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アメリカにおけるデザインの保護

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Academic year: 2021

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(1)28. 特集:各国におけるデザイン保護法制. 末宗達行 Suemune Tatsuyuki 早稲田大学大学院法学研究科. アメリカにおけるデザインの保護 Design Protection in U.S.A.. Graduate School of Law, Waseda University. 1.はじめに アメリカ合衆国では連邦制をとっていることから、各州がそれぞれ法域を 形成して州法を有し、加えて連邦法が存在するという二元的な法制度をとっ ている1)。それを受けて、アメリカにおけるデザインの保護に関する法も、 連邦法上のものと、州法上のものとが存在する。連邦法上では、意匠特許制 度(特許法)、著作権法、および商標・不正競争法(Lanham 法2))による保. 護が存在し3)、また州法上では、州の商標・不正競争法による保護が存在す. る。こうした制度のあり方は、各法についての連邦議会の権限の根拠規定の 違いに由来する。すなわち、特許法及び著作権法については連邦議会の排他 的権限とされているが(合衆国憲法1条8節8項)、商標・不正競争法につ いてはそうした規定は存在していないことから、基本的には商標・不正競争 法に関する立法の権限は州に留保されている。ただし外国貿易ないしは州際 通商に対する権限(合衆国憲法1条8節3項)の行使に関する限り連邦議会 も立法権限を有するとされている4)。 本稿では、連邦法上の制度に対象を限定して、デザイン保護に中心的な役 割を担っている意匠特許制度に比重を置きつつ、意匠特許制度、著作権法に 1)伊藤正己=木下毅『アメリカ法入門』(日本評論社、. よる保護、そしてトレードドレスとしての保護の順に論じることとする5)。. 第5版、2012年)183-185頁参照. 2)日本では、商標法と不正競争防止法とで別個の立法と なっているが、アメリカ連邦法上のそれらに相当する 立法は Lanham 法という単一のものとなっている。. 3)そのほかに、sui generis なデザイン保護制度として1984. 年半導体チップ保護法(17 U. S. C. §§901-914) 、1998年. 2.意匠特許による保護 6) アメリカ特許法171条(a) は、 「製造物品に対するあらゆる新規、独自か. つ装飾的な意匠を創作した者は、本編の条件および要件に服しつつ、それに. 船体意匠保護法(17 U. S. C. §§1301-1332)も存在する. かかる特許を取得しうる7)」と規定しており、特許法の中で一定の意匠を創. , at 491) 。 cal Age, 6th ed.,(Wolters Kluwer, 2012). 作した者に対して特許権を付与する制度(以下、意匠に対する特許を「意匠. (Merges, R., et al., Intellectual Property in the New Technologi-. 4)デザイン保護に関する州法と連邦法の関係について、 末宗達行「アメリカにおけるデザイン保護法制」麻生. 特許」とし、この制度を「意匠特許制度」という)を設けている。別段の定. 典= C.Rademacher 編著『デザイン保護法制の現状と. めのない限り、発明に対する特許(以下、 「実用特許」という)に関する規定. 年)195頁参照。. 8) が意匠特許にも適用されることとなっており(アメリカ特許法171条(b) ) 、. 課題 ─ 法学と創作の視点から ─ 』(日本評論社、2016. 5)本稿は、拙稿・前掲注(4)に加筆・修正を加えたも のである。 6)35 U. S. C. 171(a). 7)訳文は日本特許庁 HP「外国産業財産権制度情報」 ( https://www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/fips/pdf/us/. tokkyo.pdf 最終確認2017年7月31日)における訳に. 基づき、筆者において一部文言を変更した。 8)35 U. S. C. 171(b). 9)麻生典「意匠法の存在意義 ─ 著作権法との関係を中 心に」麻生= Rademacher 編著・前掲注(4)11-12頁。. 意匠特許に関する独自の規定は171条乃至173条、および意匠特許侵害の場合. の追加的救済(損害賠償)に関する289条の4か条のみとなっている。 デザイン保護に関する法の性質の分類として、創作性が要求され相対的効 力を有する著作権法類似の制度をとるコピーライトアプローチと、厳格な新 規性を要求し排他的効力を有する特許法類似の制度を取るパテントアプロー チとに大別されるが9)、日本における意匠法は、アメリカの意匠特許制度と 同じくパテントアプローチに分類される。他方で、意匠法と技術的思想を保.

(2) デザイン学研究特集号  Vol.25-2 No.98. 護する特許法とは別の立法となっている点で10)、アメリカ法とは異なってい る。以下では、保護要件11)、出願、侵害判断基準と救済の順に述べる。. 2.1. 保護要件. ⑴ 「意匠」と「製造物品」 171条にいう意匠の定義につき、特許審査便覧(Manual of Patent Examining. Procedure)は、少なくとも製造物品に具現又は適用された表面部の装飾等. もしくは製造物品の形状又はそれらの結合が該当するとする12)。また、特許. 審査便覧は「意匠特許出願において、特許請求の対象(subject matter)は、. 製造物品(又はその一部)に具現又は適用された意匠であって、その物品. そのものではない。……『171条は、物品の意匠(the design of an article)で. はなく、物品に対する意匠(the design for an article)をいうのであって、物 品の形態とともに表面部の装飾を含めた全ての種類の装飾的意匠を包含す. る』……意匠は、それが適用された物品から分離不能であって、単なる表面 部の装飾の体系として単独で存在することはできない。意匠は、確定してお り(definite)、予め考えられたもので(preconceived thing)、再製可能でなけ. ればならず、単なるある方法の偶然の結果ではない13)」としている。意匠が. 確定的であり再製可能でなければならないとの要件は、ある一定の方法によ り作り出される模様や、可動部を有する物品につき、意匠特許の付与を否定 する方向に働くとされる14)。 171条は「製造物品に対する……意匠」としているように、意匠は製造物 品に具現されている限りにおいて特許を付与され得る15)。そのため、図面や 装飾それ単体では、意匠特許の保護対象とはなりえない16)。In re Hruby 事件. 判決17)において、関税特許控訴裁判所(CCPA:連邦巡回区控訴裁判所の前. 身)は、噴水の意匠特許出願につき、製造物品該当性の判断を行った。特許 庁審判部は、作り出されるところの模様は専らノズルの配置と水圧調整管理. によるつかの間の(fleeting)産物であって、その模様は操作が継続してい る間の機械の産物ないし「効果」として存在するにすぎないため、水の形状. それ自体(the water display itself)は製造物品にあたらないとして、出願を拒 絶した18)。関税特許控訴裁判所は、噴水のうち専ら水の動きで構成される部. 分が171条にいう製造物品に該当するか19)を判断し、「〔製造の意義について の広範にわたる議論を行った Riter-Conley Mfg. Co. v. Aiken, 203 Fed. 699(3d.. Cir. 1913)〕の判旨は、……製造は、文字通り手によってであれ、機械によっ. てであれ、技術(art)によってであるにかかわらず、原材料から『人の手 により』何かが作られることであるとした。確かに、噴水はそのように作ら れるものである。……本件における『物品』は噴水であって、ゆえに噴水を 10)ただし、特許法と同様の規定や、特許法の準用規定を 多く有している。 11)なお、171条(a)において「独自(original)」との文. 言があるが、新規性に含まれるとする論者もいれば、 非自明性に関連させる者もいるとされ、裁判例も分か れているようである(Patent Law Basics § 6: 15)。. 12)See MPEP § 1504.01(9th ed. July 2015). 13)MPEP § 1502(9th ed. July 2015) (一部を省略して引 用). 形成しうる唯一の素材 ─ すなわち水 ─ からなる。水からなるこれら意匠が 意匠を生み出す手段に依存していることと、製造物品に該当することとの間 に必然的な関係は認められない。……意匠の外にある何らかのものに意匠の 存在が依存していることは、そのものが『製造物品に対する』意匠ではない と判断する理由であるとは認められない。そうした多くの意匠は、看者が見 る外観の作出のための外在要素に依存している。ランプの笠の意匠は、ラン. 14)See 1-23 Chisum on Patents § 23.03[1] (2017). プが点灯しない限り、明らかにならないかもしれない。女性用靴下類の意匠. 16)See MPEP § 1504.01(9th ed. July 2015). は、着用されない限り明らかとはならない。おもちゃの風船のような膨らま. 15)See 1-23 Chisum on Patents § 23.03[2] (2017) 17)In re Hruby, 373 F. 2d 997(C. C. P. A. 1967). せる物、水遊び用のおもちゃ及び建造物であっても、その意匠は、それらを. 19)373 F. 2d 997, 998. 形成する圧縮空気がなければ明らかにならず、本件における水が噴水に形. 18)373 F. 2d 997, 999. 29.

(3) 30. 特集:各国におけるデザイン保護法制. 状を与えることと同様である20)」と述べ、審判部の審決を破棄した。また、 製品の一部に対する意匠につき特許請求することもでき、1996年にはコン ピュータ生成アイコンについても製造物品に該当しうるとの審査基準を特許 商標庁は採用している21)。 ⑵ 装飾性 特許を受けるには、意匠は装飾的(ornamental)でなければならない22)。. この装飾性が、審美的なものまで要求するか否かにつき、控訴裁判所レベ. ルにおいて2つの対立する判例が存在している23)。まず、Blisscraft 事件判決 で、第二巡回区控訴裁判所は「特許を受けるためには、意匠は、新規で創作 的(inventive)であることに加えて、装飾的でなければならない。これが意. 味するのは、美的能力及び芸術的概念の産物でなければならないということ である24)」としたうえで、「〔侵害訴訟での特許の有効性の推定は覆滅しうる ものであり、本件では装飾性の欠如を示す証拠に従わねばならないとし〕こ の問題に関して我々が採用する見解は、 〔原告特許にかかる〕水差しの実用 的または機械的特徴が、意匠のコンセプトにおいて特許付与を妨げるほどに 支配的であったか否かを考慮する必要はなかったとするものである25)」と述 べていることから、装飾性要件を単なる機能性の回避以上のものを要求する ものと明らかにみなしている26)。他方で、In re Koehring 事件判決で、関税特 許控訴裁判所は「意匠特許における美的及び装飾要件は『審美的または純粋 美術』において見出され得るようなものに限定されてはいない。特許権を道 具や機械の装飾又は美しさに根拠づけて、そうした美しさ及び装飾が、絵 画、彫刻および美術作品に見いだされるようなものに限定されるべきで、芸 術家の美的感覚のみを奮い立たせるものであることを議会が意図したと想定 することは合理的ではない。……議会が意匠特許に関する法を実用的特徴か らなる道具や機械に適用しようと意図していたことは明らかであるから、し たがって、多くの機械は審美的感覚を奮い立たせるのではなく抑制する傾向 にあるのであって、そうした多くの機械を特徴づける醜悪さの多くを除去す ることを念頭に置いていたものと思われる27)」と述べ、装飾性と審美性とを 別に考えているようである。 20)373 F. 2d 997, 1000-1001. 21)See 1-23 Chisum on Patents § 23.03[2] (2017).   コンピュータ生成アイコンについて、特許審査便覧 は「出願がコンピュータスクリーン、モニター、そ の他の表示画面又はそれらの一部に表示されたコン ピュータ生成アイコンを特許請求する場合、当該ク レームは171条の『製造物品』要件に適合する。特許 可能な意匠は、それが適用された目的物から分離不能 であって、単なる表面部の装飾の体系として単独で存 在することはできないから、コンピュータ生成アイコ ンは、171条を充足するためには、コンピュータスク リーン、モニター、その他の表示画面又はそれらの一 部に具現されていなければならない」とする(MPEP § 1504. 01(a) (9th ed. July 2015))。. 22)See 1-23 Chisum on Patents § 23.03[3] (2017). 23)See 1-23 Chisum on Patents § 23.03[3][a] (2017). 24)Blisscraft of Hollywood v. United Plastics Co., 294 F. 2d 694, 696(2d Cir. 1961). 25)294 F. 2d 694, 697. 26)See 1-23 Chisum on Patents § 23.03[3][a] (2017). 27)In re Koehring, 37 F. 2d 421, 422(C. C. P. A. 1930) 28)See 1-23 Chisum on Patents § 23.03[4] (2017). ⑶ 機能性 実用品の形状も意匠特許を受けることができることから、意匠の要素が機 能的なものとなる場合もある28)。しかし、機能的要素に決定づけられた意匠 は特許付与の対象とはならず、また先行意匠に対して新規または非自明であ る点が機能的改良や変更によって決定づけられている場合も特許付与の対象 とならない29)。機能性に関する準則が存在する根拠としては、第一に機能が 形状を決定づけている場合には装飾に関する創造性が存在する余地がなくな ること、第二に実用特許の要件を具備していない機能的特徴に独占を不当に 付与するのを回避することがあげられる30)。 機能性につき判断を行った多数の判例があるが、ここではいくつかの主要 な判例を挙げ、機能性を理由とする意匠特許無効に関する準則を大まかに示 すこととする。1997年の Berry Sterling 事件判決では、連邦巡回区控訴裁判所 は、機能性を理由として意匠特許を無効とした地裁の判断を破棄、差戻す判 断を行う中で、機能性判断における全体の外観(overall appearance)の分析. の必要性と類似代替意匠の存在について論じた31)。すなわち、全体の外観の. 29)See Id.. 分析の必要性につき「一定の状況では、意匠の要素を分析することが適切と. 31)See Id.. なりうるものの、特許にかかる意匠が製造物品の機能に決定づけられている. 30)See Id..

(4) デザイン学研究特集号  Vol.25-2 No.98. かを判断することは、最終的にはその全体の外観の分析に基づかねばなら ない32)」とし、類似代替意匠の存在につき「代替意匠の存在は、問題となっ ている意匠が機能性の問題(challenge)を乗り越えられるか否かを判断する. に際して助けとなりうるし、助けとなりえないかもしれない。もし存在する のであれば、代替意匠を考慮することは、裁判所が問題となっている意匠が 機能性を理由として無効ではないと結論付けることを許容しうる有用な道具. である。代替意匠は、それ自体が、特許にかかる意匠が全体として ─ その 全体の外観が ─ 機能的考慮要素に決定づけられていたか否かを判断するた めの適切な考慮要素のリストに加えられる。その他の適切な考慮要素は以下 のものを含みうる。すなわち、保護対象の意匠が最良の意匠にあたるかどう か、代替意匠があったとして一定の物品の有用性に負の(adversely)影響を. 及ぼし得るか否か、何らかの付随する特許が存在するか否か、広告が特定の 有用性を有するとして意匠の一定の特徴を推奨しているか否か、そして機能 によって明確には決定づけられない意匠中のあらゆる要素ないし全体の外観 の存否である33)」と述べた。2002年の Rosco 事件判決では、連邦巡回区控訴. 裁判所は「我々は、機能性を根拠とする意匠特許の無効について厳格な基準 を適用している。すなわち、実用品の意匠は、特許請求された意匠の外観が 物品の用途または目的『によって決定づけられて』いるときに、機能的であ. るとみなされる。L.A. Gear, Inc. v. Thom McAn Shoe Co., 988 F.2d 1117, 1123,. 25 USPQ2d 1913, 1917(Fed.Cir.1993)……『製造物品の機能を実現するいく つかの方法が存在する場合には、物品の意匠は主として装飾目的に資する可. 能性がより高い』L.A. Gear, 988 F.2d at 1123, 25 USPQ2d at 1917……すなわち、 その他の意匠が同一または類似の機能上の性能を発揮しうるならば、問題と なっている物品の意匠は機能的ではなく、装飾的である可能性が高い34)」と 判示している。さらにのちの2006年の PHG 事件判決35)で、連邦巡回区控訴. 裁判所は、Berry Sterling 事件判決の機能的考慮要素に決定づけられていたか の一連の考慮要素を引用しており、これらの考慮要素は PHG ファクターな いし、引用元の Berry Sterling ファクターとも呼ばれることがある36)。. ⑷ 新規性. 171条は、意匠は新規でなければならないとしており、102条に規定する 新規性要件及び法定不特許事由を含む諸規定を意匠特許にも適用すること としている37)。実用特許において新規性喪失の判断基準と侵害判断基準と が同一のものとされているところ(“That which infringes, if later, anticipates, if. earlier”)、意匠特許においてもそれらは同一の判断基準である「通常の観察. 者」テストが適用される38)。. 通常の観察者テストの具体的な適用につき、連邦巡回区控訴裁判所は. Door-Master 事件判決で以下のように述べた。すなわち、「実用特許と同. 様に、意匠特許の新規性喪失のためには、単一の引用例が特許請求された. 意匠と『すべての重要な点において同一』であることを立証する必要があ 32)Berry Sterling Corp. v. Pescor Plastics, Inc., 122 F. 3d 1452, 1455(Fed. Cir. 1997). 33)122 F. 3d 1452, 1456. 34)Rosco, Inc. v. Mirror Lite Co., 304 F. 3d 1373, 1378(Fed.. る。……意匠特許侵害の判断基準は意匠特許の新規性喪失にも適用される。 当該判断基準によれば、裁判所は適当な場合には特許請求された意匠をまず 解釈し、その後に引用例と特許請求された意匠を比較する必要がある。……. Cir. 2002). 特許請求された意匠を解釈するに際して、当裁判所はまず『特許に示された. 1361, 1363(Fed. Cir. 2006). 装飾的意匠の非機能的要素』のみが意匠特許保護の適切な基礎であると述べ. 35)PHG Techs., LLC v. St. John Companies, Inc., 469 F.3d 36)See 1-23 Chisum on Patents § 23. 03[4] (2017). ている。……加えて、『通常明らかとなっていない特徴点は、それらの外観. 38)Id.. は「関心を引く対象(matter of concern)」とはなりえないから、意匠特許保. 37)See 1-23 Chisum on Patents § 23. 03[5] (2017). 31.

(5) 32. 特集:各国におけるデザイン保護法制. 護の適切な基礎とはならない』……侵害あるいは新規性喪失の判断基準の第 二段階において、裁判所はクレームを被疑侵害物品又は引用例と比較を行 う。侵害又は新規性喪失が認定されるには、2つの意匠が実質的に同一でな ければならない。……購買者が通常与える程度の注意を与える通常の観察 者をして一方の意匠を他方のものであると信じさせ物品を購入させしめる であろう程に欺罔的であるとき、2つの意匠の類似性は実質的に類似であ る。……この比較を行うに際して、裁判所は意匠の保護されている特徴点に 焦点をあて、それらの共通の特徴が通常の観察者を欺罔するであろうかどう かを判断しなければならない39)」というのである。 なお、後述するように、従来は侵害判断基準と同様に新規性喪失の判断基準 にも「通常の観察者」テストに加えて、別の要件として“point of novelty”テ ストも適用されていたものの、Egyptian Goddess 事件判決を受けて International. Seaway Trading Corp. v. Walgreens Corp. 事件判決40) が新規性喪失の判断基準. においても“point of novelty”テストを放棄した41)。従来における“point of. novelty”テストの適用は「新規性喪失の判断の場合には、我々は、引用例の. 新規性のある特徴点(the points of novelty)を取り込んでいるかどうかを判. 断するために、特許にかかる意匠を引用例と比較していた。引用例の新規性 のある特徴点は、引用例における新規性のある特徴点を判断するために公知 意匠を考慮することにより、判断された42)」というものであった。. ⑸ 非自明性(nonobviousness). 171条(a)において非自明性43)は要求されていないものの、同条(b)で. は「発明に対する特許に関する本編の規定は、別段の定めがある場合を除. き、意匠に対する特許にも適用するものとする44)」と規定しており、103条 に規定する実用特許における非自明性要件は意匠特許にも適用される45)。実 用特許の場合には、自明性判断は一定の技術的解決課題に焦点を当て、解決 手段が、発明の時点において、技術につき通常の技量を有し先行技術に十分 な知識を有している者に自明であったか否かが問題となるが、その一方で、 意匠特許の場合には、そもそも解決課題が性質上規範的であって、比較的制 約のないものとなることから、解決手段の自明性判断は必然的に主観的と なってしまうことは裁判所も自認するところであるとされる46)。 意匠特許における非自明性判断が困難な場面の一つとして、以下では「誰 にとって」意匠が非自明でなければならないかを取り上げる。1981年の関税 特許控訴裁判所の In re Nalbandian47)事件判決以前においては、判断基準を従. 来多くの判決が採用してきた「関連意匠に通常の技量を備えたデザイナー」 とする立場と、1966年の関税特許控訴裁判所の In re Laverne 事件判決48)が採 39)Door-Master Corp. v. Yorktowne, Inc., 256 F. 3d 1308, 1312–14(Fed. Cir. 2001). 40)589 F. 3d 1233(Fed. Cir. 2009). 41)See 1-23 Chisum on Patents § 23.03[5][a] (2017). 42)589 F. 3d 1233, 1238. 43)実用特許の場合には、日本法にいう進歩性(日本特許 法29条2項)に対応する特許要件である。日本の意匠 法においては創作非容易性(意匠法3条2項)が要求 されており、米国の意匠特許における非自明性に対応 する要件といえよう。 44)前掲注(7)。 45)See 1-23 Chisum on Patents § 23.03[6](2017). 46)Id.. 用した「通常の知性を有する者(the ordinary intelligent man) 」とする立場と. に判例が分かれていた49)。In re Laverne 事件判決で、関税特許控訴裁判所は. 「意匠の創作はデザイナーによって行われる。本件で審査官は〔非自明性判断. の〕比較の基礎として『有能なデザイナー(a competent designer)に期待され. る技量』に言及している。……103条の規定であるがゆえに、判断基準は自 明性でなければならないが、しかしながら、それは、特許のインセンティブ という手段によりインダストリアルデザインの分野における進展を促進する という立法者意思を実現する態様で、適用されなければならない。このこと は、有能なデザイナーがその職業上の能力により生み出す全てのものに対す. 47)661 F. 2d 1214(C.C.P.A. 1981). る特許を否定することによっては、実現されない。103条の規定に従うなら. 49)See 1-23 Chisum on Patents § 23.03[6](2017). ば、我々がなすべきことは、通常の知性を有する者に対する自明性を判断す. 48)356 F. 2d 1003(C.C.P.A. 1966).

(6) デザイン学研究特集号  Vol.25-2 No.98. ることであるように思われる。意匠は外観に過ぎず、そして外観は全体とし ての物品の外観であるがゆえに、この審査基準は、本来的に視覚による判断 である50)」と述べた。この In re Laverne 事件判決には、関税特許控訴裁判所 およびその他の裁判所の判例に反すること、そして有能なデザイナー基準を 採用した場合の効果を誇張していることを理由として批判がある51)。1981年 の In re Nalbandian 判決で、関税特許控訴裁判所は以下のように述べ、前述. のとおり判例が分かれていたところ、In re Laverne 判決を変更した52)。すな わち、「Laverne 判決以降、第2、3、10及びコロンビア特別区巡回区控訴裁. 判所は特に同判決中で述べられた『通常の観察者』テストを特に検討し、排 除した。それらの巡回区控訴裁判所は『通常の技能を有する者』を『通常の デザイナー』の観点から自明性が判断されることを求めているものとして解 釈することを継続した。審決は当裁判所とともにコロンビア特別区控訴裁に よる判断を受けうることから、特許商標庁は意匠事件において2つの基準に 直面することとなった。我々は、この分断を終結させることが適切であると 思料する。したがって、本件につき、Laverne 判決の基準はもはや用いられ ることはないと判示する。意匠の事件では、103条で『当該技術分野におけ. 50)356 F. 2d 1003, 1006. る通常の技量を有する者』として特定される仮定上の人物を、出願で示され. 52)Id.. た種類の物品をデザインする通常の能力を備えたデザイナーとみなすことと. 51)See 1-23 Chisum on Patents § 23.03[6](2017) 53)661 F.2d 1214, 1215-1217(C.C.P.A. 1981). 54)なお、Graham テストについては、拙稿・前掲注(4) 198頁参照。. 55)前述の2009年の International Seaway 判決で連邦巡回区. 控訴裁判所は、意匠特許の自明性判断において先例に. 言及することなく、In re Nalbandian 判決で否定された. はずの通常の観察者テストを使用していたものの(See. 1-23 Chisum on Patents § 23.03[6] (2017) ) 、のちの. High Point Design LLC v. Buyers Direct, Inc., 判決で、連. する。このアプローチは、〔実用特許における非自明性の判断基準を示した 連邦最高裁判決である〕Graham v. John Deere Co., 383 U.S. 1, 86 S.Ct. 684, 15. L.Ed.2d 545(1966)に適合するものであり、Graham 判決は関連する技術に おける通常の技量の水準を確定することを要求している。……Graham 判決. で求められている当該技術分野における通常の技量の水準の確定が、意匠に 関して可能ではないとは思われない。したがって、意匠特許がその他の特許. 邦巡回区控訴裁判所は、 「International Seaway 判決で裁. と同一の基礎に基づいて評価されるべきであるとの制定法上の要件を考慮し. 際には『通常の技量を有するデザイナー』を考慮に入. て、Graham テストに従うべきである53)」54)とした55)。. 判所は、 『通常の観察者』の用語を使用した際に、実 れていたかもしれない。いずれにせよ、同裁判所は通. 常の技量のデザイナーの基準を述べた判例を書き換え ることはできないであろう」 (730 F. 3d 1301, 1313, n. 2. (Fed. Cir. 2013) )と述べ先例の変更はないとしている。. 56)See 1-23 Chisum on Patents § 23.04(2017) 57)37 C.F.R. § 1.153(a).   たとえば、 実際の事例で言えば、 特許番号D787, 984. (Date of Patent: May 30, 2017)では、タイトルは“Vehicle. body exterior”、クレームは“The ornamental design for a. 2.2. 出願. 実用特許と同様に、意匠特許取得のためには、出願ののち、実体審査を経. ることが求められる。実用特許の場合には、明細書とクレーム(特許請求の 範囲)が最も重要であり、図面はそれに劣後するが、他方で意匠特許の場合 には、図面によって開示と明確性が確保される(図面が最も重要である)56)。. vehicle body exterior, as shown and described.”、明細書中. 一つの意匠特許出願においては一つのクレームしか許容されず、そしてク. of the vehicle body exterior…The broken lines shown in the. レームは、図面を指しつつ「以下に示す(as shown)」あるいは「以下に示. の説明は“FIG. 1 is a front and left side perspective view. drawings depict portions of the vehicle body exterior that. form no part of the claimed design.”となっており、図面. の一つは以下のようになっている。. し記載される(as shown and described)」一定の物品の装飾的意匠である旨を. 記載することとなる(意匠のタイトルでは特定の物品を指定しなければなら ない)57)。また、明細書での文言による説明については、連邦行政命令集37 編 §1.153(a)58)で「図面への言及のほか、説明は通常要求されることはな. い」とされているが、特許審査便覧において許容される、そして許容されな い一定の類型の文言説明が挙げられている59)。. 図面については、連邦行政命令集37編 §1.152 60)に定めがある。すなわち、. 「意匠は §1.84の諸要件に適合する図面により示されなければならず、かつ、 当該意匠の外観の完全な開示となるよう十分な数の視点からなっていなけれ. (画像出典:USPTO Patent Full-Text and Image Database). ばならない。適切かつ十分な表面部の陰影は、記載されている表面部の性質. 58)37 C.F.R. § 1.153(a). または輪郭を示すために使用されるべきである。黒の実線による表面部の陰. 60)37 C.F.R. § 1.152. 影は、色のコントラストともに黒色を示すために使用される場合を除いて、. 59)See MPEP § 1503.01(9th ed. July 2015). 33.

(7) 34. 特集:各国におけるデザイン保護法制. 許されない。破線は視認可能な周辺部の構造を示すために使用され得るが、 しかし不透明な材質により視認可能でない隠れた面や表面部を示すためには 使用できない。同一視点で実線および破線により記載された意匠の構成部分 の可動位置の記載は、意匠図面においては許容されない。写真およびインク で作成された図面は一つの出願において正式な図面として組み合わせられる ことは許容されない。インクで作成された図面の代わりに意匠特許出願にお いて提出される写真は周辺部の構造を開示してはならないが、物品に対して 特許請求された意匠に限定されていなければならない」とする。 実体審査を経て成立した意匠特許の存続期間は、付与日から15年間とされ ている(特許法173条61))。. 2.3. 侵害判断基準と救済. 侵害判断基準を示した最高裁判決は、Gorham 事件連邦最高裁判決62)であ. る。すなわち、同判決において「購買者が通常与える程度の注意を向ける通 常の観察者の目で、2つの意匠が実質的に同一である場合、そして、その類 似が、一方の物を他方の物であると考えるように当該観察者をしむけ、当該 観察者を欺罔するようなものである場合、特許が付与されている意匠は、他 方の意匠により侵害されていると、我々は判示する63)」とされた。この判断 基準は「通常の観察者」テストといわれる。 「通常の観察者」テストをさらに分析すると、少なくとも4つの判断基準や 要件が導かれる64)。すなわち、第一に類似性は、あたかも通常の観察者が初 めて特許意匠を見るかのように判断されるべきであること(the first observation. 、第二に類似性は必ずしも対比観察により判断されるべきであるとは限ら test). ないこと、第三に類似性は原告の具体的な実施品に対してではなくクレームに 記載された意匠の要素に対して判断されなければならないこと、第四に類似性. は特許意匠の非機能的要素に由来するものでなければならないこと、である65)。 かつては、これらに加えて、類似性は特許意匠の新規性の認められる要素に由 来するものでなければならないとの要件( “point of novelty” )が存在していた。 “point of novelty”テストは、Gorham 最高裁判決に示された通常の観察者. テストとは別個独立に、連邦巡回区控訴裁判所により課せられてきた要件で あり66)、Litton Systems 事件判決67) において同裁判所は「意匠特許が侵害さ. れたとするには、2つの物品がいかに類似していようとも『問題となる物品 が、先行意匠からそれを区別するような特許意匠における新規性を冒用して いなければならない。』……すなわち、たとえ裁判所が通常の観察者の目を 通じて2つの物品を比較したとしても、それにかかわらず、侵害を認定する ためには、それらの類似性が、先行意匠から特許された物品を区別する新 規性に由来していなければならない68)」と述べた。しかし、この“point of. 61)35 U.S.C. 173. 62)Gorham Co. v. White, 14 Wall. 511, 81 U.S. 511(1871). 63)81 U.S. 511, 528. 64)See 1-23 Chisum on Patents § 23.05[3] (2017). 65)See 1-23 Chisum on Patents § 23.05[3][a],[b],[d], [e] (2017). 66)See 1-23 Chisum on Patents § 23.05[3][c] (2017). 67)Litton Systems, Inc. v. Whirlpool Corp., 728 F. 2d 1423 (Fed. Cir. 1984). novelty”テストは Egyptian Goddess 事件大合議(en banc)判決により排除さ. れ、Gorham 最高裁判決の「通常の観察者」テストが唯一の侵害判断基準で. あると判示された69)。ただし、Egyptian Goddess 事件判決は、侵害判断にお. ける先行意匠の考慮につき、「point of novelty テストの排除は、当然のことな がら、特許請求された意匠と先行意匠との相違が重要でないということを意 味するものではない。反対に、特許請求された意匠の新規性のある特徴点を 検討することは、被疑侵害意匠および先行意匠に対する、特許請求された. 68)728 F. 2d 1423, 1444. 意匠との比較において重要な構成要素である70)」とし、「特許請求された意. 70)Id.. 匠と被疑侵害意匠が明らかに非類似とはいえない場合、通常の観察者であれ. 69)Egyptian Goddess, Inc. v. Swisa, Inc., 543 F. 3d 665, 678.

(8) デザイン学研究特集号  Vol.25-2 No.98. ば2つの意匠を実質的に同一であると考えるであろうか否かとの問題の解決 は、先行意匠に対する特許請求された意匠および被疑侵害意匠との比較から 恩恵が受けられよう……。類似の先行意匠の例が多く存在する場合……、特 許請求された意匠と被疑侵害意匠との相違が抽象的には顕著なものではない であろうとしても、先行意匠に精通している仮定の通常の観察者に対しては 重要なものとなりうる71)」と述べていることから、先行意匠との関係は「通 常の観察者」テストの中で考慮されることとなろう。 一定の物品に対する意匠が特許の対象となるところ、異なる物品に対する 同一の意匠によって特許が侵害されるか否かについては72)、長く論争が続い ており、判例は意匠特許が直接競合する製品に厳密に限定されるわけではな いことを述べてきているものの73)、事実上すべての判例集登載の事件におい て、被疑侵害物品は特許にかかる物品と同一の性質を有しているとされる74)。 意匠特許侵害における救済は、実用特許の場合と同様であり、差止(特許 法283条75))や損害賠償(284条76))等が存在する。他方で、実用特許とは異 なり、特許法289条77)は意匠特許につき、損害賠償の手段として侵害者利益 を回収することができるとの特別の規定を設けている78)。同条は、「意匠特 許の存続期間中に、特許権者の許諾を得ないで、(1)販売のためのいかなる 製造物品につき特許意匠又はその紛らわしい模倣を利用した者、又は(2) 当該意匠若しくは紛らわしい模倣が利用されている製造物品を販売した、若 しくは販売のために展示した者は、その者の全利益を限度として特許権者 71)Id.. 72)日本の意匠法においては、「意匠権者は、業として登 録意匠及びこれに類似する意匠の実施をする権利を専 有する」(23条)とされ、ここにいう「類似」概念は、 公知あるいは刊行物記載等の意匠と類似する意匠を新 規性がなく登録できないとしている意匠法3条1項3 号にいう「類似」概念と共通するとされている(寒 河江孝允ほか編著『意匠法コンメンタール』(レクシ スネクシス・ジャパン、第2版、2012年)〔峯唯夫〕 127-128頁)。そして、最判昭和49年3月19日民集28巻 2号308頁〈可撓性伸縮ホース〉は、3条1項の「類. 似」であるとするには「まずその意匠にかかる物品が 同一又は類似であることを必要と〔する〕」としてい ることから、侵害判断の場面においても物品が同一ま たは類似であることが要求される。こうした日本法に おける意匠の類否判断と物品の類似との関係につき、 米国法との比較も行いつつ、批判的に論じた近時の論 考として、青木大也「意匠の類似と物品の類似 ─ 知 的財産権の範囲と物品等の意義 ─ 」日本工業所有権 法学会年報40号(2017年)19頁以下がある。 73) See Goodyear Tire & Rubber Co. v. Hercules Tire &. Rubber Co., 162 F.3d 1113, 1116(Fed. Cir. 1998). 74)See 1-23 Chisum on Patents § 23.05[2] (2017) 75)35 U.S.C. 283. に責任を負う……79)」と規定する。寄与率算定(寄与分の考慮)が侵害者利 益のどれほどの割合が意匠に、あるいは物品自体に起因するものであるかの 立証が求められるものであるところ、1887年法が寄与率算定を排斥し、こ の1887年法の規定を法典化したものが特許法289条である80)。289条における 「製造物品」の解釈につき、多数の構成部品からなるスマートフォンの意匠 特許が問題となった Samsung Elecs. Co. v. Apple Inc. 事件において、連邦巡回. 区控訴裁判所はスマートフォンの内部機器は外枠と独立して別個の製造物品 として販売されていないことから、「製造物品」は最終製品であるとの判断 を示していた81)。しかし、同事件で、連邦最高裁は、多数の構成部品からな. る製品の場合に289条にいう「製造物品」が消費者に販売される最終製品で なければならないか、あるいは当該製品の構成部品をも含みうるかについて 判断し、「製造物品」には消費者に販売される最終製品のみならず、当該製 品も含みうる旨を判示し82)、連邦控訴裁判決を破棄し、事件を差戻した。 289条の侵害者利益の回収は、現在の規定文言には故意の要件がないこと から、侵害が故意でなされたか否かにかかわらず可能であるとされている83)。 また、故意の要否に関連して、284条では、損害賠償額を裁判所の裁量によ. 76)35 U.S.C. 284. り3倍まで増額することができる旨が規定されているものの(いわゆる三倍. 78)See 1-23 Chisum on Patents § 23.05[1] (2017). 賠償規定) 、増額の基準は法定されていないという状況の下、歴史的に、事. 77)35 U.S.C. 289 79)前掲注(7)。. 80)See Nike, Inc. v. Wal-Mart Stores, Inc., 138 F. 3d 1437, 1441-1442(Fed. Cir. 1998). 実審裁判所の裁量にゆだねられ、かつその裁量は通常、故意侵害の場合に行 使されるべきものとされている84)。289条のもとで回収されるべき侵害者利益. 81)Apple Inc. v. Samsung Elecs. Co., 786 F. 3d 983, 1002(Fed.. は、284条の3倍まで増額可能な「損害賠償」にはあたらない85)。その理由. 82)See Samsung Elecs. Co. v. Apple Inc., 137 S. Ct. 429, 434-435. として、Braun Inc. v. Dynamics Corp. of America 事件判決において、連邦巡回. Cir. 2015). (2016). 83)See Catalina Lighting, Inc. v. Lamps Plus, Inc., 295 F. 3d 1277, 1290(Fed. Cir. 2002). 区控訴裁判所は「侵害に対する填補賠償(compensatory damages)の回収は. コモンロー裁判所において展開し、増額が可能であるが、しかし侵害者利益. 84)See 7-20 Chisum on Patents § 20.03[4][b] (2017). の回収は衡平法裁判所に置いて展開し、増額は不可能である86)」としており、. 86)975 F. 2d 815, 824(Fed. Cir. 1992). コモンロー上の救済と衡平法上の救済の区別を根拠にしているようである。. 85)See 1-23 Chisum on Patents § 23.05[1] [d] [ⅳ] (2017). 35.

(9) 36. 特集:各国におけるデザイン保護法制. 3.著作権による保護87) 連邦著作権法による保護につき、著作権法102条88)(a)に従い、著作権の. 保護要件は、創作性(originality)と、固定(fixation)である89)。. そして、102条には「絵画、図形および彫刻の著作物」が保護される著作. 物の一類型として示されており、101条において「平面的および立体的な純 粋美術、グラフィック・アート、応用美術、写真、版画、美術複製、地図、 地球儀、海図、図表、模型および技術図面(建築計画図を含む)を含む。絵 画、図形および彫刻の著作物は、構造的または実用的側面ではなく、形状に 関する限り、美術工芸の著作物を含む。本条に定義する実用品のデザインは、 当該物品の実用面と別個に識別することができ、かつ、独立して存在しうる 絵画、図形または彫刻の特徴を有する場合にのみ、その限度において絵画、 図形または彫刻の著作物として扱われる90)」と定義されている。また、101条 における実用品の定義として、 「 『実用品』とは、単に物品の外観を表しまた は情報を伝えること以外に、本来的に実用的機能を有する物品をいう。通常 実用品の一部分である物品は、 『実用品』とみなす91)」とされている。 101条にいう「当該物品の実用面と別個に識別することができ、かつ、独 立して存在しうる絵画、図形または彫刻の特徴を有する場合」の判断、いわ ゆる分離可能性の判断基準について、多くの価値ある意匠は機能的要素と非 機能的要素を分離不能な形で含んでいる一方で、この要件は、機能的特徴か ら分離不能な非機能的特徴から保護を奪うおそれがあることから、裁判所は 判断基準として物理的分離可能性テストと概念上分離可能性テストの2つを 発展させてきた92)。物理的分離可能性については「表現上の要素が物品全体 から独立しており、かつ、その分離が物品の有用性を害することがない場 合」に認められることから、比較的適用が容易とされるが、他方で概念上分 87)米国著作権法によるデザイン保護に関する近時の邦 語での先行研究として、奥邨弘司「米国における応用 美術の著作権保護」渋谷達紀ほか編『知財年報2009』 (商事法務、2009年)241頁以下、関真也「米国知的財 産法によるファッション・デザイン保護の現状と課 題(1)」AIPPI 62巻1号(2017年)6頁以下、奥邨弘. 司「アメリカ法 ─ 著作権法による応用美術の保護と 限界 ─ 」著作権研究43号(2017年)66頁以下など。 88)17 U.S.C. 102. 89)See Merges, supra note 3, at 434. 90)訳は公益社団法人著作権情報センターHP「外国著作. 権法 アメリカ編(山本隆司訳) 」(2010. 3)による. (http://www.cric.or.jp/db/world/america.html  最 終 確 認 2017年7月31日)。. 離可能性についてはその適用の困難さが指摘され、概念上分離可能性の基準 の定立及び適用に関して論争が続いているとされていた93)。 ところが、こうした状況に変化がみられる。2017年3月に、チアリーディ ングユニフォーム等の表面部にあらわれた平面的デザインについて著作権登 録を有している原告が、著作権侵害に基づき、チアリーディングユニフォー ムを製造販売する被告を相手取り出訴した事案である Star Athletica, L.L.C. v.. Varsity Brands, Inc. 事件判決94)で、連邦最高裁は分離可能性テストに関する 判断を示した。実用品の表面部に付された平面の美的特徴は本来的に分離可. 能である旨の原告による主張につき、法廷意見95)は101条で分離可能性が要. 91)前掲注(90)。. 求される「実用品のデザイン」の意義の解釈を通じて、「著作権法は『実用. 92)See Afori, O., The Role of the Non-Functionality Requirement. 品のデザイン』が平面的な『絵画』及び『図形』の特徴を含みうることを規. in Design Law, 20 Fordham Intell. Prop. Media & Ent. L.J.. 847, 851(2010). 定しており、分離可能性の検討は立体的な『彫刻』の特徴に対するのと同様. 93)See Merges et al., supra note 3, at 490. に、そうした〔平面的な〕特徴に適用される96)」とした。次いで、分離可能. 95)Ginsburg 裁判官は、原告のチアリーディングユニフォー. 性テストの検討に移り、従来、学説や下級審で受け入れられてきた物理的分. 94)137 S. Ct. 1002(2017). ム等のデザインが最初に紙のスケッチで作成されたこと から、ユニフォーム等のデザインは、実用品「の(of) 」. デザインではなく、実用品に複製された(reproduced. 離可能性と観念上分離可能性の区分につき、「分離可能性判断の焦点は、取 り出された特徴にあてられるのであって、観念の上での取り出し作業ののち. on)絵画、図形または彫刻の著作物であるにすぎず、. に残される実用品の何らかの特徴点にあてられるのではない。……著作権法. はないとの同意意見を述べている(See 137 S. Ct. 1002,. が要求するのは、分離された特徴が、それ自体において非実用的な絵画、図. 分離可能性テストの適否を本件で検討するのは適当で. 1018-1019) (なお、同意意見となっているのは、著作物. 形または彫刻の著作物としての性質を有することである。……美的特徴が観. じであることから) 。また、Breyer 裁判官による反対意. 念上物品から分離された後も実用品が残っていなければならないとの見解を. 性を認めた原審を維持するという法廷意見の結論と同. 見もある(Kennedy 裁判官もこの反対意見に同調) 。. 96)137 S. Ct. 1002, 1009. 97)137 S. Ct. 1002, 1013–14. 我々は拒絶するがゆえに、必然的に『物理的』分離可能性と『観念上』分離 可能性の間の区分を放棄することとなる97)」とし、実用品のデザインが著作.

(10) デザイン学研究特集号  Vol.25-2 No.98. 権保護の対象となるのは、「当該特徴が(1)実用品から、平面的または立体 的な美術作品として認識され得るものであって、かつ(2)実用品から分離 して観念したときに、それ自体あるいはその他の一定の媒体のいずれかにお いて、保護可能な絵画、図形または彫刻の著作物としての性質を有するであ ろう場合98)」という基準を示した。 侵害立証のためには、原告は、「有効な著作権の権利者であること」およ び「創作性のある著作物の構成要素のコピーを行っていること(copying)」 を立証しなければならない99)。有効な著作権の権利者であることにおいて は、著作者の創作性(著作者が独立して創作しており、かつ作品が創作性を 有していること)、作品の著作物性などが問題となる100)。なお、著作権局へ の著作権登録があれば、これら著作者の創作性や作品の著作物性の存在の一 応の証拠(prima facie evidence)となる101)。コピーを行ったかどうかの立証. は、証人を見つけることはまれであるため通常は直接証拠によることは不可 能であることから、「アクセスがあったこと」と「実質的類似性があること」 98)137 S. Ct. 1002, 1016. 99)See Feist Publications, Inc. v. Rural Tel. Serv. Co., 499 U.S. 340, 361(1991). 100)See 4 Nimmer on Copyright § 13.01. 101)Id. 102)Id.. 103)後述のトレードドレスとして保護され得る対象の多 くは、日本においては商標法では立体商標として保 護されうると考えられ(産業構造審議会知的財産分 科会報告書「新しいタイプの商標の保護等のための 商標制度の在り方について」(平成25年9月)2頁 注1参照)、また不正競争防止法2条1項1号のも と商品等表示にあたるとして差止、損害賠償請求等 が可能と考えられる。ただし、建築物の内外装につ いては、立体商標の登録例は存在するものの文字商 標と一体となっており、内外装自体の識別力によっ て登録されているのかは疑わしく、不正競争防止法 2条1項1号に基づく裁判例がみられる。(末宗達 行「The scope of protection on interiors or exteriors of. shops as indicators of the source of origin ─ Comparing. の原告による間接的な立証により認定される102)。. 4.トレードドレスとしての保護 米 国 に お い て は、 デ ザ イ ン は ト レ ー ド ド レ ス(trade dress)103) と し て. Lanham 法(商標・不正競争法)のもと保護され得る。トレードドレスは、. 伝統的には、製品を包装する際に使用されるラベル、包装及び商品の包装に. 使用される容器(containers)の外観のみから成り立っていたようであるが、 今日では、製品及びその包装の全体の外観を含み、かつ、製品自体の意匠及 び形状をも含むとされる104)。Trade Dress に該当すると判示された例の中に. は、本のカバー105)、軍隊の訓練から着想を得た「ブートキャンプ」フィッ トネス設備の意匠106)、ワインの小売店におけるワインボトルの展示方法107)、. APPLE の iPhone の意匠108)、といったものがある109)。. 商標とトレードドレスの関係について、古くは商標法と不正競争法との違. いからそれぞれの用語が派生したが、現在では区別はほとんど消滅し、トレー. the legal framework in Japan with that of the U.S. ─」若. ドドレスとして保護され得る標識の多くは、商標登録可能となっている110)。. 書(2015年度)(近刊予定)参照). さらに、非登録のトレードドレスについても、登録商標におけるのと同一の. 手研究者養成プロジェクト海外ワークショップ報告 104)1 McCarthy on Trademarks and Unfair Competition § 8: 4(4th ed.). 105) For example, Harlequin Enterprises, Ltd. v. Gulf &. 準則のもと、Lanham 法43条(a)により保護されることとなっている111)。. トレードドレス侵害訴訟において、原告が主張立証すべき3つの要件があ. Western Corp., 644 F. 2d 946, 210 U.S.P.Q. 1(2d Cir.. り、第一に識別力要件、第二に混同のおそれ要件、第三に非機能性要件であ. 106) Pure Power Boot Camp, Inc. v. Warrior Fitness Boot. る。識別力要件とは、 「原告は明確に表された意匠又は要素の組み合わせにお. 1981). Camp, LLC, 813 F. Supp. 2d 489, 80 Fed. R. Serv. 3d. いて保護されうるトレードドレスを所有しており、それが本来的に識別力を有. 107)Best Cellars, Inc. v. Wine Made Simple, Inc., 320 F. Supp.. している、又は二次的意味を通じて識別力を獲得していること」 、混同のおそ. 1025(S.D.N.Y. 2011). 2d 60(S.D.N.Y. 2003). れ要件とは「被告側の商標またはトレードドレスが、出所につき、又は支援、. 2d 1079, 2013 WL 412861(N.D. Cal. 2013). 承認若しくは関連があることにつき、混同のおそれを生じさせること」 、非機. 108)Apple, Inc. v. Samsung Electronics Co., Ltd., 920 F. Supp. 109)1 McCarthy on Trademarks and Unfair Competition §. 8: 4. 50(4th ed.)   (本文で述べた以外にもの多くの事. 例の紹介がなされている。). 能性要件とは「当該トレードドレスが登録されていない場合、原告はそのト レードドレスに機能性があるのではないと立証しなければならない。当該ト. 110)1 McCarthy on Trademarks and Unfair Competition §. レードドレスが登録されている場合、登録は非機能性の法律上の推定の証拠. 111)Id.. であり、機能性の立証責任は被告側にある」との諸要件である112)113)。なお、. 8: 1(4th ed.). 112)Id.. 前述の通り、トレードドレスは連邦法上の商標登録要件を充足すれば商標と. 114)1 McCarthy on Trademarks and Unfair Competition §. して登録され得るが 114)、混同のおそれが登録商標の侵害判断基準である115)。. 113)詳細については、拙稿・前掲注(4)206-208頁参照。 8: 7(4th ed.). 115)4 McCarthy on Trademarks and Unfair Competition § 23: 1(4th ed.). トレードドレス保護は、特許法や著作権法とは異なり、発明や創作に対す る対価として存在しているのではなく、トレードドレスが出所として原告を. 37.

(11) 38. 特集:各国におけるデザイン保護法制. 識別していることを立証できる限りにおいてのみ保護が与えられ得る116)こ とに注意が必要である。. 5.むすびにかえて 本稿では意匠特許を中心に、著作権によるデザイン保護、トレードドレス としての保護の制度の概要について紹介した。日本の意匠法と比較するなら ば、同じくパテントアプローチを採用しているものの、意匠特許に独自の要 件や救済の特別規定が設けられてはいるが、実用特許に関する制度を大きく 適用している点に特徴がみられる。また、著作権法による実用品に対する保 護や、Lanham 法(商標・不正競争法)のもとトレードドレスとしての保護. も存在しているが、これらはいずれも登録を経ずとも保護がなされ得る点 で、意匠特許との違いが存在している。. 近時、意匠特許のあり方をめぐり学界で議論が活発化しており117)、意匠 特許制度の制度枠組みそのものに対する批判も見られる118)。加えて、その 議論の中でよく論じられる著作権法による保護については、前述の通り、実 用品への保護に関し Varsity Brands 連邦最高裁判決が出され、今後この判決 を契機としてますます議論が展開されるものと思われる。同じくパテントア プローチを採用している日本においても、意匠法の解釈・あり方をめぐる議 論において、米国意匠特許制度の現状、そしてそれをめぐる議論は参考とな るものと思われる。 [附記] 本稿は、平成29年度科学研究費補助金(特別研究員奨励費:課題番号 15J04884)による研究成果の一部である。. 116)1 McCarthy on Trademarks and Unfair Competition § 8: 1(4th ed.). 117)拙稿・前掲注(4)212-215頁参照。. 118)本誌掲載のサラ・バーンスタイン(訳:木村剛大) 「米国の意匠特許制度への標準的批判」も参照。.

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