幸福の経済学 : 若い頃の苦労は買ってでもしろ!
著者 本郷 亮
雑誌名 Econo forum 21 = エコノフォーラム21 : 学生と教 職員のインターコミュニケーション誌
号 20
ページ 40‑40
発行年 2014‑03‑15
URL http://hdl.handle.net/10236/11865
Econo Forum 21/March 2014 40 シリーズチャペル<人間を考える>
﹁あなたは今の生活にどれほど満足していますか?﹂︵
たが︑ダニエル・カーネマンが は︑もともと心理学の研究主題だっ による幸福︑すなわち主観的幸福 す可能性がある︒こうした自己報告 に︑思いのほか大きな変化をもたら 来の新古典派経済学の強固な考え方 という類の単なるアンケートが︑従 10段階で回答︶
2002年度のノーベル経済学賞を受賞したことからも分かるように︑いわゆる﹁幸福の経済学﹂は︑行動経済学の急速な台頭と結びついて︑近年の経済思想の新潮流を形成している︒幸福の経済学と行動経済学は︑近年の心理学と経済学の学際的研究が生んだ双生児である︒
こうした幸福研究は︑ベンサム以来の功利主義の進化形態 ︱前述のようなアンケートのデータを用いて功利主義思想を﹁実証科学﹂に高め る試み︱ とも言えるだろう︒世界価値観調査︵World Values Survey︶︑世界幸福度データベース︵World Database of Happiness︶︑ユーロ・バロメーター調査︵Euro-Barometer Surveys︶などの統計を用いる幸福研究は︑﹁仮説↓理論的演繹↓データによる検証﹂という科学方法論に従っており︑その限りにおいて実証科学である︒おそらく方法論上の唯一の弱点は︑変数の主観性だろう︵幸福度は︑寿命や失業率のような客観指標でなく︑あくまでも主観指標︶︒
私は特に優れた解説書として︑未邦訳だがレイヤード卿の﹃幸福﹄︵R. Layard, , 初版2005, 改訂版
2011︶を挙げたい︒同書によれば︑多くの国に共通する幸福の7大決定要因︵ビッグ・セヴン︶は︑① 家族関係︑②所得︑③仕事︑④社会関係︑⑤健康︑⑥統治の質︑⑦個人の価値観︑である︒これらを個々に説明する紙片の余裕はないが︑同書全体の議論をふまえて大まかなイメージを描けば︑幸福な人物というのは︑およそ次のようになる︒生まれつき陽気で︑心身ともに健康であり︑やり甲斐のある安定的仕事をもち︑それなりの所得と余暇があり︑安定した結婚生活を営み︑民主主義の発展した豊かな国で︑しかも近隣の人々を信頼できる地域︵例えば人口移動の少ない地域︶で暮らし︑喫煙者でも肥満者でもなく︑宗教を信じ︑あまりテレビを見ず︑控えめな人生目標をもち︑自分を他人と比べて一喜一憂しないような人!
ただし近年の幸福研究は︑公共政策の指針としては大いに有益であるが︑︵日本社会でそれなりに恵まれ た条件下で暮らす︶若い皆さんの大学生活の指針としては必ずしも有益でないように思う︒私はあえて︑そのことを学生諸君に強調したい︒私は昔︑祖母によく言われたものだ︒﹁若い頃の苦労は︑買ってでもしろ!﹂と︒若いときには︑大いに学び︑大いに遊び︑大いに悩む︒要するに常に活動的であること︑ジタバタ﹁もがく﹂ことが大事であり︑人間を高めるには︑それしかないと思う︒一番悪いのはたぶん︑何もしないことである︒苦しみや悩みを恐れてはいけない︒青春時代の﹁不幸﹂には︑何か非常に大きな意味がある︒皆さん︑良い意味で﹁不幸﹂になってください! ■