蓋然的推論 の論理展開 と推測 の構成
数学科教育教室 矢
Logical Development of Plausible Reasoning and Construction of CollieCture
Toshiaki YABE
I
は じめ に 一般 に,論
理 は思考 の形式 。法則であ り,思
考 の法則的なつなが り,あ
るい は推論 の仕方うを指す。G.Polyaは
,数
学 において論証的推論 と蓋然的推論 (発見的推論)の 2種
類が あ り,こ
の2つの推 論 は互いに衝突するもので はな く,そ
れ どころか互 いに補足 しあうものであるのと述べ る。例 えば, ある一つの立言がなされた とき,「この立言が どのようにして思いつかれたのか」は発見 についての 問いであ り,「この立言 を真 として受 け入れ る根拠 は何か」 は根拠づ けについての問いである。 前者 の問いに対 して説明 され る推論方法 は,主
として思考過程,及
び心理的働 きが関与す るもの であ り,「発見 の論理」すなわち,
とりわけ帰納的推論,類
比的推論 に関す る事柄である。 この推論 は危険で,争
う余地があ り暫定的な ものである。他方,後
者 の問いに対 して説明 され る推論方法 は, 主 として思考過程 に関与す るものであるが,感
情 。意志 といった情意面 は含 まれない形式的論理展 開であ り,「論証 の論理」すなわち,演
繹的論理 に関す る事柄である。 この推論 は厳密で,争
う余地 がな く最終的なものである。数学 とい う1つの学問が,前
述 の2つの問いにみ られ る発見 の論理 と その発見 した推測 の正 しさを疑 いのない ものにする論証 の論理 を兼ね備 えた学問であることは一般 に認 め られている ところで もある。 が しか し,前
者 の推論である発見の論理 は,蓋
然性 をもつが故 に論証 の論理で は得 られない,新
しい判断や推測 を導 くといつた極 めて生産的な面 をもつ。G.Polyaは
,数
学が論証的推論 を学ぶに 優れた機会 を提供す ることは誰で も知 っているが,同
時に蓋然的推論 を学ぶに適 した教科 は他 にな い と主張 し,「数学者 の創造的仕事 の結果 は論証的推論であ り,証
引である。しか しその証明 は,蓋
然的推論 によって,推
測 によって発見 され るのです。 もしも数学 の学習が,な
ん らか数学 の発明 を 反映す るものな らば,そ
れ は推測 に対 し,蓋
然的推論 に対 し余地 をもたねばな りません。」と主張す る3)。 そ こで本稿で は,第
一 に学習者 に新 しい推測や判断を導 く極 めて生産的な推論である帰納的推論 及び類比的推論 を取 り上 げ,そ
れ らの推論 の論理 を展開す るものである。第二 に帰納的推論及び類 比的推論 の諸手続 きを検討 し,学
習者 に何 らかの数学的法則 。規則,性
質(内容)に関す る推測 を構 昭 敏 部成す る 1つ の実験 を行 い
,こ
の事例 をもとに学習者 の推測 を構成す る過程 でみ られ る様相 を究明す るものである。そ して,第
二 にこれ らの推論 を展開す る場面 を具体的な教材 に求 め,G.Polyaの
類 比的手続 きを手がか りに展開す る とともに,数
学教育 に実践す る有効性 と問題点 を明 らか にしてい くものである。H Poり
aの
蓋 然 的 推 論 の 論 理 展 開 蓋然的推論 は物事 の観察 にはじま り,観
察 によって暗示 された1つの推測 を2, 3の
事例 につい て検定 し,そ
の推測 を指示 してい く推論である。つ まり,考
察の対象 としての事象 を観察 し1つの 推測や判断を導 く推論である。言い換 えれば,蓋
然的推論 は観察 によって暗示 されたある1つの推 測や判断を,よ
り確かな信頼性 を強 めるために展開 される思考の仕方,論
理 の展開 といえよう。,こ こで は,以下 に示す1つの古典的な推論 のパター ンである論証的推論りの否定式(mOduS t01lens)を も とに帰納的推論 と類比的推論 を展開す る。Aは
Bを
含蓄するBは
偽である ←「故 に」 を表 わすAは
偽 で あ る 【論証的推論の古典的パターン (否定式)】1.帰
納的推論 上述の論証的推論のパターンにおける前提Bが
,
もし真であるならば,Aの
結果であるBの
確証 は推測Aを
証明しない。 しか し,こ
の確証 はAの
信頼性を増す。つまり,あ
る 1つ の新たな場合lBl について確証されたことによって,Aの
推測 は信頼性が増す ものとみる。Aは Bを
含畜す るBは
真であるAは
信頼 を増す 【帰納的推論の基本的パターンa】 さらに,Aの
信頼性 を一層増すのは,Aが
含蓄するBに
ついて,Bnと
は非常 に異なるBn十二におい て真であることが認められた場合である。そして,こ
のパターン(b)をPolyaは
上述の基本的なパタ ーン(a)ょ りも洗練 された推論0であると指摘する。Aは
Bn+1を含畜す る B五十二は以前確かめ られたAの
結果 の Bl,B2,・ ¨,Bnと
は非常 に異なる Bn+1は真であるAは
ずっと信頼を増す
【
帰納的推論のパターン
b】Aは
Bを
含蓄 す るBは
本来 とて もあ りそうにないBは
真で あるAは
非常に信頼が増す
【
帰納的推論のパターン
b'】鳥取大学教育学部研究報告 教育科学 第 36巻 第
2号
(1994) つ ま り,新
しい結果 の確証 は,そ
の新 しい結果(Bn+1)が前 に確かめ られた結果(Bl,B2,・・'Bn)と 異なっていればいるほど一層価値があるといえるのである。しか し,Polyaは 1つの推測が確 かめ ら れると,そ
の推測の確証 は次の場合 の確証 を得 ることについてためらう心的要因が起 こると指摘す る。 そして,新
しい結果 の確証 はその新 しい結果が以前 に確かめ られた結果 と異なることが多いか 少ないか に応 じて,そ
の推論の価値 の大小が導かれ るといい,最
も意外 な結果の確証が最 も人 を納 得 させ るものであるともい う0。Aは
Bn+1を含畜する Bn+1は 以前確かめ られたAの
結果 の Bl, B2,° ° ' Bnに)F常によ く綱沃ている Bll.lは真であるAは
Bを
含畜 す るBは
本来 まった くあ りそ うだBは
真 で あ るAは
ほんのちょっと信頼を増す
【
帰納的推論のパターンご】
Aは
ほんのちょっと信頼が増す
【
帰納的推論のパターン
C】2.類
比的推論Polyaは
ある1つの推測 を帰納的 に指示 してい く推論 を明示 した後,こ
れ らの検定(確証)は帰納 的証拠 を与 えるが,証
明 は与 えないうとい う。 しか し,帰
納的に指示 されてい くある1つの推測 は, い くつかの事例 で検定 され ることによって,そ
の推測 は結局真であるということになるだろうと期 待す るのは自然 な ことである働ともい う。そして,この ことを期待す るとき,我
々 は蓋然的推論 の1 つの重要 なパ ター ンに従 うとして,以
下のパ ター ンを示すの。Aは
Bに
類 比 で あ るBは
真 で あ るAは
信頼が増す 【類比的推論 のパター ンd】 この論理展開に用い られている前提Bは
Aと
関連 のある事柄である。そして,あ
る推測lAJがそれ と類比 な推測lBlにおいて真であることが認 め られれば,そ
の推測 は信頼性 を増す ことを意味す る。 ところが,Polyaは
類比 の ことを論 じはじめる と,その概念 はあまりしっか りしていない地盤 の上 に足 を踏 み入れることになるとし,類
比 は一種 の相似 といえばいえるだろう1のとい う。そして ,本目似 な物 は何 らかの点で互 に一致 し,も
しその一致す る面 をはっきりした概念 にまで縮約 しようと思 う な ら,そ
れ らの相似 な ものを類比であるとみな し,あ
る2つの対象がそれぞれの部分 の明 白に定義 で きる諸関係 において一致す るな らば類比である10と述べ る。この ことについて は次章で考察 す る。 類比的推論 は,前
提Aと
類比 にあるBを
考察 の対象 としなが らも,こ
のように新 たな対象 につい て推測 を展開す ることによって,新
たな類比 なBを
検定す ることによって帰納的基盤 を広 げている と考 えることがで きる。 しか し,導
かれた1つの推測 は類比 の関係 にある事柄Bの
上 に成 り立 った 結論であることか ら考 えると,類
比 に基づ く結論 はその信頼性が強 められるが,証
明 を与 えていな い ことは帰納的推論 と同 じである。 さらに,帰
納的推論のパター ンCに
対応 して,類
比的推論 も同様 にAの
結果であるBの
確証 は,その
Bの
信頼が増す ことによって,結
果 の信ntFLは 増すのである。Aは
Bに
類比 であるBは
信頼が増すAは
やや信頼が増す 類比的推論 のパ ター ンe】3.董
然的推論の信頼性 (結果の検討) 帰納的推論 にみ られ る論理展開 は,命
題Aが
ある とき,Aの
1つの結果Bを
考察 の対象 とす る。 この とき,Bは
1つの明瞭 な論理的な組 み立てであるAに
したがっていることがわかってい る場合 である。つ ま り,Aが
Bを
含蓄す るとき,Aよ
りも近づ きやすいBへ
と観察の対象 を切 り換 え検討 す る推論である。 それ は,Aを
直接証明す ることがで きず,ま
たAを
反証することに決定的な成功 が得 られない場合 だか らである。同様 に,類
比的推論 もまた,命
題Aに
対 してAよ
りも近づ きやす い,Aと
類比 な関係 にあるCを
考察の対象 として,Cが
真であるか偽であるかの検討 に切 り換 える のである。 この ような推論 の過程 によって導かれた結果 は,も
しAの
結果であるBや
Cが
偽であれ ばAも
ま た偽でなければな らない と推定で きる。 しか し,も
しBや
Cが
真であるな らば,Aは
それ以前 よ り も多 くの信頼 を受 けることがで きる。この とき,Polyaは Bや Cの
結果 に応 じてさらなる推論 のパ タ ーンが見 いだせ,論
証的推論 あるいは,蓋
然的推論 のパ ター ンに従 う1りとい う。 これ らのパ ター ンは,前
述 した論証的推論 の古典 的 (否定式)の
パター ンと 1に おいて取 り上 げ た帰納的推論 の基本的パター ンである。 逆 に,命
題Aの
真偽 を決定す るに当たって,Aが
Bに
よって含蓄 され るならば,そ
して もしBが
証明で きたな ら求めるAは ,そ
の証明の結果 にしたが う。つ まり,Bは
Aの
1つ の可能な根例 とな る。Aは
Bを
含蓄す るBは
偽であるAは
偽 で あ る【
論証的推論のパターン
a】Aは
Bに
よって含蓄 され るBは
真であるAは
真 で あ る【
論証的推論のパターン
b】Aは
Bを
含畜す るBは
真であるAは
信頼を増す
【
蓋然的推論のパターン
a'】Aは
Bに
よって含蓄 されるBは
偽であるAは
信頼が減 る【
蓋然的推論のパターン
b'】 よって,蓋
然的推論 においてAは
Bに
よって含蓄 され るとき,そ してBが
偽であることによって, その推測 の信頼性 は直 ちに否定 され るもので はな く,た
だ減少す るのみであるといえる。 さらに, 2つ
の相反す る,本目容れない推論 について も考 えられ る。 この とき, 2つ
の命題Aと
B
の一方が真 なることは必然的に他方の偽 なることを含蓄す る。 しか し, 2つ
の命題Aと
Bが
両方 と鳥取大学教育学部研究報告 教育科学 第 36巻 第
2号 (1994) 249
も真であることはあ り得 ないが,そ
れ らは両方 とも偽であることはあ り得 る。 なぜな ら,あ
る事象 に対 して相容れない2つの推測が導かれた とき,も
しBが
正 しいければ,他
方のAは
偽でなければ ならない。 しか し,
もしBが
正 し くない ことが示 されて も,他
方のAは
偽 であるか も知れないので ある。 つ まり,蓋
然的推論 においては,あ
る推測 に対す る我々の信頼 は,相
容れない推測が一方で偽で ある場合,他
方の推測 の信頼 は増 し得 るのみであつて,決
して真で あることは証明 しない とい うこ とになる。 ここまで述べて きて,無
定義 に使 っていた 町目容れない」「含畜す る」とい う用語 について定義 を してお く。野目容れない(imcOmpatible)』 とは, 2つ
の命題Aと Bに
ついて,も
し両方が同時に真で あ り得ない とき,こ
れ らの2つの命題 は互 いに相容れない と言 う。命題Aは
真 または偽であ り得 る し,Bも
真 または偽であ り得 る。つ まり,Aと
Bと を一緒 に考 えるとき,次
の4つの異 なった場合 が起 こり得 る。Aと
Bは
相容れないBは
真であるAは
偽である
【
証的推論のパターン
C】Aと
Bは
相 容 れ ないBは
偽 で あ るAは
信頼が増す
【
蓋然的推論のパターン
C'】Aは
真, Bは
偽Aは
偽っBは
偽Aは
偽, Bは
真 しか し,Aが
Bと
本目容れない というときは,こ
れ らの4つの場合 の中で,「Aは
真,Bは
真」が除 外 されることを意味す る。 そして,相
容れない とい う性質 は常 に相互的である。 「Aは
Bと
相容れない」 ⇔ 「Bは Aと
相容 れない」また,『含畜(impliCation)さ れ る』とは
,Aと
非Bとが相容れない とき,Aは
Bを
含蓄す る(あるいは
,Bは
Aに
よって含蓄 され る)と言 う。 よつて,含
蓄の概念 は次の同値(equiValent)性 によって 特徴づけられ る。「Aは
Bを
含蓄す る」⇔「Aは
非Bと相容れない」 P01yaはAが
Bを
含畜す ることを知 っていることは大切である10とい う。それ は,はじめの観察の 段階で はAも
Bも真であるか偽であるかわか らない。 しか し,後
にAが
真であることが明 らかにな れば,直
ちに非Bは
偽でなければな らないか らである。 したが ってBは
真でなければな らない。そ して,「非Bは Aと
相容れない」⇔ りFBは
非Aを
含蓄す る」を知 って,上
記 の3つの同値性 の連鎖 か ら,「Aは
Bを
含畜す る」⇔「)'Bは
非Aを
含蓄す る」が導 け,こ
の同値性 は論証的推論 の肯定式 (moduS ponens)が 得 られ るので,極
めて重要であると考 えられ る。Bは Aを
含畜するBは
真であるAは
真である
【
論証的推論のパターン
(肯定式
)】Ⅲ 蓋 然 的 推 論 に お け る推 測 の 構 成 論証的推論 の肯定式の論理展開か らは
,あ
る1つの命題 に対 してそれ を含 むよ リー般的な命題 を 設定 し,考
察 の対象 とす る とともに検定 によってはじめの命題 の真偽 を導 く。他方,帰
納的推論 は 1つの命題 に対 して,そ
れ に含 まれ るより特殊 (部分的)な
ものを考察の対象 として推測 を導 き検 定す る。 また,類
比的推論 はその命題 と類比 な関係 にある特殊 な ものを考察 しさらに検定す る。 そ して,こ
れ らの推論 はその結果 において,そ
の真 なる場合 ははじめの命題 の信頼性 は増 し,そ
の偽 なる場合 はその信頼性が減 る推論 とみることがで きる。 言い換 えれば,あ
る推測 に対 す る考察及 び検定 の対象 は,論
証的推論が「一般か ら特殊」の方向 であるのに対 して,帰
納的推論 は「特殊か ら一般」,類
比的推論 は「特殊 か ら特殊」の方向であると いえよう。しか し,Polyaが
言 うように,毒
然的推論である帰納及び類比的推論 は,その推測 の構成 過程で取 り上 げられ る考察 の対象及び検定 は,何
らかの関係 の類比への気づ き,よ
り広 い大 きな対 象へ と昇 る一般化 と,逆
によ り狭 い具体へ と降 りる特殊化がみ られ る。 ここでは,ま
ず帰納的推論及び類比的推論 の形式 (手続 き)と
特徴 を考察 し,次
に1つの実験事 例 に基づ く推測 の構成過程 を取 り上 げるものである。1.董
然的推論の形式Polyaは,帰
納 は物事 の観察 に始 まることが多い10と いい,ゴ
ール ドバ ッハの推測(4よ り大 きい 任意 の偶数 は2つの奇数 の素数の和である)を
取 り上 げ,帰
納的手続 きの典型 とみ られ る3つの段 階10があることを指摘す る。 1)ある類似性 に注 目す ること 2)一般化 の段階があること 3)それを検定す ること 1)の「ある類似性 に注 目す ること」は,与
えられたBの
内部 において部分的に類似 していること, また類比である。2)の「一般化 の段階があること」 は,一
般的な関係 としてAの
考察へ至 ること。 しか し,こ
の推測 は暫定的な もの。3)の「それ を検定す ること」 は,暫
定的な推測 をい くつかの場 合 に当てはめて確かめることである。 とりわけ,あ
る類似性 に気づ くことは,ま
た与 えられた内部 において部分的 に類似 している,本質的手がか りを発見することは非常 に困難である10ともいう。そ れ は, 1つ
の推測 を作 るための観察の仕方 は,そ
れ までの観察者 の経験や知識 に基づいて決定 され るか らであ り,例
えば数 を観察 しようと思 うな らば,数
に興味 を持 ちさらに数の ことにある程度通 じていなければな らないか らである。 この ことについて は次の項で明 らかにす る。 また,帰
納が うま くいかない場合の原因 として,1)い
くつかの事例 の間の類似性 に気づかないこ と,2)そ
の類似性 を一般化 して推測 を作 ることがで きない こと,3)さ
らにその推測 を点検 して,修
正 した り補強 した りす ることがで きない こと,は
一般 に考 えられ る事柄 である。 しか し,あ
る1つの推測 の構成 を目指す帰納的推論 は,そ
の展開 してい く中で,
とりわけ「ある 類似性 に注 目する」活動 において,有
益な副産物が得 られる10と伊藤説朗氏 はい う。 1)対象 について徹底的に理解 し,そ
のすべての意味 を了解 した こと 2)対象 についての強力 な帰納的な証拠 を集 めた ことにより,対
象への疑念 を克服 し,強
い確信 を 与 えた こと鳥取大学教育学部研究報告 教育科学 第 36巻 第
2号
(1994) 251
3)対象 と関連 のある諮概念や原理・ 定理等 を帰納 の過程で用いたことか ら,論
証 において も,そ
れ らを導入す ることについての もっ ともな基盤 を与 えた こと さらに,伊
藤氏 は「 ある類似性 に注 目す ること」 とい う活動 を分析す ると, 2つ
の要素か ら成 り 立 っていることが分か るとす旨摘 し18)その1つとして,い くつかの事例が何で もよい というものではな く,適
当に選 ばれていることが必要である。 その際 に,な
るべ く簡単な場合 を事例 として取 り上 げ ること。さらに,それ らの事例か ら一般 の場合 を想定 しやすい ものを取 り上 げることであるとい う。 他方,類
比的推論 はある1つの命題 に対 して,そ
の命題 よ りも近づ きやす く,か
つ類比 な関係 に あるものを考察 の対象 として推測 を構成 し検定 してい く推論である。言い換 えれば,あ
る事柄A'に 対 して,A'と
類比 の関係 にある事柄Aを
考察 の対象 とし,Aか
ら導かれ る性質Bと
の関係 を,A'と
B'の間に考 え
,Bと
類比的な未知 のB'を導 き出そ うとす る推論 といえよう。伊東俊太郎氏 のモデル19を借 りれば,図1のように表せ よう。カギ型矩形 によって囲 まれたA,A',
Bは
既知 の ものであ り,こ
れか ら未知 の もの B'が推論 され る。この推論 において も推測B'を作 り上 げる上で,その観察 の仕方 についてはい くつかの困難点が考 えられ る。その1つはA'と類比 な関係 にある事柄
Aの
想定 (抽出)が
で きない こと。 また,Aか
ら 導かれ るBとの関係 を,A'と B'の間に考 えられない こと。さらに,一
般的な性質 としてB'の推測 を 点検 した り修正 した りで きない ことである。 図1
類比的推論の手続 き 図2
帰納的推論の手続 き 図2は
帰納的推論 の手続 きを示 したモデルである。新 しい推測 を導 き,構
成す るといった目的に おいて一致す る両者 の推論 は,考
察の対象 としてのAの
抽 出の仕方においては異 なるものの,そ
の 手続 き的な流れで は多 くの共通点(前述 したPolyaの
1)2)3)の手続 き)を見い出す ことがで きる。つ まり,Aか
ら導かれ る性質Bと の関係 を,A'と B'の間に考 え未知のB'を導 こうとす る各段階の手続 きは一致す るのである。一方,異
なる点 はこの新 たな対象であるところのAの
抽出の仕方である。 それ は,帰納的推論がA'に含 まれ るAを
新 たな対象 とするのに対 して,類比的推論 のAは
A'と類比 の関係 にある事柄が新 たな対象 となるか らである。 この ことは,実
際的な問題 において類比的推論 を展開す る際の困難点の 1つ になると考 える。次章2.鬱)で具体例 を取 り上げて詳述するものである。 以下 の実験事例 は,帰
納的推論 における推測 の構成過程 を考察するね らいか ら, 1つ
の数学的な 課題 を作成 し,そ
の解決の実際 を解決過程 に即 して記述 した ものである。はじめの考察 の対 象A'に 含 まれ るAに
ついて は,そ
のい くつかの対象(式)が示 されているが,「ある類似性 に注 目す る」数学 的活動 は一様 でない ことがわか る。 B ︵ ︱ ︱ ← A →A'
B 4 1 1 ︶ A2.1つ
の実験事例 下記 の課題 に対 して,学
部学生及 び大学院生 (現職)を
被験者 として,課
題 の解決 に当たってい ただいた ものである。 課題 連続す る2つの奇数の積 について考 える とき,以
下 の形で表 され る続 いた2つの奇数の積 には,ど
んな数学的な性質が見 いだされ るであろうか。 1×3=3 3×
5=15 5×
7=35 7X9=63
…・中 また,この課題 に対 して次のような説明 を付 した。「一般 に,帰
納 は物事の観察 にはじまることが 多 く,ま
た推測 は観察 によって暗示 され る,
といわれ る。推測 を構成するには与 えられた課題か ら 類似性 を見い出 し,共
通 の性質 として どんな数学的な命題が作 り出せ るかである。 自らの推測 を構 成 してみたい。」と。 この説明 を入れたのは,解
決者 の思考 の流れ を,と
りわけ推測 を導 く過程 をで きるだけ詳 し く記述 して もらいたい とい う意図か らである。 さらに,被
験者 自身 に思考 の流れにつ いて段階 も明記 して もらった。 被験者a l)類似性 ア.奇数 になる イ.増加す る ウ.1を
加 える と平方数 になる 2)検討(ウについて) 他の例で成立す るか どうかを確かめる 13195+1=196=142
255+1=256=162
323+1三
324=182 3)共通 の性質 「連続す る2つの奇数 に1を加 えると偶数 の2乗
になる」 なぜな ら, nを
自然数 とす ると,連
続す る2数
の奇数 は2n-1,2n+1と
表せ る。 よって,(2n-1)(2n+1)+1=4n2_二
十1=4n2=(2n)2
4)一般的な法則 「連続す る2つの奇数の積 は,そ
の2数
の間にある偶数(2数
の平均)の
平方か ら1をひい た数である。」 被験者 b l)どんな類似性が見い出せ るか ア.かけてある2数
は共 に奇数である イ.奇数 ×奇数=奇
数 となっている ウ.かけてある2 数 を比べ ると右側 の数の方が大 きい 工。2つの数 の差 は2で
ある オ.2数
の和 は偶数であ る 2)検討 をどのように行 うか(工について) 1番目の式 は1×
3=3
2番
目の式 は3×
5=15
3番
目の式 は5×
7=35
17 19鳥取大学教育学部研究報告 教育科学 第 36巻 第
2号 (1994) 253
4番
目の式 は7×
9=63
であるか ら, n番
目の式 は2n-1,2n+1で
表す ことがで きる。 ゆえに,(2n+1)―
(2n-1)=2
よって, 2数
の差 は2で
あることがわか る。 3)共通の性質 として どんな内容がつ くりだせ るか (1・3)(3・5)(5`7)(7・ 9)(9・11)""¨
・………● 3 15 35 63 99 143 195 。・・・VVV∨ VV
28 3688888
隣 り合 う奇数 の積 を並べた数列 を考 えた とき,こ
の数列 の階差数列 はいずれ も4の倍数 に なってい る(□枠)こ とがわか る。12=3× (5-1)=3×
4 20=5X(7-3)=5×
4 28=7×
(9-5)=7×
4 この とき,被
乗数が3, 5, 7と
2ず
つ大 きくなうているので,そ
の差 は常 に8で
ある。 4)一般的法只Jと して とらえられ るもの (元の数列 の第n項
)=(元
の数列 の初項)十 (階差数列n_1項
の和) an=a二十 (b二十b2+bJ十 。・・ +bn_1) 階差数列 は初項12,公
差8の等差数列であるか ら, an=3+ln-1)[2・ 12+((n-1)-1)・ 8]/2=3+ln-1)(8+8n)/2
=3+(n-1)(4+4n)
=4n2_1
よって,n番
目の式 の積 は4n2_1で
表 す こ とがで きる。IV
実 験 事 例 の 考察 と類 推 物 の 検 討1.実
験事例の考察(1)被
験者aの
思考の流れ 被験者 は,連
続す る2つの奇数 の積 における何 らかの数学的な性質 の推測 を課題 として与 えられ た。この とき,被
験者 はア.積が奇数 になること,イ.積が増カロす ること,ウ
.積に1を力日えると平方 数になるとい う3つの類似性 に気づいている。次 に,こ
れ らの中か らウの類似性 を取 り上 げて検討 している。それ は,ウ
の類似性 は他 のア,イ
を含 む関係 にあるか らと推察 され る。つ まり,積
に1 を加 えると平方数 になるとい うことは,同
時 に積が奇数 になること,積
が順々 に増力日してい くこと を意味す るか らである。 しか し,こ
の類似性 に気づ く観察 の仕方 は,言
い換 えればどのようにして この類似性 (立言)が
思いつかれたか は不明である。 この ことについて は,本
項(3)で考察す る。 この立言に対 して,類
似 な関係 にある2,3の
場合で検討 している。具体的 には13×15,15× 17,17X19の
場合で成 り立つ ことを確かめている。 この検討 によって,先
の推測 はやや信頼 を増 し, 1
つの推測 として「連続す る2つの奇数 に 1を 加 えると偶数の2乗
になる」 を導いている。 さらに, 連続す る2数
の奇数 を2n-1,2n+1と
表す ことによってその推測 を証明す るに至 った。 この証明 によって
,表
現 された推測 を,再
びよ り的確 な表現へ と書 き改め,一
般的な性質 として導いている。 修)被
験者Bの
思考の流れ この被験者 は,ア
∼オの5つの ことを類似性 として取 り上 げている。 しか し,連
続する2つの奇 数の積 についての類似性 は,イ
の「奇数 ×奇数=奇
数」が指摘で きる。類似性 の検討 については, 工の「2つの数の差 は2で
ある」 ことを取 り上 げている。 この くいちがいは被験者 の課題把握 の不 十分 さが指摘で き,課
題意識 の問題 を含 くむ もの と考 えられ るので,こ
こで は考察 を先 に進めるこ とにす る。 「2数
の差が2で
ある」ことを証明 した後,被
験者 はさらに推測 を構成す る活動 を展開 している。 被験者 の表現 を借 りれば,共
通す る性質 としての数学的な内容 の抽 出である。再 び,課
題 に示 され た1×3=3,3× 5=15,中
中,7×9=63の
これ らの式か ら,さ らに考察 の対象 を広 げ,9×11=99,11×13=143,13× 15=195を
書 き出 して,こ
れ らの積 の差へ考察 の目を向けている。□枠 された1回日 の積 の差か ら, これ らの積 の差 は4の
倍数 になっていることを推測 している。12=3×(5-1)=3×
4,20=5X(7-3)=5×
4,28=7× (9-5)=7×
4。 さらに,こ
れ らの式化 によって この数列の階差 は 常 に8で
あることを推測す る。そして, 2数
の積 をanとす ると,an=a二 十(b二十b2+° 中 十bn l)よ り,an=4n2_1で
表す に至 った。 ●)共
通する思考の流れ 被験者a, bの
推測 を導 く共通す る思考 について,ま
ず指摘で きる第1の点 は類似性 に気づ くた めの何 らかの数 に対す るある程度 の知識が使われている点である。つ まり,被
験者aの
使われてい る知識 は平方数 の知識であ り,被
験者bは
数列 の知識である。その際,2つ
の奇数 の積である3,15, 35,63をみて,3+1=4=22,15+1=16=42,35+1=36=62,63+1=64=82と
見直す ことは,数
に 対す る相対的な見方が とりわけ生か された もの と思われ る。 また,数
列 とみて階差 を探 る数の見方 にはとりわけ数 に対 す る力H法的な見方が生かされた もの と思われ る。 指摘す る第2の点 は,観
察 に始 まる推測 の構成 はある何 らかの類似性への気づ きである。被験者 の類似性への気づ きに関 して,被
験者aは
既得 の知識であるところの平方数 との対比 によって,類
似性への気づ きが起 こった もの と考 えられ る。 また,被
験者bは
既得の知識であるところの数列 と の対比 によって,そ
の階差 におけるこの課題 の類似性(4の
倍数 になっていること,差
が常 に8で
あること)へ
の気づ きが起 こった もの と考 えられる。特 に,こ
の対比すべ きものの想定 ないしは抽 出が,あ
る1つの推測 を構成 してい く上で不可欠な ものであると思われ る。 それ は,私
達が何か を 考 えはじめる場合,ま
た何 らかの考 えが思いつ く場合,そ
れ までの経験や知識,行
動様式 といった 基盤 を土台にしているか らである。言い換 えれば,考
察 の対象 と何等かの点で類似 した対比で きる 物の想定 によって,あ
る1つの類似性への気づ きが起 こるもの と考 える。 指摘する第3の点 は,類
似性への気づ きが起 こりある1つの推測が暗示 され ると,そ
の推測 の信 頼性 をい くらかで も増すために, 2, 3の
事柄ついて検定 している点である。帰納 によって (ある いは類比 によって)打
ち立て られた1つの推測 は,蓋
然性 をもつが故 に2, 3の
事柄で検定 し,そ
の真なる信頼性 を増す努力が はか られる ということである。2.類
推物の検討 Ⅲ.1で明 らか にした蓋然的推論 の形式(手続 き),Ⅲ
.2で取 り上 げた1つの実験事例,及
び本項 の 実験事例 の考察か らある1つの類似性へ気づ くためには,考
察 の対象 と何等かの点で類比 の関係 に ある対比で きるものの想定(抽出)が必要であることが導かれた。Polyaは
,類
比 は一種 の相似であ鳥取大学教育学部研究報告 教育科学 第 36巻 第
2号
(1994) り,二
つの系 はもしそれ らがそれぞれの部分の明白に定義で きる諸関係 において一致す るな らば類 比である といい,具
体的な1つの例 として,平
面上 の三角形 と空間上 の四面体 を挙 げてい る20。 本項で は,推
論 を展開 してい く際 にある1つの類似性へ気づ くための,言
い換 えれば1つの推測 を構成 してい くときに観察者が「想定 し抽出す るもの」,あ
るいは「類比 の関係 にある対比で きる物」 として以下で は類推物(Analogue:類
似 な物)と呼び,分
数 の除法の計算方法の一般化 の過程 を取 り 上げて考察す るものである。 それ は,こ
の類推物 その ものが推測 を構成す る働 きの出発点 となると ともに,類
推物 その ものの検討が推測 を構成 してい く上で重要な要因になると考 えるか らである。 言い換 えれば,ど
のような類推物 を想定す るかによって導かれる数学的な活動及 び数学的な推測 は 異なった もの とな り,さ
らに導かれた推測 の信頼性 を増す活動の中にも新 たな類推物 の想定がみ ら れるもの と予想 されるか らである。 小学校第6学
年「分数の除法」 (1)考察の対象一般 に,数学教育で はこの学年で(a/b)■(c/d)=(a/b)× (d/c)と計算方法 を一般化するこの場合,(a/ b)■ (c/d)となる除数が分数の場合 を取 り扱 う前 に
,c/dが
整数の場合(d=1)か ら取 り上 げ られ ること が多い。そこで,本 項で も以下 の考察 を進 めてい くに当たってa/b■c(α整数)の場合か らはじめるも の とす る。また,実
際の学習で は具体的な事実問題 をもとに,除
数が整数の問題場面が提示 される。 そこで,以
下 の問題場面 を設定す る20こ とにす る。①
(a/b)■cの 考察
課題
『ある時間内
(c時間
)に植えられた苗の面積がわかつているとき
,そ
の 1時 間婆たりの面積
を求める』 仮に,3時
間で2/5haの面積 に苗を植 えることがで きるとき,その1時
間当 りの面積 を求める式 は (2/5)■3となる。児童にとって(2/5)■ 3の式か ら式変形をして商を求めることは未習であり,観
察 の対象は問題場面に依存されよう。題意 より,求
める1時
間当 りの面積 は2/5haよ り小 さくなること は推測されるが,こ
れ以上の推測 は難 しい。 そこで,上
述の問題 とある部分の関係 において一致する事柄が必要 となる。例 えば,児
童にとっ て既習の(2/5)X3の 問題場面やその際に用いた方法が考えられる。除法 と乗法 という点では数学的 な構造 は異なるものの,場
面に示されている二量やその二量の関係に対 しては数学的な関係 は保存 されているか らである。 言い換えれば,乗
法の問題では「1時
間に2/5haの苗を植 えると3時
間では何haか」という問題で あり,こ
れは上述の除法の問題 における三量,つ
まり時間 と面積が比例関係 を前提 としている点で 明確に数学的な関係 は一致 している。 この問題場面 は児童の学習の経過か らみて も想起することが 可能であると思われる。 また,そ
の ときの学習活動で用いられた解決の方法 も合わせて想起 されよ う。そして,これらの事柄の想起が必要 となる。なぜなら,本
課題 はあ くまで も(a/b)■cの
商を求め ることにあるか ら,(a/b)■cと ある部分 において明確に類似する具体的な事柄が想起 されない限 り類 比 は難 しいか らである。 ②類推物の構成 本課題の解決のために用い られる具体的な類推物 としては,面
積図(図3)が
考 えられる。(この面 積図は,児童にとって既に乗法において学習されてきている2うか らである。異なる指導が既に展開さ れいる場合は異なる類推物が想起 されることは言 うまでもない。) また,(2/5)×3三 (2X3)/5と 式化 した過程 も,本
課題の解決において有効な類推物 になると思われ る。両者(面積 図 と式化)の類推物 によって思考 は進展 し
,そ
れぞれ次のような暫定的な推測が構 成 される。 ③暫定的な推測の構成 ア.面
積図 (2/5)× 3においては2/5の図が3倍
された。他方, ことにより,2/5haの部分 を3等
分割される(図4)こ れる。 (2/5)■ 3では乗数(×3)が除数(■3)に代わつた とは児童にとって容易に暗示 されるもの と思わ (2/5)× 3 図3 イ.式
化 (2/5)× 3においては(2/5)×3=(2×
3)/5が導かれた。ここでの思者の行 き先 は(2/5)■3=(2■
3)/ 5である。しかし,2■3が割 り切れないことにより,時
に多 くの児童にとってはこの暫定的な推測 は このまま否定される。そして児童は思考錯誤に陥る。例 えば,(2/5)■ 3=2/(5■3)や,(2/5)■3=
(2X3)/5な どである。 ④ さらなる類推物 と推測の構成 ③のイにおいて暗示された推測 (分子に着目した2■3)を
,肯
定するためには新たな論理 を展開 しなければならない。つまり,(2/5)■3の事実を保存 しなが ら,暗
示された推測を推 し進めるには, その後の式に現れる分子の2■ 3を,割
り切れるものにしなければならない。そこで,被
除数の2/5に 相等な分数を捜 し出すことが考 えられる。つまり,2/5三4/10=6/15=…
・。もし,2/5の
代わ りに6/ 15を用いるならば,は
じめの推測 は分子において割 り切れ,暫
定的な推測 として指示 されよう。つ まり,2/5=(2×
3)/(5× 3)=6/15よ り,(2/5)■ 3=(6/15)■3=(6■
3)/15によって,(2/5)■
3の商 を求めることになる。 [(2/5)■3=((2×
3)/(5× 3)}■3=(6■ 3)/15=2/15]
⑤暫定的な推測の確証 2/5と相等な分数(6/15)を類推物 として構成 した推測 は,乗法において乗数を分子 にかけて成 り立 ったことから,『除法においては分子を除数で割 る』であった。本課題の結果 としての商 は得 られた が,そ
の結果 は再び図的表現によって推測の確証が得 られるものと思われる(図5及
び図6)。 図4l ha
難
難
熙
藝
一
轟
報
期 6/15ha 鳥取大学教育学部研究報告 教育科学 第 36巻 第2号
(1994) l ha鰯
鰯
2/5haⅧ
(6/15) ■3=
■
3 == 2/15 図6 ⑥一般化 による推測の検定 類比 によって構成 された上述 の推測 は暫定的な推測であ り,こ
の推測 は取 り上げられた1つの実 例 に対 してのみ真である。 したがつて,こ
の後推測 は証明 を試 みるか,あ
るい はその推測が真でな いことを示す努力 をしなければな らない。つまり,暫
定的な推測 を検定 しなければな らない。 一般 に,数
学教育 における推測 の検定 は,解
決 に用いた手続 きや考 え方の根拠 を追求 し明確 にす る一方,さ
らなる別 の例 を取 り上 げて調べ ることも多 く行われ る。 この場合,新
たな1つの場合 に ついて確かめ られるわ けであるが, 1つ
の確かめは推測 を強化 しその信頼性 を高めるとい う意味 を もつ。暫定的な推測 は,(a/b)■cにおいてa■
cが
割 り切れ るようにa/bと相等の分数 を代用 した。つ まり,(a/b)■c=(aXC)/1b×c)■C=(aXC■ C)/1bXC)=a/(bXc)で あ る 。 も し,常 に 得 ら れ る 商 の 分 子
(a)が被除数(a/b)の分子 と一致するならば
,結
果か らみて被除数の分子 はそのままにして,除
数(c)を 分母にかければよいことになる。 これは新たな一般的な推測への暗示である。 [(2/5)■ 3=(2×3■3)/(5X3)=2/(5× 3),(2/5)■
3=2/(5X3)]
また,暫
定的な推測を構成する過程では,a■ cが
割 り切れないものであつた。もし,割
り切れる 場合はそのまま分子を除数でわればよいことになる。例 えば,(4/9)■2では(4■2)/9=2/9と なる。 これは,前述 した新たな推測に反するものと一見思われる。なぜなら,『除数を分母にかければよい』 という新たな推測 は(4/9)■2=4/(9× 2)=4/18を 導 くか らである。 しかしこの一見,反
例 に思われる事実は4/18=2/9で あることの理解 により却下されよう。言い換 えれば,
この場合の推測の検定は,こ
の推測をより信頼性のあるものへ高められたといえる。 ② さらなる推測の検定 被除数の分子 と除数が割 り切れない数値で検定する。例 えば,(5/9)■3は,5■
3が割 り切れない ことによって,5/9の 分数 と相等の分数を代用して,(5/9)■3=(5×
3)/(9× 3)■3=(5×3■3)/(9× 3)=5/(9× 3)=5/27と なる。さらなる別の例で推測を検定することによって新たな推測 はさらに信 頼性が高められる。 この過程を通 して児童にとっては,分
数■整数の除数を分母にかけることのよ 図 5さに気づ くもの と思われ る。 それ は
,被
除数の分子 と除数 の数値 に関わ りな く(つまり,割
り切れ る,割
り切れないの問題 はな くな り),当
面の課題であった暫定的な推測 は検定 されたか らである。 ③(a/b)■ (1/c)の考察 本学習の目的は,(a/b)■(c/d)=(a/b)× (dた)へ
と計算方法 を一般化 してい くことであった。前項 によってある推測 は暗示され暫定的な推測を得た。そして,類
似な実例 をもとに検定 し,そ
の推測 はある程度の確証 を得るまでに至った。次なる蓋然的推論 は別なる特別な場合の考察へ と向かう。 この場合の観察 は,当初の目的であるところの(a/b)■(c/d)の解決へ向かうための有効な実例 として位置づけられる。なぜなら,(a/b)■cの 考察によって得 られた
,よ
り確かな推測 (a/b)■C=(a× C)/(b×c)■c=a/1bXc)を
,除
数が1/cへ と進展させるか らである。除数が1/cの 場合 においては,前述 した暫定的な推測を類推物 として用いることにより,最終的に
は(a/b)■ (1/c)=(a×c)/(b× c)■1/C=(aXc■ 1)/(bXC■ C)=(a× c)/bが導 か れ る 。ま た,この 実 例 に
よって暫定的な推測が検定 され るばか りでな く
,推
測 は一層真 なる推測 としてその信頼性が高め ら れ ることになる。③計算方法の一般化
これ ら2つ の場合をもとに,(a/b)■c=a/1b×c)と(a/b)■
(1/c)=(aXc)/bが
導かれ,よ
り真なる推測へ と指示 されてきた。これ らの実例 をもとに,当 初の課題である(a/b)■(C/dlの計算方法を一般 化する。 はじめの場合か らは
,除
数が整数の場合には『分母に除数 をかけること』が推測 として導かれ, 2つ 目の場合からは,除
数が単位分数の場合に『分子に除数 をかけること』が推測 として導かれた。 そして,そ
の推論の過程では数学的な考え方 として,以
下に示す 2つ の数学的な方法が用いられて いる。 ア.除
数 が整 数 の場 合,被
除数 の分子 が除数 で割 り切 れ るよ うにす るため に,被
除数 の分 子・ 分 母 に除数 をか け る。 つ ま り,被
除数 と相等 な分数 を新 たな被 除数 として代替 す る。[(a/b)■c=(aXc)/1b×c)■
c ]→
[(a/b)■
C=a/(bXc)]
イ
.除
数が単位分数の場合,被
除数の分母が除数の分母の数値で割 り切れるようにするために,被除数の分子・分母に除数の分母の数値 をかける。つまり
,被
除数 と相等な分数を新たな被除数 として代替する。
[(a/b)■ (1/c)=(aXc)/(b× c)■
(1/C)]
→[(a/b)■ (1/c)=(aXc)/b]
したがって,(a/b)■(c/d)の計算方法は以下の 2つ の方法が導かれる。
(a/b)■(c/d)=(aXC×d1/(b×c×d)■(c/d)=(a×cXd■ c)/1bXCXd■ d)=(a×d1/(bXc)中 ●*1
(a/b)■(c/d)=(a/b)■ {(c)X(1/d)}=(aXd)/1bXC)中 ●
*2
(註
:*1は
暫定的な推測 を,*2は
指示された推測 をもとに展開した計算方法である) つまり,分
数の除法の計算方法 は,結
果 として(a/b)■(c/d)=(a/b)× (dん)となる。このことを言葉 によって表現 されているのが「除数の分子 と分母を入れかえてかければよい」である。 偉)類推物の検討 分数の除法についてその推論の過程をみてきた。そこで取 り上げた課題の最終的な目的は,(a/b)■ (c/d)の計算方法 を一般化することであった。(a/b)■(c/d)=(a× d)/(b× C)を導いた類推物 は,上
述 し た*1,*2で
ある。 ここでは,こ
れ ら2つ の類推物について検討する。①(a/b)■
c=(aXC■
C)/(bXc)=a/(b× c)からの一般化鳥取大学教育学部研究報告 教育科学 第 36巻 第
2号
(1994)る推測が得 られ
,ま
た検定 された。 この推測 をもとに一般化へ向けた推論 を展開す ると,以
下のよ うになると思われ る。(a/b)■(c/d)=(a× (c/dl}/(bX(c/dl}■ (c/d)=(a× (c/d)■(c/d)}/(lb×c)/d)=a/((b× c)/d}
この得 られた分数は分母に分数をもつ。そこで
,分
母を整数値 にするために a/(lb× c)/d)と 相等な分数をつ くることが必要 となる。つまり
,分
子・分母にdを
かけることによって,児
童に既知な分数表示が導かれる。
a/(lbXc)/d)=(a X d1/((b× c)/d×d}=(a×d)/((b×c×d)/d}=(a X d1/(bXC)
よつて,(a/b)■(c/d)=(a×
d)/(bXc)=(a/b)X(d/c)と
して一般化 される。②(a/b)X(c/d)=(a×C)/(b× d)からの一般化 (a/b)■ (C/d)の計算方法の一般化 に向けた推測を可能にする類推物 としては,①以外に分数の乗法 の計算方法が有効であると考える。なぜなら
,除
数が分数(c/d)である場合 は,乗
法の乗数が分数で ある場合か らの推測が考 えられるか らである。そして,数
学的な構造において部分的な明確な一致 (相似)が見い出せるか らである。つまり,①
で用いた類推物(a/b)■cよ り,よ り有効であることが 以下の展開か ら明 らかになる。 乗法においては(a/b)X(c/d)=(a× c)/(b×d)が一般的な計算方法 として導かれている。このことは, 乗数の分子 は被乗数の分子にかける,乗
数の分母 は被乗数の分母 にかけることである。 この既に獲 得されている方法を除法に用いると,除
数の分子 は被除数の分子を,除
数の分母 は被除数の分母 を それぞれわればよいこととなる。 また,除
法においての暫定的な推測,つ
まり割 り切れないことを 考慮 して被除数の相等な分数を代替 した論理を展開することとなる。(a/b)■(C/d)=(a×C× d)/(b× CXd)■ (C/d)=(aXc×d■c)/(b× C×d■d)=(a× d1/1b×c)
①の展開 と比較するならば
,明
らかに②の展開の方が複雑さは省かれてお り,簡
潔でしか も明確 である。それは,①
の一般化へ向けた展開においては2段
階の操作 を必要 としたが,②
の展開では1段
階の操作ですむことか らみて も明 らかである。 また,こ
のことはどのような類推物 を用いるか の検討の重要性が指摘できるとともに,類
推物それ自体が児童の問題解決を推 し進める不可欠な要 素 として検討の必要性が指摘で きるものと考える。V
今 後 の 課 題 蓋然的推論の論理展開 は,与
えられた考察の対象 に含 まれ るより部分的な対象 を考察す ることに よって,あ
る1つの推測 を導 き検定 し,そ
の真偽 にしたがって一般的な性質 として推測の信頼性 を 高める展開である。与 えられた対象 よりも考察 しやす く近づ きやすい対象 を考察す ることであ り, 導かれた推測 は検定 において,そ
の真 なる場合 にその信頼性 は高め られ る。 また,こ
のような論理 展開によってその推測 の帰納的証拠 はより多 く集 め られ,そ
の展開過程 において豊かな数学的な活 動が もた らされるもの と思われ る。 しか し,こ
の推論 は多 くの帰納的証拠 は集 め られ るものの,決
してその推測 は証明 され るもので はない。 このようにして導かれた推測が どのような条件 の もとで 正当化 され るかは,従
来か らいわれているところの「帰納の問題」であ り,こ
の問題 の検討 は今後 の課題 と考 える。 とりわ け,小
学校 の算数学習 においてはその取 り扱い方 も含 めて考 えてみなけれ ばな らない と思われ る。 それ は,児
童の発達段階か ら考 えて,論
証的推論 をそのまま展開す ることは難 しい と思われ るか らである。 しか し,だ
か らと言 って根拠 を追求す る活動や用いた考 え方や手法 の正 しさは求 め られなければな らない。例 えば
,具
体 的な場面か ら抽象 され る数,式
等の意味づ けは大切であ り,こ
の 具体か ら抽象への過程 において用い られた考 え方や手法の根拠 を,数
直線,絵
や図,あ
るい は操作 その ものによって表 した り原理・ 法則 を明確 にした りす ることは不可欠な活動であると思われ る。 言い換 えれば,具
体か ら抽象への学習活動 と抽象か ら具体 に戻 る学習活動 との両者 の活動の位置づ けは,蓋
然的推論 によって新 しい推測や判断が導かれれば導かれ る程,そ
の両者 の活動 は機能的な 意義が認 められ,
とりわけ後者 の活動 は児童 に とって必然的な活動 になるもの と思われ る。 また,帰
納的推論 の手続 きの1つである,類
似性へ注 目する活動 について は,本
稿Ⅲ.1で観察者 (学習者)の困難点 ともた らされ る利点 を述べた。 しか し,類
比的推論 を含 めて これ らの推論 を展開 す る学習活動 を,数
学教育 に積極的 に位置づ けてい くためには,学
習者 の理解 との関わ りは今後考 えていかなければな らない点である。 それ は,推
論 を展開 してい く学習者 の思考や行動様式 は,そ
れ までの学習者 の経験や知識 に依 るところが大 きい と思われ るか らである。 さらに,本
稿Ⅳで展開 した学習活動 は,で
きれば学習者 自身が対象 に対 して主体的 に働 きかけ, 関わってい くことが望 ましい。与 えられた対象 と類比 の関係 にある対比で きるものの想定(抽出)も 学習者 自身 に求 めてい く活動 を追求す ることと言い換 えられよう。学校数学 において,理
解す ると いうことが,そ
れまでの学習 を通 して獲得 された知識 についての思考の生産物 であるととらえるな らば,そ
れ までの数学的活動 の展開 とつなが りのある活動が推測 を構成 してい く中にも求 め られな ければな らない と考 える。数学的活動 との関わ りについて も今後の課題である。 一 江 2)(2)P,4 5)(3)P.5 8)(3)P9 11)(2)P,14 14)(2)P.2 17)(5)P84 20)(2)P14 3)(2)P4 6)(3)P,8 9)(3)P,9 12)(3)P21 15)(2)Pp:2-3 18)(5)P84 21)(6)P33 4)(3)P3 7)(3)P,9 10)(2)P,13 13)(3)P.23 16)(2)P5 19)(4)P71 22)(6)Pp:21-23引用 。参考文献
(り 新村出編「広辞苑」第二版(岩波書店)1988年 り)G Polya著
「帰納 と類比」柴垣和三雄訳 数学における発見 はいかになされるか1 Mathematics and Plausible Reasoning Vol,1(丸 善)1959年(3)G.Polya著「発見的推論 そのパターン」柴垣和三雄訳 数学における発見はいかになされるか
2(丸
善)1959年 は)伊
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