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新しい診断基準をふまえた多嚢胞性卵巣症候群の治療戦略-香川大学学術情報リポジトリ

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(1)

日本産科婦人科学会香川地方部会雑誌 vo1.10,No.1, pp.1ー 7,2008(平 20.9月) 一 総 説 一

新しい診断基準をふまえた多嚢胞性卵巣症候群の治療戦略

滋賀医科大学医学部地域医療システム学講座

高 橋 健 太 郎

はじめに

多 嚢 胞 性 卵 巣 症 候 群 (PolycysticOvary Syndrome: PCOS) の診断において,欧州ヒト生殖学会 (ESHRE) と米国生殖医学会(ASRM) との PCOSに関する合同カ ンフアレンス (2003Rotterdam Consensus Meeting) で 新しい診断基準 (ESHRE/ASRM2003) 1)が決定された。 一方,本邦においても新しい診断基準(表1) が 2007年 春に日本産科婦人科学会から統一見解として報告され た九また,Long-term hea1th risksの観点から, 2型 糖 尿病や子宮内膜癌のリスクファクターとして,治療に関し てはメトフオルミンの登場等でPCOSの診断・治療にお いて新たな局面を迎えつつある。 本 稿 に お い て はPCOSの診断と治療について最近の 知見をもとに述べる。

PCOS

の診断

1

.

本邦と欧米との診断基準の比較 PCOSは不妊外来や一般婦人科内分泌外来でよく遭 遇する疾患であるが,卵巣の多嚢胞性変化に内分泌学 的異常およびその結果としての様々な臨床症状を伴った 複雑な病態を呈する内分泌疾患であり, しかも人種的な 相違もみられるので,世界統一の診断基準の制定には 困難を要している。 PCOSはもともと, 1935年に Steinと Leventhalにより, 無月経,両側卵巣が子宮の1/2以上に腫大しており,臨 床症状として,男性型多毛,肥満,不妊を有し,模状切 除で排卵性周期を回復した症例が報告(Stein-Leventhal Syndrome) 3)さ れ て 以 来 , 多 嚢 胞 卵 巣 と 高LH血症, 高 ア ン ド ロ ゲ ン 血 症 (PolycysticOvarian Disease PCOD) とその包括範囲が広くなり,近年ではさらに, インスリン抵抗性も含んだ広い概念でPCOSが考えられ ている。 表1 多嚢胞性卵巣症候群の新診断基準 以下の 1~3 の全てを満たす場合を多嚢胞性卵巣症候群とする 1. 月経異常 2. 多嚢胞性卵巣 3. 血中男性ホノレモン高値 または LH基礎値高値かっ FSH基礎値正常 注1)月経異常は,無月経,希発月経,無排卵周期症のいずれかとする。 注 2) 多嚢胞卵巣は,超音波断層検査で両側卵巣に多数の小嚢胞がみられ,少なくとも一方の卵巣で 2~9mmの 小嚢胞が10個以上存在するものとする。 注3) 内分泌検査は,排卵誘発薬や女性ホルモン薬を投与していない時期に, 1 cm以上の卵胞が存在しないことを 確認のうえで行う。また,月経または消退出血から10日までの時期は高 LHの検出率が低いことに留意する。 注4)男性ホルモン高値は,テストステロン,遊離テストステロンまたはアンドロステンジオンのいずれかを用い, 各測定系の正常範囲上限を超えるものとする。 注5) L円高値の判定は,スパック -Sによる測定の場合は LH孟7mIU/ml (正常女性の平均値+lX標準偏差)かっ LH ;;;; FSH とし,肥満例 (BMI丞25) では LH~三 FSH のみでも可とする。 その他の測定系による場合は,スパック-Sとの相関を考慮して判定する。 注 6)クッシング症候群,副腎酵素具常,体重減少性無月経の回復期など,本症候群と類似の病態を示すものを除外する。

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(2)

2 新しい診断基準をふまえた多嚢胞性卵巣症候群の治療戦略 産婦香川会誌10巻l号 表 2 PCOSの多毛と肥満の日本と欧米の比較 症状 欧米 日本 Balen et al.(1995) 日産婦生殖内分泌 日 =1741 委員会報告(2007) n

=

1028 多毛 66.2% 10.5% 肥満 38

.

4

%

14.3% 男化徴候 34.7% 2.5% 1990年に米国 NationalInstitute of Child Health and Human Delelopment (NIH/NICHD)のカンファレンスで 定められた診断基準 (NIH1990)1)は月経異常と高ア ンドロゲン血症を来すものが PCOSであるとしたが,そ の後,欧州ヒト生嫡学会 (ESHRE) と米国生殖医学会 (ASRM)との PCOSに関する合同カンファレンス (2003 Rotterdam Consensus Meeting)で決定された診断基準 (ESHRE/ASRM 2003)1)は月経異常と高アンドログン血 症と超音波断層法による卵巣の多嚢胞性変化の 3つのう ちいずれか2つが認められるものである。 本邦における PCOSの診断基準は1993年の日産婦報 告5)では,月経異常と卵巣の超音波断層検査での卵胞 の嚢胞状変化および高 LH血症を要素としていた。これ は, LHの高値を示す症例の割合が81.3%と高率であっ たので,必須項目として取り扱われたためで、ある。一方, 2007年の改訂2)では実際の診療現場の混乱を避けるた めに今までの日産婦 1993の診断基準の骨子を踏襲する 形で,かっ欧米の診断基準と互換'性があり,国際的にも 評価されうる形で,症状,卵巣形態,内分泌的な裏付け の 3要素を必須項目として作成された。旧診断基準との 相違は①診断基準の要素を簡潔に 3項目のみ記し,注 記を付した点,②男性ホルモン高値を診断基準に反映さ せた点と,③超音波断層法による卵巣の多嚢胞所見の 判定基準を明確にした点である。 これらの,診断基準で、忘れてはならない注意点がいく つかある。一つは,米国では未だアンドロゲンの過剰を 診断基準から除くことには抵抗があり, 2007UpToDateo ) の中にも記されているように, NIH criteriaが未だに根強 く容認されている。二つ目は,本邦における PCOS患 者

ι

欧米の PCOS患者の症状の出現頻度とはかなり 異なり,肥満(14.3%)と高アンドログン血症に伴う多 毛(10.5%)や男化徴候(2.5%)は欧米と比較して有 意に低率で、あり(表2)2),本邦における PCOSは欧米で の議論の基である, I高アンドロゲン血症」が異常に少 ない特徴がある。三つ目に本邦の新しい診断基準に欧 米の診断基準に含まれていない高 LH血症を何故あくま 図1PCOSの経腫超音波卵巣画像 でも踏襲するのかとしづ疑問点である。この理由は本邦 の PCOS症例で、男性ホノレモンが高値を示す伊jはあまり多 くなく,高アンドログン血症のみを必須とすると数多くの PCOSが診断されなくなる。また, PCOS疑い症例で LH 値が正常なもののうち, 40.6%はテストステロンまたはア ンドロステンジオンが高値であったこと, LHまたは遊離 テストステロンのいずれかが高値を示すものを PCOSと すると PCOS疑いの76.1%が PCOSと診断可能であるこ とから,男性ホルモン測定と LH測定を補完的に用いる ことによりさらに正確に PCOSと診断できることが考えら れ る え し か し , 高 LHの再現性は68.2%と悪い事2) 肥満例では LH値が低い症例がある事,各種測定系に おける LH高値の判定基準が明確でない事,変異 LHの 症例が本邦婦人の約10%に存在し,スパック

S

LH試 薬を用い測定した場合 LHは低値を示す事7)などがあり, 新しい診断基準では月経または消退出血から10日まで の時期は高 LHの検出率が低いことに留意するように, また, LH高値の判定は,スパック Sによる測定の場合 は LH詮 7 mIU/ml (正常女性の平均値十 1X標準偏 差)かつ LH ;;;; FSHと し 肥 満 例 (BMIミ 25)では LH 詮 FSHのみでも可とし,その他の測定系による場 合は,スパック Sとの相闘を考慮して判定するように注 記を付・しである。 2.卵巣形態の診断基準(図 1) 経睦超音波断層法による卵巣形態を考える上で,卵巣 の超音波像が本当に卵巣組織を反映しているのかという ことが重要であり, これが大前提となって経腔超音波像、 が診断基準の要素として用いられることとなる。著者ら は以前の研究で経睦超音波断層法による小嚢胞は組織 学的に卵巣の小嚢胞および閉鎖卵胞と有意な正の相関 関係があり(図2)8,1 しかも経睦超音波断層法による小

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(3)

3 高橋 2008年9月

/

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20 N = 64, P < 0.001 10 E 古 田 昌 ω 唱 ω担 d w 刷 。 . 。

z

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30 y~ “1.7460 + 1.0273x R^2 ~ 0.790 N= 64

Pく0.001 20 10 旬 。 -s a a E E 恒 三

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30 10 20 No. of small cysts onTVS

30 10 20 No・ofsmall c)'st onTVS 正常卵巣組織内(n=20):numerous primordial fo11ic1e, immature and/or mature fol1ic1es (0-4) degenerating atretic fol1ic1es (0-5)

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6

PCO:

2

TVSにおける小嚢胞数と組織像との相関 (Takahashi et a,l19948 )より、一部改変) GCP PCP 15 24 16 40 Histopathological GCP PCP 24 1 25 15 O Ultrasonographic 小嚢胞の TVSと病理組織像との関係 (Takahashi et aし1994')より、一部改変) 図3 人の PCOSにおける小嚢胞のサイズの検討で、も, Jonard らωの報告と同様に,卵巣全体に 2一11mmの小嚢胞が 分布しており,小嚢胞の数は 3-21個の分布で 10-15個 のものが最も多く,平均 10.6個で、あった。このデータか ら見ても,本邦婦人の PCOSの小嚢胞の大きさおよび数 は欧米婦人とほぼ同様であることがわかる。本邦におけ る新しい診断基準は巳SHRE/ASRM 2003の診断基準と の整合性を考慮して, Jonardら川の報告を基に,基準 値を決めたのであるが,その違いは小嚢胞の数にあるG ESHRE/ ASRM 2003は 12個以上であるが,本邦での採 用は 10個以上である。 12個以上を基準とする場合,感 度は 75%で特異度は 99%となるが, 10個以上を基準値 とする場合,感度は 86%で特異度は 90%となる。本邦 の基準は臨床症状,内分泌値,卵巣形態の 3項目を全 て必須左しているので,広く PCOSを診断するためには, 嚢胞の卵巣内配列は組織学的な卵巣内の小嚢胞の配列 と極めて一致することを見出した(図3)九このことは卵 巣の経睦超音波像は組織像を忠実に反映しており,卵 巣の組織形態像は経睦超音波断層画像で容易に代用で きることを言正明した。 日産婦 1993年の診断基準5)では, I超音波断層検 査で多数の卵胞の嚢胞状変化がみどめられるj と卵巣 の超音波所見に基準設定が無く漠然としたものであった が,新しい診断基準では小卵胞のカウントノレールを明確 (多嚢胞卵巣は,超音波断層検査で両側卵巣に多数の 小卵胞がみられ,少なくとも一方の卵巣で 2-9mmの小 卵胞が 10個以上存在するもの)にした。 ESHRE/ASRM 2003の卵巣所見の診断基準は Jonard ら10)の報告を採 用し, I少なくともひとつの卵巣全体で 2-9mmの卵胞が 12個以上存在するもの」としている。著者ら川の本邦婦

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(4)

4 新しい診断基準をふまえた多嚢胞性卵巣症候群の治療戦略 産婦香川会誌10巻I号 特異度よりもむしろ感度を上げるほうがよく, しかも 10 個とし、う数は実際の臨床の場においてもキリの良い,覚 えやすい数である。 3.インスリン抵抗性 インスリン抵抗性とは血中にインスリンがあるにもかか わらず,それに対応したインスリン作用が得られない病 態をいい, PCOSとこのインスリン抵抗性や糖代謝異常 との関連性が近年クローズ、アップ。されてきた。 PCOS患 者では糖尿病の頻度が有意に高く,非肥満の PCOSに おいても高率にインスリン抵抗性が認められ, 2型糖尿 病のリスクが 3-7倍高く,無月経,肥満,家族歴が加 わるとさらにリスクが高くなると報告されており山 ESHRE/ASRM 20031)でで、もインスリン抵抗性は PCOS 婦人の生殖機能異常と関連性があり, PCOS婦人の Metabolic Syndromeのスクリーニングを勧告している。 著者らも 75 g OGTTで低血糖発作を来した非肥満の PCOS婦人を経験している17)

PCOS

の治療

PCOSの治療法はその患者の希望する目的,つまり① 多毛の治療,②肥満の治療,③子宮内膜癌の予防,④ 不妊症および排卵障害の治療に大別されるが,妊娠の 必要がない PCOS婦人には一般的に経口避妊薬の投与 がよし、。

l

多毛の治療 多毛は本邦ではあまり多くは無いが,美容上や思春期 の女性でこれを悩んで、受診する患者が少なくはない。こ れらの患者には効果の発現は緩やかであるが,副腎ある いは卵巣由来のアンドロゲ、ンを低下させ,肝臓で SHBG 産生を充進させることによる,遊離テストステロンの減少 の目的で経口避妊薬 (EP合剤:プラノパール骨 1錠/日 21日間投与,思春期の場合はマーベロン骨を同様に投与) を投与する。 3~6 か月して効果が認められない場合は antiandrogenとしての spironolactone 100-200 mg/日(ア ルダクトン A骨 1-2錠, 2回/日)を EP合剤に追加し て処方する。 2.子宮内膜癌の予防 6ヶ月以上無月経が持続する場合, unopposed巴stro -genによる子宮内膜増殖症からの子宮内膜癌の発症を予 防する必要がある。そのために, MPA(ヒスロン岳) 10 mg/日を 10日間投与し,消退出血後は低用量ピル(マー ベロン骨 1錠/日, 21 日間投与)を繰り返し行う。 4~ 6か月して患者が満足しない場合は,多毛の治療と同様 にアルダクトンA@を追加投与する。また,ピノレの服用が 不可能な場合はヒスロン骨 10 mg/日の 10日間投与を 1 ~2 か月毎に繰り返し,消退出血を起こすユ しかし, こ の方法はにきび,多毛には全く効果が無いことを患者に 告げておくことが重要である。 3.漢方薬治療 漢方的な考え方によると,生体を維持する3要素であ る気・血・水の体内バランスが壊れることにより,病気 が発生すると考えられている。 PCOSの排卵障害も当然, 気・血・水の乱れから生ずる病態ととらえても間違いは ない。 PCOSの治療薬としての漢方処方の EBMは著者 が調べた限りで3つ報告されている。一つは著者らの報 告18)で PCOSを疹血と気虚の病態から巧薬甘草湯を投 与する治療法である。巧薬甘草湯 (T]-68 7.5 g/day) を投与すると4週間後に血中テストステロンは有意に減少 し (34症例の内, 30症例 91%に testosteroneの低下が 認められた),排卵障害を改善させる。その薬理作用は 下垂体のドパミン受容体に作用し, LH/FSHの低下をも たらす二また,卵巣に直接作用を及ぼし aromatase活性 を上昇させ testosteroneから estradiol(巳2)の転換を促 進するとともに,肝臓における SHBG産生を促進させ, 結果的に E2/testosterone比の上昇と testosterone活性 の低下をもたらすと推察される。 2つ目は PCOSを気滞, 気欝と水滞の病態から柴苓湯を投与する治療法である。 柴苓湯は気滞,気欝の方剤である小柴胡湯(抗炎症剤, 抗ストレス剤,体質改善剤である)と水滞の方剤である 五苓散(利水剤である)の合剤である。柴苓湯投与に より LHの分泌抑制をもたらし, 21症例中 12例 (57%) において排卵したと報告19)されている。 3つ目は PCOS を血虚と疹血の病態から性ホルモン分泌異常や下肢の 血流不全によく使用される温経湯を投与する治療法であ る。温経湯投与により LHの分泌抑制をもたらし 60% が排卵したと報告20)されている。 4.不妊疲および排卵障害の治療 PCOSの 85症例において,まずクロミッド骨 50~ 150 mg/日の 5日間投与を行い, 32症例に排卵が認めら れたが, 53症例は排卵が認められなかったo 排卵が認 められたもののうち 13症例が妊娠した。クロミッド骨無 効 53症例の内, 3症例はその後,治療を断念し, 7症 例は腹腔鏡下卵巣電気焼灼術を行った。残りの 43症 例に PureFSH投与 (75~ 225単位)が行われ, 39症 例に排卵が認められたが, 4症例は排卵が認められな かった。排卵が認められたものの内, 9症例が妊娠し た。妊娠の認められなかった 30症例の内 25症例には OHSSが起こったo 30症例の内 23症例に腹腔鏡下卵巣

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(5)

2008年9月 高橋

PCOS 8

5症例

C¥omiph開e投与 排卵(ー) 排卵(+) Clomiphene無効 53症例 32症例 / ¥ 妊娠(ー) 妊娠(+) 3症例 7症例 43症例 ¥9症 伊 !13症例 Dropout F町eFSH投与 排卵H 排卵(+) 4症例 39症例 1症例 3症例 妊

J

(

ー) ¥ Drop out 妊娠(+) 30定例

宅百

4定例 19症例 腹腔鏡下手術 妊娠(+) 図

4

85症例のPCOSに対する治療成績 表3 PCOSに対する治療法別効果の比較 治療法 排卵率 CL 37.6% (32/85) Gn 90.7% (39/43)" LOEC 100% (33/33)a CL: Clomiphene療法 Gn: Pure FSH療法 妊娠率 15.3% (13/85)b 20.9% (9/43)b 66.7% (22/33) LOEC: Laparoscopic ovarian electrocaut巴ry 電気焼灼術が行われた(図4)。これら,クロミッド療法 (CL) , ゴナドトロピン療法(Gn),腹腔鏡下卵巣電気焼 灼術(LOEC)の治療効果を比較すると(表 3) 排卵率 はLOEC(100%) とGn(90.7%)がCL(37.6%)と比 較して有意に高率で、あった。妊娠率はLOECが66.7% でGn(20.9%), CL (15.3%)よりも有意に高率で、あっ た。しかし,流産率には有意な差は認められなかったo 多胎率は有意差はないもののGnで11.1%と多い傾向に あった。OHSS発症率はGn(79.1%)としOEC(57.1%) で有意差は認められなかったが,OHSSのgradeはGn が95.3%の中等度OHSSの発症が認められたがLOEC ではすべて軽度のOHSSで、あった。これらの結果から 積極的な腹腔鏡下卵巣電気焼灼術が望まれる。 しかし,最近は保存的にメトフオノレミン療法等を考慮 した治療法が欧米では主流をなして来つつある。これら の点を考慮して,図5に不妊症および排卵障害の最新の 流産率 OHSS発症率 多胎率 15.4% (1/13) 0% (0/85) 0% (0/13) 11.1% (1/9) 79.1% (34/43)C 11.1% (1/9) 軽症 4.7% 中等症 95.3% 13.6% (3/22) 57.1 % (8/14)' 0% (0/22) 軽症 100% 中等症 0% a, c: Pく0.0001vs Clomiphene療法 b:Pく0.0001vs Laparoscopic ovarian巴l巴ctrocaut巴ry 治療戦略を考案した21) まず,月経周期5日目あるいは消退出血5日目よりクロ ミッド骨 50mg/日の5日間投与を行う。排卵が起きない 場合には順次200mg/日まで増量する。しかし,医療 保険は100mg/日まで、しか認められていないので注意を

要七

PCOSの卵巣形態とクロミッド骨の反応性は小嚢 胞数が多い場合は効果が期待できないので22) 最初か らクロミッド⑮の投与量を多くするか,あるいは次の治療 法からスタートするほうが治療期間の短縮につながる。 排卵効果が無い場合や排卵はするがタイミング法や人 工授精を6か月間行っても妊娠しない場合はメトフオノレミ ン療法を行う。メトブオノレミンはインスリン抵抗性改善薬 でインスリン作用を強め,血清インスリン濃度を減少させ る。また,卵巣のアンドロゲン産生を減少させ,遊離テ ストステロンを低下させることにより排卵をもたらすとされ ており,非肥満PCOS婦人で排卵率63%,妊娠率15% 5

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6 新しし、診断基準をふまえた多嚢胞性卵巣症候群の治療戦略 産婦香川会誌10巻I号 クロミフェン療法 ; 排卵効果がない場合 排卵はするがうZイミング法や人工授精を6カ月間行っても妊娠しない場合 メトフォルミンン療法 B日 12週間 例 ム 咽 鮪 国 務 Q O J り σ 。 し H な O し の 娠 上 妊 以 閉 症 ? 去 月 等 読 む ゐ 中 、 F 自 { 、 L シ 色 合 h A ン 場 場 臥 ミ λ レ 日 ル 創 出 唱 軌 オ が 去 方 新 フ 深 約 附 M M 卜 M M f ' E 6 州 航 ン 汁 山 間 ピ 詩 露 出 μ 口 療 、 H t d v ナ富島 フ 符 録 、 ゴ 之 、 ロ ク費思議露関設予

妊娠

腹腔鏡下両側卵巣電気焼灼術、レーザー蒸数術6カ 月 間 妊 娠 山 場 合 IVF-ET 図5 不妊症婦人に対する治療戦略 (高橋健太郎, 2008刊より) と報告されている叱具体的にはグリコラン錠骨 500 mg/日から開始し,効果が無ければ 2,000 mg/日まで増 量する。しかし,重篤な副作用のひとつである乳酸ケト アシドーシスに注意し,医療保険適用外であるので,十 分なインフオ)ムドコンセントの下で慎重な投与が望ま れる。 2~3 か月投与しても効果が無い場合は,クロミフェ ンと併用して使用する。本邦におけるこの併用療法の効 果は排卵率 80%,妊娠率 40%,多胎率 O%,OHSS発 症率 0%と報告されているて この併用療法においても排卵が認められない場合や6 か月経つでも妊娠しない場合にはゴナドトロビン療法を 行う。一般的には治療周期の月経開始 3日目から pure FSH製剤を連日 75 IU投与 (2週間投与し,発育卵胞 が認められない場合は, ここで一旦中止し,消退出血を 起こし,消退出血 3日目から 150 !uを同様に投与する。 無効時は同様な方法で 225IUまで増量する)し,主席 卵胞の最大径が 18 mmに達した時点で hCG 5,000 IU に切り替える。中等度以上の OHSSが生じた場合には FSH漸減投与法 (OHSSを発症した投与量から開始しs 主席卵胞径が10mmに達してから半量に変更し卵胞 径が 14mmから1/4量で,卵胞径が 18mm以上を確認し て hCG投与に切り替える。ゴナドトロピン療法は多胎お よび OHSSの発症に留意しなければならず,それを回避 する目的で,血中 FSH濃度の推移と発育卵胞数の関係 から FSH-GnRH律動的皮下投与法が優れているが,高 価な器具および投与法の煩雑さから,思ったほど、普及し ていないのが現状である。 ゴナドトロピン療法にて排卵が認められない場合,中 等症以上の OHSS発症例や 6周期ゴナドトロヒ。ン療法を 行っても妊娠が認められない場合は外科的処置を行うの がよく,腹腔鏡下卵巣電気焼灼術あるいは腹腔鏡下レー ザー蒸散術を行う。 手術療法をおこなって, 6か月経ち妊娠が成立しない 場合には積極的に IVF-ETを行う。

おわりに

日本産科婦人科学会から 2007年の春に報告された PCOSの新しい診断基準の解釈と最新の PCOSの治療 方法について述べた。

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