博士(農学)/J¥ 林 学位論文題名
徹
Clostridiumthermocellum の セ ル ラ ー ゼ に 関 す る 研 究
学位論文内容の要旨
C. thermocellumの生産する巨大セルラーゼ群(セルロソーム)は、分子量2〜 6.5xl03 kDaであり、 夕ンパク質 変性剤の中でドデシル硫酸ナトリウム(SDS)に よ ってのみ解離させることが可能とされ、SDS―ポリアクリルアミドゲル電気泳動
(SDSーPAGE)によって14ー50個のサブュニットから構成されていることが判っている。
このような酵素複合体である為、個々のサブュニツ卜をネイテイブな条件下で均ー に精製することは困難とされ、各サブュニツ卜をコードする遺伝子のクローニング が盛んに行われており、現在までに22種類のエンドグルカナーゼ遺伝子が得られて い る。しかし 、これらの 遺伝子産物 である組換え体酵素には、結晶性セルロース
(アピセル)を分解する活性は見出されていない。一方、セルロソームの中で最大 分 子量(210 kDa)を示す糖夕ンパク質であるSLサブュニットと分子量82 kDaのエ ン ドグルカナ ーゼであるSSサブュニッ トを共存させると初めてアピセルを分解し うるという協同作用が見出されている。
本研究では、この様な背景の中で
1.SDS等のタンパ ク質変性剤 を用いることなくセルロソームの単純化(サブセル ロソーム)及び酵素の単離を可能とした。
2.サブ セルロソームを構成するタンパク質をコー卜する遺伝子のクローニングを 行った。
3. 2種 の 組 換 え 体 酵 素 の 精 製 を 行 い 、 諸 性 質 を 明 ら か に し た 。 4.精製 した各酵素の組合わせによるアビセルの協同分解作用を認めることができ た。
5. 酵 素 の 遺 伝 子 の 塩 基 配 列 を 決 定 し 、 酵 素 の 構 造 を 推 定 し た 。 本研究によってC. thermocellumの生産するセルロソームから単純化したサブセ
レロソームを調製し、またアピセルの分解に関し協同作用を示すと報告のある2個 のサブュニツ卜の精製、それらをコードする遺伝子のクローニング、組換え体酵素 の精製及び各酵素の組合わせによるアピセルの協同分解作用を明らかにすることに より、C. thermocellumのセルラーゼに関する酵素学及び遺伝子工学の発展に寄与 した。
本研究を要約すると、
1・旦・辿ermocellumの生産する巨大セルラーゼ群(セルロソーム)からSDS等の タ ンパク質変 性剤を用い ることなく セルロソームよりも単純で高活性を示す6個 サブュニット(Jl〜J6:Jl=SL,J3=Ss)から成るサブセルロソームの調製を行った。
2.Jl(SL)サブュニットの精製はネイテイブな条件下では不可能であり、SDS― PAGE後にゲルから抽出調製を行った。本方法により取得したJlサブュニットには、
従来認められなかったェンドグルカナーゼ及びアピセラーゼ活性を見出すことがで
き た 。Jlの 分 子 量 は210 kDa, カ ル ポ キ シ メ チ ル セ ル ロ ー ス (CMC) に 対す る 最 適反 応 pHは6.0, 最 適 反 応 温 度 は60℃ で あ っ た 。
3.SDS等 の タ ン パ ク 質 変 性 剤 を 用 い る こ と な く セ ル ロ ソ ー ム か らJ3(Ss) サ ブ ュ ニ ツ 卜 を 均 一 に 精 製 し た 。J3の 分 子 量 は82 kDa、CMCに 対 す る 最 適 反 応pHは6.6〜 7.6、 最 適 反 応 温 度 は70℃ で あ っ た 。J3は セ ロ ペ ン タ オ ー ス 、 セ ロ ヘ キ サ オ ー ス を 分 解 し た が ア ピ セ ル に 対 し て は 全 く 活 性 を 示 さ な か っ た 。 ま たJ3の 活 性 は 、 塩 化 ナ ト リ ウ ム 、 塩 化 マ グ ネ シ ウ ム に よ り 阻 害 さ れ た 。
4. 精 製 し たC. thermocellumのJl及 びJ3を 共 存 さ せ ア ピ セ ル に 作 用 さ せ る と ア ピ セ ル か ら セ ロ ピ オ ー ス の 生 成 が 、Jl単 独 の 場 合 に 比 ベ 約1.8倍 促 進 す る こ と が 認 め ら れ た 。
5. サ ブ セ ル ロ ソ ー ム を 構 成 す る6個 サ ブ ュ ニ ッ ト に 対 す る 抗 体 を 取 得 し 、 こ れ を 用 い て 各 サ ブ ュ ニ ッ ト を コ ー ド す る 遺 伝 子 の ク ロ ー ニ ン グ を 行 っ た 。 得 ら れ た 遺 伝 子 は 全 て 新 規 な も の で あ っ た 。
6. 組 換 え 体Jlを 大 腸 菌 体 内 よ り 均 一 に 精 製 し た 。 組 換 え 体Jlの 分 子 量 は37 kDa、 CMCに 対 す る 最 適 反 応 pHは6.6、 最 適 反 応 温 度 は55℃ で あ っ た 。 ま た 、C.ther― mocellumのJlと 同 様 に ア ピ セ ル か ら セ ロ ピ オ ー ス を 生 成 す る 活 性 を 有 し て い た 。 Jlの 分 子 量 に 比 ベ 組 換 え 体Jlの そ れ が 小 さ い 原 因 は 、 取 得 し た 遺 伝 子 が 完 全 な も の で は な く そ の 一 部 を コ ー ド す る も の で あ る 為 で あ っ た 。
7. 組 換 え 体J3を 大 腸 菌 体 内 よ り 均 一 に 精 製 し た 。 組 換 え 体J3の 分 子 量 は38 kDa、 CMCに 対 す る 最 適 反 応pHは5.5〜6.5、 最 適 反 応 温 度 は60℃ で あ り 、 ア ピ セ ル に 対 し て は 全 く 活 性 を 示 さ な か っ た 。 組 換 え 体J3の 活 性 は 、SH試 薬 に よ り 阻 害 さ れ た が 、 塩 化 ナ 卜 リ ウ ム 、 塩 化 マ グ ネ シ ウ ム は 活 性 に 何ら 影 響 を, 及 ぼ さな か っ た 。こ れ ら は
thermocellumのJ3の 諸 性 質 と は 異 な る も の で あ っ た 。
8. 組 換 え 体Jl,J3を 共 存 さ せ ア ビ セ ル に 作 用 さ せ る と ア ビ セ ル か ら セ ロ ビ オ ー ス の 生 成 が 、 組 換 え 体Jl単 独 の 場 合 に比 ベ 約1.7倍 促 進す る こ と、 が 認 めら れ た 。こ れ は C. thermocellumの Jl、 J3の 結 果 と 同 程 度 の も の で あ っ た 。 9. 組 換 え 体J3を コ ー ド す る 遺 伝 子 の 塩 基 配 列 を 決 定 し た と こ ろ 、978 bpの 塩 基 対 か ら 成 る オ ー プ ン リ ー デ ィ ン グ フ レ ー ム が 認 め ら れ た 。 本 遺 伝 子 よ り 得 ら れ る 組 換 え 体J3は 、325ア ミ ノ 酸 残 基 か ら 構 成 さ れ 、 そ の 分 子 量 は35,186 Daと 算出 さ れ た。
精 製 し た 組 換 え 体J3のN末 ア ミ ノ 酸 配 列 は 本 遺 伝 子 よ り 得 ら れ るN末 ア ミ ノ 酸 配 列 と ー 致 し た 。
10.旦 .thermocellumのJ3を 臭 化 シ ア ン 処 理 す る こ と で 得 ら れ た3個 の ペ プ チ ド の N末 ア ミ ノ 酸 配 列 を 決 定 し た 結 果 、 組 換 え 体J3中 の ア ミ ノ 酸 配 列 と 一 致 し て い る 部 分 を 見 出 し た 。 こ の こ と か ら 組 換 え 体J3を コ ー ド す る 遺 伝 子 は 、J3の 一 部 ま た は 関 連 の あ る タ ン バ ク 質 を コ ー ド す る も の で あ る こ と が 示 唆 さ れ た 。 11.ア ピ セ ル の 協 同 分 解 作 用 に 関 し 、Jlは セ ル ロ ー ス 表 面 に 付 着 し 、J3の ア ン カ ー タ ン パ ク 質 と し て 働 く と い う 説 が 提 唱 さ れ て き た が 、 今 回Jl自 体 に ア ピ セ ラ ー ゼ 活 性 を 認 め た こ と か ら 、Jlは 単 な る ア ン カ ー タ ン パ ク 質 で は な い こ と が 明ら か に なっ た 。
さらにJ3にはアビセラーゼ活性が認められなかったことから、J3はJlの活性を増強 する働きを有するェンドグルカナーゼであることが示唆された。これらのことは、
組換え体酵素においても同様に認められた。
以上、C. thermocellumの生産する巨大セルラーゼ群(セルロソーム)に関し、
特に結晶性セルロースの分解において協同作用を示すと報告のある2個のサブュニ ットJl,J3にっいて精製を行い、酵素特性を明らかにした。また、両サブュニツ卜 を用いてアピセルの協同分解作用を認めた。さらに両サブュニットをコードする遺 伝子のクローニングを行ったところ、それぞれのサブュニツ卜の一部あるいは関連 のあるタンパク質をコードする遺伝子が取得されたと考えられたが、それぞれの組 換え体酵素を用いた場合においてもアピセルの分解における協同作用を認めること ができた。
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
Clostridium thermocellumの セ ル ラ ー ゼ に 関 す る 研 究
本論 文は、和文150頁、図48、表17、引用 文献141、 第1章t3章 及び総括から 成り 、他に参考 論文19編が付 されている 。
C. thermocellumは、菌体表面並びに菌体外に巨大セルラーゼ群(セルロソーム)
を生産し、これはタンパク質変性剤の中でドデシル硫酸ナ卜リウム(SDS)によって のみ解離させることが可能であり、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS― PAGE)により14−50個のサブュニット(分子量:20〜210 kDa)から構成されている。
これらのサブュニットの中で最大分子量(210 kDa)を示す糖タンパク質であるSL サ ブュニット と分子量82 kDaの エンドグル カナーゼで あるSsサブュニットを共 存させると初め゜て結晶性セルロース(アピセル)を分解しうるという協同作用が見 出されている。
本 研究は、この協同作用を示すSLサブュニツ卜及びSsサブュニツ卜を精製し、
アピセル分解における協同作用を確認すると共にそれぞれのサブュニツ卜をコード する遺伝子を取得し、組換え体タンパク質を用いてその協同作用を明らかにするこ とを目的とした。その結果、各サブュニットの精製過程においてセルロソームより も 単純で高活性のサブセルロソームの調製を可能とし、さらにSsサブュニットの 単離に成功した。また、各サブュニツ卜をコードする遺伝子を取得し、これらのタ ンパク質を用いて各組合わせによるアピセルの分解を検討したところアビセルから セ ロ ピ オ ー ス の 生 成 促 進 と い う 協 同 作 用 を 認 め る こ と が で き た 。 第1章は、C. thermocellumの巨大セルラーゼ群(セルロソーム)に関する研究 史について述べられている。
第2章は、C. thermocellumのセルラーゼの精製と諸性質について述べられ下記 の内容が含まれている。
1.SDSによってのみ解離させることが可能であるとされているセルロソームから ネイ テイブな条 件下で6個サブュニット(Jl〜J6:Jl=SL,J3=Ss)から成るセル ロ ソ ー ム よ り も 高 活 性 で 単 純 な サ ブ セ ル ロ ソ ー ム の 調 製 を 可 能 と し た 。 2.Jl(SL)サブュニットの精製はネイテイブな条件下では不可能であり、SDS− PAGE後にゲルから抽出調製を行った。本方法により取得したJlサブュニットには、
従来 認められな かったェン ドグルカナ ーゼ及びアピセラーゼ活性を見出した。
男 哉
助
之
房 誠
勝
田 葉
坂
冨 千
匂
授 授
授
教 教
教
査 査
査
主 副
副
3.J3(Ss)サブュニットをネイテイブな条件下で均一に精製し、諸性質を明らか にした。
第3章では、サブセルロソームのタンパク質をコードする遺伝子の取得及び組換 え 体Jl,J3の 精 製 と 諸 性質 に っ いて 述 べら れ 下記 の 内容 が 含ま れ てい る 。 1.サブセルロソームを構成する6個サブュニットに対する抗体を取得し、これを 用 い て 各 サ ブ ュ ニ ツ 卜 を コ ー ド す る 遺 伝 子 の ク ロ ー ニ ン グ を 行 っ た 。 2.組換え体Jlを大腸菌体内より均一に精製し、C.thermocellumのJlサブュニット と 同 様 に ェ ン ド グ ル カ ナ ー ゼ 及 び ア ビ セ ラ ー ゼ 活 性 を 見 出 し た 。 3. 組 換 え 体J3を 大 腸 菌 体 内 よ り 均 一 に 精 製 し 、 諸 性 質 を 明 ら か に し た 。 4.C.thermocellumのJl,J3並びに組換え体Jl,J3の各組合わせにおいてアピセ ルからセロ ビオースの 生成を促進 させるとい う協同分解作用を明らかにした。
5.組 換え体J3をコードする遺伝子の塩基配列を決定したところ、組換え体J3は 325アミノ酸残基から成り、本来のJ3とは異橡っているタンパク質であった。しか し、J3を臭化シアン処理することで得られた3個のぺプチドのN末アミノ酸配列を 決定した結果、組換え体J3中のアミノ酸配列と一致している部分を見出した。この ことから組換え体J3をコードする遺伝子は、J3の一部または関連のあるタンパク質 をコードするものであることが示唆された。
以上の様にC.thermocellumの生産するセルロソームに関し、結晶性セルロース の分解に関与するサブュニットの精製、諸性質の検討及び遺伝子のクローニング等 を行い、基礎的及び産業的な貢献を果たした。
よって審査員一同は、男『jに行った学力確認試験の結果と合わせて、本論文の提出 者 小林 徹 は 博士 ( 農学 ) の学位を受 けるのに充 分な資格が あるものと 認定し た。