はじめに の発生率や重症度は糖尿病の 罹病期間によって増加するとされており 糖尿病発症後 年経過した症例のうち の症例は明らかな糖尿病性 腎症を合併する 。 は高血糖によって増 悪すると えられるが 実際は糖尿病があっても糖尿病性 腎症を合併していない症例もあれば 逆に明らかな糖尿病 がないにもかかわらず糖尿病性腎症の病態 所見を呈する 症例も存在し 後者は または と呼ばれている。今回われわれは 悪性高血圧を合併 したネフローゼ症候群の患者に 血圧をコントロールした 後 腎 生 検 を 施 行 し 糖 尿 病 性 腎 症 に 特 徴 的 な の所見を得たものの 経口糖負荷試験 で確実な糖尿病型とは診断し得なかった症例を経験したの で報告する。 症 例 患 者: 歳 男性 主 訴:全身浮腫 体動困難 既往歴: 歳時に糸球体腎炎 家族歴:母と祖母に高血圧あり。糖尿病の家族歴なし 生活歴:喫煙歴なし 飲酒歴は機会飲酒 学生時代は柔 道部 ラグビー部に所属し 食欲旺盛であった。スポーツ を止めてからは食事内容には気をつけるようになったが 仕事上食事の時間が不規則で毎日 食であった。体重は 歳時 歳時 (過去最高体重)と高度な肥 満 歴 が あった が 最 近 年 間( ∼ 歳)は を 維 持 していた。 現病歴: 年 月より両下 に浮腫をきたした。以 慶應義塾大学医学部内科 病理 (平成 年 月 日受理)
症 例
経口糖負荷試験で糖尿病型を示さなかった糖尿病性
腎症の 例
城
祐 輔
市 原 淳 弘
江 口
高
栗 原
勲
橋 口 明 典
小西孝之助
林
彦
猿 田 享 男
- -; : -:後増悪し 同年 月には全身に浮腫が及び 当院腎臓内科 を受診したところ著明な高血圧と腎機能障害を認めたため 入院した。 入院時現症:身長 体重 (浮腫により 年間で 増加していた。) 血圧 / 体 温 ° 全身浮腫著明 眼瞼結膜軽度 血あり 肺野 両側清 心音純 腹部浮腫のため緊満 下腹部に膨隆を伴 う白色線条多数あり。眼底所見は 両眼底とも軟性白斑お よび血管の蛇行を認めたが 明らかな糖尿病性変化はな かった。 入院時検査所見( ):入院時 末梢血では / / と正 球性正色素性 血を認め 赤沈は / と亢進してい た。生化学検査では / / と腎 機能障害を認め / / -/ / とネフローゼ症候群を呈していた。 補体の低下はなかった。各種自己抗体は陰性であった。空 腹時血糖 / (正常: ∼ ) グリ コアルブミン (正常: ∼ )であり 血液検査 上 糖尿病を示唆する所見はなかった。血清免疫電気泳動 では - を認めず ネフローゼパターンを呈してい た。尿中免疫電気泳動では - を認めなかった。 胸部・腹部・骨盤部 においては 胸水 腹水を認め 皮 下結合織の浮腫著明であるも腫瘍性病変を認めなかった。 入院後経過:高血圧に対しニフェジピン / カ ン デ サ ル タ ン シ レ キ セ チ ル / ド キ サ ゾ シ ン / により血圧 / 程度にコントロールし 浮腫 に対してフロセミド / スピロノラクトン / を投与し 体重は 週間で 減少した。 入院後腎生検を施行した。光顕標本には 個の糸球体が含 ま れ う ち 個 は に 陥って い た。残 る 個の糸球体のうち 個は の像 を また 個は の 像を呈し 残る 個は両者の混在した所見を呈していた。 を呈する糸球体では 毛細血管 腔の動脈瘤様拡張と を認め メサンギウムの結 節性 化部 は 染色で一部層状の構造を呈していた ( )。 - 染色は陰性。蛍光抗体法では有意な Urinalysis PH 6.0 BLD (2+) PRO (3+) RBC 11∼20/HPF WBC 6∼10/HPF CASTS (1+) Ccr 39.4m /min U-TP 14.48g/day U-Glu 4.18g/day CBC WBC 7,900/μ Bands+Segs 65.2% Lymph 24.2% Aly 0% Mono 4.0% Eo 5.8% Baso 0.8% RBC 341×10/μ Hgb 9.8g/d Hct 30.1% MCV 88fl MCH 28.7pg MCHC 32.6g/d Plt 32.7×10/μ Retics 1.7% Blood chemistry TP 3.7g/d Alb 1.3g/d BUN 17.9mg/d Cr 1.6mg/d Na 144.9mEq/ K 3.1mEq/ Cl 114mEq/ Ca 6.8mg/d IP 3.2mg/d LDH 242IU/ TB 0.3mg/d AST 23IU/ ALT 15IU/ ALK-P 275IU/ γ-GTP 15IU/ TC 305mg/d TG 206mg/d FBS 109mg/d HbA 5.2% Glycated albumin 8.9% Fe 23μg/d TIBC 117μg/d Ferritin 397ng/m Transferrin 87mg/d Serological examination ESR 84mm/h CRP 1.27mg/d IgG 903mg/d IgA 363mg/d IgM 154mg/d C3 67mg/d C4 37mg/d CH-50 49.0U/m MPO-ANCA (−) C-ANCA (−) Anti-DNA antibody (−) Anti-nuclear antibody (−) ASO 79IU/m RF <10IU/m serum immunoelectrophoresis Nephrose pattern, M-peak (−) urine immunoelectrophoresis B-J protein (−)
免疫グロブリンや補体の糸球体沈着が見られなかった。電 顕では糸球体毛細血管基底膜の肥厚( ) ならびにメ サンギウム基質の増加( )が著しく は見られなかった。 腎生検後 を施行し 値 / / / と ( )を認めたが糖尿病型ではなかった。また 糖尿 病性変化の精査のため蛍光眼底造影( )を施行したと ころ 両眼底とも網膜動脈狭細化 反射亢進 動静脈 叉 部での動脈の途絶があり 網膜動脈 化所見を呈してい た。静脈は一部口径不同 細小血管の途絶 走行異常を認 め 多くの点状 斑状出血が散在し 所々に毛細血管瘤が 存在していた。後期には両眼で黄斑領域に毛細血管瘤から 漏出したと思われる過蛍光を認めた。 以上より 高血圧性網膜症を合併した両 糖尿病網膜症(前増殖型)と診断した。第 病日 血圧 / 台を維持 浮腫も改 善したため退院した。 察 入院時の 補体価 血中・ 尿中免疫電気泳動などの諸検査の結果か ら 続発性ネフローゼ症候群は疑いにく く 原発性ネフローゼ症候群を念頭におい て確定診断目的に腎生検を施行した。その 結果 予想に反し糖尿病性腎症に類似した を認めた。 をきたす鑑別すべ き疾患としては ① 糖尿病性腎症 ② 膜 性増殖性糸球体腎炎 ③ ④ ⑤ があげられる。本症 例では ② を示唆する低補体血症は見られ ず ⑤ を示唆する臨床所見を欠いていた。 ま た 腎 生 検 所 見 で も - 染 色 陰性 蛍光抗体法で免疫グロブリン 免疫 グロブリン軽鎖 および補体の糸球体沈着
Light microscopy shows nodular glomerulosclerosis with capillary dilatations and hyalinosis
a b
Electron microscopy demonstrates the diffuse thickening of glomerular basement membrane(a) and mesangial cell proliferation(b).
を 認 め な い こ と な ら び に 電 顕 で や が見られないことなどから ②③④ の可能性 は否定的であった。以上より 臨床所見上糖尿病とは診断 されない糖尿病性腎症 と診断した。 が起こる原因とし ては つの可能性が えられる。 ) 第一に 過去に糖尿病の既往があった可能性であ る。本症例では糖尿病の家族歴はないが 体重が 歳時 歳時 ∼ 歳時 と高度な肥満歴 があり 生活歴も 慮すると過去に糖尿病が存在した可能 性は十 に えられた。すなわち 長期間にわたり未検 査 未治療の状態で糖尿病が放置され そのために非可逆 的な糖尿病性腎症が発症し その後は食習慣の改善 肥満 の改善によってインスリン抵抗性がなくなり血糖値は正常 化したが 腎障害はすでに非可逆的となり 高血圧の合併 によってネフローゼ症候群を呈した可能性である。しか し 未検査 未治療の状態で糖尿病性腎症にまで進行した 糖尿病患者が自己コントロールのみで血糖値を正常範囲内 に近い状態まで戻すことはきわめて困難と えられる。 ) 第二に 実際は現在も糖尿病が存在している可能性 である。糖尿病性腎症が進行することによってインスリン クリアランスは低下する。それに伴いインスリンの必要量 も減少するため たとえ腎生検施行時に が正常ま たは であっても糖尿病は完全には否定できない。ま た 本症例では 血 低アルブミン血症も認めており やグリコアルブミンは見かけ上低く測定されたかも しれない。 ) 第三に 過去においても現在においても糖尿病が存 在しなかった可能性である。明らかな糖尿病がないにもか かわらず糖尿病性腎症の所見を呈する症例が過去に報告さ れており 高血圧と肥満に加えて 先天的または後天的に 第 の因子が伴った場合 を引き起こす 可能性が推測されている。 明らかな糖尿病がないにもかかわらず糖尿病性腎症の病 態 所見を呈する症例が と し て 過 去 に 報 告 さ れ て い る。 年 は 例の非糖尿病患者の病理解剖における - の存在を初めて報告した 。さらに 年以降 糖尿病を伴わない は 例報告されている 。( 年以前の報告は鑑別 疾患に対して十 な除外がなされていなかったため省略す る。耐糖能異常を伴わない糖尿病性腎症に関する過去の多 くの症例報告では 電顕像 などを行っておらず 現在の診断基準ではしっかりと確定 できない。)しかし 当時の基準では糖尿病ではなかった が 現在の診断基準に当てはめると糖尿病型と診断される も確かに存在するため これら の症例のなかで十 なデータを得られたものと本症例につ い て 表 に ま と め た( )。そ の 結 果 ( )を呈した症例の は男性であ り その に肥満を に高血圧(平 血圧 / )を に耐糖能異常または糖尿病の既往を認め た。 型糖尿病の高血糖は潜在的であったり間欠的であっ たりするため 高血糖の持続期間や重症度の評価は確実で はないが 長期間にわたる高血糖状態が糖尿病性腎症を惹 起し 高血圧と肥満の合併が病態を急速に進行させると推 測できる。過去の症例報告のうち 診断後の経過を追って いるものが数例ある。それらをまとめたところ 全例にお いて悪性高血圧とは診断されなかったものの 腎死に至っ た症例では高度な高血圧を伴っていた。糖尿病がある程度 進行すると 糸球体基底膜の蛋白透過性亢進による蛋白尿 が出現するが 高血圧の合併は糸球体内圧の上昇を介して 蛋白尿を増悪させることが えられる。また 悪性高血圧 は溶血性尿毒症症候群を伴うことが多いため これが腎機 能低下を助長した可能性も えられたが 本症例では血小 板数 血清 網状赤血球の値より溶血性変化の存在 は否定的であった。
Occlusion of retinal capillaries with microaneurysms is shown. Dot and plot shaped hemorrhages are also observed.
以上より 血圧の適切なコントロール は 腎機能低下の進行を抑える重要な因 子であり 本症例においては 難治性の 高血圧を合併しているため 今後 残存 機能を維持するには 肥満の予防に加え て厳重な血圧コントロールが極めて重要 であると える。 文 献 : -- ; : -; : -; : -: ; : -; : -; : -; : -; : -ca se ag e se x ye ar B P (m m H g) S -C re (m g/ d ) C cr (m /m in ) U -T P (g /day ) F P G (m g/ d ) P G (m g/ d ) O G T T H bA (% ) re ti no pa th y B W (kg) B M I (kg/ m ) ob es it y P H F H re na l de at h re fe re nc e 1 70 M 19 99 5. 0 3. 46 10 4 10 8 − 10 2. 0 33 .3 + − − un cl ea r 3 2 58 M 19 99 2. 1 9. 74 85 − 97 .0 32 .8 + un cl ea r 3 3 56 M 19 94 14 0/ 90 0. 7 20 m g/ kg /d ay 12 0 no rm al 4. 8 − (− ) 1 4 52 M 19 92 18 0/ 90 10 .9 1. 90 no rm al − − − (+ ) 4 5 75 M 19 92 7. 8 5. 20 im pa ir ed + − − − (+ ) 4 6 48 M 19 88 22 0/ 11 0 11 .0 6. 0 5. 30 10 8 14 2 im pa ir ed 6. 8 − − − + (+ ) 5 7 68 M 19 88 15 0/ 90 2. 9 27 .0 4. 70 86 13 8 no rm al 4. 2 − us ed + − (− ) 5 8 56 M 19 88 17 0/ 96 3. 8 25 .0 8. 00 99 13 9 im pa ir ed − us ed + − (− ) 5 9 46 M 19 88 14 0/ 80 1. 4 50 .0 25 .0 0 77 12 0 no rm al − − − − (− ) 5 10 76 M 19 86 14 0/ 90 4. 5 16 .0 3. 80 94 < 16 0 6. 5 + − un cl ea r 6 11 58 M 19 90 17 0/ 10 0 73 .0 5. 70 no rm al − − − un cl ea r 7 12 24 M 19 97 12 0/ 70 1. 9 70 m g/ kg /day no rm al 4. 0 − (− ) 8 13 35 M 19 94 15 0/ 11 0 1. 5 49 .0 4. 90 no rm al no rm al no rm al − − − un cl ea r 9 14 66 M 19 92 15 0/ 11 0 14 .0 0. 70 91 15 2 no rm al 7. 8 − 55 .0 20 .0 − − − un cl ea r 10 15 44 F 19 83 19 6/ 12 6 51 .0 2. 50 no rm al + 90 .0 + + (+ ) 11 16 61 M 19 85 22 0/ 12 0 3. 3 16 .8 6. 70 95 im pa ir ed 6. 3 + 87 .8 30 .0 + − − un cl ea r 12 17 29 M 19 71 12 5/ 80 1. 4 10 5. 0 10 .0 0 98 12 0 no rm al − − + un cl ea r 13 th is c as e 46 M 20 01 23 3/ 14 0 1. 6 39 .4 14 .4 8 10 9 im pa ir ed 5. 2 + 72 .1 23 .3 + − m ea n 53 .8 16 6/ 10 0 4. 6 41 .7 7. 00 97 .2 13 1. 3 5. 7 27 .9 B P :bl oo d pr es su re , S -Cre :se ru m cr ea ti ni ne , C cr :cr ea ti ni ne c le ar an ce , U -TP :ur in al p ro te in , F P G :fa st in g pl as m a gl uc os e, P G :pl as m a gl uc os e, O G T T :or al g lu co se t ol er an ce te st , B W :bo dy w ei gh t, B M I: bo dy m as s in de x, P H :pa st h is to ry o f di ab et es m el lit us , F H :fa m ily h is to ry
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