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ハとガの試論(1) : 総記と中立叙述

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(1)

A Hypothesis about Wa and Ga(1)

Exhaustive Listing alld Ncutral Desc

ption

谷 守 正 寛 *

TANIMORI,Masahiro

キー ワー ド :ハ

,ガ ,総

,中

立叙述

Key Words:Wa,Ca,Exhaustivc listing,Neutral dcscription,

1

は じめに ハ とガに関する論考 は数多い。稿者は

,ハ

とガについての論考 をすすめる うえで

,試

論 として提 出 してい くもくろみであるが

,ま

,本

稿 は

,ハ

とガに関する久野(1973)の論考 に遡 つて

,特

に焦 点 を絞 り

,吟

味 。検討 を加 え

,ハ

とガの枠組み について再考 を少 しく試みる ものである。 久野(1973)によれば

,ハ

には

,主

題 を表わす「ハ」 と対照 を表 わす「ハ

Jの

2つ

,ガ

には

,総

記 を表 わす「ガ」 と中立叙述 を表 わす 「ガ

Jと

目的格 を表わす「 ガ」 の

3つ

の異 なった用法がある とされる。 これ らは

,現

在で もなお

,一

定の認知 を得 た用法 として説明 されるが, この ような分類 では

,ハ

とガの違い を探 ることはむずか しい。本稿では

,こ

の用法の分類 について吟味 し

,ハ

とガ をめ ぐる新 しいパ ラダイムの編成 ,構築の可能性 を模索する。 このことによつて

,ハ

とガの性質 を 説明す るよ り普遍的なルールを探求す る きっかけ としたい。

2

ハ とガの用法 (久野(1973)) 久野(1973)では

,ハ

とガの用法が次の ように分 け られている。

(1)a主

題 を表 わす「ハJ: 太郎ハ学生デス。

b対

照 を表 わす「ハ」: 雨全 降 ッテイマスガ

,雪

全 降 ッテイマセ ン。

(2)a総

記 を表わす「ガ」: 太郎 ガ学生デス。 (「(今話題 になっている人物 の中では

)太

郎 だけが学生です」の意味) b。 中立叙述 を表わす 「ガJ: 雨 ガ降 ッテイマス。

*人

間文 化 課 程 国際言 語文 化講座

(2)

c目

的格 を表わす「 ガJ: 僕ハ花子 ガ好 キダ。 久野(1973)によれば

,中

立叙述のガは

,述

部が動作 を表すか

,存

在 を表すか

,一

時的な状態 を表 すかの場合 に限 られ

,述

部が恒常的状態

,習

慣的動作 を表す場合 には

,ガ

は総記 の解釈 しか受 け得 ない と

,次

の ような例 をあげて説明 している。

(3)a.太

2見

舞イニ来テクレタ。

b.手

紙ガ来夕。

c.雨 ガ降 ッテイル。 d.机 ノ上二本 ガアル。 c,オヤ

,ア

ソコニ太郎 ガイル。

(4)a.空

ガ青 イネ。 b,大 変 ダ

,太

郎 ガ病気 ダ。

(5)a太

郎 ガ学生デス。

b猿

二 人間ノ先祖 デス。 c.太 郎二 日本語 ヲ知 ッテイル。 d`太 郎二 日本語 ガデキル。 c,僕 ガオスシガ食ベ タイ。 説明では

,(3)は

動作

,存

在 を表す場合で

,(4)は

一時的な状態 を表す場合であ り

,極

めて 自然 な座 りの良い

,特

殊 な文脈 を必要 としない文 とある。(5)1ま極 めて座 りが悪 く,「今問題 に している事物 の中で学生 なのは

,太

郎 です」 あるいは,「今問題 に している事物 の中で太郎 だけが学生です

J等

々の意味であ り,「太郎 だけが」 の解釈 を自然 にす るような文脈が必要である。 最近 において も

,例

えば

,庵

・他(2001)では

,久

野(1973)に 倣 って

,ガ

の用法 として中立叙述 と 総記の二つの用法 をあげている。次がその例の一部である。

(6)見

て。窓から富士山盃見えるよ。

(7)(登

山で山頂に着いたとき

)あ

,空

気どうまい。

(8)(交

呑で巡査に

)道

にこんなもの変落ちていました。

(9)A:誰

が この コ ップを割 ったんです か。

BI田

中さんど割ったんです。

(10)こ

ち らば 田中さんです。 (6)‐(8)は中立叙述,(9)と (10)は総記の用法である。さらに

,ガ

が中立叙述 になる文 を現象文 とし, 主語 も述部 も新情報の場合である と指摘 している。総記は

,述

部が旧情報 の場合である点で異 なる と説明 している。この ように分け られることは

,ガ

の用法 として三分 される「 中立叙述」と「総記J を認知す る考 え方が

,ガ

をめ ぐる考 えの一部か もしれない として も

,少

な くとも今 なお継承 されて いることを意味するだろう。なお

,目

的格 を表す ガについてはここでは扱 わない。 例 えば

,大

野(1978)も

,文

は二つの要素の組合せ によって成 り立 ち

,そ

の うち

,現

象文の タイプ については

,未

知 (扱い

)と

未知 (扱い

)の

型 として

,文

全体が一瞬に して認識 された ものだ

,と

している。ただ し

,こ

れについての検討 は別の機会 に譲 りたい。 さらに

,久

野(1973)に よれば

,次

の例 をもとに

,述

部が動作・存在 ,一 時的状態 を表す場合

,ガ

は総記 と中立叙述の二義 をと り得 ることを示 している。

(H)a.太

郎ど死ンダ。

[中

立叙述

]

(3)

b.誰ガ死 ンダカ。太郎二死 ンダ。[総記]

(12)a.空

2青

イ。[中立叙述]

b何

ガ青イカ。空二青イ。[総記]

(13)a*猿

二人間ノ先祖デス。[中立叙述]

b何

ガ人間ノ先祖デスカ。猿ガ人間ノ先祖デス。[総記]

(14)a.*東

京二大キイ。[中立叙述] b。

世界デ ドノ都市ガー番大キイか。東京ど一番大キイ。

[総

] (13a)(14a)で

,述

部が恒常的状態を表すために

,「

猿ガ」

,「

東京ガ」は中立叙述の解釈を受け得

ない としている。 ガの用法 をまとめると

,[表

1]のようになる。 [表1] 述部の表す意味 ガの意味 動 作 中立 叙 述 附合 言己 存 在 一 時 的状 態 恒常 的状 態 総 言己 習慣 的動作 以上の ような

,ガ

の枠組み を中心 に

,ハ

とも関連づ けなが ら

,あ

えて

,当

初持 ち出 された この考 え方 に焦点 を置いて

,考

察 したい。

3

考察

3.1

総記について まず本稿で問題 とするのは

,総

記 をめ ぐってである。

(15)太

2学

生 デス。

(=(5a))

久野(1973)では,(15)について,「今問題 に している事物 の中で学生 なのは

,太

郎です」あるいは, 「今問題 に している事物の中で太郎だけが学生です」 の意味であ り

,こ

の ような「太郎 だけが」の 解釈 を自然 にす るような文脈が必要である, とした。その場合の文脈 の例が次 の文である。

(16)誰

ガ学生デスカ。 す なわち

,(16)の

質問 に対 して

,聞

き手は

,自

分の知 る限 り

,該

当者 ・該当物 を全て列挙 しなけれ ばならないのであ り

,太

,花

,二

,三

郎が話題 の中心で

,そ

の うち太郎 と花子が学生 だ とし た場合

,(16)に

対 して聞 き手が(15)で答 えた とすれば

,嘘

をついたことにな り,「太郎 卜花子 ガ学 生デス」 と答 えなければな らない

,と

している。 さてここで

,話

し手が嘘 をついたことになるのか どうか

,と

い う基本的な前提 について考 える。 このことを吟味す るために

,英

語 を例 にとって検討す る。次例 を見 られたい。 (17)A:whO is a stlldent?

(4)

B :TarO is a stlldcnt and Hanako is a stlldcnt,too 話題 となって い る人物達 の 中で

,誰

が学生 か を問 うてい るが

,英

語 で は

,不

特 定 の学生

,つ

ま り, 「学生

Jと

い う身分 を持 つ不 定 の人物 と して尋 ね る こ とが で き

,言

語形 式 上 もそれがくa studcnt>と な って表 れ る。 日本 語 で は冠詞 が ないため にそ う した弁 別 が で きず

,次

の意味 に とられやす い。 (18)A:WhO is thc stlldent/鉗 c thc stlldcnts?(誰 ど(その)学 生 です か。) B:TarO is thtt studCnt。 (太郎盃(その)学生です。) (18)においては

,学

生 は話題 になっている特定の タイプの学生 をさし

,そ

の学生が太郎であると指 定 している。つ ま り

,(18)の

日本語文は

,次

の文 とほぼ同 じ意味 を表す。

(19)A:(そ

の)学生 は誰ですか。

BI(そ

の)学生 は太郎 です。

Bの

言 う文 は

,三

上(1953)の提案 した「指定文

Jで

あ り

,学

生 を太郎 だ と指定 している。 したが っ て

,太

郎以外の人物 は学生でない ことを示唆す る (それで も実際は

,太

郎以外の者 も学生である可 能性 は残 ってよい と思われるが)。 (17)の “Taro is a studcnt"(太 郎が学生です

)と ,(18)の

「太郎 が学生です

Jお

よび(19)の「学生 は太郎です」には

,そ

れぞれ

,以

下の ような違いが認め られ よう。 太 郎

=

学 生 該当す る主語が ガによって強調 されることによって

,太

郎以外の者 は学生ではない と解釈 されや すいのであって

,ガ

の素性の中に

,ガ

で表示 される主語以外 は述部の表す内容 に該当 しない とい う 排他的な意味 まで も含み持 っているとは考 えがたい。 む しろ

,発

話の状況 ・文脈 などか ら特定の学 生 なのか

,不

定の学生 なのかが決 まると考 える。問題 は

,は

た して(17)の話者

Bは

,第

一文 を発 し た時点で

,嘘

をついているのか

,話

者は自分の知 る限 り

,該

当者 を全 て列挙 した うえでなければ答 えてはいけないのか どうかである。次 は(17)の 日本語訳 である。

(20)A:誰

が学生ですか。

BI太

郎企 学生です。それか ら花子 も学生です。 (20)で

,話

Bが

「太郎が学生です

Jと

表現 した時点 において

,ガ

で主語 をマークしたに もかかわ らず

,話

Bは

嘘 をついたことにはなるまい。 なぜ な らば

,花

子 も学生だ と次 に述べ ているか らで ある。話者は誰が学生か を聞かれて

,ま

ず思いついた人物「太郎

Jを

ガ格で表示 し

,そ

の瞬間に嘘 をつ く意図はない。 ガ格主語以外の人物が学生ではない とい う排他的示唆 を含 むとは決めつけがた ヤヽ。

(21) A:Is hcre anyonc coming to dinncr?

B :Ycs,thcrets Ha∬ y and thcrcis also h/1rs」 oncs

(QUIRK and GREENBAUM(1973))

(21)について

,英

語では存在する特定の主語であ って も

,列

挙す る場合 にはThcrc bc¨が使 われる とい う説明があるが

,こ

れを日本語 に訳す と次の ようになる。

(22)A:デ

ィナーに来る人がい ますか?

B:は

,ハ

リーがいます

,そ

れからジョンズ婦人がいます。

これは

(17)に

類似 した質問と応答である。次のように書き換えてもよい。

(23)A:誰

が デ イナー に来 ます か? 回 韓 り

(5)

BIは

,ハ

リーど 来 ます

,そ

れ か らジ ョンズ婦 人が来 ます。 実 は

,こ

の場 合 は

,述

語 が存 在

(=(22))あ

るい は動作

(=(23))を

表 す の で

,久

野 (1973)に 従 え ば

,中

立 叙述 の解釈 が可能で あ り

,第

一 文 を述べ た時点 で総記 の意味 には な らな くともよい。 その 場合 は

,ハ

リー以外 の者 は来 ない とい う意味 には な らない。 しか し

,こ

こで

,デ

ィナー に来 る客 を 「常連」 と書 き換 えてみ よう。

(24)A:誰

が デ イナ ーの常連 です か?

BIは

,ハ

リービ常連です

,そ

れからジョンズ婦人が常連です。 つまり,「常連」は「学生

Jに

似て

,恒

常的状態 を表 し

,従

って

,久

野(1973)に従えば

,こ

のガは 総記の意味にならなければならないことになる。これを(15)と (16)の対応関係に準 じて考えれば, 聞き手

Bは

, 自分の知る限 り

,該

当者 を全て列挙 しなければならず

,ガ

は総記 を表 さなければなら ない。 第一文 で

,デ

イナーの常連 はハ リーだけだ とい うこ とになれば

,そ

の時点 で

Bは

嘘 をつ い て い る こ とになる。 なぜ な らば ジ ョンズ婦 人 も常連 だか らであ る。 「総記」に当たる「排他」(三上 (1963))と いう語 を使って

,野

田(1996)では,「強い排他 を表す ガ」 と「弱い排他を表すガ」 というものに分けて説明 している。「弱ヤリ,他」 を設定 し

,(24)の

ガ は

,ハ

リー以外にも常連である者がいることを必ず しも排他 しないという捉 え方 をしてもよい。 し か し

,野

田(1996)のいう「弱い排他を表すガ

Jと

されるものは

,(24)の Bに

ついて言えば

,依

然, 「ハ リーだけが常連だ

Jと

いうことを暗示するという解釈であつた。その点で

,本

稿の考えとは依 然異なる部分がある。また

,野

田(1996)では

,周

辺的なものとして,「排他 を表す ともいえないが, 単に主格 を表す ともいえないような「が

Jが

使われている文」 を挙げているが

,こ

こで扱 う文 とは タイプが異なるため

,こ

こでは特にふれないこととする。 このように吟味 してみて分かることは

,述

語が恒常的状態を表す場合の主語マーカーであるガが 総記を表すかどうかは

,ガ

自体に備わる性質ではな く

,外

部的な要因や発話の状況などにより決定 される可能性がある, ということである。次例 を見 られたい。

(25)A:誰

が社長ですか?

BIは

,太

郎が社長です。

(26)A:誰

が主役ですか?

BIは

,太

郎企主役です。 この場合

,通

,社

長や主役 は一人である とい う常識 (外部的要因

)が

働 き

,他

の者ではな く太郎 だけが社長あるいは主役であるとい う意味 になる。つ ま り

,そ

うした文脈

,条

,環

境 な どによつ て

,総

記の意味が生 じたのであ り

,ガ

の性質だけによつて生 じた と決めつけることはむずか しい と 考 える。

3,2

中立叙述 について 久野(1973)によれば

,主

語 をガでマーク した文の述語が

,動

,存

在 を表す場合

,お

よび一時的 な状態 を表す場合

,極

めて自然 な座 りの良い

,特

殊 な文脈 を必要 としない文 となる。 これが「 中立 叙述

Jで

ある。[表2]において,(3)(4)の ガをハ に書 き換 えた文 と比較 されたい。 本稿 で主張 したい ことは

,[表

2]の

主語 をガでマー ク した左欄の文 は,「特殊 な文脈 を必要 と し ない」 とい うことはない

,と

い うことである。言語形式 として表れる文脈 はた しかに見あた らない が

,中

立叙述文 は

,必

,あ

る文脈 に似 た流れ を伴 う。それは

,述

べ る内容 に含 まれる指示対象あ るいは聞 き手が参加する「発話の場」である。 この「発話の場」 は

,文

脈 と同 じく

,文

を述べ るた めの経過 ・経緯 を

,発

話する舞台 として提供 している

,

と考 える。

(6)

庵 ・他(2001)では

,ガ

が中立叙述 になる文 は

,現

象文

,あ

るいは出来事 を報告す る文 (報道文 な ど

)で

ある とした。例 えば

,[表 2]の

「太郎 ガ見舞 イニ来テクレタ」 とい う文 な らば

,太

郎が見舞 いに来たの をその まま述べ た現象文であるか

,あ

るいは

,太

郎が見舞いに来た ことを報告す る報告 文である。前者の場合 は

,太

郎が見舞 に来 た ところを目撃 しているとい う一種の「文脈」が必須 で ある。後者の場合は

,報

告す るとい うのは

,報

告 を発話するに至 る状況が

,必

ず存在 しなければな らない。そ う した状況 (一種 の文脈

)が

存在せず に

,報

告するとい うことは考 え られない。例 えば, 病人が

,太

郎 を知る人物 を聞 き手 とし

,場

合 によっては

,太

郎が見舞いに来 た兆候が 目の前 に存在 し

,そ

れを きっかけ として述べ てい る といった流 れである。 これに対 して,「太郎ハ見舞 イニ来 テ クレタ」 にはそれは必要ない。ただ

,太

郎 について説明 しているだけであ り

,特

殊 な文脈 を必要 と しない。 [表2] 中 立 叙 述 の 文 主 題 の 文 太郎二 見舞 イニ来テクレタ。 手紙 ガ来 夕。 雨 ガ降 ッテイル。 机 ノ上二本 ガアル。 オヤ

,ア

ソコニ太郎 ガイル。 空 ガ青 イネ。 大変 ダ

,太

郎 ガ病気 ダ。 太郎全見舞 イニ来テクレタ。 手紙ハ来 夕。 昨 日カラノ雨ハマ ダ降 ッテイル。 本全机 ノ上ニアル。 太郎ハアソコニイル。 空ハ青 イ。 太郎ハ病気 ダ。 「机ノ上二本ェ アル」は

,本

の存在 を目撃 しているという発話に至る文旅 ・経緯が必要である。 「本全机ノ上ニアル

Jは

そうではな く,「中立的な」説明であ りうる。 「空ど青イネ」は

,話

者 (と聞き手

)は

空 を見ているか

,見

られる状況にあることが必須である。 そのことが発話 を促す文脈 として機能 している。一方,「空全青イ

Jは

,た

,空

とい うものにつ いて説明を加えているにすぎず

,何

の特殊な文脈 (状況

)も

な しに述べ られる文である。 「大変ダ

,太

=病

気 ダ」 は

,大

変であるということが窺われる状況が必須である。おそ らく話 者が大変だと慌てている状況が

,こ

の文 を発話する文脈 として機能する。一方,「 *大変 ダ

,太

郎ハ 病気 ダ」は非文 となる。「太郎全病気 ダ」は特殊な文脈を要せずに述べることがで きる。 大野(1978)では,「花が咲いている」とは

,現

実に花を発見 して

,あ

るいは驚 き

,あ

るいは喜び, それを目前の事実として描写 したものである

,と

説明 している。 しか し

,こ

の文の話者には

,発

話 以前に,「現実 に花 を発見 して

,あ

るいは驚 き

,あ

るいは喜ぶ」 という経緯 (非言語的文脈

)が

必 要なのであった。この経緯が

,実

は言語化 されるものではないために

,文

脈 を必要 としない

,と

思 われがちなのであろう。「現実に花を発見」するという非言語的だが一種の文脈があるからこそ, 「花が咲いている」 と述べることがで きるのである。何の前提 (文脈

)も

な しに

,つ

まり

,中

立的 にこの文 を述べることは

,実

,あ

り得ない。 このようなことから考えると

,ハ

による主題の文 こそが

,特

殊な文脈 を必要 としない中立的な文 であ り

,主

語 をガでマークした「中立叙述文」 とされたものが

,実

,言

語形式上ではな くとも, 特殊な文脈 (発話の場

,発

話に至る経緯)を

,先

行する文脈のごとく

,前

提 として必要 としている。

(7)

こうした点から

,本

稿では

,ガ

が主語 をマークする文は

,何

ら特殊な文脈 を伴わずに,「極めて 自然な座 りの良い」文 を成立 させるとは考えない。従来の分け方では

,ハ

が「主題 を表す」 という ことと,ガが中立叙述を表す ということとの違いを,同 じ次元で比較する方法がなかったのである。 なぜならば

,ガ

はそ もそ も

,主

題 を表 さないからである。

4

まとめ 本稿では

,久

野(1973)の説明する「中立叙述」 と「総記

Jに

ついて

,少

しく吟味 し

,再

検討 を加 えた。ガの用法 としての「中立叙述」は

,実

は,「特殊な文脈 を必要 としない」 ということはない ということを提案 した。そ もそも

,ハ

が主題 を表す としなが らも

,中

立的な叙述ではない という説 明があったわけではない。そこで

,む

しろ

,主

題 を表すハが主語をマークする文が中立的な叙述で あると主張 した。 また,「総記」のガについては

,総

記の意味 を伴 うのが

,ガ

の性質だけによつて ではな く

,先

行する外部的要因や発話の状況などにより決定 されるとした。その点で,「中立叙述」 と「総記

Jに

共通する性質が窺えることになる。従 って

,あ

えて中立叙述 と総記 とに区分すること については

,再

考の余地を残す こととしたい。両者の統一的な扱いについては

,さ

らに今後の課題 として残す。 参 考 文 献

Randolph QUIRK,Sidncy GREENBAUM.И

C//P,ッ9rdり Crα脇胞α′ιゾ どヵg′テ∫力 1973.Longman Croup Limitcd 庵 功 雄 ・高 梨 信 乃 '中西 久 美 子 ・ 山 田敏 弘(2001)『 中上 級 を教 え る 人 の た め の 日本 語 文 法 ハ ン ド ブック』スリーエーネットワーク. 大野 晋(1978)『日本語の文法 を考える』岩波書店. 久野 峰(1973)『日本文法研究』

.大

I雰館書店。 野田尚史(1996)『新 日本語文法選書 1「 は」 と「が」』.く ろしお出版. 三上 章 (1953)F現 代語法序説―シンタクスの試み―』刀江書院 (復刊 くろ しお出版

.1972)

三上 章(1963)『日本語の論理』 くろしお出版.

(8)

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