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妊娠期の亜鉛欠乏が出生仔の骨代謝に与える影響

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Academic year: 2021

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博 士 ( 農 学 ) 長 田 昌 士

学 位 論 文 題 名

妊娠期の亜鉛欠乏が出生仔の骨代謝に与える影響 学位論文内容の要旨

  我が国における妊婦の栄養摂取実態は、妊娠適齢期を迎えている女性のやせ化や低出生 体重児の年々の増加などから問題視されている。また、妊娠期間中の低栄養状態と、出生 子の骨粗鬆症を含む生活習慣病発症のりスクが密接に関連していることが示唆されてい る。一方、骨折の予防は今後も高齢化が加速度的に進行する我が国において焦眉の課題と いえる。亜鉛は必要不可欠な微量元素であり、欠乏することによって生体への様々な悪影 響が懸念される。国民健康栄養調査等でも明らかなように、日本人の女性、とりわけ妊婦 の亜鉛摂取は非常に悪い実態にあると示唆される。妊婦の慢性的な亜鉛摂取不足は、出生 子に対して骨代謝を含む様々な悪影響を与えることが懸念される。本研究では、このよう な妊娠期の慢性的な亜鉛欠乏が出生仔の骨に与える影響を明らかにする一環として、妊娠 前及び妊娠期の低亜鉛食が、出生仔の出生時における骨に与える影響についてラットを用 いて検討を行った。また、亜鉛欠乏状態が骨の石灰化に与える影響およびその際の細胞に おける亜鉛運搬機構を解明するために、マウス骨芽細胞株を用いて、様々な亜鉛濃度下に おける骨石灰化への影響および、当該細胞の亜鉛輸送に関与する分子の発現変化を検討し た。さらに本研究では、妊娠前および妊娠期の慢性的な亜鉛欠乏が出生仔の成長後の骨に 与える影響を、骨粗鬆症マウスモデルを用いて検討した。

1. 妊 娠 期 の 慢 性 的 な 亜 鉛 欠 乏 状 態 が 、 出 生 仔 の 骨 に 与 え る 影 響 の 解 明   ヒトにおける大部分の慢性的な亜鉛欠乏は中程度亜鉛欠乏という食事性の亜鉛欠乏で ある。これまで、中程度亜鉛欠乏の妊娠動物からの出生仔への長管骨への影響が報告され ているが、出生仔の骨代謝に与える影響は把握されていない。中程度亜鉛欠乏を惹起させ るために7 ppmの亜鉛を含む飼料を妊娠前のラットに摂取させ、妊娠期間も同飼料を摂 取させた。その結果、出生時の出生仔の中程度亜鉛欠乏による出生仔の頭蓋冠器官培養に おける骨形成の減弱化、出生仔の骨における亜鉛および他のミネラル含量の低下、そして 中程度亜鉛欠乏状態にある母獣とその出生仔における骨形成マーカーである血清オステ オカルシン濃度の有意な低下が認められた。これらの原因として、妊娠期における母獣か ら胎児への亜鉛供給減少の関与が示唆された。

2. 骨 の 石 灰 化 に お け る 亜 鉛 欠 乏 の 影 響 と 細 胞 内 亜 鉛 運 搬 機 構 の 解 明 妊娠期における胎児への亜鉛供給減少が、骨の石灰化に与える影響を詳細に把握するこ     ー285一

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とを目的に、マウス 骨芽細胞株の石灰化における亜鉛欠乏が石灰化に与える 影響と、石灰 化における亜鉛の細 胞内輸送動態を検討した。血中レベルを想定して、様々 な亜鉛濃度と なるように当該細胞 の培養を続け、石灰化早期および石灰化後期それぞれに おける石灰化 の状態を確認したと ころ、石灰化早期では単位夕ンバク質量当たりの石灰化 能が亜鉛濃度 依存的に増加し、ま た石灰化後期では、夕ンバク質量を掛け合わせた石灰化 量が亜鉛濃度 依存的増加を示した 。これらより、亜鉛供給が低下した状況下では骨芽細胞 の石灰化が遅 延する可能性が示唆 され、骨石灰化における亜鉛の栄養学的な重要性が示唆 された。さら に 、こ れら の現 象に は、 細胞 中の 亜鉛 含 量の 変化 、亜 鉛ト ラン スポ ータ ーの 一種ZnT‑2 と 細胞 内亜 鉛貯 蔵夕 ンバ ク質 ヌタ ロチ オ ネイ ンそ れぞ れの メッ セン ジャ ーRNA発現変化 が 、そ れぞ れ関 与し てい るこ とが 示唆 さ れた 。

3.妊 娠期 の慢 性的 な亜 鉛欠 乏状 態か ら出 生 した 仔の 成長 後に おけ る骨 への 影響 の解明   妊 娠前を含む妊娠期の中程度亜鉛欠乏が胎児に与 えた骨への悪影響が、出生後も長期的 に持 続するか、あるいは出生後潜在化し成長後に顕 在化されるかを明らかにすべく、骨粗 鬆症 モデ ルマ ウ スを 用い て検 討した。1の実験と同 様の飼料を妊娠前と妊娠中に摂取させ た後 、出生後は亜鉛を十分量含む通常飼料を摂取さ せた。途中、出生仔が4,8,12週齢に 骨形 態計 測を 実 施し た。 オス ・メ スそ れぞ れの 出生 仔を20週齢で解剖し、骨を摘出して 骨強 度測定、詳細な骨形態計測を実施した。その結 果、出生時に悪影響を与えていた骨へ の影 響は途中で消失したが、驚くべき事に、中程度 亜鉛欠乏の母獣のオス出生仔のみにお いて 、解剖時の骨強度の低下、および大腿骨におけ る長軸長の低下、さらには骨組織体積 の有 意な低下が認められた。このことから、中程度 亜鉛欠乏状態の母獣から出生したオス 特異 的に、成長期以降の骨の脆弱化とそれに伴う骨 折リスク上昇が示唆された。また、解 剖 時 の 血 中25(OH)ピ タ ミンD3濃 度が 中 程度 亜鉛 欠乏 の母 獣由 来オ ス出 生仔 特異 的に 低 下 し た こ と か ら 、 こ れ ら骨 への 影響 に は25(OH)ピタ ミンD3濃 度が 関与 して いる こと が 示唆 され た。

  以上 より、妊娠前および妊娠中の慢性的な亜鉛摂取 不足は、出生仔の骨に短期的かつ長 期 的に 悪影響を与えることが明らかとなった。ヒトの 慢性的な亜鉛摂取不足を模倣したモ デルにお ける出生仔の骨への出生時での影響は、動物ではほとんどなされていない。また、

母 親の 慢性的な亜鉛欠乏による、出生仔の成長後での 骨への悪影響は、これまでに全く知 ら れて いない。さらに、骨の石灰化における細胞レベ ルでの亜鉛の栄養学的役割評価の研 究は少な く、その際の細胞内の亜鉛輸送についての研究は全く知られていない。本研究は、

こ れら 新規知見を明らかにすることで、胎児の適切な 発生・発育のために、妊娠期におけ る 適切 な量の亜鉛摂取を強く提案する。妊娠を準備す る者の亜鉛不足は、児の成長後にお ける骨折 リスクを増大させる可能性がある。児の将来の骨折予防の観点から、本研究では、

特 に 妊 娠 期 の 女 性 は 日 常 よ り亜 鉛を 十分 量 摂取 する 必要 があ るこ とを 強く 提案 する 。

286

(3)

学位論文審査の要旨 主 査    教 授    原    博 副査    教 授    横田    篤 副査    准教授   石塚   敏

学 位 論 文 題 名

妊娠期の亜鉛欠乏が出生仔の骨代謝に与える影響

  本 論 文 は 、122頁 か ら な る 和 論 文 で あ り 、 図32と 表9を 含 み 、 参 考 論 文3編 ( 内1編 は 総 説 ) が 添 え ら れ て い る 。

  我 が 国 に お け る 妊 婦 の 栄 養 摂 取 実 態 は 、 妊 娠 適 齢 期 を 迎 え て い る 女 性 の や せ 化 や 低 出 生 体 重 児 の 年 カ の 増 加 な ど か ら 問 題 視 さ れ て い る 。 ま た 、 妊 娠 期 間 中 の 低 栄 養 状 態 と 、 出 生 子 の 骨 粗 鬆 症 を 含 む 生 活 習 慣 病 発 症 の り ス ク が 密 接 に 関 連 し て いる こと が示 唆さ れて いる 。 一 方 、 骨 折 の 予 防 は 今 後 も 高 齢 化 が 加 速 度 的 に 進 行 す る 我 が 国 に お い て 焦 眉 の 課 題 と い え る 。 亜 鉛 は 必 要 不 可 欠 社 微 量 元 素 で あ り 、 そ の 欠 乏 は 骨 代 謝 を は じ め と し て 生 体 に 様 々 な 悪 影 響 を 及 ば す こ と が 知 ら れ て い る 。 日 本 人 の 女 性 、 と り わ け 妊 婦 に お け る 亜 鉛 の 栄 養 状 態 は 非 常 に 悪 い こ と が 指 摘 さ れ て お り 、 妊 娠 期 の 慢 性 的 な 亜 鉛 摂 取 不 足 は 、 出 生 子 に 対 し て 骨 代 謝 に 悪 影 響 を 及 ぼ す こ と が 懸 念 さ れ る 。 本 論 文 で は 、 こ の よ う を 妊 娠 期 の 慢 性 的 た 亜 鉛 欠 乏 が 出 生 仔 の 骨 に 与 え る 影 響 を 明 ら か に す る 一 環 と し て 、 以 下3点 を 検 討 し て い る 。 1) 正 常 ラ ッ ト を 用 い て 、 妊 娠 前 及 ぴ 妊 娠 期 の 低 亜 鉛 食 摂 取 が 出 生 仔 の 骨 に 与 え る 影 響 を 観 察 し た 試 験 。2) 骨 の 石 灰 化 に 与 え る 亜 鉛 の 影 響 を 詳 細 に 把 握 す る こ と を 目 的 に 、 様 々 な 亜 鉛 濃 度 で 培 養 し た マ ウ ス 骨 芽 細 胞 株 を 用 い て 、 そ の 石 灰 化 と 細 胞 内 亜 鉛 輸 送 に 関 与 す る 分 子 の 発 現 変 化 を 観 察 し た 試 験 。3) 骨 粗 鬆 症 マ ウ ス モ デ ル を 用 い て 、 妊 娠 前 お よ び 妊 娠 期 の 慢 性 的 ぬ 亜 鉛 欠 乏 が 出 生 仔 の 成 長 後 の 骨 に 与 え る 長 期 的 影響 を観 察し た試 験。 以上 、 一 連 の 研 究 に よ り 、 以 下 の よ う な 結 果 を 得 て い る 。

! : 妊 娠 期 堕 : 陸 性 的 塑 璽 鐙 筮 垂 迭 態 疊 ! ユ 出 生 住 Q畳 t三 皇 塞 歪 影 饗   ヒ ト に お け る 亜 鉛 欠 乏 の 大 部 分 を 占 め る 、 中 程 度 亜 鉛 欠 乏 モ デ ル と し て7 ppmの 亜 鉛 を 含 む 飼 料 を 、 妊 娠 前 お よ ぴ 妊 娠 期 間 の ラ ッ ト に 摂 取 さ せ た 。 そ の 結 果 、 中 程 度 亜 鉛 欠 乏 の 母 獣 か ら 出 生 し た 仔 に お い て 、 @ 頭 蓋 冠 器 官 培 養 に お け る 骨 形 成 の 減 弱 化 、 ◎ 骨 に お け る 亜 鉛 お よ び 他 の ミ ネ ラ ル 含 量 の 低 下 、 ◎ 骨 形 成 マ ー カ ー で あ る 血 清 オ ス テ オ カ ル シ ン 濃 度

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の有意な低下、がそれぞれ認められた。本実験では、妊娠期の慢性的ぬ亜鉛欠乏により、

母獣から胎児への亜鉛供給減少を介して胎児の骨発育に悪影響を与えることを示している。

2

: 畳 塑 互 区

i

t

三 韮

L

す . 歪 亜 鐙 幺 垂 堕 髮 饗 と 細 胞 内 璽 鐙 運 搬 機 撞 の ≠ 明

  

亜鉛欠乏がマウス骨芽細胞株の石灰化に与える影響と、石灰化における亜鉛の細胞内輸 送動態の検討においては、血中レベルを想定した、様々な亜鉛濃度で当該細胞を培養した 結果、石灰化早期および石灰化後期、いずれの時期においても亜鉛供給が低下した状況下 では骨芽細胞の石灰化が遅延することが明らかとをりゝ骨石灰化における亜鉛の栄養学的 な重要性が示された。これらの現象には、亜鉛トランスポーターの一種ZnT‑2 と細胞内亜 鉛貯蔵タ ンパク質メ タロチオネ インの発現 変化が関与 していることが示唆された。

3.

妊 娠期

cD

慢性的 塑璽鐙筮垂 迭態盈≧ら 出生ヒ塰任cD 盧量後

t

三韮

lr

す歪畳全堕彪響

  

妊娠期の中程度亜鉛欠乏が、出生後の胎児に長期的にどのような影響を与えるかを、骨 粗鬆症モデルマウス

SAMP6

を用いて検討した。中等度亜鉛欠乏飼料をを妊娠前と妊娠中 に摂取させた後、出生仔は亜鉛を十分量含む通常飼料を摂取させ、4 ,8 ,

12

週齢に骨形態計 測を実施、本モデルマウスにおいて骨量減少が顕著となる時期である20 週齢で、オス・メ スそれぞれ解剖し、骨を摘出して骨強度測定、詳細た骨形態計測を実施した。その結果、

出生時の骨への悪影響は一旦消失したが、中程度亜鉛欠乏の母獣出生仔では、オスのみ20 週の解剖時において、@骨強度の低下、◎大腿骨における長軸長の低下、◎骨組織体積の 有意な低下、@血中

25(OH)

ビタミンD3 濃度の低下、が明らかとなった。すなわち、中程 度亜鉛欠乏状態の母獣から出生したオス特異的に、成長期以降の骨の脆弱化とそれに伴う 骨折リスクが上昇することを示唆しており、これら骨への影響には25(OH) ビタミンD3 が 関与している可能性を示した。

  

本論文は、妊娠前および妊娠中の慢性的な亜鉛摂取不足により、出生仔の骨に短期的か つ長期的に悪影響を与えることを明らかにした。ヒトの慢性的な亜鉛摂取不足を模倣した モデルにおける出生仔の骨への影響を検討した実験は、これまでほとんどをい。また、母 親の慢性的な亜鉛欠乏による、出生仔の成長後の骨への影響は、これまでに全く知られて いない。胎児の適切な発生・発育のために、さらに児の将来の骨折予防の観点から、妊娠 可能なライフステージにある女性は日常より亜鉛を十分量摂取すべきであることを提案し た本論文は、高く評価できる。

  

よって、審査員一同は、長田昌士が博士(農学)の学位を受けるのに十分な資格を有す

るものと認めた。

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