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第10回国立国語研究所国際シンポジウム報告

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国立国語研究所学術情報リポジトリ

第10回国立国語研究所国際シンポジウム報告

著者 米田 正人, 柳澤 好昭

雑誌名 日本語科学

巻 13

ページ 126‑131

発行年 2003‑04

URL http://id.nii.ac.jp/1328/00002106/

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第10園 国立国語研究所国際シンポジウム報告

第3部会   日 時   会 場   担当者

参加者

「環太平洋地域における日本語の地位」

平成15無2月1日 午前紛時〜午後5時30分 国立国語研究所 講堂

米田正人(情報資料部門上席研究員),菅井英明(日本語教育部門研究員),

半沢 康(福島大学助教授,情報資料部門葬常勤研究員)ほか 108名(関係者を含む)

 国際社会の進展とともに,1]本語は日本人だけのものではなくなり,世界で共用される貴重な ことばとなりつつあり,特に環太平洋地域においてはその傾向が顕著となっている。このことは,

國立国語研究所が1997年度・1998年度に行った「洲本語観国際センサス(世界28の国と地域で実 施)」にも如実に現れている。

 今匝1のシンポジウムは,環太平洋地域の六力国から種々の領域に携わる研究者に集まっていた だき,それぞれの国における日本語の現状・臼本語教育の事情についてご報告をいただくととも に,今後の國際社会における日本語のあり方について考察することを目的として企画された。

 シンポジウム当日は,軍斐国立国語研究所長のあいさつに引き続き,以下のような報告,パネ ル・ディスカッションが行われ,活発な質疑応答が繰り広げられた。

午前の部(司会:半沢康)

  半沢 康 Hanzawa YaSttshi(福島大学教育学部助教授,国立国語研究所情報資料部門非常    勤研究員),専門領域:国語学,方言学

基調報告r環太平洋地域における日本語の地位」

  菅井英明 Sugal Hideak1(置i立国語研究所日本語教育部門研究員),専門領域:温語教育,テ    スティング,社会的統合政策

 シンポジウムの趣旨説明として,臼秘本語の地位」に関する一一般的な見解を国内の要因と国外の  要因とに分けて解説した。前者は,政治力(国連での公用語),軍事力(戦略的に重要なことば),

 経済力(国際企業,メディア関連企業,ODA,移昆・移住)として捉えられ,後者は大衆文化,

 文学・芸術,科学技術力,日本への定住,留学,難昆受け入れ等の側面として捉えられること  が指摘された。

報告「三無における日本語教育の現状および学習者動機について」

  リンe  ・一・アムソール・匹1倉 Lindsay Amthor Yotsukura(メリーランド大学アジア・東欧言    語・文化学科助教授),専門領域:日本語言語学,談話分析

 米国国内の初等,中等,高等教育における学駕者数の変遷,最近の学習者の書語,文化背景,

 学習動機(ポップカルチャー等),さらにはそれぞれのニーズに応じたEl本語教授法,教材  (マルチメディア化)について最新統計資料を交えて報告がなされた。

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報告「オーストラリアにおける日本語教育事情」

  池ff1俊一 Ikeda Shunichi(オーーストラリア国立大学アジア研究学部助教授),專門領域:教    育改革,言語政策,日本語教育

 オーストラリアの日本語学督者数は韓国に次いで多く,特に初等,中東教育段階で普及してい  る。多くの移民を受け入れ,現在はヂアジアの一員」を国是として多文化・多民族化を標榜し  ているオーストラリアにおいて,なぜ日本語教育が盛んなのか,日本語教育の現状を概観しつ  つその要因について考察し,日本語学習者の社会における卒業後の活躍についても雷及した。

報告「高等日本語学習者を考える」

  レア・サンティアル Lea Santiar(インドネシア大学文学部Ei本研究学科学科長),専門領    域:日本語教育,言語学

 インドネシアにおける高等購本語教育,すなわち短大・大学等における臼本語教育の状況(学  丁数・臼標)や日本語学習のカリキュラムについてインドネシア大学の事例を中心に解説し,

 H本語能力検定試験重視の現状に対する問題点や4技能(読む・話す・書く・聞く)を総合的  に向上させるようなティームティーチングの必要牲などを強調した。

午後の部(司会:菅井英明)

報告「中国における日本語教育事情とその周辺」

  彰 広陸 Peng GuaR9 Lu(北京大学外罰語学院El本言語文化学部教授,岡大日本文化研究    所副所長,文学博士),専門領域:Ei本語学,中日対照書語学

 中国においては,学醤者の数から見ればEI本語はすでに英語に次いで二番目に人気のある外国  語であり,田本語のニーズの増大と多様化に伴って日本語教育もかなり脚光を浴びるようにな  っている。そのような中国における日本語の諸相(日本語学習者,EI本語教師,日本語シラバ  ス・ガイドライン,臼本語教科書,日本語研究)についての詳細な報告ののち,①日本語教師  の質の向上にもっと力を入れるべきである,②教材開発をもっと重視すべきである,③中Ei両  国のH本語教育関係者門門の交流を強化すべきである,④日本の学校文法批判を深化する必要  がある,といった今後の課題に対する提子が述べられた。

報告「韓国における「第二の外国語」としての霞本語の地位と展望」

  朴 容九 Park Yo蕪g Koo(韓国外国語大学校Ei本研究所責任研究員),尊門領域:Ei本文化    論

 種々の統計資料を通してみた日本語学習者の実態,H本語学習の動機に関する分析をもとに,

 英語に次ぐ第二の外国語としての日本語の地位について考察し,将来は学習者数の二野を欝指  すのではなく,学習の質を高める努力が必要であること,Lli本を総体的に理解する手段として  のH本語,署い換えれば「H本語と日本文化の接点」を探ることが韓国における日本語の来来  を決定するとの見解を述べた。

報告二本語の,言語空闘としての大きさ」

  小林路義 K:obayashi Michiyoshi(鈴鹿国際大学国際学部教授,同大大学院国際学研究科教授),

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  三門領域:国際関係論,異文化コミュニケーション

知識は二三によらない。どんな言語で知識及びその体系としての学問を身に付けようと,それ らは総て,その人の「知の体系」に寄与する。そういう三昧で,1三体語のもっている,雷語空 間の大きさは,日本語習得者にとって,そのアクセスの容易さとともに大きな力である。もち ろん,言語空問の大きさだけを論ずるならば,現在,英語が最大であることに異論はない。し かし,一言語による情報よりエ雷語,三需語による情報の比較・加重が,情報を豊にすること は事実である。そうであれば,英語に次ぐ言語としての日本語は,充分大きな役割をになえる,

という論が展開された。

パネル・ディスカッシmン(司会:米田正人)

  米田正入 YOReda Masato(国立国語EJf究所情報資料部1:1聖1上席研究員)専1:1[1領域:計量社会言         語学

  パネリスト:リンゼー・アムソール・四倉,池田俊一・,レア・サンティアル,

        彰 離陸,朴 容九,小林路義,菅井英明

  コメンテーター:真鍋一史(関西学院大学),ヨーゼフ・クライナー(ボン大学)

   真鍋 一史 Manabe Kazufuml(関西学i塊大学社会学部教授,法学博士),

      専門領域:社会学,社会調査論,コミュニケーション論

   ヨーゼフ・クライナー ∫osef急ei夏}er(文学博士。ボン大学教授,日本文化研究所所長,

      東洋言語研究所所長),専門領域:1民族学 醗︑

型幅麗

鞭融嚢灘馨響

 研究報告を行った各氏をパネリストとし,コメンテータL・一・の両氏を加えてパネル・ディスカ ッションが行われ,壇上,フロアが一体となって有意義な意見交換がなされた。

 コメンテーターの三三の一部を紹介すると,真鍋氏からは,「El本で外国語や多文化・多三三 主義とかが議論されるときに,ことばには優劣が無く同等である,文化は独自性を持っていて 優劣は付けられないといった論調がしばしば聞かれるが,現実の状況を踏まえた議論も大切で ある。多文化主義は良いこと,日本語が世界に広がっていくことは良いことだという観念的議 論だけでは済まない状況が娼てきていると思う。」「我々を取り巻く国際社会環境の中で,ポッ

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プカルチャー,サブカルチャーなどの分野で臼本語への関心が高まっている。一方で臼本人お よび日本語を使う人たちが一体となって,日本語の文化的価値を高める必要性も生じている。」

「国立国語研究所が行った『日本語観国際センサス』の結果から,ll本語のイメージと1}/i本語 学習経験のクロス集計を行うと,韓國では勉強した年数が長くなると臼本語へのプラスイメー

ジが増大する傾向にあるが,アメリカではその逆の傾向が兇られる。今後日本語の地位を論ず る際に,日本語観国際センサスのデータは大いに利用できる材料である。」といった意見が述 べられた。

 一方,クライナー氏からは「中近東,トルコ,エジプト,あるいはヨーロッパでも日本語研 究,日本研究は盛んに行われている。ただ,環太平洋地域の幽々と比べると『スケールが違う』

ということだろう。ドイツの場合,1950年忌それぞれの大学に2,3人しか学生がいなかった。そ れがi960年代後半では60名ほどに増え,1980年代になると毎年250人を超す学生が入ってくるよ うになった。しかし,無事単位を取得する学生はその1/5くらいである。」「スケールが違うと マーケットも違う。教科書や辞書に新しいものはあまり見られない。私が1年生に入ったとき の教科書は『魏畑鼠入伝』であった。ドイツの大学を卒業して日本へ来た学生が,無事到着し た旨の手紙を出そうと郵便局へ行ったがうまくコミュニケー団採ない。付き添って事の真相        フミを確かめると,その学生は『文燃し奉り候』と言ったのだという。郵便局員はバカにされたの

だと思い取り合わなかった。実際にあった話である。」「EUがアメリカとバランスのとれた経済 力・政治力を持とうとした場合,環太平洋地域が一つのキーワードとなろう。とりわけ,日 本・日本語の必要性は増大すると思われる。ヨーロッパを視野に入れ大きな視点に立った交流 が必要となろう。」といった興味あるコメントを頂戴した。

 各報告およびパネル・ディスカッションの詳細な内容については,国立園語研究所のホームペ

ージ(kttp:〃www.kokken.go.jp/index−j.htmlまたはhttp://www.kokd〈en.go.jp/jalic/)で公開している。

また,2003年夏を目途に報告書として刊行することも予定している。

       【参考文献】

(1)2002.3国東アジアにおける日本語観国際センサス』,国立国語研究所編,凡入社刊

(2>1993.3『購本語観国i祭センサス単純集計表(暫定速報版)壽,新プロ「日本語」総揺版・研究班1編,

(内部資料)

       【参考資料】

 参騙者の属性についてik 1−FI配窟圓記したアンケート結果(回収率は約40%)で見ると,聴衆の男女比 は4紺6で女性,年齢では30歳代が欝立つ。また,職業別では,日本語教育関係者が3割,大学生・大 学院生,教職員・研究員がともに2割,その他3割という結果であった。

       米田正人(情報資料部門)

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第4部会  「H本語教師教育を考えるE=教師についての評価」

  B 時 平成G5年 3月8日(土〉午前10時〜午後4蒔45分   会 場 国立国語研究所 会議室

 これまで日本語教育は,ヂ日本語資源の充実・発信」f人材の育成」「教授内容・方法の溌発」を 王本柱とし,「人材の育成」では,Ei本語教師に求められるものとして,「国際人」「教育者」「専 門家」の三つを挙げてきた。しかし,この三つを必要とする庭1本語教師の育成を考える場の話題 は,もっぱら日本語教育能力試験と臼本語教師養成カリキュラムと資格についてであった。

 一方,Ei本語学習者の状況はどうか。海外では中学,高校で日本語を学習する子供が増えてい る。また,入試の選択外国語科目に取り入れられてきた。これまでの特定のEl的を持った成人の 日本語学習者とは異なり,その国の教育体系に日本語教育が入るようになった。子供の成長過程 の中に日本語学習が位置づけられてきたのである。

 国内でも同様である。地域に日本語を母語としない成人や子供が増え,より広い観点で日本語 教育をとらえる必要が生じている。つまり,これまでの効率的,効果的というL/1からの日本語を 指導するというだけではなく,豊かな生活と人の成長という目から言語の習得をとらえることを 今の日本語教育は求められている。

 日本で英語が義務教育の科目に取り入れられ,言語の響得と子供の成長という観点が求められ た。国内外での日本語教育がこのような状況を迎えている。日本語学習がその人の成長に貢献す るためには,その責任の一端を担う日本語教師の成長を広く世界的な視野で考えなければならな い時代である。

 そこで,日本語教師教育について様々な議論できる場を築く第一歩として,「日本語教師教育」

のテーマで海外の日本語教育関係考と建設的な討議をする場として,国際シンポジウムを開催す ることになった。第一圓は平成13年度に「Ei本語教師教育を考える。1:Teacher s Teacher」を テーマに掲げ,国内外の大学や民間などで日本語教師教育に関わっている方や大学院で日本語教 育を学んでいる方など28名により,非公開の円卓形式で議論を進めた。

 今回の第二圓の会合は,平成15年3月8日(土)に国立国語研究所の会議室で16名の日本人と外 国人の日本語教育関係者の参加により開催した。今園のテーマは,「H本語教師教育を考えるH:

教師についての評価」である。

 今圓も非公開形式で行われた。理臨は,評価ということで,発痴者の立場を考慮したことによ る。また,今後の日本語教師教育について研究や論議を行う環境の整備を目指し,近々に開催を 予定している公開形式の集会に向けた基礎資料や人的ネットワーク等の基盤作りには,非公開形 式が適当という判断もあった。なお,今囲の内容は,具体的な検:討事項や重点事項を抽出し,付 加情報と合わせて報告書及び教師教育のWebサイト(http://www. kokken. go. jp/jsl/)で平成15 年3月末に公開する。

 参fJU者は,国内の民間日本語教育施設のlil本語教師教育担当者i名,並びに1年問の研修を経験 されている大学の日本語教育・ill本語研究分野の教員1名,大学のH本語教育担当者1名,大学及

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び地域での}ヨ本語教育振話者1名,及び研修事業を実施している国立国語研究所日本語教育部門研 究員3名と補佐員1名である。

 海外は,H本の大学で学位取得を修了あるいは見込みの方で,自国でのIII本語教師教育に関心 を持つ中核的な立場の方で,日本の大学の教員から推薦していただいた方である。台湾1名,中国 4名(地域が異なる),韓国1名,ロシア2名(地域が異なる),である。前園の会合の約半分の構成 人員にしたのは,抽象的な議論になりがちな評価という話題について,より具体的な議論にする ため,グループ討論を行うことにしたためである。

 進行は,以下のとおりである。

(G>教師像についての議論(10:2G〜12:00)

 教師についての評価を検討する前に,エつのグループに分かれて各人の具体的な教師像を出し 合った。自分が学習してきた環境で接した教師,特に学校の教師をもとに教師像を描く人が多か った。また,教師像を表す語は,好意的な評価のものが大部分であった。示された表現は,例え ば「さあ,勉強だという気持を喚起させてくれる」「いい意昧で学習者に緊張感を与えてくれる」

「学習者の気持が分かってくれる」など学習者の立場からとらえたもの,「偉い人」「まじめな人」

「経験が豊富」妬いに人間として学忍者と接触する」など教師懲身について雷及したもの,「学習 者を教師自身より大きく成長させる」など教師の役割や責務をとらえたものなどが示された。

種々の教師像が表出されることは,教師の評価が持つ個別性と複雑さを表している。

(2)具体的な事例に基づき教師を評億(13:30〜15 : OO)

 仮想露な立場を前提に,五つのグループに分かれて検討を行った。その結果,教師の評価を行 うとき,一緒に仕事をするという観点が常にある入,1ヨ本語教育に関する専門知識や経験,関心 度も重要視している人など,各入の教師像と密接に関連していることが分かった。例えば,ロシ アでは,日常的に教師同士がいろいろなことに関して議論する土壌があり,教師の評価に関して は,採用時だけではなく日常の教授活動についても,客観的に議論し合うというといった各国事 情も示された。

(3)日本語教師教育での連携(15:25〜16:45)

 最後に,金員で今後のH本との連携を基盤としたB本語教師教育と評価について協議した。連 携という点では,次のことが特に挙げられる。①例えば来Hが難しい遠距離の国ではB帳入日本語 教師の派遣が機関内でのB本語教師の評価に大きく関わるなど,日本との地理的距離が連携の内 容・方法と大きく関係する,②例えば年少者教育に従裏している教師陶けといった,海外の日本 語教育事情に配慮したff本語教師の成長を促す連携が必要である,③例えば教材開発における協 働活動といった,現職教師間の交流が必要である,④自国ではなく日本で学位をとることが重要 視されているため,日本での学位:取得,研究論文発表の場の確保といった,日本語教師の啓発を 促す場を支援する,である。

 画一的な評価は不可能であり,教師の評価が教師自身から繊発するものという自律的な視点が 必要であることは参加者間で共通に認識された。また,各国の日本語教師は,自国の教育風土の 中で慮己成長のための環境を整備するという視点から,E・1本との連携を見ていることがうかがえた。

       柳澤女子昭(日本語教育部門)

参照

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