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〈研究ノート〉ERISAのリライアンス・ディフェンス : 判例研究

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121 〈研究ノート〉

ERISAのリライアンス・ディフェンス

判例研究一

二  櫻

1 はじめに

 ERISA制定後,年金受託者の最大の関心事の一つは,受託者の信認義務違反

に基づく訴えに対し,年金制度専門家の助言を得ておくことが,どの程度の防 御になるかという点にあった。さらに,同僚受託者が,違法不当な行為をして いないかを監視する義務があるとされるが,逆から見れば同僚を信頼して任せ られるのはどの範囲かを知る必要がある。本報告では,これらに関する諸判例 を検1討することにより,ERISAの法としての実効性を検討するものである。

 ERISA制定以前,従業員給付制度に関する法規制は,各州の普通法上の基準

である慎重人原則に拠っていた。同原則は,受託者に「通常人の慎重さでもっ て注意を払い,技能を発揮する」ことを要求していた。しかし,普通の受託者 は,専門家の助言を得れば責任回避できるとされていた。その根拠は,二つ存 在していた。一つは素人の受託者の能力の限界に裁判官が理解を示していたこ と,こつは信託証書によって慎重人原則を緩和・修正することが可能であった     1) ことである。

 しかし,ERISAの対普通法優先適用によって上記責任限定を図ることが困

難となっている。では,どうすることが要求されているのか,その範囲を特定 する必要がある。

 そのため,まず,ERISA制定前の判例を検討し,ついで同法の関連規定を理

1)Scott on Trusts§174, p.1411および§222, pp.1771(3d ed.1967)

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解し,最後に同法制定後の諸判例を考察する。最:後に日本法への提言を行う。

II ERISA制定前の判例

 Morrissey v. Curran判決  (351 F. Supp.775(SD.N.Y.1972))  本来年金受給権のない早期退職者に,年金規約を誤解したためにその一括払 いをしてしまった,受託者であり弁護士である者の意見に疑うことなく従った 同僚受託者の責任が問われた事件である。  National Maritime Union of America(NMU)の組合貝は,組合の委員長,財 務担当者,および役貝年金制度受託者が,非役員に対して年金を給付したことに対し て,損害賠償を求める訴を提起した。  1966年8月2日Perryは,1974年10月20日まで委貝長のアシスタントとしてNMU と非役員としての雇用契約を締結した。 この雇用契約には,もし,Perryの雇用が,1974年10月20日以前に終了した場合,彼 は,「所定の給与をすべて受け取る権利を有する。その給与は,組合役員に支払われる NMU役員年金制度拠出金およびその他の付加給付を含む」 と定められていた。また,年金原価その他付加給付相当額を一時金として受給する選 択権が,Perryに与えられた。  役員年金制度の受託者の署名がある日付のない文書は,受託者が,その合意に拘束 されることを承認する証拠となった。  Perryは,1969年1月1日に解雇され,1974年10月20日までの賃金,解雇手当,休暇 手当,その他の手当相当の小切手が,支払われた。また,Perryは,1974年10月20日ま で年金受給権相当額の一括支払として22万$を受領した。しかし,受託者がすべきこ とは早期退職者の本来の雇用期間中,加入者として扱うことだけで,年金を支払うべ きでなかった。この裁判の争点は,一括払いをした役員年金制度の受託者が,信認義 務違反か否かである。  信託の合意および宣言は,次のように定める。 「受託者は,給付額,支給要件および条件を決定する完全で唯一の裁量権を有し,受 給者および受給予定者への給付に関するあらゆる問題を最終的に決定する権限を有 する」と。

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       〈研究ノート>ERISAのリライアンス・ディフェンス  123  判旨は「受託者は,本件信託基金の管理運営に関係する事柄について法律顧問の見 解(以下,受託者である弁護士の見解を含む)に依拠し,行動することで保護される べきである。B受託者は,その行動が意図的な違法行為でない限り,受託者が相当な 注意を払って選任した弁護士の行為または他の受託者の行為に責任を負わない。」と した。  弁護士であると同時に受託者の一人でもあるFreedmanは,一括支給が妥当である という意見を持っていた。残りの受託者SegalとKarchmerは,その意見に従い,支 払を承認した。  裁判所は,該支払が違法であり,Freedmanは,出張中に準備なしに即座に年金支 払いを指示したことが受託者責任に対する取り返しのつかない(reckless)無関心を示 したと判示した。  しかし,SegalとKarchmerは,年金受給に多く関わってきたにも拘わらず,誤っ て(negligently), Freedmanの意見に依拠して支給したにすぎないと判示した。  結局,受託者の過失責任を免除する年金規約の免責条項によって,Segalと

Karchmerは, Freedmanの助言に従った過失があるにも拘わらず責任を問わ

れなかった。根拠条文は,ERISA制定前のlabor−Management Reporting and Disclosure Act of 1959(‘LMRDA’)29 USC§501である。  年金規約による免責条項が,機能したため,受益者保護に欠ける判断が下さ れた判決と云える。実質上信頼の抗弁が認められた例である。

III 関連するERISAの条文

 ERISA§410(a)が,「405条(b)(1)および405条(d)を除いて,信認義務者の義 務・責任を緩和するいかなる合意もしくは証書の定めも,公序良俗に反し無効 である。」と定めるため,同法制定後,もはや受託者責任の限定は,存在し得な くなった。したがって,受託者は信託証書に責任限定の,免責条項を置くこと によって保護されなくなった。また,州の普通法に基づく1974年以前の受託者

に有利な先例はすべて,514条の専占(ERISA優先適用)の規定で効力を失っ

た。同条は次のように定める。「本条の(b)項に定める場合を除いて,本章およ

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124 彦根論叢 第298号 び第四章の諸規定は,今後の従業員福利制度に関する限りいかなる州法をも無

効にする。… 」と。このように,専門家の助言に依拠していた素人の受託

者に対する有利な扱いをしていた先例は,専門された。今後は,ERISA適用

後,受託者が専門家の助言に依拠することが信認義務違反を理由とする訴訟に 対する防御となり得るか,また同僚受託者の行為に対する責任はどう変化した かが問題となった。同法は次のように定める。 共同信認義務者の違反に対する責任 405条(a)  年金制度の信認義務者は,本款に別に定める責任に加え,以下の場合,他の信認義 務者の同義務違反に対し有責である。  (1)他の信認義務者の作為または不作為が,義務違反であることを知りながら,それ に参加,または隠蔽することを引き受けた場合  (2)信認義務者としての立場から生じる特定の責任を果たすべき404条(a)(1)(受託   者の基本的信認義務規定… 訳者注,以下同じ)に従って行動しなかったこと   により,他の信認義務者の義務違反を可能にした場合  (3)他の信認義務者の違反を知りながら,違反を除去する相当な努力を怠った場合  (b) (1)  本条(d)および403条(a)(1)(2)(年金制度が受託者でない指名信認義務者によって 管理されると信託証書で明記する場合または投資マネジャーに委任される場合)に別 段の定めがある場合を除き,年金資産が複数の受託者によって所有されている場合一  (A)各受託者は,共同受託者の義務違反を防ぐために相当な注意を払わなければな  らない  (B)受託者は,年金資産の管理,支配を共同で行わなければならない。ただし,受託   者が,信託証書による合意によって受託者間の責任,債務,またはi義務の分担を   することを本(B)節は排除するものではない。この場合,一定の責任,債務,また   は義務の分担をしなかった受託者は,その分担をした他の受託者の作為不作為に   よって生じた年金資産の損失に対し,個別に受託者としての(B)節の責任を負わ   ない。

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       <研究ノート>ERISAのリライアンス・ディフェンス  125  (2)本項は,(a)項または本藍の他の規定に定める信認義務者の責任を限定しない。  (3)(A)年金資産が複数の信託に所有されている場合,一つの信託の受託者は,自身    受託者である信託の受託者の作為不作為に基づく場合を除いて,本条(b)(1)に    定める責任を負わない。    (B)受託者は,403条(a)(1)に定める指示に従うことによって本項の責任を負う    ことはない。  (c) (1)  年金制度を維持する証書は,(A)指名信認義務者間で(受託者の責任を除く)信認義 務者の責任の分担,(B)指名信認義務者が,年金制度の(受託者責任を除く)信認義務 者の責任を果たすため,指名信認義務者以外の人を選定する,手続を明記することが できる。  (2)年金制度が(1)の手続を明記し,これに基づいて指名信認義務者の責任をある人 に分担させた場合,または責任を遂行する人を選任した場合,当該指名信認義務者 は,以下の点を除いてかかる責任を果たすべき人の作為不作為に責任はない。  (A)指名信認義務者が(1)分担または選任(II)(1)の手続の設定及び実行(III)分担 または選任の継続,につき404条(a)(1)に違反しない限り  または,(B)指名信認義務者が(a)項にしたがって別の責任に問われない限り  (3)本項の「受託者責任」とは,証書で402条(c)(3)に基づき指名信認義務者が投資 マネジャー任命権限を有すると定める場合を除く年金制度管理,支配のための年金制 度信託証書(もしあれば)に定める責任を意味する。 (d) (1)  もし投資マネジャーが402条(c)(3)に基づき任命されている場合は(a)の(2)(3)お よび(b)の規定に拘わらず,受託者は,かかる投資顧問の作為不作為に対し責任を負わ ず,投資顧問が管理する年金制度の資産を投資その他の管理する義務はない。 (2)本項の規定は,如何なる受託者の行為に対する本節の責任をも免れさせるもので はない。

IV ERISA制定後の諸判例

(1)Donovan v. Mazzola判決(716 F.2d 1226(9th Cir.1983))

専門家に,年金制度保有の資産の利用に関するフi一ジビリティの研究依頼

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をしたものの,その専門家の適性に関しては調査しなかった受託者に信認義務 違反を認めた判決である。また,専門家に対する高額報酬支払いも問題となつ      2) た事件である  本判決は,その後の信認義務者の行動基準を画するリーディングケースとな った。  (2)Katsaros v. Cody判決(568 F. Supp.360(E.D.N.Y.1983))  Teamsters Local 282 Pension Trust Fundの受託者(以下,受託者という。) は,ある銀行持株会社に対し,資金貸付を承認し,実行した。貸金は,銀行持 株会社の完全子会社である銀行全株式で撹保されていた。その後まもなく,連

邦および州当局が銀行を閉鎖した。ERISAの信認義務違反を理由とする二つ

の訴訟が,受託者に対して起こされた。Teamsters Local 282 Pension Trust Fund(以下,基金という。)は,この訴訟に被告として参加した。  当裁判所は,次のように事実認定した。 一、銀行持株会社に対する貸付  Codyは,1965年頃から基金の受託者であり, Welfare Fund and Annuity Fund of Loca12820f the International Brotherhood of Teamstersの受託者でもあった。本 件に関するすべての期間中,Codyは,年金,福利,年金支給それぞれの基金の管理者 であった。貸付のため銀行の財務諸表と資産比較表を配布したのは委員会開催前日な いし当日になってからであった。出席した(Cody以外の)受託者は,借入の申し込み を会議ではじめて知った。1950年代初めから基金によって雇われていた公認会計士 Coltonは,この会議に列席していた。彼は,この貸付の健全性に関する意見表明をす るに足る検討を行うことを拒否し,基金の要員のだれも貸付に関する意見表明をする に足る訓練を受けていなかったと証言した。  借り手の代理人は,受託者に上記文書を配布した後,2時間説明した。そこで,出 席の受託者は,全員一致で貸付を一部修正して承認した。  出席した受託者は,全員一致で,被告Codyと被告Guerciaに貸付権限を授権した。  二人は,基金の顧問弁護士Ballinを伴って翌日シカゴへ向かった。貸付の最終取り 2)詳細は,拙書「M&A時代の企業年金保護」三八頁以下参照

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       <研究ノート>ERISAのリライアンス・ディフェンス  127 決めと当地の法律に関する助言を得るために当地の弁護士Carmellという入を雇っ た。  受託者は,同地の権利報告書を受け取ることはなかった。同意見書は,銀行持株会 杜及び銀行に不利となる訴訟や非訟事件などは現在のところ存在しないと記されて あった。  銀行持株会社は,借主すなわち同会社の財政状況を逐次報告する義務を負うと約束 していた。しかし,報告された内容は,不完全であった。受託者たちの間で回覧され たけれども文書には,いかなる報告や分析も添えられていなかった。たとえおおざっ ぱにでも文書の検討を加えておけば,銀行がその財政の健全性に関与する連邦預金保 険公杜(Federal Deposit lnsurance Corporation(“FDIC”))の指摘に対する矯正的 な手段を論じていたかを発見できたであろうに。被告は,2月27日の委員会で,An・ gelosとHoweの説明に善意で依拠したものであって,信認義務違反を認めるに足る 証拠はないと主張した。  被告は,さらに,経営者側受託者であるSchneiderが強調するものであるが,前述 担保のためのAngelosの個人保証が,貸付を検討する際の経営判断の範囲内であり, 慎重さを示すと主張する。  受託者の義務は「法の最もよく知るところ」であり(Donovan v. Bierwirth,680 F. 2d 263, 272 n. 8 (2d Cir.),cert. denied, 一U.S.一, 103 S. Ct. 488, 74 L. Ed. 2d 631(1982)), Restatement(Second)of Trusts§2 colnment b(1959)(「受託者の義務は,その他 の信認義務者より強化されている。」)参照。慎重原則は,通常人が自己の財産を扱う 際の慎重さの客観的な基準である。(以下,Restatement(Second)of Trusts§174 comment a(1959)引用)また, Bogert, Trusts&Trustees§541 at 164(rev.2d ed. 1978)参照  受託者が,年金資産投資に関する判断をするための教育,経験,そして技能を持た ない場合は,判断するための独立した助言を求める積極的義務を負う。(Donovan v. Bierwirth, 680 F. 2d 263, 272−73, Donovan v. Bierwirth, 538 F. Supp. 463, 470 (E.D. N.Y. 1981) , aff’d as modified, 680 F. 2d 263 (2d Cir.) , cert. denied, 一U.S.一, 103 S. Ct. 488, 74 L. Ed. 2d 631(1982) etc.)  「同様の能力を有し,同様の事柄に精通する慎重な人が」外部の助言を得るという 「行動をとるのが常である状況で」外部の助言を求めないことは,慎重さを欠き,

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128  彦根論叢 第298号 ERISA違反である。(ERISA§404(a)(1)(B))受託者の独立した調査行動は,投資判 断に達するための注意力と注意義務の要件達成の状況証拠である。通常でない,困難 な投資判断に習熟していない受託者は,「他人の助言に全面的に依存するのではなく, 特定の投資内容:に独立した検討を加えるよう」求められる。Withers v. Teachers’ Rtirement Systern, 447 F. Supp. 1248, 1254 (S.D.N.Y. 1978), aff’d mem., 595 F. 2d 1210(2d Cir.1979);Bogert,§541, at 164−65参照 独立した検討を加えるという受託 者の義務は,借主の表現,断定,そして期待に依拠しないという消極的義務を含むと 解する。  仲間の受託者の助言や情報にのみ依拠すると,受託者が責任を負うことがある。も し,受託者が,仲間の受:託者の信認義務違反を確信すれば,「違反を救済すべき状況で は適切な努力を」しなければならない。ERISA§405(a)(3), Morrissey v. Curran,567 F.2d 546,549−51(2d Cir.1977)(Lumberd判事結論賛成)参照 しかしながら本件で は,緊急性と速度が,慎重な調査と議論の必要性に優先した。弁護士が議事録の他の 項目に関して三層会の構成員に助言を与えるために列席していたことは明らかであ る。受託者は誰も,当該貸付が当を得たものであるか否かについて彼に意見を求めな かった。とにかく彼は,自分が銀行持株会社および銀行の財務諸表に関して意見を表 明する資格があるとは考えなかった。  独立した調査があれば,銀行持株会社および銀行の財務諸表に基づく貸付が慎重さ を欠くものであると判明したであろう。すなわち資本の適切性を欠き,貸倒引当金の 貸付金に対する割合が低く,収益性にも問題があった。また弁済の可能性および資金 の流動1生が低かったし担保は価値の低いもので,シカゴで消費貸借契約を締結した 1979年3月1日,まさにその当日,担保の土地は,1977年度税金の未納によってCook 郡当局によって公売にかけられた。 二.Des Plaines銀行の資金提供者の調査  受託者は,ごく僅かの努力をすればCentral National銀行に資金貸付の経緯につい てDes Plaines銀行に問い質すことができたはずである。当時…の借金の額は,約百万 $であり,Central National銀行は,貸金の更新を拒否していた。そうすれば,たぶ ん,Central National銀行の1979年3月1日期限の借金の借り換えを,シカゴの少な くとも5銀行が拒否していた事実も知ることができたであろう。その調査をすれば, 同銀行の資金不足,預貸率,不良貸付およびレストランに対する貸付の全体の貸付に

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       〈研究ノート>ERISAのリライァンス・ディフェンス  129 対する高い割合を強調するFDIC報告も知り得たであろう。 三.結論  受託者は,銀行持株会社に2百万$の貸付を承認する際,当時一般的に認められた 慎重人の行動基準としての注意力,技能,慎重さ,を発揮することを怠ったため, ERISA§404(1)(B)に定める基金加入者および受益者に対する信認義務に違反した。 被告Nappiは,1979年3月20日に追認のための議決権行使をしたため,承認すべきで ないという彼の義務に反したことになり,他の受託者と連帯して基金の損失に責任を 負う。原告は,貸付契約の要件にある銀行持株会社の支払不能の結果生じたいかなる 損失に対しても被告受託者達に連帯責任を追求する権利がある。  Katsaros v. Cody事件の原告は,(Guerciaを除く)被告受託者達に23,473.57$お よびそれが支払われるまでの利息を要求する権利がある。  以上のように判示する。  本判決は,受託者委員会に当初欠席していたものの後で決議を追認した受託 者にも,いわゆるワンマン経営者兼受託者の暴走を止めなかったことで受託者 責任を認めた判決といえる。受託者の信頼の抗弁が,認められなかった例であ る。金融機関の経営状況を調査せず資金を貸し付けた者の責任が問われた事件 として今日的な意義もある判例である。  (3)Dimond v. Retirement Plan for Employees of Michael Baker Corp.判    決(582F. Supp.892(W.D. Pem 1983)) 【事実の概要】  原告Dimondは, M B社の株主,取締役,そして年金制度の加入者であった。被告 は,年金制度,同社,および会社の議長でありCEOであるBakerであったが, Baker のほかにReese, Shaw, Wilsonが,会社の取締役であり年金の受託者を兼ねていた。  原告は,被告達のMB社株式取得禁止を求めて一方的緊急差止命令に続いて暫定的 差止命令を申し立てた。前者が,会社の現状維持の合意によって取り下げられ,後者 の申立が本件である。  総数25万株の株式取得は,まず三被告合わせてその約半分弱を現金で取得し,残り

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130 彦根論叢第298号

をBakerだけが,売主との買付売付選択権とした。この契約の特徴は, Bakerが,取 得した株式の議決権を有することに加え,選択権を有する取得予定の株式にも前もっ て撤回不能の委任状が与えられる点にあった。その目的は,原告によればBakerが同 社の議長とCEOを解任されないためであり,被告Bakerによれば売主による乗っ取 りの脅威を懸念し,自ら支配権を確保し,さらに同社株取得が有利な投資と考えたか らであった。  年金基金も,同社株式を取得したが,受託者でもあるBaker以外の三人の受託者は 契約が成立するまでBakerの委任状取得のことを知らなかった。  【判旨】(主題に関係する部分)  1.会社,年金制度,Bakerの三者が共同で株式を取得し, Bakerの選択権対象の 株式の委任状を得るのは,Bakerの支配権確保のためであり,会社と年金制度の参加 によって彼が利益を得ている。これは,取締役会と年金受託者委員会に契約全体の意 義を検討する機会を与えなかったためである。  2.民事訴訟法によって被告とすることが認められるReeseほか二名が,株式取得 する際,Bakerの言葉を信じること以外の独自の調査または独立した助言を求めなか ったため,加入者と受益者に対する専心義務および慎重原則に反する。  3.年金基金が1に述べた支配価値を含む株価で株式取得することは,そのことを 株式取得の交渉理由としながら三受託者に開示されなかったため取引禁止行為にも 相当する。  4.もし,この暫定的差止命令を認めなければ,株式の市場性を損ない,年金資産 を株式取得に流用し,Bakerの不当な議決権行使によって回復すべからざる損害を与 える。  以上のことから差止命令を認める。  本判例も(2)判例と類似する。受託者の一人が重要事実を隠して受託者会議の 了承を得た場合,隠された事実の積極的な調査義務を認めた判例である。わが 国の株式会社の平取締役の代表取締役に対する監視義務の範囲を画する問題に 類似する。信頼の抗弁が機能しなかった例と云える。

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       <研究ノート>ERISAの11ライアンス・ディフェンス  131  (4)Fink v. Natoinal Savings and Trust Co.判決(772 F.2d 951(D.C.Cir.    1985))  この信託は,確定給付型年金のように年金が支払不能になった場合の保証が ない,いわゆる確定給付型年金の一種,利潤分配制度である。年金に出回する 企業が事業に行き詰まった場合の,受託者の行動に対し厳格な責任が課せられ た事件である。倒産するまで自社株を漫然と保有することが許されないとした 事件としても意義がある。 _   調ヒー旦  。 目尽  控訴人FinkとKraftは,主として非営利団体のための団体保険の販売,管理,引受 をする持株会社であるConsumers United Group Inc.似非, CUGと呼ぶ〉の退職従 業員であった。被控訴人は,CUG,創設者Gibbons, CUG利潤分配と信託の制度(以 下,制度と呼ぶ),並びに同制度の現受託者であるNational Savings and Trust Co. (以下,NS&Tと呼ぶ)そして,当初の受託者であるSchoen, Baron,およびFreeman (以下,当初の受託者と呼んで区別する)である。NS&Tは,本来,従業員にCUG の50%の持分権を移転することによって,彼らに退職時の所得を支給するよう考案さ れた。すなわち退職にあたって,従業員は,制度上の持分割合を清算して現金化する ことができる。給付方法は,三つつ,一括払い,最高10年の年賦払い,または年金払 いで,制度管理人の選択によって決定される。  制度設定の当初,Gibbonsは, CUGの普通株式100%に相当する250株を所有してい た。制度は,CUGからの出指金のみで賄われ,従業員の拠出は,制度上認められてい なく,かつて為されたこともなかった。同株に公開された市場はなく,配当金も支x払 われなかった。したがって,CUGによって制度に譲渡された250株の代金は, CUG が,制度上出損することができる範囲でのみ支払われた。ERISAが制定され,利潤分 配制度は,その資産の全額を事業主証券に投資してもよいこととなった。H. R. Rep. No. 93−1280, 93d Cong., 2d Sess. 317−18, reprinted in [1974] U.S. Code. & Cong. & Ad. News 4639,5038,5097参照。そこで,制度は改正されて,「受託者は,会杜の株 式に信託の全資金を投資することができ,また,会社は,そのように受託者に要望す ることができる。」と定めた。1977年以来,信託資産の90%は,CUG株に投資され た。

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132  彦根論叢 第298号  制度設定当初から,CUG株の価値は,着実に増加し, CUGは,法の許す上限の出 措を制度に行った。しかし,1979年にCUGの事業は,最大の顧客を失ったことで暗転 した。そのため,CUGは,1978年以降,制度に対し出指しなかった。それで,制度も 1978年4月14日以降手形の支払が滞り,制度に定められた方法で(年金)給付ができ なくなった。  FinkとKraftが1979年CUGを退職したとき制度の自己に関する部分の計算書を 受け取った。制度の要件に従えば,Finkは,5年の年賦で約5,600$の支払が約束さ れていた。Kraftは,10年の年賦で10,800$だった。 FinkとKraftは,1979年末に 1,000$の支払いを受け,翌年も同様であったが,その後はなにも支払われなかった。 制度が期日に支払えないと露見した時,本件が集団訴訟として提起された。控訴人 は,契約違反とERISA上の信認義務違反などを主張した。 二.信認義務違反  控訴人の主たる主張は,NS&Tが,29 U.S.C.§1104(a)(1)(A)&(B)に定める信認 義務に違反した点にある。ERISAは,信託基金受託者に,制度の加入者及び受益者の 「利益の為だけに」行動し,「同様の性格の仕事の実行にあたり,同様の能力を有し, 事象に習熟している慎重な人が用いるであろう注意力,技能,慎重さ及び,勤勉さを 発揮する」ことによって義務を果たすよう要求している。29US.C§1104(a)(1)(B) もし,受託者が,これらの信認義務基準を達成できなければ,その違法行為の結果, 制度に及ぼした損失には皆,ERISA上有責と判断される。29 U.S.C.§1109(a)  ERISAの慎重基準は,信託に関する判例法によって発展した客観的慎重人基準に よって判定される。S. Rep. No.93−127,93d Cong.,2d Sess., reprinted in 1974 U.S。 Code Cong.&Ad. News 4639,4838,3865(信認義務者の責任規定は,要するに信託 法が発展させた諸原理をかかる信認義務者に適用して立法化するものでる。)この基 準に合致した信認義務を判定する裁判所の仕事は,「問題とされている行為を行った 時に,受託者個人が投資の内容や性質について妥当な調査方法を用いたか否かを」検 討することである。Donovan v. Mazzola,716 F.2d 1226,1232(9th Cir.1983),cert. denied, 一U.S.一, 104 S. Ct. 704, 79 L. Ed. 2d 169 (1984)  ERISAの信認義務は,銀行受託者に適用されるとともに,私人の受託者にも適用さ れる。同法は,信認義務基準厳格さに於いて劣後する人を定めるような,受託者の分 類をしなかった。制度の受託者は,資産を管理するために投資顧問を任命する自由が

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      〈研究ノート>ERISAのリライアンス・ディフェンス  133 あるが,そうしなかった。29US.C.§1102(c)(3)参照。そのような任命が為されると, 受託者は,投資等,制度資産の管理義務を免れる。同上。さらに,受託者は,投資顧 問の作意,不作為の責任を負わない。29U.S.C§1105(d)(1)参照。しかし,たとえ投 資顧問が任命されたとしても,受託者の義務が排除されることはない。29U.S.C.§ 1105(d)(2)参照。NS&Tは,このような任命をしなかったので,基金の管理を含む ERISA上の信認義務をひとそろえ自ら負担することとなる。  NS&Tは, CUG株を取得し,保有し,手形の支払を継続し,株式取引を解除ま たは取り消しすることを怠ったが故に,信認義務違反であるという。控訴人,被控訴 人ならびに法定助言者(amicus curiae)としての合衆国労働省は,地裁の判決を, ERISAの受益者に注意(diligence)義務すなわち信認義務の隠された違反を発見する ためにERISAに要求された様式の報告の事実を調査する義務を課したものと読んだ。 しかし,地裁は,ERISAの出訴期限規定に(受益者の)注意義務を導入したのではな かった。関係するすべての情報を含ませる形のデータがあれば,普通の人が違反の事 実を知るのに相当であると判示することによって,地裁は,控訴人の主張の性格を誤 解したのである。  単に要求された報告を提出するといった管理作業だけでは,受託者の義務を達成し たとは云えない。Forms 5500は,制度の受益者に信認義務者の過去の行動の大まかな 話を聞かせるが,受益者は,その行動をするにあたっての信認義務者の考えを推定す る権利がある。もしそうしなければ,ERISAの信認義務の諸規定は,単なる買い主負 担せよ(caveat empter)の意味以上のものではなくなる。ある行為に内容に対する信 認義務者独自の調査は,慎重人基準の核心である。Donovan v. Cunningham,716 F. 2d at 1467 ; Donovan v. Bierwirth, 538 F. Supp. 463, 470 (ED.N.Y. 1981) , modified on other grounds, 680 F. 2d 263 (2d Cir.), cert. denied, 459 U.S. 1069, 103 S. Ct. 488, 74 L.Ed.2d 631(1982)参照  残念ながら,信認義務の最も基本的な義務である評価義務の不履行は,単に要求さ れた様式による報告書提出では,開示されない。そのため,労働省提出の様式はそれ だけでは,信認義務違反に対する受益者のまたは労働省の悪意を擬制するものではな い。(たとえば29U.S.C.§1106(a)で明示的に禁止されている利害関係人への資金:貸 付と異なり,)信認義務の制定法に内在的に違反することのない行為の開示は,潜在す る違反の存在を知らせることができない。Donovan v. Tricario, Nos.79−914−CIV一

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134  彦根論叢 第298号 JWK, 79−5580−JWK, slip op. at 19−20 (S.D. Fla. Apr. 17, 1984), aff’d sub nom. Brock v. Fricario, 768 F. 2d 1351 (11th Cir. 1985) ; Davidson v. Cook, 567 F. Supp. 225, 235 & n. 14 (E.D.Va. 1983), aff’d mem., 734 F. 2d 10 (4th Cir.) , cert. denied, 一U.S.一, 105 S. Ct. 275, 83 L. Ed. 2d 211(1984)参照 三.共同受託者の義務違反  ERISAは,信認義務者が他の信認義務者の違反にも責任があると,定める。29 U. S.C.§1105(a)控訴人は, SchoenとGibbonsが,共同信認義務者として, NS&T の作為,不作為を知っていながらそれに参加しまたはそれを隠匿したことで有責であ ると主張している。Schoenは,制度の管理者であり,信認義務者である。(当裁判所 は,彼が,制度の当初の受託者の一人であることも了知している。法は,彼がその役 にあった当時から為したかもしれない如何なる違反にもずっと有効であった。)Gib− bonsが,信認義務者として行動したと云えるかは,疑問である。 SchoenとGibbons は,それ故,NS&Tの有責な信認義務違反のすべてに有責である。 有責であるという訴えは,同様に出訴期限内である。それ故,当裁判所は,Schoenと Gibbonsの共同信認義務者としての責任の問題を地裁に差し戻す。 四.結論  当裁判所は,控訴人が本件訴訟を提起する前六年間に生じた信認義務違反の現実の または擬制の悪意を欠くものであるため,地裁の略式判決を破棄する。これら訴訟 は,NS&Tと共同信認義務者に対してすることができる。さらに,訴訟に詐欺また は秘匿があるという理由で略式判決を取り消す。控訴人の詐欺の答弁の関する欠陥 は,特定のための答弁書を提出すること、によって差し戻し審で補正することができ る。当裁判所は,地裁のこれらの争点と集団確定の争点のより完全な解決のために差 し戻す。以上のように判示する。(一部補足,一部反対のScalia判事の少数意見があ る。)  本判決は,利潤分配制度に関する企業の創始者兼受託者とそのほかの受託者 に責任の差はないことを示した判例である。リライアンスディフェンスをこう いう場合にも否定したものとして,意義があると思われる。

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       〈研究ノート>ERISAのリライアンス・ディフェンス  135  (5)Stewart v。 National Shopmen Pension Fund判決(795 F.2d 1079(D.    C.Cir. 1986))

 年金加入者は,自己に対する権利侵害がERISA違反となることを理由に,複

合(総合型)年金制度受託者に対し,集団代表訴訟を提起した。原告は,略式 判決(いわゆる正式事実審理を経ない判決)を申し立て,原告勝訴したため, 基金側が控訴した。控訴審が破棄差戻し,差戻後の地裁は,訴えを棄却した。 その控訴審が本件であり,次のように判示した。(1)年金基金の積立未済の責任 を放棄することを避けるためには,過去の勤務期間に基づく権利を破棄するこ とも相当であると推定することによって,控訴裁判所は,その方法が基金の保 険数理の健全性を完全に守るために必要であると判断した。(2)年金基金は,過 去勤務期間に基づく権利の破棄の方針採用が,基金の保険数理の健全性を守る 必要性によって正当化されることを,立証する義務はない。  主題に関係する部分は次の通りである。  年金基金の受託者は,労使関係法§302(c)(5),29US.C.§186(c)(5)(1982)および ERISA§404(a),29 U.S℃.§1104(a)(1982)によって加入者と受益者のために信認義務 を有する。これらの諸規定は,基金受託者に「如何なる場合も専断的で気まぐれ」と なる行為を行わない義務を課している。Norman v. IAM.Nat’1 Pension Fund,553 F. 2d 1352, 1356(D.C.Cir. 1977) ; Elser v. 1.A.M.Nat’1 Pension Fund, 686 F. 2d 648, 654(9th. Cir. 1982), cert. denied, 464 U.S. 813, 104 S. Ct. 67, 78 L. Ed. 2d 82 (1983)  行政法の類似する基準を検討する場合と同様に同基準で受託者の行為を裁判上審 理する際には,複雑な分野で仕事をする専門家の経験を考慮して非常に限定されたも のになる。裁判所は,受託者の判断が合理的な基準に基づいていないときにのみその 判断と自己の判断を取り替えることができる。相当な判断をする際にいくつかの選択 肢がある場合,その選択は裁判所ではなく受託者が行うべきものである。Roark v. Lewis,401 F.2d 425,429(D.C.Cir.1968)参照。 Music v. Western Conf. of Teamsters Pension Trust Fund,712 F.2d 413,418(9th Cir.1983)も参照のこと。  控訴人は,当裁判所が地裁に受託者の行為が「合理的な保険数理の基礎」を有して いたかを判断させるために差し戻したのであるから本件の過去勤務債権を取り消す

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136  彦根論叢 第298号 ことが基金の「保険数理上の健全性」を守るために必要であるとの証明を基金に義務 付けるものであると主張する。  この立場は,当裁判所の以前の見解を誤解したものであり,かつ当裁判所の審理基 準を誤って適用している。積立未済債務の投げ出し回避のための過去勤務債権の取り 消しを相当であると推定することで,当裁判所は必然的にかかる原則が(本件ではこ の原則の適用が)基金の保険数理上の健全性を守るために最終的に役立つとの結論を 下したのである。「基金が,払い込まれ,た資金以上のものを支給するように義務づけら れ,差額を取り戻すことができないときは,『超過給付は,ほとんどが現加入者の出指 の増加によって賄わなければならない』」730F.2dat1566  基金がその目的に沿って行動していることを示すのではなく,行動が保険数理上の 健全性を守るために実際に必要であるとの証明を基金に強制することは,基金に実質 的に不可能な挙証責任を課すことになる。基金の保険数理上の健全性が,貸借対照表 のように静止画を意味しない概念であるときはなおさらである。それは,静止画では なく,専門家によって為されるものの正確を期すことが困難な数々の推定に基づく基 金の将来の予想した判断である。厳密にいえば,如何なる原則,行動も基金の保険数 理上の健全性に絶対に必要であるとは云えないとしたほうがよい。とにかく,裁判所 の判断がそのような評価を行うのにふさわしいものでもなければ,専断的で気まぐれ という判断を越えた基準で受託者の行為を審理する権限が与えられているわけでも ない。要するに控訴人は,当裁判所に,限定された審理基準をもっと厳格な審査基準 に近づけるよう求めるものである。当裁判所の判例は,そのような逸脱を許さない。 つまり,積立未済債務の「投げ出し」回避のための過去勤務債権の取り消しという基 金の判断を,相当なものと推定すると判示することは,基金の方針が保険数理上の健 全性を確保するために必要との裁判所の独立した評価を受けるよう基金に義務付け ているとの控訴人の申し立てを,すでに暗に拒否しているのである。  したがって本件事実に基金がその方針を適用することが,基金の保険数理上の健全 性確保の必要性によって正当化されると証明する義務は基金にはない。控訴人は,基 金が一般的な方針の合理性および方針の過去の統一した適用に拘わらず,彼らの過去 勤務に対する債権に「報いること」ができなかったことを証明する義務があると主張 する。この議論は,その基本的弱点をさらけ出している。すなわち,年金基金は,ア ドホックな一そしてそれは不公平となることが避けられない一たぐいの判断を行う

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       <研究ノート>ERISAのリライァンス・ディフェンス  137 ことはできない。結局,受託者の信認義務は,すべての基金加入者に及ぶ。そして本 件において過去勤務を無視する原則が守られないと,他の入々には認められなかった 優遇措置を控訴人に許すこととなる。控訴人の主張を容認すれば,当裁判所に自ら判 断できるとの,うぬぼれを生じさせ,基金に気まぐれに行動するよう要求することに なる。  当裁判所は,控訴人が,基金の方針に一貫性がないと証明すれば,全く異なった事 件として扱ったはずである。事業主が基金に出掲金の残金を残して脱退したことによ ってその従業貝に受益権を集めるのを拒否する基金の行動が首尾一貫しないという 控訴人の主張を,当裁判所は認めない。(本件のように)この種の残金は,取り消され る過去勤務債権を越える,「投げ出された」積立未済の債務を支払うために必要とされ る。  差し戻し後の地裁は,過去勤務債権の取り消しが,積立未済の債務の「投げ出し」 を回避するために必要であったか否かの問題の審理の限定したことは当裁判所の先 の意見に照らして相当である。当裁判所の見解の論理に従えば,「合理的な保険数理上 の健全性」730F.2dat1566を意味したのであり,まさにそれだけの意味となるべき であった。実際,そのような基金への「投げ出し」が同様の結果となるとの証明がで きなかった例Elser v.1.A.M.Nat’1 Pension Fund,686 F.2d 648,654(9th. Cir.1982), cert. denied,464 US.813,104 S. Ct.67,78 L. Ed.2d 82(1983)があり,当裁判所自 身が先の意見を採用している。本件では,基金側の「投げ出し」の証明は争われてい ないので問題はない。したがって地裁の二目は正当であり,控訴は棄却する。  本判決は,権利縮小の方向での年金権の内容変更という近い将来わが国で問 題となると予想される事件の先例である。数理士の判断で総合型年金制度から 脱退する際の加入者の権利縮小に道を付けた判例としての意義もあるが,数理 士の判断を実質的に妥当とする理解が裁判所にあったため,それに従った受託 者の責任が否定されたものといえよう。リライアンスディフェンスが認められ た数少ない例である。一方で信託の世界にもビジネスジャッジメントルールを 取り入れた判例と評価することもできる。

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138  彦根論叢 第298号  (6)Donovan v. Walton判決(609 F. Supp.1221(D.C.Fla,1985))  【事実の概要】  被告Waltonは, Operating Engineers Local 675年金信託基金の受託者であり,労 働組合のbusiness managerであり,CEOでもあった。被告 Sattlerほか6名は,経 営者側が任命した受託者であった。被告Chandlerは,組合委員長兼組合側任命の受託 者,Gagneは,組合書記兼組合側任命の受託者であった。以上の受託者が,労働省か ら,ERISAの信認義務違反等を理由として訴えられた。  被告らは,基金の投資分散と利回りがたりないことに不満が募り,基金の資金を使 ってを計画し実行した。そのため彼らは,土地取得,建物建築事業に乗り出すことを 検討するため建築計画委員会を設け,委員長となった被告Waltonらは,その実行可 能性を探った結果,労働組合をテナントの中核とするビル建設なら,実行可能と判断 した。受託者委員会が,この事業がERISAの慎重義務や,受給者利益専心義務に反し ないか検討した上で,承認した。  建設委員会は取得対象土地の地質調査のためのコンサルタントを雇い,五二の二二 設計会社に入札方式で設計見積もりを取り,その見積もりが妥当であるかを検討させ るために不動産専門のコンサルタントを雇い,事業を三段階に分けて実行することと した。建築会社を入札で選んだものの,最低入札価額でも予定価格より高かったの で,さらに建築内容を修正して,廉価なものとした。  また,この手続を進めるにあたって,年金基金専属,ERISA専門,および投資対象 不動産の存在する地域の弁護士を雇った。受託者は,専門家の意見を聞き,それに自 分の情報をつけ加えた。  労働省は,加入者と受益者の利益専心義務慎重人原則,並びに利害関係人による 利益相反行為を根拠に被告等を訴えた。労働省自身が雇った専門家の鑑定意見及び労 働省規則で認めた例外には該当しないとして争った。   【論旨】(主題に関係する部分)  ERISAの§405において,受託者は,同じ基金の他の受託者が§404の信認義務違反を するのを防ぐ積極的義務がある。たとえば同条(a)(1)では,受託者が他の受託者の義 務違反を知りながら「違反をなくす相当な努力」を怠った場合には責任がある旨の定 めがある。違反があれば,信認義務者は,受託者の在任期間に生じた損害を年金制度 に連帯して賠償しなければならず,そのほか衡平法上の救済に服さなければならな

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       <研究ノート>ERISAのリライアンス・ディフェンス  139 い。  同法同条責任には3つの重要な要件がある。(1)信認義務違反の存在(2)他の人が信 認義務者であることを当の信認義務者が知っていること(3)共同信認義務者が加わっ た行為が違反となること,である。  本件受託者には,同条違反がないこと証拠より明らかであるから責任はない。 したがって被告の略式判決の申し立てを正当と認める。  本判決は,年金資産による不動産投資を扱っている。ERISA§405に定める例 外規定の適用を受けるために数々の専門家を雇った例であり,逆にここまでし なければ責任が問われる場合があるということまで信託法の発展させた法理が 行き着いたといえる。

V 終わりに代えて一日本法への示唆一

 上記の諸判例からくみ取ることのできる受託者の行動基準を検討する。 受託者は,まず全体の状況を把握して専門家の助言や意見が必要であるか判断 しなければならない。必要なら資格のある(有能な)専門家に助言や意見を求 めなければならない。その助言等を得る際に留意すべきは,それをだた信じて 疑わないのではなく,受託者自ら注意深く検討し疑ってみることである。最後 に受託者は慎重な手続を踏んだことを証明する文書を残すべきである。  現実問題として,これを行うのは難しく,責任免除のための受託者や投資マ ネジャーを雇うなどの配慮と,責任保険付保が必要となってきていると云われ てきている。  また,素人の受託者は,専門家集団を集め,同僚受託者を監視する必要があ り,もし彼がそれを慎重に行えば専門家の意見に依拠することができ,受託者 としてさらし者になることから解放される。  これが,規制緩和のアメリカの現状なら,果たしてその方向が妥当なものか 否か十分な検討が必要であろう。  信頼の抗弁は,わが国では,会社特に株式会社の平取締役に,代表取締役の

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140  彦根論叢 第298号 監視義務があるか,あるとすればその範囲,取締役会の決議事項に限られるか 否かという問題で,論じられてきた。  前者は昭和56年商法改正によって立法的に解決され,後者の議論は,学説判

例の別れるところである。根拠条文は,商法266条の3,1項であるが,取締役

の第三者責任を認める規定の要件,監視義務違反が悪意または重過失によるも のであり,義務違反と第三者の損害発生に因果関係がなければならない,を満 たす必要がある。また,名目的取締役にも同様の責任を負わせることに商法学 者は積極的であるが,免責されるべき場合も類型化されなければならないとい われてはいるものの成功しているとは思えない。  受託者の慎重人原則が,一単なる投資基準に止まらず,行動基準であり,自由 裁量権あるところ責任ありという信認義務者の定義の持つ意味を再確認する必 要があろう。  また,いわゆるビジネスジャッジメントルールの萌芽らしい判例(4の(5)) も現れたが,年金受託者の権限が増加すればするほどこれち商法で議論されて きた問題があふれることにもなりかねない点は今後の年金改正の際にも留意す る必要があると思われる。株式会社の株主保護と年金加入者受給者の保護を同 視しうるかという観点も必要ではなかろうか。

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