. パワースプリッタ網を活用した波長多重アクセスネットワーク ... 129

5.1. はじめに ...129

5.2. 次世代光アクセスへの要求条件と技術課題 ...130

5.3. カラーレス技術 ...135

5.3.1. スペクトルスライス方式...136

(4)

5.3.2. 波長供給方式...140

5.3.3. 波長可変方式...143

5.3.4. パワースプリッタ網への適用性...145

5.4. プラグアンドプレイ機能 ...147

5.4.1. 遠隔自動波長設定アルゴリズムの動作原理...148

5.4.2. 実験的検証...153

5.5. まとめ ...155

6. 結論 ... 156

謝辞 ... 162

参考文献 ... 164

著者の発表論文リスト ... 170

(5)

1. 序論

1.1. 光ファイバ通信技術の進展

現代社会において、通信技術は身近で、欠くことのできない要素技術である ことは周知の通りである。20 年前には、通信といえば、固定電話(音声)で あった。通信技術は、近年著しい成長を遂げ、デジタル化が進み、音声のみの やり取りからから、映像等の莫大なデータ量を転送するデータ通信へと移行し た。

音楽配信やビデオオンデマンド、インタラクティブ型ゲームや遠隔医療な ど、莫大なデータ量を扱うアプリケーションも現実のものとなりつつある。こ のようなデータ通信を用いることにより、家にいながらショッピングを楽しん だり、電子メールやワールドワイドウェブ(WWW: World Wide Web)を介して、

世界中の人々とより快適なコミュニケーションを行うことが可能となった。

このような莫大なデータ通信を支える技術が光ファイバ通信技術である。光 ファイバ通信は 1970 年に端を発し、米ベル研究所による GaAs の半導体レーザ の室温連続発振[1]、および、米コーニング社による伝送損失 20 dB/km の低損 失光ファイバ製造[2]によってその途が拓けた。以来、光ファイバ通信技術は 絶え間なく大きな進展を遂げている。

図 1-1 に、日本における光ファイバ伝送システムの大容量化の進展について 示す。1980 年代には、長距離用光ファイバとして、マルチモードファイバか ら、シングルモードファイバ(SMF: Single Mode Fiber)[3]へと移行した。

これは、光ファイバ中を伝播する光のモード分配雑音による伝送距離制限を改 善するためである。さらに、光ファイバの低損失帯である 1550 nm 帯での高速 伝送に適した分散シフトシングルモードファイバ(DSF:Dispersion-Shifted Single Mode Fiber)が実用化された。現在、その損失値は、1550 nm 帯におい て、0.25 dB/km 以下にまで低減されている。また、光源においては、安定的

(6)

に単一モードで発振する分布帰還型半導体レーザ(DFB-LD: Distributed Feedback Laser Diode)[4]が開発され、実用化された。

1989 年には、光信号を電気に戻すことなく、増幅し伝達するエルビウム添 加光ファイバ増幅器(EDFA: Erbium-Doped Fiber Amplifier)を用いた長距離 伝送実験が報告された[5]。この報告を契機に、その実用性が一気に高まり、

以来光ファイバ増幅器の研究開発が加速していくこととなった。1990 年代に は、光ファイバ増幅器は実用化され、光信号をより遠くへ、より経済的に伝達 することが可能となった。このような光ファイバ増幅器を用いた光中継器(線 形光中継器と呼ぶ)を用いることにより、経済的な大容量バックボーンネット ワークが構築された。国際電話料金の低廉化やインターネットの普及が急進し たことも、このような光ファイバ通信技術の発展に支えられたものと考えるこ とができる。

しかしながら、インターネット等によるデータトラヒックの急激な増大は著 しく、もはや単一チャネルの高速化だけでは追いつかないため、1990 年代後 半から本格的に導入されたのが、波長分割多重(WDM:Wavelength Division Multiplexing)技術である。以来、WDM 技術は、大容量光ファイバ伝送に不可 欠な技術となっている。

(7)

Bandwidth (Mbit/s) x Regenerative repeater spacing (km)信号速度(Mbit/s)×再生中継器間隔(km)

(年)

1033

10

102 102 1044

10 1055

10 1066

10 1077

10 1088

10

F-6M F-100M

F-400M FS-400M

F-1.6G FS-1.8G

32M 100M 400M

F-32M 100M

800M

2G 1.8G445M 1.8G

10G

20G

32M

F-2.4G 17G

100G FSA FA-10G

1975 1980 1985 1990 1995 2000

200G 2.5G

10G 100G

実験システム 実用化システム

109

1.4T 160G

Wave Star Flash Wave

Sentry Spectra Wave

3T 1T

500G 640G

1010 1T

3.2T Wave Star Spectra Wave Flash Wave

10.9T 3.1T

2.4T3T

WDM 光増幅器 1.55μm分散シフトファイバ

1.3μmシングルモードファイバ DFBレーザ

Key

Technology

図 1-1 日本における光ファイバ伝送大容量化の進展

(8)

1.2. 光多重化技術の進展

光ファイバ通信技術を支える光多重化技術は、時分割多重(TDM: Time Division Multiplexing)技術と WDM 技術である。まず最初に、TDM 技術につい て説明する。図 1-2 に、TDM 技術の概念図を示す。TDM 技術とは、生成した光 パルスを時間軸上で束ね、多重化する技術である。したがって、1 波長あたり の伝送速度を高速化する上では、短パルスの生成技術や高速電子回路技術が必 要となる[6]。

ここで、デジタル信号の光変復調技術について簡単に要点を述べておく。光 デジタル変調とは、光に”1”、”0”の情報をのせることである。変調には、

光の強弱を利用する強度変調(IM: Intensity Modulation)、光の位相を変化 させる位相変調(PM: Phase Modulation)、光の周波数を利用する周波数変調

(FM: Frequency Modulation)の 3 つがある。受信器構成が簡単になることか ら、通常 IM が使われることが多い。

また、陸上システムにおいては、伝送路符号として、”1”が連続する際に 一旦”0”に戻さない Non Return-to-Zero (NRZ)が多くの場合採用されている。

このような IM で NRZ 符号を生成するには、大別して外部変調と直接変調の 2 つがある。外部変調とは、連続発振しているレーザの外部に、光変調器を配置 し、その強弱を変化させることにより、”1”、”0”の光信号を生成する方法 である。結晶の電気光学効果を利用した LiNbO3(LN)変調器[7]や、吸収端の移 動を利用した電界吸収型(EA: Electro Absorption)変調器[8]が、長距離伝 送用に用いられている。一方、直接変調とは、レーザの駆動電流を制御し て、”1”、”0”を生成する方法である。駆動電流を変化させることにより、

変調スペクトルが広がってしまうことから長距離伝送には不向きであるが、光 変調器を必要とせず経済性に優れているため、アクセスネットワークで主に採 用されている。

次 に 復 調 に つ い て 説 明 す る 。 復 調 と は 、 光 信 号 を 電 気 信 号 に 変 換 し、”1”、”0”の情報を取り出すことである。IM 信号の復調には、通常、

直接検波(DD: Direct Detection)が用いられる。これは、1 パルスごと、す

(9)

なわち各ビットごとに、ある閾値レベルより値が大きいか小さいかを判定する ことにより、”1”、”0”を識別する方法である。光を電気に変換する受光器 としては、フォトダイオード(PD: Photo Diode)やアバランシェ増倍を利用 し受光感度を高めたアバランシェフォトダイオード(APD: Abalanche Photo Diode)が用いられる[9]。

40 Gbit/s の場合

100110100110100110100110

1 0 0 1 1 0

10 Gbit/s の場合

光ファイバ

光ファイバ 高速化

時間 時間

図 1-2 TDM 技術の概念図

(10)

一方、WDM 技術とは、1 本の光ファイバに波長の異なる光信号を多重化する 方法である。概念図を図 1-3 に示す。1 波長当たりの伝送速度が小さくとも、

数多くの波長を多重化することにより、大容量伝送を実現できるという特徴が ある。WDM では、波長軸上に光信号を束ねるため、光源の波長安定化技術や波 長を束ねる、あるいは分離する波長合分波回路などの要素技術が新たに必要と なる。近年、光技術は成熟しつつあり、レーザにおいては、波長ロッカ内蔵の DFB-LD[10]が開発され、波長の安定性も向上し、波長間隔を狭めて多重数をあ げられる可能性が出てきたこと、また、狭波長間隔の光信号を合分波する小型 で低損失なプレーナ光回路(PLC: Planar Lightwave Circuit)[11]の進展や、

高出力かつ広帯域な光増幅器[12]の開発など、WDM 伝送を取り巻く状況が変わ ってきた。

光ファイバ

多波長化

光ファイバ

波長

図 1-3 WDM 技術の概念図

(11)

以上のように、超高密度 WDM 伝送を実現するための要素技術が揃ってきた。

また、外部状況として、光技術の成熟とともに経済化が進み、バックボーンネ ットワークだけでなく、加入者と通信事業者とを結ぶアクセスエリアにおいて も、光加入者数が 900 万世帯を超えるなど、長距離伝送から各家庭へのアクセ スラインに至るまで、すべてのネットワークが光ファイバによってつながり、

まさに本格的な光時代の幕開けを迎えている状況である。

WDM 伝送は、大容量化が可能であることに加えて、異なる波長は完全に独立 であることから、波長毎に異なるサービスを提供できる、波長情報を利用した ノード処理やネットワーク管理ができる、などの特長も有している。こうした 特長は、将来へ向けたより柔軟なネットワーク創出への一助となることから、

WDM 技術は、コアネットワークからアクセスネットワークまで、いまや光ファ イバ通信になくてはならない不可欠な技術となっている。

(12)

1.3. 本論文の位置づけ

本論文は、WDM 技術を用いた陸上系光ネットワークに関する研究である。具 体的には、波長帯域をより有効に活用するという視点から、高密度に波長を多 重化し、超多波長を活用した光ネットワーク構成について検討を行う。コアネ ットワークからアクセスネットワークまでを対象に、超高密度波長多重伝送方 式およびそれに適した光ネットワークを提案し、有用性および実現性を明らか にする。

図 1-4 に、日本における光ネットワークの構成と本研究の対象領域を示す。

想定する光ネットワークは、上位から、コアネットワーク、メトロネットワー ク、アクセスネットワークに大別される。

コアネットワークは、例えば東京-大阪間など、総伝送距離数百 km 規模の、

県間を接続する光ネットワークである。中継間隔は約 80 km であり、光ファイ バ増幅器を線形光中継器として配備した、多中継系のポイントツーポイント光 ネットワークを想定している。

メトロネットワークは、同一県内の地域系光ネットワークである。ユーザを 効率的に収容するため、多地点をリング状(リング長:数百 km)に接続する 場合が多い。したがって、メトロエリアでは、光ファイバ伝送路から光信号を 分岐し、新たに光信号を挿入する光分岐挿入装置(OADM: Optical Add/Drop Multiplexer)を用いたリングネットワークを研究対象とする。

アクセスネットワークは、収容局と加入者とを結ぶ数十 km 程度の光ネット ワークである。アクセスエリアでは、ファイバー・ツー・ザ・ホーム(FTTH: Fiber To The Home)の一般的な形態である、ポイントツーマルチポイントネットワー クを想定する。すなわち、1 つの局内装置と多数の加入者装置とをパワースプ リッタを介して接続する、スター型のパッシブオプティカルネットワーク

(PON: Passive Optical Network)構成を研究対象とする。

(13)

収容局

集約局

収容局

収容局 集約局

アクセス ネットワーク

メトロ ネットワーク

FTTH

ポイントツーポイントネットワーク

(第2章・第3章)

リングネットワーク (第4章)

スター型 ネットワーク

(第5章)

コア ネットワーク

図1-4 日本における光ネットワークの構成と本研究の対象領域

(14)

1.4. コアネットワークにおける課題

コアネットワークで用いられる、多中継系ポイントツーポイント WDM 伝送シ ステムの基本構成を図 1-5 に示す。送信部、受信部、光ファイバ伝送路からな り、光ファイバ損失を光増幅器で補償し、光信号を伝達する構成である。送信 部は、波長安定化された光源、光変調器および波長合波器からなり、複数の波 長の異なる光信号を合波し、伝送路へ送出する。一方、受信部は、波長分波器 と光受信器からなり、光ファイバ中を伝播してきた WDM 信号をそれぞれの波長 に分波し、受信する。このような WDM 伝送においては、種々の要因により、伝 送品質が劣化する。

LD 1 LD 2

LD n

変調器 受信器

光増幅器

(光ファイバの 損失を補償)

合波器 伝送路 分波器

(光ファイバ)

WDM伝送 変調器

変調器

受信器

受信器

送信部

0 1 0 1 0

t t

雑音付加・波形劣化

受信部

図1-5 WDM 伝送システムの基本構成

(15)

WDM 伝送における主要な信号劣化要因を図 1-6 に示す。以下、それぞれの劣 化要因について、要点をまとめる。

• 光増幅器での雑音付加

• 光ファイバの波長分散

• 光フィルタリングによる信号劣化

• 光ファイバの非線形光学効果(入力パワーが大きいほど顕著)

• 受信器での回路雑音

雑音量は光ファイバの損失に比例

t t

t t

λ1 λ2

光ファイバ

光ファイバ

t t

雑音

波形劣化

信号対雑音比(SNR)の劣化 光増幅器

t t

図1-6 WDM 伝送における信号劣化要因

(1)光増幅器雑音

光増幅器で発生する自然放出光(ASE: Amplified Spontaneous Emission)

雑音[13]が光信号に付加されることにより、伝送品質が劣化する。これは光信 号が雑音に埋もれてしまうためであり、その度合いは一般に信号パワーと雑音 パワーの比である信号対雑音比(SNR: Signal to Noise Ratio)で表される。

第 2 章以降で詳しく述べるが、多中継伝送で用いられる EDFA では、発生する 雑音量は光増幅器の利得、すなわち光ファイバ損失に比例する。したがって、

その損失値が大きいほど雑音量が増加し、特に多中継時には、光増幅器が多段 に接続されることから雑音が累積されることとなる。したがって、SNR の観点 からは、ASE 雑音の影響を低減するため、信号光パワーをできるだけ大きくす ることが望ましいことになる。

(16)

(2)光ファイバの波長分散(CD: Chromatic Dispersion)

波長分散[9]とは、光の波長により 進む速度が異なる現象であり、一般に ps/nm/km という単位で表される。これは、1 nm のスペクトル幅をもつ信号が、

1 km 進んだ時に発生する遅延差を意味する。信号スペクトルは、一般に伝送 速度に比例したスペクトル幅を有することから、高速な信号ほど波長分散の影 響を受けやすく、波形広がりが生じるため、”1”、”0”の識別が困難になる という問題がある。光ファイバ種別と波長分散の関係を示すと図 1-7 のように なる。光ファイバの低損失帯である 1550 nm 帯における SMF の分散値は、16 ps/nm/km 程度であり、DSF では高速伝送向けにその値がほぼ 0 となるように設 計されている。つまり、波長分散の影響は、DSF ではほとんど無視でき、SMF で顕著に現れることとなる。また、このような波長分散による劣化の度合いは、

1. 光ファイバの分散値に比例 2. 伝送距離に比例

3. 伝送速度の 2 乗に比例

する。したがって、伝送速度を低く抑えたまま、大容量化を可能とする WDM 伝送は、単一チャネルの高速化と比べると、波長分散による伝送劣化に強い伝 送方式と捉えることができる。

(17)

損失(dB/km)

波長 (nm) 0.1

0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8

0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8

1200 1300 1400 1500 1600 1700

1200 1300 1400 1500 1600 1700

L U

S E

0

分散値(ps/nm/km)

分散シフトシングル モードファイバ(DSF)

C シングルモード

ファイバ(SMF)

バンド定義

図 1-7 光ファイバ種別と波長分散との関係

(3)光フィルタリング

上記の(1)および(2)が、TDM と WDM 共通の課題であることに対し、(3) は、WDM 特有の劣化要因である。光信号の合波および分波は、光フィルタであ る波長合分波器を介して行うため、その際に劣化が発生する可能性がある。例 えば、信号スペクトル幅に比べて狭い透過帯域の光フィルタを使用した場合、

あるいは光源の波長安定度が悪い場合には、信号成分が光フィルタにより削り 取られてしまい、波形歪をもたらすこととなる。また、波長合分波器の不完全 性に起因して、隣接チャネルから強い光が漏れこむと、クロストークとなり、

伝送劣化をもたらす可能性もある。これは、特に高密度化する際には影響が大 きくなると考えられる。

(4)光ファイバの非線形光学効果

光ファイバの非線形光学効果[14]は、光の強度に比例して、光ファイバの屈 折率が変化する現象である。この現象は、ガラスの感受率の 3 次項による効果 であり、信号光パワーが大きい場合に顕著に現れ、様々な影響を引き起こす。

(18)

まず、信号光が自分の強度変化により周波数変動を受けてしまう。この効果を 自己位相変調(SPM: Self Phase Modulation)という。SPM は、光パルスの立 ち上がり、立ち下がりの周波数変動と重畳して、波長分散を通して波形劣化を 引き起こすこととなる。さらに WDM 化した場合には、他のチャネルの強度変化 により、同様に周波数変動を受けてしまう。この効果を相互位相変調(XPM:

Cross Phase Modulation)といい、同様に波長分散を通して波形劣化を引き起 こす。

また、WDM 伝送時には、周波数の異なる 3 つの信号光から、新たに別の周波 数の光が発生する、四光波混合(FWM: Four-Wave Mixing)[15]という現象が 生じ、伝送特性を劣化させる。以下 FWM について詳細に説明する。

周波数 fifjfkにより新たに発生する四光波混合光の周波数 fijkは次の関 係が成り立つ。

k j i

ijk f f f

f = + − (i,j≠k) (1-1)

したがって、この新たに発生した FWM 光と信号光が同一周波数であった場 合、FWM 光はクロストークとなり、伝送特性が著しく劣化することとなる [16,17]。等間隔に配置された 3 チャネルの光信号より発生する FWM の様子を 図 1-8 に示す

f113 f112f123 f213

f231 f321 f332 f223 f132 f331

f312

f221

CH1 CH2 CH3

光周波数 図 1-8 等間隔に配置された 3 チャネルの光信号より発生する FWM 光

(19)

図 1-8 に示されるように、CH1 の低周波数側、あるいは CH3 の高周波数側に 等間隔に配置された信号光がある場合、信号光と FWM 光であるf113、f213、f123、 f112、f332、f321、f231、f331とが重なることとなり、干渉雑音により著しい信号劣 化が生じる。

FWM 光の発生パワーPijkは、周波数 fifjfkに相当する光ファイバへの入 力光のパワーをそれぞれPiPjPkとすると、下記のように表される[15]。

( )

η

α χ

λ

π α α

2 - 2 -

2 3 2 2 4

6 1

1024 L L

k j i eff ijk

e e P P A P

D c

P n

= (1-2)

ここで、nは光ファイバの屈折率であり、λは波長、cは真空中の光速度、Aeff は光ファイバ実効断面積、L は光ファイバ長である。D は、 fifjfkのとき

=6

D fi = fjfkのときD=3をとる縮退係数である。χ3は 3 次の非線形感受 率である。ηは FWM 光の発生効率であり、位相不整合量Δβを用いて次のよう に表される。

( )

( )

⎢⎢

− + Δ

Δ

= + 2

- 2 - 2

2 2

1

2 / sin

1 4

L L

e L e

α

α β

β α

η α (1-3)

( )

fi β(fj) β(fk) β(fijk) β

β = + − −

Δ (1-4)

ここで、βは伝播定数である。式(1-3)から、FWM の発生効率ηは、Δβが零 になった場合に最大 1 となることがわかる。また、式(1-2)から、信号光パ ワーが大きいほど、FWM の発生効率も大きくなることがわかる。また、位相不 整合量Δβは、式(1-4)において伝播定数βをある周波数 f0の近傍でテイラ

(20)

ー展開し、4 次以上の項を無視した上で、ファイバの分散Dcを使って整理する と次のように表される。

( ) ( ) ( )

⎭⎬

⎩⎨

⎧ +

=

Δ 2 0 42 2 0 0

) )(

(

2 f

d f dD c D

f f f f f c D

c c

k j k i

c λ λ

π λ π

β λ

{

(fif0)+(fjf0)

}

(fifk)(fjfk)

× (1-5)

信号光波長が光ファイバの零分散波長から離れている場合、式(1-5)の第 2 項は、第 1 項に比べて微小項となり、Δβは次のように書くことができる [15]。

) )(

( 2

2

k j k i

c f f f f

c D − −

=

Δβ λ π (1-6)

式(1-6)より、分散値が小さいほど、また波長間隔が狭いほど、Δβは 0 に近 づき、FWM の発生効率が大きくなることがわかる。

一方、信号光波長が光ファイバの零分散波長の極めて近傍である場合には、

式(1-5)の第 1 項は 0、もしくはほとんど 0 となるため、第 2 項を無視する ことができない。そこで式中のf0を零分散周波数に選ぶと、Dc

( )

f0 =0となり、

式(1-5)を次のように書き換えることができる[16]。

( )

{

0 ( 0)

}

( )( )

2 4

k j k i j

i

c f f f f f f f f

d dD

c − + − − −

=

Δ λ

π

β λ (1-7)

λ d

dDc/ は f0における分散スロープ(分散の波長微分)を表す。式(1-7)か ら、 fif0 =−(fjf0)という関係が満たされると、常にΔβ=0 となることが

(21)

わかる。このことは、 fifjとが零分散波長をはさんで対称的な周波数位置 にあると、常に位相整合条件が満たされ、四光波混合光が効率よく発生するこ とを意味している。また、式(1-6)と同様、波長間隔が狭いほど、Δβは 0 に近づくことがわかる。

以上まとめると、FWM の発生効率に関しては、

1.零分散領域ほど発生効率が増大

2.波長間隔が狭いほど、発生効率が増大

3.信号光パワーが大きいほど、発生効率が増大

という性質をもつことがわかる。したがって、上記 1 から FWM の影響は、1550 nm 帯を使用する場合には、SMF より DSF で顕著に現れることとなる。また、上 記 2 から、超高密度 WDM 信号を伝送する際には、FWM が伝送劣化の支配的要因 となる可能性が高いと推測される。さらに、上記 3 から、FWM を抑圧するには、

信号光パワーをできるだけ小さくすればよいことがわかる。しかしながら、そ れは一方で、SNR を劣化させ、ASE 雑音に対する耐性を弱めてしまうこととな る。すなわち、SNR の向上と非線形光学効果抑圧とはトレードオフの関係にあ り、光ファイバへの入力パワーの最適化が重要なシステム設計パラメータとな る。

最後に、誘導ラマン散乱(SRS: Stimulated Raman Scattering)[9]につい て触れておく。SRS は媒質の格子振動により発生する散乱現象である。異なる 波長のふたつの光が光ファイバを伝播する際に、短波長側の光のエネルギーが 光ファイバの光学フォノンを励起して失われ(ラマン散乱)、長波長側の別の 光に誘導的にエネルギー移行が生じる効果である。光入力パワーが増大するに つれ、散乱光の位相が揃い、入力光より長波長側において、光増幅作用をもた らす。概念図を図 1-9 に示す。図 1-9 では、信号光に対して短波長側に光を入 力した場合を図示している。SRS によりパワー移行が起こり、入力光パワーは

(22)

減少(ポンプディプレッションと呼ぶ)し、信号光パワーは増大する。入力光 が第 3 章で述べるように励起光の場合には、分布ラマン増幅器として、信号光 の伝送特性を改善する。入力光もまた、信号光であった場合には、短波長から 長波長へのパワー移行が発生し、短波長側の信号光の伝送特性が劣化すること となる。

波長 励起光もしくは

信号光(CH1) 信号光(CH2)

~100 nm 波長 効 率

誘導ラマン散乱

増大 減少

図 1-9 誘導ラマン散乱の概念図

(23)

(5)光受信器の回路雑音

受信回路においては、熱雑音の影響を無視することはできない。抵抗器内部 の電子は、熱によって運動しており、その方向や速度はランダムである。電子 の運動の大きさは温度に比例し、そのランダムな運動が雑音電流を発生させ る。また、暗電流によるショット雑音も信号の受信感度を劣化させる要因とな る。これら受信回路に付随する回路雑音は、受信回路への信号光パワーが低い 場合に、支配的な劣化要因となる。

このように、WDM 伝送においては、種々の劣化要因があり、それらをすべて 考慮して、システム設計を行う必要がある。特に、SNR の向上と非線形光学効 果の抑圧とは、トレードオフの関係にあるため、システム設計をする上では、

最適なファイバ入力パワーの決定が重要な要素となる。また、高密度化する上 では、数多くの光源を狭波長間隔で配置する必要が生じるため、光源の波長安 定化および小型化も重要な課題となる。支配的となる劣化要因は、使用する光 ファイバ種別や光ネットワーク構成によって異なる。例えば、SMF を用いたポ イントツーポイントネットワークにおいては、(2)の分散劣化の低減が主要な 課題であり、DSF においては、(4)の非線形光学効果のひとつである FWM の抑 圧が最大の課題となる。前者に対する解決策を第 2 章で、後者に対する解決策 を第 3 章で述べる。

(24)

1.5. メトロネットワークにおける課題

メトロネットワークは、多くの場合リング状に形成される。このようなリン グネットワークの基本構成を図 1-10 に示す。ひとつのセンターノードと複数 のリモートノードからなる構成である。各リモートノードは、それぞれアクセ スネットワークと接続されており、各アクセスエリアのトラヒックを収容す る。メトロリング内のトラヒックはセンターノードに集約され、センターノー ドを介してコアネットワークへと送り出される。このようなメトロリングネッ トワークにおいては、コアネットワークと同様に高信頼性が求められる。また、

初期導入コストを低減し、トラヒック増にあわせて柔軟にノード数や伝送容量 を拡大できるスケーラブルな構成が要求される。

アクセス ネットワーク

アクセス ネットワーク アクセス

ネットワーク アクセス ネットワーク コアネットワーク コアネットワーク

アクセス ネットワーク

アクセス ネットワーク

メトロリングネットワーク

センター ノード

リモート ノード リモート

ノード リモート

ノード

•スケーラビリティ

–伝送速度(> 1 Gbit/s) –ノード数

–伝送距離 etc.

•初期導入コスト

•高信頼性

現用ファイバ

予備ファイバ

図 1-10 リングネットワークの基本構成

(25)

リモートノードで用いられる光分岐挿入装置(OADM: Optical Add/drop Multiplexer)構成例を図 1-11 に示す。本構成例は、波長分波器、光スイッチ、

波長合波器、光増幅器からなる構成[18]である。信号の入力側に配置される波 長分波器により、WDM 信号を波長ごとに分離し、光スイッチにより光信号を分 岐あるいはそのまま透過させる。一方、同様に光スイッチを介して、波長ごと に光信号を挿入し、波長合波器で多重化して伝送路へ送り出す構成である。

分岐 挿入

光増幅器 光増幅器

分岐用

光スイッチ

通過

波 長 分 波 器

波 長 合 波 器 挿入用

光スイッチ

光スイッチ部

伝送路

図 1-11 従来の OADM 構成例

(26)

このような OADM 構成では、リング内に収容するノード数が増えると、波長 合分波器を通過する回数も増加する。例えば、k 番目のノードで分岐される信 号光は、2k回波長合分波器を通過している。したがって、波長合分波器を多 段接続した場合、透過スペクトル幅は狭くなっており、わずかな波長ずれに対 しても、前節(3)で述べた光フィルタリングの影響で信号が劣化することと なる[19]。

図 1-12 にその様子を示す。例えば、波長合分波器の光フィルタ形状をガウ ス型とした場合、波長合分波器を通過するたびごとに、その透過帯域幅は狭窄 化される。これは、光源の波長安定度に、より厳しい要求条件を与えることに なる。したがって、ノード数の拡大および波長間隔の高密度化を実現する上で は、光フィルタリングによる波形劣化を低減できる OADM 構成法が課題となる。

本課題を解決する、超高密度 WDM リングネットワーク構成について、第 4 章で 述べる。

2段接続時 m段接続時

1段

必要となる光源の 波長安定度

信号スペクトル 光フィルタの透過 スペクトル

光源

周波数f 周波数f 周波数f

図 1-12 OADM の多段接続時の問題点

(27)

1.6. アクセスネットワークにおける課題

アクセスネットワークは、特に、経済性が強く要求される。そのため、ひと つの収容局内装置を複数のユーザで共有する、パワースプリッタを用いたスタ ー型構成が主流である。パワースプリッタとは、給電を必要とせず、光パワー を複数の出力ポートへ分配する光受動素子である。図 1-13 に、パワースプリ ッタを用い、このようなポイントツーマルチポイント伝送を実現する PON 構成 を示す。ひとつの光端局装置(OLT: Optical Line Terminal)に、ユーザ宅に 配置する光終端装置(ONU: Optical Network Unit)が複数接続される構成で ある。経済化を図るため、伝送路を共有化し、また各ユーザからの上り信号は 時間軸上で多重化される時分割多重アクセス(TDMA: Time Division Multiple Access)方式[20]を用いている。

OLT:Optical Line Terminal 光ファイバ

パワースプリッタ ユーザA

下り信号

収容局

上り信号

ONU:Optical Network Unit ユーザB

ユーザC

ONU

ONU

ONU

OLT

図 1-13 PON 構成

(28)

日本において近年導入されたギガビットイーサネット(Gigabit Ethernet) PON (GE-PON)[21]の概念図を図 1-14 に示す。1310 nm の上り波長、1490 nm の下り波長、1550 nm の映像分配用下り波長(オプション)の 3 波長を用い、

パワースプリッタを介して最大 32 ユーザを収容(収容局内で 4 分岐、所外で 8 分岐)する構成である。上り、下りとも伝送速度は 1 Gbit/s であるが、上 りは帯域を共有化しているため、1 ユーザ当たりの平均帯域は 30 Mbit/s 程度 となる。光ファイバ網の更改には、莫大な時間・コストが必要となる。したが って、このような既存のパワースプリッタ網を変更することなく、既存の PON システムと共存可能で、さらなる大容量化を実現する光伝送方式の確立が課題 である。また、保守運用性向上や迅速なサービス開通を実現するサービス即応 化もアクセスネットワークにおける課題となっている。これらの課題を解決す る光アクセス技術について、第 5 章で述べる。

収容局

OLT Optical fiber

Power

splitter Power

splitter ONU

V-ONU

V-OLT ONU

V-ONU ONU V-ONU

Wavelength WDM(Wavelength- division multiplexing) 1.31 μm 1.49 μm video1.55 μm

V-OLT Video-distribution optical line terminal

V-ONU Video-distribution optical network unit

OLT Optical line terminal ONU Optical network unit

1 Gbit/s shared

1.31 μm

1.49 μm 1.55 μm ユーザ

8分岐 4分岐

図 1-14 GE-PON 構成

(29)

1.7. 本論文の概要と構成

本論文の概要は以下のとおりである。第 1 章では、研究背景と本論文の位置 づけ、および課題について述べる。

第 2 章では、SMF を用いたポイントツーポイントのコアネットワークを前提 に、分散補償を不要化する、多波長光源を用いた超高密度 WDM 伝送方式を提案 する。これまで体系的に明らかにされていない超高速システムに対する優位性 や適用領域、システム設計指針を示し、伝送実験により、その実現性を実証す る。

第 3 章では、DSF の零分散領域(1550 nm 帯)を対象に、分布ラマン増幅(DRA:

Distributed Raman Amplification)を適用した WDM 伝送方式を提案する。FWM を効果的に抑圧し、超高密度化が可能となることをシミュレーションおよび実 験の両面から明らかにする。

第 2 章、第 3 章では、ポイントツーポイントネットワークを対象に、超多波 長を扱う上で基本となる超高密度 WDM 伝送方式について述べるが、第 4 章、第 5 章では、他のネットワークトポロジーへの展開を考える。

第 4 章では、メトロリングネットワークを対象に、超高密度化に適したタッ プ型 OADM 構成を提案する。システム設計指針を示し、プロトタイプによる伝 送実験を行うことにより、その実現性およびシミュレーションモデルの妥当性 を検証する。

第 5 章では、アクセスネットワークへ視点を移し、既存のパワースプリッタ 網をそのまま活用でき、他の PON システムと共存可能で、帯域を飛躍的に拡大 する WDM アクセス方式を提案する。高い保守運用性やサービス即応化を可能と する、カラーレス方式およびプラグアンドプレイ機能を提案し、実験的検証を 行うことにより、その有用性を示す。

最後に第 6 章で本論文を総括し、今後の展開についてまとめる。以上が本論 文の概要である。本論文の構成を図 1-15 に示す。

(30)

第6章 結論 第1章 序論

第2章 超高密度波長多重 伝送方式

第3章 零分散領域での波 長多重伝送における分布

ラマン増幅の効果

第4章 超高密度波長多重 メトロリングネットワーク

第5章 パワースプリッタ網 を活用した波長多重アクセ

スネットワーク

図 1-15 想定する光ネットワークの構成と本研究の対象領域

(31)

2. 超高密度波長多重伝送方式

2.1. はじめに

WDM 技術を用いた光伝送システムにおいて、更なる大容量化を図るためには、

大きく分けて次の 3 つのアプローチがある。

(1) 使用波長帯域を拡大すること(広帯域化)

(2) 伝送速度を上げること(高速化)

(3) 波長間隔を狭くし、波長数を拡大すること(高密度化)

広帯域化においては、広帯域光増幅器が主要な技術課題である。これまでに、

1480 nm 帯(S-band)、1550 nm 帯(C-band)、1580 nm 帯(L-band)等、光ファイ バの低損失波長領域を増幅帯域とする希土類添加光増幅器が開発されており、

複数の波長帯を使用することによって、100 nm を超える広帯域光伝送実験が 報告されている[22]。また、上記希土類添加光増幅器では増幅できない波長帯 においては、増幅波長帯域を任意に設定できるラマン増幅器の検討が進められ ている[23]。

高速化においては、1 波長あたりの伝送速度を 40 Gbit/s としたシステムが 基幹系で実用化され、更なる高速化へ向けた研究開発が活発化してきている。

高速化を実現する上での技術課題は、高速電子回路技術はもちろんのこと、波 長分散(CD: Chromatic Dispersion)や偏波状態によって進む速度が異なる偏波 モード分散(PMD: Polarization Mode Dispersion)における波形劣化を補償し、

安定した伝送品質を維持することである。コアネットワークにおいては、波長 分散は、伝送速度 10 Gbit/s 以上、偏波モード分散は 40 Gbit/s 以上で問題が 顕在化してきており、これらの補償技術に関してはこれまでに数多くの提案お よび伝送実験について報告されている[24-26]。本論文では、伝送速度 1~10

(32)

Gbit/s に基づく、WDM 伝送を想定しているため、偏波モード分散による影響は 無視できると考え、波長分散にのみ着目することとする。以下、波長分散を単 に分散と表記する。

高密度化においては、超多波長を利用するため、同一の伝送容量を実現する ためには、比較的低い伝送速度を適用することが可能となる。また、その結果 として、(2)の高速化で必要となる高速電子回路技術や分散補償技術が不要と なるという利点をもつ。しかしながら、高密度化に伴い、高い波長安定性を備 える光源と、光信号を高精度に多重・分離するための光回路、すなわち狭帯域 波長合分波が新たに必要となる。これまでに波長間隔 25 GHz 以下での伝送実 験については、いくつか報告がある[27-31]が、こうした超高密度 WDM システ ムの設計指針や伝送性能限界、1 波長あたりの伝送速度を高めた超高速システ ムに対する優位性については、これまで定量的に明らかにされていない。

本章では、長距離伝送用の一般的な光ファイバである SMF を前提に、国際電 気通信連合電気通信標準化部門(ITU-T: International Telecommunication Union Telecommunication Standardization Sector)で最小波長間隔と規定さ れている 12.5 GHz の超高密度 WDM 伝送技術について述べる。分散による波形 劣化が主要な信号劣化要因と考えられるが、光増幅器雑音や光ファイバの非線 形光学効果をも考慮し、超高速システムとの定量的な伝送性能比較を行う。コ ンピュータシミュレーションにより伝送可能距離限界を見積もることにより、

本技術の適用領域を明確化し、システム設計指針を明らかにする。また、要素 技術として、1 つの波長から、複数の波長の異なる光を発生する多波長光源に ついて概説し、超高密度 WDM 伝送用に開発したプロトタイプについて述べる。

プロトタイプを用いた、波長間隔 12.5 GHz、波長数 512 のテラビット伝送実 験により、提案する超高密度 WDM 伝送の実現性を実証する。

(33)

2.2. 適用領域

本節では、高速化と高密度化のふたつのアプローチについて、伝送シミュレ ーションにより、伝送性能を定量的に比較する。シミュレーション結果に基づ き、超高密度 WDM 伝送の適用領域を議論する。

2.2.1. 設計指標

伝送特性を評価する一般的な指標は伝送容量距離積Tである。伝送容量距離 積Tは、伝送容量Cと伝送距離 L を用いて次のように表される。

T = CL (2-1)

まず、伝送容量Cについて考える。伝送容量Cと伝送速度B、波長数Nの関 係は以下のように表される。

C = BN (2-2)

波長数 N は、使用波長帯域Kと波長間隔dを用いると

N = K/d = KD (2-3)

という関係がある。ここでは、高密度さを表すパラメータとして、チャネル 密度D = 1/d と定義した。式(2-1)に式(2-2)および式(2-3)を代入する と、伝送容量Cは次のようになる。

(34)

C = BKD (2-4)

この式は、大容量伝送を実現する上での 3 つのアプローチを示していること に他ならない。すなわち、(1)使用波長帯域を拡大すること(広帯域化)、(2) 伝 送速度を上げること(高速化)、(3) 波長間隔を狭くすること(高密度化)で ある。さらに、周波数利用効率Sは、伝送速度Bとチャネル密度D = 1/dを用 いて、

S = BD (2-5)

と表されるから、伝送容量距離積T は、式(2-1)、(2-4)、(2-5)を用いて 次のようになる。

T = KBDL = KSL (2-6)

ポイントツーポイントネットワークを前提とした場合、中継間隔毎に光増幅 器からなる線形光中継器を配置し、伝送距離の拡大を図ることが一般的であ る。したがって、使用波長帯域Kは、線形光中継器に用いる光増幅器の増幅帯 域により制限される。

本章では、ある一定の光増幅帯域をいかに有効に利用し、大容量化を実現す るかという観点から議論する。その場合には、使用波長帯域Kは一定値とみな すことができるため、伝送容量距離積Tは、図 2-1 に示すような伝送速度B、 チャネル密度D、伝送距離Lを 3 軸にもつ立体の体積として表現すればよい。

伝送性能を向上させるためには、この体積を拡大させることに他ならないが、

図 2-1 中に示したように、それぞれ異なる技術が必要となる。

高速化においては、前述したとおり、高速電子回路技術や分散補償技術が不 可欠である。伝送距離の拡大化には、誤り訂正符号(FEC: Forward Error

(35)

Correction)や低雑音の分布ラマン増幅、およびスペクトル広がりを抑えた変 調方式の適用が必要となる。また、高密度化においては、高波長安定性を備え る小型の WDM 光源と狭帯域波長合分波器が必要となる。加えて、非線形光学効 果の影響が大きくなることが予想されることから、その抑圧が必須である。

本章では、高速化と高密度化の影響を、包括的に議論するため、周波数利用 効率Sに着目する。周波数利用効率Sは、式(2-5)および図 2-1 から伝送速 度Bとチャネル密度Dからなる平面の面積として表されることがわかる。した がって、ある一定の周波数利用効率Sをみたす伝送速度Bとチャネル密度Dの 組み合わせは複数考えられることとなる。高い伝送性能を達成するためには、

なるべく高い周波数利用効率Sで、長い伝送距離Lを確保できるよう、伝送速 度Bとチャネル密度Dの組み合わせを探索することが必要となる。

Bit rate B

Transmission distance L

Channel densityD (= 1/channel spacing)

Spectral efficiency S

9Forward error correction 9Distributed Raman amplification

9Modulation format 9Small-size WDM light source with high wavelength stability 9Narrow-band multi/demultiplexer 9Mitigation of fiber nonlinearity

9Chromatic dispersion (CD) compensation

9Polarization mode dispersion (PMD) compensation

9High-speed electronic circuit

図 2-1 WDM 伝送における性能指標と必要となる要素技術

(36)

2.2.2. 光ファイバ伝送におけるシミュレーション手法

伝送性能を見積もるためには、大別して定式化による解析的手法と数値計算 によるシミュレーション手法とがある。定式化による解析的手法は、直感的に わかりやすく、たとえば、光ファイバのもつ非線形光学効果の一つである四光 波混合にのみ着目して議論することができるなどの利点があるが、種々の要素 を取り入れた複雑な解析は困難である。

逆に、数値計算によるシミュレーション手法の最大の利点は、光ファイバ伝 送における種々の現象(分散や様々な非線形光学効果)を全て取り入れた複雑 な解析が可能なことである。本論文では、実用的な光伝送システムへの適用性 を議論する観点から、コンピュータシミュレーションによる解析を採用した。

以下、シミュレーションの概要を説明する。

高速かつ高精度に計算可能なことから、光ファイバ伝送系を解析する上で一 般的なスプリットステップフーリエ(SSF: Split-Step-Fourier)法[32]を用 いた。概念図を図 2-2 に示す。

微小区間 光ファイバ

分散 非線形光学 効果

入力波形 出力波形

1.2

-0.2 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0

0.2

0.0 0.1

Eye Pattern Graph 1 1.2

-0.2 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0

0.2

0.0 0.1

Eye Pattern Graph 1 1.5

0.0 0.5 1.0

0.2

0.0 0.1

Eye Pattern Graph 1

図 2-2 スプリットステップフーリエ法の概念図

(37)

SSF 法では、まず、微小区間を光が伝播する際には、線形効果(分散、光フ ァイバ損失)と非線形光学効果とが、あたかも独立に作用すると仮定できるも のとして近似解を求める。したがって、具体的には、光ファイバ伝送路を微小 区間に分割し、入力信号波形に対して、微小区間ごとにフーリエ変換と逆フー リエ変換とを繰り返し、周波数軸上での分散の影響と、時間軸上での非線形光 学効果の影響とを交互に、繰り返し数値計算を行い、出力信号波形を算出する こととなる。

光ファイバ中を伝播する光信号の電界は、光ファイバの波長分散、カー効果、

光ファイバ損失を考慮し、次のような非線形シュレディンガー方程式で記述さ れる[33]。

2 6

2

2 3

3 3 2

2

2 β γ α

β A A j

T j A T

A Z

j A + =−

− ∂

− ∂

∂ (2-7)

したがって、伝送される信号波形は、この方程式を数値解析的に解くことに よって得ることができる。ここで、αは損失係数、A は波長多重された信号電 界の振幅を表わす。また、非線形定数γは、次のように表される。

cAeff

n2

γ = ω (2-8)

なお、γの波長依存性はないものとして計算した。ωは WDM 信号の中心角周波 数、n2は非線形屈折率、cは真空中の光速度、Aeffは光ファイバ実効断面積を 表す。強度変調された 32 ビットの NRZ 信号を用いてシミュレーションを行っ た。このとき、誤り率は次式で計算することができる[33]。

(38)

= ⎟⎟⎠

⎜⎜⎝

⎛ −

= 32 32 1

1

i k

th

i v

erfc v

BER σ (2-9)

ここで、vivthはそれぞれ復調されたアイパターンの各ビットの識別時間 における出力電圧としきい値電圧を表す。なお、erfc(x)は補誤差関数であり、

次式で表される[9]。

=

x

dt t x

erfc 2 exp( ) )

( 2

π (2-10)

また、マークとスペースに対応した雑音電力であるσ1、σ0はそれぞれ次式で 表される。

2 2 _ 2 _ 2 2

1 = ns +nsp +ns sp +nsp sp +nth

σ (2-11)

2 2 _ 2

0 = nsp +nsp sp +nth

σ (2-12)

ここで、ns2nsp2ns_sp2nsp_sp2nth2はそれぞれ増幅された信号光による ショット雑音、増幅された自然放出光によるショット雑音、増幅された信号光 と増幅された自然放出光間のビート雑音、増幅された自然放出光間のビート雑 音、熱雑音を表す[33]。以上により、各シミュレーションパラメータに対して 誤り率を算出し、伝送性能の比較を行った。

(39)

2.2.3. シミュレーション

図 2-3(a)に光増幅器を線形光中継器として用いたポイントツーポイント光 ネットワークのシミュレーションモデルを示す。また、使用した主なシミュレ ーションパラメータを図 2-3(b)に示す。3 種類の伝送速度 2.5 Gbit/s、10 Gbit/s、および 40 Gbit/s において、周波数利用効率 0.1 bit/s/Hz、0.2 bit/s/Hz、および 0.4 bit/s/Hz を達成する伝送距離を計算した。シミュレー ションでの使用波長数は、図 2-3(b)に示すように使用信号帯域を 25.5 nm と し、チャネル密度(波長間隔の逆数)より設定している。全チャネルが 10-12 以下の誤り率を達成する伝送距離の最大値を、最大伝送可能距離として定義し た。また、ファイバ入力パワーについては、伝送特性を決める重要なパラメー タであることから、1 dB 毎に値を変えてシミュレーションを行い、伝送距離 が最大となる最適値を決定した。

(40)

Mod.

LD

Mod.

LD

Fiber Optical

amplifier OR

OR

6 dB Noise figure of optical amplifier

16 ps/nm/km Chromatic dispersion@1550 nm

1535.4 -1560.9 nm (25.5 nm) Signal bandwidth

NRZ Modulation format

80 km (0.275 dB/km) Span length (attenuation)

SMF (G.652) Fiber type

6 dB Noise figure of optical amplifier

16 ps/nm/km Chromatic dispersion@1550 nm

1535.4 -1560.9 nm (25.5 nm) Signal bandwidth

NRZ Modulation format

80 km (0.275 dB/km) Span length (attenuation)

SMF (G.652) Fiber type

Number of wavelengths: N

Bit rate: B Gbit/s

Transmission distance: L km

(a)

(b)

図 2-3 (a) WDM 伝送システムモデルと(b) 計算パラメータ

参照

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