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ドイツ労使関係の変容要件(1)

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(1)

その他のタイトル Necessary Conditions for Changes in German Industrial Relations (1)

著者 大塚 忠

雑誌名 關西大學經済論集

巻 48

号 2

ページ 97‑125

発行年 1998‑09‑30

URL http://hdl.handle.net/10112/13645

(2)

9 7  

論 文

ドイツ労使関係の変容要件 (1)

大 塚 忠

キーワード:リーン生産方式,労働の人間化,グループ労働,職務統合,システミックな合理化,品質 サークル,品質管理,改善活動,中間管理職

分類番号:

0 7 3 3 ,   0 9 1 3 ,   1 0 3 5 ,   1 0 4 0 ,   1 0 7 1 ,   1 0 7 3 ,   1 5 1 3 ,   1 5 1 4 ,   1 5 3 3 ,  

1.  はじめにーリーン生産方式の衝撃一

リーン生産方式として, トヨタ自動車の生産システムを典型とした日本的生産方法がドイツを始 めとしてヨーロッパ中に知れ渡ったきっかけは,

MIT

の国際自動車プログラムによって行われた世 界の自動車組立工場の調査結果を,

1 9 9 0

年にウォマックたちが『リーン生産方式が,世界の自動車 産業をこう変える』にまとめ,自動車生産の仕方を,手作り生産から大量生産を経てリーン生産へ と展開するものとし,アメリカの自動車産業は8

0

年代にリーン生産から学んで新しい方式に移行し ているのに,ヨーロッパの自動車産業はまだ大量生産から抜け出してはおらず,このため市場を失 いつつある,という警告を発したからであった。ウォマックたちがリーン生産で意味していること は,生産システムばかりでなく,製品開発における開発期間の短さや,系列関係の維持や消費者と の長期的取り引き関係の維持など多方面に及ぶのだが,組立工場の比較が調査の中心に据えられた こともあって,生産システムに議論の力点が置かれていた。ジャストインタイムや生産の平準化,

そして自働化などがリーン生産方式の特徴として描かれ,

G M

やフォルクスワーゲンで試みられた ような大量生産技術を自動化していく方向よりも, トヨタがとったチーム労働によるフレキシブル な生産方法の方が標準的な車を組み立てるのにより少ない作業量で済む,つまり効率的であると論 じたのである。複雑な組立作業の自動化は保全作業に多くの時間を要するばかりか,多くの間接労 働者を必要とし,結局は生産効率を落とすからである。そしてリーンな生産に至るためには,工場 組織を,作業員に作業上の権限を委譲した分権的な組織に変え,かつ問題解決能力を持つシステム にかえること,つまり作業組織を能率的なチーム労働で行うこととしたのである。

1 9 8 9

年時点でヨ

本稿は,平成

9

年度関西大学学術研究助成基金「奨励研究』によって行った研究の成果の一部である。

(3)

ーロッパの自動車産業では,チーム労働は日本の

70%

に比して

0.6%

しか実施されていなかった。量 産車の生産性と品質の点でヨーロッパの自動車産業は,日本に大きく差をつけられていた。それば かりか,高級車の生産でもかなりの差がある事が分かり,ウォマックたちは,これら高級車製造工 場のマネージャーや労働者たちに蔓延している職人意識を払拭して,早くリーン生産に移ることを 主張していた。

9 1

年にウォマックたちの本のドイツ語版『第二次自動車産業革命』が出て,産業界や労働界そし て学会や政府各省内で「リーン生産」をめぐる活発な論争が展開された。ただし,労働界や関連学 会はほとんど日本方式に拒否的か懐疑的であり,経営者団体は金属産業使用者団体総連合(以下金 属総連合)をとれば,ウォマックたちの著書に刺激されたことは認めながらも,リーン生産と同じ 内容については,すでに

8 6

年に新しい技術と労働をめぐる政策提案をし,以来とりわけ

8 9

年の包括 的な小冊子「人間と労働」で論じてきており,したがって「リーン生産」を金属・電気産業競争力 強化のためのコンセプト拡大に利用はするが,意識的にコピーすることはない,としてドイツの独 自の方向があることを示唆していた。それによれば, ドイツの競争力強化の要は共働者(従業員)

の潜在的な作業能力と意欲を高め,利用し,その発展を妨げるものすべてを変えることである,と されていた。つまり技術よりも人的資源開発による競争力強化が基本とされていたのである

( G e s a m t m e t a l l ,   [ 1 9 9 3 ]  1 6 1 )

。金属総連合は,

9 2

年秋になって,小冊子「人間と企業」を発行し,

そのなかでより具体的に競争力強化のために

1 2

の提案を行っている

( G e s a m t m e t a l l ,[ 1 9 9 2 ] )

。興味 深いのは,これら提案を実現するために,まず企業のトップ層に多くの点で発想の転換と態度変更 を行うことが求められていることである。それが行われれば,中間管理職も共働者たちもなれきっ た道を外れ,古い行動様式を変えるだろう,と期待されていることである。第

1 2

提案に含まれたこ のような前提条件の下に,以下

1 1

の提案が出されているのだが,これら提案は, ドイツの企業組織 では例外的な,しかし各企業が早急に取り組むべき課題として認識されているものであった。

1 .  

労働内容と労働組織そして労働意欲を促進するように形成する

2 .  

グループ労働の利点を活用する

3 .  

計画と実行の分野の業務を統合し,同時的エンジニアリングによって製品開発を進める

4 .  

技術を効率的かつ共働者にあわせて投入する

5 .  

共働者の技能と知識を維持し高める

6 .  

労働の質を高める

7 .  

労働時間を柔軟にする

8 .  

労働報酬を能率と協同作業促進的にする

9 .  

労働を健康に配慮して形成する

1 0 .  

共働者が情報を得,参加する

1 1 .  

経営協議会と信頼しあって協働する

提案の第

1

は,モチベーションを高めるために,労働に意味を持たせ,行動や職務形成に余地を

(4)

ドイツ労使関係の変容要件 (1)(大塚)

99 

あけ,学習可能性を提供すること,そして責任意識を育成することなどが,特に実行レベルの労働 者に必要だ,とされている。

2

提案は,中央での詳細計画と操縦方式の限界認識と,見渡せる範囲で自己責任を持って行動 する小規模な組織を縦横に作ることと,それらをメンバーの自己規制的なグループに作り上げるこ とである。労働の範囲は,個々の職務ばかりでなく,保守や在庫管理そして品質保証のような間接 労働にまで拡大される。作業集団のオートノミーは時間や作業組織の計画から,シフトや休暇まで に及ぶとされている。ただグループリーダーの多くはマネージメントによって任命され,そうでな い場合には,グループの選出による,となっている。このようにグループ労働が主となることから,

賃金もグループを基準とし,協同作業促進的に設定され,メンバー相互の能率格差を配慮したもの となる。一個所で部品や製品を多人数で完成させる製造島も,生産経過時間の短縮,在庫・欠陥品 の縮小,共通費の削減や注文への対応の速さなどで利点があると,すすめられている。納期や生産 量,品質基準の範囲内で,計画や実行がグループ内で行われるので,自律性の程度は高い。ただこ の場合,マイスターの役割としては,専門に関する能力は期待されなくなり,それよりも人事管理 や人材開発,労働システムのいっそうの改善などが主になって,従ってより社会的能力(コミュニ ケート能力)が要求されるようになる。

3

提案は,課業統合のすすめで,間接作業を職場に移すことや,間接部門である設計,購買・

販売などを一つの部門に統合することなどが論じられている。市場の変化や顧客の要求にすばやく 応じられるからである。と同時に,開発チームには,開発・設計ばかりでなく,マーケティングや 生産部門,会計部門からも構成メンバーが集められること,そのことによって同時的エンジニアリ

ングが可能になり,開発から生産までの期間が短くなるという。

4

提案は,技術と人間と組織の最適な関連に配慮すべきことを述べている。技術は共働者の能 力を開発する限りで導入さるべきであり,技術優先であとから労働組織を適応させるのではなく,

技術の選択が工程や労働組織をどう形成するかによって行われるようにするのが重要である。それ ゅぇ,高度に自動化された複雑な生産設備の場合でも,共働者は残余作業をするのではなく,シス テムレギュレーターか問題解決者として投入さるべきである。

5

提案は,企業内実地継続訓練の重要性についてである。学習能力を維持向上させて,より一 層の専門能力,問題解決法そして社会的能力を高めることが,求められている。なぜなら,例えば,

専門工は今日では,装置の担当者として前後の職位や,工場長,保守サービス,受注部門と協働を 余儀なくされていて,それなりのコミュニケーション能力と協力が必要だからである。実行レベル での作業要求の多様さも共働者に技能と知識を向上させることを求めている。

6

提案は,労働の質を上げるとして,開発から生産の全過程で時間と費用を必要とさせる手直 し作業を無くすこと,また全社的な品質責任への取り組みが求められている。品質を検査によらず 工程で作り込むこと,そのために次工程を顧客にみなし,欠陥品を受けとらず,渡さないという対 応をすべきだとされている。したがって実行レベルの共働者には,そのような訓練が行われるべき

(5)

であり,また,既に第

2 , 3

提案で述べた措置が実施されなければならない。チームワークがよけ れば,欠陥品を次工程に送ることは防止でき,またジャストインタイムで仕事が展開されて,短い 経過時間が維持されていれば,早期に欠陥が発見され,修正される。したがって中間在庫の少ない ことと,経過時間が短いことは,品質保証の手段である。また,資材の流れが滞らぬよう職場設計 がなされなければならないのだが,それには既に述べた,課業の統合,より大きな責任,実行レベ ルヘの権限委譲,小集団の形成などが必要である。そして,改善活動の重要性も指摘されている。

1

企業の競争力を高めるイノベーションはめったにないし,それ以上に重要な競争力は少しづつの 改善の積み上げであると。共働者をこの改善活動に従事させるために,問題識別能力が育成されね ばならないし,障害が除去され,刺激が与えられなければならない。手段としては,グループ労働 の活用や,上司の問題提起や提案へのすばやい反応などが指摘されている。

7

提案は,フレックスタイムを用い家庭と事業所の相反する時間配分をうまく調整することの 必要を論じたものである。

8

提案は,労働報酬についてであるが,課業とその遂行に関連して,また能率に応じて支払わ れることを求めている。将来は,責任や協調性,共働者の指導などに応じて支払うべきだともして いる。

9

提案は,労働災害を事前に防ぐために,労働科学に基づく人間工学による職場形成をするこ と,健康を害するような活動には,大部分機械による作業とすること,また,能力不足で負担が来 ないように課業相当の知識と技能を持たせること,またフレックスタイムも利用すること,などが 求められている。

第1

0

提案は,責任ある,自律的な,フレキシブルで協調的な共働者であるために,十分情報を得 て,職務の形成に協働することが必要だとされている。特に労働組織や職場の変更については,適 切な時間に情報が伝わることが必要である。また,上司による生産とサービスの重要性についての 情報,企業による企業目標と経済状況についての情報も必要である。上下左右に情報交換がスムー スにいくこと,そうして職場や課業形成への共働者の参加がすすめば,変化への受容性が高まり,

抵抗も少なくなる,また問題識別力があがり,改善提案が多くなる。さらに,早期に開発計画に参 加するようになれば,知識や技能の不足がわかり,技能アップの処置が準備できる。

1 1

提案は,経営協議会との信頼に基づく協働である。これがあれば,困難な状況を何とか切り 抜けることが期待される。必要なことは,事業所と協議会双方が,厳しい問題を意欲と協調とであ たることであり,共同決定の義務のある場合でも決定を外部に委譲しないことである。そして,す べての労働と技術の形成に協議会は情報を得,解決が求められれば助言に入る。部門を超えた統合 のような場合は,職務や労働組織の形成は複雑で,利害対立を引き起こしやすいので,関係者全員

と協議会の協働で解決されるべきである。

以上が提案の骨子であるが,このうち8

9

年の「人間と労働」にすでに盛り込まれていた提案は,

1

から

5 , 7 ,   9

から

1 0

である。つまり

9 2

年秋の「人間と企業」には,経営トップ層の発想の転

(6)

ドイツ労使関係の変容要件 (1)(

I O I  

換と態度変化を求めつつ,第

6

提案が代表しているように,「リーン生産」の中心的な課題である,

日本的品質管理や,それを改善活動につなげていく方法の習得の必要性が盛り込まれ,それに従業 員と経営協議会の参加の促進が追加されたということができるのである。ウォマックたちの本の影 響は明らかであり,小冊子が冒頭で経営者に発想や態度変換を求めたのは, ドイツ金属・電気産業 の競争力回復の緊急性が認められたからであろう。そして

1 1

個の提案のベースに流れているものは,

グループ労働への労働組織の転換であることは容易に理解できるであろう。

金属総連合の啓蒙が功を奏してか, ドイツ金属工業や化学工業においてグループ労働が急速に広 まるのは,

1 9 9 0

年代に入ってからである。ドイツの自動車企業には,

1 9 9 0

年に被用者の

4 %

にテス トケースの形のグループ労働が展開されていたにすぎなかったのが,

9 3

年には

9.5%,9 4

年には

2 2 . 2

%と広まった

( S .R o t h ,   [ 1 9 9 6 ]   1 1 3 )

。機械工業では

1 9 9 1

年に既に加工部門か組立部門のどちらか にグループ労働を導入している事業所は

29%

に上り,

9 3

年にはそれが

60%

を数え,さらに計画中の 事業所は

17%

に上った。化学では,使用者連盟の調査で,

9 5

年に

28%

の企業でグループ労働があり,

21.8%

が計画中であった (R.

B a h n m t i l l e r ,   [ 1 9 9 6 ]  1 0 )

。いずれも

9 2

年からの不況を経験してからの 経営主導の導入であり,競争力強化のための措置であった。つまり後により詳しく紹介するように,

自動車工業でも,機械工業でもグループ労働導入の動機は概ねリーンな生産の影響を受けたためで あった。

第 一 章 ドイツにおけるグループ労働コンセプトの変遷 第一節 「労働の人間化」の帰趨

ドイツでグループ労働の効果や意義が知られていなかったわけではない。大量生産工場での繰り 返し・単調労働への批判,異動やアブセンティズムの横行,そして

7 0

年代初頭の自動車工場の大規 模な山猫ストライキの展開と,大量生産工場の労働•生産組織見直しの契機は,他の欧米諸国と同 様にドイツにもあったことはすでに「労働の人間化」論との関わりで我が国でも詳しく知られてい る(奥林,

[ 1 9 8 1 ]8 4 ,  

[ 1 9 8 3 ] 1 7 6 ,   1 7 8 ,   1 9 8 ,  

風間,

[ 1 9 9 7 ]9 3   N. 

アルトマン,

[ 1 9 8 7 ]6 4 ‑ 6 7 )

。組合サイドからのこの問題への関与の特徴を指摘しておけば,

7 0

年代には共同決定機構の充実

を図る形での対処がなされていた。

7 2

年の経営組織法改正で,経営協議会は会社施設や技術,作業 方法や作業経過そして職場の変更に計画段階から助言や提案を与えることが可能になり,その際会 社と協議会は労働科学的知識に基づき人間的労働の設計を考慮することが求められ

( 9 0

条),そして これら変更が労働科学的知識に反する場合は,経営協議会は共同決定権として労働負荷の緩和の処 置を求めることができた

( 9 1

条)。さらに

IG

メタルは,

1 9 7 3

年に北部バーデン・ヴュルテンベルグ

2

賃金基本協約でベルトコンベアーシステムの規制を実現している。最低タクトタイムの設定

( 1 .  5

分)や

1

時間あたり

5

分の回復時間や

3

分の個人的必要時間の設定,そして努力義務としての 職務拡大,と職務充実がその内容であるが,大量生産工場における労働の人間化への第一歩が踏み 出されている。この協定によって,経営協議会はドイツで発展してきた産業工学(レファ方式)的

(7)

知識を基礎に,新たな職場の変更にばかりでなく,日々の職務設計と標準時間の設定にこれまで以 上に関与ができるようになった!)。だが,

7 0

年代の労働組合の取り組みは,このように経営協議会の 関与を強化する形を取るのだが,当面労働組織としてグループ労働を促進する方向には向いていか なかった。職務拡大,職務充実そして作業のローテーションを図る半自律的労働集団の形成を理想 とする「労働の人間化」は,その自律性ゆえに,労働組合の影響の及ばないものとして理解された。

7 4

年のドイツ労働総同盟の会議で,産別化学の

w .

フィットは,職場の共同決定を指導技術や社会 技術が機能変化させることに警告し,「職場のオートノミーが経営協議会や組合職場委員の影響を簡 単に弱める」

( M .Schumann,  [ 1 9 9 3 ]  1 8 9 )

と述べていた。

7 4

年からは,

H.

シュミット政権下で「労 働の人間化」に関する研究と成果の普及で,大規模な財政援助政策が展開されるのだが,その結果 が出始めた

7 8

年の大会でドイツ労働総同盟は,労働組合の組織と参加の権利でもって労働者の就労 保護や人間的労働を守るから,という理由で半自律的な集団労働のモデルと概念を拒絶しているし,

グループリーダーの設置も,経営協議会や個人協議会そして職場委員で被用者の利益は代表できる からと,これを拒否していた。

8 0

年には,ドイツ労働総同盟の,研究機関

WSI

がそのグループ労働 についての研究プロジェクトの結果を発表しており,それによると,グループの自律性に応じてメ ンバーや作業配分,グループリーダーの選挙などで争いが生じる,また作業集団のオートノミーが 既存の集団的な被用者の権利を個人化し弱める,と半自律的集団の危険性を指摘する研究結果にな っていた (R.

B a h n m i . i l l e r ,   [ 1 9 9 6 ]  l l f . )

。フォルクスワーゲンのザルツギッター工場の実験は,労 働条件の向上と行動余地の拡大,技能向上などを目的に展開されたが,新しい賃金や技能資格のコ ンセプトができなかったなどの困難に加えて,グループリーダーの利益代表化の動きが出て組合と 経営協議会の反発を買い,その結果他のプロジェクト,特にグループ組立ての試みはもはや実施さ れなかった,という (U.

J i . i r g e n s / T .  M a r s c h e / K .  D o h s e ,   [ 1 9 8 9 ]   1 1 6 f . )

。また

M.

シューマンによ れば,政府プロジェクトに関する中間報告で組合は,「労働の人間化」措置によって部分的に,労働 条件,技能水準,多能化の改善があることは知ったが,半自律的グループやその利益代表には不信 を表明していた。

IG

メタルの組合役員用雑誌『

G e w e r k s c h a f t l e r

』には「自律的労働集団に関する ばかげたこと」というタイトルの記事が載ったという

( M .Schumann,  [ 1 9 9 3 ]   1 9 1 )

。つまり, ド イツの労働組合は, ドイツの二重の労使関係の範囲内で職務拡大や職務充実,そして技能資格水準 の向上を実現する「労働の人間化」の道を当面選択していたのであり,二重の労使関係システムを 脅かす半自律的作業集団は不要だと判断したのである。

ドイツの「労働の人間化」のモデルは,いわゆる

STS

理論(社会技術システム論)に基づくスカ ンジナビアの社会民主主義の構想から大きな影響を受けたものであったから,経営側からはもとも と実験的な試みを超えた関心を引き出すのは難しかった。そして実験によって生産のフレキシビリ ティーと労働意欲が高まり,労働条件が向上することが期待されたが,経営側の中間決算ではそれ

らの効果が保証されず,しかも技能資格向上と賃金の引き上げでかかってくる費用はかなり多額に なることが明らかになった。「労働の人間化」は経済的に引合いそうになかった。そのうえ実験を超

(8)

ドイツ労使関係の変容要件 (1)( 103  えて実施にいたるまでには多くの困難があった。たとえば,作業現場には多くのテーラー主義者た ちがいて,「自律する頭脳」への不安と抵抗を隠さなかったし,テーラー主義的賃金設定に代わる集 団的な賃金設定は現実には困難であった等々

( M .Schumann,  [ 1 9 9 3 ]   1 9 1 £ .  C.H. A n t o n i ,   [ 1 9 9 4 ]   1 4 )

それに加えて,

7 0

年代末からの「日本の挑戦」があった。日本の競争力の秘密は,安い賃金でも 保護主義的な措置でもなく,急速に品質で成功を収めた生産現場にあることが伝えられ, ドイツか

ら日本の工場への頻繁な訪問が繰り返された。ドイツの集団心理学者たちは特に自動車工業でこの ような「日本ヒステリー」が蔓延したことを伝えているが,彼らによれば,訪問で持ってかえった のは,かんばん方式や

QC7

つ道具ではなく,指導哲学としての品質サークルであった。生産のフ レキシビリティを実現したい経営にとっては,半自律的作業集団のような会社への忠誠が確保され ない労働組織よりも日本の小集団活動による従業員の高い勤労意欲と会社との「結婚」はより魅力 的であった。しかし,この初期の

Q C

サークルは,実験は行われても, ドイツ人がまねできない日 本の文化的特質として会社への強い忠誠心が強調されたことや,

IG

メタルを初めとして,労働組 合の会社主導の労働者参加措置への強い反対があったために普及はせず,こうして

7 0

年代末の「日 本の挑戦」は当面ドイツの経営組織にこれといった大きな変化を与えることはなかった

( C . H .   A n t o n i ,   [ 1 9 9 4 ]   2 0 ,   W.  B u n g a r d ,   [ 1 9 8 8 ]   5 4 ,   [ 1 9 9 2 ]   6 ,   R .  B a h n m i l l l e r ,   [ 1 9 9 6 ]   1 4 )

ところで,この場合,「日本の挑戦」といわれた競争力の基盤が,ジャストインタイムや経営トッ プ層の全面支援を受けた全社的な品質管理活動とそれに連動した改善活動にあったことは言うまで

もないことだろう。その特徴は,技術者でなく,現場生産労働者,とりわけ日本的年功制の中での ラインマネージャーである職長やその候補たちがイニシアチブやリーダーシップを発揮して

Q C

ークルや改善サークルを担い,それを一般労働者にまで広げたこと,そして彼らが品質管理や生産 管理に参加すること自体がすでに生産現場における構想と実行の統合であり関係メンバーには高い モチベーションを与えることを可能としたこと,サークル活動による問題の発見と分析を通じて結 果する大量の改善提案が,全部ではないにせよサークル間のコンペを通じて全社的に認知され,ぁ るいは改善班によって取り上げられて実施に移されていくことで,生産性の高まりと品質の向上が 達成され,結果的にサークルメンバーのモチベーションを高め,かくて大量生産に伴う単調,繰り 返し労働の疎外感を一定程度埋め合わす効果を持ったことなどであろう

( R . E .   C o l e ,   [ 1 9 7 9 ]   1 6 0  

‑ 6 7 ,  

野村,

[ 1 9 9 3 ] 1 2 1 ‑ 2 6 ,  

宇田川・佐藤・ 中村・野中,

[ 1 9 9 5 ] 9 1 ‑ 1 0 6 ,  

藤本,

[ 1 9 9 7 ] 7 7 ,   1 1 3 ‑

18)2>。しかしドイツでは日本の品質管理運動のモチベーション効果については知られたものの,ぉ そらくベルトコンベアーシステムが組立工程で用いられ,ィンダストリアル・エンジニアーリング に基づく標準作業の見直しがたえず行われており(この点でテーラーシステムはより強化されてい 3),  技術的にこれといった相違や遅れはないと判断されたのであろう,品質管理の担い手や手法 について,あるいはそれと密接に結びついて展開されている日本的生産管理についての詳しい情報 はまだ伝わらなかった。結局,

7 0

年代までの日本の小集団活動の影響はドイツでは実らず,構想と

(9)

実行の分離に基づく専門化と階層機構の存在,単純繰り返し作業の存続などいわゆるテーラー・フ ォードシステムにたいしては根本的にはこれといった対策はとられないままであった。

第二節 自動化への道

「日本の挑戦」には自動化,とりわけフレキシブルな組み立てシステムで答える,というのがド イツの自動車企業の採った方針であった。

8 2

年には

7 0

年代の

3

倍の総額

9 0

億マルクという巨額の設 備投資が行われ,フォードを初めフォルクスワーゲンなどドイツの自動車工業の巻き返しが始まっ ている

( H . Kern/M. Schumann,  [ 1 9 8 4 ]   5 9 f . )

。この時期のテクノクラート的な状況克服策をとっ たドイツの自動車生産の自動化と労働組織の変化をケルンとシューマンが『分業の終焉』で描いて いる。この著書が重要なわけは,企業の競争戦略が展開され,自動化によって人間労働の存在意義 が失われようとしている自動車や化学産業で,実際にそれに付随してわずかでもあれ新しい多能的 プロフェッショナルが育成され始め,彼らを含んだチーム労働が展開されていることを明らかにし,

しかもこのような新しいタイプの労働がこれからのドイツの生産労働の中心となっていくと想定し て(「新しい生産概念」の提唱), ドイツにおけるグループ労働の可能性を強くアピールしたからで ある。

8 3

年調査時点でドイツ自動車工場の自動化の程度はすでにかなり高く,機械加工で

75%,

部品組 立で

25%,

プレスで

60%,

車体製造で

40‑70%,

塗装で

40%

そして最終組立で

10%

であった。その うち特にフォルクスワーゲンの自動化プロジェクト「ホール

5 4

」は, ドアーやバルブや座席に加え て,ガソリンやブレーキのパイプ,バッテリー,石油タンク,モーター,ギャー,排気管と車体の 間の保温板,排気管,車軸,バンパ,タイヤの防護用カプセルなど多くの部品を最終工程で自動で 組み付けることを可能にし,結局

30%

を超える自動化率となった

( H .Kern/M. Schumann,  [ 1 9 8 4 ]   6 0 f f . ,  S .  R o t h ,   [ 1 9 9 6 ]  1 2 1 ,  

風間,

1 9 9 7 , 8 1 ‑ 3 )

。産業用ロボットを典型に,マイクロエレクトロニ クスを利用した機械は多機能であるばかりか,高いフレキシビリティーを実現しまた豊富な制御機 能を可能にしたし,センサーやネットワーク技術が導入されて,複雑な組立てや組立て部品の変更,

製品の多様性やその変更,品質検査とコントロールの高費用などに対処が可能とされたことが自動 化の推進力となった。そしてそれに必要な労働力がドイツの自動車工業にはあった。

7 0

年代末から の不況で多くの熟練エが自動車工場に職を求めていたし,さらに訓練場が縮小する中で自動車工場 は政治的にも比較的多くの訓練生を採用しており,この訓練修了者たちがほとんどそのまま自動車 工場に残ったから,自動車工場の方は,若い新規訓練修了者を直接生産工程に配置させていた。そ して経営側の考えは,これら労働力をフレキシブルな自動化と統合された職務へという転換を容易 にするために利用することであった

( H .Kern/M. Schumann,  [ 1 9 8 4 ]   5 6 )

。実際自動化にともな って,いわゆる残余労働といわれる単純労働を担当する労働者が残存する一方で,生産労働は高度 化し,職務統合を要するようになった。保守作業はプログラミングや複雑な電子技術や機械技術が 必要だったし,品質管理は欠陥品をはねるのでなく,その原因を探るように変化してきており,自

(10)

ドイツ労使関係の変容要件 (1)(大塚) 105  動化や自主検査が現場検査工を不要化し代わりに品質保証の専門家を必要としていた。そして,車 体製造工場には,若い半熟練エが継続訓練を受けて,工程指導係

( S t r a B e n f i l h r e r )

として装置の操 作プログラムを直し,供給の確保や工程監視,そして簡単な保守・修理を担当していた。彼らは複 数職務を担当しつつ,電気・電子工や仕上げエ,品質専門工などとチームを組んで作業していた。

継続訓練を受けた半熟練エが中心的な生産者になっているのは,担当させやすかったのと, ドイツ の伝統的な熟練資格構造からすればコンフリクトが避けられるからであった。チーム作業は集団的 であったが,工程指導係のモチベーションの高さが指摘されていた。ただ,フォルクスワーゲンの 最終組立工程の工程指導係は,電気か機械の専門エの資格を持っていることを担当条件とされてい た。訓練の終わった若い専門エが多数組立労働者として働いていたからである。こうして,機械加 工工程のトランスファーマシンの装置担当者とほぼ同じ作業をこなし,なお生産労働者の

1%

を占 めるに過ぎないが,徐々に少しづつ増えていく工程指導係というプロフェッショナルが生まれつつ あること,プレスの段取りチームも含めチーム労働が形成され始めていることが指摘されたのであ

( H .Kern/M. Schumann,  [ 1 9 8 4 ]   7  4 ‑ 8 6 ,   9 3 ‑ 9 7 )

。そして同じくチームの中心になって働く,

化学工場の継続訓練を受けた半熟練の装置指導係とともに,彼らがドイツの将来の生産労働者の中 心になる,というのがケルン・シューマンの「新生産概念」であった。

ケルン・シューマンの予想はなかなか実現していかなかった。その事情をユルゲンス達が伝えて いる。アウディーのインゴールシュタット工場で,

8 2

年に車体製造工程に

1 0 0

台の溶接ロボットが導 入され,溶接工程の製造と制御そして予知と監視システムが整備されたのだが,その際に,工程指 導係,装置とロボット係,品質検査係そして単純作業につく装置補助作業員の半自律的チームが結 成されている。工程指導係はチーム全体の調整を図り,補助作業員は部品を倉庫や装置に入れる作 業のほか,統合職務として現場の小さな保全,修理作業まですることになっていた。ところが,期 待された課業のローテーションは,専門エと

OJT

によって訓練を受けた半熟練工のあいだの分断 があって行われなかった。工程指導係と装置とロボット係はみな専門工の資格を持っていたので,

補助作業員の仕事を引き受けなかった。ロボット化の結果は品質管理と保全により高度な技能と知 識を要求する一方で,いわゆる残余労働をますます単純でタクトと結びついた労働にし,しかもそ れらの作業は自動供給装置や自動倉庫システムによって代替されていった。したがってあるべき方 向は専門エが残余労働を統合する方向であった。保全労働者に部品補給や品質検査を担当させる試 みや,電気工に

1

部機械の修理・保全をさせる,あるいは逆に仕上げ工に電極交換などの電気的な 仕事をさせる試みはあった。またこれら専門工を,装置担当の組リーダーとして使い,彼らに不熟 練職務を引き受けさせることも行われている。つまり全体として高技能を中心に課業が統合され,

専門エが単純作業を統合することはあっても,不熟練工に,例えば電極交換作業を統合させる試み はよい成果は出ず,広まらなかった

( U .] i l r g e n s  u .   a n d e r e ,   [ 1 9 8 9 ]   2 8 4 f f . ,  2 9 6 f f . ,  3 0 l f f . )

ケルン・シューマンたちの調査したフォルクスワーゲンでは,一挙にフレキシブルな製造システ ムが導入されたため,電気や機械の各専門工の間の管轄調整ができず,しかも故障の

80%

が短時間

︐ 

(11)

で直るものだったという。フォルクスワーゲンでは,ケルン・シューマンの注目した装置指導係の ような職務が保全工の過大な負担を軽減することになったから導入されたのである。半熟練工の昇 進機会がこうしてできたのだが,その後の推移を見ると,装置指導係の職務はますますプロフェッ

ショナル化していて,

OJT

や昇進機構からはずれてきていた。つまり指導係としての継続訓練を受 ける前提条件として専門エ資格が事実上要求されるようになった。経営協議会は不熟練工に昇進機 会を開くことを要求したが,経営側の選別基準をめぐって若い専門工の間で競争が展開されている のが現実であった

( U .J u r g e n s  u .  a n d e r e ,   [ 1 9 8 9 ]   3 0 6 f f . )

。既に述べたように,

8 0

年代には養成修 了者が数多く直接生産の半熟練職務についていた。ュルゲンスたちの調査では,フォルクスワーゲ ンでは組立工場に金属・電気の資格を持つものが

28.5%

いた。そしてこの傾向は続き,

9 0

年代半ば には直接労働者の

50%

にまでのぽると予想されていた。問題は,これら専門エ資格所持者の技能が,

ベルト作業によって次第に失われ,

3

4

年もすると使い物にならなくなってしまうことであり,

そのため,勤続

3

年になる前から装置指導係をめぐる競争が展開されていた。

2 5

歳ではもはやチャ ンスがなかった。彼らや経営協議会からの再訓練機会の要求と職務統合,技能向上,賃金の引き上 げの要求は高まっていた

( U .J u r g e n s  u .  a n d e r e ,   [ 1 9 8 9 ]   1 3 2 ,   1 8 2 ,   3 0 9 )  

4>。こうして補助作業員 から昇進していく機構は,事実上フォルクスワーゲンの不熟練工には閉ざされることになったので ある5)

「ホール

5 4

」のような資本コストのかかる故障の起きやすい自動化プロジェクトには

8 6

年頃から 多くの批判が出ていた

( U . J u r g e n s  u .   a n d e r e ,   [ 1 9 8 9 ]   6 6 )

。しかし合理化の方向は当面変わらな かった。ミュンヘンの社会科学研究所は同じ頃,中小ロットの連続生産を主流とする金属加工業の 未来工場を,

CIM

の方向で論じはじめている。つまり理想は自動無人化工場で,人間労働は自動制 御システムを動かしたり離れて監視するだけのものになり,高度に自律的になると。自動車や航空 機産業,電気産業そして工作機械工業が,コンピューターでネットワーク化された統合を徐々にで はあるが一部で始めたことがその論拠になっていた。計画・設計部門で

CAP

(コンビューター支援 計画),

CAD

が,生産計画では

PPS

が,生産技術的には

CAM

が,そして部品製造には,

CNC

DNC(

ダイレクト数値制御)機が,品質保証には

CAQ

が,そしてさらに多様な部品生産に

FFS(

レキシブル製造システム)が用いられ,それらがデータバンクを介してネットワークで連結されて いくものと解されていた

( H .H i r s c h ‑ K r e i n s e n ,   [ 1 9 8 6 ]   1 6 f f . )

ミュンヘン社会科学研究所は

8 6

年から

8 7

年にかけて,投資財産業(鍛造・プレス,自動車,造船,

航空機,精密機械,事務機,工作機械,電気,鉄・金属,鉄鋼,その他)を中心としたアンケート 調査

( 1 0 9 6

事業所

=26%

の回答率)を行い,この傾向を確認している (R.

S c h u l z ‑ w i l d / C H .  Nuber/ 

F .  Renberg/K. S c h m i e l ,   [ 1 9 8 9 ] )

。ごくおおざっぱにこの調査結果をみておくと,コンピューター 利用の技術単体では,

CAD

20%

の導入を超えているのは,造船,航空機,事務機,工作機械で,

自動車では

12.5%

であった。また

CNC

機は鍛造・プレスから自動車,事務機までの産業では

15‑50

%と多いのだが,工作機では,

2.5%

と少なかった。

PPS

は自動車で

20%,

航空機で

28.6%,

工作機

(12)

ドイツ労使関係の変容要件 (1)( 107  械で

2 4 . 5 % ,

そのほかも

10%

程度でまずまずはいっていた。

CAP

も自動車で

17%,

航空機で

42%,

工作機

21%,

あとも造船以外は

10%

台が多かった。

CAQ

になると,自動車や航空機,事務機,電気 の他はまだ導入が少なかった。

FFS

は造船と航空機では

15%

だが,自動車では

5%

で,あとは

1%

台であった。ロボットは,自動車と航空機で

20%

を超えているほかは一桁台であった。自動倉庫関 連は,航空機

28%,

事務機

50%

となっていて,電気

3%, 

と自動車

7.5%

は意外と少なかった。ネッ トワークはどうかというと,

CAD‑CAM

は,電気で

1 2 .7%, 

工作機械で

8.5%

(ほぼ大企業)とな っており,

CAD‑CAP, CAP‑CAM, CAM‑CAQ

などの連結は投資財産業の

5‑10%

で行われてい た。そしてより高度な

PPS

システムと

CAD/CAM

との連結を実現している事業所は投資財産業

6.2%

であった。この調査に関する本の最初の書き出しが,「

CIM

への道がついに船出したようだ」

とあるように,ミュンヘンの研究所の合理化の認識は,

CIM

にもとづいて考案されたものであり,

いわゆる「システミックな合理化」としてケルン・シューマンの「新生産概念」に対抗して提起さ れたものであった。データ処理技術によって個々の部分的な合理化プロセスを連結し統合するシス テミックな合理化は,生産と事務管理をコスト的観点から統合するばかりでなく,サプライヤーと 購入者も合理化と計画目標に入れてしまう。その要となる技術は,情報・組織・制御の技術なのだ が,市場が要求する変化に柔軟に対応できると想定されている。したがって,人間労働は合理化戦 略の直接的な対象ではなくなる。人間労働力を柔軟な潜在能力と見ることは重要でなくなるような 技術的・組織的変化があり,そこでは労働は抽象化するプロセスの対象でしかなくなるとするので ある。したがって

M E

合理化の中に企業や工場の分権化や,オートノミーの発達,労働者の高技能 化や分業の減退を見るのは事態を見誤っており,より大きな動きとしてコンピュータを利用したネ ットワークによって中小企業が大企業の経済的技術的コントロールの下に入ると見るべきだという

( N .  Altmann/M. D e i s s / V .  D o h l / D .  S a u e r ,  [ 1 9 8 6 ] 1 9 1 f f . ,  1 9 6 f f . ,  N.Altmann/Ch. K o h l e r / P .  M e i l ,   [ 1 9 9 2 ]  5 1 £ . )

。こうして,将来の生産システムを統合されたプロフェッショナルな労働を中心とし て構想するケルン・シューマンの「脱テーラー化」論は是か非かの激しい論争が展開されるのだが,

「システミックな合理化」論では,労働力の潜在能力にあまり価値を置かないのであるから,当然 グループ労働についての位置づけは弱くなり,したがって小集団活動についてもほとんどその意義 を認められなかった

( N .

アルトマン,

[ 1 9 8 7 ]7 1 ‑ 7 5 ,   8 3 ,   9 4 ‑ 1 0 4 6 > )

。ちなみにミュンヘンの研究所

8 0

年の調査で,グループ労働の労働人間化への役割は第二次的になっている,とすでに懐疑を 表明していた

( U . J u r g e n s  u .   a n d e r e ,   [ 1 9 8 9 ] ,   3 4 9 )

さて,以上のように,

8 0

年代にはいってドイツの

M E

合理化は急激な生産工程の自動化と情報化 を推し進めたばかりでなく,開発・設計や購買・販売など企業全体にコンピューター支援の機器を 導入させた。このことは,合理化によって雇用が削減されるばかりか,労働内容が変わり,しかも 技術的に高度な機器が導入され,被用者の中で合理化勝者と敗者がでる等々で,経営協議会による 労働人間化のための共同決定権や労働組合の合理化協定

( 6 9

年金属工業では配転先での継続訓練と 賃金の保証),タクト協定などで規制力が弱まることを意味した。

IG

メタルは,

8 4

年になって小冊

11 

(13)

子「行動プログラム:労働と技術」を出して対応を図っている ( I G M e t a l l ,   [ 1 9 8 4 ] ) 。具体的な行 動の指針を見ておくと,まず被用者と組合の政策形成力を事業所と社会で強めることによって,技 術導入に対して労働に志向した代替案を持つような戦略を通用させ,生産性向上を社会的に統御す ることが求められている。そして技術の開発や使用に関わり,雇用を創出させ,労働時間を短縮す ることが必要などの一般的な方針とともに, CNC 機や CAD,CAM などの M E 化による労働内容の 変更に対しては,①職務内容,職務範囲,職務サイクルの拡大,②職場の確保,③負荷と健康悪化 の危険の縮小,④少ないストレス,⑤対話と協力の可能性の改善,⑥個人情報システムなどでのコ ントロールの回避,⑦適切な賃金,が提案されている。特別な重点項目として,ロポットの導入は 雇用を削減するから,制限するという方針が出ているが,流れ作業での組立には一般的な規制方針 はないとして,タクト延長,回復時間の追加,対話可能性,バッフアーの形成,タクトからの解放,

グループでの協力などが提案されている。不・半熟練工や熟練工それぞれに事業所内技能訓練が施 されるように政策形成することも大きな目標となっている。 8 4 年の行動プログラムにはまだ,グル ープ労働への積極的取り組みはない。

IG メタルの 1 9 8 3 年から 8 5 年の「活動報告書」を見ると,合理化が急展開していて,組合の対策 がなくて被用者が当惑しているばかりか,事業所で合理化保護と作業形成の担い手である経営協議 会が十分対処できてなく,技師,自然科学者,ェンジニアーの協力が必要との報告がある。そして

「行動プログラム」の具体化のための方策を練るべく,作業グループを作っている。社会契約的な 形成戦略の説明で,職場や手作業もしくはグループでの課業が完成品作成作業であるべしと,グル ープ労働への言及はあるが,積極的なものではない。既成事実としてチームがあるのを追認してい るだけである。自動化が進まないことが労働人間化につながるとの認識も「行動プログラム」と同 じである ( I G M e t a l l ,   [ 1 9 8 6 ]   6 5 8 £ . ,  6 6 4 ) 。

ところが, 8 6 年の組合大会でグループ労働が将来の労働組織の主たる形成原理であることを求め る決議が採択されたこともあって, 1 9 8 6 年ー 8 8 年の「活動報告書」の論調は急変している。まず,

8 0 年代中頃までの合理化が, M E 合理化として CNC 機や CAD の利用のように,個々の生産上での 革新であったのに,現状で生じている合理化概念はシステミックな合理化と呼べるもので, CIM に 象徴されるように,無人化工場が目指されており,事業所全体を変化させ,サプライヤーとの連結 関係も作り出す「情報技術上のシステム」だと,合理化概念の変化が強調されている。そして興味 深いことは,このシステミックな合理化が,品質サークル,学習サークル,作業所サークルのよう な「社会統合的な」参加概念やモチベーション概念で補足されてきていて,それらの集団活動が生 産プロセスや製品そして生産性向上に関連した問題解決を志向したものであるという認識の下に,

一定のはっきりした条件があれば,被用者と経営協議会の民主的参加と社会的形成の手段となりう

ることを認めていることである。つまりこれらサークル活動が労働組合の求める団結促進や技能水

準の向上,同権的労働などを可能にすれば,という条件付きで, IG メタルは Q C サークルも含め

たグループ労働を将来の労働組織と認め,それを促進する方向へと方針転換したのである ( I G

(14)

ドイツ労使関係の変容要件 (1)(

1 0 9   M e t a l l ,   [ 1 9 8 9 ] ,   6 1 3 f . )

このような方針転換の背後には事実上の品質サークル,問題解決サークルの浸透と一定の評価が あった。ュルゲンスたちによれば,フォードの工場では,成功はしなかったが既に

8 0

年に品質サー クルが導入されていた。経営協議会や組合の職場委員は関与せず,マイスターが指導したものだっ た。チームに品質検査工を入れることはチームメンバーの反対でできず,中間マネージメント層の 抵抗もあった。コンフリクトが多かったが,経営側は長期で品質サークルの変化を引き起こすつも りであり,

8 5

年には従業員参加プログラムの下準備として,工場や製造部門レベルに指導委員会を つくって経営協議会の参加の機会を開いている。その間協議会の反応は,問題解決のための討議の 実際が次第に社会問題にまで入り込んでいるという事実から,問題解決サークルには肯定的になっ ていた。コミュニケーションの促進や事業所改革提案では他の企業もグループ化を原則としてきて おり,こうして,

8 0

年代を経過する中で,労使双方ともグループ化原理を評価してきていた。経営 側にとっては,装置の有用性,労働効率の引き上げ,製造工程の品質責任の向上などが目標になっ ていたし,労働組合は,労働の技能資格の引き上げとより高い雇用保証と賃金,職務拡大,現存専 門工の十分な技能利用などが目的であった

( U . J i l r g e n s  u .  a n d e r e ,   [ 1 9 8 9 ]   3 4 7 f f . )

。そしてこの労 使による共通のグループ労働への関心は,

8 7

年に行われた金属工業の職業訓練制度改革に表現され た。労使が協調してとりくんだ改革ではチーム労働は将来の労働組織として把握され,訓練生はチ ーム能力を育むよう訓練されるばかりか,創造的で問題解決の能力を持つように訓練されるものと されたのである(大塚,

[ 1 9 9 6 ]5 3 ,   7 8 ‑ 7 9 )

IG

メタルのグループ労働方針への転換は明らかであ った。

I  G

メタルのグループ労働は次のように認識されて,促進されることになっている。機械加工が 行われている工場は製品品質への要求があがっており,標準品が増えているににもかかわらず種類 が増え,リードタイムは短くなっている。これに対応するため企業は新たな機械を導入し,新たに テーラー的分業を促進し,経験的な知識を破壊している。工場が無人化するのか,労働のほとんど が単純化し一部高度技能だけが残るのかはまだ判断できないが,労働を人間化するために,組合は 工場にグループ労働を展開するのだ,としている。人間的労働は,計画,制御,配置,実行とコン トロールの統一と把握され,企業のすることは製品と生産期間の決定だとしているから,

STS

理論 に基づく半自律的集団労働が想定されているとみてよいだろう。設計や生産準備で生じている

CAD/CAM

にたいしては,硬直的な分業を放棄して,仕事や協力に自律性を高め,設計部門の従 業者にはより広い技術者に近い技能・知識を獲得することを求めている

( I GM e t a l ! ,   [ 1 9 8 9 ] ,   6 1 7  

f.)

そして

9 0

年代にはいってもう一つの認識の変化が起り,さらに「リーン生産」がこの動きに拍車 をかけた。

1 9 8 9

年から

9 1

年の「活動報告書」は,

8 0

年代中頃からの「システミックな合理化」がそ のあまりの複雑さと,費用の高さと,コントロール可能性の無さと,労働からの人間疎外のゆえに,

頓挫し,

9 0

年頃には放棄されたことが明白になったことをつたえている。「自動化工場」に代えて,

1 3  

(15)

今や人間が事業所のイノベーションの担い手になり,テーラー主義に代えてグループ労働が,個数 出来高労働に代えて製造島が,動かない人間に代えて継続的改良などが,組合の社会的形成の要求 に合致するスローガンとなった,と

( I G M e t a l l ,   [ 1 9 9 2 ]  8 3 f . )  

7>。イノベーションや継続的改良への 言及が「リーン生産」の影響であることは言うまでもない。「報告書」で日本企業はチームとグルー プ労働を中心に据えているととらえられており,労働者の生産に関する知識が生産性の改善や機 械・装置の稼働率の改善に利用されていること,分業が少なく,階層機構が平板なために,事業の 経過や,意思決定,コミュニケーション,生産やロジスティック,設計や生産計画等がリーンにな っていることが明らかにされている。参加や労働組織,品質などをテーマにする「リーン生産」は,

人間的な労働と技術を形成することで共同決定するという点でドイツとは大きな違いはあるが,コ ンセプトの点では似ていて,労働組合の形成政策のチャンスである,としている

( I GM e t a l l ,  [ 1 9 9 2 ]   8 5 . )

。したがって

IG

メタルはリーン生産の導入には反対はせず,それを形成政策によってドイツ的

に変更していく方針と考えてよい。それゆえ,

IG

メタルとしては,労働人間化の観点から,つま り,労働の魅力を取り戻し,共同決定の可能性を求める点では

7 0

年代から変わっていないのだが,

グループ労働の内容にもうひとつの新たな機能を加えた。すでに見たように,

8 0

年代後半には品質 管理に関わる機能要件ーたとえば問題解決機能ーを加えていたのだが,

9 0

年代にはいってからはさ らに生産性向上一改善能カーを求めるようになったのである。

9 3

年の

IG

メタルの小冊子「協約改

2 0 0 0

」は,「

IG

メタルはより多くの人間性とより大きな生産性の間の妥協を探る」と述べて,世 界的競争下での組合の新たな方針を確認している

( I G M e t a l l ,   [ 1 9 9 3 ]   9)

第二章

ドイツにおける品質サークルの展開 第一節 ドイツの品質管理

ドイツにおいて日本の品質管理サークルの影響が現れるのは,既に述べたように,

7 0

年代の末頃 であるが,実際に導入が試みられるのは

8 0

年代にはいってからであり,しかもさまざまなサークル 活動の中の一つとして登場したにすぎなかった。日本訪問によって見聞きするばかりでなく,日本 の品質管理サークルをドイツに移植するために,日本大使館の奨めもあって,「ドイツ品質サークル 会議」が大企業

2 0 0

社を集めてデュッセルドルフで発足したのは

1 9 8 2

年である。会議はそれ以後毎年 開かれて,

8 7

年には

3 5 0

人を超える参加者を数えている。日本の品質管理の思想と手法がこれらの会 議を通してより正確に伝わっていったことは間違いない。しかし経営者によって導入されたドイツ 最初のサークルは,

BMW

や化学メーカーのヘキストで実施された学習サークルで,これは外国人 労働者のコミュニケート問題に対処するためであった。会話能力を高めて,事業所内の課題や問題 を伝え,そうすることで事業所内の諸関連や専門知識を得ることを目標にしたものであったから,

この学習サークルは他の従業員の問題解決にも利用されていった。これに加えて,

8 0

年代には,テ ーマ別の,各部門やスタッフ層から選出されて構成された問題解決的小集団活動,作業所サークル があった。これは問題が解決すれば解散する一時的なサークルであった。この作業所サークルは結

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