西畑矯蹄㌔織覇)
〔症例検討会〕
貧血を主徴とせる症例
日 時 昭和40年1月29日 誌 所 東京:女子医科大学
(発言者)
本部講堂 内科:山田 喜久馬教授
(受付 昭和40年2月19日)
山田:症例検討会を始めます.
症例1は22才の主婦,家族歴では高血圧がある ほかには特別のことはありません.既往歴では時 時肛門よりの出血があったが放置していたとのこ
とです.初潮は13才,昨年の1G月に結婚.結婚前 約3力年下着類縫製に従事していた以外たいした
ことはなく,病気らしい病気にかかったことはな いとのことです.現病歴ですが,18才の時,今か
ら4年前ですが,倦怠感があり,仕事をしていて すぐ眠くなるので医師を訪れ,貧血といわれ約1 カ月投薬をうけたことがあります.その後は特別 医師にかからず放置していました.昨年の!2月末 頃より顔色が特別悪くなり,だるくなり,腰痛,
後頭部がズキズキし,食欲不振,動作時心悸充 進,眩量あり,本年1月12日某医を訪れザーり一 値4G%といわれ,1月14口当第2病院に入院しま
した.
入院時所見ですが, 眼瞼結膜は貧血様,舌は sauberで, Gingivaに出一血はみられない. Ra−
chen, Herz, Lungeに異常はみられず,肝も脾臓 も触知せず,たいした所見は認められません.血 液検査をしますと,赤.血球179×le4, Hb(ザー
リー)43%,白.血球1,900,栓球24,990,網赤.血球 16%o,それから末梢血液像ではStab.110/o, Seg.
14%, Eos. OO/o, Mono.10%, G.L 3%, K.L 71
%です.尿ではタンパク(土),ウロビリノーゲン
(土)という程度.糞便では潜血反応(一),虫卵 も(一)です..血清総ビリルビン。.16mg/d1,」血 清鉄は189ty/dlです.
主な所見といいますと,貧血があり,白血球数 も少ない.それから栓球数も少ない.網赤血球は 多くはありません.それから1血液像で目立つこと ぽリンパ球が非常に多いということです.表エに
表1 貧血の原因酌分類
L 失 」血
i急性出血後の貧血(外傷,冑潰瘍等)
ii慢性出血後の貧血(鉤虫症,痔,消化管出.血,
職業的供血者,有経期の婦人等)
2・造1血に関係した素材の欠乏による貧血 i鉄欠乏性貧」血(本態性低色素性貧血,萎黄病)
ii Vitamin B1zおよび葉酸の欠乏による貧血 (悪性貧血,Sprue)
3.赤血球破壌の充進によるもの i内因性溶」血性貧血
ii 夕F因・陸溶血・陸貧血
4.赤血球産生の低下ないし赤血球産生の低下と赤 血球破壊尤進の合併によるもの.
i再生不良性貧血 ii続発性貧血
a.感染症に合併した貧血 b.慢性腎不全に合併した貧血
c・白血癒悪性リンパ腺腫滑髄線維症,骨髄 転移を有する悪性腫瘍等に合併した貧血.
d.粘液水腫その他の内分泌疾患に合併した貧 血
iii脾腫(脾機能:充進症)に合併した貧血 (Banti症候群)
Clinlco−Pathologieal−Conference (41) Three cases of anemia.
貧.血の分i顛の表を出してありますが,どんな貧一晩 かということを考えなくてはいけないわけです.
われわれが普通貧血というのは,単位容積中の赤 血球と.血色素量の少ないのをさすわけで,正確に
.は血液検査をしなければ貧血と診断できません.
しかし一般状態をきいても貧血に伴なう症状があ るわけです.たとえばこの患者では,動悸がした とか,眩最があったとかいうことがあります.急 性に血液がなくなった場合と,慢性にジワジワと 血液不足になった牛合とでは臨床症状がちがうわ けで,急性に出血した場合には体液が急激に減少 しますから,いわゆるショック症状が主にくるわ けです.慢性に出血が来た揚合には,徐々に血液 の不足が進行しますから,身体がそれに対して割 合によく適応するためにショヅク症状はおこりま せんが,ほかの色々の症状が出て来ます.血液の 有形成分が少なくなり,血液が血漿でおきかえら れるようになり,各臓器への酸素の供給が不充分 となるためにいろんな症状が出てくることが多い ものです.たとえば皮膚,粘膜が蒼白にみえる.
呼吸循環器系では組織の酸素不足をできるだけ補 充しようとするため呼吸が早くなる.非常に進行 した状態では起坐呼吸の形をとることもありま す.自覚的には非常な呼吸困難を覚える.それか
ら聴診した揚合には,心尖部や心底部で収縮期雑 一音を聴取し,またNonnensausenがきこえる.
これは要するに貧血のため,血液中の有形成分が 減少し1血漿が増えて来て,血液の粘稠度や末梢血 管抵抗が減少することと,末梢に早く沢山に血液 を迭って酸素の補給を充分にしょうということが 行なわれ,そのため心搏数や心搏出量が増加し,
一血流速度が増加するということから雑音が発生す るものです.したがって貧血が強ければ心臓は過 労になり,心肥大,心拡大をも伴って来ます.さ
らには浮腫もみられるようになります.それから 酸素不足のために神経系の症状として頭痛,眩量
がみられます.それから消化器系では,粘膜の分 泌機能が酸素不足のためにうまく行なわれなくな
り,消化不良や食欲不振という症状が出て来ま す.このようなことから,血液検査を行なわない でもある程度臨床症状より貧血を類推することが
できますが,確定には一血液検査を行なわなくては なりません.この患者はその他色々検査をしまし たが,大した異常所見が得られず,貧血が主でし たので一応検査と併行しながら鉄剤を使用しまし た.14日に入院して翌日より鉄剤を投与しました が,現在治療としての鉄剤投与が有効であるかど うかが問題になります.鉄剤使用15日目の本日の 血液検:査所見では,赤血球181×104,Hb(ザー
リー)43%,白血球3,400,網赤血球19%です.
これはほとんど入院時の所見と変っていません.
すなわち鉄剤は効いていないといえます.一般に 鉄剤が有効な貧一門は主として鉄欠乏性貧血です.
表1にみるような貧』虹の:分類のほかに,臨床的に は他の分類方法があります,診断学で習われたと 思いますが,Hb(ザーリー)値と赤血球数との 比より色素係数なるものを出し,色素係数が1以 下の揚合と;1以上の揚合,すなわち低色素性貧」血
と高色素性貧血という分け方があります.色素係 数1±1×エO%以内を正常,すなわち正色素性と 言っています.この患者では色素係数は1,2とな りますので,高色素性の傾向の貧血ということに なります.普通鉄欠乏性貧血は低色素性貧血です.
ですから色素係数からみてもすぐ鉄剤を使用した のは,むしろ不適当であったことになります.
表1の分類について言いますと,出血のための 貧血は低色素性のものが多く,慢性の出血による ものは低色素性です.造血素剤の欠乏による貧血 というなかで,鉄欠乏性貧血が低色素性の貧血で す.あと脾腫を合併した貧血,代表的なものは Banti症候群ですが,これらが低色素性貧血の主
なものです.この患者は低色素性ではないので,
これらの疾患ではないことになります.高色素性 貧』虹の代表的なものは,造血素剤の欠乏による貧 血のうち,Bユ2または葉酸の欠乏による貧血が代 表的なものです.そのほか正色素性あるいは高色 素性の貧血では溶血性貧血と続発性貧」血とがあり
ます。
この患者の疾患はなにかと老えますと,それ程 著明な色素係数の増加ではないので,表1の3,
4あたりの疾患を老えなくてはならないことにな ります.それを確定するためには一応骨髄を調べ てみる必要があります.
骨髄をとってしらべてみますと,細胞数は 3,300,骨髄の細胞数は普通は10万前後ですので 非常に減少していることになります.骨髄の細胞 成分をしらべてみますと,末梢』虹と同じく,単核の 小さい細胞,リンパ球が非常に多い.骨髄に正常に みられる骨髄系の細胞が非常にすくない.大体60
%前後にリンパ球がみられています.要するにこ の患者では赤.血球,血色素がすくなく,色素係数 は1.2で,そのほかに白一血球もすくない.そして 骨髄細胞数もすくなく,末梢血でも骨髄でもリン パ球が多く,骨髄系細胞が減少していることがわ かりました.そうするとある程度診断がつくと思 いますが,表2に血液学的検査成績と貧血の分類 との関係を示してありますが,低色素性でない こと,血清鉄が減少していないことより鉄欠乏性 貧1血でないことは確かです.またこの患者では脾 腫も証明されていませんので,Banti症候群でも ない.悪性貧血でないことは骨髄に巨赤芽球がみ られないことより,たしかと思います.つぎに溶
.血性貧血ですが,これについては前回に学生諸君 にお話しましたが,溶血性貧血の時は骨髄の刺激 症状が強く出るもので,臨床的には骨髄での赤芽 球の増加,末梢での網赤1血球の増加がみられ,ま た溶血のため黄疸が発生し,尿にウロビリノーゲ ンが強陽性にあらわれ,血清のビリルビン値が高 くなる,とくに間接型が増加するものです.この 患者では尿のウロビリノーゲンは強くなく,網赤 血球数も著明な増加ではない.またビリルビン値 も正常値であることより,溶血性貧血も一応除外 できると思います.そうすると残るものは再生不
良性貧血ということになります.おそらくこの患 者はこの分類に入る貧血であろうと思います.
普通再生不良性貧血の場合は,経過がそんなに 慢性の経過をとるものではない,また多少なりと
も感i染の傾向が多く,発熱をみたり,出血傾向を みたりすることが多いものですが, この患者で は,出一撃傾向,発熱はありません.それから5年 前に貧.血といわれたのですが,その貧血と今回の 貧血とが関係があるかないかは問題ですが,おそ
らく当時すでにhypoplastisch の状態の貧.血で あって,それが現在まで続いてきているのではな いかと思います.すくなくとも一般の血液所見か らも,鉄剤投与にも反応しなかったことより鉄欠 乏性のものでないことは確かです.全然出血傾向 がみられず,また発熱がみられないことなどは再 生不良性貧血としてはおかしいかもしれない.ま た5年前からの貧血の継続として考えた二合に,
再生不良性貧血としては非常に症状がmildすぎ るということが考えられますが,現在のところ末 梢.血,骨髄の所見より,再生不良性貧.血と考えて 治療すべきと考えております.
この症例で鉄剤を使用しましたので,一応その ことについてお話ししておきます.昔から貧血に よく鉄剤を使用しますが,適応は血清鉄の低下し ている鉄欠乏性貧血に限られるもので,どの程度 使ったらその効果があるかないか判定できるかと いうことが問題となります.昔は大量療法が流行 し,経口的に還元鉄を与えた揚合に,O.59から 順次増量して1H39位飲ませるという方法でし
た.しかし還元鉄は大:量に使うと副作用が出ま
表2 血液学酌諸検査成績と代表的貧血の分類との関係
鉄欠乏性貧血 悪性貧血
溶雌勧離不離勧i・・…病
赤」血球像
白血球
栓 球
骨髄像 血清純
潔色素性,小球 性,Anulocyte
正 常
正 常
小型赤芽球が 多い
低 下
高色性巨赤血 球
減少,過分葉像
減少傾向
巨赤芽球出現 高
正色性,球形赤血 球,網赤血球増多 正常,時に減少 正常,時に減少
赤芽球増加 正常〜高
正色性
減 藤 野 少 細胞数少なく,
低形成 高
低色性,小球二 歳 少 正常,減少傾
向
成熟障害像
低 下
す.下痢,P区吐とか主として胃腸障害をおこし,
服用したものが無効になることが多い.しかも最 近の研究では,鉄剤は十二指腸や回腸上部の消化 管から吸収されるものですが,吸収される量には 限度があり,大量飲ませてもそれ程吸収されない ことがわかって,最近では1日量0.59程度の投 与を続ければ充分といわれています.最近は還元 鉄ばかりでなく,有機鉄剤が沢山出てきています が, これらは胃腸障害が少なく, 吸収がよく,
貧1血の回復に有効といわれています.そして有機 鉄剤使用の場合は,1日量鉄として150mg前後あ れば十分といわれています.また鉄剤投与の場合 には,鉄の吸収をたすけるために,胃液を塩酸酸 性にしておく必要があります.鉄剤が有効である とすれば,どのくらいで効いてくるかということ ですが,毎日身元鉄0.59投与として,1週間前 後で自覚症が改善されます.減量とか心悸高進と
かがとれて来ます.また1週間から2週間以内に 著明なReticulocytoseがおこって来ます.すく なくとも網赤血球は30%以上になります.この患 者ではこれがみられませんでした.また鉄剤投与 後大体2週聞位で血色素量はザーり一値で10〜20 0/。位増加するはずです.したがって相当の貧血が あっても鉄剤を1カ月も投与しておれば,貧血は 大部分回復してしまうものです.したがって鉄剤
を投与して有効か無効かを判定するには,2週間 投薬してみればわかります.2週間でザーリー値
の増加もなく,Reticulocytoseもおこらず,自 覚症状も軽くならなければ,いかに低色素性の貧 血でも鉄剤の適応とはいえません.ただ漫然と鉄 剤を投与することなく,2週間後には血液の再検 査を行なって治療効果の有無を判定することが大 切です.この患者では鉄剤が無効であり,1血液所 見より再生不良性貧血として治療を行なう予定で
す.
再生不良性貧一血の二合J.二一血に対しては輸一血で す.急性の出血によって起こった貧血ではなく,
慢性の経過をたどったものですから,急激に貧血 を回復するために大量の輸血をする必要はない.
1日100〜200ccぐらいの輸血を毎日繰返して行 なえばよろしい.どの程度まで貧血が回復したら
輸血をやめてよいかということですが,常識的に は貧血の回復するまで,すなわち正常に戻るまで 行なうべきでしょう.しかし血液は健康人からい ただくものであって,浪費すべきものではありま せん. 現在は貧一二による障害がとれるまで輸.血 をしておけば十分で,完全に貧一三が回復するまで 輸血をする必要はないとされています.その目標 はどこにおくかということですが,ザーり一値が 60%,赤1血球数が300万をこえれば,一応貧血は 存在していても,生体の代謝面にさしたる不都合 がないとして,輸血を中止してよろしいといわれ ています.
そのほかこの疾患はよく感染をおこしやすいの で,その揚合は抗生物質を充分に使用して敗血症 などの発生を防止するよう努力すべきです。
.te.≠唐、一つ大切なことは,この疾患はよく出血傾 向をおこして来て,そのために生命の危険をきた すことが多いということです.それゆえ出血傾向 に対しては充分の注意を払わなくてはなりませ ん.出.血傾向がおこって来たら,輸血.,充分な止
.血剤の使用が大切ですが,これだけで出血がおさ まらないことが多く,そのような時には副腎皮質 ステロイドの大量療法が行なわれます、ステロイ ド剤を大量に使用する揚合には副作用について充 分注意しなければなりません.高血圧,糖尿病,
胃潰瘍,精神症状をおこしたり,満月様顔貌を呈 するなど色々不都合なことが起こります.したが って大量療法で出血傾向などがよくなればできる だけ早目にその投与を中止すべきですが,出血傾 向はなかなかよくならない二合が多く,そのため に生命の危瞼をきたすようなことにもなるので,
ステロイドの大量投与を続けざるをえなくなるこ とが多いものです.その二合は.どうしても副作用 としての合併症が起きてきやすいものですが,そ の丁合は副作用の出現よりも救命が大切ですか ら,それはやむをえないことです.また副腎皮質 ステロイド剤は出血傾向に対してばかりでなく,
再生不良性貧血の血液像の改善にも有効な揚合が あります.骨髄系細胞が増して来て,リンパ球が 減ってきます.したがって出血傾向がなくても再 生不良性貧血に皮質ステロイド剤を使用すること
があります.その二合には血液像の改善は大量使 用で2ヵ月以内にみられるのが普通です..したが って出血傾向のない場合には副腎皮質ステロイド 剤の使用は,.血液像の改善がみられないときは2 カ月以上継続するのはよくない.これ以上継続す れば必ずといっていいくらい満月様顔貌となり,
その他の副作用が出て来て,副作用そのものの方 が患者に苦痛を与えるようになります。かかるこ
とをIatrogenic disease という言葉でいわれて います.出血傾向があるときは,ステロイド剤の 使用は必要ですが,出血傾向のないときは,Iat−
rogenic diseaseの発生を充分老慮にいれて,効果 のはっきりしないときは2カ月ぐらいでステロイ
ド剤による治療を中止するというのが一つの原則 です.最近は副腎皮質ステロイド剤だけでなく,
男性ホルモンが非常に蛋白同化作用が強く,再生 不良性貧血に有効であるという説も出ています・
この患者にも使用するのもよいと思いますが,野 老は22才の女子であるので,男性化することは好
ましくありませんので,一応副腎皮質ホルモン剤 を使い,これが有効でないときは男性ホルモン剤 の使用も老慮してよいと思っています.第1例は 若くて出血傾向のない,一般症状の少ない貧血の 症例で,調べてみたら再生不良性貧血と与えられ
る症例でした.
症例2は67才のおばあさんですが,家族歴では 癌の系統があります.それから兄弟に高血圧の方 がいます.既往歴では,6年前に神経痛で治療を
うけたことがありますが,そのほかには異常はあ りません.現病歴では昭和39年のはじめに御主入 が糖尿病で亡くなられ,それ以来ずつと疲れがあ ったと考えていたらしいのですが,全身倦怠感が あったそうです.2月,3月頃になって手足が冷 たく,なかなか暖まらず,夏でも物争ンポを入れ て,洗面も湯でするようになり,自分では非常に 冷え症になったと老えていました.9月初旬にな り,動悸をおぼえ,二二に受診して貧血を指摘さ れ,同時に心臓も悪いから精査を受けるようにと いわれ,9月22日当科に入院しました.理学的に は心臓が1横指程左に大きいだけで他には余り変 但はみられませんでした.1血液検査では,赤血球
134万,血色素(ザーり一)41%,白血球7,500,栓「
球46,480,網赤血球15%,末梢』虹液像では細胞の 分類に特別のことはありませんでした.まずどう
いう貧1血かということですが,赤血球134万,ザ ーり一盛41%ですから,色素係数は1.4です.要 するに相当な高色素性です.高色素性の貧血は表 1にみるように,代表的なものは2のiiですが,
そのほか4のiiにもあります.溶血性貧血も高 色素性になることがあります.この患者では尿
ではウロビリノーゲン正常,糞便では潜血反応,
虫卵とも陰性.血清総ビリルビン値は0.9mg/dl で正常です.溶血性貧血でないことは確かです.
血清鉄山は163・γ/dlで正常です.それから消化管 の方をX線などで調べましたが,異常はありませ ん.赤血球の直径を測定しましたが,Price−Jones 曲線は右方推移で,平均赤血球直径は9.3μで す.正常は7.5〜8.0μぐらいですから,大きな 赤血球が多いということです.すなわち高色素性 大赤血球性貧.血ということになります.代表的な 疾患は悪性貧血です.ただしこの患者の縞合悪性 貧血とただちにいってはいけません.骨髄を調べ てみなくてはいけない.悪性貧血の場合には核を 有する大きな赤1血球Megaloblasten t v・う特徴
ある細胞の出現がみられます.残念ながらこの患 者では骨髄を調べてありません.しかし,要する に大赤血球性の高色素性の貧血の分類に入りま す.この貧血の代表的なものは悪性貧血ですが,
それ以外にどんなものがあるかといいますと,原 表3表 高色素陸巨赤血球性貧血の原因的分類 1.V.Bエ2欠乏
i 栄養性(菜食主義,小児性)
ii 吸JI又障害
a.内因子欠乏(悪性貧血,胃全易」後)
b・吸収競合(広節裂頭条虫寄生)
c.細菌による破壊(憩室,狭窄等)
2.葉酸欠乏
i栄養性(熱帯性大赤」血球貧血)
ii吸収障害(Sprue)
iii拮抗物質(Aminopterin(抗癌剤),抗痙牽剤)
iv代謝障害(妊娠性悪性貧血)
3.V.○欠乏(小児悪性貧血,壊血病)
4.V.B、2もしくは葉酸の相対的不足(白血病,
溶血性貧血)
5.その他(肝硬変など)
一447一
惜別にみますと表3にみるようなことになりま
す.
まずV.B12の欠乏で生ずる貧血がこの部類に 入りますが,その中に悪性貧血も含まれていま す.栄養性貧血は動物食をとらない場合におこる もので,V.B12は人体内では合成されず,自然界 で微生物がつくっていて,生体内では肝に一番多 く貯えられています.人間では動物食をとらない と,外からのV.B12の補給ができず欠乏が起こ るといわれています.悪性貧.血はV.B12の吸収 を促進する内因子が先天的に欠乏しているため に,胃腸からのV.B12の吸収が行なわれず貧血 が起こってくるものです.この悪性貧血に非常に
よく似たものが,手術で胃を全別した場合で,こ のときは胃液の分泌がなくなり,その中に含まれ る内因子がなくなるのでV.Bエ2の吸収がわるく なります.たs し胃の全劉の後でも,V.B12は肝 臓の中に相当貯臓されていますので,数年間は欠 乏がおこらない.胃全別後4〜5年位してから貧 血が起こってくるといわれています.かかるもの は悪性貧血様貧血といって,先天的な内因子欠乏 による悪性貧血と匠別しています.
そのほか葉酸の欠乏でも,高色素性,巨赤血球 性の貧血がきます,Sprueという下痢をおこす疾 患がありますが,この場合は葉酸欠乏が原因で,
貧.血を伴ってくるといわれています.それから癌 のとき,制癌剤をよく使用しますが,葉酸拮抗剤 が悪性の癌細胞の発育を阻止するということでよ く使用されます.たとえばアミノプテリン系統の ものを使いますが,かかるものを使いますと,生 体内で葉酸と拮抗して,代謝 的に葉酸欠乏状態を おこし,高色素性巨赤血球性の貧血がおこるとさ れています.そのほか,溶血性貧血や,白血病の ときにも高色素性の,しかも大赤血球性の貧血が くることがあります.肝硬変の揚合にもそういう 型の貧血がくるといわれています.
以上高色素性の貧血といってもいろいろの声息 があるわけで,それらを鑑別しなければならな い.この患老では検査不充分でそれはできないわ けですが,一応入院した時に色々な検査を行ない
ながら鉄剤を使用しました.鉄剤を約3週間使用 しましたが,血液所見では入院したときはザーリ ー41%,赤血球134万,それが鉄剤使用終了時は ザーリー46%,赤血球は170万で大した改善をみ ない.そこでV.B12を使用しました. B12使用直 前はザーリー46%,赤血球170万,白血球5,000,
色素係数1.35ですが,V.B12使用3週間後ではザ ーリー67%,赤血球223:万,1カ月半でザーリー は82%,赤血球357万,白血球7,000と回復してい きました。したがってまちがいなくV.B12が有効 であった疾患です.治療によく反応したというこ とからV.Bユ2の欠乏による貧血であったというこ とになります.このように治療効果から逆に診断 をつけるのをDiagllosis ex juvantivesといいま すが,治療が有効であったということから逆に診 断をつけるというやりかたはあまりほめたことで はない。ただこういう言葉があるということをお ぼえておいて下さい.わが国ではV.B12の欠乏 による貧血はそんなに多いものではなく,たまた まそういう例がありましたのでお話したわけで す.V.B12の治療上の使い方ですが, B12は経口 投与では皿9単位の大量でないと吸収がわるい.
またB12欠乏の疾患はすでに消化管からの吸収 が不良であることが原因であることが多いので,
B12の投与は注射で行なうのが原則です.5〜12 γの量を毎日筋注してやる.大体1回30γの注射 で骨髄は翌日ぐらいにはもう正常化の傾向になる といわれている.毎日注射で症状がよくなって来 たら,月に1回20γぐらいの注射でよろしい.あ るいは2週間に1回10γぐらいずつ注射すればよ いといわれています.従来のB12はCyanocob−
alamineですが,最近持続性で大量投与のできる V.Bユ2製剤Hydroxocobalamineというのが宣伝
され発売されています.それは1筒100Cγ含まれ ています.これを使用するなら5日間ぐらい1000 γずつ連続注射すれば非常に症状はよくなる.そ の後は1ヵ月に1回1000γを注射してやればよい とされています.この患者はザーリー82%になっ たため,近所の医者で月に1回1000γ注射して もらいなさいといって退院させました.現在元気 でいるそうです.この患老はV.B12が有効であ
つたことは確かですが,骨髄像をみていないこ と,それから神経症状,悪性貧血の二合によくくる funikulare Myeloseですね,下肢に多いのです が,知覚と腱反射の消失,運動失調(Ataxie),
・そういうものがみられない.すなわち悪性貧血と いう診断根拠は一一つも得られていませんが,しか
しV.Bユ2が薯効を奏したという患老でした.
症例3は68才の男子,家族歴には特別のことは ない.既往歴でも殆んど医者にかかったことはな いということです.現病歴は昭和38年暮に感冒に
.かかり非常に咳がはげしかった.そして咳のため
.に心窩部が痛んだということですが,それ以来食 欲不振となり,身体の調子もおもわしくない.常 に胃の膨満感をおぼえていたそうですが,老令の 母親の世話をするために田舎に行った.その間当 地の医師の診察をうけて胃の薬を時々投与されて いたそうです.ところが昭和39年の10月頃より騨 の階段を昇降するとき息切れがして,動悸をおぼ えるようになり,それが日増しに強くなり,手足 の先が冷たくなかなか暖まらず,時々「めまい」
もするようになり,本年11月4日に当科に受診し たというわけです.入院時の所見としては,舌は 白苔でおおわれ,眼瞼結膜に貧.血あり,心臓では 心尖部で収縮期雑音がきこえます.肝は1横指ふ れますが,脾はふれない.それから頸部,腋窩部 にリンパ節が数個ずつ腫れています.血液をしら べたところ,赤血球113万,ザーリー値29%と非 常な貧一丁です.白血球は9,600,網赤血球0.2
%Or栓球82,490,.血液像ではリンパ球が非常に多 い,大小リンパ球合わせて76%もあります.貧.血 が著明であるが,白血球は減少していない..血液 像ではリンパ球が大部分を占めている.栓球はそ れ程減少していない. 血清鉄は2700r/dlでやや 増えている傾向にあります.リンパ節の腫脹があ
ることから,リンパ節腫脹を示す疾患が念頭に 浮ぶわけですが, それについては, 7月3日置
().P・CでReticulo$eが出ていますので,そのと ころをよく思い出していただきたい.
この疾患は何かということですが,強度の貧」血 があるということ,赤血球系も骨髄球系も減少し ている.血液像でリンパ球が多い.しかし白.血球
数としてはそれ程減少していない.この点は第1 例でお話した再生不良性貧血とはちよつと異なる
点です.それからリンパ球が主位を占めるという のに志下細胞減少症Agranulocytoseがありま すが,その二合には赤1血球系があまり侵されてい ないのが特微ですね.一体何だろうということに なる.骨髄をとって検査してみたところ,骨髄検 i査では細胞数が151,000で細胞数は減っていな い.また骨髄の血液像でもリンパ球が多くみられ ます.そういうことで,再生不良性貧血,三下減 少症とも違います.何かリンパ節腫脹を伴う特異
な病変ではないか.そこでリンパ節を一部別出し てその組織を検査しましたが,病理よりの御返事 では,Reticuloseか, Lymphatische Leukamie かということでした.それで一応Lymphatische LeukEmieではないかと老えて経過をみているわ
けです. しかし熱がないこと,Milztumorがな いこと,また貧血以外には一般症状がそれ程おか
されていないこと,それから胸部X線写真で中央 部におそらくリンパ節腫脹によると思われる縦隔 洞腫瘍様陰影がありますが,最近左上肺野に円形 の鳩卵大の陰影が出現して来ています.かかるこ
とによりLymphatische Leukamieということ ばかりでなく,他の悪性腫瘍の存在も考えなけれ ばならない.しかし貧.血が強いので,診断はとも かくとしてまず輸血をした.輸血をしますと症状 が非常によくなる.まず入院して来た時には赤血 球1工3万にザーリー29%,白1血球9,600というわ
けでしたが,輸血を200ccずつ10日聞続けた後,
赤.血球は220万,ザーリー一55%,白血球9,100,
その後輸血を断続して20日闇後の12月7日では赤 血球356万,ザーリー一670/o,白血球9,100,輸血
を中止して2週間後の12月18日では,赤血球355 万,ザーリー68%で貧.血の:方はよいのですが,白 血球は13,700で白血球増多が起こっている.貧1血 が強くないので輸血をせずにいましたが,2週間 半後の本年1月5日の血液所見では,ザーリー48
%,赤血球が260:万,白血球が16,500です.白血 球増多はすべてリンパ球の増加によるものです.
貧血がおこりましたのでまた1月8日より18日ま で200ccずつ輸血を行ないました.1月19日の血 S49苧
液所見ではザーり一76%,赤血球423万,白血球 6,700,数の上からみますと非常によくなってい ますが,血液像ではやはりリンパ球が大部分を占 めています.そこで再び輸血を中止しましたが,
約2週聞後の本日,1月29日の血液所見ではザー リー63%,赤血球352万,白血球14,000で,また 白一血球増多がおこっています.これも大部分リン パ球です.輸血をするとザーリー値,赤・白血球 数が正常にもどりますが,」血液像では常にリンパ 球が大部分を占めているということです.輸血で 良ぐなってくるということ,それから出血性傾向 がみられていないということで,現在のところ輸 一二だけで経過をみているところです.どういう治 療をすればよいかということですが,それは今後 の課題で,まず診断を確定しなければならないと
ころです.
もしもリンパ性の白血病と仮定するならば,現 在のところ特効薬というものがない.普通にみる 骨髄性の白血病であれば,急性の場合には6M.P.
慢性の揚玉はMyelan という具合に症状を緩解 状態にもってゆける薬剤がありますが,リンパ性 の血合にはかかるものがありません.そこでリン パ性白血病の揚合の治療は,貧血を回復するとい
うことに目標をおき,あとは出一血性素因,出血の 防止に努力するということになると思います.こ の患者では輸血をすれば良くなるし,中止すれば 貧.血がくるというわけで,貧血と輸血の追つかけ っこの状態です.一般にこのように何か主病変が あって,続発的に貧血が来ているような時には,
主病変を治さなければ貧.血も治らないわけです が,そのような場合でも貧血が強ければ,対症的 に貧血を治してやる必要があります.そのような 時には輸1血が一番有効ですが,貧血の改善の目標
をどこにおくかということですが,これは前にも 述べたように,ザーリー60%,赤血球300万とい うところにおいてよいと思います.現在のとこ ろ,それを目標にして,貧血が起こってくれば輸 血して,ザーリー600/eを越せば一応輸血を中止す
るということをしているわけです.何とかして,
早くこの患者の基礎疾患を発見してその治療をし ないと,いつまでも貧血と輸血の追かけつこで終 ってしまいます.
以上3例,第二病院でみた貧血の患者をおみせ したわけですが,貧血をみた揚合,一応高色素性 か,低色素性かを乙訓することが大切です.貧血
というものは教科書では一般に低色素性のものが 多いと言上されていますが,低色素性の良化は大低 鉄欠乏性貧血であることが多く,鉄剤を使用する のがよろしいのですが,ここでおみせしたように 最近経験する患者では,正色素性か高色素性の貧 血1も割合にみられるものです.したがって.血液検:
査を充分に行なうことが大切で,やたらに鉄剤を 使用することは充分愼んでほしいというわけで,
本日お話したわけです.何か質問はありません か.質問がなければ,診断がはっきりしない例で 申しわけないのですが,時間ボきましたのでこれ で終ります.