C A N C E R 11 (2002), p. 3 - 6
ズワイガニの奇形
2 例
本 尾
ズ ワ イ ガ ニ は , 朝 鮮 半 島 東 沖 , オホ ー ツク海, ベーリング海∼アラスカ半島,チュコト海,ボー フォ ート 海さらには, 北 西 太 平 洋 に 広 く 分 布 し て い る 水 産 上 の 重 要 種 で あ る (Jadamec et al.,1999).
本 種 は わ が 国 で は 日 本 海 , 太 平 洋 東 北 沖 及び道東オホーツク海に生息し , とりわけ西部日 本海での漁獲量が多く,年間3,300トンにも達する 底 引き網漁業の最重要種となっている(全国底曳 網漁業連合会, 2000). 今回 ,ズワイガニの奇形2個体を入手したので その概要を報告する .材料と方法
平成13
年3
月19
日,金沢市内の近江 町市場で営 業している高 川物産の渡辺鉄男氏から奇形ズワイ ガニ2
匹の提供を受けた.いずれも茄でガニに加 工の後,店頭に並べている際に見つかったもので ある .測 定 に は0 . 1 m m まで 読 み 取 れ る ノ ギ ス を 使用し,それらの測定部位を図1に示した .洋
観察結果と考察 2匹は北海道か ら冷凍で送られてきたとの こと で,‘‘北海道産”と 言 うこと以外,明確な漁獲場所 ・ 年月日や漁法などは分かっていない .サイズおよ び第2
腹肢の形状から,共に成体雄であることは 明らかである.それぞれの茄でた状態での測定値 を表lに示した . 奇 形I :
鉗脚異常 (図2 ) 左 鉗脚の不動指を欠く 異 常 で ある . 図2
では, 正常な右鉗脚はすでに取れていて写真には写って いないが元々入手時には存在していた .それらを 比較すると,左可動指の長さは71.4 m mで,正常 表1 奇形ズワイガニ雄の測定結果 (茄でた個体,単位m m) 甲長(額棘含む) 甲長(額棘除く) 甲幅 奇形I 141.4 135.8 147.1 奇形II 112.9 108.4 113.7 図1 ズワイガニの測定部位Hiroshi M O T O H : Abnormalities found in the s n o w
4 ズワイガニの奇形2例
図2 奇形の雄ズワイガ ニI. A : 背面 (右鉗脚は脱落 )' B :鉗脚の内側 (上 正 常 . 下 奇形).
,j., 尾 ・"下
'
( -3
A
6
ズワイガニの奇形2 例 な右鉗脚の75.8 m m に比べてやや短くかつ,カー プが先端部で幾分急で鈎状を呈していた.掌部の 長 さ は53.3 m m (正 常 な 右 鉗 脚 で は55.5 m m), 高 さは28.4 m m (同32.4 m m), そ し て 幅 ( 厚 み ) は 24.4 m m (同32.4 m m) であった .い ず れ も 棘 状 部 を含まない数値である . このように異常鉗脚では そのサイズが正常な右に対して10% 内外小 さかっ た. 奇 形 部 が 正 常 な も の よ り 小 さ い こ と は 伊 藤 (1960) も 同 じ ズ ワ イ ガ ニ で 指 摘 し て い る と こ ろ である . なお,異常個体の可動指は開閉が可能な 状態にあった.尤も この場合,不動指が無いこと から,本来のハサミとしての働きはなかったこと は確かである. ところで,ズワイガニ属 (Chionoecetes) の鉗脚 奇形に関して は, 著者の知る限り ,今 までに9 例 がある .即 ち , ズ ワ イ ガ ニ に お け る 伊 藤 (1960) の 右 鉗 脚 可 動 指 上 及 び 左 不 動 指 上 の 異 常 , 鈴 木 ・ 小田 原 (1971) の右側 可 動 指上に生じた異常 ,さ の 左 長 節 , 本 尾 (1971 ) の 左 不 動 指 (2 例 ),本 尾 (1972) の右脚 腕節, 三橋 (1993) の右可動指 岩佐 (1991) の右鉗脚底節に生じ 佐藤 (1965) の 場合を除いてすべて何らかの形で“過剰鉗脚"を 生じた例である . 一方今回の場合,それらとは違って ,不動指そ のものが欠損しており ,前例の無い奇形と 言 える ようである.この場合,なぜ不動指が欠損したの 佐 藤 (1965) の は 左 鉗 脚 長 節 基 部 に 棒 状 突 起 を 生 じ た 例 で , これも鉗脚を再生していない点で今回の場 合とやや類似している. 奇 形II :
歩脚異常 (図3)
左 第3
歩 脚 の 指 節 が三叉した異常である .通常 1本 で あ る 指 節 が 何 か の 理 由 で2本 過 剰 再 生 し た ものと思われる . それ以外の形態に関しては少な くとも表面上は何ら異常は認められなかった . 今 回 の よ う な 歩 脚 指 節 の 奇 形 に つ い て は 伊 藤 (1956) がズワイガニ (雌)について報告しており, それは左第2歩 脚 指 節 に 計3本の過剰指節を生じ たものである.伊藤 (1956) はこの原因について, 「何らかの原因によ って 損 衛 を 受 け , その部分に 異常再生が起こったのだろう」 と述べている . 今回の2奇形も踏まえて,今後さらに標本を得 原因などについて調べていき たいと思っている . 謝 辞 奇形カ ニを 提供していただいた渡辺鉄男氏にお 礼申 し上げます . 文 献 伊藤勝千代, 1956. ズワイガニの第 2 歩脚指節の奇形. 採集と飼育, 18(11) : 347. 伊藤勝千代, 1960. 再び山陰沖から採捕されたズワイ ガニの奇形.採集と飼育, 22(4) : 123 ・125. 伊藤勝千代, 1965. ズワイガニに見出された奇形 2 例について.日本海区水 産研究所研究報告,(14) : 91-93. 伊藤勝千代, 1967. 左側の歩 脚が三本の奇形ズワイガ ニについて.日本海区水産研究所研究報 告,(17) : 141-142. 三橋正基, 1993. ペニズワイのはさみ脚掌部の奇形, 北水試だより, (23) : 21.Jadamec, L. S., W. E. Donaldson and P. C ullenberg, 1999. Biological field techniques for Chionocetes crabs. University of Alaska Sea Grant C ollege Program, A K-SG-99-02, 80pp. 優,1965. ペニズワイガニの奇形観察. 採集と飼育, 27(9) : 340-341. 本尾 洋, 1971. ペニズワイガ ニ左鉗脚の奇形 2 例. 甲殻類の研究, (4,5) : 184-190. 本尾 洋,1972. ペ ニズワイの右鉗脚 にあらわれた 奇形について .石川県増殖試験場研究報告, (2) : 21-27. 鈴 木 博・ 小田原利光, 1971. 2 種のカニの鉗脚に あらわれた奇形について.甲殻類の研究, (4,5) : 191-195. 右側鉗脚が2 本の奇形ぺ ニズワイガニについて ,兵罪水試研報, (29) : 73-76. 全国底曳網漁業連合会, 2000. 平成11年度日本海ズワ 41pp. (京都府栽培漁業センター )