国鉄問題と労使関係
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(2) し. が. き. 早法六六巻三号︵一九九一︶. は. 一四〇. 日本国有鉄道は︑一九八七年四月一日︑﹁国鉄改革法﹂以下の諸法によって分割民営化された︒しかしそれは︑﹁日. 本国有鉄道の経営の現状にかんがみ︑その経営している鉄道事業その他の事業に関し︑輸送需要の動向に的確に対応. しうる適切かつ健全な運営の体制を実現する﹂という掲げられた立法理由にぽとうてい適合しない︑不合理な立法措. 置であった︒国民の交通権よりは株式会社として事業の採算を重視する経営への変更︑国鉄のもっていた資産の処分. と債務の処理︑などに大きな問題をふくむとともに︑分割民営化の実施の過程ではそれらの点を指摘して分割民営化. に反対した国労︑全動労の組合員らに対しての︑新会社への採用差別を始めとするさまざまな不利益取扱い︑組合破. 壊の方策がとられた︒こうした不当労働行為に対して︑一九九〇年末までに︑労働委員会で国労二二二件︑全動労七. 国鉄民営化批. 件の救済命令が出されている︒国鉄分割民営化が不合理なものであっただけ︑それを強行するためには︑これほど露. 骨︑大量の不当労働行為もあえてしたのだといってよいだろう︵佐藤昭夫﹁国家的不当労働行為論 判の法理﹂早大出版部︑参照︶︒. 国鉄の資産処分問題についていえば︑国鉄清算事業団におかれた資産処分審議会の運営でも︑国民の意見や批判は. 聴こうともしなかった︒国民に知らされるのは清算事業団理事長のコメントにとどまり︑審議経過どころか︑その答.
(3) 申自体さえ︑公表されていない︒こうした状況では既定路線に沿った一方的な計画作りを可能とする︒都心に残され. た二一・六ヘクタールの貴重な空地である汐留駅跡地についてみると︑八九年二月に資産処分審議会の答申を出し︑. 翌三月に国鉄清算事業団︑東京都︑港区の三者が出資して﹁レールシティ汐留企画株式会社﹂を作り︑﹁整備計画﹂. をすすめている︒その社長となった吉瀬維哉氏は︑中曾根元首相の私的諮問機関﹁経済政策研究会﹂のメンバーであ. り︑また国鉄再建監理委員会の委員でもあった︒この経済政策研究会は八四年一〇月に報告書を出しているが︑そこ. ですでに民間活力導入のビッグ・プロジェクトの事例として︑汐留地区開発計画などをあげていた︒そして八五年七. 月の再建監理委員会による分割民営化の答申をへて︑八七年四月にそれが実施されると︑吉瀬氏はその三か月後に﹁財. 団法人トラスト六十﹂の会長となる︒このトラスト六十は︑八七年七月に住友信託銀行の創業六〇周年を記念して発. 足したものであり︑理事長が住友信託銀行会長の田代氏︑副理事長や理事︑監事にはその社長︑副社長︑前監査役︑. 住友商事名誉会長などが顔を並べ︑評議員には住友信託銀行副会長や相談役のほか︑国鉄再建監理委員会の委員長・. 汐留駅跡地監視委員会発行﹁0マイル標識はどこに. ねらわれた汐留跡地﹂参照︶︒. 住友電工会長の亀井正夫氏がはいり︑信託制度の活用に関する調査・研究などを行うことになっている︵汐留駅跡地 の民主的利用を求める会. これではその計画は︑国民の共同の財産を生かすにふさわしい国民の衆知を結集するのではなく︑自分らの望む土. 地利用のため分割民営化を推進した人びとの︑思惑だけを反映したものとならなければ不思議である︒超高層ビル群. による企業センタ!︒それは人間の住む都市作りにとって最も避けなければならない︑一極集中・過密化の一層の増. 一四一. 大である︒そして現在︑国鉄用地の処分に関し︑地価を顕在化させない﹁土地信託方式﹂などいわれているが︑それ 国鉄問題と労使関係.
(4) 早法六六巻三号︵一九九一︶. 一四二. は一部の者の利益となる国有地の払下げを︑しかも格安で可能にするものではないのか︵佐藤・前掲書二〇1一二頁︶︒. こうした事態に対して︑私も参加している﹁汐留駅跡地の民主的利用を求める会﹂︵幹事・前川雄司弁護士ほか︶. では︑一九九〇年一〇月一二二三の両日︑東京地評会議室で︑﹁汐留跡地市民提案展﹂を行った︒ここでは︑汐留. 駅跡地利用計画として﹁水と広場に囲まれた自由広場構想﹂の模型展示などのほか︑記念講演として︑立山学﹁現代. 土地大泥棒﹂︑前川雄司﹁汐留開発の現状﹂︑佐藤昭夫﹁国鉄問題と労使関係﹂もおこなわれた︒つぎに掲げるのはそ のときの私の講演記録である︒. 分割民営化と鉄道事業. これから﹁国鉄問題と労使関係﹂という題でお話しさせていただきたいと思います︒﹁国鉄間題﹂と言いましたのは︑. さきほど前川先生から汐留の土地問題についてお話があった︒住友などの﹁民活﹂プロジェクトが先にあって︑それ. を作った人びとによって国鉄の分割民営化が決められていった経過などが事実に即してお話しいただいたわけで︑国. 鉄分割民営化に関する基本的問題の一つは︑資産処分︑土地問題にありました︒しかしそれとともに︑分割民営化に. よって本来の鉄道の事業の方はどうなっているのか︒次にこの点からお話ししていきたいと思います︒. 国鉄は︑国民の交通にとって必要な事業だから︑これまで国有鉄道として国民の負担で支えてきたものです︒それ. を民営化するについては︑さきほどのお話しにもあったように︑このままでは国鉄の赤字︑国民負担が雪だるま式に. 大きくなっていく︒それを避けるためには︑分割民営化するほかない︑という説明がされました︒事実︑それまで国.
(5) 鉄の経営が政治家の勝手にされたり︑官僚化して国民の反発をかったりすることがありました︒しかしこれを分割民. 営化するという︑その場合の﹁民﹂は国民の民ではない︒汐留の跡地の計画をみてもわかるように︑政府と結びつく. 民間大企業の民であり︑その儲けのための分割民営化であった︑ということになると思います︒. 国鉄時代には︑労働者のストライキは全面的に禁止されていました︒スト禁止自体はおかしいんですけれど︑その. 理由として言われたのは︑国民の生活にとってのシビル・ミニマム︑最低限の必要なことなのだ︑たとえばどんな山. の中でも郵便を配達しなければいけない︑それと同じに︑国民の足として必要な交通は︑いわば国民の生存権の一つ. である︒それだから一時も中断することは許されないということでした︒それを今度は︑儲けの対象にする︒. 民問企業は︑利潤を前提にしています︒だから民営になると︑JRの運賃も︑利潤を含めたものとして認可される︒. 国鉄時代には必要のなかった利潤まで︑国民が負担しなければならなくなります︒またそういうことを基本とします. から︑当然に儲からないところは︑どんどん切り捨てていきますね︒たとえば北海道ではローカル線はほとんど切り. 捨てられてしまった︒第三セクターに移されたところや︑バス路線に転換されたところもありますが︑それに対して. は︑地方自治体の金が注ぎ込まれていく︒それだけでなく運賃が猛烈に高く︑二倍にも三倍にもなρて︑子供を国鉄 で通学させていた人たちの負担は大変だ︑ということも聞きます︒. ですからJRになって︑七社で二千数百億の黒字でたいへん成功しているなど言われていますが︑しかしその内容. は︑実質的に国民負担が増えている︒それからロ;カル線は切捨てられるということになる︒北海道の豪雪地帯で国. 一四三. 鉄に頼って病院に来ていた人など︑それが閉ざされると命にかかわることにもなります︒過疎地帯についてそのよう 国鉄問題と労使関係.
(6) 早法六六巻三号︵一九九一︶. 一四四. な状態で︑それでは東京などでどうなっているかといえば︑さきほど話のあった︑人もまるで貨物と同じに座席もな. くして︑定員の三倍も四倍もつめこむという︒市場原理でサービスも良くなるといわれましたが︑山手線が二社走っ ているかというと︑そうでない︒競争ではなく︑独占です︒. それに整備新幹線にしても︑たいへんな金がかかる︒それを分割民営化の前しばらくの間はこれを凍結するといっ. ていましたが︑分割民営化になった途端にもう調査費で何百億の予算をつける︒工事施行の費用は何兆円規模で︑そ. の何割は国が︑何割は地方自治体がもち︑在来線は廃止する︑といったことが言われ出しています︒他方︑たとえば. この間の水害で九州の豊肥線がかなりやられた︒それの復旧ができないでいる︑というようなこともあります︒だい. たい北海道︑九州︑四国は営業的には苦しい地域で︑分割民営化のときには経営安定基金といって︑一兆円以上の金. をつけてやったところですね︒それを財テクに回して帳尻を合わさせるというやり方をやった︒そういう所で︑単年. 度の営業だけで収支を合わせることはできない相談です︒どこがやろうと︑国鉄の形でやろうと︑民営だろうとどっ. ち道できないから︑民営化するときにそれだけの金をつけたのです︒それでも国鉄のときは︑本州の収支が楽なとこ. ろとあわせて全国的に長期的視野から経営を考えることも可能だった︒ところが分割民営化で︑苦しいところをそれ. だけで切り離していくのですから︑そういうこともできなくなる︒苦しいところは︑苦しいところでやっていけとい. うことですから︑災害が起これば︑復旧も難しい︒そういう状態においこまれている︒そうするとやはり国の金で鉄. 道整備基金を作ろうなどという話がでています︒いまの新幹線を全部売り払って︑その値段をどうするかも間題です. が︑それを基金にして補助金を出したり︑整備新幹線建設の費用なども捻出しようというわけです︒.
(7) つまり︑必要な全国的鉄道網の維持ということを考えれば︑どっち道おおきな金がかかる︒その国の事業としてや. られていた国鉄を解体︑分割民営化してしまったのだから︑いまのようなさまざまな問題が出てきました︒. 一一事故の増大. それからもう一つ大きな問題は︑事故がひじょうに増えているということです︒しかも重大事故も多い︒国労の出. した資料からちょっと読んでみますと︑八八年三月上越線アルカディア号炎上︑八月東北本線貨物列車脱線転覆︑九. 月八戸線旅客列車脱線︑一〇月上越線貨物列車脱線衝突︑一一月中央線保線工四人死亡事故︑一二月東中野電車追突︑. 函館本線貨物列車脱線転覆︑八九年一月常磐線客車貨車衝突︑青函トンネル列車立ち往生︑山陽新幹線架線切断︑四. 月飯田線電車衝突︑一〇月常磐線貨物列車脱線︑とまだまだ続きます︒JR自身が非常事態宣言を出したり︑運輸省. から警告書を受けるといった状態です︒分割民営化への切替えをおし進めていた八六年一二月に余部鉄橋列車転落事 故がありましたが︑あれがその後のことを象徴的に予示していたと思います︒. その一方で︑労働者はどんな状態にあるのか︒山手線蒲田駅あたりで吐血し意識もうろうの状態の運転士に︑乗客. 分割民営化と不当労働行為 一つには︑. 一四五. 国鉄の分割民営化の内容がたいへんひどい︒前川先生のお話. から様子がおかしいとの通報があったのに田町駅までの運転を指令するという例︵八八年四月︶があったりします︒. 三. こういうことが︑なぜ起こってきたのか︒ 国鉄問題と労使関係.
(8) 早法六六巻三号︵一九九一︶. 一四六. しにあったように︑政府を動かす少数の一部の者が国鉄の土地をふくめ︑その資産を我がものにする︒それから鉄道. 経営のやりかたも︑国民の交通権や安全という点からも許すことのできないようなものになっていく︒しかもそれが︑. 事実をねじまげた理由づけでやられようとするのですから︑これにたいして事情を知っている人は反対の声をあげる. ということになるのが自然でしょうね︒国鉄の労働者だけでなく︑国民にたいして︑分割民営化は大きな不利益をも. たらす︒国民がそれを理解して国鉄の労働者といっしょになって反対するということになれば︑そのような分割民営. 化はうまくいきません︒そこでこの分割民営化の強行のためには︑まず国鉄労働者の反対を押さえること︑そしてそ の反対が多くの国民と結びつくのを阻止することが必要になる︒. こうしてこの分割民営化路線からは︑国鉄労働者にたいし︑その職を奪われるかもしれないという︑労働者の最大. の痛みをついての押さえ込みがはかられた︒分割民営化のさいの人員削減を前提として︑新会社に残りたいのか︑そ. れなら当局の言うことをきけ︑というやり方です︒そのため︑かつて鬼の動労といわれた戦闘的組合も路線を変えて. しまう︒自分たちは分割民営化に賛成して新会社に残る︑国労・全動労などを切れ︑清算事業団からの追加採用もす. るなというようなことまで言うようになる︒つまり︑労働者に仲間割れを起こさせたということです︒. さらにそれでも反対する労働者を国民と切り離すために︑分割民営化の臨調答申の準備段階からの︑原因を伏せた. ままの国鉄の赤字論での脅かしと︑それは労働者が怠けているからだという宣伝の繰り返し︒カラスの鳴かない日は. あっても国鉄労働者非難の出ない日はないというほどの︑世論操作のため意図されたとしか思われない︑マスコミを まきこんでの攻撃が あ り ま し た ︒.
(9) それともう一つ︑現実の採用差別もろこつに行われました︒本州の会社では︑あまりひどいやり方をしたためその. 将来に見切りをつけて辞める人が予想外に多かったという事情もあり︑国労の組合員を外そうとしても︑人数が足り. ないようになりました︒しかしそれでも︑組合活動をやって処分をうけた活動家を数十名︑定員を割ってまで不採用. にしています︒なかには︑横浜人材活用センターでのように︑助役に対する傷害・公務執行妨害罪で国労組合員五名. を告訴してみたものの︑検察官が証拠として提出したテープの裏面に︑挑発して問題を起こさせようという助役らの. 謀議のもようが録音されたまま残っていた︑という事件もあります︒しかもこれに関連して︑不起訴の者をふくめ五 名を 懲 戒 解 雇 に し て い る と い う 具 合 で す ︒. 不採算路線ということで多くの地方ローカル線を切捨て︑人員を減らすことにした北海道や九州では︑分割民営化. 賛成の鉄労︑動労の人たちは九九%台の採用︒反対を変えなかった国労︑全動労は四〇%台︒つまりどうしても足り. ない分だけをしようことなしに国労︑全動労で埋めたというやり方です︒それには︑職員管理調書に評点をつけた元. 助役の人が︑国労の組合員らには企業人意識や現状認識に欠けるなどいうことで低い点数をつけた︑分割民営化賛成. JRの労働関係と安全問題. の組合に移れば点数をあげるとようにしたと︑労働委員会で証言しています︒. 四. それからもう一つ出てきたのは︑採用のときに︑どういう条件で採用することにしたかということです︒これは︑. 一四七. 新会社の設立委員が労働条件の基準を示して国鉄職員から募集するものとされた︒それが何を意味するかというと︑ 国鉄問題と労使関係.
(10) 早法六六巻三号︵一九九一︶. 一四八. 鉄道事業はそのまま続いていく︒夜行列車は分割民営化の前夜からそのまま走り続けています︒労働は変わらずに続. いている︒それにもかかわらず︑労働条件を勝手に︑一方的に変えてしまうということです︒採用する者についても. 設立委員︑会社の側で好きなように条件を決めてそれで働け︑それで良いならJRで働かせてやるよ︑というやり方. で︑それまでの基準が全く崩されてしまいました︒国労の方に聞いてみると︑二〇年前の状態に戻った︑と言われて います︒. 例えば︑出向・配転については前には本人の同意なり︑意思の尊重が必要だったのですが︑それが取り払われてし. まいました︒そうすると︑分割民営化の時には新会社に残すか残さないか︑ということで脅しをかけてきたのですが︑. 今度はちょとでも気に入らないことをいうと出向に出すぞ︑いやなところに配転するぞ︑という形で同様に脅し続け. ることができるわけです︒分会の執行部を全部よそにとばす︒そして新しい人が執行部にえらばれると︑それもとば. す︒安全衛生委員についても︑同じです︒こういったやり方に︑歯止めがなくなってしまった︒上野保線区事件での. 都労委の認定では︑JR東日本・東京圏運行本部の施設部長が八三年一月二二日の現場長会議と二二日の事務助役会. 議で︑﹁当面の管理者の仕事は︑二月一杯までに国労を解体することだ︒本来業務はそっちのけでいい︒それを最優. 先して全力を尽くしてやれ﹂と指示したことが︑明らかにされています︒こうした労務管理体制のもとで︑労働者が. 危険だと感じても︑危険と言えないような職場︒JRの中で︑そういう状況が作りだされようとしているのです︒. 車両の検査・修繕︑工場などの職場でも︑事情は変わりません︒検査の基準も緩められる︒以前は分解して検査し. ていたものを︑のぞき窓からのぞいただけの目視検査ですませてしまう︒しかもそういうやり方で︑時間の競争をさ.
(11) せる︒あそこの工場では何時問で何台できたのに︑お前のところはどうなのだ︑できないならよそに行ってもらう︑. ということで︑スピードアップを強いる︒そのため︑どうしても見切り発車的な仕事にならざるをえない状況もある ようです︒. それはまた︑従来の優れた技術や︑責任ある発言を殺すことにもつながっています︒多能工化と称して︑それまで. の熟練が役に立たないような仕事をさせる︒たとえば︑今まで電気溶接の仕事をしていた人を︑ガス溶接の方に回す︒. それだけでなく︑実は電気の方の人がたりないので︑もとの職場に応援という形で行かす︒その人は国労の人で︑前. は職場の責任者として︑駄目なものは駄目と言っていた︒けれど今度は応援ということで︑いくら技術があっても発 言できないような立場にして戻す︑といった例も聞きました︒. ですから︑交通の安全という点からみても︑たいへん危険だ︒この点の︑経営側の掲げる基本姿勢も変わりました︒. 以前の国鉄時代には安全綱領として五項目が定められ︑そのなかには﹁確認の励行と連絡の徹底は安全の確保に最も. 大切である﹂とか︑﹁安全の確保には職責をこえて一致協力しなければならない﹂︑﹁疑わしいときは手落なく考えて. 最も安全と認められるみちを採らなければならない﹂ということがあったのに︑JRになってこれらは削られて︑. ﹁規程の遵守﹂︑﹁職務の厳正﹂といった抽象的で簡単な三項目だけにされてしまいました︒会社の事故統計で事故が. 減ったと言われたりしますが︑実は統計の基準を変えているのですね︒たとえば従来列車の遅れ三〇分以上としてい. 一四九. たのを︑一時間までは事故統計にいれないとか︒だから統計では見えない事故も多い︒ということは︑いつ大事故が 起こってもおかしくない状態だ︑ということです︒ 国鉄問題と労使関係.
(12) 早法六六巻三号︵一九九一︶. 一五〇. 労働条件についても︑さきほど言ったようにこれまでの歯止めが外されて︑たいへん非人問的なものになっていま. す︒ダイヤ改正で運転する人が怖くなっているような過密ダイヤ︒それでも定時を三〇秒遅れれば乗務を外されると. か︑食事やトイレの時間もないような生理的条件を無視した乗務時間にして︑携帯便器の貸与を提案してくるとか︒. もう一つ︑効率化ということで︑勤務時問帯が人間の生活を無視して勝手に決められるということもあります︒た. とえば保線の仕事で︑ある日は朝から夕方の五時までの勤務とします︒ところが次の勤務は︑その日の夜一一時から. 翌朝三時まで組まれたりする︒そうすると︑夕方五時で勤務が終わっても︑家に帰って休むこともできない︒また夜. 中の三時では交通機関のありませんから︑結局朝まで職場に居続けなければならなくなる︒こうして事実上まる一日. 拘束されて︑しかも勤務時問外の分は何の手当てもつかない︑というわけです︒経営のつごうだけで︑歯止めなしに. 人間の生理や家庭生活・社会生活を犠牲にする︒それが︑さきほど言った文句をいうと飛ばすぞという脅かしを後ろ. にもって行われている︒これは︑労働者の生活という面からみても︑それからそういう職場環境が生み出す疲労やス. トレスの増大︑それが安全面に及ぼす影響ということからも︑たいへんな問題だと思います︒. こういったことが︑分割民営化の結果おこっています︒そしてそれは︑﹁国鉄改革法﹂という特別の法律を作って︑. それを悪用してはじめてできたことでした︒ところがそういう状態になると︑今度は新会社のJRが︑たとえばJR. 東日本が子会社を作る︒JRバス関東とか︑東北とかいろいろ作って︑そこの仕事を切り離す︒そうすると︑そこで. 働いていた人たちはどうなるのか︒仕事はバスの運転ですが︑今までJR東日本でバスの運転をやっていた人たちが︑. 経営の主体が新しいバス会社に変わったので︑最初はそこに出向という形をとる︒それが五年なら五年後に︑子会社.
(13) に労働者も自前の体制をとらせる︒そこで出向していた労働者が出向が終わったということで︑もとの東日本に帰る. のはいいんだが︑やっていた仕事はバスの運転です︒しかしそれはバス会社の事業になっているのですから︑東日本. に帰っても︑運転の仕事はない︒だから本務から外される︒それがいやで︑バス会社に残りたかったら︑いうことを. 聞け︒こういう形で︑分割民営化のときにやったと同じことが︑またやられている︒団結の破壊と︑それと一体になっ た労働条件の切下げです︒. それだけでありません︒これらのやり方︑組合活動家など批判的な人たちを閉じこめて仕事の差別をする人材活用. センターとか︑そうした差別を使っての組合破壊がほかでもまねられている︒国鉄がやったことを︑俺たちがやって なにが悪い︑ということになるわけです︒これが分割民営化に伴って現れてきた現象です︒. 五 不当労働行為とのたたかい. それでは︑分割民営化に伴ったこうした差別が法律的に許されているのかというと︑それが許されない法律違反で. あることは明白です︒憲法二八条が団結権保障を規定し︑労働組合法でそういう団結の侵害は不当労働行為として禁. 止されています︒敗戦にいたる経験を経て日本の憲法ができたとき︑それまでの労働関係のありかた︑労働者の発言. を押さえつけ︑全く批判を許さないで戦争に駆り立てていったそういうことは︑許されない︑あってはならない︑と されたわけです︒. 一五一. ですから戦後の憲法は団結権を保障する︒労働組合法一条では︑﹁団結権の保障及び団体交渉権の保護助成により 国鉄問題と労使関係.
(14) 早法六六巻三号︵一九九一︶. 一五二. 労働者の地位の向上を図り︑経済の興隆に寄与することを以て目的とす﹂と定めていました︒当時日本の経済は戦争. で壊滅状態になっていましたが︑それを復興するためにも︑労働者の地位の向上を図らなければならない︒その上に. 築かれる経済の興隆でなければならない︒そうでないと︑侵略戦争に向かう危険は無くならない︒そういうような戦. 前の経済の在り方に対する反省が︑さきほどの法の規定となった︒労働者の地位を向上させ︑自由に発言できるよう. にしよう︒そのためには︑団結が必要だ︒だから団結を権利として保障する︒差別や脅しによってそれを侵害し︑組 合の在り方に介入する使用者の行為は︑不当労働行為である︒. そういうことで不当労働行為は禁止されているのですから︑いままで挙げてきたようなことは︑法律的に許される. わけはない︒許されるわけはないのに︑そういうことがやられているのは︑どうしてなのか︒. これは︑その悪事を告発する人間︑それに反対する運動︑それがなかったら︑実はことは闇に消えていきます︒ど. んな悪いことをしても︑それを悪い事だという人間がいなかったら︑何も無かったと同じことです︒ですから︑反対. する団結を潰してしまえば︑悪いことでも大手をふってやれる︒それをやろうとした人たちが︑いたわけです︒そう. はいかなかったが︑国労の修善寺大会のときにも︑路線変更をさせようとした︒昨日︑立山さんから社会党に対する. 批判もありましたが︑社会党の一部の人たちも当局といっしょにそれをやった︒今年の四月︑清算事業団の労働者が. 解雇されましたが︑そのときもそれらの人びとが動いた︒退職金を六か月分上積みさせるから︑採用差別されて清算. 事業団に入れられた者も︑自分で辞めていけ︑というわけです︒六か月分やるから︑差別を承認して闘争をやめろ︑ ということでやった︒.
(15) それに対して︑国労の人たちはのらなかった︒国労だけでなく︑全動労の人たちもそうですが︑一〇四七人の労働. 者が四月を越えて闘いを続けています︒地労委で︑さきほど言ったように明白に許されないことだとして︑もう二二 〇件以上︑不当労働行為の救済命令が出されています︒. ところが中央労働委員会では︑再審査の救済命令をまだ出し渋っている︒出す気なら︑簡単なんですね︒地労委で. 詳細な認定や判断をしているわけだから︑その判断の通りだと書きさえすればよい︒それを引き延ばしている︒だか ら闘いは︑もう一つ山を越えなければならない状況にあるわけです︒. 労働委員会の委員の任命の仕方は︑労働者委員は労働組合の推薦に基づいて選ばれる︒使用者委員は使用者団体の. 推薦に基づいて選ばれる︒その労働者委員と使用者委員の同意をえて公益委員を任命する︒その公益委員が命令を書. くということになります︒ところが誰をその労働者委員にするかということで︑これまた差別が行われています︒以. 前には︑総評とか同盟とか中立労連とかその組織人員数に応じて︑そこの推薦する者を労働者委員に任命していまし. た︒ところがこの九月に中労委の委員の任期が切れて新しく任命されたわけですが︑それが全部連合の推薦する委員 で占められた︒その同意する公益委員がどのようになるか︑という問題もあります︒. 六 国民の監視と参加を. しかし連合といっても︑たしかにその幹部のなかの一部の人たちは︑国労の闘争に冷たい態度をとっています︒今. 一五三. いわれている中東への自衛隊派遣にも賛成しているようです︒しかし連合の組合だから全部が全部そうかというと︑ 国鉄問題と労使関係.
(16) 早法六六巻三号︵一九九一︶. 一五四. そうではない︒たとえば自治労とか日教組というところでは︑国労支援の決議をしています︒団結の破壊︑活動家の. 隔離とか差別︑それと労働条件の低下というのは︑労働者にとって共通の問題です︒また︑先いった安全問題でも︑. 右も左もない︒JRに乗るかぎり︑事故がおこったら誰でもその被害をうけます︒それからこの市民提案展の主題で. ある汐留を始めとする土地問題︑前川先生のお話しで︑これは国民の共有財産の利用︑町づくりの問題であり︑ドイ. 人は住む. ツやアメリカの例もひいて市民参加ということがいわれました︒自分たちが自分たちの住む町をどう作っていくかと. いうことは︑市民のもっとも基本的権利の一つであるはずです︒最近︑早川和男先生の﹁欧米住宅物語. ためにいかに闘っているか!!﹂︵新潮選書︶という本が出ていますが︑お読みいただくと︑諸外国の事情を知るの によいと思います︒. そしてさらに︑今日お話ししたJRの労使関係も同様に自分たちの交通権︑安全問題や労働運動全体のありかた︑. 民主主義ということにもかかわってくる︒この労働関係についても是非皆さん方多くの市民による監視︑参加により︑. これを良くしていっていただきたい︒また国労の人たちは職場の問題でたいへんだと思いますが︑土地問題︑都市間. 題にも強い関心をもって︑こうした運動に全国各地で力を入れて取り組んでいただきたい︒これらの問題は︑根はつ. 根はどこにあるか. ながっており︑その解決には力を一つにすることが必要だと思うからです︒. 七. 時間がなくなってきました︒最初に司会の方からご紹介いただいたわけですが︑もう少し私の前歴についていいま.
(17) すと︑私は前の戦争の時には︑軍隊の学校にいっていました︒陸軍予科士官学校から航空士官学校にいくことに決まっ. た︒その時に敗戦になって︑特攻機に乗らずにすんだわけです︒このようなことがありますので︑教えられた軍隊の 教育がどういうものであったのか︑ちょっと話したいと思います︒. 将校教育の基本的教科書に︑作戦要務令というものがありました︒その第一には︑﹁軍ノ主トスル所ハ戦闘ナリ︒. 故二百事皆戦闘ヲ以テ基準トスベシ﹂と書かれていました︒軍隊は戦争を目的とする︒だから全てを戦争目的に集中. させよ︑ということですね︒だから戦争に役にたたないものはすべて切り捨てるということに︑当然なってきます︒. 国鉄分割民営化をやった当時の中曾根首相は︑その前にアメリカに行って︑日本を不沈空母化するといいました︒. 航空母艦は戦争のための道具です︒不沈空母化しようとすれば︑子供や老人などは戦争のときに足手まといになりま. す︒そういった者の教育や医療︑福祉は捨ててしまえ︑弱者の交通なども同様だ︑という論理になるのではないでしょ. うか︒軍隊の論理は︑こういうものです︒たとえば沖縄での戦争のとき︑住民を見殺しにするというどころか︑それ. らの人びとを壕から追い出して軍隊が入る︑あるいは住民の乏しい食料をとりあげたりしました︒それも︑戦争に役. にたつのは︑住民よりも軍隊だ︑だから軍隊を温存するために住民を犠牲にするのは当然だ︑ということになるので す︒そういう論理が︑形は変わってもまた復活しだしています︒. もう一つ︑軍人勅諭というものがありました︒これは明治一五年一月四日に明治天皇が陸海軍人に教え諭した文書. ですが︑そのなかに︑﹁我国の軍隊は代々天皇の統率し給う所にぞある︒昔神武天皇躬づから大伴︑物部の兵どもを. 一五五. 率い中国︵なかつくに︶のまつろわぬものどもを討ち平らげ給い︑高御座︵たかみくら︶に即かせられて天下しろし 国鉄問題と労使関係.
(18) 早法六六巻三号︵一九九一︶. 一五六. めし給いしより二千五百有余年を経ぬ﹂と言っていました︒これはどういうことかというと︑まんなかの国にいて言. うことをきかない者を軍隊をもって征服した︒日本書紀に書かれている天照大神の神勅では﹁葦原の千五百秋の瑞穂. の国はこれ吾子孫の王なる可き地なり︒宜しく爾皇孫ゆきて治せ﹂とあった︒要するに︑そこの葦が豊かに生い茂っ. ている土地は自分の子供らの物なんだと祖先の神が言ったのに︑いうことをきかない︒だから兵力で討ち平らげ︑天 皇の位についた︑とあからさまに公言しているわけですね︒. 今度天皇の代替わりで︑新天皇が即位の礼ということで︑高御座を何億円かかけて京都から運んでそこに登ろうと. しているのでしょう︒討ち平らげて高御座に即いたというのですから︑天皇の起源は征服・侵略者です︒私などは侵. 略された地方の者ですが︑侵略された者が何で侵略者を祝ったりしなければならないのか︒ところが現在の教育は︑. たとえば最近学習指導要領も改定になりましたね︒君が代や日の丸︑それを学校教育に押しつけてきた︒小学校六年. の社会科では︑﹁天皇についての理解と敬愛の念を深めさせること﹂とする︑と言っています︒前の裕仁天皇は︑﹁米. 英両国二対スル宣戦ノ詔勅﹂で﹁国家ノ総力ヲ挙ゲテ征戦ノ目的ヲ達成スルニ遺算ナカラムコトヲ期セヨ﹂と命じ︑. 多くの国民の目や耳や口をふさいだまま︑その生命︑生活のすべてを悲惨な侵略戦争に動員していきました︒自分の. 命令でよその国に攻めていかせ︑幾千万の人を殺したのです︒それなのに訪米後の記者会見で︑戦争責任についてど. う思うかと問われて︑文学方面のことは研究していないので︑そういう言葉のあやについては答えかねるといってい ました︒. 先いったように私は軍隊の教育を受けましたが︑すくなくともその教育でも︑命令権を持つ者がその命令に全責任.
(19) を負うのは当然のことでした︒そうでなかったら︑組織を信頼して動けないからです︒それなのに︑その最高指揮権・. 絶対の命令権をもって国民を戦争に追いやっておいて︑戦争責任については言葉のあやだなんて︑こんな無責任な人. 間を︑﹁真理と正義を愛し︑個人の価値をたっとび︑勤労と責任を重んじ自主的精神に充ちた心身ともに健康な国民﹂ ︵教育基本法一条︶の︑だれが尊敬できるので七ようか︒. いまの天皇は当時子供だったから︑戦争に直接の責任はないでしょう︒しかし敬愛ということは︑人間の感情︑心. の問題です︒それを︑法律的に﹁象徴﹂とされているというだけで︑その人間が人として尊敬に値するかどうかをぬ. きにして敬愛させようとするのは︑権力が人の心に土足で踏み込もうとすることです︒学習指導要領は︑個人の心情. 的独立を壊し︑国民の心を操ろうとしている︒天皇はそれに利用される可能性を持つし︑現に利用されているといわ なけ れ ば な り ま せ ん ︒. 国鉄の問題にしてもそうです︒政府や当局に批判的な組合を押しつぶし︑危険だと思っても危険だといえないよう. な状況︑正しいことを正しいと言えないような状況に追い込もうとしています︒そして分割民営化を提言した臨調答. 申は︑その片方で﹁防衛﹂問題については︑いわゆる総合安全保障の考え方を提起していました︒つまり︑憲法九条. が保持しないとした戦力を是認するばかりか︑むしろこれを支えるものとしてあらゆる政策を総合することを考えた. のです︒﹁防衛力の質的水準の維持向上に資するため︑効率的な研究開発を図る﹂など軍拡路線の上に立って︑国民. の生活を切り捨てていく︒そのなかで国鉄分割民営化はその臨調行革の二〇三高地だと言われたのです︒こうした関. 一五七. 係で︑現在の状況はでています︒汐留問題はその一つの焦点ということでしょう︒こうした関連もお考えいただきた 国鉄問題と労使関係.
(20) 早法六六巻三号︵一九九一︶. いということを最後に申し上げて︑ 私の話を終わります︒. 一五八.
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