様式C-19
科学研究費助成事業(科学研究費補助金)研究成果報告書
平成25 年 5 月 30 日現在
研究成果の概要(和文):本研究の目的は乳がん術後リンパ浮腫と身体組成との関連性、および
リンパ浮腫が上肢機能に及ぼす影響を明らかにすることである。対象者には上肢周囲径の計測、 身体組成の測定を行い、上肢機能障害はDASH(Disabilities of the Arm , Shoulder and Hand)
を用いて質問紙調査を実施した。対象者は90 名でリンパ浮腫群(以下;浮腫群)は 37 名(41.1%)、
非リンパ浮腫群(以下;非浮腫群)53 名(58.9%)であった。この 2 群で身体組成を比較した結果、
体重、脂肪量、体脂肪率、BMI、体水分量、細胞外液量で浮腫群が非浮腫群よりも有意に数値
が高かった。また、上肢機能ではDASH の「機能障害/症状スコア」、「仕事スコア」が 2 群間
で有意差がなかったことからリンパ浮腫と上肢機能障害に関連はなかった。
研究成果の概要(英文):The purpose of this study was to clarify the relationship of lymphedema after breast cancer surgery to body composition and the effect of lymphedema on upper extremity function. In this study, I measured the subjects’ upper limb circumference and body composition. To assess the upper extremity dysfunction, a questionnaire survey was performed using DASH (disabilities of the arm, shoulder, and hand). Of 90 subjects, 37 subjects (41.1%) had lymphedema, and 53 subjects (58.9%) had no lymphedema. In a comparison of body composition of these 2 groups, the body weight, body fat mass, total body fat percentage, body mass index (BMI), total body water, and extracellular fluid volume were found to be significantly higher in the lymphedema group than those in the non-lymphedema group. Regarding upper extremity function, no significant differences were observed between the 2 groups in terms of “disability/symptom score” and “work score” of DASH. This result demonstrated no correlation between lymphedema and upper extremity dysfunction.
交付決定額 (金額単位:円) 直接経費 間接経費 合 計 2010 年度 1,400,000 420,000 1,820,000 2011 年度 300,000 90,000 390,000 2012 年度 500,000 150,000 650,000 年度 年度 総 計 2,200,000 66,000 2,860,000 機関番号:11101 研究種目:若手研究(B) 研究期間:2010~2012 課題番号:22792169 研究課題名(和文) 乳がん術後リンパ浮腫と身体組成および上肢障害との関連性
研究課題名(英文) Relationship of Lymphedema after Breast Cancer Surgery to Body Composition and to Upper Extremity Dysfunction
研究代表者
安杖 優子(ANZUE YUKO)
弘前大学・大学院保健学研究科・助手 研究者番号:80455732
研究分野:医歯薬学 科研費の分科・細目:看護学・臨床看護学 キーワード:乳がん術後、リンパ浮腫、身体組成、上肢障害 1.研究開始当初の背景 (1)リンパ浮腫と身体組成 乳がん術後のリンパ浮腫に関しては、発症 原因が未確定(Paskett E.D.,et.al:2001)、 正確な発症率が明らかでないなど、未だ未解 明な点が多い。そのため、リンパ浮腫発症の 予測指標やリンパ浮腫患者の生理的特徴を 解明する研究が行われている。 香川ら(2007)はリンパ浮腫予測因子とし
てBMI(Body Mass Index)、腋窩リンパ節 への転移、領域リンパ節への術後照射を挙げ ている。皮下脂肪はリンパ管の輸送能力を低 下させるため、肥満はリンパ浮腫の危険因子 (SegarstromK,et.al:1996,MedicalEducation Partnerships:2006,AtillaSoran,et.al:2006, Clare Shaw,et.al:2007)としながらも、その 評 価 は B M I で 行 わ れ て お り(Atilla Soran,etal:2006,B.Clark,et.al)、乳がん術後 患者の身体組成を詳細に検討した研究は見 当たらない。さらに、全身評価だけでなく、 左右上・下肢、体幹など部分を示す詳細な身 体組成の解析は行われていない。脂肪量、体 脂肪率は肥満を直接示す指標であり、除脂肪 量(筋肉)はリンパ流増加に関連した筋収縮 の点から重要である。 身体組成は食生活、活動・運動など対象者 の日常生活状況を示す指標となりうるため、 リンパ浮腫と身体組成の関連が明らかにな ることで、リンパ浮腫予防や自己管理のため の具体的看護支援に役立つと考えた。 (2)リンパ浮腫と上肢障害評価 リンパ浮腫による上肢の重苦しさや疼痛 などの症状は日常生活に影響を与える。手術 後の日常生活における上肢障害を患側だけ の評価ではなく健側をも含め検討すること で上肢全体としての能力が明らかとなり、患 者の社会生活上の問題点に着目できると考 えた。 2.研究の目的 乳がん術後リンパ浮腫の実態を把握し、乳 がん術後リンパ浮腫と身体組成との関連性 および、リンパ浮腫が上肢機能に及ぼす影響 を明らかにする。 3.研究の方法 (1)対象者 乳がんと告知され、手術を行った女性で外 来通院している者とした。両側乳がん患者、 利尿剤や強心剤を服用している者、他疾患に より上肢障害が生じている者、体組成計を用 いることができない者(ペースメーカー等の 医療機器が体内にある、一人での立位保持が 困難、等)は除いた。また、手術直後で手術 後の一時的な浮腫を有している者も除いた。 (2)研究方法 外来受診時、対象者に以下を実施した。 ①プロフィール調査 年齢、術後期間、手術様式、腋窩リンパ節郭 清の有無、手術前後の補助療法の有無と種類、 利き手 など ②左右上肢 周囲径の計測 左右上肢周囲径の計測部位は手背、手関節、 肘関節、肘関節から 5cm 下、肘関節から 10cm 上、腋窩部の 6 か所とした。現在、横断研究 の場合、どの程度の周囲径差(以下;周径差) でリンパ浮腫とするかは明確に定義されて いない。しかし、日本乳癌学会の班研究にお いて上肢 4 部位における健常な日本人女性の 生理的左右差を検証したところ、いずれの部 位も 10mm 未満の差であったという。早期診 断を目的としていずれか 1 部位でも 10mm を 超えた場合にリンパ浮腫の発症とし、20mm 未 満では軽症、20mm 以上で重症としていること から(北村:2010)、本研究でも 6 か所の計測 部位において 1 か所でも患側上肢と健側上肢 の周径差 1cm 以上の場合をリンパ浮腫とした。 計測はメジャーを用いて実施した。 ③上肢の観察 皮膚の乾燥、皮膚色、体毛、皮膚の弾力性、 前腕の血管の見え方、皮膚の厚さ、圧痕の有 無を患側と健側で比較観察した。 ④リンパ浮腫の自覚症状 リンパ浮腫の初期症状(廣田ら:2004)として 挙げられている、患肢のだるさ、患肢の疲労 感、患肢の手指を握ったり開いたりした時の 違和感、物を落としやすくなったか、患側の 肩や背部が腫れぼったいか、患側の肩凝り、 指輪や腕時計、袖口がきついと感じるか、患 肢が太くなった気がするか、患肢の熱感、患 肢に違和感があるかの 10 項目について、対 象者から聴取した。 ⑤身体組成の測定
身長、体組成計(tanita MC-180)で体重、 BMI、体脂肪率、脂肪量、除脂肪量、筋肉 量、体水分量、細胞外液量などを測定した。 体重は脂肪量と除脂肪量の総和、除脂肪量は 推定骨量と筋肉量の和、筋肉量は蛋白質等と 体水分量の和、体水分量は細胞内液と細胞外 液の和を示している。また、全身評価だけで はなく、左右上・下肢、体幹の部分評価も実 施した。 本研究で使用したマルチ周波数体組成計 MC-180(tanita 製)は生体インピーダンスを 用いて身体組成を推定する機器であり、簡便 に測定できるという特徴がある。また、複数 周波数の電流を生体に用いる「マルチ周波数 BIA 法」により、体脂肪率、筋肉量、細胞内 液・細胞外液を含めた体水分量などの体組成 を測定でき、また上肢、下肢など部位別体組 成評価も可能となっている。体脂肪率などは DXA 法(二重 X 線吸収法)での測定値と非常 に高い相関(男性=0.90、女性=0.91)がある。 ⑥リンパ浮腫による上肢機能障害 上肢全体としての能力低下を評価する DASH(Disabilities of the Arm, Shoulder and Hand)を用いた。DASH は機能障害/症状スコ アを表す質問が 11 項目、仕事スコアを表す 質問が 4 項目で構成され、各スコア 100 点満 点で点数化され点数が高いほど障害が大き いことを示す。 (3)倫理的配慮 弘前大学大学院医学研究科倫理委員会の 承認を得て実施した。対象者には文書で、研 究への協力・撤回の自由とプライバシーの保 護、クレームの自由、測定中に何らかの問題 が生じた場合には適切に対応することなど を説明し、同意書の提出を求めた。また、測 定の実施にあたっては外来の個室または、仕 切られた部屋を使用し、個別に実施した。 (4)統計解析 SPSS21.0J for Windows を使用し、リンパ 浮腫と身体組成、リンパ浮腫と上肢機能障害 との関連は Mann-Whitney U test を行った。 有意水準は p<0.05 とした。 4.研究成果 (1)対象者の属性 対象者は 90 名で、浮腫群は 37 名(41.1%)、 非浮腫群は 53 名(58.9%)であった。浮腫群 のうち周径差 2cm 以上の重症者は 9 名であり、 7 名が左乳房手術者(以下;左手術者)、2 名 が右乳房手術者(以下;右手術者)であった。 年齢は浮腫群 56.0 歳、非浮腫群 54.0 歳、 術後期間は浮腫群 42 か月、非浮腫群 48 か月 であり 2 群間で有意差はなかった。また、浮 腫群では左手術者 15 名、右手術者 22 名、非 浮腫群では左手術者 30 名、右手術者 23 名で あった。 手術様式は浮腫群で温存術 32 名、切除術 5 名、非浮腫群では温存術 46 名、切除術 7 名 であった。 腋窩リンパ節郭清の有無については浮腫 群 28 名、非浮腫群 39 名が施行されており、 浮腫群 9 名、非浮腫群 14 名がセンチネルリ ンパ節生検施行者であった。本研究において は腋窩リンパ節郭清とリンパ浮腫発症には 関連がなかった。 Stage については stageⅠが浮腫群 20 名 (54.1%)、非浮腫群 29 名(54.7%)と最も多 く、stageⅡA が浮腫群 9 名(24.3%)、非浮腫 群 15 名(28.3%)などであった。 現在行っている治療については化学療法 1 名、内分泌治療 65 名、過去に行った治療に ついては化学療法 22 名、放射線治療 38 名、 内分泌治療 11 名であった。 利き手は右利きが 88 名、左利きが 2 名で あった。 (2)リンパ浮腫の症状について(表 1、2) 上肢の観察結果を表1に示した。各項目の うち、1 つでも症状があった者は浮腫群 12 名 (32.4%)、非浮腫群 1 名(1.9%)であった。 自覚症状について表 2 に示した。浮腫群 32 名(86.5%)、非浮腫群 32 名(60.4%)が何ら かの症状を感じており、最も多い訴えは「患 側の違和感」浮腫群 21 名(56.8%)、非浮腫 群 19 名(35.8%)であった。次いで「患側の 肩や背部が腫れぼったい」が浮腫群 17 名 (45.9%)、非浮腫群 16 名(30.2%)、「患側の (人) (%) (人) (%) 症状がある 12 32.4 1 1.9 患側の皮膚が乾燥 0 0 0 0 皮膚色に 左右差がある 0 0 1 1.9 体毛に 左右差がある 0 0 0 0 患肢に熱感がある 0 0 0 0 皮膚弾力性に 左右差がある 8 21.6 0 0 前腕血管の見え方に 左右差がある 0 0 0 0 患側の皮膚が肥厚 6 16.2 1 1.9 圧痕ができる 1 2.7 0 0 浮腫群(n=37) 非浮腫群(n=53) 表1 リンパ浮腫の症状(上肢の観察)
だるさ」が浮腫群 14 名(37.8%)、非浮腫群 16 名(30.2%)であった。 (3)身体組成 ① 全身評価(表 3) 浮腫群と非浮腫群の身体組成を比較した 結果、体重(浮腫群 56.0kg、非浮腫群 52.1kg)、 体脂肪率(浮腫群 32.9%、非浮腫群 28.9%)、 脂肪量(浮腫群 18.1kg、非浮腫群 14.8%)、 BMI(浮腫群 23.6、非浮腫群 21.6)、細胞外 液量(浮腫群 12.2kg、非浮腫群 11.4kg)が 有意に浮腫群で高値であり(p<0.01)、体水 分量も浮腫群 28.5kg、非浮腫群 27.7kg と浮 腫群が有意に高値であった(p<0.05)。その 他、身長(浮腫群 157.0cm、非浮腫群 156.0cm)、 除脂肪量(浮腫群 38.6kg、非浮腫群 37.3kg)、 筋肉量(浮腫群 36.4kg、非浮腫群 35.2kg) は両群間で有意差はなかった。手術時から現 在までの体重変化は浮腫群が-0.55kg、非浮 腫群も-0.55kg で有意差はなかった。 ②左手術者の部分身体組成(表 4) 左手術者(45 名)の浮腫群(15 名)と非浮腫 群(30 名)で部位別(体幹部、左右上・下肢) の筋肉量と脂肪量、体脂肪率を比較した。 筋 肉 量 で は 患 側 で あ る 左 上 肢 が 浮 腫 群 で 1.8kg、非浮腫群で 1.6kg と浮腫群が有意に 高値であり(p<0.01)、右上肢も浮腫群 1.9kg、 非浮腫群 1.7kg と浮腫群が有意に高値であっ た(p<0.05)。体幹部、左右下肢の筋肉量は 2 群間で有意差はなかった。脂肪量は体幹部 (浮腫群 11.7kg、非浮腫群 7.6kg)、左上肢 (浮腫群 0.95kg、非浮腫群 0.6kg)、右上肢 (浮腫群 0.9kg、非浮腫群 0.57kg)など、す べての項目で浮腫群が有意に高値であった (p<0.01)。体脂肪率も同様に体幹部(浮腫群 36.0%、非浮腫群 27.3%)や左上肢(浮腫群 36.0%、非浮腫群 26.0%)(p<0.01)、右上肢 (浮腫群 33.4%、非浮腫群 31.3%)(p<0.001) など、すべての項目で浮腫群が有意に高値で あった。 ③右手術者の部分身体組成(表 5) 右手術者(45 名)の浮腫群(22 名)と非浮腫 群(23 名)で部位別(体幹部、左右上・下肢) の筋肉量と脂肪量、体脂肪率を比較した(表 5)。どの項目においても 2 群間で有意差はな かった。 (人) (%) (人) (%) 自覚症状がある 32 86.5 32 60.4 患肢のだるさ 14 37.8 16 30.2 患肢が疲れやすい 13 35.1 14 26.4 手指掌握時の違和感 6 16.2 4 7.5 物を落としやすい 3 8.1 5 9.4 患側の肩や 背部がはれぼったい 17 45.9 16 30.2 患側の肩凝り 7 18.9 10 18.9 指輪や腕時計、 袖口がきつい 9 24.3 5 9.4 患側が 太くなった気がする 13 35.1 5 9.4 患側に熱感がある 2 5.4 0 0 患側に違和感がある 21 56.8 19 35.8 浮腫群(n=37) 非浮腫群(n=53) 表2 リンパ浮腫の自覚症状 指標 中央値 25 - 75 中央値 25 - 75 有意確率 身長(cm) 157.0 151.8 - 159.9 156.0 150.9 - 160.2 N.S 体重(kg) 56.0 53.4 - 62.5 52.1 46.5 - 60.2 ** 体脂肪率(%) 32.9 27.4 - 37.6 28.9 22.3 - 33.5 ** 脂肪量(kg) 18.1 14.6 - 23.2 14.8 10.4 - 19.7 ** 除脂肪量(kg) 38.6 37.1 - 41.0 37.3 34.6 - 40.4 N.S 筋肉量(kg) 36.4 35.0 - 38.6 35.2 32.7 - 38.0 N.S 体水分量 28.5 26.7 - 30.6 27.7 24.3 - 29.7 * 細胞外液量 12.2 11.6 - 13.3 11.4 10.2 - 12.5 ** 細胞外液率 43.0 41.5 - 45.0 42.0 41.0 - 44.0 N.S BMI 23.6 21.7 - 25.5 21.6 19.3 - 23.5 ** Mann-Whitney U test *p<0.05 **p<0.01 N.S no significant
表3 身体組成の比較 非浮腫群 (n=53) パーセンタイル 浮腫群 (n=37) パーセンタイル 中央値 25 - 75 中央値 25 - 75 有意確率 体幹部 19.7 18.6 - 21.4 19.8 18.3 - 20.9 N.S 左上肢 1.80 1.60 - 2.00 1.60 1.35 - 1.80 ** 右上肢 1.90 1.70 - 2.00 1.70 1.48 - 1.91 * 左下肢 6.40 5.90 - 6.90 6.20 5.60 - 6.80 N.S 右下肢 6.70 5.75 - 7.15 6.32 5.80 - 6.85 N.S 体幹部 11.7 8.3 - 16.9 7.6 5.0 - 9.5 ** 左上肢 0.95 0.75 - 1.70 0.60 0.38 - 0.81 ** 右上肢 0.90 0.70 - 1.70 0.57 0.38 - 0.76 ** 左下肢 3.85 3.20 - 5.55 2.95 2.33 - 3.61 ** 右下肢 3.90 3.20 - 5.55 2.95 2.43 - 3.66 ** 体幹部 36.0 30.6 - 44.4 27.3 20.1 - 31.3 ** 左上肢 36.0 31.6 - 46.3 26.0 19.7 - 30.2 ** 右上肢 33.4 29.3 - 40.6 31.3 28.1 - 33.8 *** 左下肢 36.5 33.5 - 39.0 31.4 27.0 - 33.8 ** 右下肢 36.1 33.6 - 39.0 31.3 28.1 - 33.8 **
Mann-Whitney U test *p<0.05 **p<0.01 ***p<0.001 N.S no significant パーセンタイル 筋 肉 量 ( k g ) 脂 肪 量 ( k g ) 体 脂 肪 率 ( % ) 表4 部分身体組成の比較 (左乳房手術者) n=45 指標 浮腫群 (n=15) 非浮腫群 (n=30) パーセンタイル
(4)リンパ浮腫による上肢機能障害 日常生活における上肢の活動・動作につい て明らかにするため、「日常生活の中で、手 術した側の腕を動かしているか」について回 答を求めた。左手術者(45 名)で「動かしてい る」と回答したのは 41 名(91.1%)、右手術 者(45 名)は全員が「動かしている」と回答し た。また、浮腫群(37 名)と非浮腫群(53 名) においては、浮腫群の全員が「動かしている」 と回答し、非浮腫群では 49 名(92.5%)が「動 かしている」と回答した。 上 肢 全 体 の 能 力 低 下 を 評 価 す る 質 問 紙 DASH(Disabilities of the Arm, Shoulder and Hand)を用いて上肢機能障害を表す点数を 2 群間で比較した。機能障害/症状スコアでは 浮腫群 6.82、非浮腫群 4.55 で有意差はなく、 仕事スコアにおいても浮腫群 0、非浮腫群 0 で有意差はなかった。 以上の結果から、「乳がん術後リンパ浮腫 と身体組成の関連」および「リンパ浮腫が上 肢機能に及ぼす影響」について考察する。 (5)乳がん術後リンパ浮腫と身体組成の関連 浮腫群と非浮腫群の身体組成を比較した 結果、体重、体脂肪率、脂肪量、BMI、体水 分量、細胞外液量が有意に浮腫群で高値であ り、除脂肪量、筋肉量は有意差がなかった。 リンパ浮腫の危険因子のひとつに肥満が 挙げられているが、先行研究ではその評価を BMI で行っている。本研究において、浮腫群 の BMI は非浮腫群よりも有意に高値であった が、数値をみてみると 23.6 と普通体重であ った。現在、身体組成において日本人の標準 値は定められていない。厚生労働省では成人 女性の体脂肪率の標準を 25%前後とし、また、 小山ら(2002)は肥満判定基準として若い女 性の体脂肪率を 30%、高齢女性では 37%以 上と述べている。また、山本ら(2000)は多周 波数インピーダンス法で様々な年代にある 男女の身体組成を測定し、BMI=22 にあたる 体脂肪率は 32.4%、肥満とされる BMI=25 に あたる体脂肪率は 39.7%であったと報告し、 10~40 代における肥満基準を 33.9%以上、 50~70 代では 41.4%以上と述べている。各 先行研究において各数値に若干のバラツキ はみられるものの、本研究結果では浮腫群の 体脂肪率は 32.9%であったことから、対象者 年齢も考慮すると肥満とは断定できない。本 研究では BMI、および脂肪の点からも肥満が リンパ浮腫の危険因子とは言えない結果で あった。 また、左手術者と右手術者の部位別の身体 組成において、右手術者では浮腫群、非浮腫 群の 2 群間ですべての項目に有意差がなかっ たのに対し、左手術者では左右上肢の筋肉量、 およびすべての項目の脂肪量と体脂肪率で 浮腫群が有意に高値であった。左手術者と右 手術者で結果が異なった理由として、周径差 1cm 以上をリンパ浮腫とした基準と利き手の 影響があると考えられる。今回、対象者のほ とんどが右利きであったため、右上肢の筋肉 の発達や脂肪のつき方などが左上肢と異な っていたと考える。そのため、周径差 1cm 以 上を浮腫とした本研究の基準が右手術者に とってはリンパ浮腫の基準として易しかっ たとも考えられる。右手術者の浮腫群の中に リンパ浮腫を発症していない人も含まれて いた可能性もあり、身体組成のすべての項目 で有意差がなかったと考えた。 左手術者においては、浮腫群の左右上肢の 筋肉量が非浮腫群よりも高値であった。左上 肢の筋肉量に関しては筋肉量を構成する体 水分量、細胞外液量がリンパ浮腫により多か ったため、それが反映されたと考えられた。 また、脂肪量と体脂肪率も体幹、上肢、下肢 で浮腫群が有意に高値であったが、身体組成 の全身評価で浮腫群が非浮腫群よりも脂肪 量、体脂肪率が高値であった結果が各部分の 身体組成の評価にも現れたと考える。 リンパ管は皮下脂肪組織に分布し、皮下脂 肪の増加によりリンパ流が制限される可能 性があるため(小川:2011)、リンパ浮腫の発 症や悪化要因には肥満や体重増加が挙げら れている(小川:2011,光嶋:2011,増島:2012)。 本研究では肥満がリンパ浮腫の危険因子と 中央値 25 - 75 中央値 25 - 75 有意確率 体幹部 20.4 19.4 - 21.0 19.4 17.9 - 20.9 N.S 左上肢 1.65 1.58 - 1.80 1.75 1.45 - 1.80 N.S 右上肢 1.75 1.68 - 1.86 1.75 1.50 - 1.85 N.S 左下肢 6.25 5.93 - 6.85 5.80 5.55 - 6.65 N.S 右下肢 6.35 6.06 - 6.83 5.85 5.60 - 6.75 N.S 体幹部 9.3 7.3 - 11.9 8.8 5.0 - 11.4 N.S 左上肢 0.67 0.55 - 0.91 0.70 0.40 - 1.00 N.S 右上肢 0.62 0.50 - 0.90 0.70 0.35 - 0.95 N.S 左下肢 3.20 2.83 - 3.65 3.20 2.40 - 3.65 N.S 右下肢 3.25 2.82 - 3.70 3.25 2.40 - 3.60 N.S 体幹部 30.0 25.0 - 35.8 28.1 18.9 - 34.6 N.S 左上肢 27.9 23.5 - 33.5 26.6 18.0 - 32.8 N.S 右上肢 26.1 22.3 - 31.2 25.4 18.2 - 32.1 N.S 左下肢 33.2 30.0 - 35.9 26.6 18.0 - 32.8 N.S 右下肢 33.3 30.0 - 35.5 32.5 28.6 - 34.6 N.S
Mann-Whitney U test N.S no significant
表5 部分身体組成の比較 (右乳房手術者) n=45 浮腫群 (n=22) 非浮腫群 (n=23) パーセンタイル パーセンタイル 指標 筋 肉 量 ( k g ) 脂 肪 量 ( k g ) 体 脂 肪 率 ( % )
言えない結果であったが、全身および部分の 身体組成を通して、浮腫群の方が脂肪量や体 脂肪率が非浮腫群よりも多かったため、リン パ浮腫と体脂肪との関連が示唆された。 本研究は横断研究であり、対象者の身体組 成の変化とリンパ浮腫との関連については 検討できない。しかし、乳がんに罹患する患 者の年代を考慮すると、40~50 代が多く、そ の多くは更年期等によりホルモンバランス が変化する年代で、女性ホルモンの変化は身 体組成に大きく影響を及ぼすと言われてい る。そのため、今後は縦断的に取り組むこと が求められる。 (6)リンパ浮腫が上肢機能に及ぼす影響 リンパ浮腫における上肢の疲労感や疼痛 などの症状や左右上肢の太さの違いなど見 た目や衣服などに関わる問題は患者のボデ ィーイメージの変化にもつながり、通常の日 常生活を送ることを困難にするだけではな く、QOL の低下にもつながる。 今回、浮腫群 37 名中 8 名に「皮膚の弾力 性」、6 名に「患側の皮膚の肥厚」などの症状 が 見 ら れ 、 自 覚 症 状 に 関 し て は 浮 腫 群 の 86.5%が「患側の違和感」や「患側の肩や背 部の腫れぼったさ」など、何らかの症状を感 じていた。自覚症状については浮腫群だけで はなく、非浮腫群でも 60.4%が感じていた。 しかし、患側が利き手・非利き手に関わらず、 また、浮腫群、非浮腫群ともに日常生活の中 で「患側を動かしている」と回答した人が多 く、このことは DASH の点数にも反映されて いたと考える。今回、浮腫群の中で周径差 2cm 以上の重症者が 9 名、その他は軽症であった ことから、リンパ浮腫の自覚症状を感じても 日常生活に影響を与えない範囲であったか、 患側の代わりに健側を使用することで上肢 全体の能力が低下することなく日常生活を 送れている可能性があることが示唆された。 5.主な発表論文等 (研究代表者、研究分担者及び連携研究者に は下線) 〔雑誌論文〕(計0 件) 〔学会発表〕(計0 件) 〔図書〕(計0 件) 〔産業財産権〕 ○出願状況(計 0 件) 名称: 発明者: 権利者: 種類: 番号: 出願年月日: 国内外の別: ○取得状況(計 0 件) 名称: 発明者: 権利者: 種類: 番号: 取得年月日: 国内外の別: 〔その他〕 ホームページ等 6.研究組織 (1)研究代表者 安杖 優子(ANZUE YUKO) 弘前大学・大学院保健学研究科・助手 研究者番号:80455732 (2)研究分担者 ( ) 研究者番号: (3)連携研究者 ( ) 研究者番号: