はじめまして、今年度の4月より、滋賀大学保健管理セン ター(彦根キャンパス)に非常勤カウンセラーとして勤務して います、時岡良太と申します。月曜日の13時から来ていて、主 に1対1のカウンセリングを担当しています。大学生活では、 人間関係のことや、将来の進路のことなど、いろいろと悩むこ とも多いと思います。悩んでいることがあっても、友達や家族 にはなんとなく言いづらくて、一人で抱えている場合もあると 思います。そうしたときに、ぜひカウンセリングに来てもらえた らと思います。日常生活とは一歩離れた空間で、カウンセラー という知らない人だからこそ話せるということもありますし、 人に話すことで、自分の中で気づきが得られ、自己理解が深 まっていきます。また、何か特定の悩み事がない場合でも、何 か分からないけどモヤモヤするとか、自分について一度深く 考えてみたいとか、そういうことでももちろん歓迎します。話さ れたことを第三者に勝手に洩らすことはありませんので、安 心して話しに来てもらえればと思います。少しでもみなさんの お役に立ちたいと思っていますので、よろしくお願いします。 さて、今回は「自分」の多面性について、特に青年期に焦点 を当てて取り上げたいと思います。 大学生になると、高校生までとは環境が大きく変わります。 それまでは、朝に学校に来て授業を受け、放課後には部活動 をするという、学校中心の生活だったのが、大学生になると、 授業も選択制の部分が増え、課外活動もサークルなどがあ り、幅が広がります。また、アルバイトをする人も多いと思いま す。このように、大学生になると多くの人が、複数の場所で活 動するようになります。ここで、思い浮かべてみてほしいので すが、それぞれの場所での「自分」は、同じ自分でしょうか、そ れとも違う自分でしょうか。おそらく、ある程度一貫している 部分はあるけれども、それぞれの場所で違う「自分」になって いる、という人は多いのではないでしょうか。そのことに対し て、「どれが 本当の自分 なんだろう?」と、悩む人もいると思 います。 自分がいる場所によって、異なる「自分」になるのは、それぞ れの場所で異なる人間関係の中にいるということが大きく影 響していると考えられます。特に、日本などの東洋文化では、 根本的なところで自己と他者が結びついていることが前提と なっている自己観が優勢であるとされています。これは「相互 協調的自己観」(1)と呼ばれるもので、その場の他者との関係 で、「自分」のあり方が決まってくるということです。これに対し て、西洋文化においては、独立した個人がまず先にあり、その 個人どうしが関係を結ぶという「相互独立的自己観」が優勢で あるとされています(図1)。このことを踏まえると、大学生に なって活動場所が増え、人間関係が増えることで、それぞれで 異なる「自分」が出てくることも、「相互協調的自己観」が優勢 なわたしたちにとってはむしろ自然なことのようです。
青年期における「自分」の多面性について
自己紹介
複数の「自分」
相互協調的自己観
SHR No.77 滋賀大学保健管理センター 非常勤カウンセラー時岡 良太
( 2 )青年期は、アイデンティティの探求の時期であると言われ てきました。簡単に言えば、「自分さがし」の時期とも言えるで しょう。上述したような、関係によって異なる「自分」を認識し、 それらを統合していく中で「自分とは何か」ということについ て思いをめぐらす時期です。しかし、現代においては複数の 「自分」の存在を認識しながらも、そのこと自体に悩んだり葛 藤したりせずに、場面によって「自分」をうまく使い分けてい る青年が多くなってきているようです(3)。また、現代の青年の 友人グループ内では、「∼キャラ」というのがそれぞれに決 まっていて、それに基づいたコミュニケーションが主流となっ ているようです(4)。自分はこの場では何キャラなのか、素早く 認識し、そのキャラとしてコミュニケーションを行うことが、現 代の青年たちにとって必要なスキルになってきており、それ がうまくいかないことは大きな心理的負担につながります。 こうして、青年たちは複数の「自分」が存在することに深く悩 む暇もなく、いろいろな「自分」を使い分けてコミュニケー ションを行っているようです。 わたしたちは、「相互協調的自己観」が優勢で、他者との関 係によって「自分」のあり方が決まってくることを説明しまし た。だとすると、複数の「自分」がいることは当たり前で、それ に悩む必要はないように思われるかもしれません。しかし、 実はそうして悩むことが、「自分」を豊かにしてくれるきっかけ にもなり得ます。「自分って何だろう」と、時間をかけて真剣に 悩むことで、自分についての新たな発見があったり、深い所 での理解が得られたりすることがあります。悩みを「抱える」こ とは、本人にとって辛く苦しいことですが、それに向き合い、 やり抜くことで、より「自分」が成長する可能性ももたらすので す。しかし現代では、そのように悩みを「抱える」ことが難しく なってきていると言われています(5など)。筆者は、そこには現 代の技術の発展によって、悩みを忘れさせてくれる装置(携 帯電話、インターネットなど)がたくさん生み出されてきてい ることも関係していると考えています。悩みを持つことも難し い現代ですが、カウンセリングではそうした悩みを一緒に考 え抜くことを目指します。もし何か悩むことがあったら、それ は実は、自分を成長させてくれるチャンスかもしれません。そ んなとき、カウンセリングに来てもらえれば、みなさんのお手 伝いができるかと思います。もし行ってみようかなと少しでも 思うことがあれば、遠慮なく来てもらえればと思います。お待 ちしています。
悩みを「抱える」こと
現代の「自分」のあり方
SHR No.77 図1 相互独立的自己観(A)と 相互協調的自己観(B)(2) 母親 父親 兄弟・姉妹 友人A
友人 自己 同僚 母親 父親 兄弟・姉妹B
友人 友人 自己 同僚 ( 3 )1 Markus, H. & Kitayama, S. (1991) Culture and the self: Implications for cognition, emotion, and
motiva-tion. Psychological Review, 98, 224-253. 2 北山忍. (1994) 文化的自己観と心理的プロセス. 社会心理学研究, 10(3), 153-167. 3 岩田考. (2006) 若者のアイデンティティはどう変わったか. 浅野智彦(編). 検証・若者の変貌:失われた10年 の後に. 勁草書房. 4 相原博之. (2007). キャラ化するニッポン. 講談社. 5 岩宮恵子. (2009). フツーの子の思春期―心理療法の 現場から. 岩波書店. SHR No.77 【文献】