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医療会計情報の戦略的活用についての一試論 : DPC指向の情報品質評価モデル

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〔研究ノート〕 (北照高等学校教諭)

─ DPC指向の情報品質評価モデル ─

前 田  瞬

医療会計情報の戦略的活用についての一試論

Ⅰ はじめに

わが国の医療機関において,最近とみに“マ ネジメント”に対する関心が高まってきてい る。その背景はいくつか考えられる。例え ば,国の医療費抑制政策のもとに,医療機関 に支払われる診療報酬のマイナス改定が続い ていることから,病院経営を安定化すること が重要な関心事になってきている点が挙げら れる。また,医師や看護師などといった医療 従事者の慢性的な不足により,国レベルでも 個別医療機関レベルでも,ヒト・モノ・カネ・ 情報といった医療資源の配分問題を今まで以 上に戦略的に考慮しなければならなくなって きたことも挙げられる。 医療機関も企業と同じく,経営戦略を立案 し,医療(経営)資源の適正な配分を図って いく必要がある。何故ならば,そもそも病院 経営が安定しないことには,品質の高い医療 自体も提供しえないからである。そのために は,品質の高い医療会計情報に拠って,業績 管理を行うことが肝要となる。 このような認識のもと,本稿では,急性 期入院医療に焦点を当てたDPC(Diagnosis Procedure Combination: 診 断 群 分 類 ) 手 法 に 着 目 し, 統 計 的 品 質 管 理(Statistical Quality Control)の観点から,医療会計情報 の品質向上を図るひとつの方法を提案する。 本稿の構成は,次の通りである。まず第2 節では,医療機関において行われる利益計算 の方法をレビューする。第3節では,医業利 益管理モデルを提案する。統計的品質管理の 手法を用い,医業利益の管理と診療ケースの 分析に役立たせるための医療会計情報の活用 方法を提示する。最後に第4節では,今後の 研究課題を示す。

Ⅱ 医療機関の利益計算

1.DPCに基づく収入計算 DPCは,2003年に導入された急性期入院 医療における診療報酬計算法である。この方 法では,疾病ごとにあらかじめ定められた諸 係数から導き出される「包括払い費用」と呼 ばれる診療報酬分と,「出来高払い分」と呼 ばれる診療報酬分とを合算して1入院当たり の診療報酬を計算する(図表1)。 DPCは,単に医療費抑制政策としてのみ ではなく,「医療情報の標準化と可視化,そ してそれによる医療提供体制の適正化と医療 の質向上に貢献する」(松田,2011,p.3)も のであると,期待されてもいる。 図表1にある包括払い分というのは,入院 基本料,検査,投薬,注射,画像診断などと いった標準化が可能な(医療従事者の手技の 影響を受けない)診療行為を診断群別に洗い 出し,それらに対して,一括して診療報酬を 設定する方式である。例えば,“ホテルの宿 泊代”のような1日当たりの入院基本料は, 誰が入院しても同じである。また,胸部レン トゲン撮影や画像診断などは,医療従事者の 手技の影響は受けないであろうし,それらは 同じ手順,同じ費用で診療を行うことができ る。実際には,それは「診断群分類別1日当 たり点数×在院日数×医療機関別係数」とい う計算式で算出される。医療機関別係数の定 義については後述する。 従来の「出来高払い」からDPC導入によっ

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て「包括払い」されるようになった図表1中 の6つの項目は,過去の蓄積された疾病別の 治療データをもとに,「この疾病の場合には, このくらいの医療資源を投下して診療を行う ことができるはずである」という想定のもと に,医療機関に対してまとめて請求させるよ うにしたものである。厚生労働省は現在, 2,658の疾病について診断群分類(うち,包 括評価対象は1,881分類)を作成し,診療報 酬点数を定めている。 ここで,DPCの仕組みを具体的に紹介し ておくと次のようになる。 包括評価制度の本質的な発想は,「患者の 在院日数はできるだけ短い方が望ましい」と 考える点にある。DPCでは,この精神を理 解することが肝要である。 DPCでは,まず患者の総在院期間を3期に 分けて考える。本稿では各期をそれぞれ「第 1入院期」,「第2入院期」,「第3入院期」と呼 ぶことにする。第1入院期は,総在院期間の うちの最初の第1 ~ 11日をさす。第2入院期 は次の第12 ~ 24日をさす。そして,第3入院 期は最後の第25 ~ 56日をさす。第57日目以 降は,“急性期”から外れた扱いになるので 無視をする。 このように総在院期間を3期に区分した上 で,次に,各期別の診療報酬を計算するに当 たってそれぞれの期に重みづけ係数(「点数」 と呼んでいる)をあらかじめ設定しておく。 ここで,1点は10円で換算する。この係数は, 総在院期間が短いほど,最終的な診療報酬が 高く出るように設定が工夫されている。い ま,第k入院期の係数をwkと表すとすれば, 各期の係数は, w1>w2>w3 の関係を満足するように設定される。この係 数は,厚生労働省によって設定されるもので ある。 次に,これらの重みづけ係数(点数)を基 に各入院期の「入院点数」が以下のように計 算される。 いま,ある医療機関に入院した患者iの第k 入院期の入院日数をktiと表し,この患者の第 k入院期の入院点数をksiと表すことにすれば, ksi=wk×kti となる。ここで,医療機関における患者 i の 在院日数(患者在院日数)を Tiとすると, である。 これらの条件の下で,この医療機関に入院 した患者iの包括評価払費用giが次のように計 算される。 ここで,rは医療機関の「医療機関別係数」 とよばれるもので,これは,DPCの導入に よって各医療機関の収入の間に格差が生じな いように配慮しながら,医療機関の総合的な 診療能力を表した数値である。この数値は厚 生労働省が定める。この医療機関別係数は, 「基礎係数」,「暫定調整係数」,「機能評価係 入院基本料 検査 投薬 注射 画像診断 1000点未満の処置,他 手術・麻酔 指導管理料 リハビリ 1000点以上の処置,他 <出来高払い制度> 包括払いへ 出来高払い のまま 手術・麻酔 指導管理料 リハビリ 1000点以上の処置,他 【包括払い分】 診断群分類別 1日当たり点数 × 在院日数 × 医療機関別係数 <DPC制度> 図表1.出来高払い制度とDPC制度の違い 出所)山内編著,2012,p.122 を一部加筆・修正。

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数Ⅰ」,「機能評価係数Ⅱ」とよばれる4つの 係数の合計として定義される1) 例えば,ある病気で医療機関に入院した患 者iの入院日数データならびにこの病院の医 療機関別係数が図表2のようであったとする。 一般に,この制度では,第k入院期の重み づけ係数kwは「入院点数k」とよばれる。す なわち,総入院期間のうちの第1 ~ 11日の間 の係数を「入院点数1」,第12 ~ 24日の間の 係数を「入院点数2」,第25 ~ 56日の間の係 数を「入院点数3」とよぶ。現在の制度のも とでは,図表2にあるように「入院点数1,2,3」 はそれぞれ3,536点,2,685点,2,282点と定め られている。 抑制につながるという意味で望ましい。実 は,DPC の眼目はこの点にある。 2.診療原価の計算 いま,ある医療機関に入院した患者iに対 して行われた診療に費やした原価,すなわち 診療原価をciとする。 この診療原価ciは,次の2つのタイプに分 類することができる。第1のタイプは,患者1 人に要した変動費的要素(例えば,注射の使 用本数,レントゲンフィルムの使用枚数や使 用した包帯の長さなど)である。いま,これ をpiで表す。第2のタイプは,医療従事者の 人件費,建物設備費,水道光熱費などといっ た,入院した患者iごとに割り出していかな ければならない共通費的要素である。いま, これをqiで表す。 そうすると,診療原価ciは次のようになる。 ci=pi+qi なお,共通費的要素qiの割り振り方は,法 的に定められてはいない。割り振りは,医療 機関ごとに自由に決めてよい。例えば,人件 費の場合は,その病院の医師全体の収入を患 者の人数で割ることにより患者1人に要した 人件費の単価を算出する方法が採られる。ま た,患者1人あたりの建物設備費や水道光熱 費は,例えば,リハビリテーション部門の1 ヶ 月のその合計を,1 ヶ月当たり利用患者数で 割ることにより,割り出すことができる。 実際の患者1人あたりの診療費用の導き方 については,病院原価計算の手順に従って, 割り出されることになる。 3.医療の質と経営の質の向上 前述の通り,DPC は入院期間の短縮を動 機づけながら診療報酬の縮減を実現するため の診療報酬の計算方法である。DPCに基づく 診療報酬部分と出来高払いに基づく診療報酬 部分の合計は,当該病院にとっての,1入院 当たりの医業収入を表す。一方,この入院に 要した費用は病院原価計算から導出される。 図表2.DPCの計算例 医療機関名 **** 患者名 医療機関別係数 1.2116 重みづけ係数(点数) (入院点数1) (入院点数2) (入院点数3) 3,536点 2,685点 2,282点 在院日数 30日 第1入院期 第2入院期 第3入院期 11日 13日 6日 この例の場合,この病院におけるこの患者 の入院に係る包括評価払費用giは次のように 計算される。 すなわち, 106,007(点)×10(円/点)=1,060,070(円) となる。 以上から想像されるように,病院経営の観 点からは,良質の医療によって急性期入院患 者をできるだけ早く退院させ,患者の回転数 (ベッドの回転数)を上げた方がよい。一国 の医療制度全体の観点から見ても,医療費の

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これらの差額がこの病院にとっての,この入 院から獲得できる医業利益ということになる ので,病院経営戦略的観点からはこれができ るだけ大きくなるように,あらゆる医療資源 の投入を統制していかなければならない。 この場合,次に述べる2つの視点を統合す ることが重要である。第1の視点は,医業利 益それ自体を病院経営の立場から適正な範囲 にどう収めていくかという問題である。第2 の視点は,その医業利益管理を医療の質の管 理それ自体にどのように繋げていくかという 問題である。換言すれば,「経営の質」と「医 療の質」の2つの“質”の両立を図っていく ことが課題となる。 病院経営にとって医業利益をできるだけ大 きくすることは重要なことである。そのため に医業収入ができるだけ大きくなるように経 営努力を払い,逆に診療原価をできるだけ低 く抑えようと経営努力を払うことは当然のこ とである。しかし,社会的通念として医業収 入を闇雲に大きくすることには批判が起きる であろう。また,そもそもDPCに組み込ま れた制度設計理念,すなわち入院期間をでき るだけ短縮するよう医療機関を動機づけ,医 療費の抑制を図るという狙いからして,それ は不可能である。一方,診療原価については, 病院がそのカッティングのために経営努力を 行うことは,一般論として国・地方自治体財 政の立場からも,もとより患者の立場からし ても大いに好ましことである。しかし,それ が行き過ぎると,医療の質そのものの低下に つながる危険性を孕んでいる。 このように,経営の質向上と医療の質向上 という2つの視点の両立を図ることができる ように,医療会計情報の一つである医業利益 の品質を高めていかなければならない。情報 システムあるいは情報技術を使っての医療情 報の利用の究極目標はこの点,すなわち情報 品質を高めるという点にこそ置かれなければ ならないと考える。Wang (1998)は,情報 品質を「情報の消費者による利用にとって の適合性」(Wang, 1998, p.60)と定義してい る。この定義に依って立つならば,経営の質 向上と医療の質向上の両立を図るために医業 利益という医療情報を活用できて初めて,そ の情報品質の高さが証明されたということに なる。 次節では,経営の質向上と医療の質向上と いう2つの視点の両立を図ることを目指す医 業利益管理の一つのモデルを提案することと する。

Ⅲ 医業利益管理モデル

前項で触れたように,病院経営において医 業利益を管理していくに際しては,病院経営 の視点のみならず,それと医療の質向上の視 点をも考慮していかなければならない。本節 では,このような狙いを実現する医業利益管 理のモデルを提案する。 患者iから得られる医業収入は,先に定義 したように,包括費用分をgi,この診療の出 来高払い分をdiとしたとき,医業収入は, gi + di と表される。 そうすると,医業利益xiは,次のように表 現できる。 xi = ( gi + di ) - ci この病院にとってgi + diはDPC方式と出来 高払い方式を併用して計算された医業収入 であり,ciはそれに要した診療原価である。 病院経営の観点からは,一般的には医業利 益xiが大きければ大きいほど好ましい。この 医業利益xiを大きくするためには,医業収入 gi + diを大きくするか,診療原価ciを低く抑 えればよい。しかし,先述のように,社会的 通念として,医業収入を闇雲に大きくするこ とには限界があるし,一方,診療原価を抑制 するにも限界がある。このように考えると, 改めて言及するまでもなく,病院経営におけ る利益管理,すなわち医業利益xiの管理にお いては,病院経営を成り立たせながら,なお かつ医療の質も落とさないようにこれを適正

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な範囲に抑え込んでいくことが大切である。 つまり,「医療の質向上」と「病院経営の質 向上」という相対立する命題を両立させる手 法を考えることが大切である。この目的を実 現するための一つの方法として統計学の手法 に基づく品質管理手法を応用することができ る。以下,その方法について概要を説明して おく。 このモデルは,大きく2つの情報活用の局 面を想定する。第1の局面は「医業利益の管 理」であり,第2の局面は「診療ケースの分析」 である。 【医業利益の管理】局面 いま,ある医療機関に診療に訪れる患者か ら得られる医業利益を,正規分布に従う一つ の確率変数と考え,これをXと表す。もし, この分布に特段の変化がなければ,この病院 経営の質は安定していると考えることにす る。病院経営がこのような状況に置かれてい るときには,一般に,それは統計的管理状態 にあるといわれる。 しかし,逆に,図表3の(a)に示されてい るように確率変数Xの分布がずれていたり, あるいは同図(b)に示されているように, バラツキの程度それ自体が変わってしまって 確率変数Xの分布そのものが変わってしまっ たような場合には,病院経営になにがしかの 変化が進行していると考えるのが至当であろ う。このような場合には,早急に病院経営の あり様を点検しなければならないであろう。 一般に,統計的検定の理論を使って生産工程 の異常を検知する手法を品質管理というが, これを医業利益の管理に応用するというのが 本稿での着想である。 いま,病院経営が統計的管理状態に置かれ ているとしたときの,確率変数Xの平均をμ ,分散をσ2とする。一般的には,平均μお よび分散σ2は知りようがないので,実際に は,この病院が達成した過去の医業利益の中 から大きさnの標本を抜き取り,その標本か ら平均μと分散σ2を推定する。 いま,ある単位期間(1 日,1 週,1 月あ るいは1 年間など)における,この医療機関 に入院したn人の患者を標本として抽出し, その標本についての医業利益xiの平均をx ─ と すると, となる。 ここで,一般に,平均μ,分散がσ2の母 集団から抽出された大きさnの標本の平均 (標本平均)X─は,正規分布 に従う ことが知られている。この場合,標本平均 X─が と の間にある確率は 0.99 となる。すなわち, である。 図表3.医業利益Xの想定分布

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以上から,標本平均x─が と の間にあるる限り,抽出したn個の標本は正 常な病院経営の下で達成された医業利益と考 えられる。つまり,「病院経営は正常である (標本は平均μ,分散σ2の母集団から抽出さ れたものである)」という仮説は棄却されな いことになる。逆に,標本平均x─が と の範囲内にない場合には,「病院経 営は正常である」という仮説は危険率1%で 棄却される。 このことから図表4に示すように,大きさ nの標本を定期的に取り出して標本平均x─を 求め,それが と の間にある かどうかを監視していれば,医業利益をイン ディケータとして病院経営が正常か否かを経 常的にチェックしていくことができる。図表 4をX─管理図とよび,このような監視方法を3 シグマ(σ)法という。その場合の と をそれぞれ下方管理限界(Lower Control Limit : LCL), 上方管理限界(Upper Control Limit : UCL)とよぶ。ここで,管理 限界は とするのが良いことが経験的 に知られている。 上述の方法に従って病院経営の様子を監視 していくためには,上方管理限界 と 下方管理限界 を定めなければならな いが,母平均μおよび母分散σ2は知ること ができない。これらは実際には次のようにし て推定される。 まず母平均μについては,標本平均x─をそ の推定値(近似値)として用いる。また,母 分散σ2については,次のようにしてその推 定値を得る。母集団から抽出した大きさnの 標本の分散(標本分散)をs2としたとき, となる。この標本分散 s2を母分散の推定値 として用いることはできず,実際には を母分散σ2の推定値として用いなければな らないことが統計理論的に知られている。v2 は母分散σ2の不偏分散とよばれる。 【診療ケースの分析】局面 医療会計情報活用の第2局面は「診療ケー スの分析」である。上述のごとく統計的品質 管理手法を導入すれば,病院経営が統計的管 理状態にあるかどうかを監視することができ る。しかし,医業利益の安定度を監視できた からと言って,その安定が医療の質の安定度 あるいは高さを示しているとは限らない。 このように,先のX─管理図からだけでは医 療の質が適正に保たれているかどうかは判断 ができない。病院経営の質向上と医療の質向 上の両立を図るために,本稿では,品質管理 手法に基づく分析を糸口として医療の質分析 μ μ 図表4.X─管理図

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を行う方法を提案する。その概要は次のとお りである。 まず,平均μ,分散がσ2の母集団から抽 出した大きさnの標本平均x─は3種類の分析対 象にグルーピングされる。第1の分析対象グ ループは管理限界内に収まっている標本の 集合である。第2の分析対象グループは上方 管理限界を超える標本の集合である。そし て,第3の分析対象グループは下方管理限界 を下回る標本の集合である。それぞれを順に Am,Au,Alで表すことにする。 先のX─管理図は,あくまでも標本の平均か らのバラツキの状態を表すに過ぎないので, 上の集合Am,Au,Alそれぞれには,各標本

における医業利益の平均x─自体は次のいずれ かのケースが考えられる。 x ─ < 0, x─ = 0, x─ > 0 そこで, いまn人の標本それぞれをxiの値 に応じて上の3つのケースのいずれかに振り 分けることにし,それぞれの部分集合をB< ,B= ,B> で表すことにする。 第1の分析対象グループと第2の分析対象グ ループを組み合わせると,図表5に示すよう に都合9つの積集合が出来上がる。病院経営 の立場からすると,医業利益が非負であり, それが管理限界内に収まっている(図表5の 点線で囲った2つのセル)のが理想的である。 しかし,医療の質向上を目指すという観点か らは,これら2つのセルはもとより,その他 のセルに属する診療ケースについても診療の 質を詳細に分析をしてみなければならない。 点線で囲われた2つのセルに分類される診療 ケースの中には十分な診療成果が得られな かったものもあるかもしれないであろう。逆 に,Al∩B<やAu∩B<に入らない診療ケース の中には十分な診療成果が得られたものもあ るかもしれない。その診療ケースの分析のた めには,医業利益データの分析のような病院 経営の質分析を踏まえて,例えばいわゆるク リニカルパスや電子カルテなどから得られる 診療情報の分析も試みなければならない。 本稿では,図表5に示したように,医業利 益の分類パタンの開発を試みた。しかし,こ の分類パタンから得られるデータを利活用す るためには,図表5のパタンに応じた診療ケー スの具体的な分析方法の開発が必要である。 この課題が解決できてはじめて,医療情報の 分析力が向上し,病院経営における競争優位 性が向上するものと考える(Davenport and Harris,2007,村井訳,2008)。

Ⅳ おわりに

本稿では,統合的品質管理の分野の一手法 である統計的品質管理手法を用いて,医業利 益管理モデルを提案した。このモデルは,病 院経営の質向上と医療の質向上という,相反 する2つの視点の両立を図ることを指向した ものであり,医療会計情報の戦略的な活用方 法を例示するものである。 本稿で示したモデルを,現実の医療機関に おいて医療情報品質管理のために実装するた めには,次に示す2つの課題を解決しなけれ ばならない。 第1に,本稿で示した利益管理モデルは, 急性期入院医療を対象としたDPC手法を利 用している。そのため,外来診療や回復期医 療,維持期医療などといった診療行為には適 用することができない。病院経営の質向上を 図るためには,急性期入院医療以外にも適用 できるようにDPC手法を改善していく必要 がある。 第2に,第3節で示した医業利益管理モデル を「診療ケースの分析」に実際に使っていく ためには,データ収集や分析のためのデータ ベースの構築,分析のための運用組織の設計 方法についての研究が進められなければなら 図表5.医業利益の分類パタン μ μ μ μ

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ない。 これら2つの研究課題については,向後の 研究に俟つこととする。 1) 「基礎係数」は,医療機関を「特定機能 病院」,「専門病院」,「その他の一般病院」 の 3 つの病院群に分類し,それぞれの病院 群が最低限備えておくべき医療機関として の機能を満たしているかどうかを評価したも のである。 「暫定調整係数」は,2003 年度の制度創 設時に医療機関ごとに設定されていた「調 整係数」という係数から「基礎係数」を差 し引いたものである。 「機能評価係数Ⅰ」は,医療従事者の人員 配置や医療設備の充実度を評価したもので ある。 「機能評価係数Ⅱ」は,次の 6 つの項目に ついての評価指数を合計したものである。 ①データ提出指数:厚生労働省に対して, 診療データを正確に提出しているか。 ②効率性指数:平均在院日数を短くする 努力をしているか。 ③複雑性指数:治療が困難な症例(例 えば,がんや神経難病など)をどのくら い扱っているか。 ④カバー率指数:様々な疾病に対応でき る医療体制になっているか。 ⑤地域医療指数:地域医療(例えば, 地域連携パスやへき地医療)に貢献し ているか。 ⑥救急医療指数:入院 2 日以下の短期 の救急入院患者が病院全体の入院患 者に占める割合は何%なのか。 謝 辞 本稿を執筆するにあたり,札幌大学経営学 部の八鍬幸信教授にご指導をいただいた。記 して謝意を表す。もちろん,内容について起 こりうる誤謬は,筆者に帰せられるべきもの である。

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